厚生労働科学研究費補助金 (成育疾患克服等次世代育成総合研究事業)
分担研究報告書
小児科視点からみた親子の心の診療に関する課題整理と対策
研究分担者 村上佳津美(堺咲花病院 心身診療科)
A.研究目的
こどもの心の診療において親子関係が重要 な要素であることは言うまでもない。それは子 どものこころの発達の観点からも言えること
であり、母親の子どもに対する幼少期からの養 育態度が子どもの心の発達に強い影響がある ことは多数の研究成果から指摘されているこ とである。また幼少期だけでなく思春期におけ 研究要旨
A.研究目的 子どものこころの診療を行っている医師が親の心の診療についても意識して行 う必要があり、またその医師は親子両方についての診療を行う技術を習得しておく必要がある。
本研究では、その人材育成について組織、内容の構築について検討する。
B.研究方法 親子のこころの診療の人材育成にあたり、わが国における親子の心の診療の人材育 成を行っている機関についての検討した結果、『子どものこころ専門医』が該当することを昨年 報告した。本研究では子どものこころ専門医の現状について把握し、親子のこころの診療を行う 上で医師と医師以外の職種の連携について重要であるためその連携先の心理士の現状について も検討し、今後の課題について提言する。+
C.研究結果 子どものこころ専門医は現在498名で常時1000名体制を目指している。2022年 からは研修を開始する予定であり研修制度はほぼ確立されている。専門医の重要な役割として 他職種との連携が挙げられる。特に心理士との連携が大切である。心理士は2018年に、国家資 格の公認心理師が誕生した。公認心理師はカリキュラムで連携について大項目として規定して いるが、子ども、母児関係については項目の一部分としては記載があるが、独立した項目として は取り上げられていない。
D.考察 子どものこころ専門医は制度として構築されており、今後親子のこころの診療におい て中心的存在となる。またその連携先である心理士については公認心理師が国家資格制度とし て誕生し、この公認心理師が連携先として大切な存在となっていく。しかし公認心理師のカリキ ュラムでは連携について取り上げられているが、子どもおよび親子のこころの診療について十 分とりあげられてはいないため、今後心理士の育成にはカリキュラムの追加が望まれる。
E. 課題 親子のこころの診療をする場合、子どものこころを診る医師が他の職種と連携する場 合、公認心理師が挙げられる。しかし公認心理師のカリキュラムには親子のこころの診療につい ての項目が見当たらず、今後心理士の育成において、カリキュラムの追加、または子どものここ ろに特化したサブスペシャリティの構築などが望まれる。また医療機関においては公認心理師 の診療に対する報酬が認められることも大切である。
る心身の問題について、親の心理社会的問題が、
影響することも多数報告されている。その事実 を踏まえ、日本小児心身医学会は、小児心身症 に対する治療ガイドラインにおいて、子どもに 対する治療の一環として親への対応を重要な 位置づけとして挙げている。そのような背景か らこどもの心に診療を行っている現場におい ては、親への対応を常に行われていると思われ るが、その実態について報告されたものは少な い。そこで本研究では、29年度に親子の心の 診療の現状を把握するために、日本小児心身医 学会の理事及び代議員、会員の一部の500名に 対して、郵送によるアンケート調査をおこなっ た。そこから明らかになったのは、1、子ども の心の診療を行うにあたり親の心の診療がか なりの確率で必要である。2、子どもの心の診 療を行っている医師はその点についての重要 性に充分理解をしている。3、実際に親への対 応は子どもの心の診療を行っている場所で行 われている。すなわち子どものこころの診療を 行っている医師が親の心の診療についても意 識して行う必要があり、またその医師は親子両 方についての診療を行う技術を習得しておく 必要がある。そこで30年度にはその人材育成 について組織、内容の構築について検討し、日 本専門医機構が規定するサブスぺシャリティ を目指している『子どものこころ専門医』がそ の組織として該当していることを報告した。子 どものこころ専門医の研修カリキュラムの中 で親子の心の診療にかかわる部分としては、カ リキュラムの到達目標のうち 診察、面接の項 目 チーム医療の項目 分野別到達目標では、
周産期・乳児期の母子保健の項目として親子の 心の診療について取り上げられていた。そこで 今回は子どものこころ専門医の実際について 検討し、その中でも連携について検討する。
B.研究方法
子どものこころ専門医は、子どものこころが関 わる疾患を診療対象としている専門家の学術 団体である日本小児心身医学会、日本小児精神 神経学会、日本児童青年精神医学会、日本思春 期青年期精神医学会の4団体が中心となり、子 どものこころ専門医機構を設立し、サブスぺシ ャリティの専門医として日本専門医機構の承 認を目指している。子どものこころ専門医の内 容は、小児心身医学、発達行動小児科学、児童・
思春期精神医学などの専門分野の研修を積み、
子どものこころの問題と、それに関連するさま ざまな身体症状、精神症状、行動上の問題に対 して、bio-psycho-socio-eco-ethical という 全人的視点に立って診療を行い、標準的な医療 を提供できる医師をいう。本研究では子どもの こころ専門医の実際の制度設計について検討 し、現状を把握する。その中でも親子のこころ の診療に重要な多業種との連携についての実 際について検討し連携先の現状についても検 討する。
(倫理面への配慮)
本研究においては臨床データを使用せず、倫 理面への配慮として特別に開示するものはな い。
C.研究結果
子どものこころ専門医は2015年に設立され た子どものこころ専門医機構により運営され ている専門医制度で、2020年現在、日本専門医 機構が規定するサブスペシャリティ専門医を 目指している。研修カリキュラムは整備されて おり、各施設におけるプログラムを認定してい る。現在は各施設において指導する立場になる 子どものこころの診療に実際にかかわってい る医師について試験を行い専門医として認定 し、今後指導医を認定していく。現在専門医は 498名で常時1000名体制を目指している。2022
年からは研修を開始する予定であり研修制度 はほぼ確立されている。専門医の重要な役割と して他職種との連携が挙げられる。特に心理士 との連携が大切であることはアンケート調査 からも明らかであるが、子どものこころ専門医 研修プログラム整備指針の7-5でも(5) 子 どものこころ医療に関わる多くの専門職と適 切な関係を構築しチーム医療を実践できる。と しておりカリキュラムにおいても8:治療に関 するその他の事項:身体的疾患に罹患した子ど もが心理的問題や精神疾患を合併した際に、身 体治療科と連携して、患者や家族の不安軽減や 精神的サポートのための関わりやチーム治療 が、できる。また、患者をめぐる医師、看護師、
家族などの関係について理解し、治療が円滑に 進むための適切な助言ができる。9:連 携:
保育園・幼稚園や学校などの関係機関と適切に 連携し、家庭外での子どもの状況を把握できる。
発達障害、虐待、非行などの問題に対して、母 子保健、児童福祉、司法などの諸機関と適切に 連携することができる。他機関、他職種の役割 を尊重し、守秘に留意しながら適切な連携を行 えるような態度を身につける。としている。連 携先職種のひとつである心理士についてであ るが、今までは国家資格としての心理士が制定 されていなかった。2018年に、国家資格の公認 心理師が誕生した。今後医療分野においての心 理職として確立されていくであろう。公認心理 師の定義については、「保健医療,福祉,教育 その他の分野において,専門的知識及び技術を もって,
1. 心理に関する支援を要する者の心理状 態を観察し,その結果を分析すること。
2. 心理に関する支援を要する者に対し,
その心理に関する相談に応じ,助言,
指導その他の援助を行うこと。
3. 心理に関する支援を要する者の関係者
に対し,その相談に応じ,助言,指導そ の他の援助を行うこと。
4. 心の健康に関する知識の普及を図るた めの教育及び情報の提供を行うこと。」
とされている。
特に3において、他職種との連携について規定 しており心理職が多くの分野において連携を 図ることの重要性が示唆されている。また公認 心理師試験出題基準・ブループリントによると、
子ども、母児関係についての記載については、
大項目12番発達 において発達過程の問題 を取り上げている。また大項目18番教育に関 する心理学において学校に関連する心理的な 問題について取り上げられている。連携に関す る項目は大項目3番 多 職 種 連 携・地域連 携として取り上げられており他の職種だけで なく家族との連携 についても記載がみられる。
D.考察
昨年の本研究において子どものこころ専門 医は子どものこころ専門医の研修カリキュラ ムの中で親子のこころの診療にかかわる部分 としては、理念の6項目の6番に、子どもとそ の家族を中心とした診療を学び,人格の涵養を はかり,信頼される医療が提供できるよう生涯 に渡って自主学習・自己研鑚を行う習慣を獲得 する、という記載がみられる。また具体的項目 として母親自身の生育歴や親子関係にも考慮 しながら対応する。母親の精神状態を評価し、
母親や支える家族に対し、共感的に接すること ができる。という記載があり、これは子どもの こころの診療を行うにあたり、母親の精神状態 の安定が重要であることを示しており、その技 術を習得することを子どものこころ専門医で は求められていることがわかった。また母親の 精神状態についての把握にあたり他の職種と の連携の重要性についても記載があり、その連 携の重要なパートナーは心理士であることが
わかった。心理士は2018年度に国家資格であ る公認心理師が制定された。公認心理師のブル ープリントによると連携については大項目と して取り上げられ家族との連携についての言 及がある。しかし母児関係については高齢者に ついては中項目として取り上げられているに かかわらず、発達、教育などの項目の一部とし て取り上げられているに過ぎない。独立した項 目として子どもおよび母児について取り上げ られてはいない。しかしながら、心理職におい て子どもおよび母児関係に関する事項は重要 であることは間違いなく、今後公認心理師にお いてもカリキュラムの変更または、子どもに特 化したサブスペシャリティの構築などの対応 が望まれる。
E.結論
親子のこころの診療に対して子どものここ ろ専門医では親子のこころの問題について重 要性は十分認識されており、その中心的役割と 果すのにふさわしい。またその連携先として心 理職としての公認心理師が挙げられるが、公認 心理師は親子にこころの診療についてのカリ キュラムが十分とは言えずその構築が望まれ る。
【参考文献】
1)子どものこころ専門医機構編:子どものこ ころ専門医研修カリキュラム;平成27年制作 未発表
2)親子の心の診療を実施するための人材育成 方法と診療ガイドライン・保健指導プログラム の作成に関する研究 平成29年度 総括・分 担研究報告書;平成30年3月
3)親子の心の診療を実施するための人材育成 方法と診療ガイドライン・保健指導プログラム の作成に関する研究 平成30年度 総括・分 担研究報告書;平成31年3月
4)令和元年公認心理師試験出題基準・ブルー プリント 一般財団法人日本心理研修センタ ー;令和元年
F.研究発表 1.論文発表
なし
2.学会発表 なし
G.知的財産権の出願・登録状況
1.特許取得 なし
2.実用新案登録 なし
3.その他