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アーチェリーパラドックスにおける弓具や射形の動力学モデルと調整

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(1)

Regulations and Dynamical Model for Bow-Arrow System and Finger Release in Archery Paradox

Takuya ITOH**, andMasanori TAKAOKA*

(Received October 21, 2008)

In archery, when using a finger release, there is a force pushing the bowstring to the lateral direction away from the fingers. An archer must compensate this deviation by not really aiming at a target, which is called ”The Archers Paradox”.

Furthermore, when the drawn bowstring is released, a compression force is applied due to the inertia of the point of an arrow, which makes the interaction with a grip complex. An arrow must be coordinated correctly to oscillate at just the right frequency to avoid the interaction by bending around the bow. It is important to know the dependence of arrow motion on bow-arrow parameters and finger release. We propose a dynamical model for the archery paradox, improving previous models to be more suitable for archers. The tilted motions in the finger release as well as the two-dimensional motions of the bowstring are considered in our model. To obtain tuned values, we have investigated the dependence of arrow’s motion on the bow-arrow parameters and the finger release.

Key words:Archery Paradox,Bow, Arrow,Finger Release

キーワード :アーチェリーパラド ックス,弓,矢,フィンガーリリース

アーチェリーパラド ックスにおける 弓具や射形の動力学モデルと調整

伊 藤 拓 也

高 岡 正 憲

1. はじめに

アーチェリーにおいてフィンガーリリース( 指と弦の 間にタブを挟み,指を動かすことで弦を放して矢を射る こと)を行う場合,アーチェリーパラド ックスと呼ばれ る現象が生じる.これは,人の指を用いて弦を放すため に,弦からの力が矢とその軸に沿って完全にはまっすぐ に伝わらず,ポイントの慣性力によって矢が圧縮される ためにたわみが生じてしまい,その結果として矢が振動 することである.競技中において射形,すなわち矢の初 期条件を完全均一に保つことは難しい.また,弦を放す 瞬間は力の均衡状態が解放されるために,矢だけでなく 競技者と弓のいずれにも運動が生じる.競技者や弓に生 じる運動は制御し難く,矢の的に対する的中精度にも大

きく影響する.これがアーチェリーパラド ックスへの関 心を高める要因となっており,工学的・生体力学的な視 点から様々なアプローチがなされている1–4)

アーチェリーパラドックスは,矢の振動が次のメリット とデ メリットを併せ持つことに由来する.そのメリット は,振動が生じなければ矢の後部に付着されているフェ ザー( 矢の直進性をよくするためにシャフトの後部に付 着する羽)がハンドルと接触してしまうはずが,矢の振 動のおかげで両者を接触させないようにできることであ る.矢の振動がうまく接触を避ける周期となるように弓 具を組み合わせると,矢はハンドルからの力を受けるこ となく飛び出すことができる.他方,デ メリットは,矢 の振動によって矢の振幅方向にも力が作用するため弓と 矢が互いに複雑な相互作用が生じ,矢の重心における並

∗∗Undergraduate Student, Department of Mechanical Engineering, Doshisha University, Kyoto E-mail:bte3030@mail4.doshisha.ac.jp

Department of Mechanical Engineering, Doshisha University, Kyoto

Telephone:+81-774-65-6504, Fax:+81-774-65-6774, E-mail:mtakaoka@mail.doshisha.ac.jp

(2)

進運動の向きが矢筋( ノックとポイントの2点を結ぶ直 線)に対して平行とは限らなくなることである.

これまでのアーチェリーパラドックスにおける矢の運動 モデルに関する研究は,Pekalski5)やKooi6–8)らによっ て取り組まれてきた.Pekalskiは矢の運動を曲げ振動と ノックを軸とした回転運動の和としたこと,Kooiは圧 縮軸力の作用する梁の曲げ振動の移動境界値問題として 扱ったことが,それぞれの特徴である.いずれもアーチェ リーパラド ックスのメカニズムの解明とモデルの精度の 向上を目的に取り組まれてきたため,上記に上げたアー チェリーパラド ックスにおいて問題となる矢の振動や並 進運動に,各弓具や射形がどのように影響するかは調べ られていない.そこで,アーチェリーパラド ックスの運 動モデルに改善を加え,各弓具の物理量が矢の振動に及 ぼす影響を数値化できれば,より精度の高い弓具選択が 可能となる.また,射形が矢の並進運動に及ぼす影響を 数値化できれば,競技者にとって射形改善への指針とな り不安解消による成果の向上につながる.

本研究では,ベアシャフト( 羽をつけない矢)におけ るアーチェリーパラド ックスの力学モデルを作成し,各 弓具の物理量や射形が矢の振動及び矢の並進運動に及ぼ す依存性を,数値シミュレーションによって定量化する ことを目的とする.モデルの改善点として,次の2点が ある.ひとつは,弦とタブが接触している間の境界条件 を弦がθの傾斜(θは競技者の技量で決まる)を持つ斜 面を滑るとして運動方程式を立てたこと,もうひとつは,

弓は張力を一定とした二次元の運動方程式に従うとし , ノックの変位に応じた相互作用を受けるとして扱ったこ とである.

次節では,本報で提案する動力学モデルの説明をし , 3節では解析手法を説明する.モデルと実験とを比較し た結果及び,弓具の物理量や射形に対する依存性をモデ ルで調べた結果を4節にまとめる.最終節には得られた 知見をチューニングという点からまとめる.

2. 力学モデルの構築

2.1 シャフト の運動方程式

各弓具の名称と座標の指定をFig. 1に示す.矢の進行 方向にξ軸を,振幅方向にζ軸をそれぞれ定める.θは リリース時に生じ る矢の中心線とタブのなす角である.

シャフトは弦から離れるまでは圧縮軸力を受けるEuler-

Bernoulli梁の曲げ振動を行い,その振動の運動方程式は

面内でおこると仮定すれば,

ρC∂2ζ(ξ, t)

∂t2 =−∂2M(ξ, t)

∂ξ2 +∂H(ξ, t)

∂ξ

∂ζ(ξ, t)

∂ξ +H(ξ, t)2ζ(ξ, t)

∂ξ2 (1)

であり,曲げモーメントM(ξ, t)についてはたわみの基 礎式より,

M(ξ, t) =EI∂2ζ(ξ, t)

∂ξ2 (2)

ここでζ(ξ, t)はシャフトのたわみ,H(ξ, t)は弦から受 ける荷重とポイントの慣性力による圧縮軸力,ξはシャ フトにおける位置,tはリリース開始後からの時刻,ρは シャフトの密度,Cはシャフトの断面積,EIはシャフ トの曲げ剛性である.

   

  Fig. 1. Anatomy of the arrow and the definition of the coordinate system (ξ,ζ).

一方,プランジャー(Fig. 1におけるPressure Button のこと.ばねによって矢の振動を和らげる装置)接触部 分からはプランジャーによる復元力を受けるので,各時 刻におけるプランジャーの位置をξp,プランジャーの復 元係数をkpとすると運動方程式は,

ρC∂2ζ(ξp, t)

∂t2 =−∂2M

∂ξ2 (ξp, t) +∂H

∂ξ(ξp, t)∂ζ

∂ξ(ξp, t) +H(ξp, t)2ζ

∂ξ2(ξp, t)−kpζ(ξp, t) (3) となる.ただし,この力はζ(ξp, t)0のときのみ作用する.

2.2 矢の境界条件

弦とシャフトがノックと接触している部分をξ= 0と し ,振動変位ζ(0, t)に対して弦から復元力がはたらく.

また,リリース時におけるタブを斜面とみなし,弦とタ ブが接触している間はタブから摩擦力を受けると考える.

矢のノック側の境界条件はノックの運動方程式で与え られ,弦がタブから離れるまで(0≤t≤ts)と,離れた後 (ts≤t)に分けて,次式のように書かれる.

mn2ζ(0, t)

∂t2 =

⎧⎪

⎪⎪

⎪⎪

⎪⎨

⎪⎪

⎪⎪

⎪⎪

⎩ sinθ

cosθ−√

2μsin(θ+π4) H(0, t)

−ηykgζ(0, t) (0≤t≤ts)

H(0, t)∂ζ∂ξ(0, t)−ηykgζ(0, t) (ts≤t) (4) ここで,mnはノックの質量,kgは弦のζ方向の微小変 位に対する復元力,μはタブの動摩擦係数である.また,

(3)

ηyζ方向における弦と矢の間の力の伝達率であり,以 下の計算ではPekalskiによる実験結果の値0.71を用い ることにする.

先端側の境界条件は,ポイントが取り付けられている が自由端である.この部分ζ(LA, t)はポイントの運動方 程式で与えられるので,ポイントの質量をmp,シャフ トの全長をLAとすると,

mp2ζ(LA, t)

∂t2 =∂M

∂ξ (LA, t)−H(LA, t)∂ζ

∂ξ(LA, t) (5) となる.

2.3 矢の初期条件

ホールディング( 弦を引き終えてからリリースするま での静止した状態)またはリリース時に弦をはじいてし まうことで,矢の中心線に対して直線的に傾きが生じる と考えることから,シャフトの初期変位は

ζ(ξ,0) =asξ−bs (6) と単純化する.ここに,asbsは矢の傾きを表す係数で ある.また,初期にはホールド 状態にあるので,初速度は

∂ζ

∂t(ξ,0) = 0 (7)

である.

2.4 弦の運動方程式

   

  Fig. 2. Cartesian coordinate system (x,y1,y2) associ- ated with the string and some notations used here.

座標系(x,y1,y2)をFig. 2のように,弦に沿ってx軸,横 振動方向にy1y2軸をそれぞれ定める.y1ξは並行 にとる.弦の全長Lsに比べてΔyは小さく,そのとき の弦の伸び率はΔy2/Ls2なので弦の張力は一定とする.

弦の張力をTとすれば,運動方程式は

ρ∂2y1

∂t2 =T y1

∂y

∂x1

2+y12y1

∂x2 +∂y

∂x2

2+y22y2

∂x2

y12+y22

−T y1

y1∂y1

∂x +y2∂y2

∂x

y12+y22 2

(8)

ρ∂2y2

∂t2 =T y2

∂y

∂x1

2+y1∂x2y21+ ∂y

∂x2

2+y2∂x2y22

y12+y22

−T y2

y1∂y1

∂x +y2∂y2

∂x

y12+y22 2

(9) となる.

2.5 弦の境界条件と初期条件 弦の両端は固定端であり,

y1(0, t) = 0, y1(Ls, t) = 0 (10) y2(0, t) = 0, y2(Ls, t) = 0 (11) となる.

弦の進行方向と変位方向の初期形状を各々 y1(x,0) =

⎧⎨

y

Ls x

0≤x≤L2s

y

Ls (Ls−x) Ls

2 ≤x≤Ls (12) y2(x,0) =

⎧⎨

2bs

Lsx

0≤x≤ L2s

2bs

Ls(Ls−x) Ls

2 ≤x≤Ls (13) とする.ここで,Δyはフルドローと呼ばれており,ホー ルディング時に弦を引き込んだ変位量である.また,初 速度は,静かに放すことから,

∂y1

∂t (x,0) = 0, ∂y2

∂t (x,0) = 0 (14) となる.

2.6 弦と矢の相互作用

一方,弦と矢は互いに相互作用を受けている.これに ついては,数値計算においてx= 0におけるζ方向の弦 の変位がξ= 0におけるζ方向の矢のたわみと等しいと して扱う.すなわち,

y2

Ls

2 , t

=ζ(0, t) (15) とする.

2.7 シャフト の圧縮軸力

シャフトの各(ξ, t)に働く圧縮軸力H(ξ, t)は,弦から 受ける荷重とポイントの慣性力によってシャフトが圧縮 されることによって生じる.まず弦から受ける荷重P(t) について,弦の張力を一定と考えると,

P(t) =4ηxT y1(L2s, t)

Ls (16)

したがって,圧縮軸力は,位置ξで切断した両シャフト にそれぞれ運動方程式を立てて連立させることで,

H(ξ, t) = ηxP(t)

ρCLA+mp(ρC(LA−ξ) +mp) (17) を得る.ここで,ηxξ方向における弦と矢の間の力の 伝達率であり,以下の計算ではPekalskiによる実験結果 の値0.76を採用することにする.

(4)

2.8 弦の復元係数

弦の復元係数は,弦の中心に質量が取り付けてあると 考えて,

kg= 2LTsζ(0, t) +EgLAsg3Tζ(0, t)3

ζ(0, t) (18)

ここで,Egは弦の縦弾性係数,Agは弦の断面積である.

3. 数値計算方法 3.1 数値計算方法

時間と空間の両座標を差分化して,陽解法を用いて数 値計算を行った.

   

  Fig. 3. (a) Scheme of the model of the arrow for the finite-difference method. (b) Each element (i = 0,1,· · ·, n−1, n) has length Δξ.

Fig. 3のように,シャフトの全長LAn個に分割し , 空間刻みをΔξ =LA/nとする.時間刻みをΔtとする と,弦と矢の接触時間ttをシミュレーションするのに必 要なステップ数はtt/Δtである.このように離散化され た位置と時刻をξi=iΔξtj=jΔti= 0,1,2,· · ·, nj= 0,1,2,· · ·, m)とし,変位をζij=ζ(ξi, ti)と書くと,

差分化されたシャフトの運動方程式およびたわみの基礎 式は,それぞれ次のように書ける

ρCζij+12ζij+ζij−1

Δt2 =−Mij+12Mij+Mij−1

Δξ2 +∂H(ξ, t)

∂ξ

ζij+1−ζij−1

ξ +H(ξ, t)ζij+12ζij+ζij−1

Δξ2 (19) Mij=EIζij+12ζij+ζij−1

Δξ2 (20)

境界条件(4)と(5)も同様に離散化する.

初期条件については,式(6)と(7)より,

ζi0=asξi−bs (21) ζi1−ζi0= 0 (22)

となる.

時間差分スキームについてはオイラー法を用いる.弦 と矢が離れた後(tt≤t)では,空気の抵抗を無視すれば,

矢の重心は等速直線運動をする.矢はこの並進運動とと もに振動することになる.

3.2 高速カメラ撮影

提案したモデルの検証を行うために,矢の運動を高速 カメラで撮影した.リムについては長さが66インチ,表 示ポンド 数34ポンド のHOYT社のWINACTを,シャ フトについてはEaston Sports社の1714X7を用いた.

これらを高速カメラFASTCAM-1024PCI Model 100K を用いてフレーム数3000fps,ピクセル数1024×256, シャッター速度1/10000secで撮影した.この実験および 数値シミュレーションに用いた弓具の物理量と矢の初期 条件の値をTable 1に示す.

Table 1. Parameter values in our model and experi- ment.

Nomenclature [unit] Value

Arrow

Area of cross-section of shaft [m2] 8×10−5 Density of shaft [kg/m3] 2.8

Length of shaft [m] 0.683

Area of cross-section of shaft [m2] 7.2×10−6 Young’s modulus of shaft [GPa] 71.0

Mass of nock [kg] 5×10−3 Mass of point [kg] 3×10−4

String

Tension of string [kg] 15.4

Length of string [m] 1.5

Area of cross-section of string [m2] 3.14×10−5 Young’s modulus of string [GPa] 35.0

Grip and tab

Spring constant of pressure button [N/m] 670.0 Kinetic coefficient of friction of tab 0.1

Shooting form

Full draw [m] 0.42

Angle of finger release [°] 7.0 Angle of holding [°] 0.0

3.3 評価方法

アーチェリーパラド ックスにおける弓具や射形の依存 性を知るためのパラメータとして,ノックの振幅,矢の 振動の周期および並進運動の向きに着目する.これらの パラメータを変化させて,矢の形状および重心の軌跡を 数値シミュレーションすることで,その依存性を求める.

(5)

得られた結果から最小二乗法によって回帰直線を求め,

その相関係数を比較することで弓具または射形の影響の 大きさの定量化を試みる.

   

  Fig. 4. Definition of the angleαbetween the paths of an ideal arrow and archer’s arrow.

また,並進運動に対する影響については,Fig. 4に示す ような矢の重心の軌跡に対する角度を用いて評価した.

Fig. 4におけるIdeal arrowとは,表示ポンド 数34ポ ンド のリムを用いるときにEaston Sports社が推奨する チャート表9)に従って選んだパラメータを用いて,矢が 弓に対して完全な垂直方向に引き込まれて射られた矢で ある.

4. 結果および考察 4.1 モデルの妥当性の検討

まず,モデルの妥当性を検討するために,高速カメラ で撮影した結果と提案したモデルをシミュレーションし た結果を比較する.

 (a)t= 0ms   

(b)t= 4ms   

(c)t= 8ms   

(d)t= 12ms   

(e)t= 16ms   

Fig. 5. Pictures of the deformation of the arrow at every 4ms.

     

  Fig. 6. Deformation of the arrow caluculated by our model. Only part of the arrow forξ∈[0,ξp] are shown.

矢の形状変化の様子を高速カメラで撮影した4msごと

の写真をFig. 5に示す.矢には振動運動が現れており,

採用したパラメータでアーチェリーパラド ックスを調べ ることが出来ることを示している.

提案したモデルをシミュレーションした2msごとの矢

の形状をFig. 6に示す.各時刻における対応する矢の形

状を比較すると,いずれの時刻も矢の位置およびたわみ 量はほぼ等しく,凹凸についても同じ特徴を持っている ことがわかる.したがって,提案したモデルから得られ る矢の振動の周期,ノックの振幅の増減および並進運動 のデータは妥当であると考えられる.

4.2 数値計算によるパラメータ依存性の評価

4.2.1 弓具に対する依存性

現在多くの競技者に使われているEaston Sports社が 提供するチャート表は,弓の強さやシャフトの長さに対

(6)

して推奨するシャフトのサイズについての記載のみであ る.それゆえ,弓具の選択を行うにあたっては,矢を構成 する各弓具の物理量が矢の振動に与える影響は競技者に は不明瞭なままであり,これらが定量的な形で提供され ればよりよい調整が可能となる.アーチェリーパラド ッ クスと弓具の依存性を調べるにあたって,各弓具につい て着目する単位物理量を定める必要がある.

そこで本報では,依存性を調べる各弓具の単位物理量 を競技者が弓具を調整するにあたって着目できるであろ う最小単位,すなわちシャフトのサイズについては同材 質の矢を変更するときの最小の肉厚変更(ここでは1size と呼ぶことにする),シャフトの長さについては1cm, ノックの質量については0.1g,ポイントの質量について は1gと定義する.

Table 2とTable 3に,各弓具を変化させたときの矢 の振動の周期とノックの振幅の相関係数を示す.異なる 弓具間でも単位物理量における相関係数に着目すること で,シャフトのサイズと同等に定量的な調整が可能とな る.相関係数の大小に着目することで,矢の振動の周期 はシャフトのサイズ[1size],シャフトの長さ[cm],ポイ ントの質量[g],ノックの質量[×0.1g]の順に影響が大き く,ノックの振幅はシャフトのサイズ[1size]が他の弓具 と比較して影響が大きく,シャフトの長さ[cm],ポイン トの質量[g],ノックの質量[×0.1g]の変更は単位物理量 での変化率に着目するとほぼ同じであることがわかる.

Table 2. Rate of change for arrow period.

Arrow parameter Rate Size of shaft [1size] -0.72[ms/1size]

Length of shaft [cm] 0.22[ms/cm]

Mass of nock [×0.1g] 0.05[ms/0.1g]

Mass of point [g] 0.19[ms/g]

Table 3. Rate of change for nock amplitude.

Arrow parameter Rate Size of shaft [1size] -3.21[mm/1size]

Length of shaft [cm] 0.52[mm/cm]

Mass of nock [×0.1g] -0.51[mm/0.1g]

Mass of point [g] 0.51[mm/g]

4.2.2 射形の依存性

射形が矢の並進運動に与える影響について,右利きの 競技者について以下のことが知られている10).ただし,

左利きの場合は以下すべて左右反対となる.

リリース時に指のずれが大きくなるほど(モデル でいうθが大きくなるほど ),競技者から見て矢が 右にずれる

ホールディング時にアンカーポイント( 矢の初期 位置を一定にするため引き手を顔に接触させる位 置)が右にずれるほど(モデルでいうFig. 7のよ うにβを定めたとき,βが正の値で大きくなるほ ど ),競技者から見て矢が左にずれる

緩み離れ( リリースより前に力が緩んでしまい引 き尺がわずかであるが短くなること )によりフル ド ローが短くなるほど ,競技者から見て矢が左に

ずれる

   

Fig. 7. Definition of the angleβ of holding.

これらはいずれも曖昧に語られているのみであり,例 えば,リリース時の指のずれとホールディング時の矢の 初期位置のずれ,ど ちらが矢の並進運動に対して影響が 大きいのかはわからない.これらが定量的な形で提供さ れれば,たとえば競技中でも矢の到着地点から射形のど の部分にミスが生じているかがわかり,競技者にとって 射形改善へのより明確な指針となる.そこで,提案した モデルを用いて,上記3つの並進運動への影響の大きさ を調べた.

矢の並進運動と射形の依存性を調べるにあたって,前 項と同様に各射形について着目する物理量を定める必要 がある.そこで本報では,依存性を調べる各射形の単位 物理量を,競技者が射形を見直すにあたって着目できる であろう最小単位,すなわちフィンガーリリースによる タブのなす角θについては1°,アンカーポイントのずれ による矢の初期位置のずれについては1°,緩み離れによ るフルド ローのずれについては1cmと定義する.Fig. 8 からFig. 10に,各射形のパラメータとEaston Sports 社が推奨するチャート表に従って選択した場合における 矢の重心の軌跡に対する角度の相関関係図を示す.ここ では,単位物理量を導入することで異なる射形間での並 進運動への大きさの大小を比較したいので,相関係数を 求めるべく回帰直線を1次関数と仮定した.

   

(7)

  Fig. 8. The angle α as a function of the angle θ of finger release.

     

  Fig. 9. The angle α as a function of the angle β of holding.

     

  Fig. 10. The angleαas a function of the full draw Δy.

Table 4に,各射形と矢の重心の傾きの大きさの相関

係数を示す.相関係数の大小に着目することで,射形が 及ぼす矢の並進運動の影響は矢の初期位置のずれ[°],タ ブのなす角[°],フルド ロー[cm]の順に影響が大きいこ とがわかる.射形のずれの生じやすさと相関係数の絶対

値の大きさを考慮すると,ホールディング時に矢が弓に 対して垂直に引き込めているかど うかが,的への的中に おいて最も重要であるといえる.

Table 4. Correlation coefficient every shooting form parameter.

Shooting form parameter Correlation coefficient

θ[°] 0.253

β [°] 0.662

Δy[cm] 0.082 [°/cm]

5. 結言

本研究では,アーチェリーパラド ックスのモデルを作 成し,各弓具の物理量や射形が及ぼす矢の振動および並 進運動の依存性を,数値シミュレーションによって数値 化した.以下に知見を記す.

(1) 矢の振動の周期は,シャフトのサイズ[1size],シャ フトの長さ[cm],ポイントの質量[g],ノックの質量[×

0.1g]の順に影響が大きい.

(2)ノックの振幅は,シャフトのサイズ[1size]が他の弓 具と比較して影響が大きく,シャフトの長さ[cm],ポイ ントの質量[g],ノックの質量[×0.1g]の及ぼす影響の 大きさはほぼ同じである.

(3)射形が及ぼす矢の並進運動の影響は,矢の初期位相 [°],タブのなす角[°],フルド ロー[cm]の順に影響が 大きい.

参  考  文  献

1) E. S. Morse, ”Additional notes on arrow release”, Peabody Museum, Salem, Massachusetts, 1922.

2) P. E. Martin, W. L. Siler, and D. Hoffman, ”Elec- tromyographic analysis of bow string release in highly skilled archers”, Journal of Sport Sciences, pages 215–221, 1990.

3) P. Leroyer, J. Van Hoecke, and J. N. Helal, ”Biome- chanical study of the final push-pull in archery”, Journal of Sport Sciences, pages 63–69, 1993.

4) I. P. Zanevskyy, ”Archer-bow-arrow behavior in the vertical plane”, Acta of Bioengineering and Biomechanics, pages 65–82, 2006.

5) R. Pekalski, ”Experimental and theoretical re- search in archery”, Journal of Sport Sciences, pages 259–279, 1990.

(8)

6) B. W. Kooi and J. A. Sparenberg, ”On the Me- chanics of the Arrow: Archer’s Paradox”, Jurnal of Engineering Mathematics, pages 285–306, 1997.

7) B. W. Kooi, ”Bow-arrow interaction in archery”, Jurnal of Sport Sciences, pages 721–731, 1998.

8) B. W. Kooi, ”The Archer’s Paradox and Modelling,

a Review”, History of Technology, pages 125–137, 1998.

9) 高柳憲昭, 「みんなのアーチェリー」, 学習研究社, 東京, 2007.

10) 全日本アーチェリー連盟,「アーチェリー教本」,講 談社,東京, 1988.

参照

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