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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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(1)博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 論文提出者氏名. 橋詰 史晶. 論 文 題 目. フッサール現象学における普遍性の問題. 審査要旨 本論文は、従来十分に考察されてこなかったフッサール現象学の根本的問題の一つ、すなわち「普 遍と個」の問題を、整合的に理解・解釈し、それによって、「学の基礎づけ」に腐心したフッサール の哲学的意図に沿いつつそれを発展的に読み替える試みである。 全体は、序論および各章の節区分を除くと、大きく次のように分けられる。 第一章 スペチエスの導入 第二章 自由変更の問題──形態学的本質の直観について 第三章 理念化の問題──カント的意味での理念の直観について 第四章 デリダのフッサール解釈における現前と非現前の関係──現前の形而上学を越えて 第五章 個物と本質の絡み合い 第六章 個物と普遍者の関係とフッサール現象学における類似性 第七章 結論と展望 学 Wissenschaft の哲学的基礎づけを志すフッサールにとって、 「普遍的本質」が学の成立基盤と して重要な問題であった。そのために彼は事実と本質を区別し、同一かつ普遍的な本質の学としての 現象学を展開する。それは簡単に言えば「本質直観」に基づく本質論である。論者は『論理学研究』 から『イデーン』以降に至る「本質」概念にかかわる用語(Spezies, Idee, Wesen, Eidos)に十分な 配慮をしつつ、フッサールの本質論を連続的・統一的に把握する。そして「心理学主義」に対するフ ッサールの批判の意義を確認する。しかし同時に、超時間的・イデア的な普遍的本質と、それに対置 される時空的限定を受けた個物あるいは個体の存在との関係が重要な問題となってくる。フッサール は個物の認識と本質の認識が相関関係にあることを主張するが、それでもこの関係の解明が課題とし て残る。彼は「自由変更」の分析によって個的直観から普遍的本質の直観への移行を説明しようとす るが、その「事実の乗り越え」 、いいかえれば「有限から無限への飛躍」が大きな問題なのである。 論者は諸家の先行研究を参照しながらこの問題を浮き上がらせる。次いで「理念化」という事態にお いても同じ問題が生ずることが示される。フッサールの用語である「カント的意味での理念」 (以下、 理念)はカントから影響を受けているが、論者の見解では、フッサールにとっては理念も本質の一種 であり、それを看取する働きである理念化も、広い意味でのイデアチオン(本質直観)に含まれるの である。だが理念の直観においてもやはり有限から無限への飛躍があることは否定できない。(以上 第1~3章) そこで論者は「本質の普遍性」とともに、フッサールが論じている「類似性の普遍性」に注目する。 そしてまさにこの類似性によって普遍と個の問題がより体系的かつ整合的に説明され、フッサール現 象学が拡張されると主張する。それが後半の内容である。論者はまず「類似性」の普遍性の優位を浮 き上がらせるために、フッサールの本質の同一的普遍性の立場を、デリダに典型的に見られる「差異」 の立場と対比させる議論を展開する。そのさい論者はデリダのフッサール批判を重要なものと見る が、 「現前の形而上学」に「非現前」を対置することで問題の解決を図るのではない。現前と非現前 との差異を生み出す絡み合いすなわち「差延」が問題の焦点である。フッサールにおける「形式と直 観」の理論とデリダによるそれの解釈を、それに続いてイデア性と個物との関係を、差延に関連づけ.

(2) 氏名 橋詰 史晶 る論者の議論はかなり複雑であるが、導き出される帰結は、普遍者と個物との絡み合い、すなわち差 延である。両者のいずれも存在論的に優位をもたない。デリダはその事態を(デリダ自身は肯定的な ニュアンスを込めているものの)アポリアと呼んだ。このアポリアにおいては、いかなる普遍性も本 来的には論ずることができなくなってしまう。有限から無限への飛躍を避け、差異のアポリアに陥ら ない方途を、論者は類似性の現象学に、あるいは論者の提唱する用語ではグラデーションの現象学に 求める。フッサール自身は類似性を過渡的なものとしてしか論じていないが、入念なテキスト読解に より、類似性の統一こそが根源的なものであって個物も普遍者もそこから生ずる結果なのだから程度 上の同一性を持つに過ぎないという論者独特の解釈が、感覚野における感覚与件の構成に即して展開 される。そして「個物も普遍者も、それ自体としては何ものでもなく、それらは類似性による統一と いう唯一の原現象の二つの抽象的側面に過ぎないのである」、 「最初から個的でも普遍的でもあるよう な類似性による統一だけが存在する」と論者は結論づける。その解釈はフッサール現象学の否定では なく、むしろそれの発展的拡張の可能性を示すものであるというのが論者の主張である。(以上第4 ~6章) 大略以上のような内容をもつ本論文は、フッサールの文献に即しつつも、フッサールを超えた視点 からフッサールを解釈してその現象学理論のなかでこれまで埋没し顧みられなかった「類似性」とい う側面の重要性と可能性に着目しこれを明示的に展開しようとするものであり、多分に冒険的なもの であると言うことができる。デリダの手法である脱構築に似た性格も感じられる。そのため、論述が 複雑に入り組んで十分に意が伝わりにくい箇所があることは否めない。これは反省すべき点であろ う。事実、審査の場において、フッサールによって理解された限りでのカント思想に関する叙述が論 者自身の解釈として理解される恐れありとの指摘がなされた。そのことと関連して、同一性、弁証法、 カント的理念、本質、有限と無限、等々の基本的概念の説明も伝わりにくいという意見もあった。本 論文に対する本質的な疑問としては、論述の大部分が論者の最重要問題である「類似性」概念を浮き 上がらせるための序論でしかないように思われるが、むしろ初めから類似性を中心に置いてそれを広 範囲に論ずるべきではなかったか、という意見が出された。 これらの指摘や疑問は謙虚に受け止められねばならないが、論文の全体的構成から来る制約、そし て現象学研究における新しい問題提起という本論文の趣旨を考えれば、やむをえない面であるとも言 える。このような難点はあるにせよ、フッサールのテキストを精読し、多くの草稿や研究論文を駆使 して、フッサール現象学をより積極的なものたらしめようとする本論文は、フッサール研究の新たな 視野を開くものであり、今後の研究によるより大きな成果が期待される。よって、本論文は博士学位 の授与にふさわしい論文であると判断する。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2017 年. 1 月. 28 日. 所属機関名称・資格. 氏名. 専門分野. 主任審査委員. 早稲田大学文学学術院. 教授. 佐藤. 眞理人. 西洋近現代哲学. 審査委員. 早稲田大学文学学術院. 教授. 小林. 信之. 哲学・美学. 審査委員. 早稲田大学文学学術院. 教授. 村松. 聡. 倫理学・ドイツ哲学. 審査委員 審査委員. 博士学位名称. Ph.D.(ヴッパタール大).

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