博士(文学)学位請求論文審査報告要旨
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(2) 氏名 橋詰 史晶 る論者の議論はかなり複雑であるが、導き出される帰結は、普遍者と個物との絡み合い、すなわち差 延である。両者のいずれも存在論的に優位をもたない。デリダはその事態を(デリダ自身は肯定的な ニュアンスを込めているものの)アポリアと呼んだ。このアポリアにおいては、いかなる普遍性も本 来的には論ずることができなくなってしまう。有限から無限への飛躍を避け、差異のアポリアに陥ら ない方途を、論者は類似性の現象学に、あるいは論者の提唱する用語ではグラデーションの現象学に 求める。フッサール自身は類似性を過渡的なものとしてしか論じていないが、入念なテキスト読解に より、類似性の統一こそが根源的なものであって個物も普遍者もそこから生ずる結果なのだから程度 上の同一性を持つに過ぎないという論者独特の解釈が、感覚野における感覚与件の構成に即して展開 される。そして「個物も普遍者も、それ自体としては何ものでもなく、それらは類似性による統一と いう唯一の原現象の二つの抽象的側面に過ぎないのである」、 「最初から個的でも普遍的でもあるよう な類似性による統一だけが存在する」と論者は結論づける。その解釈はフッサール現象学の否定では なく、むしろそれの発展的拡張の可能性を示すものであるというのが論者の主張である。(以上第4 ~6章) 大略以上のような内容をもつ本論文は、フッサールの文献に即しつつも、フッサールを超えた視点 からフッサールを解釈してその現象学理論のなかでこれまで埋没し顧みられなかった「類似性」とい う側面の重要性と可能性に着目しこれを明示的に展開しようとするものであり、多分に冒険的なもの であると言うことができる。デリダの手法である脱構築に似た性格も感じられる。そのため、論述が 複雑に入り組んで十分に意が伝わりにくい箇所があることは否めない。これは反省すべき点であろ う。事実、審査の場において、フッサールによって理解された限りでのカント思想に関する叙述が論 者自身の解釈として理解される恐れありとの指摘がなされた。そのことと関連して、同一性、弁証法、 カント的理念、本質、有限と無限、等々の基本的概念の説明も伝わりにくいという意見もあった。本 論文に対する本質的な疑問としては、論述の大部分が論者の最重要問題である「類似性」概念を浮き 上がらせるための序論でしかないように思われるが、むしろ初めから類似性を中心に置いてそれを広 範囲に論ずるべきではなかったか、という意見が出された。 これらの指摘や疑問は謙虚に受け止められねばならないが、論文の全体的構成から来る制約、そし て現象学研究における新しい問題提起という本論文の趣旨を考えれば、やむをえない面であるとも言 える。このような難点はあるにせよ、フッサールのテキストを精読し、多くの草稿や研究論文を駆使 して、フッサール現象学をより積極的なものたらしめようとする本論文は、フッサール研究の新たな 視野を開くものであり、今後の研究によるより大きな成果が期待される。よって、本論文は博士学位 の授与にふさわしい論文であると判断する。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2017 年. 1 月. 28 日. 所属機関名称・資格. 氏名. 専門分野. 主任審査委員. 早稲田大学文学学術院. 教授. 佐藤. 眞理人. 西洋近現代哲学. 審査委員. 早稲田大学文学学術院. 教授. 小林. 信之. 哲学・美学. 審査委員. 早稲田大学文学学術院. 教授. 村松. 聡. 倫理学・ドイツ哲学. 審査委員 審査委員. 博士学位名称. Ph.D.(ヴッパタール大).
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