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現代アメリカにおける移民研究の新動向(上) : トランスナショナリズム論の系譜を中心に

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Academic year: 2021

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(1)現 代 ア メ リカ に お け る移 民 研 究 の 新 動 向(上) トランスナ シ ョナ リズム論 の系譜 を中心 に 村. 井. 忠. 政. は じめ に. い ま地 球 的 規 模 で グ ロー バ リゼ ー シ ョン が 急 速 に進 み 、 国 境 を越 え た ヒ ト ・モ ノ ・情 報 ・資 本 等 の 流 動 化 が 見 られ る。 こ の 現 象 は 日本 で は 国 際 化 、 ボ ー ダ ー レス 化 な ど と も 呼 ば れ て い る が 、 こ の 現 象 は 一 面 で は 世 界 各 地 の 人 間 の 生 活 に お け る経 済 的 、 政 治 的 、 社 会 的 、 文 化 的 つ な が りの 強 化 と画 一 化 を もた ら して い る が 、 半 面 で は む し ろ地 域 の 民 族 的 異 質 化 と文 化 的 活 性 生化 を促 進 し て い る と も 見 られ る。 グ ロー バ リゼ ー シ ョン に伴 い 、 地 球 的 規 模 で の ヒ トの 国 境 を 越 え た トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 移 住 が 激 し くな っ た だ け で な く、 か つ て の 国 際 的 な移 住 に は 見 られ な か っ た 国 境 を ま た い だ 「トラ ンス ナ シ ョナ ル ・コ ミ ュ ニ テ ィ 」 や 「 社 会 的 ネ ッ トワ ー ク 」 が 形 成 され つ つ あ る と主 張 す る議 論 が ア メ リカ の 移 民研 究 者 の 中か ら 出 て き て い る。 国 際 移 民 に 見 られ る こ の 現 象 を 「トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 」 と呼 び 、 旧 来 の 移 民 研 究 で 用 い られ て き た 概 念 道 具 で は こ の 新 し い 現 象 を解 明 で き な い と主 張 し、 「トラ ン ス ナ シ ョナ ル な視 座 」 か らの ア プ ロー チ の 必 要 を 説 き 、 い わ ば移 民 研 究 に お け るパ ラ ダ イ ム 転 換 を迫 る 主 張 が 現 わ れ て き た の で あ る1。 本 稿 の 目的 は 、 グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンの 進 展 と共 に 全 地 球 的 な 規 模 で 活 発 化 しつ つ あ る トラ ン ス ナ シ ョナ ル な移 住 の な か で も 、 と りわ け ア メ リカ 合 衆 国 にお け る 移 民研 究 の新 しい 動 向 に 注 目 し、 「トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 」 を め ぐ る 近 年 の研 究 の 系 譜 の 中 か ら主 要 な もの を 紹 介 し、 そ こ に お け る争 点 を 取 り上 げ 検 討 を加 え る こ と にす る。 そ うす る こ とで 、 トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 研 究 の 背 景 と問 題 点 を 明 らか に した い 。 ∫. 1現. 代 ア メ リカ に お け る移 民 研 究 の 動 向. 1965年 の 移 民 法 改 正 に よ っ て 、 ア メ リカ 合 衆 国 政 府 の 移 民 政 策 に根 本 的 な 転 換 が み られ 、 移 民 受 け入 れ の 基 準 が 大 き く変 わ る こ と に よ っ て 、 そ れ 以 前 は ヨー ロ ッパ 諸 国 か ら の移 民 に 偏 っ て い. 1 ア メ リカ の 移 民 研 究 に お け る トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 視 角 を紹 介 した 邦 語 論 文 と し て は. 、 次 の 文 献 が 参 考 に な る。 広 田 康 生. 著 「 越 境 す る 知 と都 市 エ ス ノ グ ラ フ ィ編 集 ー トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 論 の 展 開 と都 市 的 世 界 」 渡 戸 一 郎 ・広 田康 生 ・田 嶋 淳 子 編 著 『都 市 的 世 界/コ. ミュ ニ テ ィ/エ ス ニ シ テ ィ一 ポ ス トメ トロポ リス 期 の都 市 エ ス ノ グ ラ フ ィ集 成 』 明 石 書 店 、pp.14∼. 46.「 小 井 戸 彰 宏 著 「グ ロー バ ル 化 と越 境 的 社 会 空 間 の 編 成 ー 移 民研 究 にお け る トラ ン ス ナ シ ョナ ル 視 角 の 諸 問 題 一 」『社 会 学 評 論 』(日 本 社 会 学 会)Vo1.56. No.2. 2005年 、pp.381∼399。.

(2) た 出 身 地 域 に か わ っ て 、 ラテ ンア メ リカ や ア ジ ア 諸 国 か ら の移 民 が 急 激 に 増 加 し、 ア メ リカ 合 衆 国 の移 民 史 に お け る 「 第2の 移 民 の 大 波 」 と呼 ば れ る現 象 が 生 じた。1997年 の 国 勢 調 査 が 示 す と こ ろ に よれ ば 、 ロ サ ンゼ ル ス 、 ニ ュ ー ヨー ク 、 シカ ゴ を は じめ とす る8つ の 主 要 大 都 市 圏 に お い て 、移 民 の 第1世 代(外 割 を 占 め 、 第2世. 代(ア. 国 生 れ)が 約2680万 人 に の ぼ り、 合 衆 国 総 人 口に 占 め る割 合 がお よそ1 メ リカ 生 れ)と. 合 わ せ た 人 口 で は5000万 人 を 超 え 、 ア メ リカ 総 人 口の. 20。5%を 占 め る2。 多 くの 途 上 国 に とっ て 、 移 民 た ち が 先 進 国 で働 き 故 国 に 送 る資 金 は 、 近 年 非 常 に 重 要 な外 貨 収 入 源 とな っ て い る。 た と え ば 、2003∼04年 の メ キ シ コ で は 移 民 の 送 金 総 額 は 海 外 か らの 直接 投 資 よ り大 き な 資 金 流 入 と な り、2000年 の フ ィ リ ピ ン で は 輸 出 総 額 の19%に. 匹 敵 した 。 世 界 的 に 見 て. も途 上 国 の 外 貨 獲 得 の 大 き な部 分 を 占 め て お り、90年 代 に 途 上 国 へ の 送 金 は 政 府 開 発 援 助(OD A)総. 額 を 凌 い だ とい う。 ポル トガル ら海 外 へ の 移 民 を研 究 して い る キ ャ ロ ラ イ ン ・ブ レ ッテ ル. に よれ ば 、海 外 移 民 の 母 国 ポル トガ ル へ の 送 金 総 額 は 、1975年 の 時 点 で2550万 エ ス ク ドス に の ぼ り、2000年 の 時 点 の 送 金 総 額 はGNPの. お よ そ3%を. 占 め る ま で に な っ て い る3。. こ う した 現 実 を背 景 に 、 ナ ン シ ー ・フ ォ ー ナ ー 、R・. ラ ン ボ ー ト、 ス テ ィー ヴ ン ・ゴ ール ドら. は 、 ア メ リカ に お け る移 民 研 究 を 概 観 した 研 究 書 の な か で 、 第2の 大 量 移 民 時 代 に ア メ リカ が 突 入 した こ と を受 け て 、 移 民 研 究 は 現 在 新 しい段 階 に 入 っ て い る と述 べ て い る。 この 新 しい移 民 研 究 の 時 代 は1970年 代 か ら始 ま り、80年 代 に 拡 大 し、90年 代 に爆 発 的 な 勢 い で 広 ま り現 在 に 至 っ て い る と い う4。 さ ら に 、 か つ て の ア メ リカ 移 民 史 的 研 究 が 、 も つ ば ら ヨー ロ ッパ か ら の 移 民 に 焦 点 を 当 て て い た の に 対 して 、 現 代 の 移 民 史 研 究 で は ラテ ン ア メ リカ とア ジ ア か らの 移 民 に焦 点 が 当 て られ る こ とが 圧 倒 的 に 多 くな り、 ヒス パ ニ ッ クや ア ジ ア 系 の 移 民 を 対 象 とす る研 究 は ま す ま す そ の 数 を増 して き て い る5。 そ の結 果 、 ラテ ン ア メ リカ や ア ジ ア か ら の移 民 の 第2世. 代 や 第3. 世 代 の 中 か ら も移 民 研 究 者 が 出 て き て い る。 い ま や 移 民 研 究 は 狭 い 意 味 で の移 民 研 究 の 枠 を超 え て 、 現 代 ア メ リカ 社 会 一 般 の 問 題 に な っ て い る と言 っ て も過 言 で は な い 。. 2 Alejandro Portes and Ruben G Rumbaut. , Legacies: The Story of the Immigrant Second Generation, University of California Press,. 2001, pp.19-20. 3 Caroline Brettell. , Anthropology and Migration: Essays on Transnationalism, Ethnicity, and Identity, Alta Mira Press, 2003, p.50. Nancy Foner, Ruben G Rumbaut, and Steven J. Gold, eds., Immigration Research for a New Century: Multidisciplinary Perspectives, 4. Russell Sage Foundation, 2000, p.3.ち. な み に 、 ア メ リカ に お け る移 民研 究 の 第1世 代 は20世 紀 初 頭 の 東 欧 ・南 欧 か らの新 移. 民 の 研 究 に取 り組 ん だ 、 ロバ ー ト ・パ ー ク に代 表 され る シ カ ゴ学 派 と呼 ば れ る シ カ ゴ大 学 の 社 会 学 者 た ち で あ る。 彼 らの研 究 の 焦 点 は 、新 移 民 に対 す る 差 別 や 移 民 が 都 市 に 与 え る影 響(例. え ば イ ン ナ ー シテ ィ にお け る ス ラム や ゲ ッ トー の 形 成)の. 問題 に 当て られ た 。 第2世 代 は 大 恐 慌 期 か ら1960年 代 ま で の20世 紀 半 ば の40年 間 に 及 ぶ 移 民 中 断 期 で あ り、 そ こで の 移 民研 究 の 焦 点 は 移 民 の 第2世 代 と第3世 5 Ibid , p.5.. 代 の 同 化 の 問題 に 、 第2次 大 戦 後 は 人 種 ・民 族 関係 を め ぐ る争 点 に 焦 点 が 当 て られ た。.

(3) Ⅱ トラ ン ス ナ シ ョ ナ ル な 移 住 の 研 究. 1「. トラ ンス ナ シ ョナ ル な 移 住 」 へ の 注 目. マ ッ シー ら に よ る 「 社 会 的 ネ ッ トワ ー ク 」 の 研 究 一. シ カ ゴ大 学 の 社 会 学 者 マッ シ ー を 中心 とす る研 究 グル ー プ は 、 メ キ シ コ か らア メ リカ へ の トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 移 住 の 恒 常 化 を め ぐ る 経 験 的 調 査 か ら生 み 出 され た移 民 シ ス テ ム(migration system)の 研 究 で 知 られ て い る6。 メ キ シ コ と合 衆 国 との 間 の 国境 を越 え る 労 働 者 の 移 動 は 長 い歴 史 を 持 つ て お り、 した が つ て メ キ シ コ ー合 衆 国 間 の 移 民 の研 究 も長 い歴 史 を もつ 。 これ ま で に メ キ シ コ 人 労 働 者 が合 衆 国 忙 越 境 して き た 時 期 と して は 、19世 紀 末 か ら20世 紀 初 頭 に か け て の 時 期 、 第1次. 大 戦 期 間 中 、1920年 代 、. そ して と りわ け 多 か っ た の が1924年 か ら1964年 に か け て の 「 ブ ラセ ロ計 画(Bracero  Program)」 に も とづ く40年 間 に及 ぶ 契 約 労働 者 の 大 量 移 入 の 時 期 で あ っ た7。 1980年 代 ま で に メ キ シ コか らの 移 民(そ の な か に は 国 境 を 不 法 に 越 え て き た 非 合 法 移 民 が 多 く 見 られ る)が 大 挙 して カ リ フ ォル ニ ア州 や テ キサ ス 州 な どア メ リカ 南 西 部 の都 市 に 住 み つ き 、 そ の 結 果 これ らの 地 域 に お け る人 口の 人 種 民 族 的 構 成 が劇 的 な 変 動 を 遂 げ た 。 ア メ リカ の 週 刊 誌 『タイ ム 』 は 、1990年 の 特 集 号 「 メ ル テ ィ ン グ ポッ トを 超 え て 」 で 、 ヒス パ ニ ック や ア ジ ア 系 の 人 口 が この ま ま の 趨 勢 で 伸 び つ づ け て い く と仮 定 す る と 、21世 紀 半 ば に は 白人 が マ イ ノ リテ ィ に 転 落 し、 「ア メ リカ の 褐 色 化(Browning  of  America)」 が 実 現 す る との 予 測 を 立 て て い る8。 マ ツシ ー らは 、 メ キ シ コ西 部 の4つ の 異 な る地 域 の移 民 送 り出 し コ ミ ュニ テ ィ を 調 査 対 象 に選 ん で い る が 、 そ の4つ. の 移 民 送 出 コ ミ ュ ニ テ ィ と は ① ア ル タ ミ ラ(Altamira)、. (Chamitlan)、 ③ サ ン チ ア ゴ(Santiago)、. ④ サ ン ・マ ル コ ス(San  Marcos)で. ② カ ミ トラ ン. あ り、 ① と② は 農. 業 地 域 の農 村 に 立 地 し、 ③ と④ は 工 業 地 域 の 都 市 に 立 地 して い る9。彼 等 が こ れ らの コ ミ ュ ニ テ ィ を選 ん だ の は 、 これ らの コ ミュ ニ テ ィ が 他 の 地 域 に較 べ て 特 段 多 く の移 民 を ア メ リカ に 送 り出 して い るか らで は な い 。 彼 らの ね らい は で き るだ け 多 様 な 地 域 特 性 を も つ コ ミ ュ ニ テ ィ を選 ぶ こ とで 比 較 研 究 を可 能 に し、 一 般 化 へ の道 を 開 くた め で あ っ た 。 こ の研 究 で 用 い られ て い る方 法 は 、 エ ス ノサ ー ヴ ェイ(ethnosurvey)と. 呼 ば れ る ア プ ロー チ で. あ り、 そ れ は人 類 学 者 に よ っ て しば しば 採 用 され る民 族 誌 的 フ ィー ル ドワー ク と社 会 学 的 な サ ン プ リン グ 調 査 や 人 口統 計 学 的 デ ー タ をむ す び つ け た も の で あ る。 い わ ば質 的 調 査 と量 的 調 査 を結. 6. Douglas S. Massey, Rafael Alarcon, Jorge Durand and Humberto Gonzalez, Return to Aztlan: The Social Process of International Migration from Western Mexico, University of California Press, 1987. 7ブ. ラ セ ロ ・プ ロ グ ラ ム に よ. り 決 め た 協 定 に 基 づ い て 、6ヶ 9. Beyond Douglas. って ア メ リカ 合 衆 国政 府 は 、農 業 労 働 者 の 不 足 を補 う目 的 の た め に 、 メ キ シ コ政 府 との 間 に 取 月 間 の 契 約 で メ キ シ コ入 労 働 者 を 採 用 した。. the Melting Pot,' TIME, April 9, 1990, pp.2427. S . Massey et al.,op. cit.,pp.22-38.詳 し く は 第3章(A. 8 ' Profile of Four. Communities)を. 参 照 され た い 。.

(4) び つ け る こ と で 、 そ れ ぞ れ の 手 法 が も つ 長 所 を 活 か し短 所 を 補 う こ と で 移 民 研 究 の よ り豊 か な 成 果 が 期 待 で き る と 考 え た か ら で あ る10。 メ キ シ コ か ら ア メ リ カ へ の 移 住 に は 次 の3つ 第1の. タ イ プ は 一 時 的 移 住(temporary . ゲ ッ ト ・ア ー ナ ー と 呼 ば れ 、 短 期 間(通 時 的 移 住 の タ イ プ は30台. の タ イ プ が 見 られ る と い う。. migration)と 常1年. 以 内)に. 呼 ば れ る 。 こ の タイ プ に 入 る 移 民 は タ ー 目標 と し た 額 の 金 を 稼 い で 帰 国 す る 。 一. の既 婚 の 移 民 男 性 に 多 く見 られ 、 そ の ほ とん ど が 非 合 法 移 民 で あ っ て 、. ア メ リカ 社 会 に ほ と ん ど 統 合 さ れ て い な い 。 第2の. 回 帰 的 移 住(recurrent  migration)と. 呼 ば れ る タ イ プ に 属 す る移 民 は 、 メ キ シ コ に お け る. 生 活 水 準 を 上 げ る た め に 、 メ キ シ コ と ア メ リカ の 間 を 定 期 的 に往 復 す る若 年 の 単 身 者 に 多 く見 ら れ る 。 こ れ は さ ら に2つ. の 変 形 に 分 類 さ れ る 。 ひ と つ は 季 節 的 移 住(seasonal . migration)と. 呼ば. れ 、 カ リ フ ォル ニ ア な どで 労 働 集 約 的 な農 業 労働 に 従 事 す る移 民 た ち で あ り、 も うひ とつ は 周 期 的 移 住(cyclical  migration)と 第3の. 呼 ばれ 、 短 期 の 契 約 で 工 場 労 働 に 従 事 す る移 民 た ち で あ る。. 定 着 移 住(settled  migration)と. 呼 ば れ る類 型 に 含 ま れ る移 民 は 、 合 衆 国 に 永 住 す る こ と. を 決 意 し て い る 合 法 的 な 移 民 で あ り、 前 の2つ. の タ イ プ が ア メ リカ 社 会 よ りは メ キ シ コの コ ミュ. ニ テ ィ と の 絆 が よ り強 い の に 対 し て 、 ア メ リカ 社 会 に も つ と も よ く 統 合 さ れ て い る タ イ プ で あ る 。 と は い え 、 彼 等 の メ キ シ コ の 出 身 コ ミ ュ ニ テ ィ と の 絆 が 断 ち 切 ら れ る こ と は 決 し て な い11。 マ ッシ ー らは ア メ リカ 側 に 形 成 され て い る コ ミ ュ ニ テ ィ の 調 査 を も行 い 、 特 定 の 地 域 間 に ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル ・コ ミ ュ ニ テ ィ 」 や. 「社 会 的 ネ ッ トワ ー ク 」(social  network)が. 「ト. 形 成 され て お. り 、 そ の 結 果 た ん な る 一 方 向 的 な 移 動 を 超 え て 恒 常 的 か つ 双 方 向 的 な 人 間 の 流 れ が 形 成 され て い る こ と を 明 ら か に し た 。 マッ シ ー ら は 、 こ の 社 会 的 ネ ッ ト ワ ー ク が 移 民 の 移 動 を 支 援 し、 情 報 を 提 供 す る 重 要 な 機 能 を 果 た し て い る 事 実 を 強 調 す る 。 こ の 社 会 的 ネ ッ トワ ー ク は 親 族 、 友 人 、 同 郷 者 一 スペ イ ン 語 で パ イ サ ナ ー へ(paisanaje)と. 呼 ば れ メ キ シ コに お け る 同 じ コ ミ ュ ニ テ ィ の 出. 身 者 を 意 味 す る ー の 人 間 関 係 を 基 礎 と して お り 、 互 助 組 織 と し て の 性 格 を も つ 。 す な わ ち 、 メ キ シ コ か ら ア メ リ カ に 移 住 し て き た ば か り の 新 顔 の 移 民 が 、 ア メ リカ の 地 域 社 会 に 定 着 し、 仕 事 を 見 つ け る ま で の あ い だ 、 こ の 社 会 的 ネ ッ ト ワ ー ク が な に くれ と な く 生 活 の 世 話 を や い て く れ る の で あ る12。 マ ッシ ー らは 、 この 確 立 した シ ス テ ム の な か で の 家 族 や コ ミュ ニ テ ィの 成 員 の 移 動 パ ター ン と そ の 影 響 の 分 析 を 行 い 、 同 時 に トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 視 座 に た っ た 移 民 研 究 者 を 育 て て い る 。 し か し な が ら 、 マッ シ ー 自 身 は 移 民 シ ス テ ム 論 の 枠 組 で 実 質 的 に は 社 会 経 済 的 側 面 の 多 く が カ バ ー さ れ て い る と 考 え 、 トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 視 座 に 対 し て 一 定 の 距 離 を お き 、 そ の 理 論 的 枠 組 の 曖. 10. Douglas S. Massey 11 Ibid ., pp.174—1 80. 12 Ibid ., pp.139-171.. et al., op. cit., p.I0-21..

(5) 昧 さ を 指 摘 し て い る と い う13。. 2積. 極 的 トラ ン ス ナ シ ョ ナ リ ズ ム 論 の 登 場. ー パ ラ ダ イ ム 転 換 を迫 る シ ラー らの 試 み 一. ニ ー ナ ・グ リ ツ ク ・シ ラ ー 、 リ ン ダ ・バ ツ シ ュ 、 ク リ ス チ ー ナ ・ブ ラ ン ク ー ス ザ ン ト ン ら の 人 類 学 者 の 研 究 グ ル ー プ は 、 カ リ ブ 海 諸 国 か ら ニ ュ ー ヨ ー ク な ど ア メ リカ の 都 市 へ の トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 移 住 を研 究 した 結 果 、 そ こ に彼 らが. 「ト ラ ン ス ナ シ ョナ リ ズ ム 」 と 呼 ぶ 新 しい 現 象 が 見. られ る と 主 張 す る 。 「トラ ン ス ナ シ ョ ナ ル な 移 住 」 な い し は. 「トラ ン ス ナ シ ョ ナ リ ズ ム 」 を 新 し い 現 象 と し て 位 置. づ け 、 そ の 学 問 的 定 義 を 試 み る 最 初 の 本 格 的 学 術 会 議(ワ 1990年 の5月. ー ク シ ョ ッ プ)が. で あ っ た 。 こ の ワ ー ク シ ョ ッ プ の 報 告 書 を も と に 、1992年7月. ア カ デ ミ ー ・オ ブ ・サ イ エ ン セ ズ 』 誌 が 特 集. 開 催 され た の は 、 に 『ニ ュ ー ヨ ー ク ・. 「 移 住 に 関 す る トラ ン ス ナ シ ョ ナ ル な 視 座 を 目指 し. て 」 を 組 ん で い る14。 こ の ワ ー ク シ ョ ッ プ の オ ル ガ ナ イ ザ ー で あ り 、 こ の 特 集 号 の 編 者 で も あ る シ ラ ー 、 バ ツ シ ュ 、 ブ ラ ン ク ー ス ザ ン トン の3者 研 究 項 目(research. agenda)を. は こ の ワ ー ク シ ョ ッ プ に 先 立 っ て 、 次 の3つ. の. あ げ て い る。 ① トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 移 住 が 、 い か に して 包 括 的. か つ グ ロー バ ル な 資 本 主 義 シ ス テ ム の な か で 形 成 され 、 同 時 に そ れ が 反 対 に グ ロ ー バ ル な 資 本 主 義 シ ス テ ム に 貢 献 して い る か を検 討 す る。 ② 社 会 科 学 者 た ち が移 住 研 究 に ア プ ロ ー チ す る 際 に用 い て き た 通 念 と し て の 分 析 的 な 範 疇(カ migrants)「. 還 流 型 移 民 」(return. (sojourners)な. どの. テ ゴ リ ー) . migrants)「. た と えば. 一 時 的 移 民 」(temporary. 「恒 常 的 移 民 」(permanent migrants)「. 一時滞在者 」. の 有 効 性 に つ い て 検 討 す る。 ③ トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 移 民 た ち が 、 い. か に して 自 らの 人 種 的 、 民 族 的 、 階 級 的 、 国 家 的 、 ジ ェ ン ダ ー 的 ア イ デ ン テ ィテ ィ を 形 成 して い る か に つ い て 分 析 す る15。 こ こ で 改 め て シ ラ ー ら に よ る トラ ン ス ナ シ ョ ナ リ ズ ム の 定 義 を 紹 介 す る な ら 、 トラ ン ス ナ シ ョ ナ リズ と は. 「移 民 に よ る 、 そ の 出 身 社 会 と 受 け 入 れ 先 の 定 住 地 と を つ な ぐ 、 持 続 的 で 多 層 的 な 社. 会 関係 を生 み 出 す 様 々 な社 会 過 程 を指 し、 現 在 の 移 民 た ち が 形 成 す る 、 地 理 的 、 文 化 的 、 政 治 的 境 界 を ま た い で 社 会 的 領 域 が 形 成 され る プ ロ セ ス を 指 す 」16。 シ ラ ー ら は 、 トラ ン ス ナ シ ョ ナ リ ズ ム に つ い て 論 じ た 論 文 の 冒 頭 で 、 「わ れ わ れ が 従 来 使っ て き た 移 民 の 概 念 は 、 も は や 時 代 遅 れ に な っ て い る 」 と し て 、 次 の よ うな 大 胆 に 踏 み 込 ん だ 議 論 を 13小井戸彰宏 「 国際移 民システ ムの形成 と送 り出 し社会 への影響ー越 境的なネ ッ トワー ク とメキ シコの地域発展 」小倉充夫 14. 編 『国際移動論一 移民 ・移動 の社会学』三嶺 書房 、1997年 、33頁∼65頁。 Nina Glick Schiller, Linda G Basch and Cristina Blanc-Szanton (eds.), Towards a Transnational Perspective on Migration: Race, Class, Ethnicity, and Nationalism Reconsidered, Annals of the New YorkAcademy of Sciences, Vol. 645, July 6, 1992. 15Ibid ., p. x. 16L. Basch, N. Glick-Schiller, and C. S. Blanc, Nation Unbound, Gordon and Breach Science Publisher, 1994, p.7..

(6) 展 開 す る。 「 移 民 とい う言 葉 を 聞 く と 、 永 久 に 故 国 か ら 引 き裂 か れ 、根 こ ぎ に され 、 古 い パ ター ン を投 げ 捨 て 、 苦 心 惨 憺 新 しい 言 葉 と文 化 を身 に つ け る とい つ た イ メ ー ジ が 喚 起 され る。 と こ ろ が 今 や 、 新 しい 種 類 の移 民 が 台 頭 しつ つ あ り、彼 らは ホ ス ト社 会 と故 国 の 両 方 に ま た が るネッ ト ワー ク や 、 活 動 や 、 生 活 の パ タ ー ン を有 し て い る。 彼 らの 生 活 は 国 境 を ま た い で お り、2つ の 社 会 を1つ の 社 会 的 領 域(socia1 field)に. して い る の だ17。 」 彼 らに 言 わ せ る と、 こ の よ うな 新 しい. 移 民 の 実 践 的 経 験 や 意 識 を研 究 す る た め に は 、新 しい 分 析 道 具 が 必 要 だ とい うわ け だ。 シ ラ ー ら は こ の よ うな現 代 の新 しい 移 民 を 「トラ ン スマ イ グ ラ ン ト」(transmigrants)と 名 づ け る。 シ ラー ら が 具 体 的 な 考 察 の 対 象 と した の は 、 近 年 に お い て ハ イ チ 、 カ リブ 海 東 部 、 フ ィ リ ピ ン の3つ の 地 域 か ら ニ ュ ー ヨー ク へ 移 民 して き た 人 々 の 経 験 で あ り、 これ らの 移 民 た ち の 経 験 や ア イ デ ンテ ィテ ィの 持っ て い る複 雑 さや 微 妙 さ を 分 析 す る た め に は 、 旧来 の移 民 研 究 の 素 朴 な 分 析 概 念 で は 不 十 分 で あ り、 新 た な 分 析 枠 組 が 必 要 で あ る とい うの が 彼 らの 主 張 す る と こ ろで あ る。 要 す る に 、 こ れ ら 新 し い トラ ン ス ナ シ ョ ナ ル な 移 民 の 経 験 は 、 「恒 常 的 移 民 」(permanent migrants)「 還 流 型 移 民 」(return migrants)「 一 時 的 移 民 」(temporary. migrants)「 一 時 滞 在 者 」. (sojourners)な ど の 従 来 の カ テ ゴ リー で は も は や 捉 え きれ な い とす る認 識 が こ こに は 見 られ る18。 そ れ で は シ ラ 一らが 唱 え る 近 年 の 新 た な 現 象 と して の 「トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 」 は い か に し て 生 れ た とい うの だ ろ うか 。 結 論 を 先 取 りす るな ら、 こ の 新 た な 現 象 は何 よ り も グ ロー バ ル な 資 本 主 義 シ ス テ ム の 産 物 で あ る こ と が 強 調 され る。 こ こ に 「従 属 理 論 」 や 「 世 界 シス テ ム理 論 」 (ウォ ー ラ ー シ ュ テ イ ン)の 影 響 を 読 み 取 る こ と は容 易 で あ ろ う。 た だ し シ ラ ー らは 、 これ らの 理 論 が 説 く よ うに 、 資 本 主 義 の ダ イ ナ ミ ッ ク な 発 展 過 程 を グ ロー バ ル な 視 座 か ら分 析 す る こ との 必 要 は 認 め な が ら も、 他 面 に お い て 、 グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンの な か で 依 然 と して 国 民 国 家 が 果 た して い る 重 要 な機 能 に つ い て 十 分 に説 明 しきれ な い と して 、 そ の 不 十 分 さを 指 摘 して い る こ と も 付 け加 え て お か ね ば な らな い19。 上 で 述 べ た よ うな理 由 か ら、 シ ラ ー らは 旧来 の 移 民研 究 に 用 い られ て き た 分 析 枠 組 が 時 代 遅 れ に な っ て い る と し、 そ れ に 代 わ る新 た な 概 念 枠 組 の 必 要 を説 い て い る。 移 民研 究 に お け るパ ラ ダ イ ム の 転 換 を迫 る と もい え る シ ラー らの こ の よ うな 「 積 極 的 トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム論 」 は 、 し か しな が ら、 移 民 研 究 者 の 間 で 必 ず し も支 持 され て い るわ け で は な い 。 例 え ば 、 トラ ン ス ナ シ ョ ナ リズ ム の 出 現 の 要 因 を、 世 界 的 な 社 会 経 済 シ ス テ ム よ りは 、 む し ろ輸 送 シ ス テ ム と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・テ ク ノ ロ ジ ー の 飛 躍 的 な 発 達 に 求 め る 立 場 が あ る20 。 つ ま り、 これ らテ ク ノ ロ ジ ー の 急 速 な 進 歩 の お か げ で 、 今 日 の 移 民 は19世 紀 の 移 民 た ち と ち が っ て 、 出 身 国 と の 絆 を い つ ま で も. 17 Nina Glick Schiller. , Linda Basch, and Cristina Blanc-Szanton, `Transnationalism: A New Analytic Framework for Understanding Migration,' Annals of the New YorkAcademy of Sciences, Volume 645, July 6, 1992, p.1. 18Ibid ., p.5. 19Ibid ., p.7. 20Frederic Wakeman . Jr., 'Transnational and Comparative Research,' Items, Vol. 42, No. 4, 1988, pp.85-88..

(7) 保 ち続 け る こ とが で き る 条 件 を 手 に入 れ た とい うわ け で あ る。 さ ら に は 、 トラ ンス ナ シ ョナ ル な 移 住 とい うも の を認 め ず 、 古 典 的 な経 済 学 の 「 プ ッシ ュ= プ ル 」 モ デ ル に よ っ て 今 日の 移 民 を観 察 す る研 究 者 も依 然 と して 見 られ る21。 さ ら に 、 トラ ン ス ナ シ ョナ ル な移 住 の 存 在 そ の も の は 認 め な が ら も 、 そ れ が 決 して 新 しい 現 象 で は な く、20世 紀 初 頭 か らす で に そ の よ うな 現 象 は 見 られ た とす る 議 論 も依 然 と して根 強 い。 例 え ば ナ ン シ ー ・フ ォ ー ナ ー は 、 ニ ュー ヨー ク 市 に お け る移 民 を 対 象 に 、20世 紀 初 頭 の ヨー ロ ッパ か ら の移 民 と現 代 の 移 民 と を比 較 し、 そ こ に 多 くの 共 通 点 が 見 出 せ る と述 べ て い る。 もっ と も彼 女 も 、今 日の トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム に顕 著 な 独 自の 傾 向 が 存 在 して い る こ と も ま た 事 実 と して認 め て は い る が22。 さ らに シ ドニ ー ・ミ ン ツ も 、19世 紀 の カ リブ海 地 域 に お け る移 民 の 歴 史 を検 討 した 結 果 、 トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム が 質 的 に過 去 の 移 民 と異 な る新 しい 現 象 で あ る とす る主 張 に は 誇 張 が あ り、 した が っ て 「コ ミュ ニ テ ィ」 「 文 化 」 「地 域 」 とい っ た 伝 統 的 な 用 語 を退 け る の は 時 期 尚早 で あ る と述 べ る23。   確 か に 、初 期 の移 民 た ち の 多 くは 、彼 らの 故 国 との コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン を必 ず しも断 ち切 っ て は い な か っ た し、 故 国 の 政 治 的 運 動 に参 加 して い た とい う事 実 も見 られ 、 そ の 意 味 で は彼 ら も ト ラ ン スナ シ ョナ ル な移 民 で あ っ た と い え る24。に もか か わ らず 、 シ ラ ー らは 今 日の トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 移 民 が 新 しい タ イ プ の 移 民 で あ り、 そ の 分 析 の た め に は移 民 の トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 生 活 経 験 に 対 す る グ ロー バ ル な 視 座 を 開 発 しな けれ ば な らな い と説 く。 そ うす る こ とに よ っ て 社 会 科 学 者 た ち は 過 去 の 移 民 と現 在 の 移 民 の類 似 点 と差 異 と を理 解 す る こ と が で き る とい うの だ25。   シ ラ ー ら を 中 心 とす る研 究 グル ー プ は 、 これ らの 移 民 集 団 が ニ ュ ー ヨー ク市 を は じめ とす る 地 域 に 集 中 し、 強 い 結 束 力 を 保 ち 、 母 国 との紐 帯 を維 持 す るの み な らず 、 母 国 の 政 治 過 程 に積 極 的 な 働 き か け を行 い 影 響 力 を 行 使 して い る事 実 に 注 目 した 。 た しか に 、 トラ ン ス ナ シ ョナ ル な ネッ トワー ク の 政 治 的 な影 響 力 は 、 近 年 き わ め 重 要 な も の に な っ て き て お り、 筆 者 と して も この 点 は 強 調 して お き た い 。 移 民 た ち は 国 外 に い な が ら も特 定 の政 党 や 候 補 に 支 持 を表 明 した り、 資 金 を 提 供 す る こ と で 出 身 国 の政 治 に影 響 を 与 え て い る。 さ らに 近 年 で は 、 二 重 国 籍 が 容 認 され 直 接 在 外 投 票 を 通 じて 国 内 政 治 に 参 加 しは じ め て お り、 出身 国政 府 に とっ て も彼 ら は 大 き な 存 在 とな り つ つ あ る。 例 え ば ネ イ サ ン ・グ レイ ザ ー が 指 摘 して い る よ うに 、 メ キ シ コ か らア メ リカ 合 衆 国 へ の 移 民 は 、 メ キ シ コ 憲 法 の 改 正 に よ り、今 日で は メ キ シ コ国 籍 を保 持 した ま ま 米 国市 民 に な る こ とが 可能 に な っ て い る26。. 21Everett Lee , `A theory of migration,' Demography, Vol. 3, pp.47-57. 22Nancy Foner , 'What's New About Transnationalism?: New York Immigrants Today and at the Turn of the Century,' Diaspora, vol.6 no. 3, 1997. 23Sidney W . Mintz, 'The Localization of Anthropological Practice,' Critique of Anthropology, Vol. 18 No. 2, 1998. 24Bella Vassady, 'The homeland cause' as a stimulant to ethnic unity: The Hungarian American response to Karolyi's 1914 tour, Journal of American Ethnic History, Vol. 2, No. 1, 1982, pp.39-64, 25Nina Glick Schiller , Linda Basch, and Cristina Blanc-Szanton, op. cit., p.9. 26Nathan Glazer , 'Assimilation Today: Is One Identity Enough?' in Tamar Jacoby (ed.), Reinventing the Melting Pot: The New Immigrants and What It Means to be American, Basic Books, 2004, p.70..

(8)   こ こで と りわ け 注 目 した い の は 、1980年 代 半 ば 以 降 民 主 化 へ の動 き が 見 られ る ラテ ン ア メ リカ や カ リブ 海 諸 国 で 、 移 民 集 団 が 大 き な 政 治 的 影 響 力 を 行 使 して い る とい う事 実 で あ る。 例 え ば 、 ニ ュー ヨー ク 市 に 居 住 す るハ イ チ 、 グ レナ ダ 、 ドミニ カ 共 和 国 とい っ た 国 々 の 出 身 者 は 、選 挙 資 金 を集 め 特 定 の 政 党 を 支 持 し、 ま た 積 極 的 に母 国 に残 る親 族 ・友 人 へ 投 票 を 呼 び か け る とい っ た 方 法 で 、 母 国 の 政 治 に 影 響 力 を拡 大 しつ つ あ る27。た とえ ば 、 ハ イ チ 共 和 国 か ら海 外 へ 移 住 した 人 々 の あ い だ で 、1週. 間 足 らず の 間 に 、ハ イ チ で の さ ま ざ ま な プ ロ ジ ェ ク トの た め に100万 ドル. の 寄 付 金 が集 め られ た とい う28。   この 背 景 に は 、 次 の よ うな 事 情 が あ る と考 え られ る。 これ らの 移 民 集 団 は 、 受 け入 れ 社 会 に お い て 差 別 的 な待 遇 を 受 け 、 た とえ 経 済 的 に 成 功 した 場 合 で も 、.社会 的 ・政 治 的 な地 位 は 低 い ま ま に お か れ る こ とが 多 い 。 この た め 彼(彼. 女)ら. は 自分 た ち の 出 身 社 会 に お い て 、 高 い 社 会 的 な 評. 価 を 得 、 政 治 的 な影 響 力 を行 使 す る こ とで 、 自 らの プ ライ ドを 満 足 させ る こ と に 関 心 を もつ の で あ る。   シ ラ ー らは こ の よ うな 動 き が 「 脱 領 土 的 国 民 国 家(de-territorialized  nation states)」と呼 ば れ る 新 しい タイ プ の 国 民 国 家 を 出 現 させ つ つ あ り、 も はや 国 民 国 家 の 枠 組 の な か で 国 際 移 動 を 理 解 す る こ と 自体 が 問 い 直 され ね ば な らな い と した 。 この よ うな認 識 枠 組 の 再 構 築 の 必 要 性 か ら新 しい 研 究 パ ラ ダ イ ム と して の トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 視 座 を 明 快 に 打 ち 出 した の で あ る。.                                       -. 3  トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 論 の 批 判 的 検 討 ポ ル テ ス ら に よ る 分 析 枠 組 精 緻 化 の試 み ー.   シ ラー らの グル ー プ に よ る積 極 的 な トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム論 の 提 唱 に 対 して 、 基 本 的 に は こ の 新 しい 移 民 研 究 の 系 譜 を継 承 し な が ら も 、概 念 の 曖 昧 さな どを 批 判 的 に 検 討 す る こ とに よ っ て 、 こ の 分 析 枠 組 を 精 緻 化 しよ う とす る試 み が ア レハ ン ドロ ・ポ ル テ ス 、L.  E.グ. ア ル ニ ソ、 バ ト. リシ ア ・ラ ン ドル トら社 会 学 者 の 研 究 グル ー プ に よ っ て な され て い る。 ポ ル テ ス らは 、 ラテ ン ア メ リカ 諸 国(コ. ロ ン ビア 、 ドミニ カ 、 エ ル ・サ ル バ ドル)か. らニ ュー ヨー ク市 と ロ サ ンゼ ル ス 市. へ の移 民 の 比 較 研 究 に 取 り組 み 、 そ の 研 究 成 果 を人 種 ・エ ス ニ シ テ ィ研 究 の 学 術 専 門 誌 『エ ス ニ ッ ク ・ア ン ド ・レ イ シ ャ ル ・ス タ デ ィー ズ 』(1999年3月. 号)の 特 集 「トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム. の 研 究 」 で公 刊 して い る29。   上 述 した よ うに 、 シ ラー ら が積 極 的 な トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 論 を 展 開 した の に対 して 、 ポル 27Linda G Basch , Nina Glick Schiller, and Cristina Szanton Blanc, eds., Nations Unbound: Transnational Projects, Postcolonial Predicaments, and Deterritorialized Nation States, Gordon and Breach, 1994. 28N . Glick Schiller and Georges Fouron, 'Transnational Lives and National Identities: The Identity Politics of Haitian Immigrants,' in Michael P. Smith and Louis E. Guarnizo, Transnationalism from Below, Transaction Publisher, 1998, p. 136. 29Alejandro Portes, Luis E. Guarnizo and Patricia Landolt, 'The Study of Transnationalism: Pitfalls and Promise of an Emergent Research Field,' Ethnic and Racial Studies, Vol. 22 No. 2, March 1999..

(9) テ ス らの グル ー プ は 、 トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 論 が 指 摘 す る新 しい 現 象 の 存 在 を基 本 的 に は認 め な が ら も、 シ ラー らの トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 概 念 の 曖 昧 さ を指 摘 し、 そ こ か ら生 じ る陥 穽 に つ い て 注 意 を促 して い る。 そ して 、 これ らの 陥 穽 を避 け る た め に は つ ぎ の よ うな 手 続 き が 必 要 で あ る とい う。   第1に. 、 トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム とい う現 象 を確 定 す る た め に は 、 少 な く と も次 の3つ の 条 件. が 必 要 で あ る。 す な わ ち 、 ① 移 民 と移 民 を送 り出 して い る故 国 の 人 々 を含 む か な りの 数 の 人 々 が そ の プ ロ セ ス に か か わ りを 持 っ て い る こ と。 ② そ の 活 動 が 一 時 的 な も の や 、 例 外 的 な もの で な く、 一 定 の 安 定 性 と持 続 性 を 有 す る こ と 。 ③ これ らの 活 動 の 内 容 が 何 ら か の 既 存 の 概 念 に よ っ て は 捉 え られ な い も の で あ る こ と30。   第2に. 、 トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム概 念 が 曖 昧 に な る の を避 け る た め に は 、 こ の 概 念 を狭 く限 定. 的 に使 用 す べ き で あ る 。 シ ラー らが や や もす る と国 境 を ま た い で な され る 「トラ ン ス マ イ グ ラ ン ト」 の 活 動 や 経 験 な らす べ て 無 条 件 に そ れ を トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム と して 捉 え よ う とす る の に 対 して 、 ポル テ ス らは そ れ を 国境 を ま た い だ 「 定 期 的 か つ 持 続 的 な 活 動 」 に 限 定 して使 用 す べ き で あ る と 主 張 す る。 す な わ ち 、 トラ ンス ナ シ ョナ ル な移 住 が 真 に 「 オ リ ジ ナ ル な 現 象 」 と呼 べ る た め に は 、 そ れ が 「国 境 を越 え た 持 続 的 な 基 礎 の 上 に 成 立 す る高 密 度 の 交 流(exchanges)や. 新. しい 形 の 交 渉 、 そ して 複 合 的 な活 動 」 で な けれ ば な らな い と い う31。   第3に. 、 ポ ル テ ス らは トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム と い う現 象 を 分 析 す る 際 の 単位 を 「 個 人 とそ の. 支 援 ネ ッ トワー ク 」 に 限 定 す べ き で あ る と主 張 す る。 コ ミ ュ ニ テ ィ 、 国 際 的企 業 、 政 党 、 中 央 政 府 や 地 方 政 府 な どの 単 位 に つ い て は 、 トラ ンス ナ シ ョナ ル ・ネ ッ トワー ク が よ り複 雑 に 発 展 した 段 階 で トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム とい う活 動 に参 加 して く るの で あ り、 分 析 の 手 順 と して は 後 回 し に す る の が よい とい う32。   第4に. 、 トラ ン スナ シ ョナ リズ ム とい う活 動 は き わ め て 異 質 で 多 様 な 活 動 の す べ て を指 して 用. い られ る こ とが 多 い た め 、 や や もす れ ば 混 沌 と した も の に 陥 りが ち で あ る。 そ こで 、 これ らの 活 動 を 一 緒 くた に 論 じ るの で は な く 、 次 の3つ. の カ テ ゴ リー に 分 け て 論 じる こ とが 必 要 とな る。 そ. の3つ の カ テ ゴ リー と は 、 ① 経 済 的 活 動 、 ② 政 治 的 活 動 、 ③ 社 会 文 化 的 活 動 で あ る 。 さ ら に は 多 国 籍 企 業 や 国家 の よ うな 強 力 で 「 制 度 化 され た 」 ア ク タ ー の 支 配 の も とに あ る活 動 と 、 移 民 と彼 らの 故 国 に お け る 支 援 組 織 に よ る 「 草 の 根 の活 動 」 を 区 別 す る こ とが 必 要 で あ る とい う。   ポ ル テ ス らは 、 「 制 度 化 の レベ ル の 高 い トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 」 と 「 制 度 化 の レベ ル の 低 い トラ ンス ナ シ ョナ リズ ム 」 とい う用 語 を 使っ て 、 以 上 の 議 論 を表1の. 30 Ibid., 31 Ibid. pp.218-219. ., p.219.. 32 Ibid ., p.220.. よ うに整 理 して い る。.

(10) 第5に. 、 トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム と い う現 象 が 成 立 す る た め の 条 件 とは 何 か を 同 定 す る こ とが. 必 要 で あ る。 そ れ らの 条 件 と して は ① 地 理 的 距 離 と時 間 の 短 縮 を 可能 に した 航 空 機 に 代 表 され る 移 動 手 段 の 飛 躍 的 な 発 達 。 ② 国 際 電 話 ・フ ァ ッ ク ス ・電 子 メ ー ル ・衛 星 放 送 な どの コ ミュ ニ ケ ー シ ョン 技 術 の 目覚 し い 革 新 。 ③ 国 境 を ま た い だ 移 住 を支 援 す る 社 会 的 ネ ッ トワ ー ク の 確 立 で あ る33。 ***. これ ま で わ れ わ れ は 、現 代 ア メ リカ の 移 民 研 究 の な か で も 、 と りわ け トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 視 座 か らの 実 証 的 な 移 民 研 究 の 系 譜 に 焦 点 を 当 て て 見 て き た 。 そ こか ら明 らか に な っ た こ とは 、 同 じ く トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 論 を 唱 え る研 究 者 の 間 に も 、 用 語 法 に見 られ る 多 義 性 、概 念 の 不 明 確 性 、 分 析 単 位 の 曖 昧 性 な ど を め ぐっ て 様 々 な議 論 が 展 開 され つ つ あ る とい う事 実 で あ る。 す な わ ち 、 トラ ン ス ナ シ ョナ ル な 移 住 が 新 しい 現 象 で あ る こ と を認 め、 トラ ン ス ナ シ ョナ ル な視 座 か らの 研 究 の意 義 を 認 め な が ら も 、 そ こに は様 々 な 議 論 の 不 一 致 が研 究 者 の 間 に 存 在 して お り、 ト ラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム論 が 新 しい パ ラ ダ イ ム と して 確 立 して い る と は到 底 い え な い 状 態 に あ る。 そ こ で 次 稿 で は 、 引 き続 き トラ ン ス ナ シ ョナ リズ ム 論 の そ の 後 の 系 譜 を 紹 介 す る と同 時 に 、 そ こ に お け る争 点 を よ り深 く掘 り下 げ て 検 討 す る こ と に した い 。 《未 完 》.

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参照

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