子育て支援プロジェクトをエゴグラムで評価する試みⅠ
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(2) 子育て支援プロジェクトをエゴグラムで評価する試みⅠ 森 範 行*. Evaluating the Effect of the Child Care Projection on Anxious Mothers by EgogramⅠ. 要 約 子育てに不安を持つ14名の母親を対象に支援プログラムを5ヶ月にわたり,月2回全10回実施した。 母親の育児態度の変化を調べるために,エゴグラム(TEG)を3通りに分けて実施した。事前の現実 像と理想像,事後の現実像とである。その際,子供と関わっている場面を想定して回答してもらった。 結果は下記のとおりである。 1.母親の現実像は子供に対して批判的支配的であり,受容的共感的態度に欠ける傾向がある。また, 状況判断に際して感情に流されやすい傾向がある。 2.他方,母親の理想像の平均プロフィールは,現実像とほぼ正反対のプロフィールを示した。すなわ ち,的確な状況判断のもとに子供には受容的共感的態度で接したいと望んでいる。現実像と理想像に おける乖離は,子育てを含む対人関係での理想と現実の間の葛藤を示すものであり,子育てにおける 母親の悩みを反映するものと思われた。 3.事後の現実像は事前の現実像とほぼ同様のプロフィールを示すが,事後の現実像にはA(adult) の上昇がみられる。Aの上昇分だけ理想像に近づいたということができる。状況判断が的確になった ことで自分の思い込みや感情で子供に接することが少なくなったと思われる。. Ⅰ.はじめに. の拡大家族よりも核家族の方が育児不安を生じや すいと指摘している。そのような時代背景の中で,. 乳幼児期は母子関係を基に愛着関係を形成して. 母子保健行政が育児支援のモデルつくりに取り組. いく重要な時期である(ボウルビィ,J.1991) 。. み始めている。. 母親を安全基地として乳幼児は探索行動を開始す. 本報告は平成6年度に北海道渡島保健所が実施. る。母親は安全基地として情緒的に安定している. 主体となって行った子育て支援活動の一部である。. ことが要求される。しかるに,育児に戸惑う母親. この事業は平成9年度から三歳児健診などの保健. が少なからず存在する。少子化にもかかわらず,. サービスが市町村に移管されるのに合わせて,支. 育児の心理的負担は軽減していないように思われ. 援のマニュアル作りを道立の主な保健所が2年計. る。母親が育児に不安を感じるのは経験不足の他. 画で実施したものである。北海道教育大学函館校. に,地域の絆の弱体化や核家族化により支援を受. 森研究室では渡島保健所からの協力要請を受け,. ける機会が乏しくなっていることが考えられる。. 育児態度を調べるためにエゴグラムを実施した。. 岩田(1994)は調査研究により,二世帯同居など. エゴグラムを選んだ理由は,交流分析による5つ. *. Noriyuki MORI:北海道教育大学大学院学校臨床心理専攻非常勤講師 キーワード:東大式エゴグラム(TEG),子育て支援,育児態度,交流分析,理想像. 19.
(3) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). の自我状態を分析することにより子供との交流パ. 杉田(1988)は交流分析を精神分析的考え方とコ. ターンの傾向が示されること,母親指導に役立て. ミュニケーション理論を統合したものと述べてい. られること,子育て支援活動の効果が調べられる. る。. ことなどである。. エゴグラムではまず3つの自我状態に分けられ. ここでは子育て支援事業である母と子の健康づ. る。親(Parent:P)の自我状態,大人(Adult:. くり教室「かるがも教室」におけるエゴグラム活. A)の自我状態,子供(Child:C)の自我状態. 用の有効性について検討する。. である。親(Parent:P)の自我状態はさらに父 親的なものと母親的なものに分けられる。すなわ. Ⅱ.母と子の健康づくり教室「かるがも教室」. ち,批判的な親(Critical Parent:CP)と養育 的な親(Nurturing Parent:NP)とに二分され る。子供の自我状態も同様に二分される。自由な. 1)対象母子の抽出. 三歳児健診において明らかな疾病異常はないが, 子供(Free Child:FC)と順応した子供(Adapted 母親アンケートにより子育て支援が必要と思われ. Child:AC)の自我状態である。本来の子供は. る母子14組を対象とする。. FCであるが,子供は無力な存在であるためAC. 2)実施期間. が派生すると考えられている。. 平成6年8月から平成7年1月までの5ヶ月間. 最終的には5つの自我状態(CP,NP,A,. にわたり,月2回全10回実施した。. FC,AC)が評価項目となる。エゴグラムには. 3)実施場所. 各々の自我状態のエネルギーの強さが表示される。. A町中央公民館・体育館. エゴグラムでそのプロフィール・パターンを読み. 4)支援内容. 解いていく。. 集合してから教室開始までは母子の自由遊びの. 交流分析理論によると,5つの自我状態のエネ. 時間である。教室開始後,保育士2名による集団. ルギーの相対的強さによって,最もエネルギーの. 課題遊びに移行し,母親はそれを観察する。保健. 強い自我状態からメッセージが発信される確率が. 師による母親交流会が持たれ,子育ての不安につ. 高い。子供との関係において親は一般にCPとN. いてシェアする。児童精神科医と教育大学教員森. Pから発信する。CPからの発信は子供のACに. が各々1回講話を担当する。. 受信される。これはしつけの場合に有効である。. 森は「交流分析からみた母子関係」と題し,先. 他方,NPからの発信は子供のFCを活性化させ. に施行したエゴグラムの解説(後述)と望ましい. る。これは母子の信頼関係を形成するためには必. 母子の交流パターンについて講話した。. 須のものである。母子関係の基本は後者にある。 本教室では子供とのかかわり方分からない母親. Ⅲ.エゴグラムと交流分析. やうまく遊べない母親に対して,支援プログラム を集団的に実施する。. エゴグラムはデュセイ, J.M. (1980)によっ. Ⅳ.東大式エゴグラム(TEG)の実施手順. て開発されたパーソナリティ検査である。背景と なっている理論は交流分析である。交流分析は精. 神分析の口語版と言われるものであり, バーン, E. 日本で標準化され,最も使用頻度の高い東大式 によって創始された。精神分析の流れを汲むもの. エゴグラム(TEG)を実施した。母親には事前. であるが,無意識にまで深入りすることはない。. に養育傾向を調べるための調査で,予防的な目的. そのため,セルフ・コントロールが容易であり,. で使用することを説明した。かるがも教室の初回. これまで心身症などの治療に活用されてきた(池. に各自に3部配布し,自宅で回答してもらった。. 見ほか,1974,1979) 。近年は教育の領域でもエ. 母親には事前の現実像と理想像とに分けて別々に. ゴグラムと交流分析が活用されるようになってき. 回答してもらい,もう1部は父親に現実像を回答. ている(杉田,1988;水谷,1990;柴崎,2004) 。 してもらった(資料1参照)。 20.
(4) 子育て支援プロジェクトをエゴグラムで評価する試みⅠ. Ⅴ.エゴグラムの結果. かるがも教室の最終回には同じものを1部配布 し,事後の現実像を母親に回答してもらった(資 料2参照) 。. エゴグラムのプロフィール・パターンの分類は,. いずれの場合でも参加している子供との関係を. TEG研究会(1991)に基づく。表1は14名の母. 想定して回答してもらった。. 親のプロフィール・パターンを事前の現実像-理 想像-事後の現実像の順で比較したものである。 表1.各母親のプロフィール・パターン. 母親. 年齢. M1. 28歳. A低位型. 事前の現実像. 台形型. 理想像. 混合型(M型・逆N型). 事後の現実像. M2. 29歳. 逆N型. A優位型. W型. M3. 30歳. 逆N型. A優位型. 逆N型. M4. 30歳. A低位型. A優位型. A低位型. M5. 30歳. 混合型(A低位型・FC優位型). M型. M型. M6. 30歳. A低位型. A優位型. A低位型. M7. 31歳. U型. NP優位型. U型. M8. 31歳. M型. A優位型. 混合型(M型・逆N型). M9. 31歳. NP低位型. M型. U型. M10. 32歳. FC優位型. 台形型. FC優位型. M11. 32歳. NP優位型. 台形型. U型. M12. 34歳. NP優位型. NP優位型. A優位型. M13. 34歳. 逆N型. NP優位型. CP優位型. M14. 37歳. NP優位型. FC優位型. NP優位型. 事前の現実像では様々なタイプが存在するが,. がある(低いNP) 。状況判断に際して感情に流さ. 理想像ではA優位型(5名) ,台形型(3名) ,N. れやすい傾向がある(低いA) 。子供に対する要. P優位型(3名)に集約されてきている。事後の. 求は高いが,子供の実情を的確に把握している訳. 現実像では様々なタイプが混在する。事前と事後. ではないので,両者のコミュニケーションがずれ. でパターンに変化を示さないものが6名存在する. てしまいがちである。. (M3,M4,M6,M7,M10,M14) 。理想. 2)母親の理想像は台形型(マイホーム・タイプ) を示す(図1の細い破線)。. 像と同一のタイプを示したものは1名に留まる. このタイプは自他肯定タイプであり,他者への. (M5:混合型→M型) 。. 14名の平均値をプロットしたものが図1である。 思いやり(NP)があり,自分も楽しむことがで きる(FC) 。感情に流されることなく,合理的. 1)母親の現実像は逆N型(思い込みタイプ)を. に状況判断ができる(A)。. 示す(図1の太い実線) 。 このタイプは自己愛(FC)が強く,他者には. 自己のあるべき姿として,子供に受容的に接し. 厳しい(CP)傾向がある。他方, 現実検討力(A). たいと願っているが,現実像とのギャップが大き. と協調性(AC)が低いので, 自分勝手に思い込み, く,葛藤状況にあると考えられる。 3)父親の現実像は平坦型(凡人タイプ)を示す. 衝動的になりがちである。. (図1の細い実線)。. 遊び場面においてほとんどの母親は子供に対し て批判的支配的である。指示・禁止の言葉掛が多. 平均的なプロフィールを示しており,これと. くみられる(高いCP) 。子供と関わることに拒否. いった特徴はみられない。. 的消極的であり,受容的共感的態度に欠ける傾向. 4) 事後の母親の現実像(終了後)はCP優位型 21.
(5) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). 図1.平均プロフィール・パターン. を表2の左欄に示す。. を示す(図1の太い破線) 。 事前の現実像とほぼ同様のプロフィールを示す. 14名の母親のうち全員がAを上げたいと願い,. が,かるがも教室終了後にはAの上昇がみられる。. 70%以上の母親がNP(14名中11名)とFC(14名. Aの上昇分だけ理想像に近づいたということがで. 中10名)も上がることを理想としている。逆に,. きる。状況判断が的確になったことで自分の思い. 90%以上の母親が下げたいと願っている自我状態. 込みや感情で子供に接することが少なくなったと. はCP(14名中13名)とAC(14名中13名)であり,. 思われる。しかしながら,理想像との乖離は依然. これを度数分布で示したものが図2である。これ. 大きく,母親の悩みは大きいと言わざるを得ない。 を平均化すると図1の理想像のプロフィールにな る。. 5)母親の現実像から理想像への意向の個別分析. 表2.理想の方向への変化のあった人数と割合(%) 自我状態 CP NP A FC AC. 意向. 人数(分母). 理想に近づいた人数と割合. 上げたい. 1名. 1名 (100%). 下げたい. 13名. 7名 (53.8%). 上げたい. 11名. 6名 (54.5%). 下げたい. 0名. / . 上げたい. 14名. 9名 (64.3%). 下げたい. 0名. / . 上げたい. 10名. 2名. 下げたい. 1名. 1名 (100%). 上げたい. 0名. / . 下げたい. 13名. 3名 (23.1%). 22. (20%).
(6) 子育て支援プロジェクトをエゴグラムで評価する試みⅠ. 図2.理想像への意向. た母親11名のうち6名(54.5%)がその方向へ変. 6)母親の終了後の変化の個人分析と理想像への. 化した。他方,FCは10名の母親が上昇を願った. 接近を表2の右欄に示す。 表2の右欄は変化のあった母親のうち,理想の. にもかかわらず,そうなったのは2名(20%)に. 方向への変化のあったものの人数と割合である。. 留まり,同様にACの下降を願った母親13名のう. 母親全員が上昇を願ったAは14名中8名 (57.1%). ち達成したのは3名(23.1%)に留まった。. に多かれ少なかれ上昇がみられた。CPの下降を. 図3は表2の右欄に基づき,教室の前後で変化. 願った母親13名の母親のうち7名(53.8%)に理. のあった人数を各々の自我状態別に度数分布で示. 想の方向への変化がみられた。NPの上昇を願っ. したものである。. 図3.理想の方向への変化のあった人数. 「親の自我状態」 (CPとNP)は理想像に近づ. り,親としての自覚を結果的に促したこと,教室. く割合が高いにもかかわらず, 「子供の自我状態」. 場面で保育士の関わり方を観察したこと,他の母. (FCとAC)では低い割合に留まることは興味あ. 親との交流を持つことにより,各々の母親が理想. る現象である。その理由として考えられることは, とする子供との関わり方について体験的に学ぶこ とができたことが関係していると思われる。その. 親(特に母親)の立場での回答を求めたことによ 23.
(7) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). <文 献>. 分多少無理をして母親自身の楽しみを犠牲にした と考えることができる。. 1.ボウルビィ,J.(黒田実郎 他訳):母子関. Ⅵ.おわりに. 係の理論Ⅰ―愛着行動,岩崎学術出版,1991 2.デュセイ,J.M.(新里里春 訳):エゴグ ラム―ひと目でわかる性格の自己診断,1980. 1)14組のエゴグラムを平均すると,父親の現実. 3.池見酉次郎,杉田峰康:セルフ・コントロー. 像は平均的なプロフィールを示し,特に問題は. ル―交流分析の実際,創元者,1974. みられない。他方,母親の現実像は子供に対し て批判的支配的であり,受容的共感的態度に欠. 4.池見酉次郎,杉田峰康,新里里春:続セルフ・. ける傾向がある(CP>NP) 。また,状況判断に. コントロール―交流分析の日本的展開,1979 5.岩田美香:育児期の母親の心理および生活と. 際して感情に流されやすい傾向がある。. ソーシャル・ネットワークの活用,北海道大学. 2)母親の理想像の平均プロフィールは,現実像. 教育学部紀要,第64号,pp. 93-136,1994. とほぼ正反対のプロフィールを示した。すなわ. 6.水谷大二郎:親と子の交流分析―心のふれあ. ち,的確な状況判断のもとに子供には受容的共. いを求めて,法政大学出版局,1990. 感的態度で接したいと望んでいる(NP>CP) 。. 7.柴崎武宏:自分が変わる・生徒が変わる交流. 3)現実像と理想像における上記の乖離は,子育. 分析,学事出版,2004. てを含む対人関係での理想と現実の間の葛藤を. 8.杉田峰康:教育カウンセリングと交流分析,. 示すものであり,子育てにおける母親の悩みを. チーム医療,1988. 反映するものと思われる。. 9.TEG研究会:TEG活用マニュアル・事例. 4)上記の例が顕著な例もいくつかみられ,個別. 集,金子書房,1991. 的な支援が必要とされるかもしれない。 5)教室終了後の母親の現実像がどこまで事前の 理想像に近づくかが,子育て支援活動の評価の 一部になり得る。平均値のプロフィールではA の上昇以外はほとんど変化がみられなかったが, 個別的に度数を調べてみると,NPを上げCP を下げたいという多くの母親の願いどおりの変 化が50%以上の母親にみられた。 6)母と子の健康づくり教室は基本的には集団的 支援活動であるが,個別的支援のニーズも高ま りつつある。今後は個別支援におけるエゴグラ ムの活用も検討する必要がある。. <謝 辞> 本論文は1995(平成7)年12月の北海道心理学 会第42回大会(札幌市,札幌医科大学)において 発表したものに加筆したものである。 北海道教育大学函館校養護学校教員養成課程の 当時のゼミ生には母と子の健康づくり教室にボラ ンティアとして協力していただいた。記して感謝 の意を表します。. 24.
(8) 子育て支援プロジェクトをエゴグラムで評価する試みⅠ. SUMMARY Evaluating the Effect of the Child Care Projection on Anxious Mothers by EgogramⅠ Noriyuki MORI (Part Time Lecturer, Special Course of Clinical Psychology and School Education, Graduate School of Education, Hokkaido University of Education) 14 anxious mothers were investigated. They attended the child care project.The program was held twice a month, for 5 months, in total of 10 days. Egograms (TEG) were conducted three times. Before the program, the first attitude was real ego, the second is toward ideal ego. The third is real ego after the program. The results are as follows: 1. Mothers’ attitudes toward their children, before the program, were critical and dominant, lacking of acceptance and sympathy. They were apt to be influenced by their emotion in reading of the situation. 2. On the other hand, the average profile of their ideal ego showed opposite type. They wanted to relate to their children with acceptance and sympathy. It means conflict between real and ideal ego. 3. As a result, the profile comes closer to ideal ego, according to the rise of A (adult). After becoming reading of the situation precisely, they seems to lessen their assumption or emotional treatment toward their children.. Key words : Egogram (TEG), Child care project, Attitude toward child, Transactional analysis, Ideal ego. 25.
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