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実験的な濁水供給にともなうミズナラ林とスギ林の浸透能低下

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Academic year: 2021

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Tohoku Journal of Forest Science Ⅰ.はじめに  落葉リター等の A0層を含む表層土壌には流入し た濁水をろ過する機能のあることが知られている (Okura et al,1997;市川・落合,2008;大野・落合, 2010)。濁水ろ過機能には,林床堆積物のほかに,林 床植生も合わせた林床全体の浸透能も大きく影響して いると考えられるが(阿部ら,2017),濁水ろ過にと もない浮遊土砂のような懸濁物質が表層土壌に蓄積す ることで,林床の浸透能は低下する可能性がある(阿 部ら,2020)。そのため,崩壊地や作業道などの裸地 の下方に位置する森林のように,濁水が継続的に流入 する箇所では林床の濁水ろ過機能が徐々に低下する恐 れも考えられる。  本研究では,濁水供給(懸濁物質負荷)が林床の 浸透能に与える影響を明らかにするため,ミズナラ (Quercus crispula) 人 工 林 と ス ギ(Cryptomeria

japonica)人工林において濁水供給により段階的に 懸濁物質の負荷を増やしていき,林床の浸透能がどの ように変化するかを実験した。 Ⅱ.方法 1.調査地  実験は森林総合研究所東北支所(岩手県盛岡市) 構内にあるミズナラ人工林とスギ人工林でおこなっ た。管理上,これらの林分は苗畑の一部となってお り,かつて密度試験などの目的で植栽された苗木が成 長して樹林化したものである。ミズナラ人工林(面 積 880 ㎡)は林冠木の樹高が 20~23 m ほどで, 胸高直径は 10~40 cm(主に 25~30 cm)であっ た。林床植生は高さ 0.1~0.5 m の草本のほかに高さ 0.5~1.5 m の低木も多く,被度は 20~40 % 程度で あった。実験時(2017 年)の林齢は,残存する資料 から 30~37 年生と推定される。スギ人工林(面積 1250 ㎡)は樹高が 20~27 m(主に 23~24 m)で, 胸高直径は 10~50 cm(主に 30 cm 前後)であった。 林床植生は高さ 0.1~0.7 m の草本,特にシダ類が多 く,ほかに高さ 1~1.5 m の低木も若干あった。林床 植生の被度は 20~80 % 程度であった。林齢は実験 時において 42 年生である。なお,ミズナラ林とスギ 要  旨  濁水供給(懸濁物質負荷)が林床の浸透能に与える影響を明らかにするため野外実験をおこなった。森林総合研究所 東北支所構内の隣接するミズナラ林とスギ林にステンレス製円筒枠を各 5 点設置し,浸透能を計測した後,懸濁物質 としてカオリンクレー 5.0 g を含む濁水を注入した。この操作を浸透能が大きく変化しなくなるまで繰り返した。実験 終了から 4 ヵ月半後,9 ヵ月後の浸透能も計測した。基本的に浸透能は懸濁物質負荷量が増えるほど低下しており,懸 濁物質による表層土壌の目詰まりが原因と考えられた。降雨があると浸透能がわずかに回復する傾向も認められた。実 験終了から 9 ヵ月後でも浸透能は十分には回復しなかった。ミズナラ林はスギ林より実験開始時の浸透能が高かったが, 濁水供給による浸透能低下はミズナラ林の方が相対的に大きく回復も遅かった。今後,低下した浸透能の回復にどのよ うな要因が影響するのかを研究することも必要と考えられる。

* 連絡・別刷り請求先(Corresponding author) E-mail [email protected] 森林研究・整備機構森林総合研究所東北支所(020-0123 盛岡市下厨川字鍋屋敷 92-25)

  Tohoku Research Center, Forestry and Forest Product Research Institute, Forest Research and Management Organization, 92-25 Nabeyashiki, Shimokuriyagawa, Morioka, Iwate 020-0123, Japan

森林研究・整備機構森林総合研究所(305-8687 茨城県つくば市松の里 1)

  Forestry and Forest Product Research Institute, Forest Research and Management Organization, 1 Matsunosato, Tsukuba, Ibaraki, 305-8687, Japan

 (2019 年 7 月 24 日受付,2019 年 12 月 3 日受理)

阿部俊夫

*,1

・岡本 隆

2

・篠宮佳樹

2

Degradation of infiltration capacities followed by experimental turbid water supply

in a Japanese oak stand and a sugi stand

Toshio Abe

*,1

, Takashi Okamoto

2

and Yoshiki Shinomiya

2

実験的な濁水供給にともなうミズナラ林とスギ林の浸透能低下

25(1)p.10-13(2020) 東北森林科学会誌第 25 巻第1号

10 ~ 13 頁   2020

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11 阿部俊夫ら:濁水供給によるミズナラ林,スギ林の浸透能低下 林は通路を挟んで隣接しており,地形はほぼ平坦であ る。 2.実験方法 ミズナラ林とスギ林に 5 箇所ずつ合計 10 箇所で 浸透能試験のためのステンレス製円筒枠を林床に設 置し,浸透能試験と濁水供給を繰り返した。実験は 2017 年 6 月 14 日に開始し,平均 3.3 日間隔(1~8 日)で浸透能があまり変化しなくなるまでおこなった (2017 年 7 月 20 日終了)。試験は無降雨日を選んで 実施した。また,実験終了から 4 ヶ月半後(2017 年 11 月 29 日),9 ヶ月後(2018 年 4 月 12 日)にも 浸透能試験のみをおこなった(濁水供給なし)。円筒 枠は実験開始から 2018 年 4 月 12 日まで林床に設置 したままとした。 浸透能試験の方法は阿部ら(2017)と同様で, 基本的に竹下(2011)を踏襲している。林床に 4 ~6 cm 挿 入 し た 円 筒 枠( 断 面 積 100 c㎡, 高 さ 15 cm)へ水 450 c㎥を注ぎ,すべて浸透するまでの 時間をストップウォッチで計測した(図-1)。この 注水は連続して 2 回おこない,2 回目の浸透時間から 円筒枠浸透能Iv(mm/h)を求めた。このIvに補正 係数 0.2 を乗じて実質浸透能Ibo(mm/h)を算出した。 以後,浸透能とはIboを指す。円筒枠の設置にあたっ ては,植物の根茎やリターを剪定バサミと包丁で切り ながら,土壌を撹乱しないようゆっくりと挿入した。 林床へ供給する懸濁物質としては,大野・落合 (2010)や阿部ら(2017)と同様にカオリンクレー(林 化成 花印 B)を用いた。この材料は粒径 1~50 µm で大部分がシルト・粘土に相当する(林化成,私信)。 カオリンクレー 5.0 g を水 500 c㎥に懸濁させた濁水 を作成し,これを毎回の浸透能試験の後に円筒内へ 注入した。1 回の濁水供給による懸濁物質の負荷量は 0.5 kg/㎡となる。 また,実験期間中の降雨量を調べるために,東北支 所構内の露場に転倒マス雨量計(Onset RG3-M,1 転倒 0.2 mm)を設置して観測した。この雨量計の観 測データは,実際の降雨量よりやや過小となるため, 阿部ら(2011)を参考に補正係数 1.104 を乗じて補 正をおこなった。なお,欠測の場合は,近くの滝沢ア メダス観測所のデータから回帰式を用いて東北支所の 日降雨量を推定した(阿部,2020)。 Ⅲ.結果および考察 1.懸濁物質の供給にともなう浸透能の変化 ミズナラ林,スギ林ともに,林床の浸透能は累積 カオリン投入量が増えると低下していく傾向が認 められ,累積投入量の累乗式で近似することができ た(図-2)。ミズナラ林の浸透能は実験開始時に 337 mm/h であったが,実験終了時(累積投入量 5.5 kg/㎡)は 81 mm/h と開始時の 24 % であった。 スギ林の浸透能は実験開始時に 173 mm/h であった が,終了時は 66 mm/h と開始時の 38 % であった。 このように林床への濁水供給により浸透能が低下する ことが明らかとなった。これは表層土壌で濁水がろ過 される際,懸濁物質によって土壌孔隙が目詰まりし, 透水性が低下したためと考えられる。 ただし,試験前に降雨のあった日,たとえば 6 月 19 日(累積投入量 1.0 kg/㎡)や 6 月 23 日(累積投 入量 2.0 kg/㎡),7 月 6 日(累積投入量 3.5 kg/㎡) では前回試験時よりも浸透能は高かった(図-2)。 前回の試験後に降った降雨量と浸透能変化量の関係 を調べると正の相関が認められ(図-3),ミズナ ラ林では Kendall の順位相関係数τ= 0.704( p = 0.004),スギ林ではτ= 0.663( p = 0.007)であっ た。これは,雨水が土壌へ浸透する際に孔隙に詰まっ た懸濁物質の一部が除去されるためではないかと推察 図-1  円筒枠を用いた浸透能試験の様子 図-2 濁水供給にともなう浸透能の変化

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12 東北森林科学会誌 25(1),2020 される。7 月 20 日(累積投入量 5.5 kg/㎡)のよう にまとまった降雨があっても浸透能の顕著な回復が認 められない場合もあることから(図-2),単純に降 雨量が多いほど回復しやすいというものではなく,土 壌中に捕捉された懸濁物質量や降雨パターンなども関 係すると推察される。本実験では地表面の傾斜や浸透 能によらず,円筒内に降った雨水はすべて円筒内に浸 透するため通常の状況とは異なるが,降雨が浸透能回 復の重要な一要因であることは疑いないと考えられる。 また,浸透能は,実験終了後にゆっくりと回復する 傾向が認められたが(図-4),9 ヶ月後(2018 年 4 月 12 日)の浸透能でもミズナラ林で 176 mm/h,ス ギ林で 152 mm/h とそれぞれ実験開始時の 52 %, 88 % にとどまっていた。懸濁物質の種類や負荷量に もよるが,浸透能の回復には長い期間が必要と思われ る。このような長期的な浸透能の回復には,上述した 降雨浸透の効果だけではなく,林床植生の根系発達(竹 下,1996;阿部・佐藤,2008;平岡ら,2010)や 土壌動物による掘削(太田,1992;竹下,1996;五 味,2016)などによる粗大孔隙形成も影響するもの と推察される。 2.ミズナラ林とスギ林の浸透能の違い ミズナラ林およびスギ林の浸透能について,本研 究の実験データだけではなく,阿部ら(2017)によ る岩手大学御明神演習林の調査データも合わせて比 較をおこなった(図-5)。なお,御明神演習林で 調べたミズナラ林は,ミズナラとコナラ(Quercus serrata)を主体とした落葉広葉樹の自然林である。 林種と調査地を要因とする 2 元配置分散分析により, スギ林よりミズナラ林の浸透能が高いことが明らかに なった( p = 0.021)。調査地間で比較すると,東北 支所より御明神演習林の方が浸透能の数値は高かった が,差は統計的に有意とまでは言えず( p = 0.090), 交互作用も有意ではなかった( p = 0.980)。 このように東北支所内の林分でも,阿部ら(2017) と同様に,スギ林よりミズナラ林の浸透能が高い傾向 のあることが分かった。既存研究では,広葉樹林とス ギ林は全般に浸透能が高く,調査地による変動も大き いため,両者に明確な浸透能の違いはないと考えられ てきた(村井・岩崎,1975)。しかし,本研究や阿部 ら(2017)では隣接したミズナラ林とスギ林を調査 しており,樹種以外の立地条件を揃えて比較すれば, ナラ類のような落葉広葉樹林とスギ林では浸透能に違 いがあるものと考えられる。御明神演習林のスギ林で は表層土壌のシルト・粘土成分がミズナラ林より多く, 施業にともなう土壌撹乱の影響が疑われたが(阿部ら, 2017),東北支所内の調査林分はどちらも苗畑に植栽 図-3  前回試験からの累積降雨量と浸透能の変化量 の関係 図-4  実験終了後の浸透能の変化     図中の数値は調査月日を示す。 図-5  ミズナラ林とスギ林における未撹乱状態での 浸透能      異なるアルファベットは平均値が異なることを意味 する(Tukey HSD 検定,p<0.05)。     * 御明神演習林のミズナラ林は、ミズナラとコナラ を主体とする自然林である。

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13 阿部俊夫ら:濁水供給によるミズナラ林,スギ林の浸透能低下 した樹木が成長した林で,植栽時の土壌条件はほぼ同 じと考えられる。したがって,ミズナラ林とスギ林の 浸透能の差異には,土壌撹乱以外にもリターの性質な ど樹種に起因する何らかの要因が関係していると推察 される。 ただし,ミズナラ林は初期浸透能が高いものの,濁 水供給による浸透能低下が大きく,実験終了後の回復 も緩やかであった(図-2,4)。一方,スギ林では, 初期浸透能がミズナラ林より低いものの,同量の懸濁 物質を注入した際の浸透能低下は相対的に小さく,実 験終了後の回復もミズナラ林よりは速やかであった (図-2,4)。落葉リターのみによる濁水ろ過機能は, スギリターより広葉樹リターで高いことが知られてお り(Okura et al,1997;松井・落合,2007),広葉 樹リターは懸濁物質を良く捕捉することが浸透能低下 の一因になっていると考えられる。 Ⅳ.おわりに 林床に濁水が供給されると,浸透能は懸濁物質の累 積負荷量が増えるほど低下し,もっとも低い値は実験 開始時の 20~25 % であった。浸透能は降雨により 若干回復する傾向も認められたが,濁水供給が止まっ ても 9 ヵ月程度の期間では十分には回復しなかった。 また,樹種以外の立地条件が同じであれば,ナラ類を 主体とする落葉広葉樹林の方がスギ林よりも浸透能は 高いことが確かめられた。崩壊地や作業道の下方のよ うに濁水の流入しやすい森林において,濁水ろ過機能 を維持するためには,まずは同じ地点の懸濁物質(浮 遊土砂)負荷が過大とならないよう濁水流入を分散さ せることが重要であるが,長期的には低下した林床の 浸透能を回復させることも重要と考えられる。今後 は,低下した浸透能の回復過程についてより詳しく研 究し,浸透能回復に影響する要因を明らかにする試み も必要といえる。 最後に本研究の実施でお世話になった方々に感謝を 申し上げる。森林総合研究所東北支所業務係の皆様に は苗畑使用に関してお世話になった。東北支所育林技 術研究グループの野口麻穂子氏には過去の資料から調 査林分の植栽年を調べていただいた。本研究は JSPS 科研費 JP 26450211 の助成を受けたものである。 引用文献 阿部俊夫(2020)森林総合研究所東北支所構内における非降 雪期の降雨量.森林総研東北支所年報 60:24-27 阿部友幸・佐藤弘和(2008)北海道東部における林相,斜面地形, 下層植生が森林土壌の浸透能に及ぼす影響.日林誌 90: 84-90 阿部俊夫・藤枝基久・壁谷直記・久保田多余子・野口宏典・清 水晃・坪山良夫・野口正二(2011)小川群落保護林にお ける水文観測報告(2000 年 8 月~2007 年 9 月).森総 研研報 10(4):291-317 阿部俊夫・岡本隆・篠宮佳樹(2017)落葉広葉樹林とスギ林 における林床リター堆積量と浸透能に与える人工物設置の 影響.東北森科誌 22:37-42 阿部俊夫・岡本隆・篠宮佳樹(2020)東北地方の落葉広葉樹 林とスギ林における野外濁水ろ過実験.東北森科誌 25: 1-9 五味高志(2016)森林土壌と水土保全機能.森林科学 77: 10-13 平岡真合乃・恩田裕一・加藤弘亮・水垣滋・五味高志・南光一 樹(2010)ヒノキ人工林における浸透能に対する下層植 生の影響.日林誌 92:145-150 市川裕子・落合博貴(2008)森林斜面の濁水ろ過機能に関す る水路実験.日林誌 90:262-266 松井琢郎・落合博貴(2005)勾配可変水路を用いたリター層 による濁水のろ過実験.日林関東支論 56:249-250 村井宏・岩崎勇作(1975)林地の水および土壌保全機能に関 する研究(第 1 報)-森林状態の差異が地表流下,浸透 および侵食に及ぼす影響-.林試研報 274:23-84 Okura Y, Kitahara H, Sammori T (1997) Forest soil and

litter as filtering media for suspended sediment. J For Res 2:9-14 大野泰宏・落合博貴(2010)森林のバイオマットがもつ濁水 ろ過機能の定量的評価に向けた予備的実験.日林試 92: 171-175 太田猛彦(1992)森林斜面における雨水移動の実態 .(森林水 文学.塚本良則編,文永堂出版)125-156 竹下敬司(1996)植生,土壌,水と地形変形プロセスの制御 .(水 文地形学-山地の水循環と地形変化の相互作用-.恩田裕 一ら編,古今書院)151-163 竹下敬司(2011)土壌表層浸透能の物理的構成と植生(Ⅱ). 水利科学 317:51-83

参照

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