数値電磁界解析を用いた磁界方式人体通信の
信号伝送特性と生体安全性評価
†伊藤 建一*
Signal Transmission Characteristics and Biosafety Evaluation of Magnetically Coupled
Intra-Body Communication using Numerical Electromagnetic Field Analysis
Kenichi Ito*
Abstract This study evaluated the signal transmission characteristics, the electromagnetic field distributions in and around the human body, and the biosafety criteria of magnetically coupled intra-body communication through computer simulation. The analyzed magnetic couplings were a normal inductive coupling (non-resonant coupling) and two types of resonant couplings. The target evaluation regions were the forearm and upper body, and we analyzed up to an inter-coil distance of 100 cm, which is considered to be the assumed human body communication range. The results of the frequency characteristics of the signal path loss, which were the same as before, revealed that the amount of signal loss for the inductive coupling was minimized between 2 and 3 MHz at each coil distance; one of the resonant couplings could improve the signal path loss by approximately 20 dB at a resonant frequency of 2 MHz. Furthermore, when the signal voltage was 1 V, the electric field strength in the body was smaller than the general environmental limit value by more than two orders of magnitude. The local specific absorption rate was smaller by approximately four orders of magnitude; thus, it was concluded that the magneticfield method is very safe for the living body.
Key words Intra-body communication, Magnetic coupling, Signal path loss, Electromagnetic field, Biosafety
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.まえがき
人体通信(Intra-body Communication)は,電気信号 の伝送媒体として人体を用いる新しい信号伝送方式で ある.これまでに,人体通信を利用したアプリケーシ ョンや通信メカニズムなどに関して,さまざまな検討 がなされているが1~3),対象とする方式は主に電界方 式と電流方式であった.これら両方式の通信品質は外 部環境に比較的強く依存することが知られている.近 年,外部環境の影響が少ない手法として磁界方式が提 案された4~8).この磁界方式の信号損失特性は採用し た結合方式に強く依存する.しかしながら,これまで の磁界方式人体通信に関する研究分野では積極的に損 失特性を改善する方法については検討されていない9). 著者は,通信距離を最大にし,信号損失を最小にする ために,無線電力伝送で提案・検討されているコイル を用いた各種磁界結合方式の特性を解析してきた9). 検討した結合方式は一般的な誘導結合(非共鳴結合) と 2 種類の共鳴結合である10).解析には回路要素を組 み込んだ前腕の 3D 有限要素モデルを用いた.信号伝 送損失の周波数特性を求めた結果,誘導結合方式の最 適な周波数帯は 2~3 MHz であることがわかった.ま た,共鳴結合方式の一つでは,設定した共鳴周波数 2 MHzにおいて,信号損失を約 20 dB 改善できること を明らかにした.この共鳴結合方式は,コイル間距離 を変更しても,すなわちコイル間の結合係数が変化し ても,特に回路等を調整しなくても損失の改善量 20 dBをほぼ一定で維持することができる.さらに著 者は,各方式の等価回路モデルを作成し,シミュレー ションによって非共鳴結合方式の周波数特性と共鳴結 合方式の共鳴周波数特性も解析している11).非共鳴結 合方式の周波数特性に関しては,信号損失量が最小と なる周波数は送受信コイルの自己インダクタンスによ って,全体的な信号損失量は結合係数によって決まる ことを明らかにした.共鳴結合方式に関しては,共鳴 周波数特性を決める主要因を明らかにした. *新潟工科大学工学科Niigata Institute of Technology
しかしながら,これまでの研究では,近距離(コイ ル間距離 20 cm)までしか解析していなかった9,11).本 研究では,前腕だけでなく上半身も対象とし12),人体 通信の想定通信範囲と考えられるコイル間距離 100 cm まで解析する.また,人体内及び周囲の電磁界分布も 確認する.さらに,生体への安全性についても検討す る.評価指標は,ICNIRP(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection:国際非電離放射線防 護委員会)ガイドライン13~15)に基づく体内電界強度と 局所 SAR(Specific Absorption Rate)を用いる.
第 2 章では磁界方式人体通信の各種結合方式につい て述べる.第 3 章ではシミュレーションに用いた有限 要素と送受信機回路等を融合したモデルついて説明す る.第 4 章ではシミュレーション条件と結果を示す. 第 5 章では各種磁界結合方式における信号伝送特性の 特徴と生体への安全性ついて論じる.最後に第 6 章に て本論文をまとめる.
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.磁界方式人体通信の各種結合方式
図 1 に磁界方式の模式図を示す.磁界方式では,送 受信機の電極としてコイルが用いられる4).送信機は 交流電流信号を送信コイルに出力し磁界信号を発生さ せる.この磁界信号を受信コイルで電流信号として検 出する. 本研究では,無線電力伝送で提案・検討されている 各種磁界結合方式を検討する9,10).検討する方式は, 非共鳴結合方式,低 Q 共鳴結合方式,高 Q 共鳴結合 方式の 3 つである9).非共鳴結合方式は,送信側と受 信側にコイルをそれぞれ一つずつ配置し,コイル間の 純粋な磁気的な結合によって信号を伝送する方式であ る.低 Q 共鳴結合方式は送受信コイルにキャパシタ を追加する方式であり,高 Q 共鳴結合方式は送受信 コイルの他に共鳴用コイルとキャパシタをそれぞれ追 加する方式である.両方式とも,共鳴現象によって信 号損失の低減を試みることが特徴である.3
.3 次元有限要素モデル
本研究では,有限要素と送受信機回路等を融合した モデルを用いて,磁界方式の信号伝送特性について検 討した.解析には商用ソフトウェア COMSOL5.4 を使 用した16).図 2 と図 3 に解析に用いたモデルを示す. 図 2 は前腕,図 3 は上半身のモデルである.図 2(a) と図 3(a)は非共鳴誘導結合と低 Q 共鳴結合の解析 で使用したモデルであり,図 2(b)と図 3(b)は高 Q共鳴結合の解析で使用したモデルである.解析モデ Transmitter Receiver Earth Ground 図 1 磁界方式 +XPDQDUP &RLO &RLO D +XPDQDUP &RLO &RLO &RLO &RLO E 図 2 前腕の有限要素モデル.(a)非共鳴誘導結合と低 Q 共鳴 結合に使用したモデル,(b)高 Q 共鳴結合に使用したモ デルHuman upper body Coil4
Coil1
(a)
Human upper body Coil4 Coil3 Coil2 Coil1 (b) 図 3 上半身の有限要素モデル.(a)非共鳴誘導結合と低 Q 共 鳴結合に使用したモデル,(b)高 Q 共鳴結合に使用した モデル
ルは,空気,前腕あるいは上半身,コイルを含む送受 信回路からなる.前腕あるいは上半身の形状は,文献 7)と8)と同様に,人体の平均的なサイズを考慮し決 定した.空気は半径 1,000 mm,高さ 1,600 mm あるい は 2,600 mm の円筒でモデル化し,前腕や上半身はそ の中心に配置した.人体組織は,文献 7)と 8)と 同様に筋組織一層のみとし,導電率と比誘電率は ウェブサイト計算ツール「Calculation of the Dielectric Properties of Body Tissues」17)を用いて決定した.比透 磁率は 1 とした.誘導結合用コイル 1 と 4 は幅 2 mm, 高さ 2 mm,半径 50 mm の銅線とし,巻き数は 1 とし た.共鳴用コイル 2 と 3 は幅 1.6 mm,高さ 1.6 mm, 半径 50 mm の銅線とし,巻き数は 2.5 とした.送受信 回路などの外部要素は文献 9)と同様に電気回路素子 でモデル化し組み込んだ.なお,電気回路素子の組み 込みは,電磁界を計算する Magnetic Fields フィジック スと電気回路素子を計算する Electrical Circuit フィジ ックスを COMSOL 上で連携して実装した. 送信回路が交流電流 ITX を送信コイルに出力する と,発生する電流密度 Jeによって下記の支配方程式 に基づき準静磁界が発生する. r ð®1r AÞ ¼ ð½2¾ j½·ÞA þ J e (1) ここで,¾,·,®,½,A は,それぞれ誘電率,導電 率,透磁率,角周波数,ベクトルポテンシャルを表 す.この準静磁界によって受信電流 IRXが発生し受信 回路で処理される.空気円筒境界では,磁界強度の接 線成分が零となるように設定した. n A ¼ 0 (2) ここで,n は面法線ベクトルを表す.各形状は四面体 および三角形要素を用いてメッシュ化した.
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.計算機シミュレーション
4.1 シミュレーション条件 各結合方式においてコイル間距離を変えてシミュレ ーションを行った.非共鳴誘導結合と低 Q 共鳴結合 では,誘導結合用コイルのコイル 1 とコイル 4 の距離 を,前腕モデルでは 10 cm,30 cm,50 cm,上半身モ デルでは 60 cm,80 cm,100 cm に設定した(図 3(a) と図 4(a)).高 Q 共鳴結合では,共鳴用コイルのコ イル 2 とコイル 3 の距離を同様に設定し,コイル 1 と コイル 4 はそれぞれコイル 2 とコイル 3 に近接して配 置した(図 2(b)と図 3(b)).搬送周波数の範囲は 300 kHzから準静磁界の条件5)を満たす 10 MHz とし, 並列 LC 共鳴回路の共鳴周波数は 2 MHz とした.コイ ル 1 とコイル 4 の自己インダクタ L1と L4の推定値は 3.88 µHであったので,低 Q 共鳴結合の共鳴用コンデ ンサのキャパシタ C1と C4は 1.63 nF に設定した.コ イル 2 とコイル 3 の自己インダクタ L2と L3の推定値 は 25.4 µH であったので,高 Q 共鳴結合の共鳴用コン デンサのキャパシタ C2 と C3は 0.25 nF に設定した. 送信機の内部抵抗 Rsと受信機の入力抵抗 RLは,そ れぞれ 50 Ω と 100 Ω とした.送信機の送信電圧 Vsを 1 Vに設定し,信号損失の損失量 Hcとその位相変化 量 ªradを式(3)と(4)で評価した. Hc¼ 20 log 10 VVR s (3) ªrad ¼ tan1 imagðVRÞ realðVRÞ (4) ここで,VRは受信機の入力抵抗に加わる電圧を表す. 次に,人体内及び周囲の電磁界分布を把握するため に,上半身モデルにおいて,周波数 2 MHz,コイル間 距離 100 cm の時の磁界と電界分布を求めた.電磁界 分布は,分布変化を見やすくするため,20 log jXj で -100 -80 -60 -40 -20 0 0.1 1 10 Attenuati on [dB] Frequency [MHz] 10cm 30cm 50cm (a) ಙྕᦆኻ㔞 (b) ಙྕᦆኻ┦ኚ㔞 -200 -160 -120-80 -400 40 80 120 160 200 0.1 1 10 Phase shift [deg] Frequency [MHz] 10cm 30cm 50cm 図 4 前腕モデルの非共鳴誘導結合の周波数特性.コイル間距離 10 cm,30 cm,50 cm.計算した dB 表示とした.ここで,X は電界もしくは 磁界を表す. 最後に,生体の安全性を評価するために,ICNIRP ガイドライン13~15)に基づく体内電界強度及び局所 SARを算出し,一般環境における制限値と比較した. 対象とする周波数範囲 100 kHz ~ 10 MHz の一般環境 における制限は,体内電界強度 E < 1.35 × 10−4f V/m, 10 g当りの局所 SAR < 2 W/kg である.なお,本研究 の人体モデルは筋組織のみでモデル化しているため, 局所 SAR は大きめに評価されることになる.さらに, SARの高い部分を確認するために,各結合方式の周 波数 2 MHz における SAR の分布を求めた.なお,媒 質密度 は 1000 kg/m3に設定した. 4.2 信号損失 図 4 と図 5 に非共鳴誘導結合のコイル間距離を変化 させた場合の信号損失量とその位相変化量を示す.図 4(a)と図 5(a)に示すように,コイル間距離の増 加に伴い信号損失量は増加したものの,周波数特性は 似た形状を示し,各距離において信号損失量は 2 ~ 3 MHzで最小となった.各距離の 2 MHz における信 号損失量は,前腕モデルでそれぞれ −33.9 dB, −58.4 dB, −71.9 dB, 上 半 身 モ デ ル で そ れ ぞ れ −76.9 dB, −85.8 dB, −93.5 dB となった.図 4(b)と図 5(b)に 示すように,信号損失位相は周波数の増加に伴い減少 した. 図 6 と図 7 に低 Q 共鳴結合のコイル間距離を変化 させた場合の信号損失量とその位相変化量を示す.図 6(a)と図 7(a)に示すように,共鳴周波数 2 MHz に お い て 信 号 損 失 量 は, 前 腕 モ デ ル で そ れ ぞ れ −23.5 dB, −47.9 dB, −61.4 dB,上半身モデルでそれぞ れ −66.4 dB, −75.3 dB, −83.0 dB となり,コイル間距離 にかかわらず損失が 10 dB 以上改善されるという結果 が得られた.図 6(b)と図 7(b)に示すように,信 号損失位相は共鳴周波数付近で大きく変化した. 図 8 と図 9 に高 Q 共鳴結合のコイル間距離を変化 させた場合の信号損失量とその位相変化量を示す.図 8(a)と図 9(a)に示すように,共鳴周波数 2 MHz において信号損失量は,前腕モデルでそれぞれ −11.6 dB, −35.7 dB, −49.2 dB, 上 半 身 モ デ ル で そ れ ぞ れ −54.3 dB, −63.2 dB, −70.9 dB となり,コイル間距離に -120 -100 -80 -60 -40 -20 0.1 1 10 Attenuati on [dB] Frequency [MHz] 60cm 80cm 100cm (a) ಙྕᦆኻ㔞 (b) ಙྕᦆኻ┦ኚ㔞 -200 -160 -120-80 -400 40 80 120 160 200 0.1 1 10 Phase shift [deg] Frequency [MHz] 60cm 80cm 100cm 図 5 上半身モデルの非共鳴誘導結合の周波数特性.コイル間距離 60 cm,80 cm,100 cm. -100 -80 -60 -40 -20 0 0.1 1 10 Attenuati on [dB] Frequency [MHz] 10cm 30cm 50cm (a) ಙྕᦆኻ㔞 (b) ಙྕᦆኻ┦ኚ㔞 -200 -160 -120-80 -400 40 80 120 160 200 0.1 1 10 Phase shift [deg] Frequency [MHz] 10cm 30cm 50cm 図 6 前腕モデルの低 Q 共鳴結合の周波数特性.コイル間距離 10 cm,30 cm,50 cm.
かかわらず損失が 20 dB 以上改善されるという結果が 得られた.なお,周波数 5 MHz で信号損失が最大と なっているが,これは送受信コイルとキャパシタの共 鳴の影響であると考えられる.図 8(b)と図 9(b) に示すように,高 Q 共鳴結合でも低 Q 共鳴結合と同 様に共鳴周波数付近で信号損失位相は大きく変化して いるような傾向であった. 4.3 電界及び磁界分布 図 10 及び図 11 に上半身モデルの各結合方式の磁界 分布と電界分布を示す.周波数は 2 MHz で,コイル 間距離は 100 cm である.図 10 に示すように,送信コ イルから発生した磁界は,人体の影響をほとんど受け ることなく受信コイルと交わっていることがわかる. 一方,図 11 に示すように,送信コイルから発生した -120 -100 -80 -60 -40 -20 0.1 1 10 Attenuati on [dB] Frequency [MHz] 60cm 80cm 100cm (a) ಙྕᦆኻ㔞 (b) ಙྕᦆኻ┦ኚ㔞 -200 -160 -120-80 -400 40 80 120 160 200 0.1 1 10 Phase shift [deg] Frequency [MHz] 60cm 80cm 100cm 図 7 上半身モデルの低 Q 共鳴結合の周波数特性.コイル間距離 60 cm,80 cm,100 cm. -100 -80 -60 -40 -20 0 0.1 1 10 Attenuati on [dB] Frequency [MHz] 10cm 30cm 50cm (a) ಙྕᦆኻ㔞 (b) ಙྕᦆኻ┦ኚ㔞 -200 -160 -120-80 -400 40 80 120 160 200 0.1 1 10 Phase shift [deg] Frequency [MHz] 10cm 30cm 50cm 図 8 前腕モデルの高 Q 共鳴結合の周波数特性.コイル間距離 10 cm,30 cm,50 cm. -120 -100 -80 -60 -40 -20 0.1 1 10 Attenuati on [dB] Frequency [MHz] 60cm 80cm 100cm (a) ಙྕᦆኻ㔞 (b) ಙྕᦆኻ┦ኚ㔞 -200 -160 -120-80 -400 40 80 120 160 200 0.1 1 10 Phase shift [deg] Frequency [MHz] 60cm 80cm 100cm 図 9 上半身モデルの高 Q 共鳴結合の周波数特性.コイル間距離 60 cm,80 cm,100 cm.
電界は,人体の影響を受け,人体内部に入り込む電界 は大きく減少している.これにより,受信コイルがあ る伝送方向の電界の減衰も大きくなっていることが確 認できる. また,図 10 の(a)~(c)を比較すると,最大磁界 強度及び受信コイルから発生した磁界が,非共鳴誘導 (c) 㧗 Q ඹ㬆⤖ྜ (a) 㠀ඹ㬆ㄏᑟ⤖ྜ (b) ప Q ඹ㬆⤖ྜ 図 10 上半身モデルの磁界分布.周波数 2 MHz.コイル間距離 100 cm. (a) 㠀ඹ㬆ㄏᑟ⤖ྜ (b) ప Q ඹ㬆⤖ྜ (c) 㧗 Q ඹ㬆⤖ྜ 図 11 上半身モデルの電界分布.周波数 2 MHz.コイル間距離 100 cm.
結合,低 Q 共鳴結合,高 Q 共鳴結合の順で大きくな っていることが確認できる.なお,最大磁界強度は, それぞれ 15.7 dB, 19.0 dB, 22.5 dB であった.同様に, 図 11 の(a)~(c)を比較すると,最大電界強度及び 受信コイルから発生した電界も,非共鳴誘導結合,低 Q共鳴結合,高 Q 共鳴結合の順で大きくなった.最 大電界強度は,それぞれ 26.6 dB, 29.8 dB, 55.8 dB であ り,特に高 Q 共鳴結合において非常に大きくなって いることがわかる. 4.4 体内電界強度と局所 SAR 図 12 に各結合方式の体内電界強度の最大値と ICNIRPガイドラインの一般環境制限値を示す.図 12 (a)は前腕モデルのコイル間距離 50 cm と上半身モデ ルのコイル間距離 100 cm の時の結果であり,図 12 (b)は ICNIRP ガイドラインの一般環境制限値である E = 1.35 × 10−4f V/m も同時に表示したものである. 図 12(a)に示すように,非共鳴誘導結合では周波数 が増加するにつれて,体内電界強度は大きくなった. 低 Q 共 鳴 結 合 と 高 Q 共 鳴 結 合 で は, 共 鳴 周 波 数 2 MHzにおいて体内電界強度は最大となったが,高 Q 共鳴結合の方がその値は大きかった.図 11 に示すよ うに,電界分布は送信コイル付近が最も大きくなるた め,コイル間距離 50 cm と 100 cm の体内電界強度は ほとんど同じであった.図 12(b)に示すように,体 内電界強度は最も大きい高 Q 共鳴結合の時でも 1 V/m 程度であり,一般環境制限値より二桁以上小さい値と なった. 図 13 に各結合方式の局所 SAR の最大値と ICNIRP ガイドラインの一般環境制限値を示す.図 13(a)は 前腕モデルのコイル間距離 50 cm と上半身モデルのコ イル間距離 100 cm の時の結果であり,図 14(b)は ICNIRPガイドラインの一般環境制限値である局所 SAR = 2 W/kg も同時に表示したものである.図 13 (a)に示すように,非共鳴誘導結合では周波数が増加 するにつれて,局所 SAR は大きくなった.低 Q 共鳴 結合と高 Q 共鳴結合では,共鳴周波数 2 MHz におい て局所 SAR は最大となったが,高 Q 共鳴結合の方が その値は大きかった.なお,体内電界強度と異なり, 0.01 0.1 1 0.1 1 10 Electric Field [V /m] Frequency [MHz] Inductive 50cm LowQ 50cm HighQ 50cm Inductive 100cm LowQ 100cm HighQ 100cm (a) ྛ⤖ྜ᪉ᘧࡢయෆ㟁⏺ᙉᗘࡢ್᭱ (b) ICNIRP ࢞ࢻࣛࣥࡢ୍⯡⎔ቃไ㝈್ 0.01 0.1 1 10 100 1000 0.1 1 10 Electric Field [V /m] Frequency [MHz] Restrictions 図 12 各結合方式の体内電界強度の最大値と ICNIRP ガイドラインの一般環境制限値 1.E-07 1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 0.1 1 10 SAR [W/kg] Frequency [MHz] Inductive 50cm LowQ 50cm HighQ 50cm Inductive 100cm LowQ 100cm HighQ 100cm (a) ྛ⤖ྜ᪉ᘧࡢᒁᡤ ࡢ್᭱ (b) ICNIRP ࢞ࢻࣛࣥࡢ୍⯡⎔ቃไ㝈್ 1.E-07 1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 0.1 1 10 SAR [W/kg] Frequency [MHz] Restrictions 図 13 各結合方式の局所 SAR の最大値と ICNIRP ガイドラインの一般環境制限値
コイル間距離によって違いが見られ,コイル間距離が 長い方が局所 SAR が小さくなった.図 13(b)に示 すように,局所 SAR は最も大きい高 Q 共鳴結合の時 でも 0.001 W/kg 程度であり,一般環境制限値より四 桁ほど小さい値となった. 図 14 に上半身モデルにおける送信側コイル付近の 各結合方式の SAR 分布を示す.周波数は 2 MHz で, コイル間距離は 100 cm である.図 14(a)と図 14 (b)に示すように,非共鳴結合と低 Q 共鳴結合では, 誘導結合用コイル近傍が最も SAR が高くなっていた. しかしながら,図 14(c)に示すように,高 Q 共鳴結 合では,誘導結合用コイルではなく,共鳴用コイル近 傍が最も SAR が高くなっていた.
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.考察
図 4(a)と図 5(a)に示すように,非共鳴誘導結 合では,各コイル間距離において信号損失量は 2 ~ 3 MHzで最小となった.また,距離の増加に伴い信号 損失量は増加したが,その増加量はコイル間距離が遠 いほど徐々に小さくなった.非共鳴誘導結合の周波数 特性に関しては,信号損失量が最小となる周波数は誘 導結合用コイルの自己インダクタンスによって,全体 的な信号損失量は結合係数によって決まることが報告 されている11).今回のシミュレーションでは,誘導結 合用コイルの距離のみを変化させているので,周波数 特性の形状は変化しないで全体的な損失量が増加する ことになる.また,一般的な手巻きコイルでは,コイ ル間の結合係数は距離に反比例して小さくなるた め18),距離が遠いほど損失量の増加は徐々に小さくな る.文献 11)の解析は人体を考慮していない等価回 路モデルを用いたコイル間距離 20 cm までの近距離の 解析であったが,今回の結果から,人体が存在し,さ らにより長い距離(コイル間距離 100 cm)であって も上記で述べた特徴の周波数特性となることが明らか になった. 本研究では,これまでと同様に9),特性を改善する ために低 Q 共鳴結合と高 Q 共鳴結合の二方式を検討 した.図 6(a)~図 9(a)に示すように,それぞれ共 鳴周波数 2 MHz で信号損失は最小となり,非共鳴誘 導結合と比較してそれぞれ 10 dB 及び 20 dB 以上特性 が改善された.これまではコイル間距離 20 cm までの 解析であったが9),今回の結果から,より長い距離 (コイル間距離 100 cm)であっても同様な改善特性が 得られることが明らかになった.特に高 Q 共鳴結合 は 20 dB 以上特性を改善できるため,通信距離を伸ば す方式として有望であると考えられた. 今回は,送受信コイルを直線状に配置したシミュレ ーションであるが,人体通信の通信範囲を概ねカバー したと考えられるコイル間距離 100 cm までの損失及 び改善特性を評価できた.その結果,高 Q 共鳴結合 を用いれば,信号損失を −70 dB 程度までに抑えられ ることを明らかにした.また,図 10 と図 11 に示すよ (a) 㠀ඹ㬆⤖ྜ (b) ప Q ඹ㬆⤖ྜ (c) 㧗 Q ඹ㬆⤖ྜ 図 14 上半身モデルの送信側コイル部分の SAR 分布.周波数は 2 MHz.コイル間距離 100 cm.うに,伝送媒体である磁界は,電界と異なり人体の影 響をほとんど受けないことを確認できた.これは,信 号損失が基本的に送受信コイルのパラメータ(自己イ ンダクタンスや寄生抵抗)と相互関係(結合係数)の みによって決まることを意味している.以上の知見 は,人体通信機器の信号電圧や送信周波数の設定にお いて,重要な指針になるものと考えられる.さらに, 磁界は人体の影響を受けないため,きれいに放射状に 広がることから,送受信コイル間のある程度の位置ず れや角度ずれに頑健な可能性がある.送受信コイルの 位置ずれや角度ずれに関しては,今後検討する予定で ある. 図 12 及び図 13 に示すように,最も影響が大きい高 Q結合方式においても,体内電界強度は一般環境制限 値より二桁以上小さく,局所 SAR は四桁ほど小さ い値となった.文献 7)では,分布容量を利用した 50 MHz 前後の磁気共鳴を利用した方法を検討して いる.この方式ではアンテナ出力電力 1 mW で局所 SARが制限値の 1/300 以下と報告されている.電流 方式では,同じ信号電圧 1 V でも周波数等の条件によ ってどちらも制限値を超えることが示されており15), 他方式と比較して,磁界方式は生体への安全性が非常 に高いことがわかった.これは,人体通信機器設計の 自由度を向上させる結果であると考えられる.
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.あとがき
本研究では,磁界方式人体通信の信号伝送特性と生 体安全性について,前腕と上半身の 3D 有限要素モデ ルを用いたシミュレーションによって検討した.磁界 結合方式は非共鳴誘導結合,低 Q 共鳴結合,高 Q 共 鳴結合の 3 種類である.非共鳴誘導結合では,これま でと同様に,各コイル間距離において信号損失量は 2 ~ 3 MHz で最小となった.なお,距離の増加に伴い 信号損失量は増加したものの,その増加量は距離が離 れるに従って減少した.低 Q 共鳴結合と高 Q 共鳴結 合では,それぞれ共鳴周波数で信号損失は最小とな り,非共鳴誘導結合と比較して,各コイル間距離にお いて,それぞれ 10 dB 及び 20 dB 以上特性が改善され た.送信コイルから発生した磁界は,人体の影響をほ とんど受けることなく,放射状に広がり受信コイルと 交わることがわかった.これにより,信号損失は基本 的に送受信コイルのパラメータと相互関係のみによっ て決まるとともに送受信コイル間の位置ずれや角度の ずれに頑健である可能性が示唆された.信号電圧 1 V の場合,体内電界強度は一般環境制限値より二桁以上 小さく,局所 SAR は四桁ほど小さくなり,磁界方式 は生体への安全性が非常に高いことがわかった. 今後の課題は,送受信コイルの位置ずれや角度ずれ がある場合について検討することと実際に信号損失を 計測して確認することである.また,電界方式や電流 方式の信号損失特性や外部環境の影響度を比較し,本 方式の優位性を確認することである. 謝辞 本研究の一部は JSPS 科研費 18K12152 の助成を受 けたものです.記して感謝いたします. 参 考 文 献1) T. G. Zimmerman: Personal area networks: Near-field intra-body communication,IBM Syst. J., 35-3-4, 609/617 (1996)
2) 根日屋英之:人体通信の最新動向と応用展開,シーエム
シー出版 (2011)
3) M. Seyedi, B. Kibret, D. T. H. Lai and M. Faulkner: A survey on intrabody communications for body area network applica-tions,IEEE Trans. Biomed. Eng., 60-8, 2067/2079 (2013) 4) J. Park and P. Mercier: Magnetic human body communication,
37th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society, 1841/1843 (2015)
5) T. Ogasawara, A. Sasaki, K. Fujii and H. Morimura: Human body communication based on magnetic coupling,IEEE Trans. Antennas Propag., 62-2, 804/813 (2014)
6) S. Rocke and J. Persad: Analysis of magnetically-coupled human body communications, 2015 COMSOL conference in Boston (2015) 7) 越地福朗, 湯山菜奈子, 越地耕二:磁界共振結合を利用し たボディエリア通信の提案と検討,日本 AEM 学会誌, 21-2, 160/165 (2013) 8) 越地福朗, 越地耕二, 村松大陸, 佐々木健:ウェアラブルコ イルの磁界結合を利用した人体周辺通信における腕部折 り曲げ時の伝送特性および周辺電磁界分布の検討,日本 AEM学会誌,23-2, 46/53 (2015) 9) 伊藤建一:磁界方式人体通信信号損失シミュレーショ ン ―各種磁界結合方式の検討―,日本シミュレーショ ン学会論文誌,9-4, 85/93 (2017)
10) B. L. Cannon, J. F. Hoburg, D. D. Stancil and S. C. Goldstein: Magnetic resonant coupling as a potential means for wireless power transfer to multiple small receivers,IEEE Trans. Power Electron., 24-7, 1819/1825 (2009)
11) 伊藤建一:磁界方式人体通信における共鳴結合方式の最
適設計に関する検討,日本シミュレーション学会論文誌,
11-3, 23/31 (2019)
12) K. Ito: Signal transmission characteristic and biosafety evalua-tion on magnetically coupled intra-body communicaevalua-tion, 38th JSST Annual International Conference on Simulation Technol-ogy, 178/181 (2019)
13) ICNIRP: Guidelines for limiting exposure to time-varying electric, magnetic, and electromagnetic fields (up to 300 GHz), Health Phys., 74, 494/522 (1998)
14) ICNIRP: Guidelines for limiting exposure to time-varying electric and magnetic fields (1 Hz–100 kHz), Health Phys., 99,
818/836 (2010)
15) Y. M. Gao, H. f. Zhang et al.: Electrical exposure analysis of galvanic-coupled intra-body communication based on the empirical arm models,BioMed Eng OnLine, 17-71 (2018)
16) Comsol Multyphysics at http://www.comsol.com/
17) An Internet resource for the calculation of the Dielectric Properties of Body Tissues at http://niremf.ifac.cnr.it/tissprop/
18) 野口慎平, 稲森真美子, 眞田幸俊:共振型無線電力伝送に おける変調方式に関する一検討,信学技報,110-441, 49/ 53 (2011) 著 者 紹 介 伊藤 建一(正会員) 1997年新潟大学大学院自然科学研究科博士課程生産科学専攻 修了.博士(工学).1996 年新潟工科大学情報電子工学科助手. 2002年同大学情報電子工学科助教授などを経て,2018 年同大学 工学科教授,現在に至る.生体情報計測やスポーツ計測,人体通 信などの研究に従事.日本シミュレーション学会,電子情報通信 学会,日本生体医工学会,バイオメカニズム学会などの会員.