• 検索結果がありません。

小学校教諭の口唇裂・口蓋裂に関する認識

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小学校教諭の口唇裂・口蓋裂に関する認識"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)日口蓋誌 J. Jpn. Cleft Palate Assoc. 46:18~24,2021. 小学校教諭の口唇裂・口蓋裂に関する認識 北. 尾 美. 香. 植. 木 慎. 悟. 藤. 田 優. 一. 要旨 本研究の目的は,小学校教諭の口唇裂・口蓋裂(以下,CLP とする)の認識と教諭が CLP のある子どもを指導する上で困 難に感じていたことを明らかにすることである。 2017 年 9 月~ 2018 年 1 月に,公立小学校教諭 6,000 名を対象に,自記式質問紙調査を行った。CLP の認識は記述統計を算出 した。教諭が CLP のある子どもを指導する上で困難に感じていたことについては,Berelson の内容分析を参考に質的分析を行っ た。本研究は所属大学の倫理委員会の承認を得て行った。 412 名から回答が得られ,不備の多いものを除く 405 名を有効回答とした。教諭の年齢は平均 47.2(SD=8.9) 歳で,経験年数 は平均 23.3(SD=9.7)年であった。 教諭は CLP という病気については,遺伝的要因や環境的要因などが複雑に絡み合って発生する病気という正しいイメージをも ち,予後も良いと捉えている一方で,CLP のある子どもは外見に悩むと捉えていた。 CLP のある子どもの学校生活における心配事については,教諭は CLP のある子どもが外見や友人関係についての心配事と言葉 に関する心配事を抱えていると捉えていた。 実際に CLP のある子どもを受け持った教諭は【不明瞭な発音から生じる問題】 【からかい・いじめへの対応】 【自己肯定感の育成】 【他の子どもへの疾患説明】 【CLP のある子どもの保護者への対応】 【水泳時の配慮】 【CLP のある子どもの精神的フォロー】 【CLP の ある子どもの疾患に関する理解度の確認】 【教職員間の共通理解】 【CLP に対する戸惑い】を指導上の困難であると捉えていたこと が明らかとなった。 以上の結果から,親と教諭が教科指導上の注意事項だけでなく,CLP のある子どもの疾患の理解状況や他児への対応について も共通理解を図ることが重要であると考える。 キーワード:口唇裂・口蓋裂,小学校,教諭,イメージ,指導上の困難. Awareness about Cleft Lip and Palate in Elementary School Teachers Mika KITAO, Shingo UEKI, and Yuichi FUJITA Abstract : This study aimed to identify awareness about cleft lip and/or palate(CLP)in elementary school teachers, and to examine the difficulties they experience when working with such students.. We conducted a cross-sectional. study from September 2017 to January 2018 using self-administered anonymous questionnaires. The questionnaires and accompanying letters requesting participation were mailed to 6,000 elementary school teachers across 1,000 public elementary schools.. Descriptive statistics were computed, and qualitative data were examined using the content. analysis method suggested by Berelson.. This study was approved by the ethics committee of our university.. Responses were obtained from 412 teachers, of which 405 were used in the analysis after excluding incomplete or invalid responses.. The average age of the teachers was 47.2(SD=8.9)years and the average number of years of. experience was 23.3(SD=9.7)years. Participants correctly recognized that CLP was caused by complex interactions between co-occurring hereditary and environmental factors. Further, while they were aware that the prognosis of CLP was good, they regarded it as a disorder that caused problems related to appearance. With reference to concerns of students with CLP regarding school life, the teachers perceived that such students were concerned about their appearance, friendships, and pronunciation aspects.. The difficulties experienced while teaching students with CLP. were: Problems arising from unclear pronunciation; difficulties in responding to teasing/bullying ; problems in the 武庫川女子大学看護学部(主任:町浦美智子) Department of Nursing, Mukogawa Womenʼs University(Chief : Michiko MACHIURA) 別刷請求先:北尾美香 〒663︲8558 兵庫県西宮市池開町 6 番 46 号 武庫川女子大学看護学部 〔 2020 年 11 月 2 日受付 〕.

(2) 日口蓋誌 46巻 2021. 19. development of self-esteem ; difficulties in explaining the disorder to other children; difficulties in responding to parents of students with CLP ; need for consideration when swimming; need for mental-health follow-ups for students with CLP ; difficulties in confirming the extent to which students with CLP understand their disorder ; need for common understanding among faculty and staff; and being confused about CLP. These findings suggest the importance of shared understanding among parents and teachers regarding not only CLP-related educational needs, but also the status of childrenʼs understanding of their disorder and measures to control teasing/bullying regarding CLP by other children. Key words : cleft lip and palate, elementary school, teacher, image, difficulty in teaching. 緒  言 学童期の口唇裂・口蓋裂(以下,CLP とする)のある. 2.調査期間 2017 年 9 月から 2018 年 1 月 3.調査対象. 子どもが学校生活を送る中で,教諭が CLP に対して正し. 教育ソリューション株式会社 2016 年版「全国学校デー. い認識をもって教育活動を行うことは重要である。しか. タ小学校」に掲載されている全国の公立小学校 20,036 校. し,教諭の理解が得られずに辛い思いをした CLP のある. の中から,在籍児童数 250 名以上の小学校 10,850 校を選. 子どもがいることが報告されている1) ことから,教諭が. 択し,無作為に抽出した 1,000 校を調査対象校とした。. CLP について理解を深める機会が少ない現状があると推. CLP のある子どもは出生 500 ~ 600 名に 1 名の割合で発. 察される。. 現するため,児童数の少ない学校では当該児童が在籍して. 夏目らは,一般の人々の CLP に関する認識を明らかに. いない可能性が高い。そのため,文部科学省実施の平成. することを目的に小学生の保護者 1,712 名を対象に質問紙. 28 年度学校基本調査3) において「児童数別学校数」の中. 調査を行い,就学年数の多い人ほど CLP をよく知り,予. 央値が 250 ~ 290 名であることから,在籍児童数が 250. 後を明るく見ている一方で,CLP 患者に対しては否定的. 名以上の学校を調査対象校とした。. な見解や社会的不適応感を抱く傾向がみられたと報告して. 調査対象者は,調査対象校に勤務する学年主任の教諭. いる2)。また,就学年数が少ない人では,予後に対して悲. 6,000 名とした。. 観的見解を有する傾向があるにもかかわらず,患者に対す. 4.調査方法. る否定的見解は少なく,社会的適応も悪くないと考えてい. 無作為に抽出した 1,000 校の学校長に対して,学校長・. たことも報告されている2)。しかし,小学校教諭に特化し. 教諭宛の研究説明書,教諭用調査票,返信用封筒を送付し. て,教諭の CLP に関する認識を明らかにすることを目的. た。学校長へは研究説明書を読み,研究に協力することに. とした調査はこれまで行われておらず,現時点では教諭の. 同意した場合には,教諭に調査票と返信用封筒を配付する. CLP に関する認識や指導上の困難感は不明である。. よう依頼した。教諭は研究説明書を読み,研究に協力する. 教諭の CLP に関する認識を明らかにすることは,今後. ことに同意した場合は,調査票に回答し,無記名で返信用. 教諭を対象とした情報提供を行う上で有益であると考え. 封筒にて大学へ郵送してもらった。. る。また,実際に CLP のある子どもの指導に当たったこ. 5.調査項目. とのある教諭の指導上の困難を明らかにすることで,今後. 1)対象者の属性. CLP のある子どもの指導に当たる教諭への助言方法を検. 対象者の属性は,性別,年齢,経験年数,CLP に関す. 討する上での一助となると考える。. る知識の有無,身近な CLP のある人の存在の有無,CLP. 研究目的. のある子どもの担任経験の有無とした。 2)CLP の病気・治療・学校生活における CLP のある. 本研究の目的は,以下 2 点である。. 子どもの心配事のイメージ. 1.小学校教諭の CLP に関する疾患・治療・学校生活. CLP のある子どもに対する認識に関する先行研究2,4,5),. における CLP のある子どもの心配事の認識の実態を明ら. CLP のある子どもの母親が小学校入学時に抱えていた不. かにする。. 安に関する先行研究6),および CLP に関する書籍7) を参. 2.小学校教諭が CLP のある子どもを指導する上で困. 考に,CLP の病気についてのイメージ 22 項目,CLP の. 難に感じていたことを明らかにする。. 治療のイメージ 4 項目,CLP のある子どもの学校生活に. 研究方法. おける心配事のイメージ 6 項目を独自に作成した。回答 は「1.全くあてはまらない」から「5.非常にあてはま. 1.研究デザイン. る」までの 5 件法とした。作成した質問項目の内容妥当. 横断的研究デザイン. 性は各質問項目が各イメージを表しているかについて,表.

(3) 20. 日口蓋誌 46巻 2021. 面妥当性は質問内容の明瞭さと回答しやすさについて,小 児看護学研究者 6 名,CLP の看護に精通した看護師 1 名. てはまる」と「あてはまる」の合計が 50.0%を超えてい た項目は,「手術をすれば見た目はきれいに治る」64.8%, 「治療をすれば言葉の発音はきれいに治る」55.6%の 2 項. で吟味した。 3)CLP のある子どもの指導上の困難. 目であった。. CLP のある子どもの担任をする中で困ったことや悩ん. 4.CLP のある子どもの学校生活における心配事のイ. だことについて自由記載で回答を求めた。. メージ. 6.分析方法. 教諭がイメージする CLP のある子どもの学校生活にお. CLP の病気についてのイメージ,CLP の治療のイメー. ける心配事の分布を図 3 に示す。「非常にあてはまる」と. ジ,学校生活における CLP のある子どもの心配事のイ. 「あてはまる」との合計が 50.0%を超えていた項目は,「見. メージについては,記述統計を算出した。. た目のことでからかわれるのではないか」82.9%,「言葉. CLP のある子どもの指導上の困難については,Berelson. がうまく話せないことを指摘されるのではないか」76.6%,. の内容分析を参考に分析を行った 。具体的な分析手順を 8). 「病気があることで仲間外れにされないか」63.7%,「ピア. 以下に示す。まず,記録単位を主語と述語からなる 1 文. ニカやリコーダーの音が上手に出せないのではないか」. 章(箇条書きを含む)に設定した。記録単位に記述された. 52.6%の 4 項目であった。. 言語とその意味に忠実に分類し,コード化,カテゴリー化. 5.CLP のある子どもの指導上の困難. を行った。その後,コード,カテゴリーに分類された記録. 教諭が CLP のある子どもを指導する上で困難に感じて. 単位数を算出した。コードを< >,カテゴリーを【 】. いた事柄に関して内容分析を行ったところ,54 記録単位が. で示した。. 。 抽出され,17 コード,11 カテゴリーに分類された(表 2). 7.倫理的配慮. 考  察. 本研究は研究者の所属機関の研究倫理委員会 (承認番 号:No.17︲30)の承認を得て実施した。調査票には研究. 回収率が 6.9%と低くなった要因の一つとして,今回の調. 目的,プライバシーの保護,結果の公表を明記した。研究. 査では教諭の自由意思による回答を尊重するために事前に. への参加が対象の自由意思で行われるように,学校長には. 教育委員会などへの依頼を行わなかったことが考えられる。. 対象者に調査票の配付のみを依頼した。調査票は無記名と. CLP のある子どもを特定するような個人情報に関する調査. し,研究の参加意思は対象者が調査票を返送することで了. 項目はなかったものの,教育委員会に依頼すると,教育委. 承されたものとした。. 員会を通じて各学校に調査依頼が届くため,調査に回答す 結  果. ることが児童の個人情報の守秘義務に反することではない とわかり,教諭が安心して調査に回答できる可能性が考え. 412 名(回収率 6.9%)から回答が得られ,対象者の属. られる。よって,全国規模での調査を行うには各市町村の. 性の記載がないもの 1 名と,対象者の属性以外の記載が. 教育委員会にアポイントを取ることは難しいが,今後小規. ないもの 6 名を除く 405 名を有効回答とした。. 模範囲での調査を行う際には,回収率向上のために教育委. 1.対象者の属性 対象者の属性を表 1 に示す。教諭の年齢は平均 47.2(SD=. 表 1 対象者の属性 n=405. 8.9)歳で,経験年数は平均 23.3(SD=9.7)年であった。 2.CLP についての病気のイメージ CLP についての病気のイメージの分布を図 1 に示す。. n (%) 性別. 男性 女性 無回答. 106(26.2) 299(73.8)   0( 0.0). CLP に関する知識. 知っている 名前は聞いたことがある 知らない 無回答. 278(68.6) 101(24.9)  23( 5.7)   3( 0.7). 身近な CLP のある人の存在. あり なし 無回答. 167(41.2) 233(57.5)   5( 1.2). CLP のある子どもの担任経験. あり なし 無回答.  97(24.0) 307(75.8)   1( 0.2). 「非常にあてはまる」と「あてはまる」の合計が 50.0%を 超えていた項目は「外見に悩む」62.7%の 1 項目であった。 「全くあてはまらない」と「あてはまらない」の合計が 50.0 % を 超 え て い た 項 目 は,「病 気 は 親 の せ い で あ る 」 80.7%,「本人には病気は知らされない」72.6%,「友人が できにくい」69.3%,「遺伝する」65.2%,「本人以外の家 族や親せきの結婚に影響する病気である」63.2%,「歯並 びはきれいに治らない」52.3%,「結婚や出産に影響する」 50.9%の 7 項目であった。 3.CLP の治療のイメージ CLP の治療のイメージの分布を図 2 に示す。「非常にあ.

(4) 日口蓋誌 46巻 2021. 図 1 教諭の CLP についてのイメージ. 図 2 教諭の CLP の治療のイメージ. 図 3 教諭がイメージする CLP のある子どもの学校生活における心配事のイメージ. 21.

(5) 22. 日口蓋誌 46巻 2021 表 2 教諭が CLP のある子どもを指導する上で困難に感じていたこと コード(記録単位数). カテゴリー(記録単位数). 発音がはっきりしない(5) 言語訓練の進め方に悩む(1) 発音がはっきりしないので,音読の授業で本人が嫌な思いをするのではないか(1) 発音がはっきりしないため,他の子どもとのコミュニケーションが難しい(1). 不明瞭な発音から生じる問題(8). いじめやからかいの対象になるのではないか(6) 本人がいじめやからかいに対処できるか(1) 他の子どもが CLP のある子どもを受け入れることができるか(1). からかい・いじめへの対応(8). 自尊心を低下させることなく前向きに生活する方法に悩む(1) 自己肯定感のはぐくみ方に悩む(1). 自己肯定感の育成(2). 他の子どもへ病気を説明する方法が難しい(2). 他の子どもへの疾患説明(2). 子ども同士のトラブルに関して保護者が状況を確認せずに苦情を言ってくる(2). CLP のある子どもの保護者への対応(2). 水泳指導の際,耳に水が入らないようにしないといけない(1). 水泳時の配慮(1). 手術前に本人が精神的に落ち込んでいるときの対応が難しい(1). CLP のある子どもの精神的フォロー(1). 本人の疾患に対する理解度の確認が難しい(1). CLP のある子どもの疾患に関する理解度の確認(1). 他学年の教職員間での共通理解が難しい(1). 教職員間の共通理解(1). CLP があることに戸惑った(1). CLP に対する戸惑い(1). 特になし(27). 特になし(27). 員会などに協力を依頼することも必要であると考える。. 諭があてはまらないと答え,あてはまると答えた教諭は. また,調査票の中には CLP に関するマイナスのイメー. 1.0%であった。疾患認識に関する先行研究によると小学. ジの設問があり,教諭が回答しにくかったことも,回収率. 生までに疾患の認識があったと答えたものは 35.9%~. が低くなったことの要因の一つと考えられる。今後調査票. 73.3%9,10)と報告されており,CLP のある子どもに疾患の. を作成する際には,回答者への心的負担を考慮して,マイ. 認識があるかは個人差が大きい。教諭が CLP のある子ど. ナスイメージの設問を減らすなどの工夫が必要であると考. もに疾患の認識があるものとして接すると,CLP のある. える。. 子どもに疾患の認識がない場合には,疾患に関する出来事. CLP に関する認識については,知っていると回答した. が生じた際にトラブルになりかねない。また,CLP のあ. 教諭が 68.6%と高く,夏目ら2)の職業分類では教諭の周知. る子どもの疾患に関する認識と,教諭の疾患に関する認識. 度が高いという報告と同様の結果となった。身近に CLP. が違う場合にも,トラブルになる可能性があると考えられ. のある人がいる教諭が 41.2%,実際に CLP のある子ども. る。よって,医療者は保護者に対して,子どもへの疾患説. の担任をした経験がある教諭は 24.0%と,CLP に関する. 明の状況について教諭に伝え,認識を共有するよう助言す. 認識は高くても,実際に担任を経験したことがあるものは. る必要があると考える。. 少数であることが明らかとなった。. CLP についての治療のイメージでは,「手術をすれば見. CLP についての病気のイメージでは,「病気は親のせい. た目はきれいに治る」 「治療をすれば言葉の発音はきれいに. である」 「遺伝する」 「歯並びはきれいに治らない」はあては. 治る」はあてはまると答えたものが半数を超えており,夏. まらないと答えたものが半数を超えており,CLP が遺伝. 目ら2)の就学年数の多い人ほど CLP の治療後の外見につ. 的要因や環境的要因などが複雑に絡み合って発生する疾患. いて良い認識を持っているという傾向と一致した。. であることが正しく理解され,予後も良いと捉えているこ. CLP のある子どもの学校生活における心配事のイメージ. とから,夏目ら の就学年数の多い人ほど CLP をよく知. については, 「見た目のことでからかわれているのではない. り予後を明るく見ているという傾向と一致した。しかし,. か」 「言葉がうまく話せないことを指摘されるのではないか」. 2). 「外見に悩む」は半数以上があてはまると答えており,予. 「病気があることで仲間外れにされないか」はあてはまるが. 後が良い疾患であると捉える一方で,CLP のある子ども. 5 割を超えており,教諭は CLP があることで子どもは悩ん. は外見に悩むと考えていることが明らかとなった。. でいると考える傾向にあることが明らかとなった。病気の. 「本人に病気は知らされない」については 7 割以上の教. イメージとして, 「外見に悩む」と答えた教諭が 5 割いたこ.

(6) 日口蓋誌 46巻 2021. 23. とと同様に,CLP のある子どもの心配事としても外見や友. ことについては,教諭が慢性疾患の児童生徒への支援で困. 人関係についての心配事を CLP のある子どもが抱えてい. 難に感じていたことと一致していたと言える。. ると捉えていることが明らかとなった。高等学校に勤務す. また,CLP のある子どもを指導する教諭は,慢性疾患. る養護教諭と教諭を対象に小児がんに関する認識を調査し. の児童生徒を指導する教諭とは異なり,【からかい・いじ. た研究において,小児がん経験者が復学した際に生徒が困. めへの対応】 【自己肯定感の育成】 【CLP のある子どもの精. ると予測されることとして, 「容姿の変化」や「友達との関. 神的フォロー】といった CLP のある子どもの内面に対す. 係」をあげていた11)ことからも,教諭は児童生徒が学校生. る支援も困難に感じていることが明らかとなった。教諭が. 活において, 「外見」や「友人関係」に関心を抱いていると. CLP のある子どもの内面に対する支援に困難を感じてい. 考える傾向にあることが推察される。. る理由は,CLP のある子どもの悩みが外見や友人関係に. 病気のイメージとしての「うまく話せない」は「非常に. 関する心配事に起因していると考えられるためだと推測さ. 当てはまる」・「当てはまる」が計 26.4%,「どちらでもな. れる。【自己肯定感の育成】の指導に関しては,顔や四肢. い」が 36.8%であったが,「言葉がうまく話せないことを. に疾患のある児童と一般の児童では自己評価や自尊心に差. 指摘されるのではないか」は「非常に当てはまる」・「当て. がなかったとの報告もあることから13),教諭は CLP だか. はまる」が 76.6%,「どちらでもない」が 17.3%と相反す. らと特別に考えるのではなく,教諭は通常の道徳活動の一. るような結果となった。CLP の知識があると答えた教諭. 環として,一人ひとりの個性を大切にすることや友達を思. が 68.6%いたことから,教諭は知識として CLP という疾. いやることを子どもたちに教えていくことが大切であると. 患が構音障害を合併する可能性がある疾患であることを認. 考える。また,【からかい・いじめへの対応】を行う場合. 識している可能性は高いと推察される。しかし,教諭の身. にも,CLP があることを特別視せずに,他のいじめやか. 近にいる CLP のある人や担任をした CLP のある子ども. らかいが発生した時と同様の対応でよいと考える。. に構音障害がなかった場合や,構音障害があったとしても. CLP のある子どもの担任を経験していた教諭が 24.0%と. 教諭が聞き取りに問題を感じていない場合,また教諭が. 少なかったことからも,CLP のある子どもを複数人指導し. CLP のある人全員に構音障害があるわけではないと考え. た経験のある教諭はさらに少ないこと,校内に CLP のあ. ている場合があると推測される。それゆえ,病気のイメー. る子どもの担任を経験したことのある教諭がいないことが. ジとしての「うまく話せない」は「非常に当てはまる」・. 推察される。そのような中で CLP のある子どもの担任を. 「当てはまる」に偏るのではなく,「どちらでもない」にも. することになった教諭は,CLP のある子どもの指導に際し. 分散する結果となったと考えられる。一方で,CLP のあ. 困難に感じたことがあっても,相談する相手がいない可能. る子どもたちの心配事のイメージとして「言葉がうまく話. 性も高い。よって,CLP のある子どもに【不明瞭な発音か. せないことを指摘されるのではないか」を「非常に当ては. ら生じる問題】が起こりうる場合や, 【水泳時の配慮】が必. まる」・「当てはまる」と答えた教諭が 7 割を超えた理由. 要な場合には,医療者もしくは保護者から教諭へあらかじ. としては,CLP のある子どもが「言葉がうまく話せない」. め対応方法を伝えておくことが望ましいと考える。. という機能的な面を心配しているとイメージした教諭と,. また,先行研究14)で≪教諭が保護者の許可無く疾患を公. 「言葉のことで友達にからかわれることを心配している」. にしたことに驚いた≫と教諭の対応に満足していない母親. とイメージした教諭がいたことが推察される。CLP のあ. がいたことからも,医療者は,保護者に対し, 【他の子ども. る子どもの言葉に関する心配事について,教諭がどのよう. への疾患説明】への要望を教諭に伝え,事前に教諭と認識. なイメージをしているのかは,「言葉がうまく話せない」. を一致させておくよう助言する必要があると考える。教諭. と「言葉がうまく話せないことをからかわれるのではない. が【CLP のある子どもの疾患に関する理解度の確認】を困. か」の 2 つの質問に分けるなどして調査をし直す必要が. 難に感じていたことから,医療者は保護者に対し,教諭に. あると考える。. CLP の治療を受けていることや子どもへの疾患説明の状況. 慢性疾患のある児童生徒への支援経験のある教諭は,. について教諭に伝える際には,子どもの疾患に関する理解. 「体調不良時の対応」 「他の児童生徒への説明」 「時間がない」. 度も説明しておくよう助言することがよいと考える。. 「友達関係の対応」 「適切な配慮」 「設備がない」 「個人情報の. 今後の課題としては,CLP のある子どもを指導したこ. 取り扱い」「保護者との考え方の相違」「保護者の要望が多. とのある教諭を対象として,CLP のある子どもの指導で. い」 「他教諭との共通理解」 「教諭の態度への不満」を困難に. 成功した点と困難だった点についての質的調査を行い,教. 感じていたと報告されている 。本研究の教諭が CLP の. 諭への助言・指導内容についてさらなる検討を重ねる必要. ある子どもを指導する上で困難に感じていたこととして,. があると考える。. 12). 【他の子どもへの疾患説明】 【CLP のある子どもの保護者へ の対応】 【教職員間の共通理解】 【水泳時の配慮】が上がった.

(7) 24. 日口蓋誌 46巻 2021. 結  語 教諭は CLP という病気については,遺伝的要因や環境 的要因などが複雑に絡み合って発生する病気という正しい イメージをもち,予後も良いと捉えている一方で,CLP のある子どもは外見に悩むと捉えていたことが示された。 CLP のある子どもの学校生活における心配事について は,教諭は CLP のある子どもが外見や友人関係について の心配事と言葉に関する心配事を抱えていると捉えている ことが明らかとなった。 実際に CLP のある子どもを受け持った教諭は【不明瞭 な発音から生じる問題】 【からかい・いじめへの対応】 【自己 肯定感の育成】 【他の子どもへの疾患説明】 【CLP のある子 どもの保護者への対応】 【水泳時の配慮】 【CLP のある子ど もの精神的フォロー】【CLP のある子どもの疾患に関する 理解度の確認】 【教職員間の共通理解】 【CLP に対する戸惑 い】を指導上の困難であると捉えていたことが明らかと なった。 CLP のある子どもが機能的な面に関する問題を抱えて いる場合には,医療者もしくは保護者から教諭へあらかじ め対応方法を伝えておくことが望ましいと考える。さら に,保護者と教諭は,CLP のある子どもの疾患の理解状 況や他児への対応についても共通理解を図り,CLP のあ る子どもの心理面にも配慮していくことが重要であると考 える。 謝辞 本研究の実施にあたり,ご指導とご尽力を賜りました武庫 川女子大学名誉教授・藤原千惠子先生に心より感謝申し上げます。 調査にご協力いただきました教諭の皆様方に深甚なる謝意を表し ます。 本研究の一部は第 65 回日本小児保健協会学術集会にて発表し ました。本論文は博士論文の一部を加筆・修正したものです。本. 研究は JSPS 科研費 JP16H07373 の助成を受けたものです。 利益相反に関する開示事項はありません。 引用文献 1)野口規久男:口唇裂口蓋裂児の矯正治療期における精神医学 的問題.日本口蓋裂学会雑誌,20:181︲192,1995. 2)夏目長門,服部吉幸,成田幸憲,他:口唇,口蓋裂に対する 一般人の認識に関する研究(2)一般人の属性別による認識の 比較.日本口蓋裂学会雑誌,9:56︲64,1984. 3)文部科学省:平成 28 年度学校基本調査:2018.[cited 2020 Aug18] . Retrieved from https://www.e-stat.go.jp/stat-search/ database?page=1&layout=dataset&stat_infid=000031504574 4)夏目長門,松本清人,小林正典,他:口唇,口蓋裂児を持つ 母親の意識 特に一般人意識との相異について.日本口蓋裂 学会雑誌,7:85︲92,1982. 5)鈴木俊夫,服部吉幸,加藤正樹,他:口唇・口蓋裂児に対す る地域社会の認識について.日本口蓋裂学会雑誌,4:63︲75, 1979. 6)北尾美香,藤田優一,植木慎悟,他:口唇裂・口蓋裂のある 子どもが小学校に入学する際に母親が抱えていた不安.小児 保健研究,78:220︲227,2019. 7)夏目長門:口唇口蓋裂 Q&A140.1︲184,医歯薬出版株式会 社,東京,2015. 8)舟島なをみ:第 2 章看護学研究に使用されてきた質的研究方 法論 Ⅲ各研究方法論の特徴と成果 1 内容分析.舟島なをみ 編集;質的研究への挑戦(第 2 版).40︲80,株式会社医学書 院,東京,2012. 9)三浦真弓:アンケートによる思春期口唇裂口蓋裂患者の心理. 日本口蓋裂学会雑誌,20:159︲171,1995. 10)佐戸敦子,石井正俊,石井良昌,他:口唇口蓋裂患者の病 名 告 知 に 関 す る 研 究. 日 本 口 蓋 裂 学 会 雑 誌,26:97︲113, 2001. 11)畑江郁子,木浪智佳子,三国久美,他:高等学校に勤務する 養護教諭と一般教諭の小児がんに関する認識とがん体験者と の関わり.小児保健研究,75:504︲510,2016. 12)石見幸子,鬼頭英明,中村朋子:慢性疾患のある児童生徒が 学校生活を送るための効果的な支援のあり方.小児保健研究, 73:860︲868,2014. 13)石見和世:外表性の疾患をもつ学童の自己評価と自尊心.小 児保健研究,69:628︲636,2010. 14)北尾美香,熊谷由加里,高野幸子,他:小学校低学年の口唇 裂・口蓋裂児の疾患に関連した否定的な体験に対する母親の 認識.武庫川女子大学看護学ジャーナル,3:15︲24,2018..

(8)

図 2 教諭の CLP の治療のイメージ

参照

関連したドキュメント

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

0.1. Additive Galois modules and especially the ring of integers of local fields are considered from different viewpoints. Leopoldt [L] the ring of integers is studied as a module

These applications are motivated by the goal of surmounting two funda- mental technical difficulties that appear in previous work of Andr´ e, namely: (a) the fact that

With this goal, we are to develop a practical type system for recursive modules which overcomes as much of the difficulties discussed above as possible. Concretely, we follow the

In recent work [23], authors proved local-in-time existence and uniqueness of strong solutions in H s for real s > n/2 + 1 for the ideal Boussinesq equations in R n , n = 2, 3

This paper presents an investigation into the mechanics of this specific problem and develops an analytical approach that accounts for the effects of geometrical and material data on

While conducting an experiment regarding fetal move- ments as a result of Pulsed Wave Doppler (PWD) ultrasound, [8] we encountered the severe artifacts in the acquired image2.

• Informal discussion meetings shall be held with Nippon Kaiji Kyokai (NK) to exchange information and opinions regarding classification, both domestic and international affairs