人が 怖 くてた ま らなか った
S・A
君の作 品
『にわ とりむ らのめ ん ど りお じさん』の分析
井
原
成
男
Ⅰ.は じめに
本論ではS・
A
とい う名前 を もつ2
6
才の男性の 作品 を分析 したい と思 う。S・
A
は "どうして も人 にな じめない.皆の中にいて もひとりげ っちでい るよ うな気がす る〟 とい う訴 えをもって筆者 を訪 れた。彼は 『にわ とりむ らのめんど りお じさん』 と題 された作 品を筆者にみせ て くれた。それは原 稿用紙2
3
枚 にびっしりと記 された絵本 であ り,S・
A
自身の描 いた挿絵が挿入 されていた。筆者はS・
A
の分析 をひき受 けた。分析の過程で明 らかに なったことは, その作品の判.
=S・
A
のあらゆ る心 理的過程が表現 されているとい うことだった。後 になって分析過程の中で明 らかにされていった事 柄が まさに, あらか じめこの作品の中に詰め込 ま れていたよ うに思われるのである。 ところで, たまたま分析 を受けた ということだ けで,本来 それ 自身 として独立 した存在である作 品世界 を分析的に解釈す る権利 を,果 して我々は もっているのであろ うか ?作品は文学的に解釈 ・ 評価すべ きであ り,分析的に解釈 してはならない のではないか ?それは文学作品の作品 としての価 値 を減 じて しまうのではないか ?残念なが らその 通 りである と筆者は思 う。 フロイ ト(1)は Fドフ トエフスキー と父親殺 し』の 中で次のよ うに言い切 った。 --ただ残念 な こ とに,詩人 とい う問題 を前に しては精神 分析は手 も足 もでないのである。-・・・ またフロイ ト(2)は 『レオナル ド・ダ ・ビンチの幼 児期 のある思 い出』の中で正 当に も次のように断 じている。 事所属 :早稲 田大学 (長野大学産業社会学部 ) --芸術的業績の本質 もまた精神分析学的には うかがい知 られない ものであることを認めなければな らない。・・・ -ところで同 じ箇所でフロイ トは次のよ うにつけ 加 えることも忘れてはいない。 ・・--われわれの 目標は依然 として,欲動活動の道 をへて行 なわれ るところのある人間の外的諸体験 とそれへの諸反応 とのあいだに存す る関連の指摘である。 なるほ ど精神分析 学 は レオナル ドの芸術家的本質 とい う事実 を解 き明か しえ ない とはいえ, しか し芸術家本質の もろ もろの発現 と制約 とを明 らかにす るこ とはで きるのであ る。 (傍点引用者) もの事 をそれ以上に もそれ以下に も見ていない とい う点 で, この3つの引用部分 に,我々は,分 析的芸術論 を云々す る場合 たえず立 ち帰 るべ きで あろ う。 この ように,精神分析学は作品の内在的価値 を 明 らかにす るのではな く,それ をかいた人間の本 質 をなしているある側面 を明 らかにす るものであ るこ とはフロイ ト自身が認め てい る ところであ る。 この意味で, フロイ トの方法は文学論 (作品 請)ではな く作家論である。 しか し, この方法の 積極面 として我々は,文学論 を作品論 とい う狭い 枠内に閉 じ込め るとい う視野狭窄 を脱却 している とい うこ とを認めなければな らないだろ う。 だが, このような積極面 を認めて もなお,我々 としては分析的作品解釈 を文学論に置 き代 えるこ とはで きない相談であることを率直に認めてお き た い 。 本論で 目指 した事は次の3点である。(1)たまた ま分析 を受けた人が示 して くれた作品が その人の 心理的過程 をどれ ぐらい反映 してい る ものなの か ?の解明, (2)作家であるとい う目的意識 をもた ずに即 日的 ・衝動的にかかれた作品になぜ無意識 が反映 され易いのか ?(3)無意識的にかかれた作品 - 43-が 目的意識的にかかれ るようになる (つ ま り,表 出か ら表現へ作品 を高め る) とい うのは どんなこ となのか ?この3点の解明 を殻終r伽 二は 目指 した い と思 う。 (1)は従来の分析的作品論 を踏襲す るも のである。 しか し,(2)(3)は これ までの分析的文学 論の枠 をこえた ものであ り,作品 を表現す るとい うこ とはどうい うことかの解明 を目指 している。 筆者は, 目的意識的な作品は単に衝動的にかかれ た ものではな く,断えず無意識 を意識化 してい く ものであるとい う主張 をもっているが
,S・
A
の, 即 日的にかかれた作品の もつ文学的にみた限界に ついて,この点か らの解明 も試み るつ い )でいる。 ところで佐藤(3)は分析 を「無意識-の挑戦」とし て とらえ,また,
『生活の中の精神分析』(4)の中で, 「精神分析療法は暗示や説得療法 とは根本的に異 な り, あ くまで患者 自身の主体性 を重ん じ,
患者 自身が 「ア ッ ./そ うだったのか」 と心か らわかる ことを助け,患者 と協同 して 自我の歪み を取 り去 り, よ り健康 な自我活動 を行 なえるようにす るこ とである」 とのべ て, 自我の主体的側面 を強調 し て い る。筆者 が思 うに これ は, 自我が無意識に 挑戦 し, それ を意識化 してい くとい うこ とであろ うが, この意見をバ ック ・ポー ンに して.先にの べた(2)(3)の問いかけ を解明 したい とい う心づ もり を筆者は もっている。 この点か ら,S・
A
の作品の もつ限界 を示す こ とに成功 したな らば,本論 は従 来の分析的解釈 をの りこえてい くことがで きるか もしれない。 (なお文中太字 で示 した用語 につ いて,文末 に-指して 用語解説 をつ けた。)Ⅰ
Ⅰ
.
症例
主訴 と家族構成 :S・
A
は2
6
才の独身男性。冒頭 にのべ たように "どうして も人にな じめ ないo皆 の中にいて もひ と りば っちで い るよ うな気がす る〝 とい うこ とを主訴 としている。父 ・母 ともに 健在であ り,本人は 5人兄弟の 4番 目である。姉2
人,兄1
人,妹1
人 とい う家族構成である。父 は商業 を営んでお り, 1年間に正 月3日しか休む 事がない とい う程 の働 きもの。律気で,怒 った事 がな く,皆か ら 「仏様の ような人だ」 といわれて いる。 ところか若 い頃は結構怒 り勝 ちだ ったのだ とい う。千畑 .適であるO この子剰 闘 二はこの父親 な りの理由があった。父親 の父 (つ まりS・
A
の祖 父)はその妻が武家の出であ り気位が高か ったた め, ほ とん ど家によりつかず他所に女 をつ くって いた。父親は幼 い頃 (′ト学校)か ら他の3人の兄 弟の ため に 4里の道の りを歩いて銭 を もらいに 行 っていたOそのため, 自分 の子 どもたちには決 してこの ような思いをさせ た くない と思 っていた とい うこ とであった。そ の結果 と しての子 煩悩 だ った。 これに反 して,.母親 は漁師の娘 (長女) で,勝気で気位 も高かった。地方の潰れそ うな程 小 さい漁村の実力者の娘 であったが, その父がお 人好であったために,借金の負債 を背負わされ る - メにな り,落 ちぶれて奉 公にでた。その奉公先 でS・
A
の父 と知 り合い結婚 したのであった。S・
A
の父母の結婚には もうひ とつの側面があっ た。母 には弟が 1人,妹 が1人あった。母はこの2
人の弟妹 に加 えて, 自らの父母の面倒 も父に見 て もらうこ とを申 し出た。 父はこれ も心 よ く引受 けた。 ところで, この弟は落 ちぶれた母の家 を建 て直す志半ばに して戦死 して しまった。母方の妹 は操 うつ病 であ り,若い頃 で きた一 人娘 をかかえ ていた。 このような複雑 な家族 をS・
A
の父は全て 引受けなければならなか ったわけである。 ところで,母方の祖母 は また気位が高 く,勝 ち 気 な女性 で,S・
A
の祖父 と別屠 していた。 このよ うな様々の事情 を背景に したS・
A
の幼 なか った頃 の同居家族 をFig.1に示 した。 城妃 ,'E柴うつ病 [ (別居 )ll Fig.1 か ら分か るようにS・
A
の幼 い頃には母方 の祖母が同居 していた。S・
A
の父はこの祖母 をも 実の七土の ようによ く面倒 をみていた とい う.S・
A
が大学3年の時 この祖母が死亡 した。 この時S・
A
の母は6
5
才 になっていたが,棺に取 り糸迫って泣 きじゃ くる姿 は まるで幼女の ようであった という。 家族歴か ら
,S・
A
を取 り巻 く状況 をみ るとひ と つの輪廻の よ うな達項のあるこ とに気づ く。それ は,大人 し く,お人好 しの父 と,気位が高 く勝気 な母 とい う繰 り返 しともいえる父-母 (男一女) の結 びつ きである。S・
A
の父方の祖父 ・祖母 も, 母方の祖父 ・祖母 もそしてS・
A
の父 ・母の結びつ きも全てこの ようなパ ター ンをもっていることに 気づ かれ る と思 う。 生育歴 :S・
A
が母か らきいた ところでは,出産 時の状況はおおむね正常 であった とい う。 ただ, 質の期間が長 く, そのためか独 り歩 きがで きるよ うになったのは1
才半になった頃であった。家は 商売 をしていたが, いつ もお座 りの姿勢で街ゆ く 人 を眺めて いた とい う。母の話 ではほ とん ど泣か ない子であ り,母の言 う事 もよ くきいていた。尻 の しまつに関 して,S・
A
は母が拭いて も, もっ と きつ く奇麗 に拭 いて くれ とい う程 の凡帳面 さを もっていた。S・
A
は分析中に トイレの事 を思い出 し,
「うちの便所 は深 く姐 が湧いていた。便所 とい うのは とて も暗 く嫌 なところだった。母がぼ くに 対 してお尻 の族が どうだったかは もう憶 えていな い」 と語 った。S・
A
はその後,祖母の空孔 を吸 っ て,息がつ ま り窒息死 しかけた事があるとい う。 母 も父の商売 を手伝 わざるをえなか ったため,S・
Aは祖母 と遊ぶ事 も多かった。加 えて,母が外出 を嫌 うタイプの人であったために, いつ も外出に 誘 って くれ るのはこの祖母 であった。祖母 は浄土 真宗 を信仰 してお り,S・
A
をお寺 に よ く連れて いった。 この頃 きいた無常観がS・
A
の心情的なレ ベ ル での思 想 の核 をつ くってい る との こ とだっ た。 この頃のS・
A
の遊びは女の子的なものが多か っ た。夕方になっ′てS・
A
の姿が見つか らないので家 中の人があ らゆる場所 を探 しまわって も見つか ら ない とい う事件が起 こった。皆が探 し疲れて,ふ と押入れ を開けてみ ると,その中にS・
A
は雛祭 り の人形 を飾 って漬入 っていた とい う。押入れの中 はS・
A
の もっとも安心 で きる場所 であった とい う。 この押入れのテーマは後に繰 り返 し現れて く るように, S・
A
の心理構造の重要 な部分 を占めて いる。S・
A
は他人に決 して見せ ない押入れの部分 をたえず持 ち続けていた。 それ故にこの部分に侵 大 して くる他者は,それが悪意に発 した ものであ れ,善意に発 した ものであれ,等 しく,S・
A
のたっ たひ とつの逃げ場である押入れ-の侵入者 として 脅威 を感 じさせ たのである。 さてこのあ とで,SA
の帽子事件が起 こる。S・
A
の母は とて も感情的で厳 しい人であった。S・
A
自身の コ トバ を借 りれば 「それは恐 ろ しくて身震 いす るようなヒ ト」だった とい う。正 月3日の数 少 ない父の休 日に,S・
A
は兄 と連れだって,サー カスを見に連れていって もらった。 ところが運悪 く,帽子 をな くして しまったのである。母に叱 ら れないように父は同 じ帽子 を買 って与 えた。 この ことは母に決 して言ってはいけない と口止め され た。 ところが,景品に もらった風船か ら足がつい た。兄はす ぐに泥 を吐いて しまったが,S・
A
は決 して口を割 らなか った とい う。周囲の人はそのあ まりのかた くなさに大笑いであった。 このことはS・
A
の持つ極度の "かた くなさ〝を理解す る上に 重要 なエ ピソー ドであると思われる。大人か ら言 われた事 を忠実に守 り続け,現実的には もうその 必要がな くなった後 まで もかた くなにその命令に 従 うというS・
A
の態度の最初の現れが ここに認め られる。 ところで, この怖い母について,S・
A
はあるエ ピソー ドを思い出 して くれた。 それは何 かの事でS・
A
が悪い事 をしたに も拘 らず,謝 らずに逃げた 時の事である。S・
A
は裏の炭俵に隠れ潜んでいた が,母は じわ りとS・
A
をその俵か らつ まみ出 し, 柱に縛 りつけた という。 その後,S・
A
は母の言 うこ とに過度 に従がい, 母の顔色 を窺 って行動す るような面がでて きた。 少 し叱 られ るとS・
A
は 「お手伝 い しましょう」 と いって母 の気嫌 を取っていた とにが にが しげに 語 って くれた。 しか し, その従順 さは母の機嫌 を 窺 う瞬間だけの束の間の ものであ り, その場 さえ 太鼓持 ち風に通 り抜けて しまえば, もうお手伝 い などしなか った。 幼稚園への入園はS・
A
に とってシ ョッキングな 出来事だった。それまで押入れの中ばか りで暮 し ていたS・
A
に とって,外の世界はあ ま りに も弦 し 過 ぎたのである。S・
A
の父はS・
A
を自転車の荷台 に乗せ て幼稚園まで送 って くれた。S・
A
は父 を園 の友だちに見せ るの を嫌が った.この頃父には"療 -45-癌 〝があ り,皆か らコブお じモん と呼ばれていた か らである。しか し,幼稚lSJのす ぐ近 くまでは送 っ て もらっていた。時 には
S・
A
の兄が小学校への登 校 の途中,S・
A
を幼稚園に送 って くれ る事 があっ た。S・
A
は兄が 自分 を幼稚園に置 き去 りに してい く後姿 を見送 り,寂 しか ったが,一 人でいるのは 嫌 だ ./とは決 して 口に出せ なか った とい う。S・
A
は幼稚園の裏 で一人で遊 んでい る事 が 多 く,時々 先生に表の庭 に連れだ された。S・
A
は幼稚園が ひけ る と近 くの小学校 に兄 を迎 えに立 ち寄 ったが, その 日た また ま兄の帰 りが遅 く,相撲場 で待 っている うちに 日射病 に罷 って し まった。 その後,症状 が悪化 し,髄膜炎を疑われ て しまい,その夏中宴 ていなければ な らなか った。 夏の暑い中,高熱に うなされ なが ら,外で遊 んで いる子 どもたちの楽 しそ うな声 をききなが ら,
「世 界はなん と自分 か ら遠 くにあるこ とだ ろ う」 と絶 望的 な気持 ちになった とS・
A
は回想 した。 この頃,S・
A
は夢 を見た とい う。 それは, ポオ の F穴』 とい う小説 にあるよ うな,閉 じ込め られ て しまった ら二度 と外 に出 られぬ鉄の壁の中に閉 じ込め られた とい うものだ った。 うな されて, ら う二度 と生 き返れない ./と思 った瞬間 目が覚め る と, そこにS・
A
を看病 して くれている優 しい母の 姿があった。 この よ うに,絶望的 な程 の苦 しさを 体験 した後に母 の優 しさをえるこ とが で きる (追 にい うと, その よ うな苦 しみ を経 なければ母 に愛 されない) とい う思 いがS・
A
の中には根強 く残 っ て しまったよ うである。S・
A
の兄はこの事件に関 して深 く傷ついた。彼 はS・
A
が病 気 に なったのは 自分 のせ いだ と思 っ た。 自分が もう少 し早 くS・
A
を迎 えにいっていれ ばS・
A
は病気 にな らなか った とい う思 いであ る。 これはS・
A
に とって,兄弟間の葛藤 をた くみに経 験 しない まま通過 させ て しまうとい う結果 をひき お こ した。SA
とこの兄は4
才違 いであ り,また, この兄はか な りの優等生 であった。 この兄の 自責 の念は,S・
A
の側か らいえば,S・
A
の中に兄弟間 の葛藤に もとづ く劣等感 コンプ レックスを生 じさ せ ない とい う副産物 を もた らしたのである。 その 結果,S・
A
はこの兄 ととて も仲が良か った とい う. 他 の子がS・
A
の事 を 「馬鹿」 とい うと兄は烈火の ごと く怒 りS・
A
を守 った。S・
A
には2
人の姉がいる。上 の姉 はS・
A
と年が 13才近 く離れている.そのため,S・
A
に物心 がつ いた頃, この姉は既 に大 人になっていた。S・
A
に とって は母 が2
人い た よ うな もの で あった とい う. この姉は母 と性格が似通 ってお り, また一家 のgodsisterとして母 の全幅の信頼 をえていた。S・
A
に とって理 想 とい 、うべ き次姉 はS・
A
と6才 触れていた。 この姉 は後 に 「わた しはあんた を背 負 って育 てたか ら背が伸 びなか った」 と冗談にの べ た とい う。S・
A
はこの次姉の コ トバに涙が流れ そ うにな り心か ら感謝 した とい う。 二の次姉 にた い してS・
A
はいつ も "優 しさ〟 と自分 の理 想像 を 感 じて い た とい う。 この姉 も母 と同様 に勝 気 で あった。S・
A
はその後,小学校 に入 り,病気の シ ョック のためか, しば ら くは知 恵遅 れ を疑がわれた。 ま た, この前年妹が生 まれたため,母の愛情が妹に 移 った と感 じた。 この頃S・
A
は ち ょっとした傷害 事件 をお こす。S・
A
の事 をいつ も馬鹿に していた 少年 をナ イフで切 りつけて しまった。 土の時S・
A
はかつて節穴か ら覗いてみた,母親が祖父か らナ タで叩かれ ヒイ ヒイ泣いているあの光景 を思 いだ した。S・
A
は 自分 があんなに も恐れた場面 を自ら が起 こ して しまった とい う巡 りあわせ に しば ら く 意識 を失 った。 父が呼 びだ され る。 もともと越境 入学 をしていたため転校 を勧め られた。優等生の 兄に免 じて, なん とか転校 は まぬがれた。 この傷 害事件以降,S・
A
は 自らの怒 りを抑圧 した。 まわ りの人が,すべ て,
「お前 なんか刑務所送 りだ 月 といっているように思 えた とい う。 S・
A
は越境 し て通学 して いたため,家 の近所 に は友 人が い な か った。 また,S・
A
の生 まれた九州の S県は特 に 排他的であ り, よそ ものであるS・
A
の父 もこの風 土に解け込むのに苦労 したが,結局 とけ こめぬ面 も残 った。 この よ うに,S・
A
のおかれた "ふ るさ と〝はいつ も, なにか な じめぬ異郷 であ った。S・
A
はこの傷害事件のあ と,紙黙傾 向 を強めて いった。 また友人 も極端にへ った。S・
A
は小4
の 頃 まで,学校の裏の崖 を登 った ところに咲 いてい た赤 いバ ラの花 が た ま らな く恐 ろ しか った とい う。恐 ら く,S・
A
はこのバ ラの中に 自らの敵意 を 投影 し, 自らの姿 を見ていたのではないか と思わ れ る。-S・Aは この頃,憧 れの女の子がいた。 その子 と S・Aは連 れ だって登校 していた。 しか し, その女 の子は,S・Aと違 い,優等生 で活発 な子であった。 体育の特 に不得手 なS・Aは, なわ とびの仕方 な ど この女の子 に習 っていた とい う。 ここで もまた, 女 の子はS・Aに とっての理想像 であ り, またS・ Aが どん なに努 力 して もその ようにはなれぬア ン ビバ レンツ な存在 として立 ち現れているよ うに思 われ る。 小6に な り, S・Aにひ とつの転機が訪れた。 Ⅰ とい う新任 の教師が, S・Aの作文に 目をつけたの である。 この教師はS・Aに 日記 をつけ させ, それ を皆の前 で読 んで きかせ てS・Aの 自信 を高め て く れた とい う。作文 に よって認め られた。恐 ら くこ のあた りにS・Aの文学への志 向の切 っ掛 けが ある のではないか と考 え られ る。 S・Aに この教 師 は草 野心 平 の 「ホ ッまぶ しい ね ./ホ ッ うれ しいね ./」 では じまる詩 を朗読 さ せ た とい うが, まさに象徴的 である。 S・Aは この 詩 句の ご と く,旺 しい世 界に帰還・したのであった。 その後S・Aは中学 を経て, S県の名門高校 に入 り
,T
県の私 立大学 の法文学部 に入学 した。現在 こ の大学の大 学院で児童文学 を専攻 してい る。Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
.
作 品紹介
次に, S・Aのか いた 『にわ とりむ らのめん ど り お じさん』 と還 された作 品 をその まま原資料 とし て紹介 してお きたい。筆者は,作品には一切手 を 入れなか った。 また,挿入 された挿絵 もその まま に示 してお いた。挿絵の下 にFig:2-Fig.25の記 号が入れて あ るが, これは もともとの作品にはな か った もの である。 これは印刷の便宜上,筆者が S・Aの承認 をえてつけ足 した ものである。 その他 の面につ いてはい っさい手 をつけなか った。☆
- ほっ ほ っ ほっ ./ けづめ をお ったてて, きょうも村の中に駆け こ んで きたの はだれ あろ うめん どりお じさんです。 <めん ど りお じさんなんておか しいよ ./おん ど りお じさんの まちがいだろ> まあ きみ, そんなにめ くじらを立てないで く れた まえ。 それは りくつです よ。 りくつ。 まちが いなんか じゃあ りませ ん./ <はは, まちが ったんでてれ くさいんで しょ> ぼ くはチ ョウネ クタイを しめてか ら, きちん と しせ いをただ し, お話のつづ さをは じめ るこ とに しました。 - は っ はっ はっ。 とにか くこんな風にお じさんはや って きたんで す。 このお じさんが朝か らこんなにあわてて る とき は ロクな事 が ないんだけ ど。 - おい ./めん ど りの ./こんなに朝早 くどうした んだい。 - ほっ ほ っ ほ っ。 いい話 いい話 。 - いい詰 って どんな話 だい。 - 生 まれたんだ よ。つ いに。 ああ, ぼ くはこの 日をどんなに まっていた事か。 空にオ リオ ン が ピカ ッと光 って,生 まれたんです よ。 タマ ゴが 。 - タマ ゴが ってお前 さん まだ一人 もん じゃない か ? - ええ, そ うだ とも。 - それ じゃ おか しいな,生 まれ るわけないよ。 - ぼ くに生 まれ たんです よ。 - ええ /お じさんに ./ ぼ くはびっ くりしました。村の人たち も同 じで した。 こんな詰 ってあるか しら。 いぬがね こを生 んだ これは国語のテス トじゃないんです。 いぬがね この二を生 んだなんてへんな話。で もこれはね ./ いぬがね ./こをうんだ って よむんだ よ。 どんなに変 な話 で もナ ゾが とけて しまえばなん で もあ りませ ん。 それ じゃ, このめん ど りお じさんの タマ ゴ事件 は どうなんだ ろ う。 そいつ を確かめ るために もう少 し話 をつづ け ましょう。 -47-めん どりお じさんは, ここ1週間程前か ら, 自 分 もひ とつ タマ ゴをうんでみ ようと考 えた。 そ の気になれば なんで もで きる, なんて。馬鹿 な事 を考 えた もんだ。 お じさんはきっそ く,卵 を生むめん ど りを観察 にでかけた。 Fig.2
[
三
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こんな風にめん ど りたちはがんばって タマ ゴを 生んでました。(Fig.2) Fig
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こんなめん ど りが10羽いると30コもうまれ る んです。(Fig.3) めんどりお じさんは1
とい う番号のついためん どりにたずね ました。上の絵にかいてある(Fig.2) めん どりです。 - あんた いいね たまごが生めて。 Na1のめん ど りは うさん くさそ うにお じさん を み ました。それ もそ うです。めんど りたちに とっ ては, たまごを生むのは しごとですか ら。 しごと 中に邪魔 され るのはあまりいい気持 ちは しなか っ たのか もしれ ませ ん。 ちょっと心のせ まい とりた ちですね。 きっとこんなめ をしてたんで しょう。(Fig.4) Fig.4い
じわるなめんどりのめ - いいことなんかあ りませ んよ ./ みんな タマ ゴの ままで食べ られちゃうんで す もの ./ - え, きみ ら, タマ ゴを食べ るの ? 無知 な (-なに もしらない)めんど りお じさ んはびっ くりしました。 - ちがいます よ。 人間が食べ るんです よ。 - えっ。にんげんて。 - お じさん, にんげんをしらないの ? そ うです。めん ど りお じさんは, にわ とり村の 人ですか ら,にんげんなんて知 りませ んで した。 お じさんの頭 の 中 を少 しの ぞいてみ ま しょう。 (Fig. 5) Fig.5 にんげん を しる前のめん ど りお じさんの貌 お じさんの頭の中には,① にわ とりたち② たべ もの (こ くもつがお もです)(診家 (わ らでつ くっ た もの) しか入 っていませんで した。 その他 に, 番号のついてない "りん ごの木〝って い うのがす み っこに入っていますが, これはめん ど りお じさ んの大切 な思 い出なのです。 (めん ど りお じさん は, りんご の木の下 で生 まれたので りんごには とくべつなあい じょうを感 じていたのです) (も しきみが , ク レヨンを持 っているならこ の リンゴを色でぬ りっぷ して下 さい。 リンゴはア カだなんて いわずに,青でぬ りっぷ して くれ る とうれ しいな) だれだい,いぬのあ Lは 5本 なんていって るのは7
- どうすれば, それみ られ るの ? ここに まってれば来 ます よ。 めん どりお じさんは, じっ と待 っていました。 にんげんが くるまで。にんげんがみた くてね。 さて人間がや って きましたが,こんな人で した。 Fig.6 (Fig.6) これは もちろん め ん ど りお じさんの 目に う つ った人間です。 (なんだか- んな生 き ものです ね) にんげんは,いっしんにタマ ゴの数 を数えてい ました。 1・2 ・3 I・・・・・30 。 タマ ゴは きっか りと30個 あ りました。 <これは 上 でき 上で き> そ ういって にんげんは めんど りたちの頭 を なぜ ました。- おや ./こいつは どうだ。 にんげんはや っと,めん ど りお じさんが 目につ きました。 - 一匹にげだ したか ? けれ ど めんど りは きちん と
1
0
羽いました。 - まあ, おおいにこした事 はない。 にんげんはそ うい うと, めん どりお じさん をつ か まえ, カ ゴのあいた とこに入れました。そこで めん ど り小 屋は次の ようにな りました。(Fig.7) Fig.7め
ん
ど
り
お
じ
さ
ん
にんげんは,毎 日,めん どり小屋 をみに きまし たが,め ん ど りお じさんの とこだけ は タマ ゴが いっこもあ りませ ん。 - はた らさがいのない とりだ ./ そ ういって,にんげんはめん どりお じさんの頭 をこづ きました。 - あ した また,.タマ ゴを生 まないならしめ殺 し て しまお う。 さあたいへんです。 めん ど りお じさんは, なん とか タマ ゴを生 もう と必死です。は じめは,ひやか し半分 だったけ ど, こん どは命がけです。 めんど りお じさんが タマ ゴを生 もうとがんば っ ているようすは, たいへん まじめな もので した。 Fig.8-
;'-/i / (Fig.8,Fig.9) んけ
ん なめ ん ど りお じさんのめF
i
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,
9
[
三
∼
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-
管
-
o けれ ど, どんなに りきんで も, タマ ゴはひ とつ もでて きませ ん。 なまけ もののめんど りお じさん, こんなにがん ば ったのは生 まれては じめてで したが,そのかい もな く,何 日たって もタマ ゴは うまれ ませ ん。 しんけん なめんどりお じさんのめか らはなみだ さえ流れ ました。(Fig.10)F
i
g
.
1
篭
み だ それ をみて,にんげん も めん どりお じさんがかわいそ うになって きまし たo他のめん どりたち も,めんど りお じさんがか わいそ うになって きました。けれ ど, なみだ じゃ タマ ゴはつ くれません。 にんげん も めんど りたち も,それに とうのお じさん も加 えて,みんなで - なん とかならないか しら ? なん とか したい ものだねえ ノ とないちえをしぼって考 えました。それ程めん どりお じさんのなみだは,みんなの心 をうったの で した。 で も へんですね。 もう, しめころす といったにんげん までが どう じょうして くれたのだか ら, しめ殺 され ることも ない し,卵 を生 まな くて もよいわけです。 だか ら, ここでお話はおわ りなのですが, こん どは めん どりお じさんが きき入れ ませ ん。 - ぽ ぼ く なん とか して卵 を生みたい.〟 これはこまったことにな りました。というの も, めん ど りお じさんが人間にあった後の頭の中をみ て下 さいD(Fig.ll) Fig.ll お じさんの頭の中か らは,仲間の こ とも,たべ ものの ことも,家のこともな くな り, ただ<たま ごを生みたい> とい う気持 ちとにんげんのことだ けでいっぱいです。にんげんはア クマの顔 をして います。お じさんはよっぽ どにんげんがに くらし か ったんで しょう。 にんげんは もう,そんな事忘れて,お じさんに 同情 さえ して くれたのですが, めん どりお じさん はそ うはい きませ ん。 これにはみんながこまって しまい ました。 これはまった く大問題です。 - 49-<にんげんかア クマだなんて>そんな事 を考え ている人が, この世の中にいるなんて許せ ないこ とです。 にんげんは涙 を流 し,(Fig.12) Fig.12 ① 自分が悪か つた こ と、 ② もう、ニ ワ トリた ちに■、 タマ ゴを うませ た りしない こ と、 ③ タマ ゴをたベ な .とい う証文 までつ くったので した。 また,めんど りたちは,めん ど りお じさんの代 りにいつ で もい くつで もタマ ゴを生 んであげるこ とをかた く約束 したのです。 めんど りお じさん まで もうれ しくって泣いて し まい ました。そ して どうとして も, こんなバカ な考 えをやめて しまいたい とかんが えました。 けれ ども だめ ./ い くら考 えて も,めん ど りお じさんの頭か ら,< た まごを生み たい> とい う考 えが消 えないので す。 Fで きごとは は じまった。 もはやそれは消え ることはない。 すみやかに野 にいでよ/ そ して つ くりかえん
/』
ところで, この本の中にあった絵 をよ くみてき たきみな ら,めん どりお じさんの頭の中に りんご の木があったの を覚 えてますね。多少,小 さくなっ て しまったけ ど, 人間にあったのちのお じさんの 頭の中に もリンゴはのこっていました。 ここの ところだけ大 うつ Lで書 きだ してみ ま しょう。(Fig.13) FIE.13(
∋ りん ご とって もすて きな りんごですね。 きみはちゃん と青 にぬ って くれたかな。 で も, これだけ じゃもの Fig.14 三 lq;;崇 こri三.:.の木 を蓮
(Fig.14),
宙
下 にあるのは,めんどりお じさんの生 まれた家 です よ.′横に小 さな点があ るのがめん どりお じさ んの小 さい時。 みんなは, ここの ところに 目をつけ ました。 に んげん も,めんどリも, そ してめんど りお じさん まで もが, いっせ いに,青 い りんごの木めがけて かけは じめ ました。 『しっ, しずかに/きみの傍 を葬列が とお りす ぎてい く。静かにひざまづ き,野辺送 りの歌 をう たいは じめ よ』
(
7
71,レ鵠 工 芸品 ) みんな,森 をぬけ,野尻にで ました。風がひゅっ と吹 くと,みんなの汗をす い とって くれ ました。 む こうに青 い リンゴの木がみえました。 めん どりお じさん を先頭 に して(Fig115) Fig.15亨
一
二二;I
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宣-めん ど l)た ち にんげん の順に リンゴの木の ところ まで行 きました。 なつか しいあの リンゴの木 で した。(Fig・16)F
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6
二言
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むか しの ままに リンゴは青 々 としげっていまし たOけれ ど, もう,お じさんの家はあ りません。 しかたがないので,みん な リンゴの木の枝にこ しかけ ました。(FiFig.1g.17)7:
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そ して,めんど りお じさん も,だいす きな家に 帰 って きたんだか ら, きっ とかな しい思 いで も忘 れて<たまごを生みたい>なんて馬鹿な考 えはす てて くれ るで しょう。 みんな口 ぐちに "もうす っか りこれでよか った んだ〟 とつぶや き,めいめ い,か ってな夢 をみて ねむ りこんで しまったのです 。<オヤ ス ミナサ イ> <心 をこめ て> 次 の朝。 び っ くりす るこ とがお こ りました。めん ど リお じさんがいないのです。みんなびっ くりして, さ が しまわ りま した。けれ ど,めん ど りお じさんは い ませ ん。み んながねむ っている問に,空の星に なって しまったんで しょうか ?いいえ,早 まって そん な事かんが えてはいけ ませ ん。 みん なが, りん ごの木の上の方 をみあげ る と, い ま したよ。 そこに,めん ど リお じさんが, きち ん とね。 しか も,み て下 さい。 あんなに, たの しそ うな顔 して。
<
ぼ,ぼ くはついに, タマ ゴを生 んだ> え っ。今 なんていったの。 み んなびっ くりしました。確かに,めん ど りお じさんは, タマ ゴを生 んだ っていいましたね。 で も, そん なこ とが / ち ょっ とみ てみ ましょう。(Fig.18)F
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.
1
8
た しかに, めん ど りお じさんの腹の下か ら丸い ものが姿 をみせ ています。で もよ く見 ると,ええ, それ は リンゴで した。 みんないい ます。 - めん ど りお じさん。 それは リンゴです。 けれ ど, いお うとして,みんな口をつ ぐんで し まい ました。 お じさんの しんけんな 目がみ えた か らです。(Fig.19) Fig.19 _云
二-1- タの前の しんけんなめ (このあ とは きっ と ナ ミグです よ) そんなわけ でみんな意味 もな くだ ま りこ くって しまいました。 さて, わがめん ど りお じさんは, りんごをひ と つかか える と "にわ とり村〟にかけて帰 りました。 そ こで今 日の朝の話 になるのです。 - うまれたんです よ。ぼ くに, タマ ゴが。 村のみんなは 目を丸々に してめん ど りお じさん を見 ました。お じさんの うしろには,にんげん と, め ん ど りたちが しょんぼ りと立 っていました。 - ああ, なんて こった。 リンゴをタマ ゴ とは。 - ひ とつみせ て くれい。 と村のみんながいいました。 お じさんは, いきよ うよ うと タマ ゴをふ とこ ろか らだ してみせ ました。 <ぼ くはタマ ゴが生みたか った。 なん として も ね>(Fig.20) Fig.20・
二
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)
I
ー ウワ ッ- ツペ ッ。 わ らいが, うづ の ようになってお じさんの まわ りをとりか こみ ました。 さて, いか なるこ とにあいな るや ら。 - わっは っは っ, これが タマ ゴだ とよ ./ なん と, リンゴが タマ ゴ とはつ いに気がふれた か ? めん どりお じさんのガ ッカ リした事 といった ら あ りませ んで した。みんなな ぐさめ ようもあ りま せ ん。次の図(Fig.21)に どうして,ナ ミグがかいて ないか とい うと,お じさんはナ ミグ もでない程 に 悲 しか ったのです よ。 Fig.21 4 ナ ミグもでない、めん ど りお じさん みんな ふ たたび リンゴの木 に帰 ります。みん な じぶんの事 の よ うに悲 しか った。< ど うして お じさんは タマ ゴが生め ないんだろ う><お じさ んは タマ ゴが必要 なのに ><タマ ゴなんか必要 で ないあた したちに どん どんで きて><どうしてお じさんにで きないんだ ろ う> みんな しんそこ か な しか った。 <きみ も, そこでのん きに リンゴなんかか じっ てないで,本の中に入 っておいでよ。 おん ど りお じさん で しょなんて ケチぽ っか りつ け て ない で さ> <こん どはぼ くが この本 を読 んでい る少年にや- 5
1-り返す番だ った> す ると, この本 を読んでいた少年 は まって まし た と本の中に入 って きて, リンゴの木のそばに立 っていました。 - ぼ くもどうしていいか分 か らないよ。 と少年 はこたえました。 - だけ ど, これだけはは っきりして るよ。めん ど r)お じさんは ))ンゴか ら生 まれたわけ じゃ ないんだ ろ。 - この大切 な時 に変 な話 を しないで くれ。 - で も, これは大切 な事 だ と思 うよOめん ど リ お じさんは もともとリンゴの子 じゃないんだ もの ./ ぼ くは, この りん ごに青 い色 をぬ ったか らしっ て るんだ。 りん ごはアカだけ じゃない もの。 と くに小 さい頃はそ うさ。 リンゴはお じさんのなつか しいものだったんだ。 - きみ らは, お じさんに約 束 したんだろ う。 も うタマ ゴをたべ ないって。 いつ で もうんであ げ るって。 きみ らはお じさんがかわいそ うでつ いて きたん だろ う。 きみ らはお じさん といっ しょにか な しか ったん じゃないの ? - うん。 とみんなは こたえました。 そ うで した。み ん なめ ん ど りお じさん といっ しょにこん か こか な しか った し,つ いでにこんな にはずか しか ったんです。 - それ じゃ, きみたちが しなきゃな らないこ と はたったひ とつ さ。ぼ くはその こ とず っ と考 えていたの さ。 - じゃあ,ついでに君 もそ うしてね。 そ うい うと10羽のめん ど r)と,人間 と,この-んな少年 は, りん ごの木にかけのぼ りました。 もちろん,めん ど りお じさんは, まっ先 に りん ごの木に とまっていました。 み ん なのや った事 といった らこん な こ とで し た
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み んな, りん ごを, おなかの下 においてす わ り ました。 少年 はす わ る ところが ないので,枝 に必死 にぶ らさが り, リンゴをおなかに くっつけ ました。 そ して,みんながいっせ いに さけんだ さまはお か しな もので した。 タマ ゴを生みたい ククラツ ラル ド タマ ゴを生みたい ククラツ ラル ド め ん ど りお じさん ククラツ ラル ド(
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Fig.23 タ マ ゴ を う み た い ク ク ラ ツ ラ ル ド め ん ど リ お じ さ ん これには さしものめん ど りお じさん もわ らって しまい ました。 そ して,みんなに向 っていい ました。 - さみ しいね。 で も ぼ くは さい しょか ら分 か ってたんだ。 きっ と。 これが タマ ゴ じゃな くて リンゴだ ってこ と。 で もあったかな リンゴだ ってね.
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4
)
Fig.24 これは,みんながあっためたために, ゆげので てい る りんごです。 <ユデ タマ ゴ じゃな くて ゆで りん ご> これな ら きみにだ ってつ くれ るか もしれない よ。 め ん ど りお じさんの タマ ゴなんか じゃな くって さ。 さて, いねむ りしているめん ど りお じさんの頭の 中 をの ぞい てみた らこん な風 に なってい ま し た。(Fig.25) Fig.25
@
とって もす て きな りんごの木ですね。☆
Ⅰ
Ⅴ.
作品の要約 と問題提起
本来作品は それ 自体 として享受すべ きものであ り, それを要約す るとい うことは邪道である。 と はいえ,S・
A
の作品は作品 と呼べ る程完成 された ものではな く,その筋 を辿 るこ と自体むづか しい。 それ故に,作 品を簡単に要約 し,その中か らい く つかの要素 をひろいあげてみたい と思 う。 にわ とり村 に生 まれためん ど りお じさんは男で あるに も拘 らず "たまごを生みたい〝 という強迫 観念に囚われて しまう。めん ど りお じさんには も とか らこんな強迫観念があった訳ではない。 しか し,管理者であ る人間に女 と間違われ,卵 を生 ま なければ殺 して しまうとまで脅 されて しまった。 この脅威は現実的な ものであ り,お じさんが殺 さ れ まい と必死 に管理者 (-超 自我)の意に沿お う とす るのは当然のこととして現実的反応である。 (管理者 (-超 自我)に反抗す る道 も可能 な選択 であったか もしれないが,お じさんはこの道 を選 ばなか った。)ここまでは現実的反応であった。 し か し, この脅威が去 った後に も,お じさんの恐怖 は超 自我 として内面化 されて しまった。そのこ と にめん どりお じさんは気づ かない。そ して, この "た まごを生 まなければならぬ〟 という外界か ら の脅威は, まるでめん ど r)お じさんの内面的欲求 であったかの ように, "たまごを生みたい〝とい う 形に置 き代 え られて しまうのである。いわば,め ん ど りお じさんは, 自らの真の欲求でなかった も のが, あたか も自らが本来願 っているものであっ たかの ような錯覚に陥 ってい くことになる。(1) ところで, このめん ど りお じさんに,周囲の人 は同情 してなん とか助けてや りたい と思 うように なる。逆説的 ないい方になるが, この同情はめん ど I)お じさんが強迫観念をもたなか った ら生 じな か った ものであるOつ ま り,めんど りお じさんは 同情 をひ くような可愛そ うなお じさんであるが故 に同情 を惹 くこ とに成功 してい る と言 え るだ ろ う。 これがめんど りお じさんの疾病利得 である こ とは明 白であろ う。めん どりお じさんが "た ま ごを生 もう〝 と駆け まわる様は,我々の 目か ら見 れば悲 しい程に滑稽である。 この必死 さの可笑 し さによって,めん どりお じさんは皆に愛 されたわ けである。少 くともめん ど りお じさんは無意識に はそ う希 っていた。めん ど りお じさんが もがけば もが くほ ど,めん どりお じさんは愛 され るのであ る。 (2) ところが, ここに思いがけぬ ことがおこった。 人間 (-管理者 -超 自我)が悪魔になって しまっ たのである。 ここに,めん どりお じさんの "他者 は皆信頼で きぬ悪魔である〝 というニ ヒリズムが 生 まれる。 しか し,他者が皆悪魔であるという観 念は社会に受け入れ られぬ ものである。めん どり お じさんはこのニ ヒリズム を完全には抑圧 できな いままに, しか し,それ をなん とか解決すべ く走 り回 らされ ることになる。(
3
)
このめん どりお じさんの内面 を人々は どの よう に して知 ったのであろ うか ?それは,頭の中が知 性的に分類 ・整理 されているとい うまこ とに奇妙 な方法によってであった。 これは分析でい う,い わゆる知性化 と考 えてよい と思われる。めん どり お じさんは,いわば この知性的な方法 を鑑介に し てのみ 自らをしり, また他者に 自らをしらせ るこ とができたのである。(
4
)
ところで, この強迫観念の治療法 として とられ た方法は まことに興味深い。 それは,めん どりお じさんのなつか しい もの, りんごの木の ところに 戻 ってい くこと (退行す るこ と)なのである。 こ の "りん ご〝はフロイ ト(5)に よれば,母の乳房の象 徴 であることが知 られている。 ところが,帰 るべ き家は既 になか った。 もはや象徴 としての りんご の木 しかそこには残 っていなか ったのである。退 行 による自己治療は不成功 に終 った。(5) そこで,次にめん どりお じさんが選 んだ方法は, この象徴的な世界である "りんごの木〝の中で自 己の願望 を実現 してい くこ とであった。 これ より 先,めん どりお じさんの取 る方法は極めてフアン - 53-タステ ィックで非現実的 な ものにな ってい く。め ん ど りお じさんは, なん とリンゴを卵 と思 い込ん で しまうのであ る。 これは現実検討能 力の低下 で あ り,妄 想の発生 で もある。 ただ し,後 に分か る ように,めん ど りお じさんはこの "た まご 〝が実 は リンゴであ るこ とを心得 ていたのであ る。現実 は完全には否認 されてはいない。めん ど りお じさ んは, 自分が "りんご〝 を "タマ ゴ〝 と思 い込 も うとしてい る とい うこ とは, きちん と弁 えてい る のである。 フ ァンタジイをフ ァンタジイと自覚 し ているこ と, これ故にめん ど リお じさんは発狂す るこ とを免がれている。 (6) しか し, この ようなファンタステ ィックな解決 法 が 人々に受 け 入 れ られ る事 は なか った。村 の 人々は,めん ど りお じさんの妄想 を笑 い殺すので ある。 この時点 でめん ど りお じさんが被害妄想に 陥 らなか ったのは,彼が きちん と, 自らの非現実 性 を自覚 していたことと, もうひ とつ は、めん ど りお じさんに付 き添 って くれためん ど り (たち) がいた とい うこ とにあるだろ う。 ここで女性 は, めん どりお じさん を救 うもの として現 れている。 めん ど りお じさんに, "仕事 の邪魔 をしないで./〟 と拒否 したの も女性 であれば,めん ど リお じさん を救 うの も女性 である とい うこの事実 は まこ とに 興味深い。め ん ど りお じさんに とって女性 は,拒 否す るもの と受 け入れ るもの とい う
2
面性 を烈 し くその内に取 り込んだア ンビバ レンツな存在 とし てあ るのだ と思 われ るか らである。 (7) 非現実的に なっためん ど りお じさんは しか し, 現実 を非現実 の方に取 り込 もうとい う程の強引 さ を もっていた。俺の事 を見ているだけでな くさっ さと俺 を助け ろ ./といわんばか りに読者 (他者 -現実)である少年 を自分 の非現実の世 界の方に引 き摺 り込 んだ。そ して,めん ど りたち と一緒になっ てめん ど りお じさん を讃 える唄 まで歌 わせ るので ある。 この楽譜はその通 りうた って も演奏 で きな い。筆者 も試 してみたが演奏で きなか った。 まる でこれは "とにか くなんで もいいか ら俺 を認めて くれ /愛 して くれ ./〝 とい うナルシステ ックな叫 びの ようであ る。 その くせ,めん ど りお じさん 自 身は, これが非現実であるこ とを知 っている とき ては, 身勝手 なナル シシズムに陥 っているとしか 言えないのではなかろ うか ?(8) その後で,めん ど りお じさんの知性化 された頭 の中を覗いて くれ と,我々は強要 され るこ とにな る。めん ど リお じさんの, 自分 を愛 して くれ,認 め て くれ とい う叫 びは痛 い程理 解 で きるに して ら, これでは真 に他者 と通 じ合 うこ とはで きない だろ う。めん ど リお じさんは, まさに, 自分 の頭 の中を覗いて もらう (知性 化す る) こ とに よって 他者 と通 じよ うとしたのである。 この ように願望が先行 している とい う意味で,S・
A
の作品はファンタステ ックではあ って も,作 品 としての完成には程遠 い と思われ る。 この作品 を読んだ人々の中に 多 く聞かれた感想 は 「説明 され過 ぎていて, 自分 の想像 を入れ る余 地がない」 とい うものだった とい うこ とであ る。 確 か に このナ ル システ ックな作 品 は面 白い面 も 持 ってはいるが, 人々になにか強引に引 き摺 り回 され るよ うなナル システ ックな世 界 を感 じさせ る こ とは確か である。S・
A
自身 としては,誰 も自分 を分か って (愛 して) くれ ない と思 っているよう であるが,他者に してみれば,分 か ってあげた く て も何処かでそれ を拒否 されてい るよ うに感 じて しまうものがあるのではなか ろ うか ? 以上, 多少羅列的ではあ るが,S・
A
の作品 を要 約 す る とい う形 を借 りて8つ の 問題 点 を抽 出 し た。 それぞれに標題 をつけ る と次の ようになるだ ろ う。 (1)"卵 を生みたい〝 とい う強迫観念につ いて (2)この強迫観念 を もつ こ とに よって得 られ る疾 病利得につ いて(
3
)
"
ヒ トが悪魔になる〝とい う対 人恐怖 につ いて (4)"頭の中 をEg式化す る〝とい う知性化につ いて (5)"りん ご〝への退行について (6)"りん ごが卵になる〝とい う非現実への逃避 に つ いて (7)"めん ど り〝としての女性の もつ ア ンビバ レン スにつ いて (8)"めん ど りお じさんの唄〟を うたわせ るとい う ナルシシズムにつ いて 以下 この8項 目につ いて,実際の分析場面 であ らわれた 自由連想 をもとに して考察 を加 えてみた い と思 う。Ⅴ.
作 品に表 われてい るい くつかの問題
点の 自由連 想内容 (
治療場面)か らの考察
筆者はS・
A
に対 して コーチ (寝椅子) を使 った 精神分析 を行 った。 1
週間に1
回,各セ ッシ ョン 1時間づつ を使 い,現在 まで約 2年間の問分析 を 続けてい る。S・
A
は病気 と急用で3
回程休んだ他 はほ とん ど遅 刻す ることもな くきちん と分析 に通 い続けてい る。S・
A
は分析 を受 け よ うと決心 した 途端,や っ と念願が叶 った とい う嬉 しい気持 ち と, 自分 の欠点 を見破 られて しまうのではないか とい う強い不安 を感 じた とい う.分析者が入 り口まで 迎 えて くれ,また玄関 まで見送 って くれ るこ とを, 自分 が充分受 け入れ られてい るようで,何 かた ま らな く嬉 しか った とのべた。S・
A
の分析 はスムー ズに進 んだ。 児童文学 を専攻 してい るためか, イ メー ジが非 常 に豊 か であ り,ほ とん ど澱 み な く 様々 な連想 を語 り続けた。文学 に関連 して,S・
A
は分 析 を受 け た らもう作品がが ナな くなるのでは ないか とい う疑 い をもっているとのべ た。しか し,S・
A
は木 田(6)の著書の中か ら古沢平作の 「分析 を や って,精神状態が良 くなってだめになるよ うな 才能 な ら, そんな芸術 はや らな くったっていいの です。本 当の才能 は分析で ます ます伸 び る もので す」 とい うコ トバ を引用 し, 自分 な りに納得 した とい う。筆者 が思 うには,我々 を駆 り立ててい る 欲望 の源泉 を知 った とて,我々は まさに欲望す る こ とに よって生 きているわけなのだか ら欲望 その ものが消 えて しまうこ とはない。 ただ欲望 の向け られ る方向が変 って しまうだけ なのではないか ? さらに言 うな ら,フロイ ト(7)は『終 りあ る分析 と終 りな き分析』 の中で,分析が無限の課題 であ る と のべ てい るが,けだ し,一 人の人間 を分析 しつ く せ る ものではない と思 う。S・
A
自身は まだその こ とに充分気づ いてはいないよ うに思 われ るが,筆 者 としては このフロイ トの言葉 を送 ってあげたい 気がす る。 以下,Ⅰ
Ⅴで抽出 した主題 につ いて,治療場面 で え られた情 報 を絡 ませ なが ら考察 してみたい と思 うO (1)yl卵 を生 みたいI'とい う強迫観念 につ いて を生 む とい うこ とは不可能 であ る。め ん どりお じ さんは, この 「不可能」に向 って努 力 している と い うところに,めん ど りお じさんの強迫観念の特 徴 が ある。S・
A
は 自由連想の中で,
「母が 自分 にや さしか っ たのは病気のあ とだけだった」 とのべ たこ とがあ る。「しか もそれは,もうダメだ と思 え る程の大病 でなければ な らなか った」 とい うのであ る。つ ま り,不可能の後に幸福がや って来たのだ った。S
・
A
は 「自分 は危機的場面 に強い, それが絶体絶命 の ピンチであればある程, 自分 はそれ をの りこえ られ る とい う確信があ る」とい うのであ る。 また,S・
A
は 「アナ- キィなデモの場面や, 台風のあ と の混乱の中で何故か人々は優 しくな り連帯 してい るよ うに思 える」と語 ったこ とがあった。 これは, めん ど りお じさんの ス トー リー に似ていないであ ろ うか ?卵 は どうして も男には生め ない ことが分 か った絶体絶命のその後で,めん ど りお じさんは 皆 に優 し くされ るのである。S・
A
は記憶 しているだけで も, 2
度死ぬ程 の体 験 を してい る。(1)祖母 に空孔 を吸わされて窒息 し かけた時, (2)髄膜炎 を疑われ もう死ぬのではない か と周囲の 人が心配 した時。 そ して, (2)につ いて は病気のあ と,厳 しい母が限 りな く優 しか った七 い うこ とを思 い出 した。(1)の時 も恐 ら く,S・
A
を あ ま り構 ってや れなか った母が優 しか ったであろ うこ とは想像 にかた くない。 この2つIC)事件はい ずれ も6才以前の ものであ り,S・
A
に決定的 な人 生 観 を植 えつけたのだろ う。 この後,S・
A
は物事 をわ ざと不可能 な側面か ら だけ見てい くとい う非現実的 な態度 を身につけて い くが, それはS・Aに とって, それが不可能 なこ と (絶体絶命の こ と) でなければ他者 (母がその 最初の人である)か ら認め られ ない (愛 されない) とい う強迫観念が無意識の うちに存在 していたか らに他 な らない。S・
A
は この強迫観念の意 味 を意 識 化 していな か った。 それ故に また,めん ど りお じさんの 「た まごを生みたい」 とい う不可能 な強迫観念 もその 意 味 を明 らかに しえないのである。(
2
)
この強迫観念 をもつ ことによって得 られ る疾 めん ど りお じさんは男性 であ り, 男性 が子 ども 病 利得 につ いて - 55-強迫観念はそれ をもつ こ と自体苦 しい ものであ る。人が決を求め る存在であるのな ら,何故わ ざ わ ざ苦 しさが選 ばれているのか ?そこには何 らか の利益があるのだろ うか ?フロイ トの神経症論は そ もそ も,疾病が満足 をもた らす故に,患者は発 病 し,疾病 を持続 させ るとい うものであった(8)。そ れでは
,S・
A
の もっていた 「不可能 な事でなけれ ば本当の事 ではないような気がす る」とい う観念, そ してめん ど りお じさんの もっていた 「卵 を生み たい」 とい う観念の疾病利得は どこにあったのだ ろうか ?それは, S・
A
自身語 ったように,不可能 (絶体絶命)の後に母の優 しさがえられるとい う ことにあったこ とは,既 に(1)の ところで示唆 して おいた。けだ し,めん どりお じさん も不可能への 努力のあとで他 者の愛 をうけ るこ とができたので ある。 ところで, S・
A
が無意識の うちに持 っていたこ の観念は,何故今 日までの人生 で気づかれ ること がなか ったのだろ うか とい う重大な問題がひ とつ ある。その理 由 として,筆者は3つの原因があげ られ ると思 う。(1)ひ とつは, この観念 自体が決 し て 日の 目を見ない, 白日の もとに曝けだされない 構造になっているとい うことである。S・
A
が不可 能 だ と思 っていたことが可能になった とす る。 そ うす ると,既 にそれは本 当の事 ではない と感 じら れ る。S・
A
はさらに不可能 な事 をみつける。それ が可能 になる。これ も本 当の事 ではない。つ まり, 不可能 な事 と思 っていたが実は可能 な事 であった とい う現実的基準で検討 され るこ とな く,不可能 な事だけが さらに追求 されてい くのである。不可 能 な事 は最後には "不可能〟 とい う観念,決 して 試 されえない領域 まで突 き進み固定化 されてい く のである。(2)もうひ とつの原因 として, この観念 があったお影 で,S・
A
が常に克己心 を忘れなかっ た。そのために,出来なか った もの も,出来 るよ うになっていった とい う現実的側面 を見逃す こと はできない。 この観念は現実的に非常に役立 ち,S・
A
自身に利益 をもた らしたのである。(3)さらに, この不可能への挑戦 とい う努力が,S・
A
の一家に 潜伏 していた家族神話 「我々は落 ちぶれた一族で あるが, もとを正せ ば士族であ り,世が世 であれ ばこんなみ じめな生活 をしているはずがない」 と い う神話に一致 していた とい うことである。S・
A
の努力は,落 ちぶれた一家 を救 う家族願望 としっ か り手 を握 り合 うことが で きたのである。 この3側面(1)観念の検証不可能性, (2)現実的利 益 をもた らしたこと, (3)家族の潜在的賞罰 をえや すい ものであったことに よって, S・
A
の強迫観念 は根強 く成長 し続けたのだ と思われる。 (3)tlヒ トが悪魔 になる'Jとい う対人恐怖 について 佐藤(3)はすべ ての神経症 の根底 に対 人恐怖があ るとしているが,S・
A
において も "対人恐怖〟が その中核 をなしていた。 ただ,S・
A
においてこれ は充分意識 されていなか ったOめんどl)お じさん において も,確かに頭の 中では人が悪魔になって はいるものの,現実的な ヒ トは,めん どりお じさ ん を許 して くれた し,放 ってあげようとさえして いるのである。 それなら,何故 この恐怖 は意識化 されなか った のだろ うか ?S・
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は 「昔,怖かった母 も今では年 老いて しまい,可愛想な気 さえす る」 とのべ た。 この ように現実的対象は もはや恐怖の対象ではな くなっている。 このことが その第一の理 由 として あげ られ るだろう。 しか し, S・
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の思 い出の中に 残 っている 「恐 ろ しい母」 は,母以外の他者に移 し変 えられ,S・
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の根強 い対人恐怖 を形成 してい るoS・
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はいつか 「母は私 が心の中では母 を恐れ, 嫌い,見かけ上従 っていただけなの を見透 してい たような気がす る」とのべ たことがある。つ ま り, この時点で,母 に対面す る と,母 を恐れ嫌 ってい る内面 を見透 されている以上,その内面 さえ も歪 曲 しなければな らなかったのではないか と思われ る。 (ぼ くは母 を嫌 っては いないのだ ./と) さらにつけ加 えなければ ならないことは,母が 常に怖か った訳ではない とい うことであ る。S・
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は強迫観念的にではあれ,
「不可能 (絶体絶命)の あとは母が優 しくなる」 とい う感情 も身につけて いた。 この点か らすれば,恐 ろしい母は悪魔にす ぎず,優 しい母のみが本当の母なのだ とい う方法, つ まり, ヒ トはたまたま悪魔 にす ぎないのであっ て,本 当は優 しいのだ とい う方法によって,S・
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がこの対人恐怖 をの りこえて きた とい うことも, 対人恐怖 を意識化 させに くくしている原 因になっ ているのではなかろうか ? 最後に,分析 を雛れてい うなら,人は誰で も他人に愛 されたい とい う根強い魔望 をもっているO この願望 もまた,対人恐怖 を意識化 させ に くくし ている原因ではないか と思 う。原因 とい う以上に, この ような願望があってこそ, 人は発狂 をまぬが れ,生 き続け られ るのだろう。