山 梨 肺 癌 研 究 会 会 誌 32巻 2019
IR観 察システムによるICG蛍 光ナビゲーション胸腔鏡下左上葉S1+2区 域切除術
山梨大学 医学部第二外科松岡
弘泰
松原
寛知
椙村 彩
内田 嚴
市原
智史
中島
博之
要 旨:低 呼吸機 能症例への縮 小手術 と して肺 区域切除術が行 われてきた。近年 では早期肺 癌 へ の積極的肺 区域切除術が試み られてい る。 区域間同定は従 来含気 虚脱 ライ ンが用 い られて きたが、ICGを 用 いた色 素注入法 の有用性 が報告 され、保 険適応 とな った。今回、当科 で行 ったIR観 察システムに よるICG蛍 光ナ ビゲー シ ョン胸腔鏡 下左上 区域 切除術 を報告す る。 症例 は左上葉S1+2と 右 下葉S6に す りガ ラス主体の結節 を有 し、両者に対す る治療 と して まず左上葉S1+2区 域切除 の方針 と した。S1+2へ の肺動脈 を処理後 にICGを 注 入し、良好 に区域 間が同定で きた。肺静脈、気管支処理後 に同区域 間を切離 し、肺 を摘出 した。 含気 虚 脱 ライン同定 には肺 を膨 らます必要が あ り、胸腔鏡では視野 やワーキ ングスペースの阻害が 問題 となった。ICGに よる色 素注入法 はこの点におい て、胸腔 鏡下区域切除に非常に有用 と 考 えた。 キ ー ワー ド:胸 腔 鏡 、 区域 切 除 、ICG、IR観 察 シ ステ ム は じめ に 肺 癌 に 対 す る標 準 手 術 は肺 葉 切 除術 で あ る が 、 低 呼 吸機 能 症 例 に対 す る 消極 的 縮 小 手 術 と して 区域 切 除 術 が 行 われ て き た 。 ま た 、 近 年 で は 、FDG-PETの 利 用 や す りガ ラ ス 主 体 の肺 腺 癌 が 予 後 良 好 で あ る こ とが判 明 して き た こ とか ら、 予 後 良好 な肺 癌 に対 す る積 極 的縮 小 手 術 と し て の 区域 切 除 が 試 み られ て い る1,2)。未 だ そ の 評 価 は 定 ま っ て い な い が 、 こ れ らの 臨床 試 験 の結 果 で は 、 区域 切 除 は 呼 吸 器 外 科 医 に とっ て 必 須 の 術 式 とな る 可 能 性 が あ る。 肺 区域 切 除 に お い て 、 最 も 問題 とな る の は 区域 問 の 同定 で あ る。 従 来 、標 的 気 管 支 の 閉塞 ま た は 特 異 的 な 送 気 に よ る含 気 虚 脱 ライ ン の形 成 に よ り区域 間 同定 が 行 わ れ て きて お り、 当科 で も この 方 法 を 行 っ て き た 。 し か し 、 近 年 で は Indocyanine green(ICG)を 用 い た 色 素 注 入 法 の 有 用 性 が 報 告 され て お り、 平成 30年1月26日 か ら は 「血 管 及 び 組 織 の 血 流 評 価 」 に対 して保 険 適 応 とな り、 同 年7月2日 に薬 事 承 認 され3)、 肺 区 域 切 除 術 の 区 域 間 同 定 に保 険 利 用 可 能 と な っ た 。 こ れ を受 け、 当 科 で も区 域 間 同 定 に ICGに よ る 色 素 注 入 法 を 用 い る よ うに な っ た 。今 回 われ わ れ は 、InfraRed(IR) 観 察 シ ス テ ム に よ りICG蛍 光 ナ ビゲ ー シ ョン を利 用 した胸 腔 鏡 下左 上 区 域 切 除 の 症 例 を報 告 す る。 症 例 患 者:50歳 代 男 性 主 訴:胸 痛 既 往 歴:右 自然 気 胸(保 存 治 療) 現 病 歴:胸 痛 を 主 訴 に近 医 を受 診 し、 精 査 のCTに て 左 上 葉S1+2に 結 節 影 を認 め た 。 診 断加 療 目的 に 当 科 へ 紹 介 とな っ た。 身 体 所 見:全 身 状 態 は 良 好 で 、 身 長 166.2cm、 体 重 69.3kgで あ っ た。 血 液 検 査 所 見:有 意 な 異 常 所 見 を認 め な か っ た 。平 成31年4月1日 呼 吸 機 能 検 査:FVC 4.26L、%VC 113.6%、 FEV 1.03.28L、 FEV1%77.0%と 正 常 で あ っ た 。 胸 部 レ ン トゲ ン 所 見:左 中 肺 野 に2cm 大 の 結 節 影 を 認 め た 。 胸 部CT所 見:左S1+2cに 最 大 径3.Ocm、 充 実 径1.4cmの 結 節 を 認 め た(Fig.1A)。 右S6cに 最 大 径3.Ocm、 充 実 径0.5cm の 結 節 を 認 め た(Fig.1B)。 明 ら か な リ ン パ 節 腫 大 は 認 め な か っ た 。 て 開 始 した 。 分 葉 は 非 常 に 良 好 で あ っ た た め 、LigasureR に て 後 方 の 葉 間 を や や 下 葉 よ りで 切 離 した 。A1+2b,c、A1+2a を そ れ ぞ れ 自動 縫 合 器 、2-0絹 糸 に よ る 結 紮 に て 処 理 した 。ICGを2.5mg/mLと し、2mLを 静 脈 注射 した 。IR観 察 シ ス テ ム に よ り、 明 瞭 な 区域 問 が 描 出 され た た め(Fig.3)、 電 気 メ ス に て 同 部 位 を マ ー キ ン グ した 。V1+2aを 結 紮 切 離 し、B1+2 を 自動 縫 合 器 に て 切 離 した 後 に 、 マ ー キ ン グ した 部 位 を含 む よ うに して 自動 縫 合 器 に て 区域 間 を 作 成 した 。 肺 を摘 出 後 、 胸 腔 内 の 洗 浄 ・止 血 を行 い 、20Frト ロ ッ カ ー カ テ ー テ ル を 留 置 して 創 閉 鎖 後 に 手 術 を 終 了 した 。 Fig.1 胸 部CT A.左S1+2cに す りガ ラ ス 影 を伴 う結 節 B.右S6cに す りガ ラ ス影 主 体 の 結 節 Fig.2 3D-CT 胸 部3D-CT所 見:左 肺 の 腫 瘍 は 下 葉 と の 葉 間 面 背 側 に位 置 し、 上 区域 切 除 に て 腫 瘍 径 以 上 の マ ー ジ ン が 得 られ る と考 え られ た(Fig.2)。 以 上 よ り、 同 時 多 発 肺 癌 で あ り両者 に対 して 治 療 介 入 が 必 要 で あ る こ と、 い ず れ もす りガ ラ ス 主 体 の病 変 で あ る こ とか ら、 積 極 的 縮 小 手 術 と し て 胸 腔 鏡 下左 上 区 域 切 除 の 方 針 と した。 手 術 所 見:4ポ ー トの完 全 鏡 視 下 手 術 に Fig.3 1CG注 入 後 のIR観 察 所 見
山 梨 肺 癌 研 究 会 会 誌 32巻 2019 考 察 ICGは ほ とん ど が肝 細 胞 に 吸 収 され 、 胆 汁 中 に排 泄 され る こ とか ら、 従 来 は肝 機 能 評 価 に 用 い られ て きた 。しか し、様 々 な 組 織 に 均 一 に分 布 す る こ とや 低 毒 性 で あ る こ と、 蛍 光 を発 す る こ とな どか ら、 血 流 や リ ンパ 管 の 評 価 に応 用 され る よ う に な っ た。ICGは 、 赤 外 光(最 大 吸 収 波 長 は約805nm付 近)で 励 起 され 、 最 大 蛍 光 波 長 約835nm付 近 の 蛍 光 を発 す る。 こ の 蛍 光 は 約8mm組 織 を透 過 す る性 質 が あ る 。 肉 眼 で は確 認 で き な い た めIR 観 察 シ ス テ ム が必 要 で あ る が 、 組 織 表 面 か ら血 流 の 評 価 が 可 能 で あ る。 肺 区域 切 除 に お い て は 、切 除 対 象 区 域 の 支 配 動 脈 を先 に処 理 す る こ とで 、 同 区 域 を造 影 欠 損 領 域 と して描 出 す る こ とが で き る。 当 科 で は オ リンパ ス 社 の 「VISERA ELITE Ⅱ 」を用 い てIR観 察 を 行 っ た 。 この 機 種 で は 、従 来 の 蛍 光 観 察(Fig.4A)に 加 え 、 画 像 合 成 に よ っ て 明視 野 と蛍 光 を 同 時 に 観 察 が 可 能 で あ る(Fig.4B)。 そ の た め 、 マ ー キ ン グ操 作 を安 全 か っ ス ム ー ズ に施 行 可 能 で あ っ た 。 ICGを 用 い た 区 域 間 同 定 法 は 、従 来 の 含 気 虚 脱 ラ イ ン に よ る も の と比 べ 、 手 技 が 簡 便 で あ り、 区域 問 が よ り鮮 明 に判 別 で き 、肺 を膨 らま す こ とに よ る 視 野 の 妨 げ が な い とい う利 点 が あ る 。 特 に肺 を膨 ら ます こ とは 、 胸 腔 鏡 手 術 に お い て は視 野 の 阻 害 、 ワー キ ン グ スペ ー ス の縮 小 と 非 常 に 厄 介 な 点 で あ り、胸 腔 鏡 下 区 域 切 除 に お い て 非 常 に有 用 な方 法 で あ る と考 え る。 こ の 方 法 の欠 点 と して は 、血 管 に 沿 っ た 区域 間 で あ り、 気 管 支 の 支 配領 域 とは や や ず れ る 点 な どが あ る。 ま た 、 胸 膜 へ の 炭 粉 沈 着 が 強 い症 例 な ど血 管 分 布 に異 常 を き た した 症 例 で は 正 確 な 区 域 間 が描 出 され な い 点 や 、 速 や か に洗 い 流 さ れ るた め に 深 部 ま で の継 続 的 な 区 域 間 評 価 が 困難 であ る点 な どが指 摘 され てい る 4)。これに対 し、切除後の気管支内にICG を注入 す る方 法 も報告 され 、有効性 が示 唆 され てい るが5)、 この方 法は保 険適 応 とはな ってい ない。 今後 、 区域 切 除が肺 癌手術 にお いて ど の よ うな位置 づ け とな るかはま だは っき り してい ない が、高齢 社会 を迎 え、低肺 機 能 患者 の増 加や それ に伴 う消極 的縮小 手 術 の増加 が予想 され る。 また 、そ のよ うな患者 に対 し、 よ り低 侵 襲な手術 とし て胸腔 鏡下 手術 も必要 性 が増 してい く と 考 え られ る。ICGを 用 い た区域 間同定 法 は、胸 腔鏡 下 区域 切 除 に とって非 常 に有 用 な方 法 であ り、今後 もその特性や 適応 な どの検討 が必 要 と考 える。 Fig.4 1R観 察 A.従 来 の赤 外 光 の み の 観 察 映 像 B.画 像 再 構 成 に よ る合 成 映 像 結語当 科 に お け るIR観 察 シ ス テ ム に よ る ICG蛍 光 ナ ビ ゲ ー シ ョ ン胸 腔 鏡 下 左 上
平 成31年4月1日 区域 切除 術 の一例 を報 告 した。 本 法 は胸 腔鏡 下 区域 切 除の 区域 間同 定に非 常 に有 用 と考 え られ た。 引 用 文 献 1)JCOG(日 本 臨 床 腫1研 究 グ ル ー プ): 肺 が ん 外 科 グ ル ー フ..JCOG1211. http://www.jcog.jp/document/1211.pdf. Accessed 6 Jan 2019. 2)JCOG(日 本 臨 床 腫 瘍 研 究 グ ル ープ): 肺 が ん 外 科 グ ル ー フ..JCOGO802.http://www.jcog.jp/document/0802.pdf Accessed 6 Jan 2019. 3)厚 生 労 働 省:公 知 申 請 に 係 る 事 前 評 価 が 終 了 し た 適 応 外 薬 の 保 険 適 用 に つ い て. https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouho ken/topics/110202-01.html.