<論説>私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成23年知財高裁判決
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(2) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). がら、長年にわたる議論を経て 1)、平成 4 年の著作権法改正により導入された 制度である。著作権法は、同制度について、私的使用目的でデジタル方式の録 音・録画を行う者が補償金を支払うことを原則としつつ、録音・録画機器や記 録媒体の購入時に利用者が補償金を一括して支払い、当該機器・記録媒体の製 造業者等が、補償金の支払請求や受領に関して協力する義務を負うとする特例 措置を置いている(著作権法(以下単に「法」という)30 条 2 項及び 104 条 の 2 乃至 104 条の 9(102 条 1 項により実演・レコードにも準用) ) 。補償金の 対象をデジタル方式の録音及び録画に限定していることや「協力義務」の特例 の位置づけは、我が国の著作権法に見られる主な特徴である 2)。 補償金の支払義務の対象である録音・録画機器及び記録媒体は、 「政令で定 める」こととされ(30 条 2 項) 、政令で定めるそれらの機器及び記録媒体( 「特 定機器」及び「特定記録媒体」 (法 104 条の 4 第 1 項参照) )は、著作権法施行 令において個別に指定されている(著作権法施行令(以下単に「令」という) 1 条及び 1 条の 2) 。政令によるこのような個別指定は、技術事項に着目した規 定ぶりとなっており 3)、また、機器については、 「主として録音の用に供する もの」及び「主として録画の用に供するもの」 (令 1 条 1 項柱書及び 2 項柱書) 1)私的録音録画補償金制度は昭和 52 年(1977 年)から検討が開始されていたことにつき、 川瀬真「私的録音録画問題の行方(補償の必要性と制度設計のあり方) 」NBL1142 号(平 成 31 年 3 月)97─98 頁等を参照。 2)こ の点、我が国の著作権法は、私的録音・録画を行う者を支払義務者とし、製造業者及 び輸入業者を協力義務者と位置づけているが、例えば、私的複製補償金(報酬請求権) 制度の先行国であるドイツ及びフランスでは、複製機器等の製造業者等を支払義務者と して位置付けている(ドイツ著作権法 54 条 1 項及び 54b 条 1 項、フランス知的財産権法 典 311 の 4 条 1 項) 。日本の私的録音録画補償金制度導入と近い時期にデジタル録音に係 る補償金(使用料)制度を導入した米国においても、 (録音装置の)製造業者等は、支払 義務者として位置づけられている(米国著作権法 1004 条 (a) (1) ) ) 。 3)磁気的方法・光学的方法の別、標本化周波数、音や影像の固定媒体の別等に着目した規 定ぶりである。 「MD」 「DVD」等の商品名に注目した用語は、 政令上記載されていない(令 1 条参照) 。 146.
(3) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. を対象とし、これまで、新しいデジタル録音・録画機器等の普及の動きに対応 して、機器等が追加指定されてきた。具体的には、 「録音」について、平成 5 年に DAT(デジタル・オーディオ・テープ) 、DCC(デジタル・コンパクト・ カ セット)及 び MD(ミ ニ・ディス ク)対応 の 政令指定(令 1 条 1 項 1 号乃 至 3 号関係)が行われたことを皮切りに、平成 10 年には CD-R(コンパクト・ ディスク・レコーダブル)及び CD-RW(コンパクト・ディスク・リライタブ ル)対応の政令指定(令 1 条 1 項 4 号関係)が、そして、 「録画」については、 平成 11 年に DVCR(デジタル・ビデオ・カセット・レコーダー)及び D-VHS (データ・ビデオ・ホーム・システム)対応の政令指定(令 1 条 2 項 1 号及び 2 号関係)が行われたほか、平成 12 年には MVDISC(マルチメディア・ビデ オ・ディスク) 、DVD-RW(デジタル・バーサタイル・ディスク・リライタブ ル)及び DVD-RAM(デジタル・バーサタイル・ディスク・ランダム・アク セス・メモリー)対応の政令指定(令 1 条 2 項 3 号イ乃至ハ)が行われた。 更なる追加指定の是非等をめぐっては、デジタル技術の進展・変化や新しい 録音・録画機器等の登場を踏まえ、特に記録媒体内蔵型(一体型)の機器等を 補償金の対象にすることの是非を中心に、平成 16 年度以降、文化審議会著作 権分科会において検討が行われてきた。とりわけ、平成 18 年度からは、本件 を集中的に扱う私的録音録画小委員会も設置されたが、具体的な結論について 合意は得られず、同分科会としての検討は、平成 20 年度に一時中断した 4)。 4)平成 21 年 1 月文化審議会著作権分科会報告書 159 頁 ( 「補償金制度を巡る論点については、 3 年にわたる小委員会での議論を通じて、ある程度整理されたところであり、小委員会と しての議論は今期で終了することが適当であると考える。今後は、課題の緊急性にかん がみ、議論を休止するのではなく、新たな枠組みでの検討が適当であると考えるが、文 化審議会著作権分科会における検討が重要であることは言うまでもないが、同分科会の 枠組みを離れて、例えば権利者、メーカー、消費者などの関係者が忌憚のない意見交換 ができる場を文化庁が設けるなど、関係者の合意形成を目指すことも必要と考える。 」 ) (http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2101_shingi_hokokusho.pdf (閲覧日 2019.11.22) ) 147.
(4) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). その一方、政令による追加指定については、 「録画」に関してその後動きが あり、デジタル放送に係る「ダビング 10」の運用開始の問題とも複雑に絡み ながら、平成 21 年に、録画に係る Blue-Ray Disc(ブルーレイ・ディスク)対 応の政令指定が行われた(令 1 条 2 項 4 号関係) 。それとともに、同時期に、 デジタル放送に対応したアナログチューナー非搭載 DVD 録画機器に係る補償 金制度の適用(特定機器の該当性等)をめぐり、関係当事者間の争いが訴訟に 発展した。同訴訟は、平成 23 年 12 月に、知財高裁により判決(知財高判平成 23 年 12 月 22 日平成 23(ネ)第 10008 号(原審:東京地判平成 22 年 12 月 27 日平成 21(ワ)第 40387 号) )が出され (本稿において 「平成 23 年知財高裁判決」 という) 、 平成 24 年 11 月 8 日の最高裁による上告棄却・不受理(平成 24 年(オ) 第 567 号・平成 24 年(受)第 660 号)によって確定した。平成 23 年知財高裁 判決は、判決理由において示されている法令解釈等をめぐり、その問題点につ いての指摘もなされているところではあるが 5)、私的録音録画補償金制度に関 する主要な判決として、同制度の在り方について今後の方向性を検討する際に は、前提として確認しておく必要がある判決である。 同補償金制度をめぐっては、同判決による訴訟終結後、文化審議会著作権分 科会において検討が再開され、同分科会の下に設置された著作物等の適切な保 護と利用・流通に関する小委員会(以下「保護利用小委員会」 )において、特 に平成 27 年度以降、 「クリエーターへの適切な対価還元」をテーマとして検討 が進められている 6)。同小委員会では、学識経験者のほか、権利者・製造業者・ 5)本判決 に つ い て、肯定的 な 観点 か ら の 評釈 と し て、潮見佳男「判批」NBL974 号(平 成 24 年 4 月)32─39 頁及 び 駒田泰士「判批」ジュリ ス ト 臨時増刊 1440 号(平成 24 年 4 月)285─286 頁、全体的に批判的な観点からの評釈として、小泉直樹「判批」Law and Technology 55 号(平成 24 年 4 月)38─44 頁、田中豊「判批」コ ピ ラ イ ト 613 号(平成 24 年 5 月)60─66 頁、本山雅弘「判批」判例時報 2166 号(平成 25 年 1 月)167─172 頁及 び安田和史「判批」著作権研究 39 号(平成 26 年 3 月)289 頁などがある。 6)同小委員会は、これに先立ち、平成 25 年度から平成 26 年度にかけて「クラウドサービ ス等と著作権」について検討し、平成 27 年 2 月に報告書を取りまとめた。 148.
(5) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. 消費者等の関係当事者が委員となっており、長年議論が膠着状態にある同補償 金制度に係る問題の解決に向けて、鋭意検討が進められてきたところである。 その際、特に近年の議論において、当事者からの主張において、同判決に言及 されることも多くなってきた。 本稿は、文化審議会著作権分科会における近時の議論を踏まえながら、平成 23 年知財高裁判決を取り上げ、関係当事者による今後の議論の加速化を期し つつ、現行補償金制度の解釈論として導かれる同判決の射程範囲の確認を試み るものである。. 第二 文化審議会著作権分科会における議論の動向と知財高裁判決 1.近年の議論の内容 (1)概要 上記の通り、著作権分科会保護利用小委員会において、クリエーターへの適 切な対価還元をテーマとして検討が進められている。そこにおいては特に、補 償金徴収額が年々減少にある状況を踏まえ、補償金制度の見直しの観点も含め て検討が行われてきたところである。 保護利用小委員会における近年の議論の状況は、概略以下の通りである 7)。 同小委員会は、平成 27 年度以降、①クリエーターへの対価還元の現状、②補 償すべき範囲、及び③対価還元の手段の 3 点について、順次検討を進め、対価 還元手段としては、 「私的録音録画補償金制度」 (以下では単に「補償金制度」 7)文化審議会著作権分科会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会「著作物等 の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について(クリエーターへ の 適切 な 対価還元関係) 」 (平成 31 年 2 月) (以下、 「審議経過報告」と い う)18─65 頁参 照(http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/53/pdf/r1413733 _05.pdf) (閲覧日 2019.11.22) 。ただし、同小委員会は、平成 31 年度(令和元年度)に入っ てからは未だ開催されていない(令和元年 11 月 22 日現在) 。 149.
(6) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). という)とともに、その代替措置として提案のあった「契約と技術による対価 還元」及び「クリエーター育成基金」も含め、これら 3 つの選択肢について、 それぞれの意義や課題等を踏まえて検討を行った。その検討の結果、代替措置 として提案された「契約と技術による対価還元手段」及び「クリエーター育成 基金」については、補償金制度に「取って代わるものとしての位置づけと成し うるのかについては現時点では課題が残るところである。三つの選択肢のいず れかの手段を採用すれば足りるという性格のものではなく、これらの手段の組 合せも含めて、 対価還元を総合的に実現していくことが必要である。 」とした 8)。 その上で、補償金制度について検討を進めつつも、補償金制度における支払義 務や協力義務の位置づけに係る抜本的な見直しを行うことは現時点では課題が 大きいとし、このような状況の中で、 「機器等の価格に補償金を一律に上乗せ 徴収する現在の運用を前提として補償金制度による対価還元手段を検討する場 合、私的録音・録画の蓋然性が一般的に高くない汎用機器を補償金の対象とす ることは、引き続き課題として残る」としている 9)。すなわち、本件を巡って は、特にこれまで、汎用機器(パソコンやスマートフォンといった「主として 録音・録画の用に供する機器」とはいえない機器)を追加指定することの是非 が大きな争点となってきたが、汎用機器を補償金の対象として追加指定するこ とについては、現在の補償金制度における運用である「一律上乗せ徴収」方式 を前提とする場合には、一律徴収方式であるが故に、私的録音・録画を全く行 わない者から補償金を徴収する事態も一般に考えられることから、汎用機器を 補償金の対象とすることについては現時点で課題が残るとしたものである。 他方、クリエーターへの適切な対価還元のテーマは、私的録音・録画の実態 と補償金制度の間に乖離があるとの指摘を踏まえて問題提起されている課題で. 8)審議経過報告・前掲注 7)44 頁 9)審議経過報告・前掲注 7)51 頁 150.
(7) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. ある。そこで、同小委員会は、そのような複製の実態を新たに確認した平成 29 年度及び平成 30 年度の私的録音・録画の実態調査結果等を踏まえつつ、ま た、補償金制度に代替しうる対価還元手段が構築されるまでの手当てを講じる 必要があるとの問題意識のもと、引き続きの検討課題として、更に以下の 2 点 を確認した。 まず、1 点目は、現行の補償金制度の運用を前提とした場合であっても、な お追加指定すべき機器があるのではないか等を検証する必要があるとするもの である。すなわち、現行補償金制度は、補償金の対象機器・記録媒体について、 法律レベル(法 30 条 2 項)では具体的に指定せず、その範囲については政令 に委任しているが、政令(令 1 条)においては、機器について、 「主として録 音の用に供するもの」や「主として録画の用に供するもの」を個別に指定する 方式を採用している。これは、私的録音・録画の蓋然性の高い機器を補償金の 対象とするものであり、このことを踏まえ、 「相当の蓋然性をもって私的録音 (録画)に供されるであろう販売形態や広告宣伝が行われているものであって、 私的録音(録画)の実態が認められるものとして、具体的に何が該当するのか について、現在の実態を踏まえて確認していく必要がある」とした 10)。 2 点目は、 主として「録音」に関して検討が行われたものであるが、 現行の「一 律上乗せ徴収」方式の運用方法に捉われない新たな徴収方策を探っていっては どうか、とするものである。この点については、同小委員会の関係当事者(団 体)代表委員より、それぞれ異なる提案がなされた。具体的には、①私的録音 が行われる可能性が高いレンタル CD について、レンタル CD ショップにおけ る貸出時に補償金から補償金を徴収する方法(この場合、レンタル CD ショッ プを協力義務者と位置付ける)と、②録音機器等の購入時に課金する方法を維 持しつつ、購入者への一律課金ではなく、私的録音・録画の意向がある購入者. 10)審議経過報告・前掲注 7)53─54 頁及び 58─59 頁 151.
(8) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). のみから補償金を徴収する方法(この場合、製造業者等に協力義務を課す現行 制度を維持するとともに、①と異なり、レンタル CD に対象を限定しない)が 提案された 11)。 (2)保護利用小委員会における平成 23 年知財高裁判決に係る主な論点 このように、保護利用小委員会における検討はこれまで、検討すべき論点を 洗い出し、それらの論点一つ一つについて、段階を追って検討を行ってきたと ころであり、平成最後の著作権分科会会期である平成 30 年度(第 18 期)まで の検討では、このような過去の議論の積み重ねの上に立ちつつ、引き続き議論 を深めるべき点として上記の 2 点を明確にし、関係者の御尽力のもと、議論に 前進が見られたところである。 ただし、個別の論点の検討においては、必ずしも意見の一致を見ていないも のもある。とりわけ、私的録画に関する補償の要否について、著作権保護技術 との関係をどのように考えるべきかにつき、著作権等保護技術があれば補償が 不要であるということを主張する立場は、平成 23 年知財高裁判決が「 (録画源 に著作権保護技術が伴っているか否かは)私的録画補償金の対象とするか否か において大きな要素となっていることは否めない」と判示していることをそ の主張の根拠としている 12)。これが同判決の適切な評価といえるかについて、 検証しておく必要がある。 また、同小委員会は、上記(1)のとおり、引き続きの検討課題を 2 点に集 約化したが、そのうちの 1 点目の課題である、現在の「一律上乗せ徴収」方式 の運用を前提として補償金制度の手当(対象機器の追加指定等)を行う場合の 対応に関しては、さらなる制度見直し(改良)の余地はないかといった観点か. 11)審議経過報告・前掲注 7)53 頁 12)審議経過報告・前掲注 7)16 頁及び 55 頁 152.
(9) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. ら、特定機器・記録媒体の決定方法や補償金額の決定方法、共通目的事業など の見直しの要否等についても、課題となる。同小委員会では、これらの各論点 についても、継続検討を必要としている論点が多いが、その検討の際には、特 定機器等に係る政令個別指定方式の意義や、製造業者及び輸入業者の「協力義 務」 (104 条の 5)の法的性格についても、確認しておく必要がある。追加指定 等を検討する際には、政令による個別指定方式の維持の適否についても検討が 必要であるとともに、 「協力義務」については、協力内容の明文化の要否の検 討に当たり、 その法的性格(自然債務か否か)が考慮要素となりうるためである。 そこで、以下では、平成 23 年知財高裁判決について、①著作権保護技術と補 償の要否との関係、②政令指定方式の意義、及び③協力義務の法的性格につい て、同判決がどのように判示したのかについてまず確認し、その上で、本判決 について検討を行うこととする。. 2.平成 23 年知財高裁判決 (1)事案の概要 本事案は、私的録画補償金の権利行使することを目的とする指定管理団体で ある X(原告・控訴人)が、アナログチューナ―非搭載の DVD 録画機器の製 造業者である Y(被告・被控訴人)に対し、Y が、当該機器に補償金相当額を 上乗せ徴収しないことは、製造業者等に課せられている協力義務(法 104 条の 5)に違反しているなどと主張し、協力義務の履行として、又は、条理に基づ く上乗せ徴収・納付義務違反の不法行為責任があるとして、補償金相当額の支 払いを求めた事案である。 原審である東京地裁は、政令の文言に忠実な文理解釈を行い、Y のアナログ チューナ―非搭載 DVD 録画機器は、補償金制度の対象とされる特定機器(令 1 条 2 項 3 号)に該当すると判断しつつも、特定機器の製造業者等が負う協力 義務は、法律上の具体的な義務ではなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務 であると解されるとし、Y はその協力義務として当該製品に係る補償金相当額 153.
(10) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). の金銭を支払う義務を負うと認めることはできず、不法行為の成立も認められ ないとして、X の請求を棄却した(東京地判平成 22 年 12 月 27 日) 。これに対 して、X が控訴したものである。 (2)判旨 知財高裁は、控訴を棄却した。 知財高裁の判示における中心的な争点は、 (ⅰ)アナログチューナー非搭載 DVD 録画機器の特定機器該当性(特定機器に該当し、補償金制度の対象とい えるか) (争点 1) 、及び(ⅱ)協力義務の法的性質(法的強制力を伴わない抽 象的な義務か) (争点 2)の 2 点であり、争点 2 について、協力義務違反の場 合の損害賠償請求の「可能性」を肯定しつつも、争点 1 について特定機器該当 性を否定し、このため、Y には協力義務違反はないとしたものである。 その際、争点 1 における判示の中で、知財高裁は、 「解釈指針」として、補 償金制度の立法経緯に触れつつ、 「デジタル録音・録画といっても、音源や影 像源、録音・録画媒体そしてこれを扱う機器も含め、様々な態様のものが、技 術進歩、製品開発コンセプト、そして視聴者のニーズなどに応じて刻々に変化 していることから、補償金の必要性の有無は、録音・録画源、録音・録画機 器、録音・録画媒体に応じて政策的に策定されることを、法 30 条自体が予定 しているものである。このように補償金支払いの範囲確定は極めて政策的な意 味合いを持つことも含めて考えると、法は、 『デジタル方式』による録音・録 画との枠でひとまず補償金の対象を限定し、その中で更にどの範囲まで対象に 含めていくのかは、法 30 条 2 項が制定された趣旨にかんがみ、政令を改正す る都度検討されるべきものとされたことが更に明らかである。したがって、改 正で追加された施行令の規定についての解釈では、改正に際して念頭に置かれ た実態の範囲に即してされなければならないし、とりわけ、著作権法 104 条所 定の協力義務違反を問われるべき前提としての特定機器該当性を考えるに際し ては、施行令の文言に多義性があるとすれば、厳格でなければならない」とし 154.
(11) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. た。その上で、現行施行令 1 条各項の規定にある「アナログデジタル変換が行 われた」との要件 13)については、施行令改正の際の審議録等を踏まえ、 「録画」 については「アナログデジタル変換」の意味が「客観的かつ一義的に明確」で ないとし、かつ、背景事情として、政令による指定においては、 「関係者間の 協議を経てきた」が、アナログチューナー非搭載 DVD 録画機器について補償 金の対象とすることの「大方の合意」は「整っていなかったことが明らかであ る」とした。 また、上記「1」で述べた①~③の 3 つの論点に関しては、以下のとおり判 示した(下線は筆者が付したものである) 。 ① 著作権保護技術と補償の要否との関係 知財高裁は、上記争点 1 について、アナログチューナー非搭載 DVD 録画機 器を補償金の対象とすることについて大方の合意は整っていなかったと認定 し、 特定機器該当性を否定したが、 その際、 以下のとおり述べ、 録画源である「ア ナログ放送」と「デジタル放送」は「複製権侵害の態様において質的に異なる」 ことをその論拠とした。 「私的複製が容易となっていたことが,録画補償金制度が法定される大き な要因であったことからすると,著作権保護技術の有無・程度が録画補償金 の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定する ことができない。3 号が制定された当時の放送の実態は,著作権保護技術を 伴っていなかったアナログ放送からの DVD 録画であった(すなわち,録 画された DVD は原則として枚数の制限も世代の制限もなく複製可能であ る。 ) 。これに対し,デジタル放送の実態は,デジタル技術の上に乗っている が故に,実効性があり強制力を伴う著作権保護技術が開発され取り入れられ 13)なお、知財高裁の判決(32 頁)において、 「アナログデジタル変換が行われた」との要 件の根拠規定を「施行令 2 条 1 項、2 項の各号」としているが、 「施行令 1 条 1 項、2 項 の各号」の誤りと考えられる。 155.
(12) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). ているというにある。デジタル放送からのデジタル録画においては,画質が ほとんど劣化しないままに鮮明な画像を録画できるという意味では複製権 侵害の程度が高いのかもしれないが,著作権保護技術により再複製を始めと する世代にわたる複製は一般視聴者にとって不可能となっている(可能で あっても,法 30 条 1 項 2 号により私的複製として許される範囲外であるこ とが多い。 )点では複製権侵害の程度は低い。これに対し,アナログ放送か らのデジタル録画が自由に再複製できるのであるが,双方の私的複製内容の 対比は,一概に結論づけられるものではない。少なくとも, 現在では, 複製権 侵害がネット配信の形態で技術的に困難を伴わずに行えることにもかんが みると, このような侵害行為が私的複製の範囲外であるにしても, アナログ放 送のデジタル録画による複製権侵害の可能性の程度は深刻であり, この点で, デジタル放送録画との間には複製権侵害の態様において質的な差があると いうことができる。 」 「DVD 録画機が録画の対象とし, 施行令1 条2 項3 号が 追加された際に主として念頭に置かれた録画源がテレビ放送であったのは, 著作権保護技術を伴う市販ビデオテープや市販DVD からの複製が, 法30 条 1 項2 号によって, ほとんど私的複製として許される範囲外となっていたから であり, 録画源に著作権保護技術が伴っているか否かは, 私的録画補償金の対 象とするか否かにおいて大きな要素となっていることは否めない。 」 ② 政令指定方式の意義 このことについて知財高裁は、上記争点 1 に係る「解釈指針」で示したとお り、 「補償金支払いの範囲確定は極めて政策的な意味合いを持つことも含めて 考えると、法は、 『デジタル方式』による録音・録画との枠でひとまず補償金 の対象を限定し、その中で更にどの範囲まで対象に含めていくのかは、法 30 条 2 項が制定された趣旨にかんがみ、政令を改正する都度検討されるべきもの とされたことが更に明らかである」とした。知財高裁判決では、この判示以外 にも、例えば、以下のような言及もみられた。 「著作権法30 条2 項に基づき政令で録音・録画機器(特定機器) の範囲を定め 156.
(13) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. るには, その当時利用されていた機器が対象とする録音・録画源と録音・録画 規格を前提にし, 当該録音・録画機器の普及の状況や利用実態が検討され, 関 係者の協議等に基づく合意の程度が勘案されてきた。 」 「著作権法 30 条 2 項 の規定に基づき,新たに普及するに至った録音・録画機器を特定機器として 政令で指定するには,関係者間の協議を経てきた。…関係者間の協議には妥 協が伴うが, 反面, 妥協ができていない録画態様には, 録画補償金制度が適用 されることはないということができる。 」 ③ 協力義務の法的性格 これは、上記争点 2 についての論点であり、知財高裁は以下のとおり判示し た。 「特定機器の製造業者等による法 104 条の 5 に基づく『協力』の内容とし て具体的に想定されていたのは, 『特定機器の出荷価格に私的録画補償金相 当額を上乗せして出荷し,利用者から当該補償金を徴収して,指定管理団 体に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること』 ( 『上乗せ徴収・納付』方 式)であったことが認められ,他の方法が検討された形跡は見当たらない。 法104 条の5 はこのような上乗せ徴収・納付の態様による協力を主として念 頭に置いて規定されたものと理解できるが, その法文上, そのことは一義的に 明確ではない。本件訴訟で請求されているのはこの『上乗せ・納付方式』に 基づくものであるが,法 104 条の 5 の協力義務として,他に例えば,①特定 機器の製品パッケージに当該機器の購入者は指定管理団体へ補償金を支払 う義務があることや,その金額及び支払先等を表示する方法,②特定機器の 売り場において,製造業者等が自ら又は製造業者等から委託を受けた販売業 者が,特定機器を購入する者から補償金を徴収する方法などが想定されるの であるから,控訴人が上乗せ額を被控訴人に請求することができるとすべき 根拠は, 一義的にはないことになる。 」 「しかし,平成 11 年 7 月 1 日に私的録 画に係る特定機器を定めた施行令 1 条 2 項が施行されて以来,控訴人による 私的録画補償金の徴収は前記『上乗せ徴収・納付』 方式というべき方法…に 157.
(14) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). より行われてきたものであり, それ以外の方法で行われてきた事実は見当た らない。 」 「特定機器の購入者と指定管理団体との間には直接の接点はないた め,補償金の請求に際し購入行為を把握しうる立場にある第三者の協力が制 度の実現に必要となるところ, 録音・録画機器の発達普及が私的録音・録画を 増大せしめる結果をもたらしていることから, 録音・録画機器の提供を行っ ている製造業者等が, 公平の観念上, 権利者の報酬取得の実現について協力す ることが要請されていると考えられることなどとして,特定機器の製造業者 等は, 『補償金の支払の請求及びその受領に関し』協力しなければならない とされたものと解される…。 」 「法 104 条の 5 が製造業者等の協力義務を法定 し,また,指定管理団体が認可を受ける際には製造業者の意見を聴かなけれ ばならないと法 104 条の 6 第 3 項で規定されている以上,上記のような実態 の下で『上乗せ・納付方式』 に協力しない事実関係があれば, その違反につい て損害賠償義務を負担すべき場合のあることは否定することができない。製 造業者等が協力義務に違反したときに, 指定管理団体(本件では控訴人) に対 する直截の債務とはならないとしても, その違反に至った経緯や違反の態様 によってはそれについて指定管理団体が被った損害を賠償しなければなら ない場合も想定され, 法104 条の5 違反ないし争点3(被控訴人による不法行 為の成否) における控訴人主張を前提とする請求が成り立つ可能性がある。 」. 第三 検討 1.全体について(本判決の意義と問題点) (1)本判決の意義 本判決は、私的録音録画補償金制度について、その制度の主要な特徴である 製造業者等の協力義務の性格、及び政令で定める補償金の対象機器・記録媒体 (特定機器・特定記録媒体)の決定等に関し、 裁判所の考え方を示すものである。 本判決については、上記のとおり、現在の保護利用小委員会における検討にお 158.
(15) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. いて、特に近年、改めて注目されている。ただし、注意すべきことは、同小委 員会における検討は、国における審議会であり、当然のことながら、解釈論と ともに立法論も含めて検討が行われる場である。他方、現行法令の解釈につい ては、あくまで「立法論」とは区別すべきものであり、本判決についても、そ のような観点から、射程範囲を確認する必要がある。 この点、本判決は、争点 2 である協力義務の法的性格については、制度の趣 旨や運用実態を適切に踏まえず硬直的な文理解釈を行っていた原審判決を覆 し、法的安定性と結論の妥当性の調和を図る観点から、合理的な解釈を模索し たものといえ、後述のとおり、疑問なしと言い切れない点がないわけではない ものの、妥当な法解釈を示したものと評価しうる。 (2)特定機器該当性の判断 これに対し、争点 1 である特定機器該当性の判断においては、 「アナログデ ジタル変換」という政令で定める用語に着目した法令解釈において、立法政策 論も織り込んで解釈しているかに見える内容となっており、現行法令の解釈と しては勇み足であった面があると考えられる 14)。すなわち、知財高裁判決は、 特定機器該当性の判断においては、 「アナログデジタル変換」という政令で定 める用語に着目し、その解釈を行ったが、その際に、 「著作権保護技術」と補 償金との関係についても取り上げ、 「著作権保護技術の有無・程度が録画補償 金の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定するこ とができない」とも判示した。本判決は、その上で、DVD 録画機器(令 1 条. 14)本山・前掲 5)171 頁は、 本判決が、録画源における保護技術導入の有無と補償金対象 の該当性との相関関係を説いたことについて、 「政策論ないし立法論に関する見解とし てであれば格別、 現行法の解釈論として妥当性を備えるかは疑問である」と述べる。安田・ 前掲 5)290 頁も、 「著作権保護技術との関係を判断の前提として含めることについては 疑問がある」とする。 159.
(16) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 2 項 3 号)が特定機器として追加指定された当時に主流であったアナログ放送 に比べ、その後に広まったデジタル放送については、より実効性を伴う著作権 保護技術が可能であるとして、アナログ放送との質的な違いに着目し、焦点と なっていたアナログチューナー非搭載 DVD 録画機器については、現行の規定 に含まれないとして、特定機器該当性を否定したものである。 判決文を注意深く、かつ、好意的に読むとするならば、この説示は、アナロ グ放送を録画源とするデジタル録画と、デジタル放送を録画源とするデジタル 録画とでは、 「質的な差がある」ということを述べることに主眼があり、これ は、立法当時の関係当事者の合意範囲には「デジタル放送」を録画源とするも のは含まれていないとする自らの結論を補強する材料として述べたに過ぎない ものと考えられる。本判決は結論として、アナログチューナー非搭載 DVD 録 画機器について、現行の政令規定では読めないとの判断を下したが、それ以上 に、例えば、いわゆる「ダビング 10」を採用するデジタル放送を録画源とす るデジタル録画について、それを補償の範囲に含めるのか否かといったことや、 含めるとしたらどの程度とすべきか等の具体的な当てはめについて、言及して いるものではない。ましてや、著作権保護技術の採用についての権利者の意向 の有無によって補償の判断の範囲が変わりうるかといったことについても、一 切言及はない。これは、取りも直さず、このような具体的な判断は政策判断に 委ねているということであり、当然のことながら、デジタル放送によるデジタ ル録画は「録画補償金の補償は不要である」などと結論付けたものでも一切な い 15)、ということは改めて確認しておきたい。 15)村井麻衣子「判批」知財管理 62 巻 11 号(平成 24 年 11 月)1623 頁 は、 「本判決 も、デ ジタル放送とアナログ放送の質的な差について言及しているが、直接にそれを理由とし て特定機器該当性を否定しているわけではない。一切のコピーを禁止する著作権保護技 術が用いられている場合は別として、コピーが一定の制限を受けている場合でも、私的 複製が行われうる以上は、補償金を支払うべき理論的な基礎が失われるとはいえない。 」 と述べる。 160.
(17) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. ただし、このように、デジタル放送のデジタル録画について、その補償の適 用範囲についての具体的な結論を示したものではないとはいえ、著作権保護技 術と補償金の相関に係るこのような説示は、誤解を招きやすい不必要な言及で あった。知財高裁は、 このような言及よりも、 むしろ、 法 30 条 2 項の立法趣旨や、 「補償」の法的根拠についての法解釈を丁寧に論じた方が、その後の保護利用 小委員会における委員間の議論の状況 16)を踏まえれば、より有意義であった であろうと考えられる。 (3)録画源としてのアナログ放送とデジタル放送の「質的な差」 さらに言えば、本判決は、著作権保護技術と補償金の適用範囲に係る具体的 な説示についても、疑問を感じざるを得ない点がある。それは、アナログ放送 のデジタル録画と、デジタル放送によるデジタル録画の「質的な差」について、 判決が、 「複製権侵害の態様」に着目している点である。 いうまでもなく、私的録音録画補償金は、法 30 条 1 項により「私的使用の ための複製」として合法的に認められるデジタル方式の録音及び録画について 発生する補償金であり、著作権等「侵害」により実現する録音・録画について は、補償金の対象範囲外である。にもかかわらず、本判決は、著作権保護技術 により再複製をはじめとする世代にわたる複製が一般的に不可能であるデジタ ル放送と対比し、アナログ放送からのデジタル録画については自由に再複製で き、 「少なくとも,現在では,複製権侵害がネット配信の形態で技術的に困難 を伴わずに行えることにもかんがみると,このような侵害行為が私的複製の範. 16)保護利用小委員会の審議経過報告(前掲注 7)では、補償の必要性につき、 「私的複製に よる不利益が権利者に生じている評価できる場合は、原則として、権利者への補償が必 要であると考えられる」として、法的利益の侵害の観点から整理を行っているが、経済 的な不利益の発生がある場合に限られるとする観点からの反対意見も脚注において紹介 されている(10-11 頁) 。 161.
(18) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 囲外であるにしても,アナログ放送のデジタル録画による複製権侵害の可能性 の程度は深刻であり,この点で,デジタル放送録画との間には複製権侵害の態 様において質的な差があるということができる」とした。本判決はこのように、 著作権保護技術と補償金の適用範囲の相関関係を説示しつつ、その文脈の中で、 複製権侵害の可能性といった「複製権侵害の態様」の違いを強調した。しかし、 この説明を、著作権保護技術と補償金の適用範囲の相関関係の説示の中で行っ たことにより、あたかも、補償金は、合法的な「私的複製」とはいえない複製 をも広く考慮して制度化されているものであるとの更なる誤解を招きかねない 説示となっている。もとより、判決では、複製権侵害行為は「私的複製の範囲 外」であることを確認しており、また、運用実態として、過去の録画補償金の 額 17)は、著作権保護技術が付されていなかったことによる侵害複製を考慮し て決定されていた、としているわけでもない。 結局のところ、知的財産高裁判決における著作権保護技術と補償の対象範囲 に関する一連の説示は、上記のとおり、アナログ放送を録画源とするデジタル 録画と、デジタル放送を録画源とするデジタル録画とでは、 「質的な差がある」 ということを述べることに主眼があったものと理解するにとどめることが適切 と考えられる。 (4) 「厳格な解釈」という名の限定解釈 また、本判決は、上記以外にも、補償金の支払義務の対象範囲という、明確 性が求められるべき特定機器該当性の判断について、 「録音」と「録画」につ いて異なる解釈を行った。すなわち、 令 1 条 1 項(録音機器関係)及び 2 項(録 画機器関係)各号で用いられている「アナログデジタル変換」 (アナログ信号 17)録画補償金は、特定機器及び特定記録媒体ともに、基準価格の 1 パーセントとされてい た(ただし、録画補償金の指定管理団体(一般社団法人私的録画補償金管理協会)は平 成 27 年に解散し、録画補償金は現在徴収されていない) 。 162.
(19) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. をデジタル信号に変換すること)という用語について、録音録画源に関する特 定機器追加当時の実態に鑑みると、 「録音」については、デジタルアナログ変 換処理が行われる場所は特に問わないとしたのに対し、 「録画」についは、 「放 送波がアナログであることを前提にしてこれについてアナログデジタル変換を 行うことが規定されていると解する」として、アナログデジタル変換は機器内 部で行われる場合に限るとする限定解釈(縮小解釈)を行ったものである 18)。 「変換」の場所については、政令の文言上、何ら制限を設けていないことから、 文言を素直に解釈するならば、変換の場所は問わないこととなるはずである が、録画に限っては、機器外部での変換は含まれないとする「厳格」な解釈を 行ったものである。立法経緯を踏まえれば、 「当事者」の合意を重視する必要 は一定程度認められるとも考えられるが、同じ法令の同じ条文内の同一用語の 解釈について、異なる解釈を行うことは適切であったのか、特に、本判決が、 法 30 条 2 項における「デジタル方式」との法要件と政令委任との関係につい て誤解があったと考えられることを踏まえると 19)、疑問が残る。 ただし、特定機器等を定める現行施行令は、技術的事項に着目し、個別に対 象を指定する法形式となっている。技術的事項に着目した規定ぶりとなってい ることから、一見、厳密に指定しているかのような印象を与えるが、本判決で 示されたように、具体的なあてはめにあっては、 「客観的かつ一義的に明確で 18)安田・前掲 5)289 頁も「施行令 1 条 1 項 2 号は、対象となった機器の性質上、そもそ も場所的限定が無いと解されることから、施行令 1 条 2 項 3 号について、機器の内部で 『アナログデジタル変換が行われた』と解することは、厳格解釈を超えた縮小解釈であ るとも指摘できよう」としている。 19)本山・前掲 5)170 頁は、立法経緯を踏まえれば、法 30 条 2 項の「デジタル方式」との 文言は、補償金対象機器を限界づける意味を欠いていたにもかかわらず、この文言を手 掛かりに「実態」に即した厳格な政令解釈を行った本判決は、 「法律要件と政令要件と の関係について誤解に立脚するもので、十分な合理性を備えた解釈論とはいいがたい」 と述べる。 163.
(20) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). あるということはできない」などという事態も生じている。このことに加え、 そもそも、技術的事項に着目した規定ぶりになっているから、一般消費者(機 器等の購入者)にとってみれば、どの商品が補償金の対象になっているのか全 くと言って良いほどわからない状況である。したがって、今後、補償金制度に ついて見直しが行われるのであれば、本判決において「客観的かつ一義的に明 確であるということはできない」と指摘があったことを踏まえれば、特定機器 や特定記録媒体の対象について、より分かりやすく、かつ、明確性を持った形 での規定ぶりに改めるということも、立法論としては検討に値しよう。. 2.保護利用小委員会における 3 つの論点について (1)著作権保護技術と補償の要否について 知財高裁判決において、 「録画源に著作権保護技術が伴っているか否かは、 私的録画補償金の対象とするか否かにおいて大きな要素となっていることは否 めない」とするフレーズがある。保護利用小委員会においては、このことを踏 まえて、著作権保護技術が「適用されたコンテンツは、契約と技術によるコン トロールが可能であることから補償は不要と考える」との意見 20)も出された。 もとより、知財高裁判決は、著作権保護技術があれば補償は不要などと述べ ているものではないが、そのような誤解は、多分にこのフレーズの文言に起因 するものと考えられる。しかし、当該文言は、その直前の記述とあわせて注意 深く読めば、具体的な例示を伴った、極めて限定された場面について言い表し たものに過ぎないことが理解できる。すなわち、同箇所は、私的録画補償金が 対象として念頭においていた録画源はテレビ放送であって、市販ビデオテープ や DVD ではなかった理由について、これは「著作権保護技術を伴う市販ビデ オテープや市販 DVD からの複製が,法 30 条 1 項 2 号によって,ほとんど私. 20)審議経過報告・前掲注 7)16 頁 164.
(21) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. 的複製として許される範囲外となっていたからであり、 」とする説明に続く文 章である。私的録画補償金は、 「私的複製(私的録画) 」に係る補償金であるか ら、著作権保護技術により「私的複製」がほぼ不可能なのであれば、そもそも 補償の根拠を欠くことになる。したがって、そのような著作権保護技術が適用 されている場合には、私的録画補償金の対象とはそもそもなりえない(補償の 対象となるべき「私的複製」が存在しない)という、当然の事例を述べたに過 ぎないのである 21)。 なお、この点に関し、知財高裁判決を改めて見ると、著作権保護技術に関す る一連の判示箇所の冒頭において、 「著作権保護技術の有無・程度が録画補償 金の適用範囲を画するに際して政策上大きな背景要素となることは否定するこ とができない」と示している。これは、 「著作権保護技術があれば補償金は不要」 ということではなく、 「著作権保護技術の有無・程度」が「補償金の適用範囲」 に影響を与えるとする一般論を示すものである。そもそもこのような説示を特 定機器該当性の「法解釈」の文脈において行うことは、上記のとおり、適切で はなかったと考えるが、この内容だけでいえば、立法政策論としていえば、一 概に否定されるものでもないと考えられる。すなわち、 「著作権保護技術」の 適用によって、 「補償金」の対象である 「私的複製」の質や量が物理的に変化し、 例えば、本判決が具体例として示すとおり、 「私的複製」がゼロになるのであ れば、 「補償金」の対象も消滅するということになるであろう。また、仮に「私 的複製」がゼロにならないにしても、権利者の意向を踏まえて著作権保護技術 が導入された結果、 「私的複製」の量が、著作権保護技術が全くない状態に比 べて著しく減少する場合には、それに伴って補償金の金額も調整する、という ことも考えうる。しかしいずれにしても、 これらは政策判断に属する問題であっ て、実際にどのような場面で、どのように結論付けるべきかについては、一概 21)この指摘については、審議経過報告・前掲注 7)16 頁脚注 17 においても、適切に言及さ れている。 165.
(22) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). に断じうるものでもなく、また、少なくとも、著作権保護技術と補償金との関 係についての明文規定を欠く我が国の著作権法において、 「法解釈」として導 きうるものでもない 22)23)。 (2)政令指定方式の意義について 知財高裁は「著作権法 30 条 2 項の規定に基づき、新たに普及するに至った 録音・録画機器を特定機器として政令で指定するには、関係者の協議を経て きた。 [中略]関係者間の協議には妥協が伴うが、反面、妥協ができていない 録画態様には、録画補償金制度が適用されることはないということができる。 」 と判示した。 これは、特定機器の指定においては、関係者協議を経ることが不可欠だとす る「制度論」を述べたものでなく、あくまで、立法経緯を踏まえて、 「関係者 の協議を経てきた」という過去の経緯や実態を述べたものである。保護利用小 22)本山・前掲 171 頁は、ドイツ法における補償金制度における技術的保護手段の考慮規定 (ドイツ著作権法 54a 条 1 項)は、私的複製制度そのものの存廃問題にも及ぶ根本的な 議論を経たうえで初めて置くことができたものあり、そのような規定を欠く我が国著作 権法とはその前提を異にすると述べる。 23)こ の点、欧州における状況をみると、EU 情報社会指令第 5 条 2(b) (2001 年 5 月)で は、EU 加盟国が複製権の例外や制限を設けることができる場面として、権利者が公正 な補償(fair compensation)を受けることを条件とする私的複製を想定しているが、そ の 公正 な 補償 は「技術的手段 の 適用 ま た は 不適用 を 勘案(which takes account of the application or non-application of technological measures) 」するものと規定している。こ れを受けて、例えばドイツ著作権法第 54a 条 1 項では、私的複製に係る報酬の額につい て、 「技術的保護手段が当該著作物に適用される程度を考慮しなければならない」とし ており、 「機器の性能、記録媒体の記録容量及び書き込み可能性」 (同条 3 項)とともに、 著作権保護技術の「程度」を、報酬額の多寡に影響しうる要素として位置付けている。 (公益財団法人著作権情報センター附属著作権研究所「私的複製に関する諸外国調査報 告 書」 (平 成 30 年 3 月)10 頁 参 照) ( http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/ tokeichosa/chosakuken/pdf/r1393032_06.pdf) (閲覧日 2019.11.22) 166.
(23) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. 委員会においては、政令による個別指定方式の在り方の見直しの是非について も論点に上がっているが 24)、本判決は、同小委員会で議論されているような、 政令による個別指定方式は維持すべきであるかとか、その見直しは不要である かといった帰結まで示したものでもないことはいうまでもない。 更に言えば、本判決は同様に、特定機器の追加指定については、追加指定を 検討するそれぞれの機器ごとに、権利者が被る不利益(経済的損失)について 検討する必要があるということまで示したものでもない。本判決は、補償金の 適用範囲について、著作権保護技術との相関性についても一部言及したが、当 該言及が不適切であったことは置いておくとしても、どのような場合に補償金 の適用範囲に入るか等については、経済的損失との関係も含め、具体的に論じ ているものではない。むしろ、補償範囲を狭くする方向での考慮要素として、 著作権保護技術を敢えて取り上げたと考えられることを踏まえれば、本判決 は、法 30 条 2 項による補償範囲を原則として広く捉えることを前提としつつ、 著作権保護技術の採用状況も必要に応じて考慮しながら、政策判断により、政 令で個別に指定するという現行政令の法構造を解説したものということができ る。 その意味で本判決は、特定機器や特定記録媒体の範囲については、高度な政 策判断を要する事項として、当事者間の協議や立法政策に全面的に委ねたもの であり、それらによる解決に期待を示したものと見るべきと考えられる。 (3)協力義務の法的性格について 知財高裁判決 は、製造業者及 び 輸入業者 の「協力義務」 (法 104 条 の 5)に 係る「協力」の内容として、 立法過程において具体的に想定されていたのは「上 乗せ徴収・納付方式」であったことが理解できるとしつつも、 「法文上、その. 24)審議経過報告・前掲注 7)60─61 頁 167.
(24) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). ことは一義的に明確ではない」とした。しかしその一方で、 「 『上乗せ・納付方 式』に協力しない事実関係があれば、その違反について損害賠償義務を負担す べき場合があることは否定することができない。 」とした。 本判決は、原審判決が、制度の趣旨や運用実態を適切に踏まえず、硬直的な 文理解釈に終始した判断を行っていたのに対し、法律の文言を重視しつつも、 全体的に、立法経緯や運用実態等に配慮した法解釈を試みており、その点は評 価できるものである。すなわち、原審判決は、協力義務の性格について、広辞 苑の記載や法 104 条の 5 の規定の文言等の参照により、 「 『協力』の具体的な行 為ないし内容が文言上特定されているものとはいえない」などとして、 「法的 強制力の伴わない抽象的な義務」であるとしていた。この点、本判決は、製造 業者等による協力義務は、その方法は法文上は一義的ではないとしつつ、私的 録画補償金が実施されて以降、指定管理団体(一般社団法人私的録画補償金管 理協会)による徴収は「上乗せ徴収・納付」方式以外の方法で行われてきた事 実は見当たらないと認定し、また、協力義務は「公平の観念上」法定化された ものであることを踏まえ、製造業者等が「上乗せ・納付方式」に協力しない事 実関係があれば、その違反について損害賠償義務を負担すべき場合のあること は否定することができないとしたものである。 製造業者等の「協力義務」については、条文上、 「指定管理団体が私的録音 録画補償金の支払を請求する場合には、特定機器又は特定記録媒体の製造又は 輸入を業とする者は、当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関 し協力しなければならない。 」 (104 条の 5)と規定されている。このように義 務として明確に法定され、かつ、私的録音録画補償金制度の根幹部分の一つで あるという点を踏まえず、本協力義務について、国語辞典を引きながら単なる 抽象的義務に留まると断じていた原審の判断は、不適切であった。ただし、原 審を覆した本判決についても、 「上乗せ・納付」方式が当事者の共通の理解で あることを認定しながらも、協力義務の履行の方法は法律の文言からは一義的 ではないとして、指定管理団体に対する「直截の債務」とならないとした点は 168.
(25) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. 適切であったとは言い難い。本判決は、全体を通じて、立法趣旨や実態、関係 当事者の意向等を重視している点では、原審判決に比べて、より具体的妥当性 を志向した法解釈を試みるものとして、その限りでは評価しうるが、そのよう に関係当事者の意向や実態を重視するのあれば、法文上「一義的に明らかでな い」協力義務の内容については、 「厳格な解釈」により、 「上乗せ・徴収」方式 による協力がその内容であると解釈(限定解釈)することも考えられたのでは ないか。このように本判決は、実態をより重んじる姿勢を示しながらも、特定 機器該当性の判断においてはそれを踏まえて「厳格な解釈」を行った一方、協 力義務の法的性格の判断においては同様の解決手法を採用しなかった点に、首 尾一貫性を欠くという印象を禁じ得ない。特に、現在の施行令は、特定機器に ついては、 「主として録画(録音)の用に供するもの」のみを対象としている のであるから、このような制度及び運用実態を踏まえれば、協力義務の内容に ついて「上乗せ・納付」方式がその典型的な内容であることは明らかであり、 「一義的に明確ではない」とするのは形式的にすぎる判断であったと考える。 とはいえ、協力の内容について、法律の文言上は、 「上乗せ・納付」方式以 外も必ずしも排除されていないということは、その通りである。特に、補償 金制度については、今後、仮に補償金制度の運用が見直され、 「上乗せ・納付」 方式以外の方式による徴収方式が新たに実施される等の場合には、それらの新 たな方式に対応して、 「協力」義務の内容が追加されたり、変化していく可能 性もあるが、現在の規定ぶりであれば、それらも包摂しうることになる。協力 義務の方法が「一義的に明確ではない」とする本判決を踏まえて、具体的な行 為例を法文上明記していくべきなのか、内容の明確性と柔軟性の確保のバラン スを踏まえどのような立法が最適かについて、運用の見直しの議論とも併せて、 今後検討が進められていくものと考えられる。. 169.
(26) 横浜法学第 28 巻第 2 号(2019 年 12 月). 第四 結びに代えて 保護利用小委員会における私的録音録画補償金に関する議論は、議論は必ず しも収束していないものの、近年、着実に前進している。 本稿で取り上げた争点以外にも、本件訴訟においては、 「二重の負担」につ いても当事者間で意見の対立があった。平成 23 年知財高裁判決では言及され なかったが、この点に関し、保護利用小委員会では、 「録音」について、一定 の考え方の整理 25)を行い、議論の前進を見ている。また、同小委員会では、 完全解の提示は直ちには困難であることを認識しつつ、補償金制度に代わる代 替措置が構築されるまでの間の「当面の手当て」を講じていく必要があるとい う問題意識のもと、検討が鋭意進められている。 本判決は、法 30 条について、次のように述べている。 「デジタル録音・録画といっても、音源や影像源、録音・録画媒体そして これを扱う機器も含め、 様々な態様のものが、 技術進歩、 製品開発コンセプト、 そして視聴者のニーズなどに応じて刻々に変化していることから、補償金の 必要性の有無は、録音・録画源、録音・録画機器、録音・録画媒体に応じて 政策的に策定されることを、法 30 条自体が予定しているものである。 」 このような法構造であることを踏まえれば、デジタル技術等の進展に伴い、 その実態と制度の乖離が現に生じ、あるいは生じる恐れがある場合には、その 矛盾解消に向けて、制度的解決に向けた検討も含め、速やかに解決をしていく 政策を講じていくことが求められることは、言うまでもない。また、本判決は、 「ハードディスク録画や携帯端末への録画転送など DVD 以外の手段によるタ イムフィフティング、プレイスシフティング視聴も幅広く可能になってきてい 25)保護利用小委員会では、ダウンロード型音楽配信による最初のダウンロードは許諾の範 囲内であり、 補償金の対象である「私的複製」の範囲外であると整理した(審議経過報告・ 前掲脚注 7)4 頁等) 。 170.
(27) 私的録音録画補償金制度をめぐる近年の議論と平成 23 年知財高裁判決. る」と述べ、特定機器等として現在は指定されていない機器や記録媒体による 複製実態についての言及も行っている。 本判決は、まさに、デジタル録音・録画商品やデジタル技術の急速な進展・ 変化に対応し、適切な対価還元という観点からどのような制度のあり方が望ま しいのかについて、関係当事者による解決に向けた議論を後押しするものと捉 えることができる。現在の実態を踏まえつつ、また、将来の在り方も同時に視 野に入れながら、これまでの長年の検討の土台の上に建設的な議論が更に進み、 現実的な解決策の提示と実現に向けて、議論が前進していくことを期待したい。. 171.
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第16回(2月17日 横浜)
(単位:千円) 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度 1,772 決算 2,509 2,286 1,891 1,755 事業費 予算 2,722 2,350 2,000. 1,772 決算
連結会計 △ 6,345 △ 2,963 △ 1,310 7,930 724 普 通会計 △ 6,700 △ 2,131 △ 3,526 6,334 △ 970. 基礎的財政収支
北区無電柱化推進計画の対象期間は、平成 31 年(2019 年)度を初年度 とし、2028 年度までの 10
平成 28(2016)年 5 ⽉には「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、中期⽬標として「2030 年度に おいて、2013
北区の高齢化率は、介護保険制度がはじまった平成 12 年には 19.2%でしたが、平成 30 年には
2011 (平成 23 )年度、 2013 (平成 25 )年度及び 2014 (平成 26 )年度には、 VOC
− ※ 平成 23 年3月 14 日 福島第一3号機 2−1〜6 平成 23 年3月 14 日 福島第一3号機 3−1〜19 平成 23 年3月 14 日 福島第一3号機 4−1〜2 平成