<特別寄稿>これからの教員養成に期待すること : 「インクルーシブな学校」創りに向けて
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(2) これからの教員養成に期待すること. ひとりが、子どもたち一人ひとりとしっかり向き合い、. このように、神奈川の「支援教育」は、その時代ごと. 協働して取り組んでいることです。. にノーマライゼーション、インクルージョンを目指す中. 三点目は、学校の唯一のルールとして「自分がされて. で、個の教育的ニーズに応じた適切な支援を行うことを. いやなことは人にしない、言わない」という、「たった. 中心に取組を進めてきました。その一方で、子どもたち. ひとつの約束」があるということです。. が共に学ぶことについては、残念ながら、十分な取組と. この三点に共通することは、何か。それは、大空小学. いうまでには至りませんでした。. 校の理念である「すべての子どもの学習権を保障する学 校を創る」に見られる、「人権尊重」の考え方であると 言えます。もう少し具体的に言うならば、 ・すべての子どもには、各々に成長するための権利 を保障されていること ・すべての子どもは、大人(社会)によって「守ら れる権利」を生まれながらに持っていること ・すべての子どもは「守られる」存在であるだけで はなく、子ども自身も社会を創る役割を担っている 一人であること といった考え方であると思います。. (支援教育からインクルーシブ教育へ) こうした中、特別支援教育をめぐる社会的背景や要請 は変化し、障害者の権利に関する条約(H 18.12)や障 害者基本法の改正(H 23.8)中央教育審議会の報告(H 24.7)、さらには、H 26 年 1 月の「障害者の権利条約」 の批准など、インクルーシブ教育に対する取組が注目さ れるようになりました。 そして本県においても、平成 25 年8月「神奈川の教 1. 育を考える調査会」から最終まとめが出され、 ・「障害のある児童・生徒が特別支援学級等から通常. こうした考え方を基にして、大空小学校が、どこにで. の学級に移行し、共に学びやすくする環境づくりを. もある地域の学校として、家庭・地域との協働により、. 進めていく必要がある。. 地域で生活する多様な子どもたちを受け入れ、学ぶ場と. ・「障害のある児童・生徒が、小・中学校において通. して日々の教育活動を行っていることは、これからの新. 常の学級に在籍し、必要な時間に適切な指導を受け. しい学校の一つのモデルとして参考にすべき取組と言え. る通級指導のしくみを促進する必要がある。. ます。. ・「特別支援学級等を卒業する障害のある生徒の進路 選択の幅をさらに拡大するためには、発達障害など. (神奈川の支援教育). の支援を要する生徒に対し、インクルーシブな教育. 次に、これまで本県が取り組んできた「支援教育」に. を実践できる高校づくりを検討し、より連続性のあ. ついて振り返ってみたいと思います。 神奈川の「支援教育」は、障害のあるなしにかかわらず、 不登校や外国につながりのある子どもたちも含め、自分. る特別支援教育を実現していく必要がある。 といった、インクルーシブ教育の推進が提言されまし た。. の力だけでは解決することができない課題を教育的ニー ズとしてとらえ、ニーズに応じた内容、方法で子どもた ちに働きかける教育として推進してきました。. (「インクルーシブな学校」創りへ向けて -多様なニーズに応じる地域の学校を創る-). この「支援教育」は、昭和 59 年に出された「福祉総. こうした社会的な動きを見据え、あらためて、これま. 合政策の推進のために」の提言を受け、障害のある子ど. での「支援教育」の成果と課題を踏まえ、今後の進むべ. もたちの教育の進むべき方向性を「共に学び共に育つ教. き方向について整理しました。. 育」とし、すべての子どもたちが同一空間(教室)、同 一時間、同一内容で学ぶことを基本としたことに始まり ます。 その後、平成 14 年に「これからの支援教育の在り方」 の報告が出され、障害のあるなしにかかわらず、様々な 教育的ニーズに適切に対応していくこととし、現在に 至っています。. 4. 1 平成 24 年1月に、知事を本部長とする「緊急財政対 策本部」を設置し、教育のあり方については「緊急財政 対策本部調査会」において、「専門家も交えた別の組織 を設け、十分に議論を尽くした上で結論をだすべき」と の意見が出されたことを受け設置された。平成 24 年9 月3日に初会合がなされて以降、 「義務教育」「高校教育」 「特別支援教育」「神奈川の教育を支える環境整備」の4 つの項目について議論を重ね、平成 25 年8月に最終報 告が出された。.
(3) これからの学校は、共生社会の実現に向け、できるだ けすべての子どもたちが同じ場で共に育ち、共に学ぶこ とを通してお互いを理解し、お互いを大切にし、共に生 きていくことの大切さについて学ぶことのできる場を提 供することにあります。. (教員養成に期待すること -これからの教師に求められることとは-) <①求められる多様な人材> 教員養成には、指導技術やスキルの習得と併せて、教 育観や人間理解、社会事象への関心といった知性や教養. そこには、先ほど紹介した大空小学校での取組に見ら. も含め、複線的に行っていくことが重要であると感じて. れるような人権尊重の考え方を基本とした教育を進めて. います。生徒一人ひとりを見とり、個に応じた教育を実. いくことが何より重要であると考えました。. 践していくには、教職を目指す学生一人ひとりが、それ. そこで、支援教育の理念のもと、共生社会の実現を目 指し、すべての子どもたちが同じ場で共に学び共に育つ. ぞれの問題意識を持ち、多様な成長を遂げていくことが 何よりも望まれます。. ことを通して、相互理解の機会を増やし、お互いを理解. 本県が目指す「インクルーシブな学校」は、多様な子. し尊重し合うことの大切さを、すべての人に働きかける. どもたちが学ぶ場であり、その多様性を受け止め、人間. 教育を本県では「インクルーシブ教育」と定義し、その. 関係を築き、学力を身に付けさせ、育てていくことにあ. 実現を目指し、. ります。そのために、学生(教師)に求められることは、. ・できるだけ地域の学校で学ぶしくみづくり. ①人権意識が醸成されていること. ・できるだけ通常の学級で学ぶしくみづくり. 一人ひとりの「ひと」を大切にし、お互い様という. ・できるだけ高校で学ぶしくみづくり. 気持ちをもって、共に生活できること。. ・地域で共に生きるしくみづくり. ②大人として、子どもとの関係性が作れること. に取り組んでいくこととしました。そして、こうした. 子どもがよりよく育ってほしいという思いで、子ど. 取り組みが進むことで、学校という「場」が子どもたち. もを、共に生きるパートナーとしての意識を持って. にとって、. 接することができること. ○相互理解が育まれ、人格と個性を尊重し支え合える場. ③学校という場が、子どもの「いのち」 (心の「いのち」. ○互いの良さや多様性を認め、協働し、進んで学べる場. と身体の「いのち」の2つの「いのち」)を預かる. ○自立し、社会参加できる場. 場であることを理解していること(できること). となることが、これからの新しい時代にふさわしい学 校-インクルーシブな学校-であると考えました。 (図1参照). ④教科指導と生活指導(生徒指導を含む)を一体的に 行うことが学校教育にとって重要であることを理解 していること(できること). 図 1 インクルーシブな学校づくり ①~④は特別なことではありません。しかし、技術や ノウハウが上達したからといって可能になることではな く、挨拶や礼儀といった、人として当たり前のことを当 たり前にできることと同じように、教師として子どもを 教え、導くためには必要なことです。こうしたことをど こで学ぶか、誰が教えるか。必要な場面で教えていくし かないように感じています。 <②継続的な実践の機会 -スクールライフサポーター派遣事業から見えること> ここで、県教育委員会が実施している「スクールライ フサポーター派遣事業」を例に、実際に、子どもと関わ ることで学生の中に生じた「変化-振り返り-」がいか に重要であるかということを一つの例を取り上げで紹介. 教育デザイン研究 第7号(2016年1月) 5.
(4) これからの教員養成に期待すること. したいと思います。. 資 料 1 「 て ん て い き ら い 」( は に い 第 4 号 ). 紹介する前に、簡単に事業概要を説明します。本事業 は大学と連携して大学生等を小学校に派遣するというも ので、今では政令市をはじめとして多様な展開がなされ ています。本事業がスタートした平成 19 年度は、いじめ・ 暴力行為等、子どもたちの問題行動等への効果的な取組 みの一つとして、NPOとの協働事業「フレンドリースッ タフ事業」として位置付けていました。派遣する大学生 に対し、事前研修を実施したり、学生からの相談に対応 するコーディネーターを置くなど、学生を支える体制も 整え事業を進めていきました。 平成 23 年度からは、県教育委員会が大学と市町村の 窓口として学生等の募集、研修を実施することとし、併 せて、県立総合教育センターの事業である「かながわ ティーチャーズカレッジ」の活動の一部とするなど、内 容の充実・拡大を図ってきています。 事前研修は、教育理念、人権教育、特別支援教育、レ クリエーション演習、児童・生徒指導、教育相談、教科 指導技術等といった内容で 2 日間に渡って行っています。 講師は、NPO関係者や大学教授、県教育委員会の指 導主事等が務めています。 この事業の実績は、平成 21 年度は、155 校の小学校 からの希望に対して 85 校に 22 大学から 126 名の学生 を派遣し、平成 26 年度には、138 校の希望に対し 116 校に 36 大学から 205 名の学生を派遣しています。 それでは、この事業に参加した学生の体験を紹介しま す。県教育委員会(子ども教育支援課)が発行している 2. 元気な学校づくり通信「はにい」第4号です。(資料1) これは、スクールライフサポーター派遣事業の事前 研修として、先輩のサポーターの体験談を通して、こ れから派遣される学生たちへの動機づけを行ったもの です。 あらためて、子どもとの人間関係を作ることの大変さ と、時間を積み重ねるだけでは関係を築くことは難しい こと、子どもとの様々なやり取りをする中で、距離感で あったり、思いの受け止め方であったりということを学 2 県教育委員会では、各学校等で行われている様々な 取組に関する情報を収集し、 「日々の授業の様子」や「子 どもたちの声」など、具体の姿を広く発信することによ り、学校、保護者、関係機関・団体等、地域社会全体が 一体となった取組がさらに充実していくことを願い、平 成 24 年度から県教育委員会のHPに掲載しています。. 6.
(5) び、そうしたことを積み重ねることで、はじめて子ども との信頼関係を築くことができ、教師としてというより、 一人の人間としての自信につながっていることが読み取 れます。 「はにい」で紹介した以外にも、多くの学生から様々 な感想をいただいています。 ○子どもと接する中で、教師の資質や指導方法等を学 ぶことができた ○クラスの中で、特に支援が必要な子どもと関わって いく中で、小学校教育とは何か、どのようなことが 求められ、子どもたちにどのような力を培っていく べきか考えるきっかけとなりました。 ○様々な先生方と関わることで、自分の子どもに対す る接し方の幅が広がったように思います。 ○担当したクラスが荒れていて、精神的に辛い時があ りました。 ○戸惑ったり、不安になったり、反省することも多く ありましたが、この活動で「教師」になることの大 変さと素晴らしさ、喜びを感じることができました。 こうした声から、改めて、学生たちにとって学校現場 の日常に、継続的にかかわることで新たな気づきが生ま れ、自分自身を振り返る大切な機会になっていることが 伝わってきます。 <③求められる実践の場 大学-行政(県・市町村教育委員会)-学校を繋ぐ-> スクールライフサポーターに関わった学生たちに話を 聞くと、実際に学校現場で経験をしたいと思っていて も、単位を修得するために多忙であり、なかなか学校を. 年少しずつ修正を加えて、今年度は、資料2に示すよう. 訪問する時間や機会を確保することが難しいとのことで. な形になったとのことでした。. した。同時に、学生を受け入れる学校現場も、何の準備. この3日間の実習を迎えるために、学校と研究室との. もなく学生を受け入れることは難しく、両者の要望を調. 連絡調整はもちろんのこと、校内においても共通理解を. 整してつなげていくための工夫が必要であることを感じ. 得るための話し合いが持たれています。今年度の実習は、. ました。そんな時、ある取組を参観する機会を得ました。. 大井小学校の校内研究の場を活用して、「研究授業-授 業実践(実習授業)-研究協議」この3つを組み合わせ. ■■「学校訪問実習」■■. て実現したものです。. この取組は、横浜国立大学人間教育科学部の石田淳一. 学生は、A、B2つのグループに分けられ、1 ~6年. 研究室で学ぶ、4年生男子13人、女子9人合計 22 人. 生の各クラスに配属されます。{研究授業A}は1・2・. の学生が、今年の9月 16 日から 18 日の3日間に渡り、. 3年生担当の実習生が、{研究授業B}は4・5・6年. 大井町立大井小学校(米山和男校長)で行った実習です。. 生担当の実習生が授業を各々参観します。参観しない実. 学校訪問実習は、実は3年前から行われており、毎. 習生は、担当学級の自習の補助をします。. 教育デザイン研究 第7号(2016年1月) 7.
(6) これからの教員養成に期待すること. 授業後の校内研究会は、分科会、全体会等を実習生た ちは参観し、実習生にも質問・意見が求められます。. 米山校長先生の言葉にあったように、「明日の教師を 育てる」使命が学校にあるとは言え、こうした実習をよ. 資料2の中にある「指導補助」は、各学級担任が事前. り多くの学校で行うためには、職員の理解を得ることは. に略案を作成し、実習生は担当学級の授業を1時間を通. 勿論のこと、教師の多忙化、実施時期の問題や費用対効. して参観します。担任が行う授業に際して、個別、グルー. 果をはじめとして様々な視点から検討すべき課題がある. プ学習での支援や補助を行います。. と言えます。そして、学校にとっても学生にとっても「ギ. 実習生が授業を行うにあたっては、実習生が作成した. ブアンドテイク」になるために、大井町では、教育委員. 指導案の検討を学年又は学級で行います。具体的には、. 会が大きな役割を果たしています。教育委員会が研究室. 板書計画、教材・教具等の準備といった内容です。授業. と学校を繋ぎ、バックアップしている状況です。. 後は、振り返りと協議を行っています。 こうした授業実習の他に、実習生たちは配属されたク. 教育委員会や学校にとっては、明るく、元気でやる気 のある教員を一人でも多く採用したいと思い、大学は、. ラスで給食を一緒に取り、その準備や後片付けの補助指. 一人でも多くそういう学生を養成したいと考えてカリ. 導や清掃活動の補助を行っています。. キュラムを工夫し指導にあたっているわけです。そのた. こうした活動が日常の教育活動の中で行われるために は、前述したように職員の理解と協力なくしてはできま せん。この取組について、大井小学校の米山校長先生は 「校長通信」を通じて職員にこう語りかけています。. めの仕組みづくりや先行的な研究や実践も行われていま す。 しかし、今後は、これまで以上に、養成を担う大学と 育成を担う学校や行政(教育委員会)が、これからの学. 「~単なる実習協力ということではなく、私たちの学. 校の在り方、そこで求められる教師の在り方を考え、養. びを深めるチャンスとしても考えたのですが、実施時期. 成と育成がもっと一体となって、日常的・継続的に実践. の問題、費用対効果等を考えることも必要なようです。. を行えるような仕組みが整備されることが必要であると. よりよい在り方を探りたいと考えています。また、学校. 感じました。そうした視点からも、大井小学校での「ギ. 現場には「明日の教師を育てる」という使命もありま. ブアンドテイク」の実践は参考になる取組であると言え. す。今回の実習は、大学としても画期的な試みであり、. ます。. 公立の学校としては、おそらく全国でもそうはない実践 でしょう。(中略)大変でしたけれど、私たちにとって. (まとめ). も、子どもたちにとっても意味ある3日間となったよう. 冒頭でも触れたように、将来を予測することが困難な. です。先生方、若い先生の卵たちからどんなことを学ばれ. 時代、言い換えれば、モデルがない時代を迎えようとし. たでしょうか。この実習はギブアンドテイクなのです。~」. ています。モデルがないということは、自分たちで新た. (おおい通信 大井小学校 校長通信NO 23 より抜粋). なモデルを創ることであり、本県は「インクルーシブな. 子どもたちにとって授業は一回しかない本番です。手. 学校」を創る方向性を示したところです。多くの方々と. を抜くことができない日々の授業を、先生方がどのよう. この方向性を共有し、創造的な仕事ができることが何よ. に作り上げているのか。先生方の研究の場を体感するこ. り大事なことだと思います。. とで、教師としての気づきのセンスを少しなりとも身に 付ける大切な機会の一つになっていると感じました。. 多様な子どもたちが学ぶ場には、その多様性を受け止 め、人間関係を築き、育てていく教師の存在が何より重 要です。そして、教師を目指す学生一人ひとりには、各々 課題意識を持ち多様な成長を遂げ、学校現場で生きて働 く力として育成することが求められています。そのため には、大学-行政-学校が一体になって養成-育成する 仕組み、特に「実践の場」の確保・提供が求められてお り、その仕組みづくりに取り組んでいくことが「インク ルーシブな学校」を実現することになると考えます。. 写真 「授業後の学年研究協議」. 8.
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