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スピンオフ企業の初期成長の構図 : 韓国スピンオフ企業を事例に

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(1)スピンオフ企業の初期成長の構図 ──韓国スピンオフ企業を事例に── 崔 有 廷. 1.はじめに. 基準にし,表 1 の 3 つに分けて考えることがで きる.第一に自発的なスピンオフとは,社内で. 近年,韓国においてスピンオフ企業の成長ぶ. 研究成果を事業化してもらえないなどの理由か. りが注目を集めている.韓国経済は 1997 年の. らマネジャーや研究職の社員が自発的に母体企. アジア通貨危機によって大きな打撃を受けた.. 業から独立して会社を創業するケースを指す.. この際,韓国の大企業グループは事業の選択と. 具体的な例としては Xerox の社内研究所であ. 集中を図り,その過程で大々的なリストラク. る Palo Alto Research Center( PARC)で 開 発. チャリングが行われた.このリストラクチャリ. されたテクノロジーが社外に流出し,多くのベ. ングの結果,母体企業からスピンオフされた事. ンチャー企業が誕生した例を挙げられよう.第. 業部門が独立法人として創業するケースが急激. 二に日本型スピンオフとは,日本の大企業グ. に増えた.本研究はこれらのスピンオフ企業の. ループが新事業開拓を目的として行う独特な組. 成長過程を,既存の企業成長論に「創業形態の. 織管理形態であり,アメリカのスピンオフが収. 異質性」という視点を取り入れた理論の展開を. 益性の低い事業や本業との関わりが少ない事業. 試みたものである.. を切り離す場合との対比として研究されてい. スピンオフという用語は,多義に使われてい. る1)(吉村 1993, Ito&Rose 1994, 米倉 1994, 加藤. るが,その本質的な特徴は会社の一部を切り離. 2001).. し,独立させることである.しかしながらスピ. 一方,リストラクチャリングの一策としての. ンオフに関する研究は研究対象の特徴や研究目. スピンオフ2)は,母体企業からみて戦略上の重. 的によって多義に用いられているのが現状であ. 要度が低い事業に対して行われるという否定的. る.. な印象が強い.この種のスピンオフに関する研. Formica(1994)は,スピンオフの行為主体. 究の主な関心は,スピンオフが母体企業の財政. を母体企業としてみなし,組織環境と戦略の相. にどのように影響するかに集中しており,スピ. 違に基づき,スピンオフの形態を「積極的なス. ンオフされた側,すなわちスピンオフ企業のほ. ピ ン オ フ」と「自己防衛的 な ス ピ ン オ フ」の. うには研究の関心があまり向けられてこなかっ. 2 つ に 大別 し て い る.Steffensen et al.(1999). た3)(Brauer 2006, Moscheri&Mair 2008).. は,スピンオフを「母体企業の計画性に基づく. 本稿では,これらのスピンオフ企業が母体企. スピンオフ」と「起業家の自発性に基づくス. 業から離れた後も存続のために事業を続け,成. ピンオフ」の 2 つに大別している.Formica と. 長していかなければならない事業体であること. Steffensen et al. のスピンオフの分類を総合的. を認識した上で,母体企業の計画のもとで行わ. に考慮すると,スピンオフの行為主体や目的を. れたリストラクチャリングを契機に創業したス.

(2) 22. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). (730). 表 1 スピンオフの形態 行為主体. 母体企業主導. 起業家主導. 自己防衛的. リストラクチャリングの一策. ×. 積極的. 日本型スピンオフ. 自発的スピンオフ. 目的. 出所:著者作成. ピンオフ企業に研究の焦点を当てた.そして,. う視点を指摘するとともにリストラクチャリン. スピンオフするまでの経緯やスピンオフ後の成. グされた事業体と成長論の関係について考察し. 長過程を,韓国のサムスン電機出身のスピンオ. たい.. フ企業 4 社の事例分析を通して明らかにするこ. A. Marshall(1920)の 小企業成長論 は,当時. とを研究目的としている.近年,韓国企業の成. の小企業に対する考え方がいずれか消滅するも. 長についてはサムスンなど,企業本体を事例と. の,もしくは所与の条件 4)が満たされた時のみ. した研究が活発に行われている. しかしながら,. 残存できるものであった5)のに対して, 「成長. 本体から分離した企業の研究はあまり行われて. する事業体」として認識している点が特徴であ. いないため,本研究によって今までの韓国企業. る.企業の成長6) (growth of business)は森の. の成長に関する研究がより豊富なものになるこ. 木の生長と類似しているとし,生存競争,自然. とが期待できよう.. 淘汰,寿命など,生物の盛衰過程が産業界にお. 本稿は上記の問題意識をもとに以下の内容で. いても起こると前提した.A. Marshall は小企業. 議論を進めていきたい.第 2 章は,企業成長に. 成長論において,森の中の若い木が年長の競争. 関する代表的な研究を概観し,今までの企業成. 者が抑圧する影から脱していく過程で戦い,成. 長論に「創業形態の異質性」という視点が欠け. 長する様子になぞらえて,企業(business)は. ていたことを指摘すると共に,スピンオフ企業. 「労働者→小企業→大企業」へ成長していくと主. の初期成長の構図を構築する上で考慮すべき視. 張した7).A. Marshall は小企業成長の出発点を. 角を抽出する.次いで第 3 章では,企業成長に. 労働者とし,経営能力を持った労働者は資本を. 関する先行研究を基に作成したスピンオフ企業. 調達・結合して小企業家になり,小企業家はま. の成長に関する質問項目に基づいた調査対象企. た大企業家へ,同時に小企業は大企業へと成長. 業の CEO とインタビュー内容を分析し,スピ. するとした.A. Marshall の企業成長段階論は,. ンオフ企業の初期成長の構図を提示する.第 4. 小企業を「成長する事業体」として認識したこ. 章は以上の研究結果のまとめとインプリケー. とと企業の成長における企業家の重要性につい. ションである.. て論じている点で,中小企業の成長論の出発点. 2.先行研究のレビュー. としての多大な価値がある.しかしながら,A. Marshall の小企業成長論はマクロな視点から視. 2―1.企業成長論. た成長論であるため,労働者から小企業へまた. 企業の成長に関する研究は膨大な成果が報告. 大企業へ成長していく際に,企業の中で起こり. されているが,本稿はとりわけ中小企業の成長. うるマネジメント上の問題やその解決策につい. に関する研究と大企業の成長論の代表格である. ては言及していない.なお,大企業から生まれ. チャンドラーの研究を取り上げ,今までの企業. た小企業の成長についての議論は見られない.. 成長論に欠けていた「創業形態の異質性」とい. L. E. Greiner( 1972 )の 成 長 段 階 モ デ ル.

(3) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (731). 23. (Growth Phases Model)は,中小企業 の 成長. とらえた成長理論を提示している.柳は,ベン. モデルとして有名な研究であり,典型的な概念. チャー企業の成長段階を「スタートアップ期→. モデルとして理解できる.彼によれば,企業は. 急成長期→経営基盤確立期」の 3 段階に分けて. 若い時から成長していくにつれ,組織も大きく. とらえ,ベンチャー企業は経営資源(ヒト,モノ,. なる.Greiner の成長段階モデルは,企業の経. カネ,時間,情報)の車輪が回転して,経営要. 営活動の結果が新しい危機を生み,またそれを. 素(マーケット,供給,管理,経営者)の車輪. 克服するような新しい経営が登場し,それがま. を回転させるという「二重構造」で成長してい. た危機を生むという形で段階的に発展していく. くものとし,成長段階別に各経営要素の重要度. という仮説に基づき,企業の成長に伴うマネジ. は異なってくるものであるとしている.スター. メントの変化を以下のように提示した.. トアップ期にはマーケットと経営者の重要度が. ①創造による成長(リーダーシップの危機). 高く,急成長期には供給システムの重要度が高. ②命令による成長(自立性の危機). くなる.つまり,企業が成長していくにつれ,. ③委任による成長(統制の危機). 必要とされるマネジメントの能力に変化が生じ. ④調整と監視による成長(官僚制の危機). るということである.柳の「ベンチャーマネジ. ⑤協力による成長. メント変革理論」は,中小企業の中でもとりわ. な お,各段階 に お け る マ ネ ジ メ ン ト 上 の. けリスクが高く,非連続的成長を短期間で繰り. フォーカ ス,組織形態,トップ・マ ネ ジ メ ン. 返すというベンチャー企業の特性に注目するこ. トのスタイル,コントロール・システム,成果. とで,規模の大きさを基準にした既存の中小企. への補償タイプの違いに関する特徴を明らかに. 業の成長論では説明されなかったベンチャー企. し,企業成長の様子を把握しやすく,簡潔にま. 業の成長における経営者の役割の変化という. とめあげている.しかしながら,母体企業の. 特徴を捉えている.しかしながら,柳のベン. 事業分割によって創業するスピンオフ企業は. チャーマネジメント変革理論は起業家によるベ. Greiner の成長段階モデルではじめから考慮さ. ンチャー企業に焦点を当てているため,スター. れていないと考えられる.なぜならば,母体企. トアップ期における起業家の個人的能力(ビジ. 業で営んでいた事業を引き継いで創業するスピ. ネスへの思い入れ,実行力,決断力,リーダー. ンオフ企業の場合,第 1 段階で創造による成長. シップ,優れた経営センス,人望)が成長への. というよりは,母体企業内で行っていた既存事. 重要要素として挙げられている.一方,起業家. 業の持続運営による安定的収入を生かした成長. の個人的能力に大きく依存するベンチャー企業. がより妥当であると考えられるからである.. のスタートアップ期に対し,ある程度の組織規. 一方, 中小企業の中でも, とりわけベンチャー. 模を持ち,マーケットも確保して創業するスピ. という企業形態の成長に関する研究も近年活発. ンオフ企業のスタートアップ期には成長のため. に行われている.柳孝一(1996)は, ベンチャー. の道のりは当然異なるものだと考えられる.し. 企業を「高い志と成功意欲の強いアントレプレ. たがって,リストラ型スピンオフ企業の固有の. ナー(起業家)を中心とした,新規事業への挑. 特徴をとらえた成長論を展開することで,企業. 戦を行う中小企業で,商品,サービス,あるい. 成長論という研究分野の空白の一部を埋めるこ. は経営システムに,イノベーションに基づく新. とができると考えられる.. 規性 が あ り,さ ら に,社会性,独立性,普遍. Van de Ven & Hudson & Schroeder( 1984). 性を持った企業」と定義し,Greiner の成長段. は,企業成長を議論する上で時間軸を考慮し,. 階モデルを参考に, 「ベンチャーマネジメント. 倒産リスクの高い創業まもない新興企業(start-. 変革理論」を構築し,ベンチャー企業の特徴を. up)の初期成長に注目している.Van de Ven.

(4) 24. (732). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). らは教育用ソフトウェアを開発・生産する 12. 成長とは異なる特徴を見せる可能性が極めて高. 社の新興企業の事例調査の結果を基に新興企業. いと考えられる.. (start-up)の初期成長段階を提示した.彼らは. 一方,Chandler(1962)は,近代的な大規模. 新興企業の初期成長を以下の 5 つの段階として. 組織の成長の歴史を事業組織の変化に注目して. 捉えている.. 検証し,アメリカの大産業企業の歴史の中には. ①計画段階(Gestation stage). 4 つの段階もしくは断面(phases or chapters). ②実質的な計画段階(Planning stage). があるとし,各段階における組織形態の特徴を. ③請負契約(Contract service stage). 導きだしている.すなわち,第一に,経営資源. ④有標製品(Proprietary product stage). の初期拡大と蓄積のための巨大な垂直統合,第. ⑤多品種製品(Multiproduct stage) 」. 二にその運用の合理化のための集権的職能別組. なお,業績の良くない企業ほど低い成長段階. 織,第三に事業部制組織である.事業部制組織. にとどまっていること,業績の良い企業ほど高. は諸資源の完全利用を維持するための新市場・. い成長段階に到達していること,業績は操業年. 新事業への進出による組織規模の拡大,最後に. 数とは相関がないことを明らかにしている.さ. 短期の市場需要の変動と長期の市場傾向の変動. らに高業績企業は低業績企業に比べ,起業家の. に対応して,経営資源を常時効率的に活用する. リスク認知度が低く, 事業領域をより広く捉え,. ための組織体制である.事業部制は,異質の事. 成功への自信が強く,企業への貢献度(資金,. 業を複数営むことに長けている組織構造ではあ. 時間など)も高いという特徴を示しているとい. るが,事業部の数と事業の種類が増えつづける. う研究結果を出している.また,創業前の準備. とそれらを同時にマネジメントする上での負担. 過程がより体系的であり,明確な命令系統を確. が大きくなり,経営管理が弱体化してしまう.. 立させていることを高業績企業の特徴としてあ. その結果として 1970 年代,1980 年代のアメリ. げ て い る.Van de Ven ら(1984)の 研究 は,. カ産業界にはリストラクチャリングの嵐が吹き. 成熟 し た 組織(mature organization)に 集中. 込 ん だ.Chandler(1962)の 研究 は ア メ リ カ. している研究から一線を画し,新興企業の初期. の大産業企業の生成と成長の過程でリストラク. 成長段階を提示している.多くの新興企業が創. チャリングされた事業のその後については詳し. 業から非常に短期間で倒産してしまうことを考. く触れていない.. えると,新興企業の初期成長の様子を研究する. 以上の先行研究のレビューからリストラ型ス. ことは価値のある作業であると考えられる.ス. ピンオフ企業の成長が今まであまり注目されて. ピンオフ企業の場合,創業の契機が母体企業の. こなかった理由がいくつか推察できよう.その. リストラクチャリングであり,この創業形態の. 一つ目の理由として,母体企業から切り離され. 特異性がスピンオフ企業の成長,とりわけ初期. た時点でスピンオフされた事業部門は成長の研. 成長において通常のスタートアップ企業とは異. 究の対象から外されてしまう可能性が考えられ. なる様子を見せると考えられる.. る.二つ目の理由は,今までの企業成長の研究. 今までの中小企業の成長に関する研究の前提. が一人,または少数のアントレプレナーを起点. は,一人,または少数の起業家を起点として次. とし,次第に成長していく企業像を前提として. 第に成長していく企業像を想定している.しか. きたため,異なる創業形態に関する研究が進め. しながら,本研究の対象であるスピンオフ企業. られてこなかった可能性が考えられる.従って,. の場合,創業時に既にある程度の組織規模を持. リストラ型スピンオフ企業のように創業時から. ち,安定した収益源をも確保している.従って,. ある程度の組織規模を持つケースは今まであま. その成長の過程は通常のスタートアップ企業の. り注目されることがなかったと思われる.しか.

(5) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (733). 25. しながら,これらのスピンオフ企業も事業を続. める通常のスタートアップ企業の創業者とは異. ける限り,自らの成長の道を探る持続的な経営. なってスピンオフ企業の創業者の場合,昨日ま. 努力を図らなければならない.なお,スピンオ. でサラリーマンとして関わってきた仕事に今日. フ企業はリストラクチャリングの一策という後. からは経営者として向き合わなければならな. ろ向きなイメージが強く,スピンオフによる創. い.そのため,命令系統や権限の曖昧さなど,. 業効果も注目されることがなかった.スピンオ. 組織のマネジメント上の問題を創業直後から抱. フ企業の場合,母体企業で行っていた事業部門. えることになる可能性が考えられる.三つ目は,. を受け継いで創業するため,創業時から安定的. 母体企業との関係である.スピンオフ企業は経. な収入源を確保でき,創業リスクが比較的低い. 営自主権を確保しながらも,成長のために母体. という利点がある.. 企業とのつながりを維持するために独立後にお. 従って,本研究では企業成長論の研究に「創. いても間接的に母体企業の影響下に置かれる可. 業形態の異質性」という視点を取り入れ,リス. 能性があると考えられる.. トラ型スピンオフ企業を企業成長論の研究対象. スピンオフ企業の初期成長過程を議論するた. として認識し,スピンオフ企業の特有の特徴を. めには,その成長過程を区切る基準が必要であ. 考慮した新たな企業成長論の展開を試みること. る.企業成長に関する先行研究では成長段階の. にする.. 区切りの基準として組織体制の変化,売上高, 従業員数,成長に関する経営者の主観的判断な. 2―2.ス ピンオフ企業の成長論の構築に必要な 視角. どを挙げている.その中でも,Van de Ven ら (1984)の研究は新興企業(start-up)の初期成. 今までの企業成長論に関する先行研究は,企. 長過程の基準の一つとして,後援企業からの独. 業規模(大企業,小企業)や創業期から成長期. 立度を用いている.スピンオフ企業の場合,母. まで,あるいは創業期から衰退期までのような. 体企業 が 存在 し,そ の 創業 は 母体企業 か ら 独. 時間的スパンは考慮されている反面, 「創業形. 立していく過程として理解することができる.. 態の異質性」は考慮されてこなかった.既存の. 従って,事例研究では,Van de Ven ら(1984). 企業成長論は創業意欲の強いアントレプレナー. の研究を参考にし,スピンオフ企業の初期成長. を想定しており,創業時点からある程度の組織. の過程を母体企業からの独立度に注目しなが. 規模を持つスピンオフ企業のような創業形態を. ら,以下の 3 つの点に焦点を当てて韓国のスピ. 考慮に入れた企業成長論はあまり研究されてこ. ンオフ企業の事例調査を行った.. なかった.スピンオフされた事業部門が独立法. ①低い創業意欲にも関わらず創業に踏み切るこ. 人として事業活動を続ける場合,通常のスター. とができた理由. トアップ企業に対し, 「創業形態の特異性」に. ②マネジメント上の課題,特徴. 起因する異なる成長の軌道を見せるのではなか. ③サラリーマンから経営者になる創業者のリー. ろうか.また,スピンオフ企業のもつ「創業形 態の特異性」にはどのようなことが考えられる であろうか.その一つとして,創業意欲の低さ. ダーシップ上の特徴 3.事例研究. が挙げられよう.スピンオフ企業の場合,母体. 3―1.調査対象選定. 企業からの独立への外圧による創業であり,起. 1997 年のアジア通貨危機を契機に,韓国の. 業家の自発的なアントレプレナーシップによる. 大企業はコア事業へ経営資源を徹底的に集中さ. 創業とは類を異にする.二つ目は,創業者のタ. せるために大々的なリストラクチャリングを行. イプである.はじめから経営者として事業を始. い,この際に多くの事業部門が大企業からスピ.

(6) 26. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). (734). 表 2 韓国 5 大グループ社のスピンオフ件数(1998 年 1 月―10 月) グループ名. サムスン. 現代. 大宇. LG. SK. 分社件数. 63. 36. 12. 4. 8. 合計 123. 従業員数. 4,671. 839. 2,101. 54. 535. 8,200. 出所:全国経済人連合会,「雇用安定のための分社制活性化法案」,1998 年 12 月. 表 3 KOSDAQ 上場企業の内,主要大企業出身 CEO 出身グループ名. サムスン. LG(GS 含む). 現代. 大宇. SK. 合計. CEO 数(%). 111 名(8.94%). 75 名(6.03%). 47 名(3.78%). 38 名(3.05%). 22 名(1.77%). 293 名(23%). 出所:電子新聞 2009 年 7 月 9 日を参考に著者作成 (注)母集団:KOSDAQ 上場企業 1027 社の CEO1242 人 2008 年 KOSDAQ 上場法人経営陣名録を基に作成. ンオフされた.リストラクチャリングがもっと. 集中する経営戦略が発表され,非対象事業部門. も活発に行われた 1998 年には, 韓国 5 大グルー. のスピンオフ・売却がさらに進められた.この. プ社から 123 件ものスピンオフが行われた.. ような一連のリストラクチャリングによって創. アジア通貨危機直後のスピンオフは,人件費. 業したサムスン電機出身のスピンオフ企業群は. などのコスト削減を狙った事業部門(総務,物. 「スモール・サムスン・グループ」とも呼ばれ. 流など)を中心に行われたが,次第に先端産業. るほど,スピンオフ後の成長ぶりが注目を集め. の事業分野のスピンオフも行われるようになっ. ている.. た.. 本研究のケース分析の対象となるスピンオフ. これらのスピンオフされた事業部門は独立法. 企業は,スピンオフがもっとも活発に行われた. 人として創業した後,速やかに経営を安定さ. サムスン・グループの系列社であるサムスン電. せ,さらなる成長のための資金確保のルート. 機からスピンオフされた企業,4 社である.こ. として KOSDAQ に上場するケースが次第に増. れらの 4 社は,韓国のマスコミでスピンオフ企. えてきた.その結果,韓国社会にスピンオフ. 業の成功事例として度々取り上げられているた. 企業の躍進ぶりが知られるようになった.2008. め,2 次資料の入手が比較的容易であるという. 年 KOSDAQ 上 場 企 業 1027 社 の CEO1242 人. 利点があった.また,より多様な時間的視点に. 中,韓国の 5 大大企業からのスピンオフ企業の. 立ってスピンオフ企業の成長を観察するために. CEO が占める割合が約 23% を占め,とりわけ,. 調査対象の企業の操業年数を約 10 年から 2 年. サムスン・グループと LG グループからのスピ. までと多様に構成した.なお,主要業務の違い. ンオフ企業の CEO の割合は 15% をも占めてい. を考慮し,セットメーカー 1 社,部品サプライ. る.. ヤー(カスタム型 2 社,市販品型 1 社)の構成. 中でもスピンオフを最も活発に行ったサム. で調査対象の 4 社を選定した.4 社という事例. ス ン・グ ループ の 場合,「常時構造調整本部」. の数の少なさをできる限り補い,より普遍的な. を設け,事業の見直しを常時行う体制を整え. 視角からスピンオフ企業の初期成長過程の特徴. た8).2001 年,サムスン・グループの系列会社. を捉える事を意識し,調査対象の選定を行った.. であるサムスン電機の 13 の事業分野のスピン オフ・売却が発表された.2003 年にはサムス 9). ン 電機 の「3 大技術 8 大製品 」へ 経営資源 を. 3―2.調査方法 調査対象企業の 4 社は,サムスン電子,サム.

(7) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (735). 27. 表 4 調査対象企業の概要 社名. 設立. 設立資本金. 主要事業. 調査時期. A. 2008 年 7 月. 14 億ウォン. 小型モーター,センサー. 2009 年 11 月 30 日. B. 2005 年 9 月. 199.8 憶ウォン. 光ピックアップ,LED. 2009 年 12 月 1 日. C. 2004 年 11 月. 30.7 億ウォン. Touch Module, Key Module. 2009 年 11 月 30 日. D. 2002 年 11 月. 37.5 億ウォン. POS Printer. 2009 年 11 月 30 日. 出所:各社のホーム・ページ. スン電機の工場が集まっている京畿道水原市の. は,母体企業からの独立過程と一致することが. 付近に本社を構えており,インタビュー調査. 明らかになった.. は 2009 年 11 月 30 日と 12 月 1 日の 2 日間で行. 3―3―1.母体企業によるスピンオフの決定と創業. われた.インタビュー調査内容については,上 で述べた先行研究の考察の結果を考慮し, 「成. A 社のケース A 社のインタビューは 2009 年 11 月 30 日に. 長に関する経営者の主観的評価10),創業を決心. CEO のホン氏と約 2 時間に渡って行われた.. した理由,創業直後に経営を安定させるために. A 社は 2008 年 7 月,退職が決まったサムス. 行ったマネジメント上の努力,現在の経営上の. ン電機の役員がスピンオフ・売却が決定された. 課題,創業後の母体企業との関係とその変化の. モーター事業部門を引き受けることで創業し. 推移」に関する質問項目を作成し,調査の 2 週. た.A 社 は 創業後,約 3 ヵ月間 サ ム ス ン 電機. 間前に調査対象各社の CEO 宛てに E メールで. の内部で事業運営を続けながら,独立のための. 送付した.. 下準備 を 行った.こ の 下準備期間 の 間,A 社. 調査当日は,調査対象各社の CEO と約 2 時間. は取引先へのスピンオフのお知らせとスピンオ. ずつのインタビュー調査を行い,インタビュー. フ後においての持続的取引関係の維持の要請,. 内容は各調査項目別に整理しデータ化した.. 母体企業からの工場・在庫・特許の買い取り,. 表 4 は,調査対象企業の概要であり,各社の. 事業所の決定,既存社員の確保を行った.また,. 事業内容,創業時期,従業員数,経営者などを. 母体企業からの独立作業が進む中においても,. 整理したものである.. 研究開発・生産・販売業務への支障を最小限に. . 抑え,創業リスクを低減させることに注力した.. 3―3.調査内容. 母体企業であるサムスン電機側は A 社の社員. スピンオフによる創業の本質的な特徴は,母. に給料を支払い,A 社が独立作業に注力でき. 体企業から分離・独立することにある.母体企. るように配慮した.. 業内で営んでいた事業を切り離す作業によって. A 社の CEO であるホン氏は創業動機につい. スピンオフ企業は自律性を持った事業運営組織. て,真っ先に役員の任期が終了したことを挙げ. となる.従って,本研究では,スピンオフ企業. た.再就職するか,創業するかの選択肢の間で. が母体企業から離れていく過程を以下のように. 悩んだ結果,母体企業内でスピンオフ・売却が. 捉え,初期成長の過程を捉えた.. 決まっていたモーター事業部門を引き受けて創. ①母体企業内でのスピンオフの決定・創業. 業することに決めたという.その理由として. ②ヒト・カネの分離. 「ニッチ市場製品であるため,利益率が高い」,. ③事業の分離. 「モーター事業は多角化を図るのに容易な分野. 事例研究の結果から,スピンオフ企業の成長. であり,事業機会が豊富だと判断したから」と.

(8) 28. (736). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 答え た.母体企業在職時にも創業への思いが. プ事業で創業した理由について以下のように述. あったかについては, 「忙しすぎて創業を考え. べた.. る暇などなかった」と答えている.創業動機に. 「一 つ 目 の 理由 は DVD 光 ピック アップ 事. 関するホン氏の回答は, 「アントレプレナーの. 業 の 競争構造 が 比較的単純 で あ る か ら で す.. 創業への熱い情熱」というよりは現実を見据え. DVD 光ピックアップを製造する会社は韓国で. た「冷静な経営者」としての姿勢がうかがえる.. はサムスン電機が唯一で,世界市場では日本企. B 社のケース B 社 の イ ン タ ビュ ーは 2009 年 12 月 1 日,. 業が 3 社ほどありますが,その中でも当時(2005. CEO のソン氏と約 2 時間に渡って行われた.. 事業を縮小し始めた時期だったので,激しい競. B 社 は 2005 年 9 月 に B 社 の CEO ソ ン 氏 が. 争にさらされることなく事業運営ができると思. サムスン電機の DVD 光ピックアップ事業部門. いました.2 つ目の理由は,光ピックアップと. を引き受ける形で決定し,2006 年 1 月に創業. いう製品が市販品型部品であるからです.カス. した.光ピックアップ事業はサムスン電機の事. タム部品の場合,セットメーカーの要請によっ. 業の中でも好業績を誇っていた事業部門であっ. て製品の設計を頻繁に変更しなければなりませ. たが,2003 年にサムスン電機が「3 大技術 8 大. ん.そのため,製品開発費用がかさみ,収益性. 製品 へ の 資源集中化戦略」を 進 め る 過程 で 光. が悪化する可能性が高いうえ,取引先のセット. ピックアップ事業部門の分社・売却が決定され. メーカーは製品情報が競合他社に漏れることを. た.DVD 光ピックアップ事業を引き受けて独. 嫌うため,部品会社は取引先の選択も自由にで. 立することに興味を示す人は多かったが,事. きません.光ピックアップ事業は競争が少な. 業規模が大きいために創業に必要な資金が高額. く,市販品型製品であるため取引先の開拓にお. であったため,なかなか適任者が見つからない. いて特定のセットメーカーによる制約も少ない. まま 2 年ほどサムスン電機内で事業を続けてい. です.」. た.. ソン氏の創業動機は A 社のホン氏同様,以. そんな中,役員の任期の終わるソン氏を含め. 前から創業への熱い思いはなく,事業の成長可. た役員 4 人が DVD 光ピックアップ事業を引き. 能性を見極めたうえでの決断であった.. 受けて独立することを決め,サムスン電機側に. B 社は創業準備期間の間,事業譲渡価格の交. 申し出た.分社・売却が決まってから,適任者. 渉,既存社員の吸収,取引先の維持など既存事. が現れなかったため,やむを得ず事業を続け. 業をスムーズに受け継ぐための努力をした.こ. てきたサムスン電機側の事情を熟知していた. れらの作業は創業後の事業運営や売上高に直接. ソン氏は,事業の引き受けに必要な資金の値下. 響くために,創業リスクを低減する上で極めて. げ交渉を仕掛け,250 億ウォンの引き受け価格. 重要な作業であると考えられる.. を 200 億ウォンにまで引き下げることに成功し た.. C 社のケース C 社のインタビューは 2009 年 11 月 30 日に. B 社の CEO であるソン氏は創業動機として. CEO のイ氏と 2 時間に渡って行われた.. 役員の任期終了したことが創業の最大の契機. C 社は 2004 年 11 月,役員の任期が終了した. であったと答えた.サムスン電機では DVD 光. イ氏を含めた 3 人がサムスン電機からのスピン. ピックアップ事業に事業部長として携わり,当. オフ・売却が決まっていた携帯電話用の KEY. 事業に関して豊富な知識と業務経験があったこ. モジュール事業部門を引き受け,創業した.C. とも,DVD 光ピックアップ事業で創業する自. 社は A 社のごとく,創業してからしばらくの. 信につながったという.ソン氏は光ピックアッ. 間,サムスン電機内で独立のための下準備を進. 年)の ソ ニーや 三洋 は AV 用光 ピック アップ.

(9) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (737). 29. めた.携帯電話用の KEY モジュールに関連す. ステム」という社名で会社を設立した.POS. る特許権の獲得,製造設備の譲渡,人材の確保,. Printer 事業はもともとサムスン電子が運営し. 取引先の維持などスピンオフによって営業へ支. た事業であったが,事業規模が小さいというこ. 障が生じさせないための下準備が行われた.特. とで 2002 年 1 月にサムスン電機に移管された.. 筆するところは,C 社の携帯電話用の KEY モ. だが,サムスン電機は部品会社であり,完成品. ジュール の 主要納品先 が サ ム ス ン 電子(ス ピ. である POS Printer 事業はサムスン電機の事. ンオフ当時 90% 以上)であったため,C 社は,. 業の性格と異なると判断された.これをもって. サムスン電機から独立してからも,サムスン電. POS Printer 事業部門は,サムスン電機が 2001. 機 の INTRANET の 使用許可 を も らって い る. 年にリストラクチャリングを進める際,真っ先. ところである.C 社の事業特性を理解したサム. に分社・売却が決定され,POS Printer 事業部. スン電機側の配慮もあり,C 社の独立のための. 門のマネジャーや任期が終了した役員らが事業. 準備は順調に進み,2005 年 1 月からサムスン. を引き受けて D 社を設立した.. 電機敷地を離れ,本格的に事業運営を始めた.. D 社は A 社や C 社のように創業後,サムス. 経営者イ氏の創業動機も他のサムスン電機出. ン電機内で約 3 カ月間,独立のための準備期間. 身のスピンオフ企業と同じく,役員の任期が終. を持った.この準備期間の間,D 社はこれまで. わったことを挙げている.. の取引先との契約維持,製造工場・海外流通網. 「サムスン電機で 25 年間勤務しましたが,そ. の引き受け,サムスン電機から営業権・関連特. の間に起業をしようと思ったことはありませ. 許の譲渡,既存社員の確保など,分社による損. ん.役員の任期が終了したこととサムスン電機. 失を最小限に抑えるための手続きを行った.. で携わっていた KEY モジュール事業のスピン. D 社の経営者であるオ氏は創業動機を以下. オフ・分社が決まったことで起業を決意しまし. のように語っている.. た.KEY モジュール事業は,事業規模が小さ. 「任期が終了した役員から POS Printer 事業. いという理由でスピンオフが決まりましたが,. で一緒に創業しないかという誘いをかけられる. サムスン電機で 15 年間営んできた事業部門で. まで,起業について考えたことはありませんで. あり,利益を出し続けた部門です.主要納品先. した.しかし,定年退職の早いサムスンで,自. はサムスン電子ですので,これまでの協力関係. 分がいつまで働けるか分からないし,気のあう. を生かせば,創業後の収益源の確保も容易だと. 人たちと POS Printer 事業で起業してみること. 判断しました. 」. に魅力を感じました.POS Printer 事業は韓国. イ氏の創業動機も他のサムスン電機出身のス. 国内ではトップのマーケット・シェアを占めて. ピンオフ企業と類似したもので,アントレプレ. いたし,海外販売網も充実している.独立する. ナーというよりは経営管理者としての側面が強. ことで組織の規模を縮小すれば,間接費が抑え. 11). いと考えられる .. られ,価格競争力を向上させることもできるだ. D 社のケース D 社のインタビューは 2009 年 11 月 30 日に. ろうと考えて起業に踏み切りました」.. CEO のオ氏と 2 時間にわたって行われた.. はなく社長として働くことに対する重圧で夜も. D 社は,サムスン電機の第 1 号スピンオフ. 眠れない日々が続いたと回想した.オ氏の創業. 企業であり,主要ビジネスは産業用小型プリン. 動機は他の事例と同じく起業家としての姿勢は. ターの製造・販売である.D 社はサムスン電機. 感じられない.自分の会社を作って自分のやり. から POS Printer 関連事業を譲渡してもらい,. たい仕事をしたい創業動機とは違い,母体企業. 2002 年 11 月に「コリア・プリンティング・シ. でやってきた事業を今度は経営者として運営す. オ氏は,創業を決めてから,サラリーマンで.

(10) 30. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). (738). 表 5 独立準備期の特徴 創業. A社. B社. C社. D社. 2008 年 7 月. 2006 年 1 月. 2004 年 11 月. 2002 年 11 月. 独立準備期. 創業動機. ・役員任期の終了 ・役員任期の終了 ・役員任期の終了 ・役員任期の終了 ・モーター事業 は ニッ ・光 ピック アップ は 規 ・Key モ ジュール は 規 ・POS Printer 事 業 は チ製品であるが利益 格が標準化されてい 模は小さいが利益を 韓国国内市場 で は 率が高い る モ ジュール 製品 で 出し続けた事業 マーケットリーダー ・多角化 が 容易 な 事業 取引先の選択におい ・主要取引先 は サ ム ス ・海 外販売網 の 充実, であると判断 て セット メーカーの ン 電子(90%)で 従 豊富な業務経験 影響を受けにくい競 来 の 協力関係 が 活用 合社が少ない できる. 主要業務. 取引先の維持,母体企業から固定財産,特許,営業権の買い取り,既存社員の確保,事業所の決定 →経営基盤の確保. ・起業家の低い創業意欲 マネジメント上 ・サラリーマンから経営者への変換期 の特徴 ・創業後も母体企業内で独立のための準備を行い,創業リスクを最少化 ・スピンオフのための作業が行われるなかでも事業運営の継続 出所:調査を基に著者作成. るという考え方を持っているというところが事. 協力した.これは,スピンオフの決定がサムス. 例調査対象企業の創業動機における共通する特. ン電機側の戦略的決定であったためで,切り離. 徴である.. したいサムスン電機側と独立して出ていくスピ. 4 社のスピンオフ決定と創業準備,創業まで. ンオフ企業側の目的が一致したからだと考えら. の過程に関するインタビューの結果には共通す. れる.. るところが多い.創業動機における特徴として. 4 つの事例のうち,創業後も母体企業内で創. 母体企業側のスピンオフ決定, 役員任期の終了,. 業準備をするケースが 3 件,事業譲渡を申し出. 創業後における事業の成長可能性を考慮した上. て創業準備をし,創業とともに母体企業を離れ. での創業であり,事例の経営者らに情熱的な起. るケースが 1 件であった.両ケースの創業,創. 業家としての資質は見られなかった.. 業準備の順序は異なるが,この期間中に主に. しかしながら, 母体企業内で培った業務経験,. 行ったことは母体企業から離れるための下準備. 事業歴,母体企業の協力を生かすことで,4 社. であったために,この期間を「独立準備期」と. は約 3 カ月の 独立準備期間 を経て,独立法人と. して捉える.表 5 は,独立準備期の創業動機,. して本格的に事業を始めている.この独立期間. 主要業務,マネジメント上の特徴をまとめたも. 中のもっとも重要な作業は母体企業内での事業. のである.. 運営基盤をできるだけ欠くことなく,そのまま. 3―3―2.ヒト・カネの分離. 移転させることであると考えられる.この作業 は創業後の事業基盤確保に直接繋がるため,事. A 社のケース A 社 は 2008 年 12 月 に 京畿道水原市勧善区. 業譲渡に対する母体企業の協力的な姿勢が求め. に本社を構え,本格的に独り歩きをはじめた.. られる.この過程において母体企業であるサム. A 社 は,本社 の 37 人(研究員 16 人),2 つ の. スン電機は,各社の創業準備を自社内で行うこ. 中国工場に 200 人の規模で事業をスタートさせ. とを認め,その間の給料を支給するなど,スピ. た.この際,サムスン電機からの役員の派遣や. ンオフ企業が安定的な状況で創業できるように. 資本の参加は一切行われなかったため,ヒトと.

(11) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (739). 31. カネが母体企業から完全に分離されたと考える. ファンド」の第 1 号投資企業に選定されるなど,. ことができる.. 事業による収益以外の資金を確保するためにも. A 社は研究開発及び統括マネジメントは本. 力を注いでいる.. 社で行い,生産は韓国スウォン市,パッケージ. 収益源 の 確保 や 業務 の 正常化 の ほ か に,A. は 中国天津,東莞 で と,サ ム ス ン 電機 の 時代. 社は社内の業務分担や命令系統を整えることが. の業務プロセスをそのまま引き続き行ってい. 必要であった.母体企業の業務規定や命令系統. る.スピンオフによって業務の停滞が生じない. をそのまま適用することはもちろん難しく,そ. ように既存社員の確保や動機づけに細心の注意. れでも母体企業での業務慣習の名残りが残って. を払っており,ストックオプション制度を導入. いるという問題を解決しなければならないので. し,経営実績に応じて利益を配分し,叱るより. ある.すなわち,スピンオフ企業の「ゼロから. 褒めることで社員の意欲を高めることを心がけ. 始まらない」という特徴のうえ,過去の名残り. ているという.いまや中小企業であるため,サ. を除去するための経営努力と新しく組織体制を. ムスン電機の時に比べ優秀な人材の確保が難し. 構築するための努力が同時に必要とされるので. くなった分,社員と経営者の壁を取り払い,一. ある.A 社の CEO のホン氏は,組織整備につ. 緒に会社を作っていくという意識を持たせるこ. いて以下のように語った.. とが大切であるという.. 「A 社は今や中小企業ですので,サムスン電. 多くのスタートアップ企業は創業後,安定的. 機のように縦の命令系統が必要な規模ではあり. な収入源を確保するまで,資金繰りに頭を抱え. ません.人材も資源も十分とはいえない現状で. 12). る. が,スピンオフ企業は創業時点から安定. は,それぞれの業務を厳格に分けるより,社員. 的な収入源を確保してスタート出来るため,通. 間の協力を引き出し,横のつながりを強化して. 常のスタートアップ企業より容易に事業を軌. いきたいと思っています.そのために毎朝の朝. 道に乗せることができるという長所がある.A. 礼・毎週の全社員参加の会議を欠かさずに実施. 社の主要製品は携帯電話部品の Wheel Key, ス. しています.」. マート フォーン 部品 の Point Navy Key,壁掛. A 社が母体企業から「ヒト・カネの分離」を. け TV 部品 の Auto Wall Mount で あ る.A 社. 行った後の主要な経営努力は,①従来の業務に. はサムスン電機から独立することによって製品. 停滞を生じさせないこと,②安定的な収入源を. 価格 に 占 め る 間接費用の削減ができ,価格競. 確保すること,③命令系統を整えること,であっ. 争力が向上した.そのため,A 社のスピンオ. たと考えられる.. フが決定してからも新たに海外企業への受注が. A 社は創業して 2 年も経たない新生企業で. 決まるなど新規取引先の開拓も順調に進んでい. あるが,2009 年度には 170 億ウォンの売り上. る.A 社の主要取引先はサムスン電子で A 社. げを上げ,収支が均衡した.A 社の今後の課. の取引の約 6 割を占めているほか,輸出による. 題はサムスン電機から引き継いだモーター,磁. 海外企業への取引が 4 割を占めている.A 社. 気センサー事業を A 社の「金のなる木」とし. がサムスン電子と取引することで韓国国内企業. ての役割が果たせるように努力し,なお A 社. との取引が難しいため,今後の新規取引先の開. 独自の企業文化を作り上げていくことであると. 拓は海外に求めることになるであろう.. 考えられる.. A 社 は 経営資金確保 の た め に,韓国政府 に よるベンチャー支援策をも積極的に活用してい. B社のケース B 社 は 2006 年 1 月京畿道華城市石隅洞 に 自. る.2009 年 1 月にベンチャーとして認定され,. 前の事業所を持って創業した.この際,母体企. 2009 年 8 月 に 知識経済部 に よ る「新成長動力. 業からの資金提供,役員派遣などは行われな.

(12) 32. (740). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). かったため,この時点で「ヒト・カネの分離」. 品の品質にさほど差がなかった.その上,ソ. が完了したと考えられる.. ニーや三洋は,DVD 光ピックアップ事業を縮. 経営者のソン氏は市場重視,管理費用の最小. 小し,IT 用・Blu-ray 用光ピックアップへ力を. 化,経営資金の好循環を意味する 3M(market,. 入れ始めたため,品質問題が起きても対応する. minimum, money)を経営原則に掲げ,経営環. 担当者が存在しなかった.一方,B 社は経営資. 境の早期安定に注力した.. 源を DVD 光ピックアップに集中させ,品質問. 経営資金の好循環は,経営初期に何よりも重. 題の発生から 24 時間以内に対応する体制を整. 大な課題であった.B 社の場合,製品を販売し. え,価格面においても品質面においても取引先. てから代金を回収するまでに約 2 カ月間のブラ. から信頼される企業を目指した.. ンクがあるが,その間にも社員への給料,部品. B 社はスピンオフ前には 10% に満たなかっ. 代などの製造費用が必要である.つまり収入は. た マーケット・シェア を,創業 か ら 半年 も 経. ないけれど,支出が発生するわけである.B 社. たないうちに 15.5% にまで伸ばし,その後も. の一カ月の売上高は約 120 億ウォンに上るた. DVD 光ピックアップのマーケット・シェアを. め,当然ながら多額の製造費用が必要となるわ. 着実に伸ばした結果,世界市場でトップのマー. けであるが,創業して間もない中小企業には. ケット・シェアを占めるようになった.. その費用を賄う体力がない.ソン氏は,キャッ. 一方,創業から 6 ヶ月後の 2006 年 6 月には,. シュ・フローを改善させるために,付き合いの. 韓国政府からベンチャー企業に認定され,2006. 長い取引先へ理解を求め,販売代金の早期回収. 年 7 月にはサムスン電子と共同開発した Blu-. を行った.さらに支出を抑えるためにサムスン. ray 用光ピックアップの量産を開始し,2006 年. 電機からの部品の購入代金の決済を 6 カ月間留. のマーケット・シェアの業界トップに躍り出た. 保させてもらった.このように,B 社は以前の. (表 7).. 事業歴 や 母体企業側 の 理解 を 得 て,創業 か ら. B 社の創業直後の躍進ぶりは目を見張るもの. 2009 年 12 月現在に至るまで銀行から借り入れ. がある.ソン氏は創業前から社員との積極的な. をすることなく事業運営ができたという.. コミュニケーションを行い,社員の士気を高め. 一方,B 社は創業するや否や DVD 光ピック. ると共に,3M という経営原則を提示し,会社. アップ製品の世界マーケット・シェア 2 位に踊. の方向性を定めた.創業してからは月例会議を. り出るという好業績を出した(表 6) .その要. 開き,ソン氏自ら毎月の業績や現状に関する報. 因の一つとして,B 社がサムスン電機から独立. 告を行い,会社に対する理解を全社員が共有で. することで間接費を大幅低減でき,その分,製. きるよう努力した.. 品価格を下げることができたことが挙げられよ. 一方,ソン氏も,創業当時は組織がまとまら. う.DVD 光ピックアップ事業は競合社が数少. ず,業務規定や命令体系の構築,判断材料が少. なく,値下げ競争がなかっただけに,B 社の値. ない中で意思決定を一人で行うことに対する苦. 下げ戦略は功を奏し,スピンオフ前には業界 5. 労があったという.. 位にとどまっていた DVD 光ピックアップ事業. B 社 の 連結売上高 は 2006 年 1225 億 ウォン,. がスピンオフ直後,業界 2 位にまで浮上した.. 2007 年 1638 億ウォンと伸びをみせ,2007 年に. B 社の躍進は値下げ戦略だけによるものでは. は「ベ ン チャー企業大賞・産業資源部長官賞」. ない.2006 年当時,フィリップ社は DVD 光ピ. を受賞し,その成長ぶりが注目されるように. ックアップをソニー,三洋,B 社から供給して. なった.経営 が 安定 し た B 社 は,更 な る 収益. もらっていた.当然ながら,フィリップ社は 3. 拡大・成長のために新事業,新規取引先の開拓. 社の製品の品質評価を行っていたが,3 社の製. へ進んだ..

(13) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (741). 33. 表 6 DVD 光ピックアップの世界マーケット・シェア 2006 年. 2007 年. 2008 年 1Q. 1位. 三洋(35.8%). 三洋(35.8%). 三洋(30.8%). 2009 年 3Q B(33.4%). 2位. B(15.5%). B(21.4%). B(25.3%). 三洋(26.7%). 3位. ソニー(14.8%). ソニー(16.9%). ソニー(19.2%). ソニー(16.7%). 出所:TSR. 表 7 Blu-ray 用光ピックアップの世界マーケット・シェア . 2006 年. 2007 年. 2008 年. 2009 年. 1位. B(73.9%). B(29.5%). -. 三洋(33%). 2位. Pioneer(24.6%). ソニー(27.4%). -. ソニー(31%). 3位. その他(1.5%). シャープ(21.1%). -. B(24%). 出所:TSR. B 社のケースは,スピンオフ企業の創業形態. サプライヤー登録は C 社にとって創業初期の. の特徴をうまく生かした好例であると考えられ. 事業運営の資金確保のためにもっとも急ぐべき. る. 起業の時点から長期取引先が存在したため,. 経営課題であった.. 安定的な収入源が確保できたほか,資金繰りの. なお,サムスン電機の時は,KEY モジュー. 面で取引先や母体企業などの配慮があった.更. ルのサンプル製造のみを社内工場で行い,量産. に,大企業での事業歴があるため,市場での製. は委託生産していたが,C 社はサムスン電機か. 品品質に対する評価が高く,スピンオフするこ. ら独立してから KEY モジュールを量産するた. とによる間接費の削減を製品価格の引き下げに. めの自前の工場を設立した.つまり,C 社はサ. 反映させ,売上高とマーケット・シェアを大き. ムスン電機からスピンオフした後,製品の研究. く伸ばすことができたと考えられる.. 開発から量産までを垂直統合させることでサム. C 社のケース C 社 は 2005 年 1 月 に 京畿道華城市 に 事業所. スン電機の時とは異なる独自の事業基盤の構築. を移転し,本格的に事業を始めた.2005 年か. C 社の経営者イ氏が事業基盤を構築していく. ら 2007 年までの 2 年間,C 社は事業基盤を固. 過程には社内の声をまとめる作業が必要であっ. めるために努力した.2005 年 2 月に主要納品. た.初期 の C 社 は,各部署 の リーダーが 各々. 先であるサムスン電子の 1 次協力企業. 13). とし. に力を入れたのである.. の意見を出し合っては衝突することが多かった. て登録し,同年 8 月に付設研究所を設立した.. という.なお,まだ命令系統や上下関係が整っ. 同年 10 月には韓国政府によってベンチャー企. ていなかったため,経営者の権限というものが. 業として認定された.C 社がサムスン電機か. 曖昧であった.イ氏は当時のことを以下のよう. ら独立して真っ先に行ったサムスン電子への. に語っている.. サプライヤー登録は主要収益源である KEY モ. 「C 社は従業員から資金を集めて創業した会. ジュール事業を途切れなく続けるためである.. 社ですから,それぞれの声が大きくなるのは当. C 社がサムスン電機から受け継いだ KEY モ. 然です.そこでトップ・リーダーとして私にで. ジュール事業は売上の 90% 以上をサムスン電. きることは,その議論に巻き込まれないで早期. 子への納品から上げるため,サムスン電子への. にみんなの意見を合意に導き,仕事に専念させ.

(14) 34. (742). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). ることです.これはとても難しくつらい作業で. れる.. す. 」. D 社が一人前の企業として自立するために. イ氏の回答から創業の時点から多くの利害関. は,3 つ の 経営課題 を 解決 し な け れ ば な ら な. 係者が生まれるスピンオフ企業ならではの難し. かった.その一つ目は,サムスン電機への負債. さが感じられる.経営者のイ氏は意見の衝突す. の返済であった.D 社は 240 億ウォンでサムス. る社員らを根気よく説得し,社員の目標を一つ. ン電機から営業権を譲渡してもらったが,この. にまとめながら KEY モジュール事業を軌道に. 負債を 6 カ月かけて返済するために,D 社に. 乗せた.C 社は 2005 年 392 億ウォン,2006 年. とってキャッシュ・フローの把握は重要な経営. 703 億ウォン,2007 年 792 億ウォンの売上を上. 課題であった.CEO のオ氏は,荷物の散らかっ. げながら,順調にスタートを切った.しかし,. ている事務室の整理よりも収支管理の電算シス. 売上高に停滞が見え始めた C 社はさらなる成. テムの構築を急ぎ,毎日欠かさず売り上げの確. 長のための新たな道を探る必要に迫られた.. 認を行ったという.多くのスタートアップ企業. C 社の事例からは,母体企業から「ヒト・カ. が創業してから資金のやりくりに失敗し,倒産. ネの分離」を行った後にサムスン電機内で行っ. してしまうことを考えると,オ氏の経営判断. ていた事業をより拡張させるための経営努力と. は理にかなったものであったといえる.また,. 組織をまとめることの難しさがよく伝わってく. POS Printer 事業 を サ ム ス ン 電子・電機 で 10. る.C 社は自社の事業領域を,サムスン電子を. 年以上営んできたため,創業直後でも安定した. 主要顧客とするカスタム部品の製造サプライ. 収入源を確保することができたことが D 社の. ヤーに位置づけた.これには,サムスン電機の. 独り立ちに大いに役立ったことは言うまでもな. 時からやってきた事業暦と早期に安定的な収入. い.. 源を確保したいという思惑があったからだと考. 2 つ目の経営課題としては,サムスン式の考. えられる.しかしながら,カスタム部品の製造. え方を捨てることであった.創業から間もない. 業に従事する企業の場合,取引先を自由に選べ. ころは会議を開くと,問題の責任を他人に押し. ないという短所がある.主要取引先が新製品の. 付けようとする傾向が強かったという.このよ. 情報が部品会社を通して競合他社に漏れる可能. うな会議が続く中,オ氏は「これはまるでサム. 性を恐れるためである.C 社は,母体企業から. スンにいたころの会議のようだ.このままじゃ,. 受け継いだ事業によって早期に経営を安定させ. この小さい会社が分裂してしまう.サムスンの. ることはできたが,更なる成長のためには新た. 習慣・考え方をすべて捨てるべきだ」と考えた. な収益源の開拓が必要となった.また,創業時. という.オ氏は「問題の責任の所在を問うため. 点から多くの利害関係者が生じるスピンオフ企. に集まるのではなく,問題の解決策を探るため. 業の組織づくりの難しさは相当な経営努力が必. に集まる」,「独り勝ちではなく全社員が勝つ会. 要であり,この点については今後更なる研究が. 社」を強く訴えた.社員間の結束を堅くするた. 必要と考えられる.. めに,四半期ごとの売り上げ目標を設定し,目. D社のケース D 社 は 2003 年 1 月 に,京畿道水原市霊通区. 標が達成されたら利益を出した部署・出さな. に自前の事業所を構え, サムスン電機から離れ,. を与えることにした.. 本格的に独り歩きを始めた.この際,母体企業. D 社の 3 つ目の経営課題は,独自のブランド. からの資金提供,役員派遣などの支援は一切な. を市場に浸透させることであった.D 社は創業. かったため,母体企業の敷地を離れた時点から. してから約 1 年半の期間,「SAMSUNG」のブ. 「ヒト・カネの分離」は完了したものと考えら. ランドを付けたまま製品販売を行っていた.D. かった部署を区別せずに全社員に約束した褒賞.

(15) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (743). 35. 社は自社ブランドを決めるために外部のコン. と大差ない.すなわち,この時期のスピンオフ. サルティング会社をも入れて,長い時間を費. 企業の業績は,スピンオフ企業が独自に作りあ. や し た 結果,2004 年 9 月 に「BIXOLON」と. げたものによるのではなく,母体企業での事業. いう自社ブランドを開発し,2005 年 1 月から. 歴の慣性をスピンオフ後失わずに業績に反映さ. 同ブランド名で製品販売を開始した.D 社は,. せたことによるものである.そのため,本研究. 自社ブランドを開発してからも 2007 年までは. ではこの時期を「ヒト・カネの分離」として捉. 「SAMSUNG・BIXOLON」というデュアル・ブ. え,事業の分離はまだ完全に行われていないと. ランド(Dual Brand)戦略で販売活動を行い,. 考える.本研究における「事業の分離」とは,. 自社ブランドの信頼度を高めることに注力し. スピンオフ企業が自力で製品開発や市場開拓を. た.. 行い,母体企業の事業内容から分離・独立をす. D 社 は,2004 年 に 342 億 ウォン,2005 年,. ることを指す.. 2006 年に 416 億ウォンの売り上げを上げ,分. 表 8 は「ヒト・カネの分離」から「事業の分. 社前の売り上げの回復に努力しながら,サムス. 離」の間の期間を「独立期」として捉え,この. ン電機への負債も完済した.創業から 4 年ほど. 期間のマネジメント上の課題と特徴をまとめた. が経ち,経営が安定した D 社はさらなる成長. ものである.独立期はスピンオフ企業が母体企. のために,新事業の開拓が必要となってきた.. 業から離れて独立法人としての本格的事業を始. D 社は,本研究の事例の中で,唯一のセット. める時期であり,母体企業での事業歴の慣性を. メーカーである.セットメーカーであるため,. うまく生かすことと,母体企業の協力的な姿勢. 部品の納入先として母体企業と結ばれる A,B,. を求めることで成長していく.また,独自の組. C 社とは異なった形で母体企業と結ばれてい. 織づくり,新事業開拓のための資金蓄積などが. る.それは,ブランド・ネームの使用を 3 年間. 行われ,独立した事業運営組織としての色合い. 許可してもらった点である.一般消費者を相手. を形成していく.しかしながら,この期間に新. に事業を行う必要がある D 社の場合,認知度. 製品開発や新規取引先の開拓はあまり行われ. のない自社ブランドだけでマーケットに入ると. ず,事例の 4 社の事業内容は母体企業のものを. 厳しい競争にさらされることが予想される.し. そのまま再現することに終始していた.そのた. かし,スピンオフ企業である D 社は,母体企. め,この独立期のスピンオフ企業と母体企業の. 業の存在を活用することでマーケットに自社ブ. 関係は,「ヒト・カネの分離」による「形式的. ランドの浸透をより容易に図ることができた.. 独立」として捉え,まだ母体企業から実質的に. 部品メーカー, セットメーカーのいずれにせよ,. 独立してはいない段階と考えるべきであろう.. 母体企業の協力的姿勢はスピンオフ企業の創業. 3―3―3. 事業の分離. 後の成長に多いに役立つものと考えられる. 調査対象の 4 社は母体企業から「ヒト・カネ. A 社のケース インタビューを行った当時,創業から 2 年も. の 分離」を 行 い,独立法人 と し て 事業活動 を. たって い な かった A 社 は,新製品開発 や 新規. 本格的に始めている.この時期の大きな特徴. 取引先の開拓について構想中の段階であったた. は,母体企業から人材や工場設備や特許などの. め,A 社のケースは「事業の分離」までには至っ. 資源を買い取り,母体企業から独立しているも. ていないと判断できよう.. のの,事業内容や事業運営において母体企業内 で行っていた業務をそのまま引き継いでいるこ. B 社のケース B 社は創業 3 年目から収益拡大に本格的に乗. とである.外見上は母体企業から独立している. り出し,事業の多角化,取引先の開拓,成長に. が,業務内容は母体企業の時に行っていたもの. 合わせた組織づくりを進めることでさらなる収.

(16) 36. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). (744). 表 8 独立期の特徴 形式的独立. A社. B社. C社. D社. 2008 年 12 月. 2006 年 1 月. 2005 年 1 月. 2003 年 1 月. 独立期. ・業務 の 正常化:サ ム ・事業運営資金 の 確保: ・サ ム ス ン 電子 へ サ プ ・サ ム ス ン 電 機 へ の ス ン 電機 の 時 の 業務 販売代金 の 早期回収, ラ イ ヤー登 録:主 要 負 債 の 返 済:キャッ プ ロ セ ス を 維持,社 原材料 の 支払 い を 延 取引先 で あ る サ ム ス シュ・ フ ロー把 握 の 員の動機付け 期 ン電子との取引維持 た め に,収支管理電 ・収 入源 の 確保:事業 ・DVD用光 ピック アッ ・業務の垂直統合:KEY 算 シ ス テ ム を 早期構 運 営, ベ ン チャー認 プ 事業 へ 経営資源集 モジュールの研究開発 築,POS Printer 事 業 マネジメント上 定.VC活用 中:製 品 価 格 を 引 下 から量産までの体制を の正常化 の課題 ・組 織構造 の 整備:母 げ,故障率 の 引 き 下 構築.サムスン電機の ・脱 サ ム ス ン:全社員 体企業 の 縦組織 か ら げ . アフターサービス 時 は 量産 は し な かっ の 紐帯 を 堅 く す る 努 社員間 の 連携 を 強 め 体制の充実化 た. 力 る横組織へ,命令系統 ・意思疎通:経営原則の ・組織内の葛藤の解決: ・自 社 ブ ラ ン ド 育成 : の確立 提示(3M) ,月例会議 各 部 署 の リーダーの Samsung と BIXOLON での現状,課題を報告 衝突,CEO の 権限 の のデュアル・ブランド し,会社に対する社員 範囲も曖昧 戦略 の理解度アップ マネジメント上 ・母体企業から受継いだ事業を生かし,収益を確保 の特徴 ・創業時からある程度の規模を有するため,創業直後に組織体制を整える必要がある. ・母体企業から脱し,独自の組織体制や組織文化の構築が必要. 出所:調査を基に著者作成. 益拡大を目指している.. ル の 共同開発 を 行って い る.IT 用光 ピック. B 社が事業多角化を本格的に進め始めたのは. アップの場合,レーザーを利用して書き込みや. 2008 年からである.B 社の事業多角化の特徴. 読み取りが同時にできる機能が求められ,家庭. は,①外部組織との積極的な関係作り,②光学. 用 AV 用光 ピック アップ よ り 高度 な 技術 が 必. 技術分野への関連多角化にあると考えられる.. 要である.それだけに値段にも差があり,AV. 光学技術に関連した事業の多角化を積極的に. 用光ピックアップの一個当たり価格が 2.5 ドル. 行っている最中である B 社が新規事業として. であるのに対し,IT 用光ピックアップの一個. 力を入れている事業の 1 つである LED 電球事. 当たり価格は 18 ドルと,AV 用光ピックアッ. 業は,韓国光州光技術院と協力して製品開発を. プの 9 倍も高い.2008 年現在,IT 用光ピック. 行った.LED 電球 は 先端光学技術 が 必要 と さ. アップ の 主要製造企業 は,HLDS 社16)が 世界. れる製品分野であり,ソン氏は B 社の持って. マーケット・ シェア の 40%,TSST 社 が 40%. いる光ピックアップの設計・製造技術を生かせ. を 占 め て い る.B 社 は,2010 年 か ら IT 用光. ると判断したという.2009 年から LED 電球の. ピックアップをサムスン電子へ納品しはじめ. 量産を開始し,日本の流通企業 A 社への納品. た.2009 年にはサムスン電子と携帯電話用ア. を始めた.2008 年 8 月には Blu-ray 用光学ヘッ. クチュエーターを共同開発している.携帯電話. ド 14)をサムスン電子と共同開発・製造販売す. 用 ア ク チュエーターは 光 ピック アップ の 製造. る契約を結んだ.サムスン電機の時から築いて. 工場と 70─80% が類似しており,追加設備投資. きた協力関係や B 社のスピンオフ後における. を行う必要がなく,競合他社より約 30% 安く. 好業績が評価されたためである.また,B 社は. 製造できるという.B 社は光学設計技術を生か. TSST 社15)と IT 用光ピックアップ・モジュー. して医療機器分野への進出も図っている.2009.

(17) スピンオフ企業の初期成長の構図(崔). (745). 37. 年ドイツのフラウンホファー研究所と癌診断機 の開発に着手した. 既存 の DVD・Blu-ray 用光 ピック アップ 事 業においては,品質管理,製造原価の削減によ る価格引下げ,短いリードタイムを武器にフィ リップス,東芝など,海外の新規取引先を開拓 している.経営者ソン氏は取引先を多様化し, サムスン電子・電機への依存度を下げることが 独立期. 必要だと考えている.2009 年現在のサムスン. 成長期. 電子への光ピックアップの納入は B 社の売上 高の 20% を占めており,B 社はこれから新興 市場を中心に取引先をさらに多様化しようと考 えている.B 社の 2009 年の連結売上高は 4006. 単位:億ウォン 出所:B 社のホーム・ページを基に著 者作成. 図 1 B 社の売上高の推移. 億 ウォン と 2007 年 の 2 倍以上増加 し て い る. 2009 年の売上高の構成は,光ピックアップが 60%,電源供給装置 の EMS 生産 が 30%,新規 事業(LED, マ イ ナ ス イ オ ン 空気清浄機 な ど). ます.」. が 10% となっている.. B 社は新製品開発や新規取引先の開拓を積極. 業績規模が大きくなるにつれ,組織の規模. 的に行うことによって,収益は独立期に比べ,. も大きくなってきている.B 社の創業当時の本. 2 倍以上伸びている.母体企業から「事業の分. 社の社員数は 45 人であったが,2009 年現在 80. 離」を図ることで,収益源が多様化し,母体企. 人へと増えている.ソン氏は新規採用の狙いを. 業への依存度を下げ,真の独立した事業運営組. 以下のように語っている.. 織としての姿を見せ始めていると考えられる.. 「新規採用前の B 社の本社社員の平均年齢は 45 歳でした.5 年後には 50 歳となるわけです.. C 社のケース C 社は,2008 年から収益を拡大させるため. これは,若い血を注入しないと持続的に成長す. に新製品開発,新規取引先の開拓とともに,核. るのは難しいと思いました.わが社はサムスン. 心部品の内製化を通した垂直統合体制の強化を. 電機のベテラン社員を中心に早期に経営を安定. 進めている.. させることができましたが,これからさらに成. 新製品開発においては,携帯電話の入力方式. 長するためには有能で若い人材の育成が必要で. が画面をタッチする方式に変わりつつあるとい. す. 」. うことから,C 社は携帯用のタッチ・スクリー. ソン氏は創業後続いている好業績に浮かれる. ン・モジュールの開発を始めた.C 社がサムス. ことなく,更なる成長に向けて組織の整備の必. ン電機からスピンオフして以来,初めての新製. 要性を感じていた.. 品開発である.タッチ・スクリーン・モジュー. 「母体企業ではリーダーをサポートする体制. ルの開発はサムスン電子側の要請で始めたた. がしっかりできていたのに対して,今ではすべ. め,その主要納品先はもちろんサムスン電子. てを一人で決めなければなりません.会社の規. であった.2007 年までの C 社の売上高に占め. 模が更に大きくなれば,私一人が全ての意思決. る KEY モジュールの割合は 70% であったが,. 定をするのは不可能になるでしょう.リーダー. 2008 年には KEY モジュール 36%,タッチ・ス. をサポートする体制の構築が必要だと考えてい. ク リーン・モ ジュール 33% と 変化 し た.売上.

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