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わが国の自閉スペクトラム症への心理療法的アプローチの現状分析 : 知的障害の有無・発達段階による差異

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(1)

わが国の自閉スペ ク ト ラ ム症への心理療法的 ア プロ ーチの現状分析

一知的障害の有無 ・ 発達段階によ る差異 一

Analysis of Contemporary Psychotherapeutic Approaches to Autism Spectrum

Disorder in Japan: Based on Presence of Intellectual Disabilities and

Developmental Stages

永 山 智 之*

小 山 智 朗**

千 葉 友里香***

田 附 紘 平****

NAGAYAM A Tomoyuki

KOYAMA Tomoaki

CHIBA Yurika

TAZUKE Kohei

山 口 昂

-

*****

竹 中 悠 香******

山 川 瑠 璃*******

YAMAGUCHI Koichi

TAKENAKA Yuuka

YAM AKAWA Ruri

本研究では、 わが国の自閉スペ ク ト ラ ム症への心理療法的 ア プロ ーチ に関 し て、 DSM - III から DSM - IV -TR ま で の時期 の広汎性発達障害に関す る研究 を取 り 上げ、 知的障害の有無及び発達段階 (子 ども か青年期か) によ る差異 を明 ら かにす るこ と を目的 と し た。 ま ず、 研究数 と研究様式 に関 し て検討 を行 っ た。 そ の結果 と し て、 知的障害のあ る青年期の研究が 他の群に比べて少 なかっ た。 加え て、 知的障害のあ る群の方が知的障害のない群よ り も効果研究が多 か っ たが、 効果研究 自体が少 なか っ た こ と が示 さ れた。 さ ら に、 そ れぞれの研究 にお け る 「 関わ り 方」 「寄与 し う る点」 に関 し て永山 ら (2013) のカ テ ゴリ ーを も と に評定 し た。 その結果、 知的 な問題があ る場合、 適応的行動 に直接的 に関与す るこ と が多 い こ と が示 さ れた。 加え て、 発達課題に よ っ て寄与 し う る点が異 な っ てい る こ と が示 さ れた。 以上のこ と か ら 、 どう い っ た 部分で群 と し て細分化 し て捉え る こ と が有用であ るかが示唆 さ れた。

Di fferences in psychotherapeutic approaches to autism spectrum disorder in Japan were investigated depending on the presence of intellectual disabilities and developmental stages about pervasive developmental disorders from DSM - III to DSM - IV -TR. Firstly, the number of studies and the research method was examined. Results indicated that the number of studies with ado- lescent participants with intellectual disabilities was relatively small. M oreover, the number of efficacy studies on patients with intellectual disabilities was larger than the number of studies on patients without intellectual disabilities, although the number of efficacy studies was small. M oreover, “methods of interaction” and “issues to be contributed” by each study were evalu- ated based on the categories developed by Nagayama et al. (2013) . Results indicated that the presence of intellectual problems directl y affected adaptive behaviors. Furtherm ore, contributing issues di ffered based on developmental tasks. From the above, aspects to be perceived after being subdivided into groups were indicated.

キ ーワ ー ド : 自閉 スペ ク ト ラ ム症、 心理療法的 ア プロ ーチ、 知的障害、 発達段階

Key words : autism spectrum disorder, psychotherapeutic approaches, intellectual disabilities, developmental stages

1 . 問題の所在およ び目的

中核的 な自閉症から 症状の重症度が連続的 に移行す る 連続体 と し ての自 閉症 スペ ク ト ラ ムが提唱 さ れ (w ing

& Gould, 1979) 、 DSM- I[[ で幼児自閉症が 「広汎性発達

障害」 の カ テ ゴリ ーに含 ま れた。 こ う し て、 自閉症に類 似 し た社会性障害 を中核 と す る一群が 「発達障害」 と 認 識 さ れてい っ た。 自閉 ス ペ ク ト ラ ム症の有病率 は、 ア メ リ カでは2009年から 1 %前後で推移 し てい たのが2014年 には2.24% と 倍増 し てお り (Zablotsky et al., 2015) 、 2011年 に発表 さ れた調査 によ る と 韓国では2.64% と よ り * 兵庫教育大学大学院人間発達教育専攻臨床心理学 コ ース 助教 高 く な っ てい る (Kim et al., 2011) 。 さ ら にわが国では、 2012年 に4.8% と い う さ ら に高い割合 が報告 さ れてい る

(今井, 2012) 。

わが国では、 独自 の用語で あ る (市橋, 2006) 「軽度 発達障害」 が社会全体に広がり 、 大人の発達障害 にも注 目が集ま っ た。 欧米 では、 発達障害 と い う と 器質的 な も のが明確な場合 を指すこ と が多 く (河合, 2010) 、 わが 国の2000年以降の増加には文化 ・ 時代的な要因が関係あ り 、 本来の発達障害 と 異 な る も のが混在 し てい る こ と が 推察 さ れる と いう 指摘 も ある (河合, 2015) 。 こ う し て、 平成30年 4 月20日受理 * * 大阪工業大学情報科学部学生相談室 * * * 京都大学大学院教育学研究科 * * * * 名古屋大学大学院教育発達科学研究科 * * * * * ひいら ぎク リ ニ ッ ク * * * * * * 長浜赤十字病院 * * * * * * * 東京保護観察所

(2)

わが国では自閉 スペ ク ト ラ ム症の概念 も広 く な っ て き た 結果が、 先の高い割合の報告につ なが っ てい る可能性が あ る。 自閉 スペ ク ト ラ ム症への心理療法的 ア プロ ーチ を 整理す る際に も 、 わが国の研究 に焦点化す る こ と は有意 義 と な ろ う 。 こ う し た研究と し て、 まず田村ら (2010) は時代順に 研究 を記述 し、 研究の時代 ごと の特徴 を抽出 し てい る。 加え て、 永山 ら (2013) によ る、 各 ア プロ ーチ を学派等 のま と ま り ご と に見ず、 個々のア プロ ーチの 「関わり 方」 「寄与 し う る点」 を観点 と し て捉え、 質的研究法によ り 全体像 を描い た研究があ る。 し か し 、 こ れら の研究 では 時代によ る変化や知的障害の有無 ・ 発達段階によ る差異 に関 し ては扱 われてお ら ず、 ま た数量的検討 が な さ れて い ない。 永山 ら (2017) は以上 を踏まえ、 扱 う 学術誌 を 増や し て数量的検討 を行い、 時代 によ る変化 を検討 し て い るが、 知的障害の有無 ・ 発達段階に よ る差異は未検討 であ る。 2013年 の DSM -5の登場に よ り 、 そ れま で の 「広汎性 発達障害」 と い う 概念が含 んでい たサ ブ タ イ プは 「自閉 スペ ク ト ラ ム症」 と い う 1 つの診断名に統合 さ れ、 スペ ク ト ラ ムと し て連続体で捉え る見方が広が っ てい る。 し か し なが ら 、 狭義の子 ども の自閉症 と 青年期以降に発見 さ れる高機能の自閉 スペ ク ト ラ ム症の差異が指摘 さ れて い る よ う に (内海, 2015) 、 知的障害の有無 (黒川,

2007) や発達段階 (井上, 2013 ; 野田ら, 2013) により

支援は異 な る と 考え ら れる。 その ため、 こ れら が質的 な 差異 を も た ら す こ と を想定 し 、 こ の 2 軸か ら サ ブ タ イ プ を比較す る方向性 も必要 と な ろ う 。 そ こ で、 本研究 では先の永山 ら (2013) のカ テ ゴリ ー 1 ・ 表 2 ) を基に、 永山 ら (2017) で時代 に よ る変 化 を検討す る ために扱 っ た DSM - m から DSM - IV-TR ま での時期の広汎性発達障害に関す る心理療法的 ア プロ ー チの 「関わり 方」 「寄与 し う る点」 について知的障害の 有無 と 発達段階に よ るサ ブ タ イ プ間 で どのよ う な違いが あ るのか を明 ら かにす る こ と を目的 と す る。 そ し て、 今 後の スペ ク ト ラ ムと し ての見方 に よ る援助 を精緻化す る 補助 と し たい。 その際、 今後の研究の方向性 を探 る ため に、 研究数や研究様式 にも着目す る。 なお発達段階に関 し ては、 各発達段階に細分化 さ れる こ と も、 学童期まで と青年期 ・ 成人期と いう 区分 (杉山, 1998) がな さ れる こ と も あ る。 こ こ では、 学童期 にあ た る小学生ま で を 「子 ども」 、 中学生~ 20代 を 「青年期」 と す る。 ま た、 本研究 で扱 う 心理療法的 ア プロ ーチは、 狭義の心理療法、 行動療法や認知行動療法、 ソ ーシ ャル ス キル ト レ ーニ ン グ、 環境調整や心理教育等 を含 めた、 心理臨床家自身が関わる援助全般を指す。 表 1 「 関わり 方」 の カ テ ゴ リ ー (永山 ら , 2013) カ テ ゴ リ ー 名 定義 IA)体験世界や 気持 ちに寄 り 添 う CI. の特性 に応 じ た対応 を し な が ら , ①主体性 や② 気持 ち, ③自閉的世界 を尊重 し, 受容的態度で接す る o (B)異質 な他者 と し て現前する ①同質 な他者 で ある こ と をそ の基本 と し つつ も , 時 に異質 な他者と し て現前す る こ と や②Th の主体性 を重視す る。 (CI関係をまな ざ し, 関係 を開 く CI. と の関係性 を観察 し , 働き かける。 (D)小集団の活用 小集団など を生 かし, 多様な人間関係の中で支え る。 (E)周囲の心理的資 源への働 き かけ CI . の周囲の心理的資 源に働 き かけ て 賦活 し た り , 環境 を整え , 心理療法の外側の人々と のつな がり を 促進する。 (F)現実状況と つな く゛ 心理療法場面 で得 ら れた も の を , 現実状況に般化 さ せ る 関 わ り を す る 。 lG)適応的行動への 直接的関与 ①適応的行動 を直接的に関与 し て促進 し た り , ②自 発的な適応的行動の支持や具体的指示 ・ 助言 を行 う。 表 2 「寄与 し う る点」 のカ テ ゴリ ー (永山 ら, 2013) カ テ ゴ リ ー名 定義 (a)< 私> (注

'

) の生 成 < 私> が生成 さ れ, 形作 ら れる。 (b)象徴化能力の発 違 言語 やイ メ ージな ど , CI . の象徴化能力 が発達する。 (c) 自己感の発達 自己感 を育 んだ り , 自他理解を深め, 肯定的に自分 を捉 え る よ う に な る。 (d)関係性の変化 周囲の他者 と の関係が深ま り , 豊かにな っ てい く 。 (e) 自閉的 あ り 方の 緩和 CI. の自閉的 あ り 方が和 ら ぎ, 他者へと 開 かれる。 (f )外界への積極性 周囲の他者や外界に積極的 な関わ り を持つ よ う に な る o (9)現実状況の改善 二次障害が改善 さ れた り , 現実生活に適応する。

11. 方法

本研究では、 永山 ら (2017) で扱 っ た研究 を取り 上げ た。 具体的には、 国立情報科学研究所の Nn 論文情報ナ ビゲ ー タ ー (CiNii) を用い、 わが国の自閉 ス ペ ク ト ラ ム症への心理療法的 ア プロ ーチが掲載 さ れてい る代表的 な雑誌であ る 『心理臨床学研究』 『発達障害研究』 『児童 青年精神医学 と その近接領域』 『自閉症 スペ ク ト ラ ム研 究』 『特殊教育学研究』 の 5 誌 を取 り 上げた。 そ し て、 2012年 9 月 5 日時点で 「発達障害」 「自閉」 「アスペルガー」 「広汎性発達障害」 のキーワ ー ド で検索 し、 1980年以降 の自閉 スペ ク ト ラ ム症 を持 つ本人 を対象 に含む心理療法 的ア プロ ーチの研究 を抽出 し、 「関わり 方」 「寄与 し う る 点」 の両方が記載 さ れてい ない研究 を除外 し た。 さ ら に、 こ れら の研究 を知的障害 の有無、 及 び子 ども か青年期かによ っ て、 4 群に分類 し て差異 を検討す る た め、 複数の群にま たが る研究 3 編は分析に含めず、 計49 編 を抽出 し た (注2)。 なお、 知的障害や発達指数の記述 を 参考に し、 診断や見立てにおい て高機能広汎性発達障害 の範 疇 に あ る と 判断 さ れた も の、 及 び IQ70以上の も の を 「知的障害無」 と し た。 結果の分類では、 各群につき 筆者のう ち 2 名の分析者 (臨床心理学専攻の大学院生) が同時並行 で文献 を分析 し た。 そ し て、 以下の指標 を も

(3)

と に別個に評定 を行い、 その後評定結果 を照合 し、 評定 の異な る箇所は合議の上、 評定結果 を決定 し た。 1 . 研究様式の指標 山本 (2001) によ る と 、 事例研究はリ ア リ テ ィ 構成的 で事例自体の明確化 を日的と し た 「事例自体の研究」 と、 理論 モ デル構成的 で事例 を通 し て探索的 ・ 説明的 なねら い を明 ら かに し 、 実践のう え で有効 な 「仮説」 ない し は 「 視点」 を提供す る 「事例 を通 し ての研究」 に大別 で き る。 さ ら に、 事例研 究 には心 の メ カ ニ ズ ムの理解や援助 技法 に関す る新 し い アイ デ ア を算出す る役割 があ る と い う 。 加え て、 事例に も た ら す効果 を数量的に検証す る効 果研究 も あ る。 以上 を分類基準 と し て、 分析者が各研究 の タ イ ト ル ・ 目的 ・ 事例の経過 (結果) ・ 考察部分 を読 み、 ①事例自体の研究②事例 を通 し て心の メ カ ニズ ムの 理解に寄与す る研究③事例 を通 し て援助技法 を提案す る 研究④効果研究に分類 し た。 2 . 「 関わり方」 「寄与 し う る点」 の指標 分析者が一つ一つの事例の経過 (結果) ・ 考察部分 を 読み、 「関わり 方」 「寄与 し う る点」 に関する具体的箇所 を抽出 し 、 コ ー ド名 をつけ てい く 「 コ ー ド化 (Strauss & Corbin, 1990 / 1999)」 を行っ た。 例えば、 高原 (2001) では “日常生活での強い こ だわり も 解消す る こ と がで き た” と い う 記述があ り 、 こ れは自閉 スペ ク ト ラ ム症 を持 つ ク ラ イ エ ン ト のこ だわり が解消 さ れたこ と を表 し た記 述 と 考え、 コ ー ド化 し た。 そ し て、 永山 ら (2013) のカ テ ゴリ ー (表 1 、 表 2 ) を基に永山 ら (2017) で扱 っ た 文献 を分類 し た。 評定結果の決定の際、 合議制質的研究 法 (Hill et al., 1997) に従い、 筆者のう ち臨床心理学 専攻の大学院生 5 名から なる第一チームが定期的に集ま っ て意見 を交換 し 、 各群の分析 で扱 っ てい る全 デー タ を説 明 で き る コ ン セ ンサ ス を得 る ま で話 し 合 い、 そ の結果 を 筆者のう ち 2 名の監査者 (臨床心理士。 臨床経験15年、 5 年) がチ ェ ッ ク し て分析の妥当性 を図 っ た。

111. 結果と 考察

今回は先の49編を分析対象 と し、 Fisher の直接確率検 定、 ない しx2検定を行い、 ① 「知的障害 ・ 有 と知的障害 ・ 表 3 対象 ・ 研究様式の内訳 無」 ② 「子ども と青年期」 ③ 「知的障害 ・ 有と知的障害 ・ 無」 x 「子 ども ・ 青年期」 につい て出現度数の差 を検討 し た。 その結果、 表 3 のよ う に知的障害 ・ 有の青年期の事例 は 6 事例と 4 群の中で最も少な く 、 割合 も有意に少なかっ た (p< .05) 。 知的障害 ・ 有では母子の関わり の難 し さ か ら子 ども の時期 に、 ま た知的障害 ・ 無の場合は青年期 に社会 と の関わり の難 し さ や、 社会におけ る自分 のあ り 方への迷いか ら心理療法的 ア プロ ーチが適用 さ れる一方、 知的障害 ・ 有の青年期の場合、 心理療法的ア プロ ーチ以 外の方法が用い ら れ、 作業療法や医療 ・ 作業所 ・ 保健福 祉 セ ン タ ーな どで の援助 が主 と な っ てい る可能性が考え ら れる。 さ ら に、 子 ど も と 青年期 で知的障害 ・ 有 と 知的 障害 ・ 無の割合 に差が見 ら れ、 青年期は子 ど も よ り も知 的障害 ・ 無の割合が多 かっ た (p< .05) 。 こ れには知的 障害 ・ 無の場合、 思春期以降に社会 と の繋がり の中で課 題が表面化 し、 学童期 ま で では発見が難 し い こ と や、 学 童期 ま での場合は療育分野に繋がれる こ と も 関係 し てい るか も し れない。 次 に、 研究様式 に関 し ては、 分類結果の一致率 (注3) を算出 し た と こ ろ、 k 係数は81.6でほぼ一致 し てい た。 表 3 のよ う に、 研究様式 の割合 に差が見 ら れ (x2

(3) =

17.86、 p< .01) 、 多重比較の結果、 ③事例 を通 し ての研 究 (援助技法) が全体で24事例 (49%) で有意に他の 3 つ よ り も多 か っ た。 こ のこ と か ら 、 自閉 スペ ク ト ラ ム症 への心理療法的 ア プロ ーチは援助技法の開発が中心 と 言 え、 こ こ には、 従来型の心理療法的 ア プロ ーチが通用 し ない と さ れて き た影響 (河合、 2010) がう かがえ る。 加え て、 ④効果研究の割合が青年期で も全体で も知的 障害 ・ 有の方が知的障害 ・ 無 よ り も多 か っ た (順 に p< .05、 p< .01) 。 効果研究自体は数が少 なか っ た も のの、 知的障害 ・ 有では言語的なやり と り が比較的難し く 、 行 動 観察 な ど を用い た評定 に よ る効果検証がな さ れて き た 結果 と 考え ら れる。 続い て、 「関わり 方」 「寄与 し う る点」 に関 し ては、 分 類結果の一致率 を算出 し た と こ ろ、 k 係数はと も に83.0 でほぼ一致 し てい た。 知的障害有 知的障害無 知的障害有 知的障害無 , , . 知的障害有 知的障害無 子ど も ll 年期 合計 子ど も 子ど も 青年期 青年期

(4)

-

表 4 のよ う に、 知的障害の有無で見 てみる と 、 子 ども では知的障害 ・ 有の方が 【適応的行動への直接的関与】 が多 か っ た (p< .05) 。 子 ども の知的障害 ・ 有 では、 知 的な問題のために言語的 な関わり が比較的難 し く 、 適応 的行動に直接的に関与す る関わり が必要だと 捉え ら れて い る こ と が推察 さ れる。 一方 で、 寄与 し う る点 には差が あ る と は言え な か っ た。 加え て、 発達段階別では青年期の方が 【小集団の活 用】 と い っ た関わり 方が多 く (p< .05) 、 寄与 し う る点 と し ては、 子 どもの方が 【象徴化能力の発達】 が多 く 、 青年期の方が 【自己感の発達】 が多かった (共に p< .01)。 以上のこ と から 、 子 ど も では 1 対 1 の関係の中で言葉 の遅れな どに ア プロ ーチ し 、 発達早期の コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ンの基盤と な る、 象徴化能力の発達に寄与 し う る と 考え ら れる。 一方、 青年期では小集団 を活用 し やす く 、 青年 期の発達課題 であ る集団同一性の確立 も視野に入 っ て き て、 象徴化能力 を土台 と し た自己理解や自己感の発達に 寄与 し う るのであ ろ う 。 こ のよ う に、 寄与 し う る点 には 発達課題の違いが反映 さ れた一方、 関わり 方は 1 対 1 か 集団かと い う 構造の違い以外は差があ る と は言え ず、 発 達段階 に よ っ て集団 に よ る ア プロ ーチ の機能 し やす さ の みが異 な る こ と が示唆 さ れた。

IV. 結論 と 今後の展望

こ れま で見 て き たよ う に、 本研究 ではわが国の広汎性 発達障害への心理療法的ア プロ ーチの研究数 ・ 研究様式 ・ 「 関わり 方」 や 「寄与 し う る点」 には、 ク ラ イ エ ン ト の 表 4 各群の 「関わり方」 と 「寄与 し う る点」 の内訳 知的障害の有無や発達段階によ る差異が一部存在 し てお り 、 どう い っ た部分 におい て群 と し て細分化 し て捉え る こ と が有用 で あ るかが示唆 さ れた。 特 に、 知的障害があ る群で効果研究の多 さ や、 子 ども に対す る適応的行動に 直接的に関与す る関わり 割合の多 さ が示 さ れ、 発達段階 の違いは寄与 し う る点 の発達課題の違いが反映 さ れたこ と が示唆 さ れた。 た だ し 、 永山 ら (2013) の カ テ ゴリ ーは仮説的 な も の であり 、 海外の研究 も含め、 よ り 幅広い研究から得 ら れ た カ テ ゴリ ーに よ る検証 も期待 さ れる。 併せ て、 知的障 害無 ・ 青年期や中高年の研究の集積、 よ り 細かい区分で のサ ブ タ イ プの検討 が望 ま れる。 さ ら に、 効果研 究が 7 編 (14%) のみと 最も数が少なかっ たこ と を踏まえ る と 、 今後、 援助技法の開発の段階か ら その効果の検証へ と 展 開 し てい く こ と も期待 さ れる。 海外では、 Howlin (2010) が英国自閉症協会のウェ ブ サイ ト に掲載 さ れた、 自閉 スペ ク ト ラ ム症の子 ど も への 80以上の ア プロ ーチの効果 を概観 し てい る。 その中で各 ア プロ ーチ を行動べ一 ス (応用行動分析、 早期集中行動 介入) 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンベ ース (TEACCH 等) 、 社 会的感情的能力への介入 (共同注意、 象徴的遊び、 ソ ー シ ャ ルスキル等) に分け、 その方法や効果につい て論 じ、 あ る ア プロ ーチが他の も のよ り も 優 れてい るのでは な く 、 特性 に合 わせ て ア プロ ーチ を 選択 す る必要があ る と し て い る o ま た、 Bishop-Fitzpatrick et al. (2013) は、 自閉 ス ペ ク ト ラ ム症 を持つ大人に対 す る心理社会的 な介入 を概観 知的障害有 知的障害無 知的障害有知的障害無 。 知的障害有 知的障害無 子とも 子ども 子ども 青年期 青年期 青年期 合計 関わり方 A 【体験世界や気持ちに寄り添う】

9

9

3

10

12

19

18

13 31

B 【異質な他者として現前する】

3

3

0

3

3

6

6

3

9

C 【関係をまなざし, 関係を開く】

3

3

0

2

3

5

6

2

8

D 【小集団の活用】

0

0

3

2

3

2

-

5

E 【周囲の心理的資源への働きかけ】

3

4

0

4

3

8

7

4 11

F 【現実状況とつなぐ】

5

2

3

1

8

3

7

4 11

G 【適応的行動への直接的関与】

-

5

9

16

11

13

14 27

寄与しうる点a

b

C

d

e

f

9 【< 私> の生成】 【象徴化能力の発達】 【自己感の発達】 【関係性の変化】 【自閉的あり方の緩和】 【外界への積極性】 【現実状況の改善】

4

9

2

8

5

2

5

4

7

1

5

7

0

4

f

-

論文数

7

5

23

26

28

21 49

p

<

.01

p

<

.05

(5)

し た。 そ し て、 13の研究 ( 6 編が社会認知 ト レ ーニ ング、 5 編が応用行動分析、 2 編が他のコ ミ ュ ニケーシ ョ ンベー スの介入) の効果量 (d) は.14~ 3.59 と な り 、 効果のエ ビデ ン スが示 さ れた。 し か し 、 サ ブ タ イ プ間の介入や効果の違いは不明確で あ る。 さ ら に、 本研 究 で示 さ れた よ う に、 わが国 で は数 量的指標 を用 い ない事例研究が多 く 、 デザイ ン さ れた介 入 と 客観的 な効果 と い う 形式 に当 てはま り に く い研究 も 少 な く ない。 今後、 国際比較 を視野に入 れつつ、 数量的 な指標 を用い た研究やメ タ分析 を行 う こ と が望 ま れる。 (注 1 ) < 私> と は、 広 く 他者に対す る 「私と いう 存在」 の意であ る (永山 ら , 2013) 。 (注 2 ) 紙幅の都合上、 詳 し く は永山 ら (2017) を参照 さ れたい。 (注 3 ) 一致率に関 し ては、 全回答実数 を分母、 一致 し た回答実数 を分子 と し て計算 し た。

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参照

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