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研究助成成果報告(平成18年度)

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Academic year: 2021

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はじめに

この文章を読まれる方は専門家ではないので平易な文章を求められている。当然である。しかし、

「円二色性」だの「光学活性分子」など難解な言葉がいきなり研究テーマの中に入っていて大変恐縮で ある。まず言葉の説明から始めさせていただく事をお許し願いたい。炭素原子を中心に一つ持つ分子を 想定する。炭素は正四面体の中心に位置し、炭素から延びる結合の手4本はそれぞれ120°の角度を持 ち、その結合につながる原子は正四面体の各頂点に位置する構造を持っている(図1)。各頂点に位置 する原子(原子団)の種類がすべて異なると、この分子は図1で示した(S)-formと(R)-formの2種類

が存在するようになる。(S)-formと(R)-formの関係は右手と左手の関係のように、丁度鏡に映したも の同士の関係となる。それゆえ(S)-formと(R)-formはそれぞれ左掌体および右掌体と呼ばれ、この関 係は鏡像異性体という。このような分子は「光学活性分子」あるいは不斉分子と呼ばれる。エチルアル コール(エタノール)は、炭素に結合している四つの原子は、メチル基、水素二つ、酸素である事から

「光学活性分子」ではないが、2-ブタノールはメチル基、エチル基、水素、酸素と、すべて異なる事か

円二色性分光法と理論計算を併用した 光学活性分子の絶対配置決定

〔科学技術試験研究助成〕

静岡大学工学部物質工学科 田 中 康 隆 [email protected]

課題  応用 

分子の真の形(構造)決定による 

「絶対配置」の推定。 

医薬品の開発、光学材料の評価  分子は目に見えない。しかし真の形

を知りたい。分子の形は分子の性質

(毒  or  薬)を決定するから。容易 に測定できるスペクトルと理論計算 から、分子の真の形を推定する。 

研究助成成果報告

(平成18年度)

(R)-form 

(S)-form 

Br 

Br 

Cl  Cl 

鏡 

図1 炭素原子を中心に持つ分子の立体構造。炭素 原子を中心とした正四面体構造を有する。炭素(C)

に結合している4つの原子(I、Br、Cl、H)は正四 面体構造の各頂点に位置している。

(2)

6 ら光学活性となり、左掌体(l-2-ブタノール)と右掌体(d-2-ブタノール)が存在する(図2)

左掌体と右掌体は沸点、融点、溶解度等の物理的性質は全く同じである。ところが生体に対する性質 は異なってくる。例えば、左掌体と右掌体の一方は甘いが、もう一方は苦かったりであるとか、極端な 場合は一方が薬でもう一方が毒であったりする。それゆえ「光学活性分子」は使う前に、左掌体と右掌 体に分けたり、分けた後にどちらが左掌体で右掌体であるかを決定する必要がある。左掌体と右掌体の 決定が「絶対配置決定」であり本研究の目的である。左掌体と右掌体では光に対する性質、偏光に対す る吸収も異なってくる。スペクトルにすると図3のように絶対値が異なってくる。偏光に対するスペク トルの事が「円二色性分光法」である。

研究方法と結果

図3に示したように、仮に左掌体が(a)のスペクトルを示した場合、その右掌体は必ず(b)のスペ クトルを、あるいは左掌体が(b)のスペクトル示した場合、右掌体は必ず(a)のスペクトルを示す。

左掌体と右掌体で絶対値が異なる対称型のスペクトルを示すが、スペクトルの形状(絶対値)のみでは 左掌体か右掌体であるか、「絶対配置決定」することはできない。本研究では、(1)コンピューター上 に左掌体と右掌体の構造を描き入力ファイルとする、(2)この入力ファイルより分子軌道計算(密度汎 関数法(B3LYPS  6-31G*))より理論計算による円二色性スペクトルを算出する(理論円二色性スペク トル)、(3)左掌体か右掌体かが不明な光学活性分子の円二色性スペクトルを測定する(実測円二色性 スペクトル)、(4)理論と実測円二色性スペクトルの形状(絶対値)の比較から実測した光学活性分子 の絶対配置を決定する、という過程で光学活性分子の絶対配置の決定を試みた。

光学活性分子である化合物1を対象とする分子とした(図4)。1の円二色性スペクトルを図5(a)に示 した(過程(3))。実線と点線の対称型の二つのスペクトルを示しているが、この時点では実線と点線 どちらが左掌体と右掌体に対応しているかはわからない。コンピューター上に1の左掌体と右掌体の立 体構造を描き入力ファイルとし(過程(1)、理論円二色性スペクトルを算出した(過程(2)。この結

鏡 

エタノール  エタノール  l-2-ブタノール  d-2-ブタノール  鏡 

  

250  300[nm] 

(a) 

250  300[nm] 

(b)  図3 円二色性スペクトルの模式

図。仮に左掌体が(a)のスペクト ルを示した場合、その右掌体は必ず

(b)のスペクトルを示す。

図2 エタノールと2-ブタノールの立体図。エタノールの鏡像体はエタノールであるが、2-ブタノール では左掌体と右掌体の一対の鏡像異性体として存在する。

(3)

7

果を図5(b)に示す。図5(a) と(b)を比較することにより、図5(a) 中の実線と点線それぞれが左掌 体((M)-1)と右掌体((P)-1)に対応するという事を決定する事が出来た。言い換えると、目に見え ない分子を理論と実測円二色性スペクトルから真の形(絶対配置)を決定する事が出来た。

今後はこの方法がいかなる光学活性分子に対しても適応できる事を証明し、一般性の確立を行う。光 学活性分子の絶対配置決定は、絶対配置が分子の生体に対する性質あるいは光学的性質を決定する事か ら医薬品開発や光学材料の評価には必須である。光学活性分子の特許出願の際、絶対配置を明記する事 が出来れば既に登録されている分子であっても新規な分子として出願する事が出来る。今後は分子構造 とともに絶対配置が、ますます重要視される事になると予想できる。今回の方法がひとつの手助けとな れる事が最終的な目標である。

(P)-1  (M)-1 

図4 対象とした光学活性分子1。

左掌体((M)-1)右掌体((P)-1)

から構成される。

10-4ε(M-1cm-1  10-4ε(M-1cm-1 

Δε(M-1cm-1 

Δε(M-1cm-1 

(b) 

0 4 6

400 2 8

200 200

Wavelength (nm) 

300

(a)  

10

Wavelength (nm) 

300 400

20

0 150 

100 

-50  50 

-150  -100  40 

20 

-40 

-20 

-60 

図5(a)1の実測円二色性スペクトル。(b)の理論円二色性スペクトル。実線は左掌体((M)-1)、破 線は右掌体((P)-1)に対応する。

参照

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