繊維材料実験科目における簡易法による 繊維材料紫外線脆化試験の試み
吉 田 大 介
(生活デザイン学科)
Trial of the embrittlement examination of the fiber materials by the ultraviolet rays, by the simple method
Daisuke YOSHIDA
Abstract
There are several kinds of fiber embrittling by ultraviolet rays, and it is apparent that it is important that a student, learning textile materials, knows the mechanism of the strength drop and the degree. However, as for letting a student really trace a brittle process using fiber, there is much difficulty in preparations and the management of the experimental apparatus to perform it at a small university.
Therefore I produced the simple ultraviolet irradiation apparatus using the ultraviolet rays light used as a germicidal light and a photochemical reaction light.. I performed an ultraviolet irradiation examination of the fiber and a strength examination using it, and I considered whether the data showed ultraviolet rays embrittlement tendency of the fiber. Furthermore, I considered whether this method was possible in the experimental class.
Keywords: textile materials, テ キ ス タ イ ル 材 料,embrittlement by the ultraviolet rays, 紫 外 線 脆 化,
strength drop, 強度低下,nylon, ナイロン,fiber for the industry, 産業用繊維,ultraviolet rays light, 紫外 線灯, autograph, 引張り試験機
1.はじめに
著者は,インテリアメーカーに勤務していたこともあり,担当している生活デザイン学科の科目 である「テキスタイルマテリアル」および「テキスタイルマテリアル実習」の中で,インテリアの 材料でもある繊維の脆化,とくに紫外線による脆化に関して学生に学ばせることに興味を持ってい た。家政系の大学等で使われるテキスト等でもその扱いは簡単で表面的である。3-4)
紫外線により脆化する繊維は何種類かあり,テキスタイル材料を学ぶ学生がその強度低下のメカ ニズムおよび程度を知ることは重要であることは明らかである。しかしながら,学生に実際に繊維 を用いて脆化の過程をトレースさせることは実験装置の準備および管理等において,小規模の大学 で行うには多くの困難がある。
身近な紫外線の発生装置としてブラックライトや殺菌灯がある。前者は主に300nm以上の近紫外 領域の光源として,ジアゾ感光紙の焼付け用や鉱物・化合物,食品の鮮度の鑑定,捕虫器用光源,
重合反応,光酸化,光分解などの反応および促進用などに多く使用されている。後者は遠紫外領域 の光源として,主に254nm付近の殺菌作用が利用され,病院,劇場などのダクト内に取付けたりし
て空気殺菌,食品,食品包装材料,衣料,寝具,医療器具などの表面殺菌などに広く使用されてい る。
そこで著者は簡易的な実験方法として,殺菌灯として,および光酸化,光分解などの反応用とし て使われる紫外線灯を使用し,簡易的な紫外線照射装置を製作した。それを用いて繊維の紫外線照 射試験および強度試験を行い,そのデータが繊維の紫外線脆化傾向を示すかどうか検討し,さらに この方法が授業の中で実施できるかどうかについても検討を加えた。
2.実験方法
2.1 試料
照射対象試料としては下記のものを使用した。
ナイロンフィラメント加工糸 国産 1000d-54f-BCF非耐光糸(カーペット用加工糸)
をそのまま用いた。
2.2 紫外線照射装置
製作した紫外線照射装置をFig.1に示した。ここで照射管下面より対象試料までの距離は70mm である。この距離を保つため18mm×70mm×70mmの木製のゲージを用いた。照射対象試料は 1.5mm×150mm×300mmのアルミ板に張力をかけないように巻き取り,中央に照射窓を開けた 450mm×600mmの黒紙で覆った。この黒紙に開けた照射窓は300mm×70mmであり照射窓の中央 線が照射管の真下に位置するように木製ゲージを設定した。実際の点灯装置と照射管はフレキシブ ルパイプによって吊り下げて,木製ゲージの上に接している。
さらに紫外線が漏れるのを防ぐため,照射装置全体を600mm×600mm 高さ700mmの台上に置 き,厚さ4mmの黒色プラスチック製段ボール(商品名:プラダン)で900mm×450mm 高さ 600mmの上下解放された覆いを,Fig.2に示した様に,照射装置が中央に設置されるように被せて 照射実験をおこなった。
2.3 紫外線照射光源
一般的な市販品の直管型水銀殺菌灯GL-15W型(NEC製),および一般的な市販品の直管型ブラッ クライトFL-15BL型(NEC製)を用いた。
殺菌灯GL-15W型は蛍光体が塗布していない低圧水銀放電管で,その中心波長は253.7nmであり Fig. 1 紫外線照射装置
管体は特殊紫外放射透過ガラスでできていて,253.7nmの紫外線は透過し,紫外線出力4.6Wである1)。 ブラックライトFL-15BL型は重合反応,光酸化,光分解などに使用される蛍光が塗布された放電 管で,その中心波長は350nm付近にあり管体は一般蛍光灯と同じガラスでできていて300nm以下の 短波長の紫外線はガラス管を透過しない。紫外線出力2.1Wである1)。
2.4 試料の照射
ナイロン加工糸を照射対象試料として用い,装置全体を調温された室内に置き,紫外線暴露を避 けるため,タイマーを用いて室外から電源の入切りをすることで,紫外線照射を所定の時間おこなっ た。
2.5 引張り強度の測定
紫外線照射後のナイロンフィラメント糸は照射部分が中央になるようにして約300mmに切り,
フィラメントを傷つけない様に注意して片側の端に結び目を作っておいた。
引っぱり強度の測定にはautograph(島津製作所製)1000N卓上型を用い,平型掴み金具(エア チャック)の掴み面に1.5mm厚の塩化ビニル板を両面テープで接着し,掴み間隔100mm,引っぱ り速度200mm/minで測定をおこなった。
3.結果および考察
3.1 紫外線照射によるナイロンフィラメント糸の引張り強度低下
Table1に,8hr,16hr,32hr,64hr,128hrの紫外線照射(GL-15W)したナイロンフィラメン ト加工糸,および紫外線照射をしていないナイロンフィラメント加工糸の引張り強度,デニール当 りの引張り強度を示し,くわえて(1)式により引張り強度保持率(%)を算出して示した2)。
Tm = f’/ f ×100 ・・・・・(1)
Tm:引張り強度保持率(%)
f :紫外線照射前の引張り強度(N)
f’ :紫外線照射後の引張り強度(N)
Fig. 2 照射装置の安全覆い
ここで,それぞれの照射時間の試験試料数は30である。また別に計算したそれぞれの照射時間の 引張り強度 f の変動係数CVは,照射時間0,8,16,32,64,128 hr に対してそれぞれ4.4,4.6,4.6,
6.0,8.4,13.1 (%)であった。64時間照射したナイロンフィラメント糸の引張り強度保持率はおよ そ50%であり,128時間照射したものは20%まで低下し,その引張り強度は6.4Nであることがわかる。
紫外線照射 (GL-15W) 時間と引張り強度の関係をFig.2に示した。 すなわち,1dあたりの引張 り強度 f/d (mN/d) を紫外線照射時間 t(hr)に対してプロットした。また,最小2乗法による2 次近似曲線を図中に加えた。
照射時間が長くなるほど引張り強度は低下していることがわかる。照射時間8,16,32hrくらい まではほぼ直線的に引張り強度は低下しているが,照射時間64,128hrの引張り強度は直線よりも やや大きい値になって直線からはずれている。
Fig.4に,紫外線照射時間の平方根 t1/2(hr1/2)に対して引張り強度保持率 Tm(%)をプロット したものを示した。これも照射時間32,64,128hrの間は直線に近いが,照射時間0,8,16hrの付 近は直線とは言えない。
Table 1 紫外線照射(GL-15W)によるナイロンフィラメント糸の引張り強度
Fig. 3 紫外線照射(GL-15W)によるナイロンフィラメント糸の引張り強度
これらの結果より,紫外線照射によりナイロン高分子の直鎖が切断され,引張り強度が低下し脆 化がおこることが示唆される。この装置による紫外線照射は照射位置は固定のままで,フェードメー タやウェーザメータの様な毎分2〜4回の試料の回転1)をおこなっていないので,照射時間が長 くなると脆化部分と非脆化部分との分子量の差が大きくなり,一様な強度低下率を示さなくなると 考えられる。また,照射時間ごとの引張り強度の変動係数も照射時間が長くなるにつれて大きな値 を示す事から,照射時間が長くなると引張り強度の散らばりが大きくなる事を示唆している。授業 でにおこなう実験としては,タイマーを利用した無人運転をおこなえば,1週間ごとの授業の間に 150hrの照射時間を確保することも可能である。
3.2 光源の違いによる強度保持率
扱う紫外線の暴露を避けるため,照射装置全体に安全覆いを被せて,加えてタイマーを用いて照 射装置の設置してある実験室の外に実験者は退避し,安全性を確保して紫外線照射実験を実施した。
しかし,さらに安全な実験をおこなう事を考慮して,使用する光源に,波長の長い紫外線である中 紫外域の350nm付近に中心波長をもつFL-15BLを使用した照射実験および引張り強度実験を実施し た。
Table2に各種光源により,64hrの紫外線照射したナイロンフィラメント加工糸のデニール当り の引張り強度 f/d(mN/d)を示し,さらに引張り強度保持率 Tm (%)を算出して示した。
FL-15BLの照射によるナイロンフィラメント糸の引張り強度保持率は82%であり,GL-15Wの照 射による引張り強度保持率は52%であった。それぞれの光源の中心波長が異なることに加え紫外線 出力の大きさの違いが影響するものと示唆される。
Fig. 4 照射時間に対する引張り強度保持率(GL-15W)
4.おわりに
この報告において,簡易的な装置による紫外線照射により繊維の紫外線脆化を示すこと,および 授業の中で当該実験をおこなう事の可能性を示す事ができた。
ただし,波長の短い紫外線の危険性を十分考慮する必要がある事は言うまでもない5)。さらに,
照射エネルギーは小さく試験時間が長くなるが,300nm以上の近紫外線を利用する方法を検討する 必要がある。この光源も多くの市販品が存在しているが,殺菌灯に比較すれば危険性は少ないもの の,十分取扱に注意する必要があると考える。
<文献>
1)NEC:ランプ・安定器カタログ(web版),http://www.nelt.co.jp/download/webt-la/index.html,
NECライティング,pp.48-49,(2015-2016)
2)日本工業標準調査会:化学繊維フィラメント糸試験方法 JIS-1013-2010,
日本規格協会,pp.23-24,(2010)
3)林 雅子他:被服材料学 改訂版,実教出版,pp. 36-37,(2007-1)
4)松田 哲哉:新版被服材料学,家政教育社,p.63, p.229,(1981-5)
5)日本工業標準調査会:有害紫外線の測定方法 JIS-Z8812-1987,日本規格協会,pp.1-5,(1987)
Table 2 各種光源の紫外線照射によるナイロンフィラメント糸の引張り強度