保障型保険募集における助言義務・
適合性原則
山 本 哲 生
■アブストラクト
保障型保険の募集において,保険仲介者に私法上の助言義務を認めるべき かどうかは残された問題の1つである。助言義務は情報提供の整備だけでは 適切な自己決定をすることが困難な状況において,自己決定原則を補完する ものであると位置づけることができる。そのうえで情報の重要度,保険者側 のコスト,当事者の社会的地位の総合的な衡量に基づき,信認関係,高度の 信頼関係がなくともある種の助言義務を認める余地はあると考えられる。
■キーワード
助言義務,適合性原則
1.序論
保険募集における保険仲介者の行為規制について,近年,業法的規制とし ては意向確認書面の導入等体制の整備が進められている 。しかし,これら の規制の私法上の意義は必ずしも明らかではなく,保険法においても助言義 務のような規定を置くことは見送られた。本稿では,助言義務,適合性原則 について,投資型保険に関しては従来からの投資商品に関する議論が妥当す るであろうから,特に保障型保険の募集において,私法上の義務としてこれ
/平成21年9月8日原稿受領。
1) この点につき,小林道生 保険者の情報提供義務 落合誠一=山下典孝編 新しい保険法の理論と実務 (経済法令研究会,2008年)68頁以下。
らを認めるべきかを検討する 。
助言義務,適合性の原則は保険募集に限らず問題とされていることである が,特に適合性原則の意義については理解が錯綜しており,そのことと相俟 って,適合性原則と説明義務の関係,適合性原則と助言義務の関係も必ずし も明確な整理がなされているわけではない。大まかにいえば,これらに関し て問題となるルールの内容としては次のような整理ができる。
助言義務とは顧客に代わり保険商品の妥当性等について判断を行う義務で ある。説明義務において要求される行為との区別は微妙になりうるが,説明 義務では判断は顧客に委ねられているのに対して,助言義務では業者が判断 を行う 。助言の内容として,もっとも適した商品を勧める義務(適した商 品がなければ推奨してはならない)と,ある程度適した商品を勧める義務
(完全に適した商品がなくてもある程度適した商品を推奨することができる)
の2つを考えることができる 。また,自己が取り扱う商品の中で,これら の義務に応じた推奨をする義務なのか,市場に供給される全商品の中からこ れらに応じた推奨をする義務なのかという問題もある。
適合性原則は広義と狭義の2つがあるという整理がされることが多い 。
2) 金融審議会金融分科会第二部会に保険の基本問題に関する
WG(以下,基
本問題WG
という)が設置され,2009年6月の中間論点整理では,適合性の 原則も論点となっている。基本問題WG
中間論点整理 1頁以下,4頁。3) なお,助言義務に関する研究では,私法上の義務との関係が必ずしも明らか ではないものも多いことから,参考文献としては,私法上の義務を問題にする ものかどうかにはこだわらずにあげている。
4) 後藤巻則 消費者契約の法理論 (弘文堂,2002年)103頁,潮見佳男 適合 性原則違反の投資勧誘と損害賠償 新堂幸司=内田貴編 継続的契約と商事法 務 (商事法務,2006年)184頁。
5) イギリスにつき,青山麻里 英国における保険販売と適合性 ニッセイ基礎 研
REPORT
2005・11号7頁,同 英国の保険販売規制に関する最近の動向 について ニッセイ基礎研REPORT2007・4号4頁,高崎康雄 英国金融サ
ービス市場法下での保険募集規制改革の取組み 生保経営74巻2号(2006年)60頁参照。
6) 金融審議会第一部会 中間整理 (1999年)17頁以下,松尾直彦編著 金融
広義の適合性原則とは,顧客に応じた勧誘をしなければならない義務(命令 規範)であるといえよう 。ここで助言が問題になるのか,説明なのかとい う点は理解が分かれる 。適合性原則を助言義務に即していえば,顧客の知 識,経験,財産の状況,取引の目的に適した助言をする義務を認めるかどう かという問題になる。適合性原則を説明義務に即していえば,顧客の知識,
経験,財産の状況,取引の目的に応じた説明をする義務を認めるかどうかと いう問題になる。なお,特に相手方の理解力に応じた説明をするという点も 問題になりうる(金販3条1項2項参照)。
狭義の適合性原則は特定の者を当該商品の市場から排除するルール(禁止 規範)であるとされる。どれだけ説明を尽くしても勧誘してはならないとも いわれる 。投資勧誘に関する最判平成17・7・14民集59巻6号1323頁にお いて,私法上の義務として認められているのは,狭義の適合性原則である 。
以上をまとめると,従来の助言義務,適合性原則との対応関係は別として,
業者に何が求められるかという観点からすれば,大きくいえば,説明,助言,
勧誘禁止の3つに分けられる。このようなルールの保障型保険における妥当 性について考えると,狭義の適合性原則は妥当しないように思われる。私法 上のルールとしての狭義の適合性原則の理論的基礎の代表例は,財産権保護,
生存権保障であろう 。勧誘態様を問わずに財産権保護,生存権保障のため
商品取引法・関係政府令の解説 (別冊商事318号)(2008年)211頁。
7) 松尾・前掲注6)211頁,潮見・前掲注4)182頁。
8) 助言の問題とするものとして,潮見・前掲注4)184頁,吉田克己 市場秩序 と民法・消費者 現代消費者法1号(2008年)75頁。説明の問題とするものと して,中田裕泰 特定預金等契約における銀行の行為規制 同書11頁,山本顯 治 変額保険契約の勧誘をめぐる行為規則と組織規制 斉藤彰編 市場と適 応 (法律文化社,2007年)91頁,山田剛志 金融自由化と顧客保護法制 (中 央経済社,2008年)82頁等。
9) 潮見・前掲注4)182頁,松尾・前掲注6)211頁。
10) 宮坂昌利・判批・曹時60巻1号(2008年)229頁,黒沼悦郎・判批・平成17 年重判解(ジュリ1313号)(2008年)120頁等。
11) 潮見佳男 契約法理の現代化 (有斐閣,2004年)121頁。
に市場から排除するということは投資リスクのある投資商品においては妥当 する局面があるとしても,保障型保険では考えにくい 。
保障型保険で問題となるのは,助言義務であれ,広義の適合性原則であれ,
上記のような勧誘における命令規範を認めるべきかどうかであろう。本稿で は,紙幅の関係もあり,説明義務は直接の対象とはせず,助言義務あるいは 助言を内容とする適合性原則について検討する。
2.助言義務と自己決定原則
従来,助言義務については,業者との高度の信頼関係,信認関係から認め られるとするものが多い 。ここでは,自己決定原則の機能不全を補完する ために認められるのは説明義務であり,説明義務を超えて助言を与える義務 は自己決定原則という観点からは導かれないという理解がなされている 。 しかし,自己責任と助言義務との関係は再確認すべき点があるように思われ る 。この点で,投資勧誘における適合性原則についての川浜昇の見解が重 要である。次のように述べられている。
投資家と証券会社間には情報等の非対称性があるにもかかわらず市場が円 滑に機能するのは業者に対する信頼が成立するからであり,この信頼を法的 に担保するために諸規制がある。業者も信頼から利益を得ている以上信頼を 裏切った場合の民事賠償等を受け入れる必要がある。さらに,投資家が直面
12) 低(無)解約返戻金型保険商品につき,狭義の適合性原則の適用を示唆する ものとして,野村修也 高齢社会における保険法のあり方 保険学雑誌584号
(2004年)61頁。
13) 後藤・前掲注4)112頁,潮見・前掲注11)131頁,横山美夏 消費者契約法に おける情報提供モデル 民商123巻4・5号(2001年)578頁。
14) 潮見・前掲注11)125頁。
15) 以下でみるように本稿では,自己決定原則との関係で助言義務・適合性原則 を位置づけることを試みている。これに対して,特に適合性原則については,
勧誘行為の違法性という観点から構成することもありえる。国民生活審議会消 費者政策部会消費者契約法評価検討委員会 消費者契約法の評価及び論点の検 討等について (2004年)26頁参照。そのような観点は本稿では取り上げない。
するのは単に情報が非対称なだけではなく,極度に不確実な状況であり,そ こでは,行動の基礎としてのリスク把握はしばしば他者とりわけ専門家とし て信頼する者の介入に著しく影響される。この場合,単に情報量としては同 一であっても,その情報の提出の仕方が意思決定に与える影響が大きい。情 報提供が必要なだけではなく,投資勧誘それ自体を含む情報提供の仕方それ 自体が適切な形で行われなければならない 。
適合性原則は情報開示だけでは不十分な局面で意味をもつ。証券投資の勧 誘過程では,形式的には情報開示がつくされたような外観があっても提供さ れた情報ではなく勧誘それ自体によって投資意向が左右される。このような 状況では,情報開示型の投資勧誘規制は役に立たない。したがって,適合性 原則は投資家の投資決定より勧誘する側の判断を重視するパターナリスティ ックな原則ともいえる 。
ここで注目したいのは,不確実性のために合理的な投資家であっても情報 提供だけでは合理的判断ができないという問題があり,そのために情報の出 し方を規制しなければならない,すなわち,投資家に適合した商品の勧誘と いう形で情報提供(助言)しなければならないという点である。これは情報 量が多すぎるという問題とも別の問題である。
ここでは説明義務や情報量の調整では,自己決定環境を整備したことには ならない状況があることが指摘されている。適合性原則はパターナリスティ ックなものと位置づけられているが,それは説明義務で自己決定環境は整備 されているのにそれ以上の保護を与えるという意味ではなく,説明義務でも 合理的な投資家のための自己決定環境を整えることができないので,自己決 定原則が妥当する領域を狭めてやるという意味であるといえよう。説明義務 では合理的人間にとっても自己決定環境整備には十分ではなく,それを補完 するものとして適合性原則(助言義務)が要請される場面があることが重要
16) 川浜昇・判批・民商113巻4・5号(1996年)643頁。
17) 川浜・前掲注16)644頁。また,川地宏行 投 資 勧 誘 に お け る 適 合 性 原 則
(二・完) 三重大学法経論叢18巻2号(2000年)35頁。
である 。この点からすれば,一般人が市場に参加できるようにするために は,特別な信認関係なしでも,説明義務以上の手段が必要であるといえる。
それでは,保障型保険の募集において,このような問題は生じるであろう か。重要なのは説明義務によって自己決定環境を整備することができるかと いう視角である。保険取引についてよく指摘されることは,商品内容の複雑 性,不可視性である 。しかし,保険については詳しく説明すると情報量が 多すぎることにより逆に適切な判断を阻害することも指摘されており,最近 では顧客に提供する情報を適切に絞ることの重要性が一般的に認められてい るといえよう 。他方で,保険では免責条項など非常に細かな事項であるが,
担保範囲を決めるという点では重要な事項があり,情報量を絞ることはそれ だけ顧客が適切に判断できなくなる可能性を増すことにもつながる。このよ うに説明義務だけで適切な形で自己決定できる環境を整えることは非常に困 難である。そこで,ニーズとあった商品を勧めることが必要となる 。
また,保険についてよく指摘されることとして,顧客が自らニーズを把握 することの困難さがある。将来の不確実な出来事に備えて保険に加入するわ けであるから,どういう事象につきどの程度の保険保護の必要があるかを事 前に判断するのは非常に困難である 。したがって,合理的な人間であって
18) ドイツの議論を参照しつつ,適合性原則を業者に判断リスクを負わせるもの としながら,最終的判断の責任は顧客にあるとするものもある。川地・前掲注 17)35頁。また,適合性原則と情報提供ルールを連続的に理解するものとして,
木下孝治 保険募集における重要事項説明ルールの考え方について 生保論集 152号(2005年)112頁。
19) 保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム(以下,検討チームとい う) 中間論点整理〜適合性原則を踏まえた保険商品の販売・勧誘のあり方〜
(2006年)2頁,基本問題
WG・前掲注2)1頁。
20) 木下・前掲注18)101頁。
21) 商品内容を簡素化するという方向もありうるが,法規制として行うことには 異論が強い。基本問題
WG
第53回議事録8頁,9頁,13頁。22) 検討チーム・前掲注19)2頁,江澤雅彦 保険顧客への情報提供とその課題 保険学雑誌587号(2004年)3頁。
も,そもそもニーズを正確に判断することが困難であり,どのような保険保 護が必要かについて保険仲介者の勧誘行為に大幅に依存してしまう 。そこ で,情報開示だけではなく,情報の内容を適切にする必要があり,保険者側 が顧客のニーズに適合した保険商品を勧誘することが必要となる 。
もっとも,情報提供だけでは自己決定できないので保護すべき状況がある とみるべきかどうかの判断は慎重に行う必要がある 。また,保障型保険を ひとまとめにして論じるべきかどうかも問題である。自動車保険や火災保険 ではニーズはある程度定型的に定まっているのであり,業者によるニーズの 掘り起こしとは一概にはいえないとの指摘もあるように ,実際にはより具 体的な検討が必要である 。
仮に情報提供では顧客の適切な決定はなされない局面があるとして,それ だけでは,結論として助言義務を認めるべきであることにはならない。たと えば,情報提供義務に関してであるが,自己決定権が害されているとしても,
相手方の利益にも配慮が必要なのであり,情報のもつ危険性,優位当事者の
23) 意向確認書面制度の下でも意向がゆがめられる可能性につき,深澤泰弘 保 険商品の販売・勧誘における適合性 原 則 に 関 す る 一 考 察 生 保 論 集159号
(2007年)107頁参照。
24) 梅津昭彦 保険仲介者の規制と責任 (中央経済社,1995年)197頁。
25) 保障型の保険販売において,そもそも実際に情報提供だけでは対処できない 状況があると評価すべきなのかどうかにつき,筆者は十分な実態の把握ができ ていないので,断定することはできない。この点の評価につき,たとえば,
シンポジウム募集行為規制の再検討・質疑応答 保険学雑誌587号(2004年)
68‑70頁(高橋,江澤),坂本一郎 保険商品の販売勧誘のあり方について 生 保経営75巻2号(2007年)11頁。また,助言義務を認めることは,自立した消 費者の形成を妨げることにつながるおそれもあるという指摘もある。小西修 英米における適合性原則規制の動向 生保経営71巻3号(2003年)35頁,第 4回消費者契約法評価検討委員会議事録31頁参照。
26) 基本問題
WG
第53回議事録7頁。27) なお,ニーズ把握が困難であるなどの事情は保険販売に限られた問題ではな い。一般的に消費者に関わる問題の1つとしてあげられている。大村敦志 消 費者・家族と法 (東京大学出版会,1999年)25頁。
専門性から説明義務が認められる場合に,顧客の保護の範囲と相手方の権利 の制約される範囲は比例原則に基づいて確定されなければならないとする説 や,説明義務の成否および内容は情報の重要度,情報の所在(情報提供の可 能性),当事者の社会的地位の相関的考慮によって判断されるとする説があ る 。類似のことはここでも妥当するであろう。たとえばここでは,情報の 重要度(助言が与えられないことによる顧客の不利益),業者側のコスト,
当事者の社会的地位は考慮要素とするべきであると思われる。次節では,こ れらについて検討する。
3.助言義務の成否をめぐる衡量
⑴ 情報の重要度
保障型保険において,助言を受けないことにより顧客にどのような財産上 の不利益が生じるであろうか。たとえば,説明義務や適合性原則が問題とな る代表例は投資取引であり,そこではまさに投資リスクの存在による財産的 被害からの救済を理由に説明義務等が認められてきたのである 。現在では,
説明義務さらには適合性原則も投資取引に限らず問題とされてきているが , これらは消費者取引であること,情報格差の存在だけに基づいて認められる ものではなく,前節の終わりでみたような諸要素を検討することが必要であ る。ここでは情報の重要度として顧客の不利益について検討する。
もっとも保険加入者に財産的不利益が生じるのは,支払われると思ってい
28) 山本敬三 契約関係における基本権の侵害と民事救済の可能性 田中成明編 現代法の展望 (有斐閣,2004年)18頁,潮見佳男 説明義務・情報提供義務 と自己決定 判タ1178号(2005年)16頁。
29) 潮見・前掲注11)117頁,瀬川信久 消費者法と民法 経済法学会年報29号
(2008年)96頁。
30) 消費者契約法に適合性原則を定めるべきかということも議論されている。消 費者契約法評価検討委員会・前掲注15)26頁参照。広範な比較法研究として,㈶
比較法研究センター=潮見佳男編 諸外国の消費者法における情報提供・不招 請勧誘・適合性の原則 (別冊
NBL
121号)(商事法務,2008年)。た保険金が支払われないことが事故発生後に判明したというケースであろ う 。この点から保障ニーズに適合した保険を販売しなければならないとい う特別の保護を構想することはできるように思われる 。
ニーズに対応した保険担保が加入商品に含まれていないことが保険事故発 生前に判明した場合は,ニーズを担保する保険商品があればそれに加入すれ ばよいといえる。後述のように保険料が割高になったという程度の不利益を 保護の対象と考えるかどうかは微妙である。ただ,保険自体は存在していて も,年齢等のために新たな保険担保を付けることができないという場合には,
このような不利益自体は保険加入の機会の喪失として保護の対象と考えてよ いと思われる。
以上は自己の欲する項目について保険担保がなかった場合の問題である。
これに対して,不要な保険を買わされた(余分な保険種目がついている)と いう場合には,保険金が支払われないという不利益に匹敵するような財産上 の不利益はない。この場合には投資リスクからの救済という問題があるわけ ではない。勧誘方法に詐欺には至らないにせよ不当なところがあった場合に 保護を考えることは別として,そこまでの不当性はないのに,ただ自己のニ ーズに合っていないものを勧められたという場合に,不要な支出から保護す べき必要性は低いであろう 。最終的な判断は保険者側のコスト等との総合 衡量によることになり,この点は後述するが,助言義務により保護すべき不 利益と評価することは難しいように思われる。
31) 検討チーム・前掲注19)2頁,11頁。
32) なお,付保の項目としては,ニーズに対応した保険に加入しているが,事故 発生後に保険金額が少なすぎたことが分かったということもありうる。本文の 考え方からすれば,理論的にはこのような不利益も保護の対象になろう。ただ し,このような場合には適合しているかどうかの判断は困難であり,後述のよ うに説明義務で対処すべきと考えられる。さらに後掲注65)と本文参照。
33) 不要な商品を買ってしまうことは保険販売に限らず消費者が被る不利益の典 型例の1つである。大村・前掲注27)17頁。また,前述のように,顧客がニー ズを把握することが困難であるという問題も保険販売に限られるわけではない。
ただし,ここで問題になるのは適切な保険に乗り換えることの困難さであ る。特に生命保険において,利用者の年齢や健康状態によって,いったん加 入した保険契約を解除して,別の保険に加入することが困難である場合があ る 。そのような場合には,必要な項目についての保険を継続しけたければ この先ずっと不要な項目についても保険料を支払わなければならないという 不利益がある。契約解除等で不要な保険契約から解放されたいのに,必要な 保険給付を維持するために不要な部分にも拘束されるという不当性が問題で あり,このような不当性からも保護すべきといえよう。
なお,別の保険への乗換えについては,乗り換えることはできる場合であ っても,既存契約を解約すれば解約控除により不利益を被るという指摘があ る 。ただ,解約控除の点だけであれば,不要なものを買ってしまったこと による不利益と程度としては変わらないという評価もありえるであろう。
以上のように顧客の財産上の不利益という点からは,必要な保険担保を備 えることができないという不利益と,将来も不要な保険について保険料を支 払わされるという不利益は重要なものといえる。既に不要な支出をさせられ たという不利益が助言義務を正当化するほどのものと評価することは難しい ように思われる。
⑵ 保険仲介者のコスト
次に保険仲介者のコストについて検討する。コストは求められる助言の程 度によって変わる。助言義務を考えるとして保険仲介者はどの程度のことを しなければならないのであろうか。従来,適合性原則が論じられてきた投資 取引においては,実際にはリスクの程度を細分化して適合しているかどうか を細かく認定することは難しく,だいたいのレベルで適合しているかどうか が判断されることが多いように思われる。これに対して,保障型保険で適合
34) 検討チーム・前掲注19)2頁,10頁,基本問題
WG・前掲注2)2頁,基本問
題WG
第53回議事録16頁。35) 検討チーム・前掲注19)2頁,基本問題
WG
第53回議事録16頁。しているかどうかが問題になるのは,顧客の保障ニーズと当該商品が適合し ているかどうかであり,これはかなり細かい点まで適合しているかどうかが 問題となりうる 。
細かい点での適合という場合,大きくは2つの点が問題になる。1つは,
細かい条項,特約についてすべてニーズに適合しているかどうかを確認する 必要があるかという点である。もう1つは,保険保護を求めるかどうか,ど の程度求めるかは,顧客の主観的な判断によるところであり,保険料との兼 ね合いで決まるところもあるため,保険保護の範囲が顧客の主観的なニーズ に適合しているかどうかを判断するのは非常に困難である場合があるという 点である 。
さらにこれらの点と関連して,業者に顧客情報の収集義務を課すかも問題 となる。実際問題として,まったく顧客についての情報なしで勧誘を行うこ とはなく,ある程度顧客についての情報を収集したうえで勧誘することが通 例であると思われる 。ただ,一定程度の情報収集を法的義務として認める かどうかが問題になる。この点につき,どういう情報を収集すればどういう 商品にすればよいかが判断できるということが定型的に決まっているわけで はなく,収集すべき情報を特定することも困難であるとの指摘がある 。
細かな特約等についてすべてニーズを確認するべきかという点については,
そのような義務を認めることは業者に過大な制約を課すことになろう。した がって,原則としては,顧客の大まかな属性に応じて定型的に予想されるニ ーズに対応する形で,保険保護がニーズに対応しているかについて確認し,
対応するように助言をすればよい 。しかし,顧客のニーズを知ることがで きた場合には,特殊なニーズであっても対応しているかどうかを確認しなけ
36) どのレベルまで適合性を求めるかにつき,検討チーム・前掲注19)7頁参照。
37) 坂本・前掲注25)14頁,高崎・前掲注5)61頁。
38) 検討チーム・前掲注19)4頁。
39) 坂本・前掲注25)13頁。
40) イギリスの例であるが,高崎・前掲注5)58頁参照。
ればならないというべきであろう 。ここでは,保険料との相関のような細 かいレベルではなく,定型的に予想できる範囲で顧客がどのような損害,不 利益について保険保護を求めているかを確認し,大まかにニーズにあった保 険商品を説明することが求められる。特殊なニーズを認識した場合でも,ま ずは,そのようなニーズをカバーするどういう商品があるかという程度で,
説明すればよい。この点では,実質的には助言義務というより説明義務とい うことで足りるように思われる。もっとも,ニーズに適合的な商品が多数あ る場合に,一般的によりニーズに適合的と思われる商品を紹介せず,一般的 にはそれほど適合的ではないと思われる商品を紹介することは許されない。
ニーズに応じて説明することが重要である 。
次に,顧客が自己のニーズを正確に把握できていないときには,顧客がニ ーズを適切に把握することを援助しなければならない。ここでも特殊なニー ズを認識できなければ定型的なニーズを念頭において,顧客が自己のニーズ を適切に認識することを援助すればよいであろう。
このニーズ把握の援助の内容は助言というより説明に近いかもしれない。
もっとも,重要なのはニーズの把握をゆがめるような説明の仕方をしてはな らないということである。前節でみた事情から,このような義務が必要であ るといえる。説明の仕方の問題であるとしても,到底詐欺等にいたらないレ ベルで,顧客のニーズ把握をゆがめないことが要請されるという点で,助言 という語が適切かどうかは別として説明義務を超える義務といえよう 。
41) 説明義務についてであるが,木下孝治 損害保険代理店の説明義務と顧客に よる商品選択 損保研究58巻2号(1996年)201頁,小林道生 保険募集にお ける説明義務と民事責任 損保研究61巻3号(1999年)110頁等。
42) ニーズに応じた説明として,このようなことが問題となる場合,この限りで 業者が判断を引き受けているという助言的な側面が含まれている。
43) ニーズ把握をゆがめたかどうかの判断は抽象的には困難であるが,次述のよ うに,細かい点では説明義務の問題として考えるとすれば,典型的なニーズと 大きくずれていたような場合が問題になり,実際には認定はそう難しくはなら ないのではなかろうか。
次に,ニーズに適合しているかどうかは保険料との兼ね合いを含めた顧客 の主観で判断されるという点については,このようなレベルで顧客の意向に 合っているかどうかが問題になるとすれば,適合しているかどうかの判断は 困難であり,説明義務の問題として対処することが考えられる 。つまり,
仲介者は顧客がニーズを適切に把握するよう援助する以外は実質的にはニー ズに応じて説明する義務があるということになる。また,ニーズとの適合の 程度は,大まかな意味で適合していれば行為規範には抵触しない。大まかな 意味で適合した商品を紹介すればよい。ただ,商品の内容の説明はニーズに 応じた形でしなければならない。すなわちニーズからみて重要な事項は説明 しなければならない 。仲介者側のコストも考慮すると,基本的には定型的 なニーズに対応した説明をすればよく,ただ,顧客の具体的なニーズが認識 できるときには,そのニーズに対応した形で説明する義務を負うと解すべき ではなかろうか 。たとえば,保険料の額が問題となっているときは,どの 担保を削ればどの程度保険料が安くなるというような説明をすることになる。
助言の実質がこの程度のものであれば,顧客についての情報収集自体を法
44) 川浜・前掲注16)645頁参照。
45) 適合しているかどうかの判断が困難だから説明義務で対処するというのは仲 介者に行為規範として細かいレベルの助言を求めるのは妥当ではないというこ とである。説明義務でも事後には適合しているかどうかと類似の判断は必要に なる。たとえば,ニーズに比べて保険保護が小さすぎたとして,説明義務違反 で損害賠償請求がなされたとする。説明は不十分であったとして,損害賠償を 認めるには,説明がなかったことによる損害であるという因果関係が問題にな る。すなわち,説明されていれば保険保護を増やしていたことの証明が問題に なる。この点の扱いについては,後掲注65)と本文参照。
46) 木下・前掲注41)201頁,小林・前掲注41)110頁等。また,竹濵修 保険契約 と説明義務・告知義務 判タ1178号(2005年)95頁。伝統的には保険募集にお ける説明義務の内容としては,定型的なものでよいことが強調されてきたよう に思われるが,最近は個別的な説明が基本とされる傾向があるように思われる。
一般的に,たとえば,完全市場の考え方で説明義務を基礎づける場合でも,
個々の消費者の個別の必要を満たすかについての説明が必要となる。瀬川・前 掲注29)102頁。
的義務として認める必要はなく,助言義務を履行するために事実上必要とな るという位置づけで足りるであろう 。
ただし,仲介者が自ら細かいレベルで助言を行うのであれば,その際には 助言は行われた助言のレベルに応じて顧客のニーズに適合したものでなけれ ばならないという義務を認めるべきであろう。顧客の仲介者への依存からは このように考えられる。不用意に顧客を誘引する結果となる助言はするべき ではないということであり,顧客と意思疎通したうえでの助言であれば義務 違反になることはないであろう。
このような義務を私法上の原則として認めることに対しては,不明確すぎ るとの批判が考えられる 。しかし,助言義務や説明義務の内容を完全に明 確化することは無理である。基本的には,市場を広く成立させるためには顧 客の信頼を法的に担保する制度が必要であり,業者は信頼により利益を得て いる以上,信頼を裏切った場合のサンクションを受け入れなければならない という指摘が妥当するであろう 。
なお,業者がどのような説明をするかどうか自体について競争がなされ,
競争が活性化されることが望ましいとの考え方もある 。インターネット販 売という戦略 と乗合代理店の充実という戦略のように募集チャネルの多様 化には,助言・説明の程度に関する競争という側面もあるという見方もでき よう。ただし,助言・説明が充実しているということの価値が十分に認識さ れなければ競争は機能しないのであり,競争が機能する環境が整わなければ
47) 潮見・前掲注11)123頁参照。
48) 適合性原則につき,村田敏一 適合性の原則 を巡って 生保論集154号
(2006年)180頁,184頁,小西・前掲注25)35頁。
49) 証券投資勧誘に関するものであるが,川浜・前掲注16)643頁。
50) 基本問題
WG
第53回議事録10頁。51) インターネット販売についても本文程度の助言義務であれば実現できるよう にも思われる。この程度の助言義務でも実現不可能である,あるいはインター ネット販売では簡素化を徹底すべきであるとしても,顧客が手続が簡素である ことのコストを認識していなければ不測の不利益を受けることになり,困難な 問題となる。
競争だけでは問題は解決しないであろう 。
ところで,助言義務を認めるとしても,実質的に説明義務と異なるのはニ ーズ把握の援助の面だけであるとすれば,実質的には説明義務に比してそう 大きな負担を課すものではない。このことを踏まえて,助言しなかったこと によって,不要な保険担保を購入し,保険料を支出したという財産上の不利 益からの保護を認める余地はあるであろうか。もっとも,そもそも説明義務 についてこのような不利益を保護の対象とするかどうか自体が問題である。
不要な物を購入してしまうことは日常的に生じることであり,そのような不 利益を根拠に助言を含めた自己決定環境の整備の責任を保険者に負わせるの は均衡を欠くように思われる 。このような不利益を救済するとすれば,保 険募集における行為態様の違法性という観点からであろう。
なお,顧客のニーズを具体的に認識した場合に,そのニーズに合う商品を 紹介するようなときに,前述したもっとも適した商品を勧める義務か,ある 程度適した商品を勧める義務かが問題となりうる。原則としてある程度適し た商品を勧める義務とみてよいのではなかろうか。ただし,適していない部 分があるところは明示する必要がある 。
この点に関して,市場全体をみて助言するとして,完全に適した商品がな
52) 松村敏弘 経済効率性と消費者法制 ジュリ1139号(1998年)35頁参照。ま た,現実には競争は生じていないとされる。基本問題
WG
第53回議事録11頁。どういう募集の形態をとるかに応じて,より積極的な助言義務を構想すること も検討されている。木下孝治 募集チャネルの多様化と保険募集規制の課題 保険学雑誌588号(2005年)73頁,高崎・前掲注5)61頁,松澤登 保険仲介者 と募集規制 生保論集164号(2008年)283頁以下,検討チーム・前掲注19)12 頁,基本問題
WG
第53回議事録12頁参照。53) もっとも,コストとベネフィットとの比較には絶対的な結論があるわけでは ない。第4回消費者契約法評価検討委員会議事録25頁。たとえば,保険市場を より活性化させるべきであるというような政策判断に基づき,保険販売に限っ てはこのような不利益からも救済するという判断を下すことがありえないわけ ではない。池田清治 競争秩序と消費者
NBL
863号(2007年)76頁参照。54) 青山・前掲注5) 適合性 7頁,青山・前掲注5) 動向 4頁参照。
い場合に,ある程度適した商品を勧めることにはそう大きな問題はないよう に思われる。しかし,自己の取扱商品の中で助言するときに,取扱商品の中 には完全に適した商品はないが,市場全体でみれば完全に適した商品は存在 する場合に,取扱商品の中のある程度適した商品を勧めることを認めるかど うかという局面では問題は微妙になってくる。理論的には,この局面でも顧 客が業者の推奨に引きずられ,他を当たるという判断をしなくなってしまう ので,顧客を保護すべきだということはありえよう。しかし,この局面では,
自己のニーズ等の把握はできているはずであるから,それを理解したうえで 他の業者を当たるかどうかは顧客の自己責任に委ねるべきであると評価して よいのではなかろうか 。
⑶ 当事者の社会的地位
最後に当事者の社会的地位の点について検討する。この点につき,そもそ も保険仲介者の職務に助言が含まれていることが明らかであれば,自己決定 の機能不全などとは無関係に仲介者は助言すべきことになる。仲立人に助言 義務が認められるのは,仲立人の職務について助言を含むという理解がなさ れているからであろう 。また,具体的な個別の当事者間の関係において特 別の信認関係が認められるのであれば,その信認関係に基づいて助言義務が 認められる(この場合は前述の助言義務よりも高度な助言義務を認めること もありえる)ことにも一般論としてはそれほど問題はない。
問題は,少なくとも明示的には職務に助言が含まれていない場合に,一般 的に助言義務を認めることができるかである。理論的には,顧客の保険仲介 者に対する信頼が強く,仲介者も信頼関係を基礎として業務を行っているよ うな場合には,黙示で職務に助言が含まれているという解釈もありうる。あ るいは信義則上の義務として助言義務を認めることもありうる。
55) フランスにつき,後藤・前掲注4)104頁。
56) 山下友信 保険法 (有斐閣,2005年)165頁参照。
一般的に顧客は専門家として仲介者を信頼するともいわれる 。保険募集 に関しては,外務員や代理店などの保険仲介者について,一般的にある程度 の信頼関係を認めることはできるであろう。しかし,助言義務の基礎となる ほどの信頼関係としては信認関係といわれるようにかなり高度の信頼関係が 想定されているようであり ,保険仲介者と顧客との関係において,助言義 務を認めるべきほどの信頼関係が認められるかについては,一般論としては 否定的に考えられているように思われる 。しかし,自己決定ができない環 境であるという点を基礎として,上記の顧客の不利益を考慮すると,専門家 たる保険仲介者に対しては一般的信頼関係しかないとしても,上記のような 程度の助言義務・説明義務を認めることはできるのではなかろうか。
一般的に助言義務を肯定するとして,たとえば,自己の取扱商品の中で助 言すればよいか,市場全体の商品の中から助言しなければならないかは,信 頼の程度とも関連して,仲介者がどのような形態であるかによって異なるよ うに思われる。外務員や専属代理店であれば,原則としては,一般的にはこ れらの者が市場全体の商品の中から勧誘行為を行うという期待はないであろ うから,自己の取扱商品の中から勧誘すればよいであろう。立法論としては,
どのような内容の募集を行うのかを明示させることが妥当であろう 。
4.助言義務の法律構成
⑴ 総説
助言義務を解釈論として肯定するとして,助言義務を認めるべき顧客の不 利益は,必要な保険保護を受けられないこと,不必要な支出に将来も拘束さ れることに限られるとすると,助言義務違反による救済をそのような場合に
57) 検討チーム・前掲注19)4頁。
58) 潮見・前掲注11)131頁,横山・前掲注13)579頁
59) 山下・前掲注56)184頁参照。もっとも,具体的な個別の関係においてそのよ うな信頼関係が認められることは珍しくはないとされる。専門家性から助言義 務を認める方向を示唆するものとして,梅津・前掲注24)197頁。
60) 前掲注52)の文献参照。
限ることにつき,理論的にどのような構成が考えられるであろうか。
契約締結後長期間経過していない段階では契約内容の変更や乗換は可能で あったが,健康状態の変化や年齢のためにそれらが不可能になったという場 合には,一定期間経過後に救済の必要性が生じたことになる。このようなケ ースを考えると,義務違反により生じた損害につき損害賠償を認めるかどう かは,当該損害が助言義務を認める規範に基づいた保護範囲に含まれている かどうかによって決まると考えることになろう 。
⑵ 義務違反の効果
助言義務を認めたとしても,義務違反の効果として損害賠償が認められる ためには多くの問題がある。以下は,ほぼ問題点の列挙にとどまっている。
助言がなかったために保険保護を受けることができなかった場合には,保 険保護を受けることができなかったことが損害であり,損害賠償の範囲は履 行利益となる 。ただし,たとえば,保険金額をいくらにしていたかという ことの判断が困難な場合もありうる。
ニーズに対応した保険担保がなかったことが保険事故発生前に判明した場 合,保険自体は存在していても,年齢等のために新たな保険担保を付けるこ とができないというとき,損害はどのように考えられるか。理論的には助言 されなかったために得ることができなくなった保険担保の価値が損害である。
これが保険事故発生後は保険金相当額となるが,保険事故発生前は未必的保 険金請求権の価値ということになろう。ただし,算定が困難であるため損害 として認められないというような問題はある。
不要な保険担保がついているのに,それらを削除した形の保険契約に変更
(乗換)ができないというときには,必要な保険を続けたければこの先ずっ と不要な担保についても保険料を支払わなければならない。この場合の損害
61) 平井宜雄 債権各論Ⅱ (弘文堂,1992年)122頁以下,潮見佳男 不法行為 法 (信山社,1999年)177頁以下。
62) 潮見・前掲注4)185頁参照。また,木下・前掲注41)191頁等。
額は将来支払う保険料の額であり,これは確定していない。したがって,損 害賠償を認めるのであれば,合理的な期間で算定することになろう。
⑶ 因果関係
助言義務違反による損害賠償が認められるには,義務違反と損害の間に因 果関係がなければならない。たとえば,ニーズに対応する保険種目が存在し ていない場合には,助言されていても当該項目についての保険に加入するこ とはできなかったのだから,助言義務違反による損害はない。したがって,
損害賠償は認められない。
助言があれば適切な保険に加入していた,あるいは不適切な保険に加入し ていなかったという仮定的な因果関係であるから,これを厳密に立証するこ とは困難である。したがって,原則的には事実上の推定により因果関係を認 めるというような対応が必要である 。
いずれにせよ,事実上の推定は認めたとしても,従来から指摘されている ように,そもそも誰が因果関係につき立証責任を負うかが問題となる。助言 義務を実効的に機能させるには証明責任を転換し,仲介者に証明責任を負わ せることが必要となろう 。もっとも,ニーズに対して保険金額が少し不足 していたというような微妙なケースにつき,説明義務で対処するとして,説 明があれば保険金額を増額していたかが問題になる。こういう判断の微妙な ケースにつき,仲介者に証明責任を負わせ,かつ因果関係があることを事実 上推定することはむしろ実際には妥当ではない結果になるように思われる。
証明責任は仲介者に負わせたとしても,このような微妙なケースではむしろ 因果関係がないことを事実上推定することができる。このように事実上の推
63) ドイツにつき,木下孝治 ドイツ保険監督法上の保険者の情報提供義務及び 契約締結㈧ 阪大法学51巻3号(2001年)573頁。
64) 千葉恵美子 消費者法 法時70巻10号(1998年)17頁,沖野眞已 消費者 契約法(仮称)の一検討 ⑶
NBL654号(1998年)50頁等。また,馬場圭太
説明義務と証明責任 判タ1178号(2005年)26頁参照。
定を適宜用いることで妥当な解決を導くことができるであろう 。
⑷ まとめ
本稿で示した助言義務は行為規範の内容としては,説明義務とほとんど変 わらないものであり,それほど進んだ内容のものではない。そうであっても,
これを損害賠償を導く義務としてみた場合,損害賠償法理において検討を要 する多くの問題があることも明らかである。本稿では,助言義務の成否につ いての検討が中心となったため,この点につき十分な検討を加えることがで きなかった。しかし,解釈論としてであれ,立法によってであれ助言義務を 実際に活用するためには重要な点であり,今後検討を深めたい。
(筆者は北海道大学法学部教授) (本稿は平成21年度科学研究費補助金基盤研究 による研究成果の一部である。)
65) 保険契約者の客観的な個別事情に照らして著しく不適合な保険契約を締結さ せた場合に限り助言義務違反を認めるべきとするものとして,山下・前掲 注56)184頁。事実上の推定を用いることで結果的には同様になろう。