通 帳 機 械 払 い に よ る 無 権 限 者 へ の
預 金 払 戻 し に お け る 銀 行 の 責 任 と 預 金 者 の 過 失
久 須 本
かおり一︑はじめに
昭和四四年に日本で最初のCD機が設置されて以来︑金融の機械化は急速に進み︑現在ではコンビニに設置さ
れたATM機(現金白動人出機)で並日通預金を人出金できるほど︑気軽に利川できるまでに普及している︒一方
で︑近年︑盗難事件の多発に伴い︑盗難通帳あるいは盗難カードを所持した無権限者に対する預金の払.戻しをめ
ぐる紛争が急増し社会問題化しているところであるが︑その中には現金自動入出機を利川した無権限者への払.戻
しのケースも少なくない︒非対面的な機械払いの場合には︑印鑑照合を伴わず︑かつ払.民しの場で払.戻請求者の
挙動等を総合判定することができないことなどから︑窓口での払戻しの方法よりも無権限者への払.戻しの危険が
↓層大きくなる︒機械払いによる無権限者への預金払︑戻しの有効性については︑カード規定ヒの免責約款により
銀行の免責を認めた最..判.平成κ年ヒ月二九日金商九四四号......頁がリーディングケースとして存在していたと
通帳機械払いによる無権限者への預金払戻しにおける銀行の責任と預金者の過失
.κ 九 ( 1 )
六〇(2)
ころ︑最...判平成一κ年四月八目金商︑一六κ号七頁は︑同じく機械払いによる無権限者への預金の払戻しにつ
いて︑銀行に過失があるとして民法四ヒ八条による弁済の効力を否定する判決をドした︒平成一κ年判決の事案
は︑盗難カードが使川された.平成κ年判決の事案と異なり︑盗難通帳と暗証番号を使川して払戻しがなされたケー
スであるが︑民法四ヒ八条による銀行の免責を認めた第一審・第.︒審の判断を覆して無過失要件を厳格に解する
判断を.小しており︑金融機関にとって平成κ年判決よりも厳しい内容のものとなっているのみならず︑預金者の
帰責事山に関して新しい判断を.小している点で注目される︒最近︑無権限者による預金払戻しにつき印鑑照合の
点で銀行が敗訴する判決がド級審レベルで相次いで出されているが︑平成一κ年判決はこうした流れに呼応する
ものともいえ︑実務に与える影響は大きいものと思われる︒そこで︑本稿では︑平成一κ年判決を紹介し︑そこ
で示された法律構成に検討を加えてみたい︒
二︑事案︑判旨ならびにその特徴
本件の事案は次のとおりである︒
Xは平成一〇年一〇月一六目︑Y銀行において貯蓄預金口座を開設して貯蓄預金契約を締結し︑同契約に係る
通帳(以ド︑﹁本件通帳﹂という)の交付を受けるとともに︑キャッシュカードの利川を申し込み︑交付を受け
た︒その際︑Xは︑暗証番号を白己の所有する自動車(以ド︑﹁‑̲='‑Jという)の登録番号の四桁の数字と
同じ数字として届出をしていた︒
一方︑Y銀行では︑暗証番号を登録した預金者が︑通帳またはキャッシュカードを使川し暗証番号を人力すれ
ば預金の払戻しを受けることができる現金白動人出機を設概していた︒なお︑Y銀行のカード規定には︑キャッ
シュカードを使川して.預金の払.戻しが受けられる旨の規定があり︑また︑使川されたキャッシュカードの磁気的
記録によってカードの真正を確認し︑人力された暗証番号と届出暗証番号との一致を確認して預金の払.戻しをし
た場合には︑原則としてY銀行は責任を負︑わない旨の免責規定があったが︑通帳を使川して現金自動入出機から
預金の払.戻しが受けられる旨の規定は︑Y銀行の貯蓄預金規定︑カード規定のいずれにもなく︑また︑同払.戻し
についての免責規定もなかった︒なお︑Xは︑現金白動人出機でキャッシュカードを使川して預金の預入れをし
たことはあったが︑同機で通帳またはキャッシュカードを使川して預金の払.戻しを受けたことはなく︑通帳のみ
を使用して現金白動入出機から払︑戻しが受けられることを知らなかった︒
Xは.平成一一年一一月...︑日︑本件通帳をダッシュボードに人れたまま︑本件車両を自宅近くの月ぎめ駐車場
に駐車したところ︑...︑.日の午後一一時ごろまでの間に本件通帳を本件車両ごと盗まれ︑翌日の..四口に︑何者
かにより︑本件通帳と暗証番号を使川して︑Y銀行のA・B・Cの各支店の現金自動入出機から一ヒ回にわたり
合計八〇一万円が引き出された(以ド︑﹁本件払.戻し﹂という)︒Xは.︒...Hに︑本件巾両の盗難届を出したが︑
夜になって本件車両のダッシュボードに本件通帳を入れていたことを思い出して︑..四目にY銀行に本件通帳の
喪失届をしたが︑本件払戻しの終r後のことであった︒
そこでXはY銀行に対し︑本件払戻しが無効であり︑そうでないとしても債務の本旨に従った履行とはいえな
いなどと紅張して︑本件払戻しに係る預金八〇一万円の返還または債務不履行に基づく損害賠償として同額の金
員の支払およびこれらに対する商算法定利率による遅延損害金の支払を求めた︒
第一審(福岡地判.平成一..︑年四月一八目・判例集未登載)・第.︑審(福岡高裁︑平成一...年一..月一︑圧目・判例
通帳機械払いによる無権限者への預金払.戻しにおける銀行の責任と預金者の過失六(3)
六 . ( 4 )
集未登載)はともに︑本件払戻しに民法四ヒ八条の適川があり︑Yは無過失であったとしてXの請求を棄却した︒
これに対し︑L告審である最..︒小判は︑次のように判.小して︑原判決を破棄し自判した︒
﹁無権限者のした機械払いの方法による預金の払.展しについても︑民法四﹂八条の適川があるものと解すべきで
あり︑これが非対面のものであることをもって同条の適川を.否定すべきではない︒
債権の準占有者に対する弁済が民法四L八条により有効とされるのは弁済者が隆意かつ無過失の場合に限られ
るところ︑債権の準占有者に対する機械払の方法による預金の払.戻しにつき銀行が無過失であるというためには︑
払.戻しの際に機械が正しく作動したことだけでなく︑銀行において︑預金者による暗証番号等の管理に遺漏がな
いようにさせるため当該機械払の方法により.預金の払.戻しが受けられる旨を預金者に明示すること等を含め︑機
械払システムの設置管理の全体について︑可能な限度で無権限者による払.戻しを排除し得るよう注意義務を尽く
していたことを.要するというべきである︒その理山は︑次のとおりである︒
機械払の方法による払.戻しは︑窓口における払.戻しの場合と異なり︑銀行の係員が.預金の払.戻し請求をする者
の挙措︑応答等を観察してその者の権限の有無を判断したり︑必要に応じて確認措置を加えたりするということ
がなく︑もっぱら使川された通帳等が真正なものであり︑入力された暗証番号が馳H置暗゜耐番号と一致するもので
あることを機械的に確認することをもって︑払.戻請求をする者が正当な権限を有する者と判定するものであって︑
真正な通帳等が使川され︑正しい暗証番号が人力されさえすれば︑当該行為をする者が誰であるのかは全く問わ
れないものである︒このように機械払においては弁済受領者の権限の判定が銀行側の組み㍍てたシステムにより
機械的︑形式的にされるものであることに照らすと︑無権限者に払.戻しがされたことについて銀行が無過失であ
るというためには︑払一戻しの時点において通帳等と暗証番号の確認が機械的に正しく行われたというだけでなく︑
機械払システムの利用者の過誤を減らし︑預金者に暗証番号等の重要性を認識させることを含め︑同システムが
全体として︑可能な限度で無権者による払戻しを排除し得るよう組み立てられ︑運営されるものであることを要
するというべきである︒﹂
﹁被ヒ告人(Y銀行)は︑通帳機械払のシステムを採川していたにもかかわらず︑その旨をカード規定等に規定
せず︑預金者に対する明︒小を怠り(なお︑記録によれば︑被﹂告人においては︑現金白動入出機の設置場所に
﹁ATMご利用のお客様へ﹂と題する吾面を掲.小し︑﹁当行の通帳・カードをご利用のお客様﹂の払.戻手数料を表
.小していたことが伺われるが︑これでは預金者に対する明.小としてト分とはいえない︒)︑L告人(X)は︑通帳
機械払の方法により預金の払戻しを受けられることを知らなかったというのである︒無権限者による払.戻しを排
除するためには︑預金者に対し暗証番号︑通帳等が機械払に川いられるものであることを認識させ︑その管理を
ト分に行わせる必要があることにかんがみると︑通帳機械払のシステムを採川する銀行がシステムの設置管理に
ついて注意義務を尽くしたというたあには︑通帳機械払の方法により払戻しが受けられる旨を預金規定等に規定
して預金者に明示することを要するというべきであるから︑被ヒ告人(Y銀行)は︑通帳機械払のシステムにつ
いて無権限者による払.戻しを排除し得るよう注意義務を尽くしていたということはできず︑本件払.戻しについて
過失があったというべきである︒もっとも︑前記事実関係によれば︑L告人(X)は︑本件暗証番号を本件肛両
の自動車登録番号の四桁の数字と同じ数字とし︑かつ︑本件通帳をダッシュボードに入れたまま本件唯両を白宅
近くの駐車場に駐車していたために︑何者かにより本件通帳を本件嘩両ごと盗まれ︑本件暗証番号を推知されて
本件払.戻しがされたものと認められるから︑本件払.戻しがされたことについてはヒ告人にも帰責事山が存すると
いうべきであるが︑この程度の帰責喉山をもって被L告人に過失があるとの前記判断を覆すには足りない︒
通帳機械払いによる無権限者への預金払戻しにおける銀行の責任と預金者の過失