一ドイツ行政手続法(VwVfG)における
職務共助(Amtshilfe)をめぐって一
古 屋 等
1 はじめに し権限の中央と地方の配分に関しては,近 年,事務権限の地方委譲をめぐって地方分権 現代の福祉国家化にともなう行政的任務の 推進委員会を中心として議論が進められ,地 飛躍的拡大と,高度の科学技術の進歩による 方の実情に即した事務処理のための制度改革 行政の活動内容の専門化と多様化は,その対 がなされようとしている最中にある。
象の目的および性質に応じた分業を不可避の このように,国家における行政機構の組織 ものとし,その結果,その担当にあたる国家 編成と,これに対する事務の配分をめぐる問 および地方公共団体には,膨大な数の行政機 題は,今日においては行政法学のみならず,
関が設置されることとなった。これらの行政 他の学問領域からもきわめて高い関心のもと 機関は,その属する行政主体の下で相互に密 にさまざまな議論が交わされている。ただ 接な関係を保ちながら,全体としての国家な し,これら行政機構(組織)の編成単位であ いし自治体の事務運営にあたっている。しか る行政機関の相互協力についても,これらの し,これらの行政組織のもつ複数の行政機関 問題に劣らず重要な課題を含んでいると考え からなる分立的構造のゆえに,その活動の一 られるのである。
体性を確保するためにも,それらの機関相互 上述のように,行政的任務(事務)ないし 間での連携ないし協力が必要とされなければ 権限は,国と地方という異なる行政主体の間 ならない。すなわち「国の行政機関は,内閣 で,あるいは国(同一行政主体内)において の統轄のもとに,行政機関相互の連絡を図 は,各行政部門を代表する各大臣,あるいは
り,すべて,一体として,行政機能を発揮す 各省庁自体に対して,直接に包括的なかたち るようにしなければならない」のである(国 でまず配分される。そして各部門において,
家行政組織法2条2項)(1)。 これらの事務は,その処理の必要に応じて配 ただ,法律(作用法)による行政上の事務 置された複数の行政機関によって分担的に処 ないし任務の割り当ては,国のレベルではも 理されるのが実情である。個々の行政機関の っばら,各大臣を中核とした省庁を単位をし 活動領域は,その所掌事務と権限の確定によ て行われているため,これに付随してセクシ って具体的に示される(国家行政組織法2条 ヨナリズム,官僚主義あるいは縦割行政の 1項参照)。ただし,そのような活動領域の設 弊害が生じ,その整合的調整を目的とした行 定が各行政部門ごとに,あるいは各行政機関 政機構の再編が検討されていることは周知の において十分ではなく,類似の,あるいは同 とおりである(2)。また,国家全体の事務ない 様の目的をもった事務が,便宜的に複数の行
/
政機関よって分担されていることにともなう 絡・援助・応援など協力関係をめぐる問題は,
二重行政,あるいは業務遂行に必要とされる 司法上の共助(裁判所法79条)に対応して,
人員や施設の重複など,行政上の非効率の問 これまで行政上の共助として論じられてき 題もとりあげられる必要がある。 た(3)。その態様としては,情報の提供にかか また,異なる行政部門に属する行政機関の わる連絡の共助,行政組織内部における事務 間では,実際に相互の連携は円滑に行われて 処理の共助,および権力の発動をともなう実 いるか疑問がある。そのような事態は,まだ 力行使の共助の3つがあるとされている(4)。
記憶に新しいあの阪神大震災によってもたら ただし,これらを規定する一般法としては,
された非常事態下において,災害救助ないし 前出の国家行政組織法の定めるごく宣言的な 復興という共通目標の達成ために,独立した 規定(2条2項)があるのみであり,行政全般 行政機関どうしが果たすべき一体的な活動の にかかわる通則的な要件や手続を明確化した 必要性をかえりみても自明である。すなわち 法律は存在していない。また,この共助に関 警察,消防,自衛隊などのように,そもそも する規定の多くは,災害の救助や治安の維持 固有の行政領域を有するのであるが,その目 を目的とした法律の中にみいだされるもの 的において共通の活動を要求される機関どう の,その内容の不備や不統一が目立ち,はた
しの連絡,あるいはこれらと自治体(異なる して国民生活の安全の保障のために十分な機 行政主体間)との協力関係の維持・形成の問 能を果たしているか疑問がある(5)。一方,こ 題である。 のような実力行使に分類される共助の形態に このような,行政的任務の管轄に基づく分 比べ,事務処理の共助を規定する法文の数は 割的な処理と,行政機関相互の独立性に由来 きわめて少なく(6),また,個別の原理によっ する各種の弊害を調整する原理が,ドイツに て理論構成される必要があると考えられるも おける職務共助(Amtshilfe)である。これは のの,これまでの議論においてはその十分な いわゆるビスマルク憲法(Die Verfassung 解明が行われていないと考えられる(7)(8)。
des Deutschen Reiches v.1.1.1871)にもさ このような行政上の共助(職務共助)の要 かのぼる伝統を有しているとされ,異なる行 件ないし手続に関しては,ドイツでは,前述 政主体に属する独立した行政機関相互の協力 した基本法第35条第1項の規定に基づき,行 を確保する憲法上の制度として,現在では, 政手続法(Verwaltungsve㎡ahrensgesetz)に ドイツ連邦共和国基本法(GG)第35条第1項 おいて詳細な規定が設けられている(4条〜8 にその根拠を有している。そしてこの規定か 条)。これらは,憲法上の要請を具体化した
ら,各行政機関には,相互に援助を提供しこ 法律上の規定として,この法律の適用範囲(1 れを要請する権利義務が直接に生ずると解さ 条)に関する補充性の原則や,この法律にい れている。行政の領域では,この制度は権限 う狭義の行政手続(9条)の内容に拘束され の委任や代理など,その所掌事務や作用法上 ず,広く連邦の行政活動に適用される可能性 の権限の代行にかかわる問題に関連して論じ を有している。したがって,国家の行政一般 られており,行政機関がみずからの権限(管 を通ずる協力体制の維持を法的に保障するも 轄)の範囲内で,他の行政機関の要請に基づ のとして,わが国における議論にも多くの示
き提供する補充的な援助として,その他の協 唆を与えるものであるということができる。
力関係を形成する法制度とは明確な区別がつ そこで本稿では,このような職務共助概念の けられている。 解明を通じて,行政機関の相互関係を形成す
わが国では,行政機関の間で行われる連 る法制度をあらためて分析し,検討する契機
とすることとしたい。ただし紙面の都合上, は問題にされていない(12)。
職務共助の限界(制限),およびその実施に際 これに対して,事務配分的な機関概念は,
しての具体的な手続等を規定した行政手続法 全体としての国家的任務を,その目的や内容 第5条第2項以下の詳細については,機会を に応じて分類された行政上の事務に細分化
あらためて論じることとする(g)。 し,これを系統だてて組織づけられた行政機 関にいかに配分するか,すなわち,国家的な H 行政機関相互の協力関係 任務の遂行のために行政上いかなる機関が必 要とされ,その系統だった処理のために,ど 行政機関を分類する基準となる行政組織の のような機関にいかなる行政上の事務を配分 構成原理においては,伝統的な行政官庁法理 するか,という関心の下に行政機関概念を展 論に基づく作用法的機関概念と,国家行政組 開している(13)。
織法による事務配分的機関概念(包括的機関 国家行政組織法は,その第2条第1項にお 概念)の二つがよく知られている(1。)。行政機 いて,「国家行政組織は,内閣の統轄の下に,
関が行使する「権限」(ないしこれに基づく行 明確な範囲の所掌事務と権限を有する行政機 為)の法的性質については,行政機関の理解 関の全体によって,系統的に構成されなけれ
に対する立場の違いにより,その内容および ばならない」と規定し,事務配分の基準にし 効力の及ぶ範囲に相違があると考えられる。 たがった行政組織の構成原理を明らかにする ここでは,ドイツ行政手続法における職務共 とともに,第3条第2項において,府,省,委 助を問題とするあたり,この制度が「官庁」 員会および庁の4つを国の行政機関としてあ
(Beh6rde)間の協力手段(Kooperations一 げている。したがって,全体としての行政組 imstrument)と理解されているところから, 織は,行政の各部門を形成するこれらの包括
この意味での官庁が,わが国における行政機 的な行政機関のもとで,分業の必要性の基準 関概念でのいずれの機関を意味するものであ である事務の目的,必要とされる技術,対象 るかをまず検討し,さらに,その採用する行 となる人(物),あるいは事務の行われる地域 政機関概念の別により,これらの協力関係の などの別に応じて,活動領域を異にする複数 範囲にいかなる相違が生じてくるのかを明ら の行政機関によって横断的に,かつこれらの かにしておくことにしたい。 事務ないし機関を総轄するより上位の行政機 1 二つの行政機関概念と権限の行使 関によって階層的に組織された一種のピラミ 行政官庁法理とは,外部に対する作用(意 ッドを形成している㈹。ただし府,省,委員 思表示)権限の所在に着目して,これを有す 会,および庁のもとに設置される内部部局,
る行政機関を特に「行政官庁」として組織の 付属機関,地方支部部局などもその機関性を 中心に位置づけ,その権限行使を補助し,あ 否定されるのではない(15)。細分すればさら るいは意思決定に影響を及ぼす機関などを放 に,行政組織内部における部,課,係なども,
射的にその周辺に配置する組織の構成理論で 前者はより後者に対する関係で包括的な機関 あるω)。したがって,行政官庁の特定を個別 としての地位を有している。したがって全体 の作用法の規定に依存せしめている結果,あ としての国家行政組織は,複数の重畳的なピ る機関が「行政官庁」とみなされる属性とし ラミッドからなる行政機関の総体であるとい て有する「権限」には,対外的な最終的行為 うことができる。
のための権限が理解されており,権限の発動 このように,事務配分的な機関概念のもと にいたる内部的な過程についてはこの理論で では,各行政機関は所属する組織内部で担当
する事務の別によって分立させられている結 係と,単なるある行政部門における内部部局 果,その所掌事務の遂行のために与えられた たる各機関(たとえば部・局・課)相互の協
「権限」とは,事務の配分を通じて他の行政機 力の関係とは別にして考えられなければなら 関から区別されうる資格として理解すること ない㈹。
ができる。すなわち,当該行政組織において すなわち,前述のような法律による権限付 ある事務をなしうる(なすべき)適格,ある 与の実態により,行政的任務の遂行がいきお いはその地位にかかわる概念であって,当該 い各系列別に行われることが問題とされると 事務の遂行にあたり自己に任務がある旨の, ころから,まさに異なった行政部門に属する 他の行政機関に対して主張しうる権利と理解 独立的な,あるいは対等の行政機関相互にお することである㈹。 いてこそ協力が必要とされるのである。本稿
このような「権限」の有する内容や効力範 も,その主たる題目に行政機関の用語を用い 囲の別に対応して,ドイツでは,この権限に ているが,この意味での行政機関とは包括的 あたる用語として, Befugniss と Kompe一 行政機関(作用上の主体)を意味するものと tenz の二つの概念が用意されている。そし し,各行政部門における個々の行政機関相互 て,これらの範囲を限定する基準概念が管轄 の関係については,考察の対象から除外して
(Zustandigkeit)である。後述するように前 おくことにしたい。
者は,管轄により特定された任務(Aufgabe)
の遂行のために用いうる権力的手段を表し, 3 組織の内外を通じての協力関係
後者はその任務の事項的範囲に属する事務を 伝統的な行政官庁法理によれば,行政機関 組織上代表しうる権能を,対外的な作用権限 相互の関係は,下級行政機関(とりわけ補助
(Befugniss)を含んで総称する概念であるよ 機関)に対する上級行政機関(行政官庁)に うに思われる(17)。 よる権限の委任,およびこれに基づく指揮監
督関係,あるいは代理関係について中心に考 2 事務配分的機関相互の協力関係 察が行われ,行政官庁相互の関係を協力とい
以上のような,特定の事務配分による一定 う視点から論じられることはなかった(1g)。
の活動領域の設定に基づいても,行政機関が この理論のもとでは,法律により権限を与え 具体的に外部に対して活動を行うに際して られた唯一の官庁のみが問題となるからであ
は,個別の法律に基づく作用上の根拠を必要 り,他の官庁との権限の共同的行使,あるい とすることはいうまでもない。したがって対 はその補助については,作用法的に処理され 外的には,法律によって個別に権限を与えら る問題であると考えられていたためと思われ
れた上位の行政機関(あるいはその長たる主 る。 1
務大臣)によって代表される包括的行政機関 ただしこの理論のもとでも,対等の行政官 が問題となるのであり,法律による権限の付 庁相互の関係として,権限の相互尊重とその 与の形態によっては,たとえば課税の更正処 抵触に際しての協議あるいは事務の嘱託が 分における税務署長のように,上位の行政機 論じられることがある(2。)。しかし,対外的な 関に包摂されるさらに下級の(包括的)行政 国民に対する関係とは異なって,他の官庁に 機関が問題となることになる。したがって, 対する関係では,もはや作用法的な権限が問
同じく行政組織内部での協力といっても,各 題となっているわけではないので,この場合 省庁を頂点する各行政部門を単位として形成 の権限とは所掌事務それ自体,あるいはその
された行政機関の包括的ピラミッド相互の関 ためにもちうる権利,したがって国家行政組
織法第2条1項のいう「権限」を意味してい く官庁がある場合に,その権限をそもそも有 るものと解することができる。 する他の官庁が,要請に基づきこれを補充的
このように,行政官庁法理において協力関 に行使する点において特徴を有している,し 係が理解されなかった背景には,官庁の権限 たがって,その間では権限の移動をともなわ の発動にあたっての事前手続,すなわち,権 ず,その範囲内で行動している点において,
限行使の過程を複数の手続の連鎖から把握す 権限の委任および代理と区別されるものであ る行政手続の理論を採用しなかったことをあ る。
げることができる。ただし実力行使の共助に
ついていえば,たとえば警察と消防の協力の 皿 行政手続法における職務共助制度 ように,他の官庁の執行機関の援助を通じ
て,相互の協力を理解することも不可能では 1 ドイツ連邦共和国基本法と職務共助規定 ない。しかしこの考えによっても,たとえば ドイツ連邦共和国基本法における職務共助 実地調査や情報収集のような事務上の共助に 制度は,ドイツの連邦制的構造(基本法20条 ついては,行政機関の分類のうちに相当する 1項)や国家権力の分立(同条2項),あるい 機関が想定されていない以上,行政官庁法理 は,国家権力の複数の官庁による分割的な行 から説明することは困難であるように思われ 使に由来する,さまざまな官庁を擁する連
る(21)。 邦,ラント(Land)およびゲマインデ(Ge一 したがって行政上の共助の問題は,前述し meinde)間での権限の水平的,および垂直的 たように,これが実際に行われる形態に着目 分立に対処する回答であるといわれる(23)。
するならば,事務配分的な行政機関概念のも 基本法第35条に先行する規定は,1871年 とで論じることが妥当するように思われる。 のドイツライヒ憲法(Die Ve㎡assung des そこでは,対等な機関相互間での所掌事務の Deutschen Reiches)(いわゆるビスマルク憲 一部の委任や代理の他に,その事務処理の協 法)の第4条第11号(「助力要請の処理」),お 力のための援助,および,自己の機関の職員 よび,ワイマール憲法第7条第3号(「ライヒ や施設の利用の提供のような事実上の援助, の競合的立法対象としての官庁間の職務共 ならびに,情報の提供にかかる援助を論じる 助」)にみいだされる例。ただし,これらは ことが可能であると考えられるからであ あくまで,ラント内部での官庁相互の共助を る(22)。また,作用的権限の行使にかかる実力 定めたものであって,ライヒと各ラント,あ 行使の共助に関しても,これはあくまで法律 るいは各ラント間において,官庁が相互に行 の根拠を必要とするものであるから,従来, 政上の共助義務を有するかどうかについては 作用法的機関概念の下で論じられていた上下 争いがあった(25)(26)。このような異なる行政 の行政機関間の権限の委任に準じて,これを 主体間での協力関係の維持の問題が,まさに 定める特別の法律の規定を前提とすることに 基本法の制定に際して,その第35条の挿入
よって,事務配分的機関相互間でも論じるこ によって解決されることとなったのである。
とができる。 基本法第35条第1項によれば,連邦および ただし,本稿でとりあげる職務共助制度 ラントのすべての官庁は,相互に法的共助 は,後述するように,ある官庁の有する事務 (Rechtshilfe)および職務共助(Amtshilfe)を ないし作用法上の権限の,他の官庁による代 提供する。なおこの場合の官庁には,裁判所 行的な処理が問題とされるのではなく,自己 を含み,また援助を提供する官庁が属する行 の事務を達成するために必要な権限を一部欠 政主体には,連邦およびラントの他,ゲマイ
ンデ,ゲマインデの団体等を含むとされてい により連邦法を実施し,あるいは,連邦の専 る(27)。したがってこの規定は,連邦およびラ 属的(競合的)立法の対象に属する連邦法を ントの関係を超えて,行政官庁(または裁判 固有の事務として実施する限りにおいて,こ 所)相互の協力に向けた義務および権利を国 の法律の適用がある(1条1項2号1条2項)
のレベルで保障する最低基準であるというこ (31)。ただし,ラントによる連邦法の実施につ とができる(28)。そのため,職務共助に関する いては,各ラントにおいて行政手続法が制定 具体的な要件や手続あるいはその実施にか されている場合には,この法律は適用されな かる細目ついてはみずから規定するところが い(1条3項)。しかし,職務共助に関してラ なく,その定めは具体的な法律に委ねられる ントの行政手続法は,連邦のそれに準じたほ こととなった。 ぽ同様の規定を置いているため,具体的な援
裁判所相互間,あるいは,裁判機関 助の提供に関して法的な問題は少ないと解す
(Spruchk6rper)としての裁判所から提供さ ることができる(32)。
れる法的共助については,裁判所構成法 ここで,連邦の行政手続法の適用を排除す
(GVG)においてその第156条以下に詳細な る,職務共助に関する特別の規定を置いた連 規定が置かれている(2g)。職務共助に関して 邦法として,連邦公務員法(BBG)第102条,
は,行政手続法(VwVfG)の制定にあたり, 耕地整理法(Flurbereinigungsgesetz)第135 基本法上の原則のよりよい適用と簡易な取扱 条,結社法(Vereinsgesetz)第4条第1項など いをめざして,第4条から第8条に一連の規 をあげることができる(33)。しかしこれらの 定が置かれることとなった(3。)。この職務共 規定が,憲法上の職務共助の規定を受けた,
助に関する規定は,行政手続が多数の官庁が その義務の具体的な宣言にとどまる限りにお 関与しうる複合的な過程であるところから, いては,特にその手続の細目について,行政 特に制定されることが望まれたものである。 手続法第5条以下の補充適用が必要となると
解されている(34)。その他にも,行政手続法第 2 行政手続法の職務共助規定の通則性 2条の規定するこの法律の包括的な適用除外
(1)行政手続法の適用範囲 に該当する領域についても,本法の適用は除 ただし,行政手続法第4条以下の規定は, 外される。この領域において職務共助を定め この法律の適用範囲に関する補充性の原則に た法律として,たとえば,特別の行政手続法 合致して,同法第1条の但書により,他の連 である租税法(AO)(111条〜115条),社会 邦法が同一内容および反対の定めを含まない 法典第10編(SGB X)(3条〜7条)の他,社 限りで適用がある。したがって,職務共助規 会裁判所法(SGG)第5条第1項,社会保険 定の適用にも一定の限界があることは否めな に関する選挙法(Wahlordnung f肚die い。この条件を保留した上で,行政手続法は Sozialversicherung)第317条,負担調整法 つぎの官庁の公法上の行政作用について適用 (Lastenausgleichsgesetz)第317条などがあ がある。 げられている(35)。
まず連邦,連邦直属の公法上の社団 ただし,職務共助にかかわる一方の官庁が
(K6rpershaften),営造物(Anstalten)および 連邦の行政手続法の適用を受ける官庁である 財団(Stiftungen)の官庁である(1条1項1 限り,この法律の適用は排除されるわけでは 号)。またさらにラント,ゲマインデ,ゲマイ ない。それは後述するように,職務共助の実
ンデの団体,その他ラントの監督に服する公 施については,これを要請された官庁に適用 法人の官庁についても,それらが連邦の委任 される法に従うが,職務共助に基づき実施さ
れる措置の許容性については,これを要請し い。
た官庁の法に拘束されるからである(7条1 まず職務共助の概念として,行政手続法は 項)㈹。またさらに,租税および社会保障の これを,要請により他の官庁に提供される補 分野に関しても,これらが法律に定められた 充的援助と定義づけるとともに(4条1項),
固有の領域以外で援助を求められた場合に 援助の提供が,①現に存在する訓令関係 は,一・般法としての行政手続法の適用がある (Weisungsverh註ltniss)の範囲内でなされた と考えられている(37)。 ものである場合(同条2項1号),あるいは,
(2)職務共助規定の通則性の限界 ②要請された官庁に固有の事務として義務づ したがって,このような行政手続法上の職 けられた行為に相当する場合(同2項2号)に 務共助の規定は,憲法上の要請を行政(手続) は,職務共助にはあたらないことを規定す 法上に具体化した一般規定として,広く適用 る。
があるということができる。それは,この法 つぎに第5条は,官庁が職務共助を要請で 律が適用される官庁にとって,行政手続法第 きる場合を列挙するとともに(同条1項),そ 4条以下の規定は,第9条の意味での狭義の の要請を受けた官庁が,①援助を提供するこ 行政手続すなわち行政行為の発給ならびに とを許されず(同2項),あるいは,②拒否す 公法契約の締結,あるいはそれらに向けられ ることが認められる場合を掲げている(同3 た作用に関してのみならず,その活動が第1 項)。ただし,基本法上に定められた官庁間 条の意味での公法上の行政作用に該当する限 の協力義務に照らして,要請された官庁に援
り,たとえば法規命令や行政規則の発布,事 助の無制限の拒否が認められているわけでは 実行為の着手についても適用があると解され ない。したがって行政手続法は,この第3項 ているところから察知することができる(38)。 に掲げられた理由以外の理由により,援助を ただし,職務共助をめぐっては,前述した 拒否することは許されないことを規定してい ように,共助の実施については援助を提供す る(同4項)。さらに,職務共助の提供に関し る官庁に適用される法に従う結果,この官庁 て,要請官庁と被要請官庁の間に見解の対立 はその範囲で責任を負うこととされている がある場合の調整手続について,一項が設け
(7条2項)。そのために,行政手続法の適用 られている(同5項)。
をうけるある官庁が,この法律により共助を 行政手続法第6条以下は,職務共助の実施 要請できる場合であっても,これを要請され にかかわる細目について規定している。まず た官庁にとって,その目的とされた措置が特 第6条は,援助を提供する官庁として複数の 別の法律によって禁じられた行為にあたる場 官庁が考えられる場合にその選択の基準を,
合には,要請は拒否されるべきこととなる。 第7条では,前述した職務共助に関する法律 これは特に,行政手続法第5条第2項に規定 の適用関係と,その措置ないし職務共助の実 された,職務共助の禁止事項に該当する情報 施にかかわる法的責任の所在を規定する。ま の提供による共助についてあてはまる(3g)。 た第8条は,職務援助の実施にともなう費用
の負担について規定している。
3 行政手続法における職務共助規定 (2)職務共助の具体例
(1)職務共助規定の全体構造 このような職務共助の規定によっても,法 そこで,このような行政手続法の適用関係 律により課せられた任務を官庁がみずから遂 を考慮した上で,この法律における職務共助 行するという本則にかわりがあるわけではな 規定の全体構造を概観しておくことにした い。しかし個別具体的な場合に,官庁による
事務の遂行に実際上の支障をきたし,あるい られる(5条1項3号,4号)。これらの情報 はこれを不可能とするいくつかの理由が存在 をめぐって行われる援助は,職務共助を通じ することは避けられない。行政手続法はさき て頻繁に行われる援助形態でもあり,学説で のとおり,その第5条第1項においてある官 も,職務共助の例としてこの情報上の援助が 庁が職務共助を求めうる,したがって,みず あげられることが多い㈹。たとえば他の官 からが職務行為をなすには支障があると思慮 庁が認知し,あるいは知りうる事実に関する される場合を列挙しているが(1号〜5号), 情報の提供(45),他の官庁が保管する公文書ま これらは法的あるいは事実上の不能,ならび たは記録(写真等)の閲覧ないしこれらの送 に必要とされる情報の欠如の3つに分類する 達(46),鑑定意見の提出(47),証人の尋問(Ver一 ことが可能である㈹。この分類にしたがっ nehmung)あるいは実地検証,または専門的 て,学説が職務共助の典型例として掲げる事 調査によって知りえた事実の報告(48)などで 例をあげるならば,つぎのようなものがあ ある。
る。 c)法律上の不能
a)事実上の不能 最後に,職務共助が求められる法律上の理 まず,専門的な知識技能をもった職員の欠 由として,官庁が自己の任務の遂行のために 如や,必要とされる施設・設備を欠くといっ 必要な管轄(Zustandichkeit)を欠き,あるい た事実上の理由がある(5条1項2号)(41)。職 はそのための権限(Kompetenz)を有しない 務共助は,機能的には,他の官庁のもとにあ 場合をあげることができる。これは前述した
る人的あるいは物的手段の合理的な利用に供 ように,行政の組織編成の分立的構造や階層 する制度であるともされ,それらを必要とす 制,あるいはドイツの連邦制的構造に対応し る官庁が,あらためてこれらを調達すること て,個々の官庁への任務の割り当てや権限の にともなう経済的非効率,あるいは二重労働 配分が管轄によって細分化されていることに を避けることに利点があると解されてい 基づく帰結であり,組織法的に職務共助が必 る(42)。したがってその限りでは,この制度 要とされる根拠とされるところである。
は,行政手続法第10条にいう簡易かつ合目 しかしこの制度は,法律により定められた 的な行政手続の実施,すなわち行政手続の経 権限や管轄の変更をともなうものではな 済性の原則の表れでもある(43)。このことは い(4g)。職務共助を要請された官庁は,自己に 条文上でも確認されており,官庁は職務行為 認められた権限(管轄)の範囲内で,その要 の実施にともなう費用が多額に及ぶ場合,職 請にかかる措置を実施するにすぎず,それが 務共助を求めることができ(5条1項5号), 職務共助を要請した官庁にとって,自己の職 あるいは要請を拒否できることが認められて 務遂行のために必要な援助となるにすぎない いる(同条3項2号)。また著しく簡単,かつ ものである。また要請を受けた官庁が,その 少額の費用で援助を提供できる他の官庁があ 要求にかかる措置を自己の事務としてなすべ
る場合にも,要請を受けた官庁は援助の提供 き義務を課せられていない点においても,職 を拒否することが認められている(同3項1 務共助の特徴があらわれている。
号)。 このように,要請を受けた官庁にとって当 b)情報上の共助 該援助は,法律の定めにより当然になされる
つぎに,職務の実施にあたって必要とされ べき固有の事務に該当するものでない以上,
る事実の告知や,文書等の閲覧ないし送達に 当該措置の実施については,これを必要する よる情報上の援助(Infomationshilfe)があげ 官庁からの要請を必要とするのである。しか
もその援助は,要請した官庁がなすべき措置 の担当部局(Amter)などの事務の配分は,あ の全体に及ぷものではなく,あくまでその一 くまで,それらの所属する官庁内部で編成さ 部分にとどまる点において,補充的な援助で れた内部分掌によるものであって,その活動
あることを必要とされている。この点に関す の効果は当該官庁自体に帰属するものである る理解のためには,行政手続法における官庁 から,自己の名において活動しうる権限(管 の意義ならびに管轄と権限の関係について 轄)を欠いている(52)。したがって,このよう あらためて考察しておく必要がある。 な面から,官庁内部での協力は職務共助の問
題からは除外されるのである。
IV 職務共助と管轄・権限の関係
2 任務と権限(Kompd㎝妬Be鱗s)の関係 1行政手続法の適用を受ける官庁の範囲 ここに,行政手続法第1条第4項にいう
行政手続法における官庁(Beh6rde)とは, 「任務」(Aufgabe)とは,法律によって課せら その第1条第4項において,「公行政の任務 れた,その官庁によって追求されるべき目標
(Aufgabe)を遂行するすべての機関(Stelle)」 の総体を表し,その範囲内において,当該官 とされている。この意味での機関とは,その 庁が侵害的性質をともなわない範囲である行 下で活動する人の交代によって影響されな 為をなす権利および義務を有すること,すな い,自己の責任のもとで活動する管轄 わち,法律によって認められた官庁の活動領
(Zustandigkeit)を与えられた,組織上独立し 域を示している(53)。したがって,任務の具体 た施設(Einrichtung)と解されている(5。)。し 的な内容に着目して,これを「事務」といい たがって,固有の管轄を有する点において組 かえることもできよう。これに対して権限 織上の独立性を必要とするとともに,その活 (Befugniss)とは,個々の任務を達成するた 動の公行政的性質,すなわち作用法的属性を めに官庁が用いることができる手段,なかで
も問題とする点において,他の法律とは異な も権利侵害的効果をともなう措置(国民に対 った独自の官庁概念によっている(51)。この する作為不作為や受認など)をなしうる地位 場合の管轄(権限)とは,以上のように対外 を承認する作用法上の概念である(54)。した 的な作用をともないうる組織上の地位を表す がって,任務の割り当てが直ちにそのための
ものであるがゆえに,わが国の行政官庁理論 侵害的権限の付与を意味するのではなく,法 による権限概念よりもひろく,むしろ事務配 律による留保の原則にしたがい,あらためて 分的機関概念における権限概念に,そのよう 法律による授権を必要とすることになる(55)。
な(侵害的)権限を含んだもの(前述したド この権限とともに,任務の範囲を組織法上 イツ法における Kompetenz )として理解す で限定している概念が「管轄」
ることが適当であるように考えられる。 (Zustandigkeit)である。ただし,この管轄と このように,行政手続法における官庁の特 しばしば同意義で用いられる概念として前述 定にあたっては,以上のような意味での権限 の Kompetemz があるが(56),両者は明確に
(管轄)の有無が重要な基準となっている。 区別されるものであり,管轄とはつぎに述べ したがって,そのような権限を有しない組織 るように,官庁の活動範囲に属する事項的内 上の施設は,単なる官庁の一部分(Teil)にす 容を限定する区分概念としての性質を有する ぎない。たとえば,各省や県庁(Bezirks一 ものである。そこで,この権限(Kompe一 regierung)の担当部局(Referate, Dezemate) temz)を先の Befugness と区別して用いる や部局(Abteilungen),あるいは市町村行政 ために,以下では単に「権限」と表す場合に
は Kompetemz をさし, Befugness につ たしている(60)。
いて述べる場合は(侵害的)権限と表記する c) さらに,同じく事物管轄を共有する複数 ことにしたい。 の官庁が,一つの組織のもとで互いに階層を 別にして帰属している場合に,ある任務が上 3 管轄の種類と分類 位の官庁から遮断されて,ある特定の審級の
広く行政的任務(事務)は,国家の行政機 下位官庁に専属的に割り当てられる場合に用 構の編成と各行政部局の設置の目的に応じ いられる概念が審級的管轄(Instanzielle て,さまざまな機関により分担的に処理され Zustandigkeit)である(61)。上位の官庁は,下 ている。このような任務を,その内容と性質 位官庁に審級的管轄があるとされた事案つい により,あるいはその能率的な処理をめざし て,みずからこれを担当することは許されな て,事項的・場所的にその範囲を限って分掌 い(62)。これは,各審級ごとの専門的処理能力 させるための組織法上の仕組みが,ここにい の差にかなうものである。
う管轄である。 d) このように,法律による管轄の設定はあ 国家の行政的任務(事務)は,憲法または くまで官庁レベルに関するものであり,官庁 法律により,連邦またはラントなどの行政主 内部における担当部局への事務の割り当ては 体に,あるいは,所轄の大臣によって統率さ 内部分掌によるものであって,法律事項では れるその下の各官庁に直接分配されることに ない(63)。内部分掌の定めは,単に行政規則 なる。ここで,いずれの行政主体がいかなる (Verwaltungsvorschriften)の性質,また服務 職務を遂行するかにかかわる概念として,団 内の訓令(Innerdienstliche Weisungen)の性 体管轄(Verbandszustandigkeit, Verbands一 質を有するものであって,これに反してなさ kompetenz)が語られることがあるが(57),一 れた行政行為が,直ちにこれにより違法とさ 般に問題となるのは行政組織内部における各 れるわけではないとされている(64)。
官庁による職務の分掌であり,これはつぎの ただ例外的に,官庁内部の特定の職務担当 ような3つの管轄によって分割されている。 者(たとえば官庁の長あるいはその受命者)
a)まず,対象となる任務の内容ないし性質 がある措置を行うべきことを,法律またはこ により,事物管轄(Sachliche Zustandigkeit) れに基づく命令によって定められている場合 が特定される。これにより所轄の機関とされ がある。そのような場合には機能的管轄 た官庁には,当該職務を何らかの手段,方法 (Funktionelle Zustandigkeit)の概念が用いら および様式により実現すべき義務ないし地 れることがある(65)。
位が生ずる(58)。したがって,官庁は事物管轄
を有することによって,この任務を組織上代 4 職務共助にとって管轄の有する意義 表する権限を有することになる(5g)。 行政上の任務を,以上のような基準により b)つぎに,事物管轄を有する官庁が複数存 設定された,さまざまな管轄を通じて裁断的 在する場合に,その活動領域を地域的に限定 に処理することは,同一の活動領域を有する oo
キる概念が場所的管轄(Orthche Zus伽digkeit) 官庁が複数存在することにともなう二重労働 である。これは財務行政や社会保障行政など や権限争議,あるいは活動や決定に際しての のように,その業務区域が地域的に密接し, 種々の矛盾を回避することにつながり,今日 あるいは,地理的に広範囲に及ぶ行政を複数 のような巨大な行政組織を効率的に運営する の官庁によって分担処理することが効率的で ための支柱となりうるものである。
ある行政の処理方策として,重要な機能を果 また一方で,各官庁がその行為にあたり,
みずからの管轄を遵守することにより,組織 前述したように,職務共助によって実現され 上最も適格を有する官庁による行政が保障さ る措置の適法性については,援助を要請した れることは,処分にあたって責任の所在が明 官庁自身が責任を負い,援助を提供した官庁 確化されることになり,ひいては国民の権利 は,その要請によって提供された援助の実施 保障にもつながるものである(66)。したがっ についてのみ責任を負う(行政手続法7条2 て,管轄規定は国民の生活領域にかかわる対 項)。したがって両者は,その権限の範囲内 外的な効果をも有しており,その定めは法律 で担当した部分についてのみ責任を負うわけ
または法律に基づく命令によることが必要と であって,援助を提供した官庁が,その援助 されている。 に基づいて実現された措置本体について責任
さきに任務(事務)の割り当てと管轄また を問われることはないのである。このよう は権限(Kompetenz)との関連で,(侵害的) に,権限の移動をともなわない点でその委任 権限(Befugness)の概念を説明したが,これ (Delegation)と区別されるとともに,他の官
ら相互の関係を以上の検討を踏まえてあらた 庁の権限の代行ではなく,自己の権限の一部 めて考察してみると,管轄のもつこのような を他の官庁のために行使するものである点に 対外的効果のゆえに,(侵害的)権限の付与 おいて代理(Mandat)とも区別されるもので
は,官庁の任務が管轄によって特定された後 ある(71)。
にはじめて,その実現に必要な手段として認 ここに権限の委任とは,ある官庁がその権 められるものと解釈することができる(67)。 限の一部を他の官庁に最終的・継続的に委譲 したがって管轄は,ある官庁の活動目標であ することを意味し,権限を委譲された官庁 る任務の範囲と,そのために用いうる(侵害 は,以後これを自己の名前で行使することに 的)権限の範囲を特定するものであって,こ なる。これに対して代理とは,権限の移動を のような活動範囲に属する内容を動態的に表 ともなわないその代理的な行使を意味し,し 現して権限(Kompetenz)の名で総称するこ たがって,代理者はこれを被代理官庁の名前 とができるのである(68)。 で行使することを要するとともに,その効果 は,権限の正規の保有者である被代理官庁自 V 職務共助の要件 身に帰属する。職務共助制度は,時としてこ
の代理制度と類似する外観を有する場合があ そこで,このような権限とのかかわりで, るが,それは,つぎにあげるような職務共助 職務共助の要件を限定してみるならば,これ の要件である要請の有無や援助の一時性,と は,つぎのように他の協力制度と区別するこ りわけ,要請した官庁の措置との関係におい とが可能である。 て補充的な機能を果たす点において,両者を
明確に区別することができるのである。
1 権限の委任および代理との違い
職務共助制度は,援助を必要とする官庁 2 職務共助の要件(その1)
の,当該任務の遂行のために必要な手段(権 (1)要請に基づく援助
限または人員や物的施設など)の拡大や増大 職務共助手続は,要請官庁の主宰する主た を意味するものではない(6g)。援助を提供す る手続(Hauptverfahren)における職務共助の る官庁も,自己の管轄ないし権限の範囲内 要請によって開始される。したがって,いま で,職務共助を要請した官庁のために必要な だ要請を受けていない段階での,みずからに 手段を提供するにとどまるものである(7。)。 援助を依頼される可能性があると思慮した官
庁による自発的な,要請に先立って行われる 階層の官庁に要請すべきことを規定してい 援助は,援助の要否にかかわる要請官庁の決 る。
定を先取りすることになるため,職務援助の 3職務共助の要件(その2)
範疇からは除外されている。このような援助 (1)補充的な援助
は「自発的援助」(Spontanhilfe)と呼ばれて 職務共助制度によっても,すべての官庁 いる(72)。 が,みずからの任務をその用いうる手段を通 また要請は,ある官庁が他の官庁に行う場 じて実現する原則にかわりはない。したがっ 合であっても,これらが相互に訓令関係(Wei一 て,職務共助は例外的なものでなければなら sungsverhaltniss)によって結びついている場 ず,臨時的な,ごく一時的な場合に限って認 合には,この範囲内で提供された援助行為は められるものでなければならない。永続的・
職務共助には該当しない(行政手続法4条2 継続的になされる援助行為は,たとえそれが 項1号)。なぜなら,上位官庁は要請によらな 他の官庁の任務の遂行に役立つ場合であって くとも,すでにその有する指図権限によって も,職務共助の範疇からは除外されている。
必要とされる行為を命じることができるから 学説では,このような援助行為は「拡大され であり,この場合の補助行為の提供は,下級 た職務共助」(Erweiterte Amtshilfe)と呼ばれ 官庁の義務としてその訓令関係に含まれてい ており㈹,狭義の職務共助から区別されてい ると解されているからである(73)。 る。職務共助のこのような補充的性質のゆえ
(2)要請の法的性質と方式 に,提供される援助にはつぎのような限定が 職務共助を求める要請は,これを必要とす 加えられている。
る官庁による意思の表明行為ではあるが,拘 (2)援助行為の主たる手続に対する従属性 東力を有するものではなく,したがって行政 職務共助は,要請を行った官庁の手続との 行為ではなく手続行為とされている。また一 関係において,これに従属する部分的措置で 定の様式や形式に拘束されるものではなく, なければならない(78)。援助が主たる手続の 口頭でも,電報または電話でも可能であると 全体に及ぶ場合には,共助ではなく手続(行 されている(74)。ただ,特別の事情のない限 為)主体の変更を意味することになり,これ り,所定の事務手続を踏襲した上で文書でな を要請した官庁にとって,法律により定めら されることが望まれるとともに,必要とされ れた権限の放棄にあたるからである。
る援助の程度(範囲),ならびにその理由が明 さらに,援助行為の占める割合が,主たる 記されることが必要であると解されている。 官庁の手続の独立した一部をなす場合には,
なぜなら,職務援助が主たる手続に関与する いわゆる執行援助(Vollzugshilfe)が問題と 官庁にとっての補充的機能にとどまり,また なるとされている。これは特に,租税の徴収 要請を受けた官庁が職務共助の拒否事由(行 手続や警察官の執行行為に典型的に表れてい 政手続法5条2項,3項)を審査するために る。そのような行為は,国民に対する対外的
も,その一定の明示が必要であるからである な効果を含んでおり,したがって法律の根拠
(75)(76)。 を必要とするところから,職務共助ではな 要請は複数の官庁に対してもなされうる。 く,当該官庁によるつぎの固有の事務の遂行 ただしこの場合の選択の基準について,行政 に該当すると解されている(7g)。
手続法第6条は,職務共助につき複数の官庁 (3)補充性要件の欠格事由としての固有の が考慮される場合は,できる限り,援助を要 事務
請した官庁の属する行政部門の最下級の行政 行政手続法第4条第2項第2号は,要請に
より提供される行為が,そもそも官庁に固有 などである。
の事務として義務づけられている場合には, また一般の行政領域では,多段階的な行政 この法律にいう職務共助にはあたらないこと 行為の発布に際して行われる他の官庁の関 を規定する(8。)。すなわち,職務共助は援助を 与(87),および,行政手続法第73条の規定によ 提供する官庁が,その権限を自己の任務の遂 り,計画確定手続における計画の立案のため 行のためにではなく,他の官庁,すなわち要 に必要な聴聞手続を,当該計画の立案官庁に 請を行った官庁のために行使する場合にはじ かわって実施する市町村も,行政手続法第4 めて承認されるからである。したがってこの 条第2項第2項における固有の事務を遂行し 場合には,補助としての職務共助の認定に必 ているとされている㈹。
要な「利他的な要素」(Altmistisches Ele− b)つぎに,所属する構成員の職業的な団体 ment)(81)を欠くことになる。そのような場合 利益を代表する公法上の法人である手工業会
には,そもそも職務共助を持ち出す必要はな 議所および商工会議所も,その任務のうち く,法律の定めに従って当該官庁はみずか に,鑑定意見の提出および報告を通じて官庁 ら,職権または裁量によりその行為をなすべ を援助する職務を有している(8g)。また,ある き義務がある。その結果,この場合には,職 種の情報の管理を固有の事務とする官庁から 務共助の固有の要件である要請も介在する余 の情報提供,たとえば,自動車運転許可所 地がないことになる。 (Kraftfahrzeugzulassungsstelle)の車両登録
ある行為が,この法律の意味での固有の事 簿に基づく,自動車の保有状況に関する情報 務にあたるか否かは,要請を受けた官庁に適 提供㈹,運転免許の交付にあたって,これま 用される法律等の定めにしたがって判定され での運転歴(免許の停止や交通犯罪による有 ることになる。その基準は,さきにも触れた 罪判決の宣告の有無など)に関する情報をえ とおり,要請を受けた官庁がその行為を法 るために用いられる連邦自動車庁
律,法律に基づく命令,あるいは行政規則に (Kraftfahrt−Bundesamt)の管掌する交通中央 より無条件的に,あるいは少なくとも羅束的 登録簿(Verkehrszentralregister)からの情報 な裁量に基づいてなすことを義務づけられて 提供(g1),連邦検事総長の管掌する連邦中央登 いることである(82)。したがって,要請に基づ 録簿(Bundeszentralregister)に記載された,
いてはじめて提供される援助は,この法律に これまでの有罪判決の宣告の有無,あるい いう職務共助にあたると解釈する余地があ は,行為能力の剥奪宣言,ならびに営業停止 る(83)。 決定の有無に関する情報の提供(g2)なども,そ
(4)固有の事務としての援助の具体例 れそれ管掌する官庁にとっての固有の事務と この法律により,職務共助から区別される されている。
固有の事務の例として,学説および判例のあ c)さらに,憲法擁護(Verfassungsschutz)
げるところによれば,つぎのようなものがあ 業務における連邦官庁とラント官庁の協力 る。 や,憲法擁護官庁による個人の身元審査(Si一 a)まず警察官の職務に関して,たとえば, cherheitsuberprufung)なども職務共助ではな 裁判長の要請に基づいて,法廷の口頭弁論に く,法律によってこれらの官庁に課せられた おける静穏確保のために行われる行為(84),デ 固有の事務とされている(g3)。
モ行進に際して,要請に基づき行われる官庁
の庁舎の封鎖(85),刑事訴訟法(StPO)により, VIおわりに 検察官の要請を受けて行われる被疑者の連行(86)
このように,ドイツにおける職務共助制度 被要請官庁が,その権限の範囲内で提供する を行政手続法を通じて概観してみるならば, 援助である点において特色を有するのであっ この制度は,基本法第35条第1項の規定に基 て,自己の任務の遂行のためにではなく,他 づき,憲法的な権力の水平的および垂直的分 の官庁の任務の遂行のために提供する権限の 立と,行政上の管轄に基づく行政機関の分立 補充的行使による援助である。したがって,
を克服し,行政(組織)の一体性を確保する 共助にかかる権限の行使は職権によってでは 点から広くその意義を有するものの(g4),その なく,少なくとも裁量によって引き出される 概念は,他の行政機関相互の協力関係をめぐ 可能性のあるものであり,羅束的な裁量によ
る法制度の中では,比較的限定された意味で ってなされるものについては,これは固有の 用いられていることが分かる。すなわち,権 事務とみなされるものであった。またこの両 限の委任・代理や,他の官庁に対する援助で 者の間に介在する法的な権限についても,こ あっても,その行為自体が警察権の行使のよ れを法律によって課せられた作用法上の権限 うに,実力をともなう手続の独立した一部を のみならず,これを含んだ組織法上の事務代 なす場合に論じられる執行補助(Vollzug一 表権としての権限を含めることによって,当 shilfe)(g5)と区別されるものである。また,本 該事務遂行にかかる実務上の施設・人員の援 稿ではとりあげることはなかったが,行政主 助を理解することが可能であった。
体が任務の遂行にあたって必要な機関をみず したがってこの制度をより理解するために から設けることなく,他の行政主体に属する は,行政機関の間で行われる協力の形態にか 機関を用いる場合に問題とされる機関借用 かわる,さきに掲げたその他の法制度の解明
(Organleihe)(g6),旧東ドイツ地域の官庁の援 が必要となるとともに,職務共助の限界に関 助のために,国家契約によって期間の限定の する第5条第2項以下,およびその費用負担
もとで実施される行政補助(Verwal一 等の詳細を明らかにすることが必要となる。
tungshilfe)(g7)など,官庁間の協力関係を形成 これらを解明することによって,わが国にお する法制度が概念上数多く用意されているの ける行政上の共助のもとで論じられる諸制度 である。したがって,このような全体的な協 の概念的な,さらなる分類が可能であるよう 力制度の法的な解明を行うことによって,わ に考えられるのである。これらについての結 が国における行政上の共助をさらに分析し, 論的な見解については機会を改めて論述する 法的に分類することが必要となる。すなわ こととし,とりあえず以上をもって職務共助
ち,固有の事務に含まれると解されるもの, 制度に関する概括的な説明とすることにした 執行補助に該当するとみなされるものなどが い。
これに含まれていると考えられるのである。
ここで,職務共助の概念をあらためて振り 注(1)行政機関相互の関係を「協力」という観点か 返ってみるならば,これは要請に基づき他の ら論じた論文として,遠藤文夫「行政機関相互 官庁に提供される補充的な援助であって,こ の関係」r現代行政法大系7』(有斐閣・1983年)
の定義に含まれる要件によって,職務共助は 159頁以下参照。
自発的援助,拡大された職務共助,および固 (2)阿部泰隆r行政の法システム(下)』(有斐 有の事務としての任務の遂行から区別される 閣・1992年)633頁以下参照。
ものであり,また権限との関係においても, (3)行政上の共助に関しては,遠藤・前掲論文の その委任および代理と区別できるものであっ 他,っぎの文献がある。園部敏「行政上の共助 た。特に後者との関係でいえば,この制度は 一行政機関の「実力による応援」一」r行政