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─ 日蓮真蹟遺文を中心として ─

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(1)

「まいす」の研究

─ 日蓮真蹟遺文を中心として ─

川 西 瑞 恵

1.はじめに

 中世において、盛んに用いられた敬語表現として「まゐらす」がある。「まいす」

という語は、この「まゐらす」とほぼ同じ意味・用法で用いられる。

 管見の限り、「マイスル(まいす)」という語の存在を最も早く指摘したのは湯沢 幸吉郎氏である

注1

 湯沢氏に続き、春日氏が「マイスル」を主題とする論文を書かれた

注2

。春日氏の調 査対象も、室町時代の抄物である。

 それから約三十年後、高橋一夫氏が「日蓮上人遺文の「まいせ」について」

(一九五九年)において、日蓮遺文に「文字面では「まいせ」と読めるもの」があ ることを指摘し、23例の「まいせ」を紹介している。しかし、このときの調査対 象は日蓮遺文のごく一部でしかない。

 本稿では、「日蓮遺文データベース 日蓮大聖人 御書システム 2008年版b」

(以下「御書システム

注3

」)と、真蹟の写真版である法蔵館編『日蓮聖人真蹟集成』

(一九七六年刊、以下「真蹟集成」)を用い、日蓮真蹟遺文における「まいす」につ いて、より多くの用例を集めて検証する。

2.先行研究の分類について

 高橋氏が示されたのは、以下のような「まいせ」 「まい(ら)せ」 「まいらせ」の 三分類と、1例の「まいす」である。

  ◎「まいせ」    =「ら」文字を認めえない例 23例

  ○「まい(ら)せ」 = 筆の走りぐあいで「ら」文字の跡を認めているのでは ないかと思われるもの 5例

  ●「まいらせ」   =明らかに「まいらせ」と書かれているもの 9例

(2)

  ◎「まいす」 「みみへまいすへし(五人土籠御書)」 1例

 以上のように計38例を挙げた上で、(他にも) 「文字面では「まいせ」と見るべき ものが相当多数含まれていると想像されるが、筆者はこれを確かめえない。」と高 橋氏は述べている。

 なお、高橋氏が挙げた各用例の詳細については、検証する過程で触れる。氏の分 類は、上記のように◎・○・●の記号で示す。

 ただし、記号◎は、「まいせ」と「まいす」を兼ね、活用形によって区別しない。

3.凡例:日蓮遺文の引例について

一 、御書システム、真蹟集成の双方に対して参照の便宜を図るため、書名は御書シ ステムのものを、「まいす」 「まいらす」の出現箇所は真蹟集成での位置を示すこ とにする。

  但し、調査対象から除外する6例は除く。

二 、書名の次には、算用数字で真蹟集成の巻・頁数、行数を示し、用例の出現箇所 を示す。

   例えば下の例は、書名は「盂蘭盆御書」、真蹟集成の4巻326頁8行目に存在す ることを示している。

   (例)盂蘭盆御書 4-326 8 法花経信まいらせし大苦は

三 、頁数の後にアルファベットを付したものは、真蹟集成の1頁に複数の断簡が掲 載されていたもので、aは右から1つ目、bは右から2つ目を示している。

   以下の例は、真蹟集成の5巻216頁にある、右から4つ目の画像の2行目に存在 することを示している。

   (例)断簡265(対:343) 5-216d 2 ほうし/まいせ候へき

四 、行数に「-」の付いたものは、紙面の最終行から数えた行数である。下の例 のように、算用数字ではなく「oo」とあるのは、散らし書きされた追伸部分など の、本行として数えにくい箇所に該当語があることを示す。

   (例)弁殿御返事(弁殿尼御前御書)2-122 oo とてまい(ら)せて 五、活字では表現できない真蹟の様子については、次のように記号を用いて補った。

 “ ” 補入された文字を囲む 

 〔 〕 上書によって消された文字を囲む   /  改行位置を示す

 \/ 踊り字を示す

(3)

 以下の例では、「まいせ」に「ら」が補われ、「しかは」が行末にあたることがわ かる。

    (例)盂蘭盆御書 4-317 9 はんをまい“ら”せたりしかは/

 また、以下の例では、「み候へ」を「みまいらすれは」へと修正したことを示す。

    (例)撰時抄 1-114 3 み“まいらすれ〔候へ〕”は

六 、画像は、全て真蹟集成から引用した。並列して挙げたもの同士は、ほぼ同じ縮 小率で加工している。画像を引用している場合には、翻字の引用部分に二重線を 引いた。

4.調査対象

 まず、「御書システム」の真蹟活用調査の画面から「まいら」を検索すると、121 例が該当する。この真蹟活用調査では、「まいす」の活用形は検索できず、この 121例の中には「まいす」と読めるものも含まれる。

 この121例のうち、以下の4例は真蹟集成に掲載されていない。

システムNo. 書名 調査対象

 26929 上野郷主等御返事 徳勝童子は土のもちゐを仏にまいらせて  26970 孝子御書     前に立まいらせし御孝養心にまかせさせ給ぬるは  41253 上野殿御返事断簡 このこめはかへし

まいら

せて候

 41768 白木御返事    かうしまいらせ候 (※かうし=柑子)

 システムNo.26929は「明治八年の身延山久遠寺の火災にて烏有に帰したことが わかる。」と御書システムにある。

 また、No.26970は『新編 日蓮大聖人御書全集』 (「御書全集」)、No.41253は『昭和 新定 日蓮大聖人御書』 (「新定御書」)とそれぞれの活字本にのみ掲載されている。

 No.41768は、1996年に中尾堯氏が依頼を受けて真蹟鑑定を行った書状である。

つまり、真蹟集成の刊行よりも後に真蹟と知られた資料であるということである。

 この書状の画像は、中尾氏の著書『日蓮真蹟遺文と寺院文書』の23頁に掲載さ れている。その画像には、中尾氏が御書システムと異なる釈文を示していた。

    かうし(格子)つく(作)て候也

 しかし私がこの画像を見る限りでは、「かうしまい」までが読み取れ、「かうし」

も「柑子」と取るべき文脈で用いられていた。そのため、御書システムの読みの方

(4)

が妥当であると思われたが、文字が薄い上、裏に要文の抜書きがあり、肝心な「ま い」以下を読み取ることができなかった。

 よって、以上の4例は、調査対象から除外する。

 また、真蹟集成に掲載されているものの、該当箇所の状態が悪いものが以下の2 例であり、これらも調査対象から除外する。

システムNo.   書名   調査対象 真蹟集成巻頁  17937 妙一尼御返事 妙一比丘尼まいらせ候 日蓮        4-123  40175 断簡二二二 臨終の時釈迦佛を見まいらせ□□□(候さら)む  5-122

 以上の計6例を除く、115例を調査対象とする。

5.用例の分類

 分類するにあたっては、例外的な要素を含むものや「まいらす」から抜き出して いき、残るものを「まいす」とみなすことにした。

 はじめに、補入によって「まいらせ」へと訂正された用例(A.全6例)を挙げ る。

〈A.補入の「まいらす」〉

 A-① 盂蘭盆御書 4-317 9 はんをまい“ら”せたりしかは/

 A-② 千日尼御返事 5-015 −2 りやうせん浄土へまい“ら”せ給/て

●A-③ 千日尼御返事 5-015 -3 らうれうとたの“みまいらせ〔ませ〕”/給て  A-④ 撰時抄 1-114 3 第九等をみ“まいらすれ〔候へ〕”は  A-⑤ 四条金吾殿女房御返事 4-140 4 をもわれ“まいらせ”なはなにくるし

●A-⑥ 神国王御書 3-105 -3 すかされ“まいらせ”たりける

(5)

 次に、「まいらす」の「まい」が行末にあたり、改行して行頭に「ら」がある場 合の例(B.全6例)を見てみたい。

〈B.改行箇所の「まい/らす」〉

 B-①法華証明抄 1-240 3 釈迦佛にをり向まい/らせて  B-②法門可被申様之事 2-090 4 かれを請まい/らせんと

●B-③南条殿御返事 9-044 -1 御経よませまい/らせ給けり  B-④諫暁八幡抄 9-101 1 こそかけまい/らせ給へきに

●B-⑤富城殿女房尼御前御書 5-030 -5 やしなわれまい/らせて  B-⑥高橋入道殿御返事 4-173 -4 不便にをもひまい/らせ候へは

 以上、「A.補入の「まいらす」」と「B.改行箇所の「まい/らす」」の計12例を

見た。(なお、「まいす」が補入された訂正箇所の例、語中で改行する「まいす」の

例はなかった。)

(6)

 次に、調査対象の残る103例については、以下の基準によって第1類から第5類 まで分類を行った。

 第1類【まいらす】 「ら」が明確にあるもの。 4例  第2類【まい

す】崩した「ら」があるとみなすことができるもの。 3例  第3類【まい(ら)す】 「ら」の有無について判断が付かないもの。 13例  第4類【まい~】語全体が崩れているもの。 4例  第5類【まいす】一類から四類までに含まれず、「まいす」と読めるもの。 79例

 この5分類をもとに作成した調査結果の一覧表を次頁から載せる。この一覧表の 右欄外には、この5分類と前掲のA・B、高橋氏の分類(◎・○・●印)を示して いる。

 表の見出しは、左から「書名」 「巻・頁」 「行」 「上接」 「【当該語】」 「下接」 「活用」

となっている。

 「【当該語】」には、「まいす」や「まいらす」 「まい(ら)す」の出現形を示す。

 また「上接」 「下接」は、「【当該語】」の前後の語を示す。

 「活用」には、「上接」 「下接」からわかる「【当該語】」の活用形を略示する。

6.調査結果

第 1 類【まいらす】 本動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まいらす】 下接 活用

南無御書(断簡一六四) 4-153 3 法花経に まいらせ んと 未 1- ③ 盂蘭盆御書 4-317 9 はんを まい “ ら ” せ たりしかは / 用 A- ① 千日尼御返事 5-015 -2 浄土へ まい ” ら ” せ 給て 用 A- ② 南条殿御返事 9-041 9 花を / も まいらせよ (。) 命 ● 1- ②

※以下は、活用形不明。(「まいらす程に」(連体形)と書こうとしたようにも見える。)

断簡九(対196) 5-118b 2 當 まいらす / 候し程に 不明 1- ①

(7)

第 1・2 類【まいらす】 補助動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まいらす】 下接 活用

法門可被申様之事 2-090 4 請 まい / らせ んと 未 B- ② 千日尼御前御返事 3-038 9 たのみ まいらせ 候て 用 2- ③ 神国王御書 3-105 -3 すかされ ” まいらせ ” たりける 用 ● A- ⑥ 四条金吾殿女房御返事 4-140 4 をもわれ ” まいらせ ” なは 用 A- ⑤ 高橋入道殿御返事 4-173 -4 をもひ まい / らせ 候へは 用 B- ⑥

盂蘭盆御書 4-326 8 信 まいらせ し 用 ● 2- ①

千日尼御返事 5-015 -3 たの ” み まいらせ ” 給て 用 ● A- ③ 上野尼御前御返事 5-029 2 よみきかせ / まいらせ 給 用 1- ④ 富城殿女房尼御前御書 5-030 -5 やしなわれ まいらせ て 用 ● B- ⑤ 桟敷女房御返事 5-043 2 近き まいらせ 候と 用 2- ② 諫暁八幡抄 9-101 1 かけ まい / らせ 給へきに 用 B- ④ 南条殿御返事 9-044 -1 よませ まい / らせ 給けり 用 ● B- ③ 法華証明抄 1-240 3 向 まい / らせ て 用 B- ① 撰時抄 1-114 3 み ” まいらすれ ” は 已 A- ④

第 3 類 【まい(ら)す】 本動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まい(ら)す】 下接 活用

富木殿御返事 2-126 9 これを まい(ら)せ させ給 未 3- ⑧ 法衣書 2-120 10 せんたん / まい(ら)せ 候 用 3- ① 弁殿御返事(弁殿尼御前御書) 2-122 oo とて まい(ら)せ て 用 3- ⑫ 春之祝御書 9-004 2 をもひて まい(ら)せ 候 用 3- ③

※ 以下は、活用形不明。(「まい(ら)せ」を書く際に「まい(ら)すへき」へと変更したものか。)

断簡二二四(対:禅門見参御書) 5-050 6 下手人 まい(ら)せ すへきの 不明 3- ②

(8)

第 3 類【まい(ら)す】 補助動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まい(ら)す】 下接 活用

法門可被申様之事 2-092 9 かへし まい(ら)せ ん事 未 3- ⑬ 御衣並単衣御書 2-115 10 法花経に まい(ら)せ させ 未 3- ⑩ 転重軽受法門 2-102 11 よみ まい(ら)せ て 用 ○ 3- ⑨ 兵衛志殿御返事 4-258 9 順 まい(ら)せ 候へき 用 ○ 3- ⑤ 兵衛志殿御返事 4-258 12 すて まい(ら)せ て 用 ○ 3- ⑥ 兵衛志殿御返事 4-264 4 御位につけ まい(ら)せ たりし 用 ○ 3- ⑦ 千日尼御返事 5-003 4 よみ まい(ら)せ 候へとも 用 ● 3- ⑪ 桟敷女房御返事 5-042 3 供養し ま/い(ら)せ 候に 用 3-④

第4類【まい~】 本動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まい~】 下接 活用

筍御書 4-230 3 二十本 まい~ 候 用 4-①

千日尼御返事 5-024 3 一 まい~ 候 用 4-②

第4類【まい~】 補助動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まい~】 下接 活用

兵衛志殿御返事 4-275 8 申上 まい~ 候 用 4-③

富城殿女房尼御前御書 5-031 3 いのり まい~ 候(へ) 用 ◎ 4-④

(9)

第5類【まいす】 ⅰ・ⅱ本動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まいす】 下接 活用

南無御書(断簡一六四) 4-153 1 布施 まいせ す 未 5ⅱ⑦ 上野殿母尼御前御返事 5-028 1 浄土へ まいせ させ給 未 5ⅰ⑦ 南無御書(断簡一六四) 4-153 5 法花経に まいせ て 用 5ⅱ③ 南無御書(断簡一六四) 4-153 -3 法花経に まいせ/ て 用 5ⅱ④ 南無御書(断簡一六四) 4-153 -1 法花経に まいせ/ て/ 用 5ⅱ⑤

兄弟抄 4-219 -2 御文を まいせ 候 用 5ⅱ⑥

兄弟抄 4-221c -1 志殿へ まいせ 候 用 5ⅰ⑧

是日尼御書 4-226 -4 かきて まいせ 候 用 ◎ 5ⅰ① 断簡二〇四

(対:止観等大事要文之事) 5-063 -1 聚集して まいせ 候し内 用 5ⅰ② 断簡一九三(対:189) 5-110 3 造て まいせ て 用 5ⅰ③ 断簡二七八(集成:新加54) 5-158b 3 人を まいせ 候はん 用 5ⅱ⑩

上野殿御返事 9-072 7 土を まいせ て 用 5ⅱ⑧

上野殿御返事 9-072 8 玉を まいせ て 用 5ⅱ⑨

莚三枚御書 9-141 -1 法花経に まいせ 給候ぬれは 用 ◎ 5ⅱ② 白米一俵御書(事理供養御書) 9-145 -3 佛に まいせ て 用 5ⅰ⑨ 白米一俵御書(事理供養御書) 9-147 6 経に まいせ 候か 用 5ⅱ① 白米一俵御書(事理供養御書) 9-147 -2 佛に まいせ 候か 用 5ⅰ⑩ 白米一俵御書(事理供養御書) 9-147 -1 佛に まいせ 候にて 用 5ⅰ⑪ 千日尼御前御返事 3-056 -1 打て まいせん 者には 体 ◎ 5ⅰ④ 断簡一九三(対:189) 5-110 1 へて まいせよ と候しかは 命 5ⅰ⑤ 断簡一九三(対:189) 5-110 5 つゝめて まいせよ と 命 5ⅰ⑥ 南条殿御返事 9-046 7 めしうと まいせよ と 命 ◎ 5ⅱ⑪

※※活用表に入れられなかった「まいす」

断簡九一(対:207) 5-126 4 くやうし まいせ □ 不明 ◎ 5ⅳ② 阿耆多王御書(集成:

新加53・断簡二七七) 5-156 1 (前欠) まいせ て候 用 5前書

(10)

第5類【まいす】 ⅲ・ⅳ・ⅴ・ⅵ補助動詞

書名 巻・頁 行 上接 【まいす】 下接 活用

法華証明抄 1-243 3 用 まいせ す候 未 5ⅵ⑪

法華行者値難事 2-191 oo 読聞 まいせ させ給 未 5ⅵ⑭ 妙一尼御前御消息 2-245 2 とひ まいせ ん 未 5ⅴ④ 国府尼御前御書 2-252 11 ま/いりあひ まいせ ん 未 ● 5ⅴ⑭ 兵衛志殿御返事 4-294 -2 よみ/ まいせ んと 未 ◎ 5ⅵ⑮ 窪尼御前御返事

(種種物御消息) 4-304 -4 たすけ まいせ させ給

ぬる 未 5ⅳ⑬

千日尼御返事 5-015 -1 み まいせ させ給へし 未 5ⅵ④ 断簡二二二(対:故阿

仏房讃歌御書) 5-122 6 み まいせ す候 未 5ⅵ⑥

南条殿御返事 9-019 8 と/ひ まいせ させ給し 未 5ⅴ⑤ 重須殿女房御返事

(十字御書) 9-087 -1 くやうし まいせ んと 未 ◎ 5ⅳ④

撰時抄 1-154 7 やり まいせ 候ぬ 用 5ⅵ⑫

撰時抄 1-172 3 持“ち” まいせ 候 用 5ⅵ⑩

法華証明抄 1-239 4 信 まいせ 候者 用 5ⅳ⑥

法華証明抄 1-242 5 信 まいせ 候へは 用 5ⅳ⑦

法華証明抄 1-242 10 悦 まいせ 候上 用 5ⅵ⑯

法華証明抄 1-242 12 あい まいせ て 用 5ⅲ①

法華証明抄 1-243 1 なし まいせ て 用 5ⅴ⑨

法華証明抄 1-245 9 信 まいせ 候ぬ 用 5ⅳ⑧

法華証明抄 1-245 -1 信 まいせ て 用 5ⅳ⑨

妙一尼御前御消息 2-241 2 問 まいせ しかは 用 5ⅴ③ 国府尼御前御書 2-252 4 み まいせ 候はねとも 用 ◎ 5ⅵ① 中務左衛門尉殿御返事 3-010 1 入かわり まいせ て 用 ◎ 5ⅲ⑦ 千日尼御前御返事 3-041 2 とりよせ まいせ て 用 5ⅴ⑧ 千日尼御前御返事 3-041 -1 開見 まいせ 候へは 用 ◎ 5ⅴ⑩ 千日尼御前御返事 3-043 4 見/ まいせ 候へは 用 ◎ 5ⅵ② 千日尼御前御返事 3-048 8 値 まいせ て候 用 ◎ 5ⅲ② 千日尼御前御返事 3-054 -1 せめ/ まいせ 候ゆへに 用 5ⅳ⑫ 千日尼御前御返事 3-059 1 をくり まいせ 候 用 ◎ 5ⅲ⑨ 神国王御書 3-083 7 ふませ まいせ て 用 ◎ 5ⅴ⑪

神国王御書 3-103 8 入 まいせ て 用 ◎ 5ⅲ⑥

(11)

慈覚大師事 3-174 3 さて/をき まいせ 候ぬ 用 5ⅳ⑤ 上野殿御返事 4-130 5 をも/ひ まいせ 候しに 用 5ⅲ⑪ 上野殿御返事 4-131 -3 廻向し まいせ 候 用 5ⅲ⑧ 四条金吾殿女房御返事 4-138a 1 信 まいせ 候人\/ 用 5ⅳ⑩ 四条金吾殿女房御返事 4-138a 2 と/み まいせ 候へは 用 5ⅴ⑦ 高橋入道殿御返事 4-168 -2 へたて/ まいせ 候へき 用 5ⅴ⑫ 四条金吾釈迦仏供養事 4-180 4 いそき まいせ 給へし 用 5ⅲ④ 兵衛志殿御返事 4-258 10 つき ま/いせ て 用 ○ 5ⅴ① 妙法尼御前御返事 4-276 3 となへ まいせ (、) 用 ◎ 5ⅴ⑥ 兵衛志殿御返事 4-285 1 □(く)やうし まいせ 候し 用 ◎ 5ⅳ① 兵衛志殿御返事 4-289 9 むかい ま/いせ 候ぬれは 用 ◎ 5ⅵ⑨ 四条金吾殿御返事

(陰徳陽報御書) 4-309 6 いのりなし まいせ 候へし 用 ◎ 5ⅲ⑤ 千日尼御返事 5-011 2 見 まいせ て候 用 ● 5ⅵ③ 富城殿女房尼御前御書 5-030 1 み まいせ 候はねは 用 ◎ 5ⅵ⑤ 富城殿女房尼御前御書 5-030 -3 をもひ まいせ 候 用 ◎ 5ⅲ⑫

十字御書 5-037 4 つみ まいせ 候ぬ 用 5ⅴ②

断簡一九八

(集成:新加43) 5-154a 2 み まいせ 給候へし 用 5ⅵ⑦ 阿耆多王御書(集成:

新加53・断簡二七七) 5-156 -1 供養し まいせ 候はさりし 用 5ⅳ③ 断簡二六五(対:343) 5-216d 2 ほうし まいせ 候へき 用 5ⅴ⑬

三三蔵祈雨事 9-005 5 たのみ まいせ し 用 5ⅳ⑭

三三蔵祈雨事 9-016 5 をとろかし ま/いせ 候 用 5ⅲ⑩ 南条殿御返事 9-019 -4 値 まいせ (、) 用 5ⅲ③ 減劫御書

(智恵亡国御書) 9-032 -2 よませ まいせ しなり 用 5ⅵ⑬ 南条殿御返事 9-050 -3 信 まいせ て 用 ◎ 5ⅳ⑪ 五人土籠御書 4-104 15 みみへ まいす へし 止 ◎ 5ⅵ⑧

7.先行研究との相違点

 前掲の一覧表からわかるように、「ら」の有無について、高橋氏とは異なる読み

方をした用例がある。ここでは、その3例を取り上げて、分類が異なる理由を説明

したい。

(12)

○3-⑨転重軽受法門 2-102 11 よみまい(ら)せて候けると

●3-⑪千日尼御返事 5-003 4 一句まい(ら)せ候へとん

 3-⑨は、○印の通り、高橋氏と私の意見の一致するものである。

 しかし、3-⑪は●印が示すように、高橋氏は「まいらす」と「明らかに「ら」

文字があるもの」としており、私の意見と異なる。

 私は、「い(ら)」の部分が3-⑨によく似た字形であると見て、3-⑪を第3類に 分類した。

●5ⅴ-⑭国府尼御前御書 2-252 11 ま/いりあひまいせん

 5ⅴ-⑭は、「い」と「せ」の間の連綿だけを見れば、第三類に入れるべきかと思 う。しかし、「まいらせん」と語の全体を見ると、比較的長い連綿が等間隔にある ことから、「い」と「せ」の間も連綿とみなすべきではないかと考えたため、第5 類に分類しておく。

 「まいらせん」の全体が縦に長く書かれているのは、文末までの空間が広く残っ ていたためであろう。

 小林正博氏は「日蓮真蹟の解読上の問題点

注4

」で以下のように述べておられる。

    真蹟の文字は、行末にまだスペースが残っていると終筆が長くなるという傾 向がある。

●5ⅵ-③千日尼御返事 5-011 2 日蓮は見まいせて候

(13)

 ◎5ⅵ-⑤富城殿女房尼御前御書5-0301 はるかに

みまいせ

候はねは

 5ⅵ-③の「まい」部分は、5ⅵ-⑤に大変よく似た字形である。5ⅵ-⑤を「ま いす」と見るならば、5ⅵ-③も当然「まいす」となる。

 高橋氏が「まいらす」と見た理由としては、「ま」が薄いために、「ま」の末筆を

「い」の2画目と見誤ったのではないかと推測される。

 また最後に、一覧表での◎印が22例しかなく、1例不足していることについて説 明をしておきたい。

 この不足した1例というのは、高橋氏の論文中から以下に引用するものである。

   人めをしのばせ給てまいり給たりけれども…

(大橋太郎御書,p.1173)

 大橋太郎御書は、御書システムの書名では「南条殿御返事」になる。

Ⅰ 南条殿御返事 9-044 4

    人めをしのはせ給て/まいり給たり けれとん

Ⅱ 南条殿御返事 9-044 3    御さんけいあり/けり

Ⅲ 南条殿御返事 9-044 1    /なかりけり

 該当箇所の画像Ⅰ「まいり」と、同じ頁の「り」の画像Ⅱ・Ⅲを上に掲げた。

 これらの「り」の字母は「里」である。確かに、Ⅱ・Ⅲの「り」に比べると

「里」字の7画目にあたる終筆の特徴が、Ⅰにはしっかりと現われてはいない。

そのため、「せ」にも似た字形に見える。

 しかし、「里」の上部の丸みは備えていることに加え、前文の「さんけい(参 詣)」という言葉からも、「まいり」と読むこともできるのである。

 このため、判断に迷うものではあるが、調査方法として御書システムで採用して

いること、疑わしきものは除外するという方針であることから、「まいり」として

用例から除くことにした。

(14)

8.おわりに

 髙橋氏は、「まいせ」 「まい(ら)せ」 「まいらせ」 「まいす」の38例を挙げて、24 例の「まいす」と読めるものを示している。本稿では、今回の調査によって得た全 115例の中から79例の「まいす」と読めるものを挙げた。

 最後に他の資料の用例についても触れておきたい。

まず、管見の限りにおいて、「まいす」という語に関する先行研究には以下のもの が挙げられる。

1.湯沢幸吉郎『室町時代の言語研究 抄物の語法』大岡山書店、1929年 2.春日政治「マイスルといふ語」 (九大国文学研究会『九大国文学』1、1931年)

3.名村美智子「“「まらする」とその周辺”のこと」

(奈良女子大『国文学会誌』1、1955年)

4.高橋一夫「日蓮上人遺文の「まいせ」について」

(『国立国語研究所論集1 ことばの研究』、1959年)

5.蜂谷清人「狂言「比丘貞」の用語二・三」

(東北大学文学部国語学研究刊行会『国語学研究』1、1962年)

6.山内洋一郎「田植草紙の語法二三―まいする・まんする・など―」

(『田唄研究7』、1965年)

7.宮地幸一『ます源流考』桜楓社、1980年 8.山内洋一郎『中世語論考』清文堂出版、1989年 9.坂詰力治『国語史の中世論攷』笠間書院、1999年

10.来田隆『抄物による室町時代語の研究』清文堂出版、2001年 11.辛島美絵『仮名文書の国語学的研究』清文堂出版、2003年

 以上の先行研究に挙げられている用例の他に、以下の2例がある。

〈力王丸田畠家財譲状 京都大学所蔵文書/『鎌倉遺文』12巻8635号67頁

弘長元(1261)年3月17日〉

  おとゝいの中よく、君御ミやつかい奉行、人々にくまれまいせてあるへし、

〈益田宗兼覚書 大日本古文書

永正12(1515)年12月24日〉

   裏打出仕之時、持候黒太刀、従伊勢右京亮方給候、麻生上総介ニまいせられ候

(15)

書状也、(略) (永正十二年十二月廿四日)

 それぞれ、「鎌倉遺文データベース」、東京大学史料編纂所「古文書フルテキスト データベース」を検索して得たものである。

 後者は同データベースに画像も載せられている。

 これらは、データベースに「ら脱」としてデータが入力されていたために見つけ ることができた。しかし、鎌倉遺文の用例を複数報告された辛島美絵氏が指摘され ているように、日蓮遺文を含めた多くの資料で、翻字の際に「ら」が補われている ことも多いように思われる。

    翻刻に際しても恣意的に処理されている可能性が高く、実際には「ら」が読 めなくても翻刻時に適宜補われていることもありそうである。逆に、実際は

「ら」があるのに判別しがたくて脱落形と処理する場合もありえるし、この時 代における「まいせ」形の使用実態は非常に掴みにくい。

(辛島美絵『仮名文書の国語学的研究』p.237)

 今後の課題としては、同時代の資料の写真版に「まいらす」や「まいす」の表記 がどのように見られるのか、より多く写真版資料を調べる必要があると考える。

 注

注1 湯沢幸吉郎『室町時代の言語研究 抄物の語法』大岡山書店、一九二九年 注2 春日政治「マイスルといふ語」(九大国文学研究会『九大国文学』1、一九三一年)

注3 「御書システム」は、日本語データベースソフト「桐」の上で動くフリーソフトである。

注4 小林正博「日蓮真蹟の解読上の問題点」(『印度学佛教学研究』56(1)、二〇〇七年)

(かわにし みずえ 2009年修士課程修了)

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