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Ⅳ. 課題別実施成果 9

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-① 事 業 実 施 期 間 平成 24 年度 中 課 題 名 ゲノム情報等を活用した DNA マーカーの探索 小 課 題 名 ゲノム情報を活用したマイクロサテライト DNA マーカーの大量開発 主 担 当 者 東京海洋大学・坂本 崇 分 担 者 水産総合研究センター・菅谷 琢磨, 斉藤 憲治,關野正志 1. 課題目標(期間全体) 本課題においては、クロマグロの全ゲノム解析データベースを活用したマイクロサテライト (MS)マーカーの開発を行い、その中で、クロマグロ親魚及び人工種苗での親子鑑定が可能 な MS マーカーを選抜するとともに、MS マーカーが 200 座配置された連鎖地図を作成するこ とを目標とする。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:MS 領域の多型性を解析し、連鎖地図作成のための遺伝マーカーを準備することを目的 とする。また、まぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)等で生産されたクロマグロ(多親魚交 配群)において、親子鑑定が可能な MS マーカーを用いて、連鎖地図作成に用いるための家系 を選抜することを目的とする。 方法:平成 23 年度に探索された MS 領域に設計した PCR プライマーを用いて、複数個体の クロマグロゲノム DNA を鋳型に PCR を行い、PCR 産物を電気泳動法により DNA 多型性を 解析し、遺伝マーカーを開発する。また、平成 23 年度に開発された親子鑑定が可能な MS マ ーカーなどを用いて、まぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)等で生産されたクロマグロ(多 親魚交配群)を DNA 多型性解析により親子鑑定し、1 対 1 交配家系で 50-100 尾のサンプル を確保できる連鎖地図作成用解析家系の探索を開始する。個体間の遺伝子解析に有効な MS マーカーの開発は、東京海洋大学が中心的に行い、まぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)等 のクロマグロ親魚の親子鑑定は水産総合研究センターが中心的に行う。 期待される成果:クロマグロの全ゲノム解析データベースのゲノム情報から、他魚種間とシン テニー領域が多いスキャフォルドに存在する MS マーカーの開発を行うことができる。また、 まぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)のクロマグロ親魚の親子鑑定により、1 対 1 交配家系 で 50-100 尾のサンプルを確保できる連鎖地図作成用解析家系を選択することができる。 (2) 24 年度成果概要 ・ 平成 23 年度に探索されたマイクロサテライト領域に設計した PCR プライマーを用いて、 複数個体のクロマグロゲノム DNA を鋳型に PCR を行い、PCR 産物を電気泳動法により DNA 多型性を解析し、新規に 226 個の MS マーカーを開発した。昨年度に開発した 105 個の MS マーカーと合わせ、合計 331 個の MS マーカーが開発できた。 ・ まぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)等で生産されたクロマグロ(多親魚交配群)を親 子鑑定した。全長 10mm 程度(日齢 18-19)のサンプルから DNA を抽出し、平成 23 年度 に開発された親子鑑定が可能な MS マーカーやミトコンドリア DNA 配列などを用いて解 析した。1 ロット目は、2004 年級の親魚群に由来し、小型(500l)水槽で飼育された個体群 であり、888 尾中 320 尾を用いて解析し、同父母に由来する子集団(同胞)108 尾を選別

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することが出来た。2 ロット目は、2006 年級の親魚群に由来し、量産飼育(3R-4)された個 体群であり、500 尾を用いて解析し、同胞 202 尾を選別することが出来た。2 ロット目に ついては、サンプリングされていた親魚候補サンプルの中から、対応する親魚が明らかと なった。 ・ 1 対 1 交配家系(同胞)で 100 尾以上のサンプルが確保できた 2 家系を準備することが出 来、連鎖地図作成用解析家系を選択することができた。 0.015 0.010 0.005 0.000

 整列化した

配列

から、分子系統樹を作成(MEGA

5ソフトウェアを使用)。

   MSマーカー14座による解析から    同胞と推定された個体を赤印■で示した。   推定同胞108個体 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 a b

MSマーカーによる推定同胞集団のmtDNAタイプは共通。

同一雌親に由来する

可能性が高い。

※UPGMA法を用いた。 図 クロマグロ多親魚交配群における同胞個体の推定(mtDNA 配列) 表 同胞個体判別結果のまとめ mtDNA マーカー 座数 解析個体数 (個体) 解析個体数 (個体) 海洋大 19日齢 14 320 320 108 なし 中央水研 18日齢 11 500 96 202 (雄親P6_156,あり   雌親P6_211) 幼魚 サンプル 解析 担当機関 親魚 サンプル 推定同胞 個体数 (個体) 解析状況 MSマーカー 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 内野翼・福田姫子・菅谷琢磨・中村洋治・安池元重・坂本崇. クロマグロ全ゲノム情報を用い たマイクロサテライトマーカーの開発,平成 24 年度日本水産学会秋季大会 3R-4 (18 日齢) 小型水槽群 (19 日齢)

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-② 事 業 実 施 期 間 平成 24 年度 中 課 題 名 ゲノム情報等を活用した DNA マーカーの探索 小 課 題 名 次世代シーケンサーを用いたクロマグロの成熟及び生体防御関連遺伝子の探索 主 担 当 者 水産総合研究センター・清水昭男 分 担 者 水産総合研究センター・馬久地 みゆき, 尾島 信彦, 安池 元重, 菅谷 琢磨, 藤原 篤志, 中村 洋路, 玄 浩一郎, 二階堂 英城, 久門 一紀,西 明文, 田中 庸介,江場 岳史, 樋口 健太郎, 塩澤 聡, 岡 雅一, 高志 利宣, 風藤 行紀 東京海洋大学・廣野 育生, 近藤 秀裕 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野 孝, 伊藤 暁, 神村 祐司, 小野寺 純 1. 課題目標(期間全体) 次世代シーケンサーを用いてクロマグロの成熟および生体防御関連組織における発現遺伝 子の網羅的な解析を行い、発現遺伝子情報を整備し、カタログ化を行う。この情報を基に DNA マイクロアレイを開発し、成熟度の異なる個体間および病原微生物への感受性の異なる個体間 での遺伝子発現パターン比較を行い、成熟および生体防御関連遺伝子を同定する。さらに、成 熟においては成熟度をより詳細かつ適切に把握するための成熟関連遺伝子マーカーを探索す るとともに、生体防御においては耐病性に関連する DNA マーカーを探索する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:平成 23 年度までに取得した遺伝子発現情報をもとに、成熟および生体防御関連遺伝子 の網羅的な発現動態が解析可能な DNA マイクロアレイを開発する。また、クロマグロ仔稚魚 の発生段階における生体防御関連遺伝子の発現動態を網羅的に解析する。 方法:水産総合研究センター及び東京海洋大学において、平成 23 年度に新たに蓄積された cDNA 配列を加え、遺伝子発現情報を整備し、カタログ化した後、完成版の DNA マイクロア レイを設計する。成熟関連遺伝子の発現解析では、様々な成熟状態のクロマグロについて、卵 巣、脳下垂体等サンプルを採取し、マイクロアレイ解析を行う。仔稚魚期における網羅的な生 体防御関連遺伝子の発現解析では、今年度も平成 23 年度と同様のサンプリングを行い、発生 段階における生体防御関連遺伝子群の詳細な発現プロファイリングを、マイクロアレイを用い て実施する。解析は平成 23 年度の成果を基に孵化後 25 日前後を重点的に実施する。さらに、 獲得免疫系に関連する遺伝子についてはリアルタイム PCR や in situ ハイブリダイゼーション により詳細に検討する。さらに、水産総合研究センター、マルハニチロ水産、および奄美養魚 では、引き続き天然由来の親魚群の成熟調査を行い、人工養成親魚の育成のため人工種苗を生 産し、継続飼育する。 期待される成果:クロマグロ DNA マイクロアレイを開発することで、成熟および生体防御関 連遺伝子の網羅的な発現動態の解析が可能になる。稚仔魚のどの発生ステージで獲得免疫が構 築されるかについて生体防御関連遺伝子の発現プロファイリングを行うことで明らかになる。 (2) 24 年度成果概要 ・肝臓および嗅球・終脳のカタログ化 肝臓では次世代シーケンサーによる解析の結果 170,772,232 bp、368,762 リードのデータを 得た。アセンブルした結果 3,442 遺伝子を得た。うち既知配列は 77%、未知配列は 22%で

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あった。また、脳前半部では、次世代シーケンサーによる解析の結果 95,016,157 bp、320,952 リードのデータを得た。アセンブルした結果 4,269 遺伝子を得た。うち既知配列は 55%、未 知配列は 45%であった。これらと昨年度までの遺伝子情報をあわせ、成熟関連組織での発 現遺伝子のカタログ化はほぼ完了した。 ・視床下部・下垂体の発現解析 11 月、1 月、4 月、5 月、7 月上旬、7 月下旬にクロマグロ 6 歳、8 歳メスの視床下部およ び脳下垂体をサンプリングし、RNA 抽出し次世代シーケンサーを用いて発現解析を行った。 視床下部および下垂体で発現している遺伝子はそれぞれ 7,382 個、4,832 個であった。そ のうち視床下部では約 6%の遺伝子が、下垂体では約 3%の遺伝子が常に高い発現量を示し ていたが、その他は発現量が低いあるいは発現量に季節変動性がある遺伝子であった。 ・生体防御 本年度は、クロマグロ稚仔魚における獲得免疫の成立時期を明らかとするため、孵化後 10 日目から 25 日目までのサンプリングを行い、種々の免疫関連遺伝子の発現動態をリアル タイム PCR 法により解析した。種々の獲得免疫関連遺伝子の発現を解析したところ、マイ クロアレイで 25 日目に顕著な発現が確認された RAG1 遺伝子は孵化後 15 日目付近より発 現量が顕著に増加しはじめることが示された。一方、その他の連遺伝子のうちいくつかのも のについても、孵化後の日数と遺伝子発現量の変化に相関が見られた。

① 発現解析(視床下部)

未成熟 成熟 11月 1月 4月 5月 7月 GSI 0.9 0.85 0.99 1.04 1.22 1.55 11 1 4 5 77(月) Ependymin1 precursor Cytochrome oxidase subunit i 14 kDa apolipoprotein proMCH1 precursor Tributyltin binding protein1 Coatomer zeta Coatomer 2 Opioid growth factor receptor FSHR Hormone sensitive lipase LHR Seabream type GnRH GABA receptor associated 1 VgR 1‐1485 VgR 1‐1207 CYP19 aromatase Dio3 developmental process cellular component organaization

cellular proliferation locomotionmulticellular organismal process cellular component biogenesis Rhythmic process adhesion multi‐organisms process localization metabolic process signaling reproduction cellular process response to stimulus biological regulation Immune system process growthdeath viral reproduction 11 1 4 5 77下 Estrogen related receptor  Coatomer  Leptin receptor related protein 3. 今後の問題点等 特に無し 4. 成果の公表

Miyuki Mekuchi, Motoshige Yasuike, Nobuhiko Ojima, Takuma Sugaya, Koichiro Gen, Hideki Nikaido, Akio Shimizu, Motohiko Sano. Global Gene Expression Profiling in the Hypothalamus and the Pituitary of the Pacific Bluefin Tuna using Next-generation Sequencing. Internatinal Plant &Animal Genome XXI P-500

Motoshige Yasuike, Goshi Kato, Yoji Nakamura,Atushi Fujiwara, Kazunori Kumon, Hideki Nikaido, Hidehiro Kondo, Ikuo Hirono, Motohiko Sano. Immune-Related Gene Expression Profiling of Pacific Bluefin Tuna During Early Development. Internatinal Plant &Animal Genome XXI P-499

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-③ 事 業 実 施 期 間 平成 24 年度 中 課 題 名 ゲノム情報を活用した DNA マーカーの開発 小 課 題 名 稚魚期生残に影響を及ぼす生理学的・栄養学的関連遺伝子の探索 主 担 当 者 福山大学・伏見 浩 分 担 者 甲子園大学・川合 眞一郎 鹿児島大学・小谷 知也, 越塩 俊介, 石川 学, 横山 佐一郎 東京海洋大学・佐藤 秀一, 有元 貴文, 芳賀 穣 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野 孝, 伊藤 暁, 小野寺 純, 神村 祐司 水産総合研究センター・馬久地 みゆき, 尾島 信彦, 安池 元重, 菅谷 琢磨 1. 課題目標(期間全体) 仔稚魚期のクロマグロ人工種苗について、次世代型シーケンサーによる成長ステージ別の 網羅的遺伝子発現解析を行うことによって発現する遺伝子をカタログ化し、DNA、マイクロ アレイを完成する。さらに、仔稚魚期の高生残を達成する栄養条件と生残、体形成、生理活 性および行動との関連性を把握するための試験手法を完成させる。この手法に基づき生産し た仔稚魚を用いて飼育試験での個体別発現遺伝子解析を行い、仔稚魚期の高生残マーカーを 開発する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:仔稚魚期の栄養条件と生残、体形成、生理活性および行動との関連性を把握するため の飼育試験手法の確立を図る。仔稚魚期の個体別の発現遺伝子解析手法の検討を行う。 方法:次世代型シーケンサーを用いて種苗生産試験から得られる発育ステージ別のサンプル に対し網羅的な遺伝子発現解析を行い、仔稚魚期の個体別の発現遺伝子解析手法の検討を行 う。(水研センター)。生物餌料摂餌期およびそれ以降の栄養条件が生残、体形成、生理活性、 および行動に及ぼす影響を把握するための飼育試験方法の精度を向上させ(福山大、海洋大、 鹿児島大、甲子園大)、得られたサンプルを用いて個体別遺伝子解析手法の開発をおこなう(水 研センター)。 期待される成果:クロマグロ人工種苗の仔稚魚期における発現遺伝子の分析が可能になり、 有用形質関連遺伝子の探索に取り組むことが可能になる。生物餌料摂餌期およびそれ以降の 栄養条件、特に n-3HUFA とタウリンが生残、体形成、生理活性、および行動に及ぼす影響を 把握するための飼育試験が行われ、得られた試料の解析が行なわれる。 (2) 24 年度成果概要 クロマグロの人工種苗の形態について検討した結果、梁軟骨が出現する 2 日齢には脊索 前端部の上湾と先端部の下行が多くの個体に認められた。脊索前端部は基後頭骨に分化し、 全長 12mm では骨化が完了する。この時には、いわゆる頭部陥没と副蝶形骨の変形が生じて いる。沖出し稚魚にはこれらの変形に関連して第 1 椎体の台形変形と上湾を伴う第 5 椎体ま での異常が認められた。また、ふ化後 27 日の非健常個体は健常個体に比べて明らかにトリプ シン等の活性が低かった。加えて、クロマグロふ化仔魚飼育に用いた生物餌料、ミンチ、MP、 配合飼料の栄養分析を行った。10 日齢頃に認められてきたタウリン含量の低下はワムシの栄 養強化によって克服され、この時期の死亡原因はタウリン欠乏以外のものと考えられた。こ れらのことから、クロマグロの初期の生残には骨形成異常の関連が強く疑われ、今後骨形成

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等の初期の形質と個体の遺伝情報との関連性を検討するため、日齢 8~10 における仔魚での DNA 抽出法と骨形成異常の分析方法について検討した。また、クロマグロの全遺伝子情報が 搭載されたマイクロアレイを用い、発育ステージ別の網羅的な発現遺伝子解析を行った。一 方、孵化から 10 日齢までに給餌するワムシの DHA 含量を調節することが可能になった。ま た、全長 19.5mm のクロマグロ(孵化後 21 日目)に配合飼料を給餌したところ、孵化後 35 日目には全長 56mm に達し、沖だしサイズ付近まで配合飼料で育てることが可能であること が示唆され、飼育実験手法が改善された。さらに、遊泳能力の評価手法の検討のため、成長 に伴う尾鰭振動数と魚体長倍速度の関係を求めた。回流水槽内で強制遊泳を行わせ,流速段 階に対応した遊泳持続時間を調べた。全長 2-5 ㎝では流速 12.8cm 以下で持続的な遊泳が可能 であり,51.4cm 以上の流速では持続時間は 15 秒以下となることを明らかにした。 3. 今後の問題点等 これまで、小型水槽での飼育実験を指向してきたが、生残率の低さから十分量のサンプル を確保できない。大型水槽を用いた飼育実験を可能にする必要がある。 4. 成果の公表 井手伸一郎・笹岡美紀・佐藤秀一・芳賀穣・神村祐司・斉藤 誠・赤澤淳司・川本智彦・鎮 原正治・古西健二・小野寺 純・伏見 浩・伊藤 暁・草野 孝. クロマグロ仔稚魚の 体組成に及ぼすタウリン・DHA 強化生物餌料の影響.平成 25 年日本水産学会春季大会 牛草健人・山田真之・芳賀穣・田中庸介・久門一紀・塩澤聡・佐藤秀一.クロマグロ仔稚 魚の飼育成績に及ぼす市販飼料および非加熱カツオ魚粉飼料の影響.平成 25 年日本水 産学会春季大会 川合真一郎・黒川優子・松岡須美子・藤井あや・森本加奈・張野宏也・伏見浩・神村祐司・ 斎藤 誠・川本智彦・鎮原正治・赤澤敦司・古西健二・小野寺 純・伊藤 暁・草野 孝.クロマグロの仔稚魚期および沖出し後の若魚における消化酵素活性の変化. 平成 25 年日本水産学会春季大会 有元貴文・Mochammad Riyanto・神村祐司・斎藤 誠・赤澤敦司・佐藤哲哉・川本智彦・古西健 二・小野寺 純・伏見 浩.クロマグロ人工種苗の遊泳特性と稚魚の遊泳持続時間.平成 25 年日本水産学会春季大会

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-④ 事 業 実 施 期 間 平成24 年度 中 課 題 名 ゲノム情報等を活用した DNA マーカーの開発 小 課 題 名 近縁モデル魚種を用いた早期成熟関連遺伝子の探索 主 担 当 者 水産総合研究センター・奥澤公一 分 担 者 水産総合研究センター・濱田 和久, 風藤 行紀, 山口 寿哉, 高志 利宣, 馬久地 みゆき, 安池 元重, 藤原 篤志, 尾島 信彦, 清水 昭男, 中村 洋路, 菅谷 琢磨, 玄 浩一郎, 二階堂 英城, 岡 雅一 九州大学・松山 倫也 長崎大学・征矢野 清 1. 課題目標(期間全体) クロマグロに近縁で、より精密な成熟コントロールが可能となっている魚種であるカンパチお よびマサバを材料として、次世代シーケンサー等を用いて脳下垂体、生殖腺などの各組織で発 現する遺伝子の解析を行い、早期成熟個体と通常個体との間で発現パターンが異なる遺伝子を 探索する。次に、クロマグロゲノムデータベースにおいてバイオインフォマティクス分析を行 い、近縁魚種で検出された遺伝子と相同な成熟関連候補遺伝子を探索する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:クロマグロに近縁であるカンパチおよびマサバの早期成熟に関係する遺伝子を明らかに するための基盤整備として、脳、脳下垂体、生殖腺など性成熟に関係する組織で発現している 遺伝子をなるべく多数収集し、その塩基配列を明らかにするとともに他の生物ですでに知られ ている遺伝子については、遺伝子の特徴や機能を明らかにして一覧票としてカタログ化する。 また、性成熟に重要な働きをする生殖腺刺激ホルモン(GTH、FSH と LH の2種が存在)遺伝 子など既知成熟関連遺伝子のマサバおよびカンパチの性成熟に伴う発現動態を解明し、早期成 熟に関係する遺伝子を探索するための指標とする。 方法:23 年度に作成したカンパチおよびマサバ各組織における発現遺伝子のカタログをさら に充実させるため、昨年度実施していない組織や昨年度は使用しなかった成熟段階の組織か らcDNA ライブラリーを作製し、次世代シークエンサーで塩基配列を得る。得られた塩基配 列を解析して組織別にカタログ化し、昨年度のカタログと統合し詳細版カタログを完成させ る。このカタログ化は水産総合研究センターが実施する。また、23 年度に採取した組織試料 および24 年度に引き続き採取する予定の様々な成熟状態の魚の組織サンプルを用いて、23 年度にクローニングしたGTH 遺伝子などの発現を定量 PCR 法などにより調べる。新規のクロ ーニングやカタログ化により新たに重要と思われる遺伝子が見つかった場合には、その遺伝 子の発現動態解析に着手する。既知成熟関連遺伝子の発現解析は、カンパチは長崎大学およ び水産総合研究センター、マサバは九州大学が実施する。また、水産総合研究センターにお いてカンパチの環境操作による成熟誘導試験を開始する。 期待される成果:カンパチおよびマサバにおいて早期成熟に関連する未知の遺伝子探索の基盤 となる各組織の発現遺伝子カタログが得られる。また、早期成熟関連遺伝子探索の指標となる GTH などの既知遺伝子の成熟にともなう遺伝子発現が明らかになる。 (2) 24 年度成果概要 カンパチの発現遺伝子カタログ化:水研センターにおいて飼育した未熟および成熟カンパチ

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(4 歳魚、雌)卵巣の cDNA ライブラリーを作製し、次世代シーケンサーを用いて解析したと ころ29,372 個の遺伝子を得た。このうち 47%の遺伝子が既知遺伝子との類似性が低かった。 一方、53%については遺伝子についての情報が得られた。取得した配列情報をもとにカンパチ 卵巣発現遺伝子をスポットしたマイクロアレイを設計した。 マサバマイクロアレイの開発:次世代シーケンサーを用いたマサバ脳および脳下垂体発現遺 伝子のカタログ化より得られた配列をもとに約4万個のプローブを設計した。さらに既知のマ サバ生殖関連遺伝子および内部標準遺伝子より設計したプローブをNon-control プローブとし て繰返し配置したマサバマイクロアレイを開発した。 マサバの初回成熟過程に伴うGTH サブユニット遺伝子の発現解析:5 月の孵化後から翌年 7 月にかけて,受精卵から飼育したマサバを月 2 回、15~20 尾ずつ採集した。生殖腺の組織切 片標本を作製し生殖腺の発達過程を顕微鏡観察した。また、定量PCR により脳下垂体で発現 しているFSH および LH の β サブユニット遺伝子の発現量(mRNA 量)を定量した。孵化後 192 日には卵黄蓄積を開始した雌個体および精子をもつ雄個体が出現した。孵化後 300~400 日には、卵黄形成を完了した雌個体および排精期にある雄個体が得られた。雌のFSHβ mRNA 量は卵黄形成の開始から徐々に増加し、卵黄形成完了後に最も高い値を示した。一方、LHβ mRNA 量は卵黄形成の完了した個体でのみ有意に増加した。雄では、FSHβ および LHβ mRNA 量は排精期の個体において有意に増加した。 カンパチの成熟過程に伴うGTH サブユニット遺伝子の発現解析:水産総合研究センター増 養殖研究所古満目庁舎の海上網生け簀において自然条件で飼育しているカンパチ(3 歳および 4 歳)を 2011 年 7,9、11、12 月および 2012 年 1、3、4、6、8 月にサンプリングし、生殖腺 の組織学的観察、血中性ステロイドホルモン(雌はエストラジオール-17β;E2、雄は 11-ケト テストステロン;11-KT)濃度の測定を実施した。また、定量 PCR によりカンパチ脳下垂体 で発現しているFSHβ および LHβ mRNA 量を定量した。雌では1月から卵巣中の卵濾胞の発 達、血中E2濃度の上昇が認められたが、脳下垂体中のFSHβ および LHβ mRNA 量の増加が見 られたのは3月からであった。雄では1月から血中11-KT 濃度の上昇が見られたが、FSHβ お よび LHβ mRNA 量の上昇は4月からであった。このようにカンパチでは脳下垂体での GTH サブユニット遺伝子の発現上昇は生殖腺の発達で確認される成熟開始より遅れることが明ら かになった。 カンパチの環境操作による成熟誘導試験:自然条件で飼育していたカンパチ4歳魚に対し、 10 月下旬から長日(18L6D)下で 92 日間飼育したところ、雌個体の約 70%が卵黄形成を完了 した。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 特になし

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-①-1 事 業 実 施 期 間 平成 24 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための DNA マーカーの開発 小 課 題 名 種苗期の高生残 DNA マーカーの開発 主 担 当 者 水産総合研究センター・菅谷 琢磨 分 担 者 水産総合研究センター・久門 一紀, 田中 庸介, 西 明文, 江場 岳史, 樋口 健太郎, 二階堂 英城, 塩澤 聡, 高志 利宣, 岡 雅一, 関野 正志, 斉藤 憲治 1. 課題目標(期間全体) 人工種苗生産過程において、経時的な生残の調査および1-①で開発した DNA マーカーを用 いた家系解析を実施し、生残とマーカーとの関連性を分析することによって有効なマーカーを 探索する。F1 自然交配による F2 種苗生産過程でも同様な調査を実施し、より詳細な分析を行 い、マーカーを選別する。また、受精卵での親子判別によって親魚の産卵及び交配様式を把握 し、産卵成績が異なる個体群間で出現頻度が異なるマーカーを選別する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:本課題においては、高生残家系を探索するための家系毎の生残率の情報を蓄積するため、 クロマグロ人工種苗の量産飼育水槽において、孵化後、ワムシ給餌期および取りあげ時等の時 期別の家系組成を把握するとともに、より多くの飼育事例について家系判別用 DNA サンプル を入手することを目的とする。また、3 歳から 7 歳親魚の産卵生態を把握し、得られた受精 卵から親子判別に必要な DNA サンプルを入手する。 方法:平成 23 年度と同様に、天然親魚から得られた受精卵を用いて人工種苗の量産飼育を行 い、卵、孵化仔魚、仔稚魚を採集し、DNA の抽出を行う。また、平成 23 年度に入手したサ ンプルについて、既存の 5 つのマイクロサテライト DNA マーカーとミトコンドリア DNA マ ーカーでの分析を行い、受精卵、孵化直後、ワムシ給餌期および取りあげ時等の時期別の家系 組成を把握する。また、マイクロサテライト DNA マーカーについては、課題 1-①で探索した 新規のマーカー候補を用いた分析を行い、家系分析の精度が向上するかどうか検討する。加え て、水産総合研究センターの親魚群について目視観察およびビデオ撮影によって産卵時刻、産 卵行動数等を観察し、産卵日毎の産卵状況を記録するとともに、受精卵の卵径、ふ化率及び孵 化仔魚の無給餌生残指数等を測定することによって親魚群毎の産卵特性を把握する。 期待される成果:クロマグロ種苗の量産飼育における高生残家系の探索に必要な、家系組成情 報が入手されるとともに、新たな飼育事例の DNA サンプルが入手でき、より広範に分析を行 うことができる。また、親魚群毎の産卵成績を把握することにより、産卵成績の良好な親魚候 補を識別することができる。 (2) 24 年度成果概要 ミトコンドリア(mt)DNA 調節領域の塩基配列多型と、課題 1-①で開発された 11 個の家系判 別用のマイクロサテライト DNA マーカーを用い、平成 23 年度に西海区水研奄美庁舎で実施 された 2 つの種苗生産事例について日齢別の家系組成を分析した。その結果、2 つの生産事例 を通じて 4 種類の mtDNA ハプロタイプが検出され、各事例で 8 及び 13 の家系が認められた。 このことから、両事例には 4 尾の雌親が関与しており、一回の産卵には複数の雄親が関与して いるものと考えられた。ただし、家系の決定は、これまでに DNA サンプルが得られている親

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魚との親子判定か、または人工種苗の個体間の mtDNA ハプロタイプとマイクロサテライト DNA のアリルの分布に基づいて行った。また、家系毎に親のアリル型を推定した結果、各ハ プロタイプはそれぞれ特定の 1 尾の雌親に該当するものと考えられ、実際に、ハプロタイプ#1 と#3 に特徴的なアリル型はそれぞれ雌親 P6_433F 及び P6_211F と同一であった。次に、日齢 別にハプロタイプ分布を算出した結果、いずれの事例においても、日齢 1 から 18 にかけてハ プロタイプ#1 及び#2 の頻度が減少し、#3 が優占していた。このことから、量産飼育水槽にお ける種苗の初期の生残に雌親が影響している可能性が考えられた。さらに、日齢別に家系間の 全長を比較した結果、3R-4 の日齢 38 を除く全ての場合で有意差が見られ、遺伝的要因が種苗 の成長に関わっていることが示された(図 2)。また、平成 24 年度の生産群について 1~2 日お きにサンプリングを行い、次年度以降のより詳細な家系組成の分析に向け、合計約 1.2 万尾の サンプルを入手した。 図 1 クロマグロ種苗の量産事例での日齢別の mtDNA のハプロタイプ組成 図 2 クロマグロ種苗の量産事例での家系及び日齢別の全長. *家系間に有意差あり(AMOVA, P<0.05); a, b, c: 異なる記号間に有意差あり(Tukey の HSD 検定, P<0.05) 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 特になし

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-①-2 事 業 実 施 期 間 平成 24 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための DNA マーカーの開発 小 課 題 名 種苗期の高生残 DNA マーカーの開発 主 担 当 者 福山大学・伏見 浩 分 担 者 水産総合研究センター・菅谷琢磨, 斉藤憲治 甲子園大学・川合眞一郎 鹿児島大学・越塩俊介, 石川 学, 小谷知也, 横山佐一郎 東京海洋大学・佐藤秀一, 芳賀 穣, 有元貴文 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野 孝, 伊藤 暁, 小野寺 純, 神村祐司 1. 課題目標(期間全体) クロマグロ人工種苗について量産飼育水槽中および沖だし後の海面生け簀中の家系判別を 行い、高生残家系の探索を行う。また、沖だし後の稚魚の栄養条件と、生残、体形成、生理 活性および行動との関連性を検討し、高生残家系を探索する。これらを通じて親魚選抜のた めの高生残家系に関する DNA マーカーを開発する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:種苗の量産過程と沖だし後の育成に及ぼす家系の影響を判別する DNA マーカーを開発 する。また、沖だし後の栄養条件が生残、体形成、生理活性および行動に及ぼす影響を把握す る方法とそれと家系との関連に関する DNA マーカーを開発する。 方法:沖だし後の種苗を経時的にサンプリングし(マルハニチロ水産・奄美養魚)、家系組成 の変化を追跡する(水研センター)。また、栄養条件を変えて沖だし後の飼育を行い(マルハ ニチロ水産・奄美養魚)、飼育成績、体形成、生理活性および行動を観察する(マルハニチロ 水産・奄美養魚・海洋大・鹿児島大・甲子園大・福山大)とともにサンプリングを行い、家系 の把握を行う(水研センター)。 期待される成果:種苗の量産過程と沖出し後の育成に及ぼす家系の影響を判別する手法を開発 する。また、前年度の結果に基づき、沖出し後の栄養条件が生残、体形成、生理活性および行 動に及ぼす影響を把握する方法の確立を図り、その結果と家系との関連を検討する手法を開発 する。 (2) 24 年度成果概要 沖出し後の種苗を経時的にサンプリングし、形態的特徴、消化酵素活性、飼料の栄養組成と 体成分、遊泳能力などを調べた。課題 1-③の量産水槽での調査結果と同様、副蝶形骨と基後 頭骨および第 1 椎体の台形変形並びに第 1-5 椎体の変形を伴う脊椎の上湾は成長とともに出 現の度合いが低下していた。また、沖出し後約 1 か月の若魚(ふ化後約 60 日)の肝臓のトリプ シン活性は一般に非常に低いが、非健常魚において異常に高い活性を示す個体があり、肝機能 に何らかの異常が生じている可能性が示唆された。さらに、消化酵素活性を調べた個体の骨格 を軟 X 線撮影およびデジタル X 線撮影して解析した結果、健常個体では副蝶形骨、基後頭骨、 第 1 椎体、および脊椎の上湾はほぼ正常であった。加えて、天然ヨコワの中軸骨格系には変異 が認められず、副蝶形骨、基後頭骨、および脊柱がほぼ一直線上に並んでいた。しかし、沖出 し時に多くの個体に認められた中軸骨格系の異常は日齢が高くなるとその程度は低くなった。

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腹椎前部の椎体異常は運動神経系への悪影響が疑われ、沖出し稚魚の生残に影響すると考えら れる。 一方、クロマグロ沖出し後の稚魚(日齢 45、58 および 76)全魚体の平均総脂質含量はそれ ぞれ 8.8、8.4 および 8.4%(乾重量)を示し、年齢の違いによる体脂質量に違いはなかった。 また、これらの稚魚に餌料として与えられる冷凍サバ魚体の総脂質含量は 9.5%(乾重量)で あった。総脂質を構成する脂質クラスでは中性脂質(NL)よりも極性脂質(PL)が高い含量 を示し、NL/PL 比は日齢 45、58 および 76 でそれぞれ 0.78、0.73 および 0.78、また、冷凍サ バでは 0.84 であった。NL 画分中の脂肪酸メチルエステル(FAME)に対する EPA の割合は日 齢 45、58、76 および冷凍サバで 3.33、2.62、2.48 および 4.17%を示し、DHA は 2.16、3.18、 2.72 および 4.85%であった。一方、PL 画分中の FAME に対する EPA の割合は日齢 45、58、 76 および冷凍サバで 7.89、5.70、6.35 および 6.81%を示し、DHA は 8.60、7.30、8.93 および 9.84%であった。 さらに、沖出し後の種苗の行動を評価するため、電気刺激を与えた時の筋肉の収縮時間を測 定し,尾鰭振動の最大能力を推定した。また,飼育水槽内で孵化後 50 日目,沖出し後の海面 生簀で 3 カ月後の種苗について水中ビデオ撮影によって遊泳特性を把握し,尾鰭振動数と魚体 長倍速度の関係を求めた。全長 5cm の稚魚の最大の突進速度は 1.27m/s,20cm のそれは 3.34m/s であった。水流に対する定位姿勢に特異な Head down を示す個体が出現した。特異な定位姿 勢と中軸骨格系の異常とに関連性があるか否かについて検討する必要がある。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 有元貴文・Mochammad Riyanto・神村祐司・斎藤 誠・赤澤敦司・佐藤哲哉・川本智彦・古西健 二・小野寺 純・伏見 浩. クロマグロ人工種苗の成長に伴う最大遊泳速度の推定.平 成 25 年度日本水産学会春季大会

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-② 事業実施期間 平成 24 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための有用形質関連 DNA マーカーの開発 小 課 題 名 天然及び飼育成熟魚における候補マーカーの探索 主担当者 西海区水産研究所まぐろ増養殖研究センター・玄浩一郎 分担者 水産総合研究センター・菅谷琢磨、斎藤憲治、阿部寧、山崎いづみ、風藤行紀 樋口健太郎 協力機関 鳥取県水産試験場 1. 課題目標(期間全体) マグロ資源および養殖の持続的発展のため、クロマグロの安定的な人工種苗生産技術の開発ひいては 天然種苗に依存しない養殖形態への移行が求められている。しかしながら、現状では養殖クロマグロの 平均的な初回産卵年齢は5歳であるため、種苗のもととなる卵や精子を得るためには膨大な時間と 費用を必要とする。このため種苗生産現場では、飼育環境下において天然魚と同程度の年齢(3歳) で安定的に採卵する早期成熟技術の開発が強く望まれている。近年、哺乳類の研究から早期成熟には 遺伝的要因と環境要因が密接に関与していることが明らかとなっており、クロマグロにおいてもこれ ら要因を利用することで早期成熟技術の開発が可能であると考えられる。だが、クロマグロでは環境 要因に関する知見は集積されてきたものの、遺伝的要因に関する研究はほとんどなされておらず不明 な点が多い。そこで本課題では、遺伝的に優良な形質(早期成熟)を有するクロマグロの親魚選抜技 術の開発基盤研究として、天然魚および養殖親魚における成熟関連候補マーカーの探索を行うことを 目的としている。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画(目的・方法・期待される成果) 目的:天然魚および養殖親魚のサンプル収集と成熟度調査 方法:前年度に引き続き、鳥取県境漁港に水揚げされた天然成魚ならびに奄美大島等で養成された 天然ヨコワ由来の養殖親魚から生殖腺や耳石等のサンプル収集を行い、成熟度調査ならびに年齢査 定を実施する(水産総合研究センター・鳥取県水産試験場)。別途、他課題で開発した家系判別用 マーカー等を用いることで、入手したサンプルの DNA マーカー分析を行い、天然成魚ならびに 養殖親魚の全体的な遺伝的多様性を解析する(水産総合研究センター)。 期待される成果:組織学的手法等によって、天然魚および養殖親魚における各個体の成熟状況が 明らかになると共に、それぞれの個体に対応した DNA マーカー分析用サンプルが収集される。 また、家系判別用 DNA マーカー等を用いた解析から天然成魚ならびに養殖親魚の遺伝的多様性の 把握が可能となる。 (2) 24 年度成果概要 平成 24 年 6 月 18 日から 8 月 8 日にかけて鳥取県境漁港にて水揚げされた天然成魚から雌 328 尾 を無作為にサンプリングし、各個体の体重、尾叉長ならびに生殖腺重量を測定した。また、一部 個体から耳石を回収すると共に、耳石が得られなかった個体に関しては Shimose et al. (2008)の成長 式に基づいて年齢の査定を行った。本年度の操業海域は主に兵庫/福井沖であったが、いずれの海域 においても4歳以上の成魚が主群であることがわかった。また、漁獲した全ての雌3歳魚の卵巣で 第1次卵黄球期以降の卵母細胞が観察されたことから、これら個体が成熟していることが明らかと なった。他方、養殖親魚の成熟度調査から、同一飼育環境下でも成熟する個体と成熟しない個体が 出現すること、またその成熟率は約20~50%であることがわかった。さらに、群成熟率が年齢を経 ることによって増加することが奄美大島での調査で明らかとなった(図1)。

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別途、家系判別用マーカーの変異性を検証するために、まずは漁獲海域ならびに年齢に関係なく 全ての個体を含めた母集団でマーカー解析を行ったところ、課題 1-①で開発した11マーカーの うち2マーカーがハーディ・ワインベルグ平衡から外れることがわかった(図2)。そこで、これら 家系判別用マーカーを用いて昨年度採集した天然2歳魚ならびに3歳魚について解析を行ったとこ ろ、漁獲海域と年齢間に有意な遺伝的差異は観察されず、成熟個体と未成熟個体の遺伝的な比較で は海域や年齢の影響は小さいことが明らかとなった(図3)。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表(主要な論文、取得・申請した特許等を記載) 玄浩一郎・樋口健太郎・菅谷琢磨・石原幸雄・風藤行紀・山崎いづみ・阿部寧・佐野元彦.鳥取県境漁港 で水揚げされた太平洋クロマグロ雌の年齢別群成熟率,平成25年日本水産学会春季大会 図1. 奄美大島ならびに高知県柏島における 養殖雌3歳魚ならびに4歳魚の成熟頻度 図2. 境漁港で水揚げされた天然成魚における 家系判別マーカー毎の遺伝的変異性 * ハーディ・ワインベルグ平衡からの有意なずれ有り 図3. 雌3歳魚の成熟ならびに未成熟雌に おけるマーカー別の遺伝的変異性 図2. 境漁港で水揚げされた天然成魚における 家系判別マーカー毎の遺伝的変異性 * ハーディ・ワインベルグ平衡からの有意なずれ有り

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-③ 事 業 実 施 期 間 平成 24 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための有用形質関連 DNA マーカーの開発 小 課 題 名 複数家系の混合飼育試験による耐病性関連マーカーの開発 主 担 当 者 中央水産研究所・菅谷 琢磨 分 担 者 水産総合研究センター・佐野 元彦, 安池 元重, 佐藤 純, 米加田 徹, 加治 俊 二, 井手 健太郎, 岩崎 隆志, 高志 利宣, 岡 雅一, 久門 一紀, 田中 庸介, 二階堂 英城 東京海洋大学・坂本 崇 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野 孝, 伊藤 暁, 小野寺 純, 神村 祐司 1. 課題目標(期間全体) 複数の親に由来する人工種苗に対してマダイイリドウイルスを実験的に感染させ、家系間 での感受性の違いを分析するともに、課題 1-①および課題 1-②のマーカー候補から耐病性に 関連する DNA マーカーを探索する。また、民間のクロマグロ養殖場でイリドウイルスによ る大量死亡が発生した場合には、当該養殖会社の協力を得て、その個体群について、死亡個 体、生残個体における DNA マーカー候補の探索・絞り込みを行い、マダイイリドウイルス 耐性関連 DNA マーカーを得ることを目標とする。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:クロマグロの種苗期から中間育成期におけるイリドウイルスに対する感受性の有無を明 らかにする。また、感染実験系確立のための飼育方法およびウイルスによる攻撃条件を最適化 するとともに、個体別のウイルス感受性の評価方法を確立する。 方法:クロマグロの種苗期のウイルス感受性を把握するために、ウイルスにより汚染した受精 卵を用い、小型水槽での種苗生産を実施する。また大型水槽において中間育成期まで生育した 種苗を小型水槽に移送し、ウイルスにより感作し感受性を確認する。ウイルス感染の評価は、 リアルタイム PCR および死亡率の測定により行う。これらの結果から、感染実験系として最 適な攻撃方法および攻撃時期を求める。またウイルス感染が認められた個体においてはサンプ ル群別の生残率と個体別のウイルス定量結果から、耐病性形質の評価手法を検討する。さらに 昨年同様、感染試験に供した人工種苗については DNA 抽出を実施し、家系判別に向けたサン プルを蓄積する。これらのうち、ウイルスの感染試験及び DNA 抽出はそれぞれ水産総合研究 センターと東京海洋大学で実施し、人工種苗の生産は水産総合研究センター及び(株)マルハニ チロで行う。 期待される成果:クロマグロ人工種苗に対するイリドウイルスの感染条件が明らかとなり、感 染実験の基礎となるウイルスの攻撃手法が確立される。また、個体別のウイルス定量により、 耐病性系統の確保に向けた基礎的知見を得ることができる。 (2) 24 年度成果概要 クロマグロの種苗期のウイルス感受性を把握するために、当初は小型水槽での飼育を予定し ていたが、60 kL 水槽を利用した稚魚のハンドリングを必要としない感染実験を実施した。ま ず感染実験に供するウイルスの濃度条件の検討のために、イリド感染魚の臓器磨砕液の 2000 倍(海水 2 L 中に 1 g の感染組織を懸濁)から 200 万倍までの希釈系列を作製し、マダイを供 試魚として感染実験を行った。その結果、200 万倍希釈区においてもマダイの死亡が認められ

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た。60 kL 水槽でマグロの種苗生産を実施し、24 日齢の時点で飼育水量を 20 kL まで減水し、 44 万倍希釈のウイルス量で浸漬による攻撃を行った。攻撃後は死亡個体を適宜取り上げ、攻 撃から 14 日目にすべての稚魚をサンプリングした。これらの稚魚より total RNA を抽出し、 cDNA を合成後、リアルタイム PCR によりウイルスの検出および定量を行った。攻撃の 2 日 後から稚魚の死亡が認められた(図 1)。攻撃魚からのウイルス検出率は 69%で、ウイルス量 は概ね 102から 104コピー/g であった(図 2)。これらの結果から、浸漬攻撃を施した稚魚が少 なくともウイルスに感作され、魚体内でウイルスが持続的に存在し得ることが確認された。さ らに昨年同様、感染試験に供した人工種苗については DNA 抽出を実施し、家系判別に向けた サンプルを蓄積した。 また、個体間でより詳細に抗ウイルス応答を解析するために、30 日齢の稚魚 24 尾より、脳 および肝臓を摘出し、細胞懸濁液を作製した。細胞を PBS で洗浄後、細胞数を一定に揃えた 後に、ウイルスを接種し、それぞれ二本に分注した。1 本のサンプルは分注直後に ISOGEN-LS を添加し-80℃に保存した。もう 1 本のサンプルは 25℃で 10 日間培養後に ISOGEN-LS を添 加した。これらのサンプルより RNA を抽出し、cDNA を合成後、リアルタイム PCR によりウ イルスを定量した。その結果、脳細胞においては、10 日間の培養後もウイルス量はほとんど 変動しなかったが、肝細胞は個体ごとに異なる割合でウイルス量の増加が認められた(図 3)。 これらのサンプルより得られた total RNA および DNA は耐病性形質の評価のためのサンプル として保存した。 図 1 クロマグロ稚魚を用いたイリドウイ ルス感染試験 3. 今後の問題点等 感染試験においてウイルスの遺伝子が 検出されていても感染が成立していると は限らない。そこで、ウイルスにより攻撃 を行った稚魚の臓器をイリドウイルス感 染を特異的に検出可能なモノクローナル 抗体を用いて染色することにより、感染の 成立を証明する必要がある。来年度は、よ り発育の進んだ個体の使用が必要である。 3. 成果の公表 特になし 図 2 攻撃した稚魚におけるイリドウイルス定量結果 図 3 細胞を用いたイリドウイルス感受性試験

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-① 事 業 実 施 期 間 平成24 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 親魚候補魚の遺伝情報管理のためのハンドリング技術の開発 主 担 当 者 近畿大学水産研究所・澤田 好史,家戸 敬太郎 分 担 者 1. 課題目標(期間全体) 1) 稚魚・幼魚期に親魚候補選抜を実施する過程で想定されるハンドリングにおける稚魚・幼 魚の死亡の原因が解明される。 2) 稚魚・幼魚期に親魚候補選抜を実施する過程で想定されるハンドリング方法が改善される。 3) 採卵方法については,その日に産卵された卵を偏ることなく回収可能な採卵装置の開発を ゴールとする。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:①稚魚・幼魚のハンドリング耐性試験と死亡原因解明を平成23 年度に引き続き実施し、 死亡原因、各種ハンドリングに対する耐性の情報を積み増しする。 ②基本的には前年度から引き続いて同様のデータ集積を目的とするが,前年度に明らかとなっ た問題点を解消し,採卵装置開発に必要なデータ集積の完了を目的とする。 方法:①各種ハンドリング法における推定される死亡原因を調査する。さらにこれらの方法に おいて様々な条件下で耐性試験を行う。 ②卵回収装置を水深70cm の深さにセットし,流向・流速についても水深 70cm で測定したが, 実際のクロマグロの卵は比重が軽いことから,より表層にあると考えられ,風の影響も受ける ことが予想された.そこで複数の浮標をイケス上に流して動画でその動きを評価する。 期待される成果:①稚魚・幼魚のハンドリングにおいて、推定される死亡原因の程度を解明す ることにより、各種ハンドリングでの死亡原因に関する情報が得られる。各種ハンドリング法 における耐性の情報が得られる。ハンドリング技術がさらに改善される。 ②得られたデータを解析することで,産卵時刻とその卵の動きの概要が明らかとなり,昨年度 のデータと合わせることで,効率的な採卵方法を推定できる。 (2) 24 年度成果概要 1.稚魚・幼魚のハンドリング耐性試験と死亡原因解明 標識装着個体生残率と標識脱落率改善で、①装着方法改善、②標識種類変更、③標識装着部 位変更を行い、クロマグロ幼魚で親魚候補個体選抜試験を行った。また標識装着ストレス評価 でストレス指標となる血液性状、血中コルチゾル・グルコース濃度、肝臓、脾臓、鰓、心臓で のストレス関連遺伝子(HIF-1α,HSP-70)の発現経時変化を調べた。 ①装着方法改善:昨年度は幼魚採捕後すぐに標識装着したが、本年度は馴致用水槽に収容し、 魚を落ち着かせて装着した。②標識種類変更:ダートタグ個体番号判読時間短縮の目的で、電 波タグを組み合わせて装着した。③標識装着部位変更:昨年度は標識脱落率が高かった(28 日 後で 76.8%)のでタグを第 1 背鰭後部担鰭骨に食い込ませる様にした。また時間短縮を目的に 遺伝子試料採取部位を第2 小離鰭から尾鰭先端に変更した。 結 果:H24 年産人工孵化クロマグロ幼魚 668 尾に個体識別標識を装着して遺伝子試料を採取

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し、28 日間飼育した。その後全個体の個体番号識別を行った。標識装着で馴致水槽を設けた ことで28 日後の生残率は 70.2%と向上し、標識装着部位変更で脱落率が 35.0%まで大幅に低 下した。また標識変更で個体識別時間が短縮され、さらに遺伝子試料採取ではそれまで1 分程 度要していた採取時間を 5-10 秒に短縮できた。標識装着ハンドリングストレス評価のため、 採捕直後、馴致中、標識装着と遺伝子試料採取後、生簀再収容1・5・24・48 時間後に血液採 取し、各臓器の遺伝子発現を解析した。血液性状ではヘマトクリット値、ヘモグロビン濃度、 血球数、平均赤血球容積、平均赤血球血色素濃度等の指標に時間的な差異は確認されなかった。 血中コルチゾル・グルコース濃度および各臓器のHIF-1α、HSP-70 の発現解析は今後実施予定 である。 2.生簀内で自然産卵されたクロマグロ卵の回収状況と最適な採卵方法の推定 昨年度は人工種苗由来の親魚生簀で実験を行ったが,今年度は天然種苗由来の親魚生簀で実 験を行った。昨年と同様に,網生簀内16 方位に卵回収装置を設置して 6 産卵日について採卵 を行い,水深 5 m 層に設置した流向・流速計で測定した流向・流速と卵が回収された方位と の関係を調べた結果,昨年と同様に流向・流速に一致して卵が回収される場合と,流向・流速 とは関係なく卵が回収される場合とがあった。また,回収された卵を孵化させてDNA を抽出 後,ミトコンドリアDNA(mtDNA)の調節領域の塩基配列を調べた結果,流向・流速や回収 された卵数とmtDNA のハプロタイプとの間に明瞭な関係はみられず,生簀内での産卵場所に 近い卵回収装置に卵が回収された可能性が高いと考えられた。さらに,産卵直後に複数の浮標 をイケス上に流して動画でその動きを記録した結果,浮標は最終的には生簀中央付近に集まっ たが,産卵から集まるまでに20 分程度要しており,それまでに卵は小魚に食べられてしまう ようであった。以上の結果から,効率的な卵回収装置として,流向・流速や表面の海水の流れ に依存せず,迅速に卵回収が可能な装置が必要であると考えられた。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 特になし

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-② 事 業 実 施 期 間 平成24 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 鎮静剤等を用いた安全なハンドリング技術の開発 主 担 当 者 水産総合研究センター・二階堂 英城 分 担 者 水産総合研究センター・服部 薫, 玄 浩一郎, 江場 岳史, 樋口 健太郎, 田中 庸介, 久門 一紀, 西 明文, 塩澤 聡 1. 課題目標(期間全体) 人工交配において不可欠な、成熟度判定や移送など必要な操作を行う間、麻酔剤等を用いて成熟 期のクロマグロを不動化し安全に取扱うため、養成親魚を用いて不動化に有効な薬剤の種類と用量 用法、薬剤投与基準判定を目的とした生理条件の把握方法を検討する。同時に、遊泳中のクロマグ ロへの薬剤投与を検討し効果的な投与方法を開発する。また、クロマグロの人為催熟を目的とした ホルモン等の投与方法を開発する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:麻酔・鎮静手法を検討し薬剤の選定と用量用法の把握および薬剤の水中投与に適した手法を 選定することを目的とする。引き続き、23 年に得られた知見を基に麻酔・鎮静手法を検討し薬剤 の選定と用量用法の把握および薬剤の水中投与に適した手法を選定することを目的とする。 方法:獣医師(北水研)と相談の上、より有効と思われる麻酔薬を選定し、クロマグロに麻酔操 作を行い麻酔操作後の行動と麻酔の有効性を検証する。この結果からクロマグロの不動化に有効 と思われる麻酔剤の投与方法および麻酔条件を検討する。麻酔下の生理状態を把握するため、血 中成分の分析による判定を試みる。 期待される成果:クロマグロの不動化に有効と思われる薬剤候補が選定される。これにより、クロ マグロの現実的な不動化方法の開発が大きく前進し、不動化を前提とした人工授精周辺技術の開発 が進展される。 (2) 24 年度成果概要 麻酔薬の選定のため、昨年までに、α2 受容体作動薬 Medetomidine(Med)のクロマグロに対す る麻酔効果とα2 受容体拮抗薬 Atipamezole(Ati)の蘇生効果を予備的に検討し、Med の麻酔効果 およびAti の蘇生効果が認められた。今年度は、①Med および②Ati の詳細な用量把握、③解離性 麻酔薬Ketamine(Ket)および Zoletile100(Zol)の麻酔効果④Med と Ket および Med と Zol の混 合投与の有効性、⑤Med-Zol 混合投与における Ati の蘇生効果について検討した。また、麻酔下の 生理状態把握のため血中コルチゾル、カテコールアミン、グルコースの測定を予備的に試みた。 材料及び方法 供試魚は直径20m 円形生簀で養成した人工クロマグロ 0 歳魚(体重 1~4kg)を使用した。①③④ は生簀から釣獲によって1 尾ずつ取り上げ、魚体重測定後、体重に合わせて薬剤を投与(IM)し、 キャンバスプール内に収容して行動を観察した。②は上記の方法により、Med を 200μg/kg で投与 し(IM)、Ⅳ期となった個体に Ati を Med 投与量の 1/2 量、等量、2 倍量、4 倍量を投与し行動を 観察した。⑤は上記の方法でMed と Zol をそれぞれ 50μg/kg と 5mg/kg で投与(IM)し、麻酔状態 となった個体に②と同様の用量で Ati を投与し行動を観察した。蘇生した供試魚は 20m 生簀に収 容し24 時間後と 7 日後の生残状況を観察した。行動観察に際し麻酔状態を 0 期:平常、Ⅰ期:軽 度麻酔、Ⅱ期:中度麻酔、Ⅲ期:深度麻酔、Ⅳ期:不動期の5 つに区分した。

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麻酔下の生理状態把握のため、今年度は高ストレス下のクロマグロ人工1 歳魚 7 尾および 2 歳魚 3 尾から血液を採取し、コルチゾルは市販測定キット、カテコールアミンは HPLC-ECD、グルコー スは動物用簡易測定装置を使用して測定した。 結果 麻酔薬の選定および用量用法について、①Med は 50・100・ 200・400・1000μg/kg で投与した。昨年の結果と同様 100μg/kg 以上で鎮静効果が得られ、200μg/kg の投与が有効と考えられ た(図1)。②Ati は全ての用量で蘇生効果が確認されたが、 1/2 量と等量では投与 7 日後までの死亡率が高く、十分な蘇生 効果を得るには2 倍量以上が必要と考えられた。③Ket は 10・ 20・25・30・50・100mg/kg を投与した。25mg/kg 以上で麻酔 効果が現れたが、全ての投与量で投与直後から麻酔導入初期 の狂奔遊泳が著しく、麻酔効果の変動が大きかった。Zol は 5・10・20mg/kg を投与した。10mg/kg と 20mg/kg 投与区で麻 酔効果がみられ、投与後の狂奔遊泳は殆ど見られなかった。 Ket は効果が不安定であることと麻酔導入初期の狂奔遊泳が 著しいことから、クロマグロ親魚用の麻酔薬にはZol が有効 と考えられた。④Ket および Zol を Med と混合投与するとそ れぞれ単独投与では麻酔効果の得られない用量で麻酔効果が 得られた。Ket-Med は 20mg-50μg/kg で安定した効果が得られ たが、Ket 単独投与と同様、麻酔導入初期に強い狂奔遊泳が 観察された。Zol-Med では 5mg-50μg/kg で十分な効果が認め られた(図 2)。⑤Zol5m/kg と Med50μg/kg を投与してⅣ期 となった個体に Ati を投与したところ、全ての用量で蘇生効 果が確認されたが、②と同様に1/2 量と等量では投与 7 日後ま での死亡率が高く(図3)、十分な蘇生効果を得るには 2 倍量 以上が必要と考えられた。 血中コルチゾル、カテコールアミンは予備的に分析したとこ ろ、コルチゾル、カテコールアミン、グルコースとも、麻酔下 の生理状態把握に有効と思われたが血液サンプルの採取およ び前処理に検討が必要であった。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 二階堂英城・久門一紀・田中庸介・江場岳史・服部 薫・竹田達右・松山倫也.クロマグロ Thunnus

orientalis における Medetomidine の鎮静効果と Atipamezole の拮抗効果. 平成 24 年度水産

学会秋季大会

二階堂英城・服部 薫・久門一紀・田中庸介・江場岳史・西 明文・塩澤 聡・竹田達右・松山倫 也.クロマグロ Thunnus orientalis における動物用麻酔薬 Ketamine および Zoletile100 の麻酔 効果. 平成25 年度水産学会春季大会 0 2 4 6 8 10 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 equivalence 1/2 2times 4times Sc or e o f s e da ti o n 50ug /kg 100u g/kg 200u g/kg 400u g/kg 100 0ug /kg 0 1 2 3 4 5 図1.Med 投与量毎の 到達麻酔Stage 図2.Zol+Med 投与量毎の Ⅳ期到達時間 図3.Zol+Med における Ati 投与後の生残

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-③ 事 業 実 施 期 間 平成24 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 性判別ならびに成熟度判定技術の検討 主 担 当 者 水産総合研究センター・澤口 小有美 分 担 者 愛媛大学・松原 孝博, 太田 耕平 水産総合研究センター・玄 浩一郎, 二階堂 英城, 西 明文, 田中 庸介, 江場 岳史, 高志 利宣, 岡 雅一 1. 課題目標(期間全体) 性別や成熟の指標となるタンパク質を生化学的に分析、単離し、複数種の特異抗体を作製 し、それらを用いて高感度な酵素免疫測定及びイムノクロマトの2 種の免疫学的検出・測定 系を開発する。また、飼育下の成熟期において、麻酔等で安全に保持でき短時間のうちに成 熟度を判定するため、成熟指標タンパク質の発現動態を把握し、麻酔を施したクロマグロ成 魚で成熟度を即時に判定する技術を開発する。性判別では、生殖腺の発達に伴って発現する 性特異的な遺伝子またはタンパク質を検索し、分子生物学的な性判別基盤技術を開発すると ともに、内視鏡を利用した生殖腺バイオプシ技術を開発して麻酔を施したクロマグロ未成熟 魚での早期性判別法を確立する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的:性判別・成熟度判定のための指標物質であるリポビテリン(Lv)やビテロジェニン(Vg) について、非破壊的に採取可能な試料中からの検出を試みる。また、内視鏡による生殖腺組 織摘出のため、死魚を用いて内視鏡挿入操作と生殖腺サンプル摘出技術の熟達を目指し、生 きた魚で試行する。また、生殖腺の性識別に用いる遺伝子の検索を引き続き行い、有効な候 補を見出すことを目的とする。 方法:酵素免疫測定法によるLv 測定系及び既存の Vg 測定系を用いて、クロマグロから解剖 せずに採取することができる血液や粘液などの試料中に含まれる各種タンパクを検出および 定量化する。また、漁獲物を用いて、内視鏡挿入操作と生殖腺サンプル摘出技術の練習を積 み、その後、ハンドリング技術と組み合わせて生きたクロマグロ幼魚で試行する。生きた魚 では、出血が予想されるため、血液の洗浄操作用器具を考案する。また、23 年度に引き続き 生殖腺に性特異的に発現する遺伝子の検索と性差の検証を行う。 期待される成果:性判別・成熟度判定のための新規抗体による測定系を構築することで、判 定のための基準作りが可能となる。これまでにない内視鏡による生殖腺組織摘出と遺伝子に よる生殖腺の性識別基盤とした極早期の性判別法開発が進む。 (2) 24 年度成果概要 性判別・成熟度判定指標物質検出用として昨年度までに作成したVg および Lv 抗体を用い てイムノクロマト構築を試みたが、視認できるまで20 分以上かかるなどの問題が見受けられ た。そこで本年度は、卵黄形成完了後のクロマグロ卵巣から得られた卵抽出液を2 段階のゲ ル濾過(MonoQ イオンクロマトグラフィおよび Superose 6 ゲル濾過)にかけ、LvA、LvB、 LvC の 3 種類に精製した。これらをそれぞれ家兎に免疫し抗体を作成し、各抗体の検出測定 系(ELISA)を確立した。

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次に、西海区水産研究所奄美庁舎にて飼育されたクロマグロ1歳魚(体重3.3-5.3 kg)7 尾 を用いて、船上において内視鏡による生殖腺生検サンプルの採取手技を検討した。事前に船 上作業に対応した電圧安定装置付き発 電機、内視鏡プローブの自在ホルダー を準備した(図1)。クロマグロの生殖 腺生体切除では腹腔後端側部の筋肉に、 体軸と垂直方向に約1~1.5 cm の切開 を施し、細径内視鏡プローブを挿入し て生殖腺を探索する。その際、大量の 出血は起こらず、若干の出血はリンガ ー液(Hanks 液)により洗浄可能であ った。前年度の試行から、切開部位は 肛門の数センチ前方とし、生殖腺への アプローチは膀胱の直前を目印とした。満1歳のクロマグロでは生殖腺は体腔後端部のみに 限局し、内視鏡手術の際に卵巣懸膜と識別することは難しいことから、膀胱直前を生検用鉗 子により切除する必要がある。生殖腺組織の摘出試験を実施し、組織観察および遺伝子解析 により成功したか否かを確認したところ、全ての個体で生殖腺組織を切除できていることが 確認された。術後の傷口の融着には手術用接着剤と縫合の併用が有効であった。 また、クロマグロ1 歳魚の生殖腺で性特異的に発現することが予想された遺伝子、<雄特 異的>セルトリ細胞マーカー:dmrt1、アンドロゲン合成酵素:cyp11β、<雌特異的>顆粒膜 細胞マーカー:foxl2、エストロゲン合成酵素:cyp19α について、中央水研遺伝子解析センタ ーと共同で得たクロマグロ遺伝子の配列情報をもとにプライマーを作製し、生殖腺から作製 したcDNA を用いてリアルタイム PCR を行った。測定には生後 8 ヶ月の雄 5 尾、雌 10 尾(1.7 kg 群)、及び満 1 歳の雄 7 尾、 雌8 尾(4.0 kg 群)を用いた。 ポリペプチド鎖慎重因子 (EF1α)で標準化したコピ ー数はdmrt1 では 1.7 kg 群の 雄で雌の5.9 倍、4.0 kg 群で 2.2 倍、cyp11β では 1.7kg 群 の雄で雌の38.1 倍、4.0 kg 群で4.8 倍であった。一方、 cyp19α では 1.7 kg 群の雌で 雄の11.7 倍、4.0 kg 群で 31.8 倍、foxl2 では 1.7 kg 群の雌 で雄の19.5 倍、4.0 kg 群で 7.9 倍であった(図 2)。この ことから8 ヶ月の 1.7 kg 程度の魚で明瞭に性判別が可能であることが確かめられた。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 特になし 図 1.移動式海上生険システム。 図 2.リアルタイム PCR による性特異的遺伝子発現量の比較。

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-④ 事 業 実 施 期 間 平成 24 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 凍結精子の保存技術と精子の評価方法の開発 主 担 当 者 愛媛大学・松原 孝博 分 担 者 愛媛大学・太田 耕平 水産総合研究センター・二階堂 英城, 西 明文, 田中 庸介, 江場 岳史 玄 浩一郎, 持田 和彦, 澤口 小有美 1. 課題目標(期間全体) 精子の運動を高速 CCD により録画し、画像解析ソフトを用いて運動精子の比率、運動精子中 の前進運動精子の割合、運動速度、精子尾部の振動数、波長及び振幅を解析し、それらの数 値を基盤とした客観的なクロマグロ精子の運動活性評価方法を確立する。その評価法をもと に、精子運動活性が最も高い時期や時刻を特定し、活性の高い搾出精子を安定して凍結に供 する技術を作る。併せて、新鮮搾出精子の運動活性の高低と凍結保存後の活性の相関を明ら かにする。また、精子の運動活性を高める卵巣腔液中の精子運動活性化因子を生化学的に特 定し、それを用いた凍結保存及び解凍処理方法を検討し、精子凍結保存方法の改良を行う。 2. 課題実施計画・成果 (1) 24 年度計画 目的: 23 年度に引き続き、客観性の高い精子運動活性測定法の開発を行い、数値評価を実 現する。特に、23 年度の結果から運動活性評価の指標として有用性が高いと判断された運 動精子比率、運動時間、運動スピードについて、それを指標として雄親魚から運動活性の 高い精子を採取する技術を確立することを目的とする。 方法:画像解析により運動精子の比率、前進運動精子の割合、速度、尾部の振動数などを解 析し、活性評価の指標として重要な要素を選び、数値による総合評価法を開発する。その中 で、H23 年度の結果から、特に運動精子比率、運動速度、運動時間が有効であることが推察 されたことから、その3項目を主体とした評価方法を試作する(愛媛大)。試作した評価法 により採集時期や時間帯による精子活性の変化を数値評価するため、それらを念頭に入れ たサンプリングを行うと共に活性を解析する(水研センター)。精子の運動に影響する精子 活性化因子、精子誘導因子についてクロマグロでのそれら因子の存在を生理学的、分子生 物学的に明らかにする(愛媛大、水研センター)。 期待される成果:クロマグロの精子運動活性を客観的に評価する技術が得られる。これを利 用することで、凍結後の精子運動活性の低下状況や凍結前後の運動活性の相関を明確にする ことができる。凍結・解凍後に高い運動活性を示す精子を安定的に採集できるようにするこ とはこの課題のゴールの一つであり、それに近づくこととなる。 (2) 24 年度成果概要 精子運動活性の客観的評価法を確立する目的で、画像解析により計測された運動活性指標 と受精率との相関関係を調べた。未授精排卵卵の得られないクロマグロの代替魚種として、

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