メ ロ ン の 花 の 性 に 関 す る 研 究(第1報)
Andromonoecious型 とmonoecious型 メ ロ ンの 遺 伝
並 び に 両 性 花 と 雄 花 の 花 粉 の 機 能*
藤
下
典
之
(大阪府立大学農学部)
N. FUJISHITA: Studies on the sex expression of flowers in Cucumis Melo L . (I) Inheritance of andromonoeciousness versus monoeciousness and the comparison
of pollen function between hermaphroditic and staminate flowers
Summary
Experiments have been continued to investigate
the sex expression in Cucumis Melo L. In the present
paper, the structure
of flower and the inheritance
of andromonoeciousness
versus monoeciousness are
described, and the result of comparison as regards
function of pollen from either hermaphroditic
or
staminate flower is presented.
The andromonoe
cious plant used in the experiment was commercial
variety Earl's Favourite which represents
C. Melo
L, var. reticulatus, and for the monoecious plant No.
111 and No.981, collected in Afghanistan and Pak
istan by the Japanese expedition in 1955 were used,
of which No.111 is believed to belong to the snake
melon, C. Melo L. var. flexuosus (Fig. 1). The results
obtained are summarized as followes,
1. The hermaphroditic
flower on andromoneci
ous plant bore the pistil and the stamens
filled
with pollen, while the pistillate
flower on monoe
cious plant bore the
pistil and the
rudimentary
stamens (Fig. 3, 4).
2.
Though there was a fare occurrence of the
andromonoecious plant bearing pistillate flower and
of the monoecious plant bearing
hermaphroditic
flower, it was confirmed that the monoeciousness
differed from the andromonoeciousness
in a single
dominant allele (Table 1. 2).
3.
Pollen grains of the hermaphroditic flower as
well as those of the staminate
flower within the
same vine germinated on the artificial media (1
agar, 5% sucrose and pH 6. 5) in different degree.
The difference of germination
percentage
of the
pollen of hermaphroditic and staminate flower was
significant at 5 per cent level, i. e. 75.8 per cent
and 66. 2 per cent respectively
after one hour of
culture.
No significant
difference was shown in
the elongation of pollen tubes, and moreover, the rate
of normal pollen was as high as 95 per cent or
more in either hermaphroditic
or staminate
flower
(Table 3).
4.
Either through the intra
self pollination
or
through the neighbour pollination with pollen of
staminate flower within the same vine,
the yield
and the market value of the mature fruit from
hermaphroditic flower were the same.
Comparing
the character
of hermaphroditic flower with those
of staminate flower, no significant difference was
found with regards the function of pollen, i.e. the
rate of fruit
setting,
the number of germinable
seed, and the weight
of fruit
or seed.
From the
results,
it is suggested that the intra self pollina
tion on hermaphroditic
flower facilitates practical
procedure of pollination,
with an advantage of se
curing the strict inbred seed.
1. 緒 言 こ の 一 連 の 研 究 はCucumis Meloの 花 の 性 の 分 化 機 構 を 明 らか に す る た め に 行 つ た も の で あ る。 メ ロ ン,マ ク ワ,シ ロ ウ リを 含 むCucumis Metoに は,両 性 花 と 単 性 の 雄 花 が 同 ∼ 株 上 に 着 くandromonoe cious plant(雄 性 一 家 花)の も の と,単 性 雌 花 と単 性 雄 花 が 同 一 株 上 に つmonoecious plant(一 家 花)の も の * 本 研 究 の 一 部 は1956年 度 園 芸 学 会 秋 季 大 会 に お い て 発 表 1959年1月31日 受 理 が あ つ て,本 邦 で 栽 培 され て い る メ ロ ン,マ ク ワ,シ ワ ウ リは い ず れ も 前 者 で あ る が,ヨ ー ロ ッ パ に は か な り 後 者 も あ る よ うで あ る 。1955年 に 京 大 学 術 探 検 隊 は カ ラ コ ラ ム ・ヒ ン ズ ー ク シ 地 域 で 前 者 を20点,後 者 を10点 採 集 し て い る。 こ の 報 告 で は これ ら の 採 集 品 も供 試 して,花 器 の 構 造 及 びandromonoecious型 とmonoecious型 メ ロ ン と の 遺 伝 関 係 を 明 らか に し,更 に,メ ロ ン の 両 性 花 と雄 花 の 花 粉 機 能 を 発 芽 試 験 と授 粉 試 験 に よ つ て 比 較 し た 。 本 研 究 を 行 うに あ た り, h御 教 示 を い た だ い た 今 津 教 授 に 対 し,感 謝 の 意 を 表 す る。
40 園 芸 学 会 雑 誌 第28巻 第1号
Fig. 1 Monoecious melons No. 111 was collected at Kabul
in Afghanistan
No. 981 was collected at Quetta in Pakistan
II. 材 料
andromonoecious型 の メ ロ ン
Earl's Favourite: C. Melo L. var. reticulates NAUD,本 邦 で 栽 培 さ れ て い るnetted melonの 代 表 品
種 で 供 試 系 統 は1954年 に 浜 松 市 五 島 村 温 室 組 合 の 出 荷 品 か ら採 種 し,本 学 で3代 自 家 授 粉 した 。
monoecious型 の メ ロ ン
No. 111: C. Melo L. var. Jlexuosus NAUD. snake melonと 言 わ れ る もの で,ア フ ガ ニ ス タ ンのka bulで 採 集 さ れ,本 学 で1代 自 家 授 粉 し た 。 成 熟 果 は 長 さ2m,径10cm,重 さ6kgに 達 す る 長 大 な 円 筒 型 で, 果 皮 は 乳 緑 でnetな く,果 肉 は 淡 いsalmon pinkで 甘 味 な く酸 味 が あ る。 種 子 は 大 き く長 さ13mmで 乳 白 色 を し て い る(Fig.1)。
No. 981: C. Melo var. ?. NAUDIN (1859) の 分 類 の い ず れ に も概 当 し な い も の で,パ キ ス タ ン の Quettaで 採 集 さ れ,本 学 で1代 自 家 授 粉 し た 。 成 熟 果 は 長 さ20cm,径10cm,果 重700g前 後 の 紡 錘 形 で 果 皮 はnetな く光 沢 の あ る 濃 黄 色 とな り,縦 に10条 のrib が あ り,果 肉 は 淡 いsalmon pinkで 甘 味 は 少 な い 。 成 熟 す る と裂 果 し易 く,果 梗 が 離 れ,幼 果 に はF1で 優 性 に 現 わ れ る 強 い 苦 味 が あ る。 種 子 は 長 さ9mmでEarl's Favouriteと ほ ぼ 同 大 で あ る(Fig.1)。 III.方 法 A.遺 伝 関 係 andromonoecious型 メ ロ ン のEar1's Favourite とmonoecious型 メ ロ ン のNo. 111及 びNo. 981 と の 雑 種 種 子 を1957年 9月2日 に ガ ラ ス 室 内 の bedに30cm間 隔 に1粒 ず つ 播 き,分 離 比 を 求 め た 。 ま た 単 性 雌 花 と両 性 花 が 環 境 や 交 配 組 合 せ な どに よ つ て 相 互 に 転 化 す る よ うな こ と が な い か ど うか を, 1956年 か ら1958 年 の 間 に ガ ラ ス 室 内 で 開 い た 雌 花 にこつ い て調 査 し た 。 B.花 粉 機 能 の 比 較 Earl's Favouriteを 1955年2月22日 に 播 き, 3月22日 に 無 加温 の ガ ラ ス室内 のbedに 定 植 し,以 後, 普 通 の メ ロ ン栽 培法 に 従 つ て肥 培 管理 した。 花 粉稔 性 の調 査 と発 芽 試験 に は 夫 々8株 を供 試 し,5 月25日 に開 花 した 同一 株 上 の両 性 花 と雄 花 の間 でそ の機 能 を比較 した。 花 粉稔 性 率 はaceto carmineで 内容の 染 まる花 粉 と染 ま らぬ 花 粉 に分 け て算 出 し,発 芽 試 験は 午 前9時30分 に花 を採 集 して,直 ちに シ ャ レー内 の蔗糖 5%,寒 天1%, pH 6.5の 培 養 基 に花 粉 を播 き,実 験 室 内(室 温21℃)の 明 るい 場 所 に1時 間 置 い た のち, cotton blueで 染色検 鏡 した。 なお,供 試花 はい ず れ も開 花 前 日に袋 かけ を した。 授粉 試 験 では,両 性花 を 同花 授 粉 させ る株 と, 除 雄 した両 性花 に雄 花の 花 粉を 自家 授粉 させ る株 とを 夫 々無 作意 的 に7株 ず つ選 んだ 。同 花授 粉さ せ る株 は 開花 前 日の両 性 花 に袋 を か け,開 花 当 日 の 朝,絵 の 具筆 の先 で花 冠 の中 を 静 かに な でて授 粉 させ(Fig. 2),再 び袋
Fig. 2 Intra self pollination using the writing brush on the hermaphroditic flower
を かけ,花 が 変 る たび に授 粉 用 の筆 な 新 品 と変 え た。 一 方,雄 花 の花 粉を 自家授 粉 す る株 は,開 花 前 貝の両 性花 の雄 しべ を 除 雄 して袋 を か け,同 一株 上 の開 花 前 日の雄 花 に も袋 を かげ,翌 朝そ の 錐花 の葯 を 柱 頭 に こす りつ け て授粉 させ,再 び も との よ5に 袋 を かけ た。 授 粉 は5月 15日∼17日 の10時 前 後 に 行 い,結 果節 位 が結 栗 率,果 重, 種子数 な どに影 響 しな い よ う主 技 の11∼13節 目か ら出 た側 枝の雌 花 に授 粉 を 限定 し,開 花 後60日 に達 した果 実な順 次収 穫 して 調 査 した。 IV.実 験 結 果 A. andronoecious型 とmonoecious型 の 遺 伝 andromoneciousの メ ロ ン は,3本 の 雄 しべ(内2本 は2個 の葯 を もつ て大 き く,残 りの1本 は葯 が1個 で小 さい) と雌 しべ か らな る両 性 花 と,雄 花 を, monoecious型 の メ ロ ン は,退 化 した 誰 しべ の 痕跡 ぶ 花 冠 の基部 に残 つ て い る単性 の 雌 花 と,雄 花 を夫 々1個 体 上 に着 け る(Fig. 3, 4)。 普 通,両 性 花 と単性 の雌 花嫁 主 枝に は着 か ず,側 枝の 第1節 目或 い は2節 目に1花 ず つ 着 器,雄 花 は 主 枝 や 撰1枝の2・3筋 目か ら上 位 の 各節 に3∼5花 ず つ着 く習 性 が あ る。 andromonoecious型 とmonoecious型 の メ ロ ン との F1は い ず れ も全 株 ぶmonoecious型 と な り,F2で は monoecious型 が3, andromonoecious型 が1の 比 に 分 離 し,B1で は 両 型 が1対1に 現 わ れ た 。 観 察 数 と理 論 数 とは どの 場 合 も よ く適 合 し,こ の 形 質 は 単 ∼ の 遺 伝 子 に よつ て 支 配 さ れ,monoecious型 が 優 性 で あ る こ とが 明 らか とな つ た(Table 1)。
Fig. 3 Diagram of flowers, at the time of anthesis, calyx and corolla removed A: Stigma, B: Stamen, C: Rudimentary stamen
Fig. 4 Cross sections of flower buds the day prior to anthesis A: Stigma, B1: Single stamen, B2: Double stamens
と こ ろ が,稀 にandromonoecious型 の 株 に 単 性 の 雌 花 が, monoeciousの 株 に 両 憾 花 の 咲 く の が 認 め られ た 。 す な わ ち,品 種,変 種 あ る い はandromoneciaus型 と monoecious型 と の 雑 種 な ど の 如 何 に か か わ らず,ま た 花 芽 の 分 化 形 成 期 が 比 較 的 低 温 短 日条 件 下 に あ る 春 播 き に も,高 温 長 日下 に あ る 夏 播 き に も僅 か で は あ る が,異 常 な 性 表 境 を し た 花 が 出 現 も,そ の 出 鏡 率 は 総 調 査 花 数 に 対 し て0.4%,株 別 に す る と1.5%を 示 した(Table 2)。 Table 1. Inheritance of andromoneciousness versus monoeciousness in Cucumis Melo L. 1957.
42 園 芸 学 会 雑 誌 第28巻 第1号
Table 2. Abnormal formation of pistilate flower on the andromonoecious plant and of hermaphroditic flower on the monoecious plant in Cucumis Melo L. 1956-1958.
Table 3. Comparison of the function of pollen between hermaphroditic and staminate flower in Cucumis Melo L. 1955.
B.両 性 花 と 雄 花 の 花 粉 機 能 5月 下 旬に ガ ラス室 内 で開 花 した両 性 花,雄 花 と も葯 内 には 多量 の花 粉 が あ り,花 粉稔 性 率 は95%内 外 で両 者 の間 に差 は無 か った(Table 3)。 発 芽試 験 の置 床1時 間 後 の調査 に よる と,花 粉発 芽 率 は両 性花 の 花粉 の方 が76%で 雄 花 よ りや や高 いが,花 粉 管 の長 さは ともに200μ 前 後 で差 は無 かつ た(Table 3, Fig.5)。 授 粉試 験 の結 果 は,両 性 花 の同 花授 粉 を した場 合 も, 除 雄 した 両 性花 に雄 花 の花 粉 を 自家授 粉 した場 合 も とも に 良 く結 実 し,崎 形 果 も出 ず,成 熟 果の 大 き さ,1果 当 りの 充実 種 子数,種 子 重 に も差 は認 め られ ず(Table 3), これ らの種 子 は よ く発芽 し,そ の後 代 も正常 で あつた。 な お,除 雄 に よる授 精 障害 や 傷 も認 め られ なか つた。 以上 の結 果 か ら両 性 花 の花 粉 の機 能 は 雄花 の花 粉に少 し もお と らぬ こ とが 明 らか となつ た。 V. 考 察 A. andrernenoecious型 とmonoecious型 の 遺 伝 HAWTHON, POLLARD(1954)に よ る と ,メ ロ ン の 中 で はEuropean varietiesの 多 く がmonoecious型 で,
大 部 分 のAmerican varietiesはandromonoecious型
で あ り,キ ウ リ で はLemon varietyだ け がandromono
ecious型,ス イ カ で はAngelino Chilean , Baby Deli
ght, Winter Queenな ど が 例 外 的 にandromonoecieus
Fig. 5 Pollen germination of melon after 2 hours of culture on the media
Left: Pollen from staminate flower Right: Pollen from hermaphroditic flower
型 で あ る と し て い る 。 し か し,NAUDIN(1859)はC. Melo L.を10変 種 に 分 類 し て い る が 雌 花 の 性 型 に つ い て は 別 に ふれ て い な い 。 筆 者 ら が 取 り扱 つ て い る カ ラ コ ラ ム ・ ヒ ン ズ ー ク シ 地 域 で 採 集 さ れ た 材 料 や 欧 米 か ら の 蒐 集 品 種 を 調 べ て み て も,雌 花 の 性 型 に つ い て は 変 種 ご と の 画 一 性 は は つ き り し な い 。 これ はC. Melo L.の 変 種 相 互 の 間 で 自 由 に 交 雑 が で き る た め と考 え られ る 。 現 在 ま で の 蒐 集 材 料 に つ い て み る と,改 良 の 手 が あ ま り加 え られ て い な い と 思 わ れ る も の にmonoecious型 の 多 い 傾 向 が あ る。 器 官 の 分 化 が 遅 れ て い る 方 が 原 型 で あ る と言 う考 え 方 か らす る と,雄 しべ の 痕 跡 し か な い 単 性 雌 花 を つ け るmonoecious型 の 方 が 進 化 し て い る こ とに もな り,反 面,自 然 界 で の 突 然 変 異 の 方 向 が 優 性 か ら劣 性 化 す る もの が 多 い と言 う考 え 方 か らす る と優 性 のmo noecious型 が 原 型 と言 う こ とに な る わ け で は あ る が,こ れ ら の点 を 明 らか に し て 野 生 種 の 探 索,あ る い はC. Melo L.の 進 化,分 化 の 機 構 を た ど る 糸 口 とす る に は,な お 多 くの 材 料 を 各 地 か ら蒐 集 し て 検 討 し な くて は な ら な い 。 雌 花 の 性 型 の 明 ら か な 品 種 を あ げ て み る と,本 邦 に千い ま ま で に 導 入 さ れ た 主 要 品 種, British Queen, Sir Dou glasHaige, Earl's Favourite. Honey Dew, Hearts of Gold, Rocky Ford, Barnett Hill Favourite, Scar let, Hero of Locking, Superlative, Blenheim Oran ge, Honey Ballな どや,近 年 ア メ リ カ で 耐 病 性 品 種
と し て 作 出 さ れ たPowdery Mildew Resistant No. 45, U. S. D. A. No. 6, Iroquoisを 初 め,フ ラ ン ス のVilmorin
か ら入 手 したCavaillon Espagnol, depoche, ananas d'Amerique achair rouge. vert grimpantな ど い ず
れ もandromonoecious型 の メ ロ ンで あ る 。monoe cious型 の メ ロ ン で 著 者 らが 保 存 し て い る も の は パ キ ス タ ン のSkardu附 近,標 高2500mで 採 集 され た No. 1154, No. 1157, QuettaのNo. 981, No. 982, No. 983, No. 985, No. 990,ア フ ガ ニ ス タ ンのNo.
1003, No. 1005, No. 111な どで 夫 々特 徴 を もつ て い る 。 F1種 子 の 採 種 の 時 にmonoecious型 で は 除 雄 せ ず に 交 配 で き る 利 点 も あ るの で あ る が,手 元 に あ る こ の 型 の メ ロ ンは 一 般 に 糖 度 が 著 し く低 く,裂 果 し 易 く,果 形 も よ くな い の で,monoecious型 の 遺 伝 子 導 入 の た め に は,こ れ らの 不 良 形 質 との 連 関 に つ い て も究 明 しな け れ ば な らな い 。 andromonoecious型 の メ ロ ン の 株 に 単 性 の 雌 花, monoecious型 の メ ロ ン の 株 に 両 性 花 が 稀 に 出 現 す る 原 因 は よ くわ か らな い が,環 境 に よ つ て 簡 単 に 相 互 で 転 化 す る も の で な く,た とえ 異 常 な 性 表 現 の 雌 花 が 出 現 し て も子 房 は 正 常 に 発 達 し て お り,授 粉 す る と 正 常 な 果 実 に 発 育 す る 。 伊 東(1953),松 島,飛 高(1936) 高 島,奈 良(1952)は キ ウ リや カ ボ チ ャ に 環 境の 影 響 に よ つ て性 の 転 化 が 不 完 全 と な り,両 性 花 の 出 現 す る の を 認 め て い る が,こ の 両 性 花 と雌 花 の 関 係 は メ ロ ンの 場 合 とは 本 質 的 に 違 う も の で あ る。 B.両 性 花 と 雄 花 の 花 粉 機 能 メ ロ ンの 両 性 花 がviable pollenを 持 つ て い る こ と は 早 くか ら認 め られ,萩 原,上 村(1937)は 両 性 花 を 除 雄 せ ず そ の ま ま 被 袋 し て お い て も5%近 い 受 胎 歩 合 を 示 し た と報 告 し, ROSA(1924),阿 部(1939), IVANOFF(1947), WHITAKER, BOHN (1952), HAWTHORN, POLLARD
(1954)な どは 両 性 花 は そ の 花 粉 に 粘 着 性 が あ り,葯 が 柱 頭 の 反 対 側 で 開 くの で 単 独 で は 同 花 授 粉 は 起 りに く い が 蜜 蜂 や 人 工 に よ る 花 粉 媒 助 が あ れ ば 容 易 に 同 花 授 粉 す る と の べ て い る。 し か し,両 性 花 と雄 花 の 花 粉 の 機 能 に つ い て 比 較 研 究 した も の は 少 く,両 性 花 の 花 粉 の 利 用 を と り上 げ た も の は 見 当 らな い 。MANN(1953)は 両 性 花 と 雄 花 の 夫 々1花 当 りの 花 粉 数 に は 差 が な く, 8,000か ら 13,000粒 で あ つ た こ と,ま た 花 弁 の 径 が 大 き く蜜 の 分 泌 時 間 の 長 い 両 性 花 の 方 が 雄 花 よ り蜜 蜂 の 訪 問 が 多 か つ た と興 味 あ る比 較 を 行 い,更 にinter-vineとintra-vine pollinationと で は 結 果 率 に 差 が な か つ た と 報 告 し て い る 。 andromonoecious型 メ ロ ンの 両 性 花 の 花 粉 が 雄 花 の 花 粉 と同 様 の 授 精 機 能 を 持 つ て い る こ とが 明 ら か とな つ た が,マ ク ワC. Melo L. var. Makuwa MAKINOで は す で に 笹 岡(1937)が 両 性 花 の 同 花 授 粉 の 方 が,雄 花 花 粉
44 園 芸 学 会 雑 誌 第28巻 第1号 の 媒 助や 自然授 粉 よ りむ しろ好 成 績 を お さめた と 告 し 田 中,田 端(1953)は 両性 花 の花 粉 は発 芽 能力 は あ るが, 花 粉 管の 伸長 速 度 は雄 花花 粉 よ り遅 かつ た との べ てい る。 また メ ロ ンの両性 花 とは本 質的 に 違 うけ れ ども,松原, 飛 高(1936),高 島,奈 良(1952)に よ る と, monoecious 型 の カボ チ ャに発 生す る畸 形 的両 性 花 の花 粉 は雄花 花 粉 に くらべ る と発 芽 率 は幾分 低 いが,充 分 授精 能 力 を持 つ て いた。 著者 らの行 つた 両 性花 の花 冠 の 中を絵 の具 筆 で な で て 同花 授 粉す る方法 は(Fig. 2),雄 しべ の葯 を直 接柱 頭 に 接 触 させ て授 粉す る従来 の方 法 に比 べ る と,操 作 が手 荒 い よ うに見 える し,充 分 な数 の花 粉 が授 粉 され るか ど う か と言 う不 安 もあ るので,実 際 に メ ロ ンの 多数 個 体に 応 用 してみた が,何 らの障害 もみ られ な かつ た。 またす で に マ ク ワでは 巻ひ げ の先 で両 性花 を 同花 授 粉 させ て採 種 す る方法 が 実 用化 され て い るが,1花 ず つ人 工 媒助 す る メ ロンでは,採 種 は勿 論,普 通栽 培 で も,こ の授 粉法 は 有 利 とな る。 す な わち (1)他 家 の花 粉 を誤 つ て授粉 す る こ とが な くな るか ら 自殖種 子 が確 実 に採 種 で きる。 (2)授 粉操 作 に必 要 な労 力や 時 間 な らびに 被袋 材 料 が 少 くな り能率 が上 る。 (3)メ ロ ンの 雄花 は蕾 の うちに 摘除 す るの で授 粉 用 雄 花 が不 足 す る場 合が あ るが,こ の よ うな時 の授粉 もれ が な くな る。 我 々が 多数 の品 種や 系統 あ るいは 雑種 後代 を 検定 す る た めのself pollinationを 行 う場 合 に,同 花 授 粉の 応 用 価 値 は 更に 高 くな る。 一 方,同 花 授 粉 を 繰 返 し て い る と,自 殖 劣性 の起 る心 配 もあ るが, SCOTT(1932)に よれ ば, 4∼7代 自殖 して もvigorは 失 われ なか つ た と報 告 して お り,筆 者 らの経験 で も5代 く らい の同 花授 粉 の継 続 で は弱 勢化 は認め られ なか つた か ら,ま ず 問題 な い も の と考 え て よい。 VI.摘 要 メ ロ ンの 花 の 分 化 機 構 を 究 明 す る 目的 で,雌 花,両 性 花,雄 花 夫 々 の 花 器 の 構 造 を 観 察 し, andromonoecious 型 とmonoecious型 メ ロ ン と の 遺 伝 関 係 を 調 べ,更 に 両 性 花 と雄 花 の 花 粉 機 能 を 比 較 し,両 性 花 の 同 花 授 粉 に つ い て も 若 干 の 考 察 を 試 み た 。 1. andromonoecious型 の 雌 花 は 雄 し べ,雌 しべ と も よ く発 育 し た 両 性 花 で あ り, monoecious型 の 雌 花 は 雄 しべ が 退 化 し て,そ の 痕 跡 が 花 冠 の 基 部 に 残 つ て い る 単 性 の 雌 花 で あ る 。 2, monoecious型 はandromonoecious型 にこ対 し て 優 性 で,単 一 の 遺 伝 子 に 支 配 され,環 境 に よっ て 互 にこ転 化 は しないが,ま れ にandromonoecious型 の 株 に単 性の 雌花 が, monoecious型 の株 に両 性 花 が 出現 す る。 3.花 粉 発芽 試 験 の置 床1時 間 後 の成 績 に よる と,発 芽 率 は両 性花 の花 粉 の 方が 雄花 よ りや や高 か つ たが,花 粉 管 の長 さに は 両者 の 間に 差 が な く,花 粉 稔 性 は ともに 95%内 外 で あつ た。 4.両 性花 を 同花 授 粉 した 場 合 も,雄 花 の花 粉を 自家 授 粉 した場 合 も ともに よ く結 実 し,充 実種 子 数,果 重, お よび種 子重 に 有意 な差 は認 め られ なか つた 。 5, 両性 花 の 同花 授 粉 は,雄 花 の花 粉を 媒 助す るよ り 授 粉操 作 が簡 単 で,よ り確 実 な 自殖 種 子が 採 種 で きる。 引 用 文 献 1. 阿 部 定 夫.1939.メ ロ ン の 一 除 雄 法 に 就 て.園 芸 之 研 究35. 2. 萩 原 時 雄 ・上 村 邦 之 亟.1937.キ ウ リ属 の 遺 転 学 的 研 究.遣 学 雑. 13(1): 71-79.
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