博 士 ( 工 学 ) 田 中 基 樹
Functional significance of changes in the spontaneous calcium oscillations for the development of ischemic tolerance of neurons m neuron/astrocyte co‑cultures
(ニューロン・グリア共培養系を用いた脳虚血耐性の発現における カ ル シ ウ ム オ シ レ ー シ ョ ン の機 能 的 意 義 に 関 す る 研 究 )
学位論 文内容の要旨
細胞内カルシ ウム濃度の自発的を振動(Ca2+オシレーシjン)は、神経 細胞、グリア細胞両方にみ られる細胞内 情報伝達系として、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長教ど脳における神経回路形成に 重要を役割を 担っていることが報告され ている。さらに近年、このCa2+オシレーションは遺伝子 発現の効率を 調節しているとの報告が誼されている。一方、脳の代表的を病態のひとつである脳梗 塞をどによっ て脳が虚血状態に陥ると、大規模を神経細胞死が誘発される。しかし、事前に非致死 的を虚血を行 うとその後の致死的を虚血 に対して耐性が生じることが 知られている。これを虚血 耐性と呼ぶが 、その発現機序の詳細については未だ明らかではをい。そこで本研究では、ニューロ ン・グリア共 培養系を用いて様々を遺伝子発現の調節を介して誘発されていると考えられている脳 虚血耐性にお けるCa2+オシレーションの 機能的役割を明らかにするこ とを目的とした。本研究の 成果は、脳虚 血耐性の発現におけるCa2+オシレーションの機能的役割 の解明ぱかりでをく、細胞 の 適 応 現 象 に お け るCa゛ オ シ レ ー シ ョ ン の 意 義 に つ い て 重 要 を 示 唆 を 与 え る と 考 える 。 脳虚血は培養 系から酸素とグルコースを除去するoxyge可glucosedeprivation(0GD)によって模擬 し た。本培養系においてPC処置終了20〜24時間後に虚血 耐性が発現することを確認 し、Ca2゛螢 光 指示 薬で あるF1u04‐AMによ りPC処置 終了 か ら20時間 後ま での 細 胞内Ca2+濃度 の変化を観 察した。その 結果、PC処置終了4時間後に おいてCa2゛オシレーション の振動数が、神経細胞、ア ストロサイト ともに未処置に比べて有意 に減少し、8時間後においても減少する傾向がみられた。
虚 血耐 性が 発現 し てい るPC処置終了20時間後では、そ の振動数は未処置と同程度に 回復した。
そ し て 致 死的 を0GD負 荷前 に 、IP3受容 体 の阻 害薬 であ る2APBによ りCa2゛ オシ レー シ ョン の 振動数を滅少 させると虚血耐性が誘発さ れた。逆に、PC処置後にアデ ニル酸シクラーゼの活性剤 であるforskolinを付加し、Ca2+オシレーションの振動数を増加させると虚血耐性の誘発が阻害さ れ た 。 ま た2APBの 前 付加 は、 虚血 時に お ける 神経 細胞 死 誘発 の要 因の ひと つ であ る0GD中 の 細胞外グルタ ミン酸上昇を抑制し、その 上昇の原因と考えられている グルタミン酸トランスポー タGLlHの 発現 を滅 少 させ た。 このGTL‐1の発 現は 神経 ベ プチ ドで あるPACAPに よっ て 調節 さ れていること が先行研究より報告されて いる。そこで、本培養系にP.ACAP受容体の阻害薬である PACAP6−38を 付加した結果、Ca2゛オシレーションの振動数は減少し、GL11.1の発現も減少した。
さ らにP ACAP6‐38の前付 加は、その後の致死的教OGDに対し神経細胞に耐性をもた せた。逆に ―69−
PC処 置後 のPACAP38の 付加 はCa゛ オシ レーションの振動数を増 加させ、PC処置によるGL1ヽ ―1 のダ ウンレギュレーションと虚 血耐性の誘発を阻害した。
以上 、本研究の結果は、PC処置 後の神経細胞およびアストロサイトのCa2゛オシレーション・ダイ ナミ クスの変化が、その後のタンパク発現(とくにアストロサイト・グルタミン酸トランスポータ ばr,1)を調節し、虚血耐性発 現に寄与していることを示唆した。また、このCa2十オシレーショ ン・ ダイナミクスの調節にPACAPが関与していることが示唆 された。
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学位論文審 査の要旨
学 1tL 論文題名
Functional significance of changes in the spontaneous calcium oscillations for the development of ischemic tolerance of neurons in neuron/astrocyte co‑cultures
(ニューロン・グリア共培養系を用いた脳虚血耐性の発現における カ ル シ ウ ム オ シ レ ー シ ョン の 機 能 的 意 義 に 関 す る 研 究)
細胞内カルシウム濃度の 自発的を振動(Ca2+オシレーション)は、神経細胞、グリア細胞両方に みられる細胞内情報伝達系 として、神経細胞の軸索や樹状突起の伸長をど脳における神経回路形成 に重要誼役割を担っている ことが報告されている。さら に近年、このCa2+オシレーションは遺伝 子発現の効率を調節してい るとの報告がをされている。一方、脳の代表的を病態のひとつである脳 梗塞をどによって脳が虚血 状態に陥ると、大規模な神経細胞死が誘発される。しかし、事前に非致 死的を虚血を行うとその後 の致死的な虚血に対して耐性が生じることが知られている。これを虚血 耐性と呼ぶが、その発現機 序の詳細については未だ明らかではをい。そこで本研究では、ニューロ ン・グリア共培養系を用い て様々を遺伝子発現の調節を介して誘発されていると考えられている脳 虚血耐性におけるCa2+オシ レーションの機能的役割を明 らかにすることを目的とした。本研究の 成果は、脳虚血耐性の発現 におけるCa゛オシレーション の機能的役割の解明ばかりでをく、細胞 の 適 応 現 象 に お け るCa2+ オ シ レ ー シ ョ ン の 意 義 に つ い て 重 要を 示 唆を 与え ると 考え る 。 脳虚血は培養系から酸素とグルコースを除去するoxyge映r,lucosedepdvation(OGD)によって模 擬し た。本培養系においてPC処置終了20〜24時間後に虚 血耐性が発現することを確認 し、Ca2+ 螢光 指示 薬で あるFlu04‐AMによ りPC処置 終了 か ら20時間 後ま で の細 胞内Ca2゛濃 度の変化を 観察した。その結果、PC処 置終了4時間後においてCa2゛ オシレーションの振動数が、神経細胞、
アス トロサイトともに未処置 に比べて有意に滅少し、8時 間後においても滅少する傾 向がみられ た。 虚血 耐性 が発 現 して いるPC処置終了20時間後では、 その振動数は未処置と同程 度に回復し た 。 そ し て致 死的 を0GD負 荷前 に 、IP3受 容体 の阻 害薬 であ る2APBによ りCa2゛ オシ レー シ ョ ンの振動数を減少させると 虚血耐性が誘発された。逆に 、PC処置後にアデニル酸シクラーゼの活 性剤であるfbrskoHnを付加 し、Ca2゛オシレーションの振動数を増加させると虚血耐性の誘発が阻 害さ れた 。ま た乙 廿Bの前 付 加は、虚血時における神経 細胞死誘発の要因のひとつで あるOGD中 の細胞外グルタミン酸上昇 を抑制し、その上昇の原因と考えられているグルタミン酸トランスポー
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一
徳
也
剛
俊
眞
原
藤
城
河
遠
栗
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
タGLT‑1の 発現 を滅 少さ せた 。 このGTL−1の 発 現は 神経 ベプ チド で あるPACAPによって調 節さ れてい ることが先行研究より報告さ れている。そこで、本培養 系にPACAP受容体の阻害薬で ある PACAP6‑38を付 加し た結 果、Ca2+オ シレーションの振動数は滅 少し、GLT‑1の発現も減少し た。
さ らにPACAP6‑38の 前付 加は 、 その 後の 致死 的 をOGDに対 し 神経 細胞 に耐 性をもたせた。 逆に PC処 置 後 のPACAP38の 付 加 はCa2+オシ レー ショ ン の振 動数 を増 加さ せ 、PC処置 によ るGLT‑1 のダウンレギ ュレーションと虚血耐性の誘 発を阻害した。
以上、本研 究の結果は、PC処置後の神経 細胞およびアストロサイト のCa2+オシレーション・ダ イナミクスの 変化が、その後のタンパク発現(とくにアストロサイト・グルタミン酸トランスポー タGLT‑1)を調 節し、虚血耐性発現に寄与し ていることを示唆した。ま た、このCa゛オシレーショ ン・ダイナミ クスの調節にPACAPが関与し ていることが示唆された。
これ を要するに著者は、necondido血g処置による脳虚血耐性 発現の機序において、Ca2+ オシ レーショシが 果たしている機能的役割について新知見を得たものであり、細胞の適応現象・自己調 節機能におけ るCa2゛オシレーションの意 義を見出したことは、今後の生体工学の発展に対して貢 献するところ 大をるものがある。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格 あるものと認 める。
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