2.2 波の多項式による近似

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1

1 章 三角関数

波は正弦波とよばれるsinやcosで振動します.なぜ,三角関数が現われ るのかを考えてみましょう.

まず,縦波と横波とは何でしょう.地震にはP波(primary)とS波(secondly) と呼ばれる2種類の波があります.どっちが先に来るかは名前から明らかで しょう.P波が縦波,S波が横波です.横波はその性質上,液体や気体中を伝 わることはできません.したがって,音は縦波です.

波はAsin(ω2πt+α)のように表せます.Aは振幅,ωは振動数,1

ω は周 期,αは位相と呼ばれます.3相交流という3本の線を使う交流はそれぞれ 位相が120ずつずらして送ります.この方が能率がよいのです.大電力の機 器に適していて,エアコンでは200Vの3相交流が使われています.

音は秒速331+0.61Tmで伝わります.Tは摂氏です.15度では秒速約340m になります.

問題 1 100Hzの音の波長はいくつですか.

解.1秒間に340m進んで,その間に100回振動するのだから,波長は3.4m□

ドップラー効果というのがあります.救急車のサイレンが近づいていくと きと遠ざかっていくときでは音の高さが違う現象です.

問題 2 時速36kmで近づいてくる救急車が500Hzの音を出しているとしま す.近づいてくるときと遠ざかっていくときの音の高さを求めてください.

解. 時速36kmは秒速10mなので,近づいてくるときは34010mの間 に500回,遠ざかっていくときは340 + 10mの間に500回振動するので,そ の波長は近づいてくるときは 330

500 = 0.66m,これが秒速340mで来るように 感じられるので

340 x = 0.66 を解いて515Hz,遠ざかっていくときは350

500 = 0.7ですから,485.7Hzに感じ

られる. □

(2)

私たちが普通使う電気は交流100Vです.関東地区では50Hzの振動をしま す.電池は1.5Vの直流です.これはずっと1.5Vですが,交流の100Vってど こでしょう.50Hzの交流は1秒で50回振動しますから,時間をtで表して,

時刻0で0Vなら

f(t) =Asin(2π×50t) のように表せます.オームの法則など

E=IR, W =EI

を思い出しましょう.Iは電流(アンペア),Rは抵抗(オーム),Wは電力(ワッ ト),すなわち1秒あたりの消費エネルギーを現します.1オームの抵抗に流れ る電流は直流100Vなら100Aで,そのときの消費電力は100×100 =10KW になります.交流の場合,面倒なので 1

Hz,すなわち2π秒に1回振動する として

f(t) =Asint

としましょう.オームの抵抗に流れる電流はやはりf(t)ですから,電力は f(t)2になります.1周期の間に使われる電力は

0

f(t)2dt=A2

0

sin2t dt=A2π

直流100Vで2π秒に使われる電力は10000×2πなので,これを等しくすれ ばいいので,A= 100

2になります.

家庭には100Vの他に三相200Vも入っています.主にエアコンなど大量 に動力を使うものに用いられます.電柱にある変圧器で6000Vから落として います.

ファラディの電磁誘導の式は

V(t) =−NΦ(t)

です.ここでΦ は磁力,Nは巻数です.逆に,電力が変化するとき,磁力 を生み出します.発電は磁石を回転させることで磁力の周期的変化を生み 出し,それによって電気を作りますから,交流になります.この原理を使う と磁石の片側にN1回巻き,他方にN2回巻いて,片方にAsinωtの交流を 流すと磁力はΦ(t) = AN1

1cosωtで流れますから,これによって,他方に V(t) =ANN2

1sin(ωt)の電気が流れることになります.つまり,電圧の変化が

できたわけです.電気が変化しない直流では電圧を変化させることはできな いのです.

このようにして,電流の変化は磁力を生み出し,磁力の変化は電流を生み 出します.こうして,電磁波な真空中も伝わることがわかります.ファラディ によって見いだされた事実はマクスウェルによって数式へとまとめられ,電 磁気学は完成します.ところがそのマクスウェルの微分方程式からは電磁波

(3)

3

(光も含めて)の速度が導かれます.これは私たちの直感とは反します.光と 平行に同じ速度で走れば,光の速度は0に見えるはずです.この矛盾を解決 したのがアインシュタインの相対性理論だったのです.一般化された相対性 理論はブラックホールを予言する一方で,カーナビの精度をあげるのに用い られています.1906年に発表されたとき,世界で数人しか理解できないとい われた相対性理論も,速度の変化しない特殊相対性理論ならば,2×2の座 標の置換行列として,数学科の1年生なら誰でも理解できるようになってい ます.

1Wの電力が1秒流れると1J(ジュール)です.1 J=4.2calです.ダイエッ トなどで使われるのはKcalで,Calと書くこともあります.国際規格(MKS 単位系という)として,カロリーは使わないことになったのですが,いまだ に非科学的な人の間では使われています.マイルやヤードに固執するどこか の国の人と一緒ですね.100Wの電球を1日つけておくと

100×3600×24 = 8640000 J = 2057 Kcal

となり,人が1日に必要なエネルギーぐらいになります.こんな大量の熱を 出すものを燃えやすいもののそばに置いておけば火事になります.

ちなみに日本のドライヤーは1500Wぐらいのものが多いと思われます.こ れは100Vのときですから,電流はI = 15A,抵抗は10015 = 203 オームです.

これをアメリカやヨーロッパの200Vのコンセントにさすと電流は200 = 203I ですから,I= 30A流れ,電力は6000Wと4倍になり,コードは燃えだす ことでしょう.こうした常識は身に着けておきましょう.

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2 音楽と数学

2.1 和音

音は正弦波で記述されることは既にご存知でしょう.ラの音は440Hzと 1939年にロンドンで開かれた国際標準音会議で決めらたそうです.こう定ま るには長い歴史がかかったようで,それ以前にはこれより低かったようです.

しかし,ベルリンフィルなどはこれよりも高いピッチを採用しているようで す.Hzとは1秒間に繰り返した回数のことですから,正弦波が周期2πをも つことを考慮に入れれば,ラの音は

sin 440×2πt

であることになります.あれ,cos 440×2πtではだめなのでしょうか.いい え,これらは同じ音を表します.山や谷の位置がずれているだけですので,こ のことを位相が異なると表現をします.実際にsinとcosの間には

cosx= sin (π

2 −x )

が成り立ちますし,それらを重ね合わせても acosx+bsinx=√

a2+b2sin(x+α) をみたしますから,同じ音であることがわかります.

ある弦を弾いたときに,sinωtの振動が起きたとしましょう.ω/2πHzの音 ですね.弦の上に乗っていますから図2.1のようになっているはずです. こ れがこの弦を弾いたときに起きる1番低い音です.この弦の上には図 2.2の ような音も乗るはずです.式で表せばsin 2ωtになります.さらに,図2.3の

ようにsin 3ωtも乗りますね.ギターのような弦楽器ではちょうど弦の半分の

ところを軽く押さえればsinωtの音が消えて,sin 2ωtの音がでます.13のと

図 2.1: ベースの音

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2.1. 和音 5

図2.2: 1オクターブ上の音

図2.3: 5度上の音

ころを軽く押さえれば,sin 3ωtがでます.この奏法はハーモニックスとよば れます.このように1つの弦から得られる音を高調波といいます.

2つの波sinωtとsinωtを重ねると sinωt+ sinωt= 2 sinω+ω

2 cosω−ω 2 t

と中間の音と,差の半分の音が現れることになります.ωとωが近いときに は,その差の音が聞こえます.これを唸りと言います.楽器を調弦をすると きに唸りを聞いて行ないます.また,和音は比率がきれいな形をしているの で,合わせた音も調和して聞こえると言うわけです.とくに,1つの音とオ クターブの上の音を重ねると 3

2の音,つまり5度上の音が聞こえるというわ けです.

440Hzが図2.1なら,図2.2は880Hz,図2.3は1320hzとなります.880Hz は1オクターブ上のラ,1320Hzは5度上の属音(dominant)のミの音になり ます.オクターブ違いの音はよく調和しますし,ラとミの音も良く調和しま す.さらに,ミの音の弦の3分の1の長さの波長のものはミの5度上のシが 得られます.このようにして,次々に作っていけば音階ができるということ になります.こうしたことに気がついたのはピタゴラスということになって

図2.4: 3度上の音

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表2.1: 音階の比率(ピタゴラス)

ド レ ミ ファ ソ ラ シ

1 9/8 81/64 177147/131072 3/2 27/16 243/128 1 1.125 1.26563 1.35152 1.5 1.6875 1.89844

いるようですが,これを疑う人もいるようです.5度上の音を順に並べると ラファ#ド#ソ#レ#

ラ#ファラ とすべての12音を一回りします.

問題 3 ラを440Hzとして,こうして音階を作ったとき,すぐ上のドの音は

Hzになりますか.

解. ドは9番目の音で23149 ≑1.2なので,440×1.2 = 528Hz □

こうして作った音階は5度の音は調和しますが,1周すると (3

2 )12

= 129.746 で本来一致すべき7オクターブ上の音27とは

129.746

27 = 1.01364

とずれてしまいますし,いわゆる長3和音(ドミソ)もぴったりとはいきま せん.そこで,長3和音を主体に考えたのが純正律と呼ばれるものです.

ドの音をもとに考えましょう.半分の波長は2倍の周波数をもちますが,こ れはオクターブ上のドでした.そして,3分の1の波長,すなわち3倍の周波 数をもつものが5度上のソになりました.4分の1の波長はさらにオクター ブ上のドです.そして,5分の1の波長をもつものはド,ソと調和するミの音 になり.よく調和する長3和音ができます.

ミ という順番で現れます.1オクターブ内なら

ド:ミ:ソ= 1 : 5 4: 3

2 = 4 : 5 : 6

となります.ソドミの順なら3 : 4 : 5と直角三角形の比になるのは不思議で すね.ハ長調の3和音,ドミソ,ファラド,ソシレをすべて4 : 5 : 6となるよ

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2.1. 和音 7

表2.2: 音階の比率(純正律)

ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド

1 9/8 5/4 4/3 3/2 5/3 15/8 2

1 1.125 1.25 1.333 1.5 1.667 1.875 2

ド レ ミファソ ラ シドド レ ミファソ ラ シド

log 1 log 2 log 4

図 2.5: 平均律12音

うにとれば,表 2.2のようになります.これにも欠点があります.C調で調 弦をした楽器ではドミソの長3和音は1つの弦の上にのった音ですからよく 響きますが,他の調の3和音をひくとぴったり調和はしなくなります.そこ で考えられたのが平均律です.ドとその1オクターブ上のド,さらに1オク ターブ上のドは同じ間隔に並んでいると考えれば,対数で考えればよいこと がわかります.そこでその間を図2.5のように12等分して,音階を作ったも のです.表 2.3のようになります.こうすると,長3和音はぴったり調和す るわけではありませんが,どのように転調しても同じような響きが得られる ことになります.

純正律と平均律の同じ音の比を求めると表2.4のようになります.2つの 異なる音を重ね合わせると唸りという現象が聞こえます.純正律の長3和音 や短3和音をならすときれいに調和しているのが図からわかります.しかし,

ハ長調に調律された音階で例えばイ短調の和音レファラをならすと乱れてい るのが図からわかります.この音からは耳障りな唸りが聞こえてしまいます.

また,平均律の3和音でもこれよりは少ないまでも唸りが聞こえます.

短調は4 : 5 : 6のかわりに10 : 12 : 15にとったのが短調です.つまり,基音 と下属音(subdominant)との比を5 : 6にとったものです.ハ長調に調弦したと きのラドミにちょうど等しくなります.短調の3和音は純正律では10 : 12 : 15 となります.比を表にすると表2.5になります.

周波数で表すと表2.6のようになります.純正律の和音をMathematicaで

表2.3: 音階の比率(平均律)

ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド

1 22/12 24/12 25/12 27/12 29/12 211/12 212/12 1 1.122 1.260 1.335 1.498 1.682 1.888 2

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表2.4: 平均律の純正律に対する比

ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド

1 0.997744 1.00794 1.00113 0.998871 1.00908 1.00680 1

表2.5: 純正律の短調

ラ シ ド レ ミ ファ ソ ラ 1 9/8 6/5 4/3 3/2 8/5 9/5 2

鳴らしてみたのが,図2.6です.ドドソミの順に,すなわち周波数で1 : 2 : 3 : 5 の順に鳴らしました.きれいに揃っているのがわかります.同じように短調 を鳴らしたのが,図2.7です.ミが長調に比べて半音低いのフラットになり ますが,比が長調の4 : 5に比べて5 : 6なので最後が少し長調ほどきれいで はありません.それに対して,ハ長調でないイ短調の3和音は明らかにきれ いではありません.これを示したのが図2.8です.それに対して平均律の和 音ははっきりと唸りがみえます.図 2.9は平均律の長3和音です.

2.2 波の多項式による近似

なじみのある関数といえばxx2などを用いた多項式でしょう.正弦波は 多項式は書き表せませんが,かなりよい近似を得ることができます.これは テイラー展開とよばれ,微分積分の基礎で学ぶ重要な公式です.原理的には 高校で習う平均値の定理

f(b)−f(a)

b−a =f(c)をみたすcabの間に存在する

を繰り返し用いたものとみなせます.細かいことをぐちゃぐちゃいわないな らば

f(x) =f(a) +f(a)(x−a) +f′′(a)

2 (x−a)2+f′′′(a)

3! (x−a)3+· · ·

ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド

純正律 528 594 660 704 792 880 990 1048 平均律 523.25 587.33 659.26 698.46 783.99 880.00 987.77 1046.50 ピタゴラス 528.596 594.671 660.00 704.795 792.894 880.00 990.00 1057.19

表2.6: 音階,周波数の比較

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2.2. 波の多項式による近似 9

図2.6: 長3和音

図2.7: 短3和音

図2.8: イ短調の3和音

図 2.9: 平均律の長3和音

(10)

1 2 3 4 5 6

-1 -0.75 -0.5 -0.25 0.25 0.5 0.75 1

図2.10: 近似 和の記号∑

を用いれば f(x) =

n=0

f(n)(a)

n! (x−a)n と表せます.f(x)を

N1 n=0

f(n)(a)

n! (x−a)n で近似すると,ちょっと乱暴な記述をすると誤差は

f(N)(x) N! xN ぐらいになります.

正弦波なら

(sinx) = cosx, (cosx)=sinx より

(sinx) = cosx, (sinx)′′=sinx, (sinx)′′′=cosx, (cosx)(4)= sinx と繰り返しになることに注意すれば

cosx= 1−x2 2 +x4

4! −x6 6! −x8

8! +· · · sinx=x−x3

3! +x5 5! −x7

7! +· · ·

となります.n!はとてつもなく速く大きくなりますから,これはすばらしい 近似になります.誤差を0にすることはできませんが,1周期の誤差を1/1000 にするには,2πまで求めればいいので

(2π)N N! < 1

1000

となるNを求めればよいわけで,N = 22であることがわかります.実際に やってみるとx2まで,x4までからx12まで近似したのが図2.10です.さら にx22までの近似とcosxを重ねたのが図2.11です.2つの曲線がまったく 重なっていることがわかります.

(11)

2.2. 波の多項式による近似 11

1 2 3 4 5 6

-1 -0.5 0.5 1

図2.11: 近似

しかし,ラの音cos 440×2πxではよい近似ではありません.時間1まで,

近似するにはx= 440×2πまで考えなければなりません.そうなると なん

N = 7509まで求めなければならないことがわかります.これはどんなに

ばかげたことかは7509!がどんな数かを考えてみればわかります.

テイラー展開は多項式で関数が「近似」できることを言っています.三角 関数の他に重要な関数のテイラー展開として

ex= 1 +x+x2 2 +x3

3! +· · ·=

n=0

xn n!

があります.この式にx= 1を代入すると e= 1 + 1 +1

2 + 1 3!+· · ·

eの値が得られます.さらに,これと三角関数のテイラー展開と比較する ことで

eix= cosx+isinx

というオイラーの公式です.これを用いると三角関数は指数関数の実部と虚 部であると言えます.和積の公式,倍角の公式などは単なる指数法則である ことがわかります.例えば,倍角なら

cos 2θ+isin 2θ=ei2θ= (e)2= (cosθ+isinθ)2= cos2θ−sin2θ+2isinθcosθ の左右の実部同志,虚部同志を比較することで導けます.

問題 4 和積の公式をオイラーの公式から導いてください.

解.

cos(α+β) +isin(α+β) = ei(α+β)=e×e

= (cosα+isinα)(cosβ+isinβ)

を展開して,実部,虚部を比較すればよい, □

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他にもtanの逆関数arctanのテイラー展開は y= arctanx⇒x= tany⇒1 = 1

cos2y dy dx により

(arctanx)= 1 1 +x2

が導かれ,続けて微分することでarctanxのテイラー展開は arctanx=x−x3

3 +x5 5 · · · であることがわかります.この式にx= 1を代入すると

π

4 = 11 3 +1

5− · · ·

πを求める式が得られます.しかし,この式は収束が遅くて使い物になり ません.マチンの公式

tan(π

4 4α) = 1

239 (tan1 5 =α) つまり,

π

4 = 4 arctan1

5 arctan 1 239 をテイラー展開に代入するとπのよい近似が得られます.

問題 5 マチンの公式を用いて,3.14がπの近似値であることを確かめてく ださい.

解.

arctan1

5 = 1 5 1

533+· · ·≑0.197333 arctan 1

239 = 1

239 − · · ·≑0,0041841

を用いるとπ≑3.14が導ける. □

個別の関数に多項式が「近づく」という表現ではなくて,関数を1つの空 間と考えて,その空間の中で多項式がどのようになっているかを考えてみま しょう.C[0,1]を区間[0,1]の上の連続関数全体とします.その中に,

||f||= max

0x1{|f(x)|}

とおいて,関数同士の距離を||f−g||で定義します.これを一様ノルムと言 います.単に原点からの距離という意味です.こうすると,C[0,1]は距離の ある空間になるのです.

dが空間Xの距離とは

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2.2. 波の多項式による近似 13 1. d(x, y)≥0かつd(x, y) = 0ならばx=y

2. d(x, y)≤d(x, z) +d(z, x) (三角不等式) をみたすことです,

問題 6 上の一様ノルムから導かれる距離がC[0,1]の上の距離であることを 確かめてください.

解.||f−g|| ≥0であること,および||f −g|| = 0ならばf =gであるこ とは容易にチェックできる.三角不等式は

||f−g|| = max

0x1|f(x)−g(x)| ≤ max

0x1{|f−h|+|h−g|}

max

0x1|f −g|+ max

0x1|h−g|=||f −h||+||h−g||

により導かれる. □

問題 7 f(x) =x2,g(x) =x3の距離||f−g||を計算してください.

解. h(x) =x2−x3とおいて,その極値を求めることで||f −g||=274

さらに,関数論で有名な大数の法則を使うと次のようなことが成り立ちます.

定理 1 (Weierstrass) C[0,1]の中で多項式全体P[0,1]は一様ノルムについ て稠密である.

証明. Xixの値 0 1 確率 1−x x というベルヌーイ型の確率変数をとる.

Sn=

n

i=1

Xix

とおく.

任意の連続関数fに対して pn(x) =E[f(Sn/n)] =

n

k=0

nCkxk(1−x)nkf (k

n )

(Bernstein)

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f は一様連続であるので,任意のε >0について∃δ >0 s.t. |x−x|< δ⇒

|f(x)−f(x)|< εである.

|f(x)−pn(x)| = E

[

f(x)−f (Sn

n )]

E[

f(x)−f (Sn

n )]

=

{ω:|Sn(ω)/nx|≥δ}

f(x)−f (Sn

n )dP +

{ω:|Sn(ω)/nx|}

f(x)−f (Sn

n )dP

max 2|f| ×P {

ω∈Ω : Sn(ω)

n −x ≥δ

} +ε

max 2|f| × x(1−x) 2 +ε

max|f| 2nδ2 +ε

ここで,E(Xix) =x, V(Xix) =x(1−x)に注意して,チェビシェフを用いた.

したがって,sup norm

||f−pn||< max|f|

2nδ2 +ε→ε

により証明を終わる. □

このことは,実数の空間に置き換えると,多項式は有理数のようなものであ ることを示しています.

2.3 フーリエ級数

音や画像は波の重ね合わせで得られます.それを多項式を用いて近似しよ うとすると,前節でみたようによい近似は得られません.そこで,正弦波で 音や画像を近似しようというのが,フーリエ級数です.その歴史は古く,フー

リエ(1768–1830)が熱方程式を考えていく中で考えだしたものらしいのです.

不連続な関数でさえ正弦波を用いて近似できるということは不自然だと,多 くの著名な数学者(ラプラス,ラグランジェ,ルジャンドルなど)によって批 判されました.しかしそれが幅広く応用に成功したことは,コーシー,ディ リクレ,ワイエルシュトラス,リーマン,カントール,ルベーグなど近代数 学の夜明けを告げる数学者たちに大きな刺激を与えました.初期には様々な 技術的困難と思われたものが,本質的な問題であることがわかり,その解決 には関数解析の完成を待たねばならなかったのです.

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2.3. フーリエ級数 15

1 2 3 4 5 6

0.2 0.4 0.6 0.8 1

図2.12: 鋸波

2 4 6 8 10 12

-1 -0.5 0.5 1

図2.13: 方形波

ちょっといかがわしい結論を述べるならば,区間[0,2π]の上の関数全体に ついて,

1,cosx,cos 2x, . . . sinx,sin 2x, . . .

が基底になるというものです.いいかえれば,任意の関数はこれらの和で f(x) = a0

2 +

n=1

ancosnx+

n=1

bnsinnx と表されるというわけです.そして

a0= 1 π

0

f(x)dx an= 1

π

0

f(x) cosnx dx bn = 1

π

0

f(x) sinnx dx と求めることができるのです.

実際に,応用上重要な関数のフーリエ級数を求めてみましょう.1つは鋸 波,もう1つは方形波とよばれるもので,鋸波はテレビの走査線,方形波は コンピュータで0と1を表すのに用いられるものです. これを7倍の高調波 までで近似すると図2.14と図2.15のようになります.まだ,途中ですが結 構近く見えるでしょう.19世紀にフーリエがこの事実に気付き,いろいろな

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2 4 6 8 10 12 0.2

0.4 0.6 0.8

図2.14: 鋸波の近似

2 4 6 8 10 12

-1 -0.5 0.5 1

図 2.15: 方形波の近似

応用が得られました.この理論を数学的にきちんと整理ができたのは20世紀 になってから,ルベーグにより新しい積分の概念が作られてからです.関数 の集合として,例えば[0,2π]の上の積分ができる関数全体

L1[0,2π] ={f:

0

|f(x)|dx <∞}

または

L2[0,2π] ={f:

0

|f(x)|2dx <∞}

を考えます.L1[0,2π]ではノルムを||f||1 =∫

0 |f(x)|dx, L2[0,2π]ではノ ルムを||f||2=√∫

0 |f(x)|2dxとおくと,これらは距離空間になります.さ らに,完備性という実数がみたすべき性質を満たしているので,関数の空間 が実数の空間と同様に扱えることがわかります.これらは線形空間でもあっ て,L2[0,2π]では

(f, g) =

0

f(x)g(x)dx が内積になることも証明できます.この内積で,

1,cosx,cos 2x, . . . sinx,sin 2x, . . . が直交基底になります.すなわち,例えば

(sinx,cosx) =

0

sinxcosx dx= 0

(17)

2.3. フーリエ級数 17 が成り立ちます.こうして,音や映像がベクトルとみなせるということにな ります.これがディジタル技術の基礎理論なのです.

問題 8

1,cosx,cos 2x, . . . sinx,sin 2x, . . . を正規基底にしてください.

解.

1 2π, 1

√πcosx, 1

√πcos 2x, . . .

1

πsinx, 1

√πsin 2x, . . .

Figure

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