29
本庄源 加藤真帆
板倉礼子 吉村凛々 大森日菜
W W C 班
30 1. 導入
1.1 電子書籍の現状
私たちは電子書籍からインターネット時代のコンテンツの可能性を読み解く。現在の電 子書籍の現状として、日本では書籍全体の売り上げは減少傾向にあるが、詳しく見てみると、
紙媒体の購買数は減少しているのに対し、電子書籍の購買数は上昇していることがわかる。
全国出版協会が発表した 2019 年上半期の出版市場においては,紙+電子で 1.1%減の
7,743億円である。紙の出版市場は4.9%減となったが,電子出版は22.0%もの増加となっ
ている。
世界的にも、紙の書籍の売り上げは世界的に減少傾向が続いている。2011年から15年ま でに市場は8%ほど縮小した。一方、電子書籍の売り上げは同じ期間に2.5倍に拡大した。
日本では2010年が電子書籍元年と言われており、日本の電子書籍を取り巻く状況が大き く変化した。理由としてiPad発売が発売され、電子書籍機能への大きな注目が集まったこ とと、大手出版社が独自の電子書籍サイトを開設したことがあげられる。
以上のことから年々電子書籍の需要が高まっていることが読み取れる。
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
2018年1~6月期(億円) 2019年1月~6月期(億円)
紙の売り上げ 電子の売り上げ
31 1.2モーションコミックとの出会い
SNSが発展している今だからこそ、弱小商品(埋もれているもの・一般人が書いたもの)
を見つけることができると考え、従来の紙の書籍の表現方法とは全くちがうコンテンツを 探した。紙の書籍と電子書籍においての表現方法の違いは文字数であることがわかった。電 子書籍は紙書籍より大幅に文字数が減らされている。理由は2点ある。1つ目は、電子書籍 はスマートフォンで読まれることが多く、文章量が多いと読むのに疲れてしまうからであ る。2つ目は、電子書籍は通学や通勤時の電車内やお昼休みなどの隙間時間に読まれること が多いからである。
読みやすさという観点から、コマ送りが不要で、台詞を読み上げてくれる機能がついたコ ンテンツが適切であると考えた。そこから、漫画のようで漫画でなく、アニメでもないモー ションコミックというコンテンツを見つけた。
2.モーションコミック
モーションコミックとは、マンガ家の描いた絵に色を付けて、声優が音声を入れ、動きや 音楽で演出した動画コンテンツのこと。マンガを動画コンテンツにすることで、マンガの読 み方に慣れていない海外のファンにも作品の魅力を伝えられる、マンガでもない、アニメー ションでもない、新たなコンテンツのカテゴリーである。さらに、マンガやアニメの特性を 活かした多彩な表現力に加え、多言語への翻訳対応からあらゆるデバイスへ展開が可能。
(AFJERCA BEAT説明資料)
あまり馴染みがないコンテンツであると思われるが、日本では外務省が中堅・中小企業向 け海外安全対策マニュアルとしてゴルゴ13のキャラクターを起用したモーションコミック を制作している。
3.調査
3.1アフジェリカへのインタビュー
モーションコミックになっている作品の中に週刊少年マガジンでベストセラーを誇った シュートというサッカー漫画があった。私たちは、シュートのモーションコミックを作成し た株式会社アフジェリカに、なぜモーションコミックを取り入れたのか知るためにインタ ビューを行った。株式会社AFJERICA(アフジェリカ)は、アフリカを中心に世界に向けて、
無料通話やモーションコミックのプラットフォームを展開し、通信事業を行っている会社 である。日本のマンガなどのデジタルコンテンツやIT技術の輸出を行うとともにアフリ カで事業を展開したい企業の手助けをしている。
32
インタビューに応じてくださったのは取締役の岸本一生さん。事前に用意した質問は以 下の6点である。
①. 事業内容について
②. モーションコミックに着目した理由
③. モーションコミックの制作方法
④. 事業実施後の取引先(国内・海外)の反応
⑤. 事業実施後の読者の反応
⑥. 今後の読書文化(紙媒体・電子書籍)の展望
3.2 インタビュー結果
私たちはインタビューを元にモーションコミックを利用した理由について以下のように まとめた。
理由は3点ある。
1つ目は BEATというコミュニケーションアプリを広めるためだ。アフリカでは、日本 語のような共通の言語が存在せず、コミュニケーションをとることが難しいうえに、日本の LINEのように誰もが利用している共通のアプリもなかったそうだ。これらを解決するため にアフジェリカは、ルワンダ政府と共同で BEATというコミュニケーションアプリを開発 した。アプリ内のスタンプ機能によって異なった言語を話す人でもコミュニケーションが 取れる環境を作り、さらには、無料通話や決算システムなどアプリ内でさまざまなことを行
33
えるようにした。そんな BEATをより多くの人々に広めるために、製作コストが低くアフ リカの通信回線でも視聴できるデーター量の少ないモーションコミックを利用したそうだ。
2つ目は、道徳教育の普及の手助けのためだ。日本の子供たちは、幼いころからドラえも んやアンパンマンといったアニメや漫画に触れて来た。私たちはそこから、愛と勇気、友情・
努力・勝利といった感性を自然に身に着けてきた。一方で、アフリカの子供たちは、アニメ や漫画に触れる機会が少ないかわりに草原や道路の上を裸足でサッカーをする機会が多く ある。そこから子供たちがスポーツ漫画を通して学ぶきっかけを与えることができないか と考えたそうだ。それがスポーツ漫画だった。しかしアフリカの子供たちにとって漫画を読 むのは難しく、また日本の漫画の読み方がわからない子供たちがたくさんいた。その背景か ら誰でも簡単に理解しやすいモーションコミックを取り入れたそうだ。
3点目は、文化的交流につなげるためだ。日本にも独特な文化がある。例えば、一休さん。
坊主頭の人がお寺で生活している姿は日本では当たり前の光景だが、海外の人からすれば 真新しいものに見えるそうだ。そのため、モーションコミックを通じて日本の文化を感じて ほしいとおっしゃっていた。このようにモーションコミックを出発点とし、漫画、アニメや 映画、ゲームコンテンツからさまざまな日本の文化をアフリカの人々に届け、また日本とア フリカの友好的な関係を築けるようにモーションコミックを取り入れたそうだ。
このように、インタビューを通してモーションコミックが新しい世界へと広がる可能性 があることを学んだ。
4.モーションコミックの可能性
アフリカと聞くと、象やライオン・サバンナといった大自然、一方で民族紛争や政治的な 混乱をイメージする人は多いと思う。しかし、実はアフリカはエンターテインメントの分野 で飛躍的な成長をしている地域もある。ナイジェリアの「ノリウッド」は「ハリウッド」に 並ぶ映画産業の拠点である。ルワンダはIT立国としてスマートフォンの急速な普及が進ん でいる。そのため、日本のアニメや漫画のキャラクターがビジネスとしてアフリカで普及す る可能性が大いにあるのだ。
そして、単なるビジネスのためではなく別の大きな可能性もある。それは、アフリカの今の 混乱した状況を少しでも良い方向へと改善することができるかもしれないということだ。
ナショナリズムについて研究に取り組んだベネティクト・アンダーソンは、「想像の共同 体の中で、メディアによって共同体意識が生じるという論議をしている。
34
日本も地域によって方言があり、開発の進み具合には格差がある。しかし、「ドラえもん」
や「サザエさん」といった名前を聞けば、「ネコ型ロボット」「一家団欒」といったイメージ を誰もが思い浮かべるだろう。私たちには、漫画やアニメを通して共通の話題を持ち、同じ ような価値観を共有している側面がある。そんな私たちと同じように、アフリカの子供た ち・若い世代が言語の違いを飛び越えて楽しめるモーションコミックのキャラクターを通 じて価値観を共有することができるかもしれない。そしてそれは、アフリカの今の混乱した 状況を少しでも良い方向へと改善させるかもしれない。
私たちは今回の研究を通して、そういった大きな視点で「ネット時代のコンテンツの可能 性」を感じることができた。
私たちが子供の頃から慣れ親しんできたキャラクターたちが、インターネットというコ ミュニケーションツールを通じて、人々の連帯意識を生み出し平和の架け橋へとなるかも しれない。そう考えるとワクワクしてくる。
35 5.まとめ
今回のイベントのテーマは「発掘良品教えます!~ネット時代のコンテンツの可能性~」
である。その中で私たちは世界規模で発展する可能性を持つモーションコミックについて 取り上げた。モーションコミックがワールドワイドに広がっていくことから、「World Wide
Comic」の頭文字を取って班の名前をWWC班とした。私たちはモーションコミックには、
発展途上国であるアフリカの今の状況を改善する可能性があると考えた。アフリカのイメ ージとして、スマートフォンの普及が進んでおらずインターネット時代のコンテンツとは 関わりがないと思われてしまうが、実際はそうではない。アフリカのルワンダはIT立国と 呼ばれており、スマートフォンと密接に関わっている。そのため、モーションコミックは親 しみやすいコンテンツであると言える。モーションコミックはアフリカだけでなく、各国の 人々に共通の話題をもたらし、同じような価値観を生み出すことができるかもしれない。そ して、漫画という日本の文化がインターネットを通じて世界中で親しまれ、世界平和への架 け橋になる可能性があると大いに感じた。そう考えると期待が膨らむ。
6.参考文献
日本電子出版協会『電子出版クロニクル――jepaのあゆみ』
https://www.ajpea.or.jp/information/20190725/index.html 全国出版協会https://www.ajpea.or.jp/index.html
外務省海外安全ホームページ
https://www.anzen.mofa.go.jp/anzen_info/golgo13xgaimusho.html 株式会社アフジェリカ http://afjrica.com/index.html
Benedict Anderson, 1991, Imagined Communities: Reflections on the Origin and Spread of
Nationalism=白石さや・白石隆,2007『定本 想像の共同体』書籍工房早山
Charles Wright Mils,1959, The Sociological Imagination=伊奈正人・中村好孝,2017『社会 学的想像力』筑摩書房
梅森直之,2007『ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る』光文社