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研究報告 日本生理人類学会誌 Vol.25, No , 紅茶の香りがストレス意識の高い女性の睡眠に及ぼす効果 大野敦子 *1 佐久川千津子 *1 *2 矢田幸博 EFFECT OF BLACK TEA AROMA ON SLEEP IN WOMEN WITH HIGH S

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Academic year: 2022

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(1)

紅茶の香りがストレス意識の高い女性の睡眠に及ぼす効果

大野 敦子

*1

・佐久川 千津子

*1

・矢田 幸博

*2

EFFECT OF BLACK TEA AROMA ON SLEEP IN WOMEN WITH HIGH STRESS CONSCIOUSNESS Atsuko OHNO, Chizuko SAKUGAWA, Yukihiro YADA

Abstract

We have previously reported black tea aroma exhibits a sedative effect by suppressing sympathetic nerve activity and elevating parasympathetic nerve activity. Enhancement of sleep quality is also expected from the sedative effect of this aroma. The effect of black tea aroma on sleep in 20 women with high stress consciousness and sleep disorders; was evaluated in this study using data collected from questionnaires and physical activity measured over a 14 day test period. Psychological effects of reduced stress consciousness were improvement in sleep quality, and greater satisfaction with ease in falling and staying asleep; while physiological data showed reduced sleep latency, an increase in total sleep time, and a significant increase in sleep efficiency. These results strongly suggest black tea aroma improves overall sleep.

キーワード: 紅茶の香り,鎮静効果,睡眠,ストレス

Key words: Black tea aroma, Sedative effect, Sleep, Stress

1. 緒  言

 睡眠で休養が取れていない日本人成人の割合は 20.2%と報告されているが、近年、その割合は年代性 別に関わらず増加している1)。入眠障害、中途覚醒、

早朝覚醒などの睡眠障害により、社会生活において重 大な事故が引き起こされるリスクは高まり、日本の企 業における睡眠の問題による経済損失は、年間 3 兆 665 億円と推計されている2)。また、睡眠の問題によ る生活リズムの乱れは、就業者の作業効率低下だけで なく、生活習慣病やうつの発症を招き、生活の質

(QOL)が損なわれることが危惧される。

 日本全国の成人を対象にした不眠症状と性差に関す る調査によると、入眠困難及び中途覚醒の不眠症状は 女性で有意に多くみられ3)、特に女性は性ホルモン変 動による生理的要因や家庭での育児や介護を担うなど の就労状況や生活環境による社会的要因によって、ス

トレス性の慢性的な睡眠不足に陥っていることか ら4)、簡便で日常的に利用可能な睡眠改善技術の開発、

利用が待ち望まれてきた。

 近年、香りの鎮静作用は、介護領域や不眠改善療法 などへの応用5)、不眠改善による QOL 向上への可能 性が期待されている。これまでの香り研究から、心理 生理学的評価により鎮静効果を有することが明らかに なった香りの多くは、自律神経活動のうち交感神経活 動を抑制し、結果的に副交感神経活動を優位にするこ とで鎮静効果を発現することが示唆されている6)。こ のようなメカニズムで鎮静効果を発現する香りの利用 として、日中の過多なストレスによる夜間の不眠症状 の改善が期待される7)。これまでにも草木由来の香り として鎮静効果を有するラベンダー8)、白檀9)、針葉 樹由来の香気成分セドロール10)の睡眠改善効果が報 告されている。たとえば、セドロールは交感神経活動 の興奮を抑えて副交感神経活動を優位にする作用6)

によって入眠潜時の短縮、中途覚醒の低減、総睡眠量 の増加により睡眠効率を高めることが睡眠脳波の解析 から報告されている10)。なお、紅茶にも含まれる食 品由来の機能性成分として L- テアニン11)や GABA12)

のリラックス効果及び睡眠改善効果は報告されている

*1

三井農林株式会社 R&D グループ R&D Group, Mitsui Norin Co., Ltd,

*2

筑波大学大学院グローバル教育院ヒューマンバイオ

ロジー学位プログラム

School of Integrative and Global Majors Ph. D.

Program in Human Biology, University of Tsukuba

(2)

ものの、これまでに紅茶による睡眠改善効果に関する 報告はない。その要因として、紅茶自体に含有するカ フェインやポリフェノールにより覚醒効果が生じるこ とから、飲用による睡眠改善効果は期待できないとの 示唆もある。

 一方、これまでに筆者らは、嗜好性の高い紅茶の香 りが交感神経活動を抑制し、副交感神経活動を優位に する効果及び中枢神経活動の作用として前頭前野部の 脳血流を低減する効果、抑うつ気分や不安感、疲労感 を低減する心理的な効果を明らかにしてきた13)。し たがって、紅茶の香りを就寝時に使用することで、日 中のストレスで高まった交感神経活動が抑制され、副 交感神経活動への円滑な移行、ひいては、睡眠が改善 することが期待される。

 そこで、本研究では、ストレス意識が高く睡眠に不 満のある 30 ~ 40 代の健常女性を対象に、夜間就寝時 に紅茶の香りを揮散させた条件下で睡眠に与える影響 について検証した。

2. 方  法

2.1 被験者の選出

 被験者は、健常な日本人女性で、週 4 日以上、日中 の時間帯で 1 日 3.5 時間以上働いている勤労女性 20 名(平均年齢 40.0 ± 4.4 歳)を対象とした。すべての 被験者は、実験開始前のスクリーニングにより、喫煙 習慣がない、冷え性ではない、鼻詰まりがない、香り の判別ができる、紅茶の香りが苦手でない、軽度スト レスを有することを確認した。軽度ストレスとは、ス トレスチェックリスト 30 項目(SCL30)14)-16)におけ るストレスレベルが 6 ~ 10 に相当することを条件と した。また、全ての被験者は、ストレスが原因で睡眠 が良くない(入眠に 30 分以上かかる、中途覚醒がある、

起床時の眠気が強い、疲労感が取れていない)と自覚 している、医療機関や市販の睡眠改善薬を使用してい ない、寝室では一人で就寝している、あるいは試験期 間中は一人で就寝できる、スマートフォン・携帯電話・

パソコンの使用を中止することができる、就寝前の入 浴が少なくとも 1 時間前に済ませることができること を同時に確認した。

2.2 実験の倫理審査及び利益相反

 被験者には、あらかじめ試験の内容と施行法を説明 し、書面にて同意を得た。本試験内容は、ヘルシンキ 宣言に示された倫理規定に従い、外部臨床試験委託機 関であるチヨダパラメディカルケアクリニックの倫理 審査委員会にて審査及び承認の下、本試験を実施した

(承認日:2018 年 3 月 16 日)。また、試験開始前に大

学病院医療情報ネットワークセンターに事前登録した

(UMIN 試験 ID:UMIN000031840)。なお、本研究に おける利益相反はない。

2.3 試験品

 試験品は、アロマ夜(紅茶の香り)条件には紅茶香 気水を用い、プラセボ夜条件にはイオン交換水を用い た。使用した紅茶葉は、インド北東部ダージリン地域 の紅茶を選択した。紅茶香気水は、紅茶葉を熱水で抽 出した液を減圧蒸留によって香気成分を回収し、紅茶 の香りを含有する水を調製した。したがって、本液に は、カフェインやポリフェノール類は、含有していな い。就寝時の紅茶香気水の拡散には、超音波式アロマ ディフューザーを使用した。ディフューザーは、枕元 から半径 1 m 程度離れたところに配置し、試験期間中、

毎夜使用した。また、試験品の揮散時間及び揮散量は、

就寝 1 時間前から就寝 2 時間後の計 3 時間に設定して 約 100 cc を揮散させた。

2.4 手続き

 被験者の自宅寝室にて、就寝時に紅茶の香りを揮散 させるアロマ夜と水を揮散させるプラセボ夜の 2 夜条 件を設定し、各 1 週間の計 2 週間実施した。実験スケ ジュールを表 1 に示した。被験者 1 群は、第 1 期(1 日目から 7 日目)はプラセボ夜、第 2 期(8 日目から 14 日目)はアロマ夜のプラセボ-アロマ提示群とし た。被験者 2 群は、第 1 期はアロマ夜、第 2 期はプラ セボ夜のアロマ-プラセボ提示群とした。被験者には、

試験開始日より終了日までの試験期間、日常生活の変 化の有無、就寝時刻及び起床時刻を生活日誌に記録さ せた。試験開始(1 日目)、条件切り替え(8 日目)及 び試験終了(15 日目)の朝、ピッツバーグ睡眠質問 票日本語版(PSQI-J)17)18)、OSA 睡眠調査票 MA(OSA- MA)19)、 ス ト レ ス チ ェ ッ ク リ ス ト 30 項 目(SCL

30)14)-16)の 3 種類の質問紙に記入させた。試験期間中、

入浴時以外は、被験者には Micro Tag 活動量計を腹 部正面に装着させた。

2.5 測定項目及び評価方法

 睡眠の質に関する主観的な評価として、ピッツバー グ睡眠質問票日本語版(PSQI-J)17)18)と OSA 睡眠調 査票 MA(OSA-MA)19)の 2 種類の質問紙を用いた。

PSQI-J は、過去 1 カ月間における睡眠習慣や睡眠の 質に関する 18 質問項目を主観的睡眠の質、入眠時間、

睡眠時間、有効睡眠時間、睡眠障害、睡眠剤の使用、

日常生活における障害の 7 つの要素に分類し、各要素 に 0 点から 3 点までの点数を付けて評価した。0 点か ら 21 点までの総合得点が高いほど、睡眠の質がより

(3)

悪いと評価した。OSA-MA は、起床時の睡眠感と覚 醒状態に関する 19 質問項目を用いて、因子Ⅰ:起床 時眠気、因子Ⅱ:入眠と睡眠維持、因子Ⅲ:夢み、因 子Ⅳ:疲労回復、因子Ⅴ:睡眠時間を評価し、各因子 得点は 50 点を基準とし、点数が高いほど睡眠状態が 良好と判断した。また、ストレス意識の自己評価用質 問 紙 と し て ス ト レ ス チ ェ ッ ク リ ス ト 30 項 目

(SCL30)14)-16)を用いた。回答項目数によりストレス レベルを評価し、0 点から 5 点:ストレスは低く問題 ないレベル、6 点から 10 点:ややストレスが高いレ ベル、11 点から 20 点:本格的にストレスが高いレベル、

21 点以上:専門的な検査、診断が必要など高いスト レスレベルであることから、点数が高いほどストレス 意識が高いと評価した。なお、試験品と提示順などの 情報による心理的な作用が働くために、被験者にはそ れらの情報を与えないものとした。

 客観的な睡眠評価としては、Micro Tag 活動量計 MTN-220(アコーズ社)を入浴時以外は腹部正面に 常時装着し、計測した活動量や体動回数および就寝体 勢から睡眠状態を評価した。計測データは、解析ソフ トウェア(睡眠 / 覚醒リズム研究用プログラム)

Sleep Sign® Act(キッセイコムテック社)を用いて、

入眠潜時、離床潜時、総睡眠時間、睡眠効率等の睡眠 変数及び歩数、運動量(kcal)、総消費量(kcal)を 求めた。プラセボ夜及びアロマ夜の各 7 日間のうち、

解析対象は火、水、木曜日の日中および夜間に亘る 3 日間とした。

2.6 統計解析

 プラセボ夜及びアロマ夜における変化量のデータ解 析には Wilcoxon の順位和検定、被験者群内のデータ 解析には Wilcoxon の符号付順位検定を用いた。心理 指標データの相関分析には Pearson の積率相関係数 を用いた。全てのデータ解析は、統計解析ソフトウェ ア(SPSS Statistics 25, IBM)を用いて行い、有意水 準は 5%とした。効果量(r)は各検定統計量を Z に

変換して求め、効果量の目安は効果量小(r = 0.10)、

効果量中(r = 0.30)、効果量大(r = 0.50)とした。

3. 結  果

3.1 PSQI-J による主観的睡眠の質の解析

 PSQI-J 総合得点の変化量をプラセボ夜、アロマ夜

(紅茶の香り)で比較した(図 1)。プラセボ夜に比し てアロマ夜での変化量は有意に低下し(p < 0.01)、効 果量大(r = 0.74)であった。

 さらに、プラセボ-アロマ提示群、アロマ-プラセ ボ提示群の PSQI-J 総合得点の変動を図 2 に示した。

プラセボ-アロマ提示群において、プラセボ夜にて低 下傾向(p = 0.368)、効果量小(r = 0.29)、アロマ夜 では有意に低下し(p < 0.01)、効果量大(r = 0.91)

であった。一方、アロマ-プラセボ提示群において、

アロマ夜にて有意に低下し(p < 0.05)、効果量大(r

= 0.85)であったが、プラセボ夜では変化は認められ ず(p = 0.739)、効果量小(r = 0.11)であった。すな わち、プラセボ夜に比してアロマ夜では、主観的な睡 眠の質に有意な向上が認められた。

3.2 OSA 睡眠調査票 MA による主観的睡眠感の解析  OSA-MA 因子得点変化量をプラセボ夜、アロマ夜

(紅茶の香り)で比較した(図 3)。因子Ⅰ(起床時眠気)

の変化量は、プラセボ夜に比してアロマ夜では上昇傾 向(p = 0.284)、効果量小(r = 0.24)であった。因子

Ⅱ(入眠と睡眠維持)の変化量は、プラセボ夜に比し てアロマ夜では上昇傾向(p = 0.083)、効果量中(r = 0.38)であった。因子Ⅲ(夢み)の変化量は、プラセ ボ夜に比してアロマ夜では減少傾向(p = 0.287)、効 果量小(r = 0.23)であった。因子Ⅳ(疲労回復)の 変化量は、プラセボ夜に比してアロマ夜では上昇傾向

(p = 0.425)、効果量小(r = 0.17)であった。因子Ⅴ(睡 眠時間)は、プラセボ夜に比してアロマ夜では有意に 上昇し(p < 0.01)、効果量大(r = 0.66)であった。

表 1 実験スケジュール

(4)

 さらに、アロマ夜で変化量の上昇が認められた因子

Ⅰ、Ⅱ、Ⅳ、Ⅴについて、プラセボ-アロマ提示群、

アロマ-プラセボ提示群における OSA-MA 因子得点 の変動を図 4 に示した。プラセボ-アロマ提示群にお いて、因子Ⅰはプラセボ夜にて上昇傾向(p = 0.314)、

効果量中(r = 0.32)、アロマ夜ではわずかに上昇傾向

(p = 0.635)、効果量小(r = 0.15)であった(図 4a)。

因子Ⅱはプラセボ夜にて上昇傾向(p = 0.114)、効果 量大(r = 0.50)、アロマ夜では上昇傾向(p = 0.308)、

効果量中(r = 0.32)であった(図 4b)。因子Ⅳはプ ラセボ夜にて有意に上昇し(p < 0.05)、効果量大(r

= 0.73)であったが、アロマ夜ではわずかに減少傾向(p

= 0.721)、効果量小(r = 0.11)であった(図 4c)。因 子Ⅴはプラセボ夜にて上昇傾向(p = 0.362)、効果量 小(r = 0.29)、アロマ夜では有意に上昇し(p < 0.05)、

効果量大(r = 0.71)であった(図 4d)。

 一方、アロマ-プラセボ提示群において、因子Ⅰは アロマ夜にて有意な上昇(p < 0.01)、効果量大(r = 0.84)、プラセボ夜では上昇傾向(p = 0.248)、効果量 中(r = 0.37)であった。因子Ⅱはアロマ夜にて有意 に上昇し(p < 0.01)、効果量大(r = 0.85)であったが、

プラセボ夜ではほぼ変化はなく(p = 0.878)、効果量(r

= 0.05)は認められなかった。因子Ⅳはアロマ夜にて 有意に上昇し(p < 0.01)、効果量大(r = 0.89)であっ たが、プラセボ夜では減少傾向(p = 0.343)、効果量 中(r = 0.30)であった。因子Ⅴはアロマ夜にて有意 に上昇し(p < 0.05)、効果量大(r = 0.75)であったが、

プラセボ夜では減少傾向(p = 0.180)、効果量中(r = 0.42)であった。

図 1 プラセボ夜、アロマ夜における PSQI-J 総合 得点変化量の比較

(N = 20, Mean ± SE, ** p < 0.01)

図 2 プラセボ-アロマ提示、アロマ-プラセボ提示 両群の PSQI-J 総合得点の変動

(N = 10, Mean ± SE, ** p < 0.01, p < 0.05)

図 3 プラセボ夜、アロマ夜における OSA - MA 因子得点変化量の比較

(N = 20, Mean ± SE, ** p < 0.01)

(5)

 これらの結果から、プラセボ-アロマ提示及びアロ マ-プラセボ提示両群において、アロマ夜で睡眠時間 に対する満足感は有意な向上が認められた。起床時眠 気、入眠と睡眠維持、疲労回復に対する満足感は、ア ロマ-プラセボ提示群においてのみ、アロマ夜で有意 な向上が認められた。

3.3 SCL30 によるストレス意識の解析

 SCL30 によるストレススコアの変化量をプラセボ 夜、アロマ夜(紅茶の香り)で比較した(図 5)。プ ラセボ夜に比してアロマ夜での変化量は、低下傾向(p

= 0.131)、効果量中(r = 0.33)であった。

 さらに、プラセボ-アロマ提示群、アロマ-プラセ ボ提示群のストレススコアの変動を図 6 に示した。プ ラセボ-アロマ提示群において、プラセボ夜にて低下 傾向(p = 0.309)、効果量中(r = 0.32)、アロマ夜で は低下傾向(p = 0.096)、効果量大(r = 0.53)であっ

図 4 プラセボ-アロマ提示、アロマ-プラセボ提示両群の OSA - MA 因子得点の変動

(N = 10, Mean ± SE, ** p < 0.01, p < 0.05)

a. 因子Ⅰ:起床時眠気 b. 因子Ⅱ:入眠と睡眠維持 c. 因子Ⅳ:疲労回復 d. 因子Ⅴ:睡眠時間

図 5 プラセボ夜、アロマ夜におけるストレス スコア変化量の比較

(N = 20, Mean ± SE)

(6)

た。一方、アロマ-プラセボ提示群において、アロマ 夜にて有意な低下(p < 0.05)、効果量大(r = 0.71)、

プラセボ夜ではわずかに低下傾向(p = 0.438)、効果 量小(r = 0.25)であった。すなわち、プラセボ夜に 比してアロマ夜では、ストレス意識の有意な低減が認 められた。

3.4 主観的な睡眠意識とストレス意識の相関分析  睡眠意識の指標として PSQI-J 総合得点、 OSA-MA 因子得点、ストレス意識の指標として SCL30 ストレ ススコアの試験前後の変化量について相関分析を行っ た(表 2)。その結果、PSQI-J と因子Ⅰ(r = -0.432)、

因子Ⅱ(r = -0.545, p < 0.05)、因子Ⅳ(r = -0.415)

に中程度の負の相関が認められた。すなわち、PSQI-J

(睡眠の質)の向上とともに、因子Ⅰ(起床時眠気)、

因子Ⅱ(入眠と睡眠維持)、因子Ⅳ(疲労回復)に対 する満足感が向上したことが示唆された。

 また、SCL30(ストレス意識)と PSQI-J に弱い正 の相関が認められ(r =0.349)、因子Ⅰに弱い負の相 関(r = -0.304)、因子Ⅱ(r = -0.699, p < 0.01)に 中程度の負の相関が認められた。すなわち、ストレス 意識の低減とともに、起床時眠気、入眠と睡眠維持に 対する満足感の向上及び睡眠の質が改善したことが示 唆された。

3.5 身体活動量計による睡眠状態の解析

 睡眠時の身体活動量の解析により算出した入眠潜 時、離床潜時、総睡眠時間、睡眠効率の睡眠変数をプ ラセボ夜、アロマ夜(紅茶の香り)で比較した(図 7)。

その結果、入眠潜時は、プラセボ夜にて 29 ± 3 分、

アロマ夜にて 13 ± 1 分に有意に短縮し(p < 0.001)、

効果量大(r = 0.79)であった。離床潜時は、プラセ ボ夜にて 13 ± 1 分、アロマ夜にて 7 ± 1 分に有意に 短縮し(p < 0.01)、効果量大(r = 0.69)であった。

総睡眠時間は、プラセボ夜にて 304 ± 10 分、アロマ 夜にて 321 ± 12 分に延長傾向(p = 0.323)、効果量 小(r = 0.22)であった。睡眠効率は、プラセボ夜に て 70.0 ± 1.1%、アロマ夜にて 76.4 ± 1.6%に有意に 上昇(p < 0.01)、効果量大(r = 0.66)であった。

 さらに、プラセボ-アロマ提示群、アロマ-プラセ ボ提示群の睡眠変数の変動を図 8 に示した。プラセ ボ-アロマ提示群において、入眠潜時はアロマ夜にて 短縮傾向(p = 0.074)、効果量大(r = 0.56)、離床潜 時はアロマ夜にて短縮し(p = 0.050)、効果量大(r = 0.61)、 総 睡 眠 時 間 は ア ロ マ 夜 に て 延 長 傾 向(p = 0.262)、効果量中(r = 0.35)、睡眠効率はアロマ夜に て上昇傾向(p = 0.059)、効果量大(r = 0.59)であっ

表 2 主観的な睡眠意識及びストレス意識の試験前後変化量の相関分析

(N = 20, Mean ± SE, ** p < 0.01, p < 0.05)

図 6 プラセボ-アロマ提示、アロマ-プラセ ボ提示両群のストレススコアの変動

(N = 10, Mean ± SE, p < 0.05)

(7)

た。

 一方、アロマ-プラセボ提示群において、入眠潜時 はプラセボ夜にて有意に延長し(p < 0.01)、効果量大

(r = 0.84)、離床潜時はプラセボ夜にて有意に延長し(p

< 0.05)、効果量大(r = 0.65)、総睡眠時間はプラセ ボ夜にて短縮傾向(p = 0.139)、効果量中(r = 0.46)、

睡眠効率はプラセボ夜にて有意に減少し(p < 0.01)、

効果量大(r = 0.88)であった。これらの結果から、

プラセボ夜に比してアロマ夜では、入眠潜時及び離床 潜時の有意な短縮、総睡眠時間の延長、睡眠効率の有 意な上昇が認められた。

3.6 身体活動量計による日中活動量の解析

 身体活動量の解析により算出した歩数、運動量、総 消費量をプラセボ夜、アロマ夜(紅茶の香り)で比較 した(図 9)。その結果、歩数において、プラセボ夜 とアロマ夜に差は認められず(p = 0.626)、効果量小(r

= 0.10)であった。運動量においても差は認められず(p

= 0.293)、効果量小(r = 0.23)であり、総消費量に おいても差は認められず(p = 0.445)、効果量小(r =

0.17)であった。

4. 考  察

 本研究では、自律神経活動において交感神経活動を 抑制し、副交感神経活動を優位にする紅茶の香り13)

について、睡眠に不満を感じる健常女性を対象に睡眠 改善効果を検証した。その結果、紅茶の香りを揮散さ せたアロマ夜では、主観的な睡眠の質の向上、起床時 眠気の低減、入眠・睡眠維持、疲労回復感、睡眠時間 に対する満足感の向上が認められ、不眠意識が改善さ れたことが示唆された。また、心理的な効果を裏付け るように、生理的にはプラセボ夜に比してアロマ夜に おける入眠潜時は有意に短縮、離床潜時は有意に短縮、

総睡眠時間は延長、睡眠効率は有意に向上した。プラ セボ夜とアロマ夜における日中の活動量に差が認めら れないことから、紅茶の香りは夜間の睡眠状態を改善 させることが示唆された。これらの結果より、紅茶の 香りは、就寝時の入眠及び覚醒後の起床を円滑にする ことで、睡眠時間を延長させる効果が認められたこと

図 7 プラセボ夜、アロマ夜における睡眠変数の比較

(N = 20, Mean ± SE, *** p < 0.001, ** p < 0.01, p < 0.05)

a. 入眠潜時 b. 離床潜時 c. 総睡眠時間 d. 睡眠効率

(8)

から、結果的に睡眠効率の有意な上昇につながり、心 身両面における睡眠改善効果を有することが強く示唆 された。

 日の入りから夜にかけて、交感神経活動優位から副

交感神経活動優位に移行するのと合わせて、メラトニ ンの産生、脳活動の鎮静化、末梢循環の亢進といった 全身的な変化であるサーカディアンリズムが知られて いる20)。しかしながらこのような自律神経活動をは 図 8 プラセボ-アロマ提示、アロマ-プラセボ提示両群の睡眠変数の変動

(N = 10, Mean ± SE, ** p < 0.01, p < 0.05)

a. 入眠潜時 b. 離床潜時 c. 総睡眠時間 d. 睡眠効率

図 9 プラセボ夜、アロマ夜における日中活動量の比較

(N = 20, Mean ± SE)

a. 歩数 b. 運動量 c. 総消費量

(9)

じめとする全身的な変化は、日中の活動の程度やスト レス状態により大きな影響を受ける。特に自律神経活 動は、交感神経活動から副交感神経活動への移行が妨 げられることから心身の鎮静化の抑制、さらには、入 眠行動が抑制されることになる。したがって、睡眠が 良い状態にあるためには、就寝前に副交感神経活動が 優位な状態であることが望ましいとされている10)。 なお、鎮静効果を有する香りの多くは、交感神経活動 を抑制し、副交感神経活動を優位にすることから、入 眠を円滑にするなどの睡眠改善に有効であると言われ

ている8)-10)。そこで、本研究では、鎮静効果が確認さ

れた紅茶の香りを就寝時に揮散させることにより、交 感神経活動から副交感神経活動の切り替えが円滑に行 われ、結果的に入眠が良好になると考えられた。

 ストレス意識の高低と睡眠の良し悪しは、それぞれ が場合によって原因であり結果でもあるような関連性 を持っている。不安や心理的ストレスは眠りを妨げる ように、睡眠不足や不眠状態であることが心身へのス トレスとなると思考される21)。紅茶の香りには交感 神経活動を抑制し、副交感神経活動を優位にする作用 と合わせて、本試験により、睡眠改善効果(入眠潜時 と離床潜時の短縮及び睡眠時間の延長、ストレス意識 の低減と入眠・睡眠維持の満足感に相関あり)が認め られたことから、その作用の経緯をまとめてみると紅 茶の香りの夜間吸入→日中のストレスなどで亢進した 交感神経活動の抑制→心身の鎮静化→良好な入眠への 誘導→良好な睡眠維持→起床時の目覚めの良さ、疲労 感及びストレス意識の低減へとつながったものと推察 された。

 現代社会はストレス社会ともいわれ、睡眠で十分な 休養が取れない理由に仕事や勉強などによる精神的ス トレスの増加が挙げられている22)。日中に受けたス トレスは交感神経活動を過剰に亢進させるために夜間 の入眠過程を阻害するが、睡眠時に紅茶の香りを使用 することにより交感神経活動が抑制され、高揚しすぎ た心身を鎮静することで、眠りにつきやすい睡眠環境 を提供できるものと考えられる。近年、高ストレス状 態にある女性の不眠に対して、認知行動療法による介 入支援が進められているが、就寝前の心身のリラク セーション法のひとつに紅茶の香りの利用は大きな役 割を果たすものと期待される。

 ただ、香りの利用においては、その香りの質に対す る嗜好性の有無により反応に偏りが生じるため23)、 その香りを感知し認知できること、その香りに対する 嗜好性が高いことが必要とされているが24)、幸いな ことに紅茶は、嗜好品としてすでに世界中で長く飲用 されており、紅茶の香りに対する嗜好性も非常に高い ことから女性に限らず多くの方への活用が期待され

る。

5. 結  論

 本研究では、ストレス意識が高く睡眠に不満がある 女性を対象に、紅茶の香りが睡眠に与える効果につい て検証した。就寝時に紅茶の香りを嗅ぐことにより、

入眠潜時及び離床潜時の短縮、睡眠時間の延長、睡眠 効率を向上させる生理作用と併せて、主観的な睡眠の 質の向上、起床時眠気、入眠・睡眠維持、疲労回復、

睡眠時間に対する満足感の向上及びストレス意識を低 減する心理作用を有することから、ストレス意識の低 減により睡眠が円滑になることが強く示唆された。草 木由来や食品由来の香りは、睡眠中枢に作用して脳機 能を低下させることが危惧される睡眠導入剤とは異な り、交感神経活動を抑制し、副交感神経活動を優位に することでサーカディアンリズムを整え、自然な睡眠 に近い形で、眠りの質を高めることが期待される。今 後は、紅茶の香りの睡眠改善効果に基づいて、交感神 経活動が亢進していて睡眠状態も良くないと言われて いる更年期女性や、中途覚醒後に入眠困難となる高齢 者などを対象にした睡眠改善効果の検証を通じて、よ り実生活に即した睡眠改善法の提案を行いたい。さら に紅茶の香り成分中の有効成分の探索と特定により、

詳細な作用メカニズムの解明を進めたいと考えてい る。

《引用文献》

1)厚生労働省.平成 29 年国民健康・栄養調査報告,

2017

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15)矢田幸博.ストレス応答における心理生理学的な 測定法の概説及び産業界への提案に向けた現状の ストレス評価法の技術的な課題について.ストレ ス科学,30: 260-275, 2016

16)矢田幸博.ストレス評価法に基づく女性の愁訴解

析.COSMETIC STAGE, 2: 87-92, 2008

17)Doi Y, Minowa M, Uchiyama M, Okawa M, Kim K, Shibui K, Kamei Y. Psychometric assessment of subjective sleep quality using the Japanese version of the Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI-J) in psychiatric disordered and control subjects. Psychiatry Research, 97: 165-172, 2000 18)土井由利子,蓑輪眞澄,大川匡子,内山真.ピッ

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19)山本由華吏,田中秀樹,高瀬美紀,山崎勝男,阿 住和夫,白川修一郎.中高年・高齢者を対象とし た OSA 睡眠調査票(MA 版)の開発と標準化.

脳と精神の医学,10: 401-409, 1999

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山崎勝男.高照度光による脳の活動性変化が入眠 過程に及ぼす影響.臨床神経生理学,28: 327-332, 2000

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22)公益財団法人健康・体力づくり事業財団.平成 8 年度健康づくりに関する意識調査,1997

23)古賀良彦,竹内博人.香料が脳機能に与える影響.

フレグランスジャーナル,9: 20-27, 1989

24)矢田幸博.香りの評価における現状の課題と新心 理生理学的評価方法.香料,273: 21-35, 2017

《連 絡 先》

大野 敦子

〒426-0133 静岡県藤枝市宮原 223-1

三井農林株式会社 R&D グループ 基礎開発チーム E-mail:[email protected]

(2019 年 10 月 28 日受付,2020 年 4 月 1 日採用決定,討論受付期限 2021 年 5 月末日)

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