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CoCl 2 存在下におけるがん幹細胞の 赤芽球への分化に関する研究

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(1)

博 士 論 文

CoCl 2 存在下におけるがん幹細胞の 赤芽球への分化に関する研究

令和 4 年 3 月 公文 一輝

岡山大学大学院自然科学研究科

(2)

1

目次

略語一覧 3

用語集 5

概要 7

第一章 序論 9

第一節 近年のがん治療について 10 第二節 研究材料としてのがん幹細胞とその課題 11

第三節 研究目的 12

第四節 想定される分化条件 12

第五節 低酸素条件とCoCl2添加について 13

第二章 実験材料および実験方法 17

第三章 CoCl2添加によるがん幹細胞の分化傾向の検証 25

第一節 はじめに 26

第二節 低酸素条件の模倣および細胞形態への影響 26 第三節 分化方向性に与える影響 30

第四節 血球細胞への分化誘導 36

第五節 まとめ 40

(3)

2

第四章 酸化的リン酸化ががん幹細胞分化に与える影響の検証 41

第一節 はじめに 42

第二節 Oligomycin A処理による検証 42

第三節 まとめ 46

第五章 考察 47

第六章 結論 53

参考文献 55

謝辞 63

(4)

3

略語一覧

APC allophycocyanin

ATP adenosine triphosphate

β-actin beta actin

BF bright field microscopy

β-tubulin beta Tubulin

CAF cancer associated fibroblast

cDNA complementary deoxyribonucleic acid

CD117 cluster of differentiation 117

CD31 cluster of differentiation 31

CD34 cluster of differentiation 34

CSCs cancer stem cells

CoCl2 cobalt chloride

DAPI 4', 6-diamidino-2-phenylindole

DMEM dulbecco's modified eagle medium

DNase I deoxyribonuclease I

EDTA 2,2’,2”,2”’-(ethane-1,2-diyldinitrilo)tetraacetic acid

FBS fetal bovine serum

FIH factor inhibiting HIF

GFP green fluorescent protein

HIF hypoxia inducible factor

HIF-1α hypoxia inducible factor-1α

HIF-1β hypoxia inducible factor-1β

HIF-2α hypoxia inducible factor-2α

HRP horseradish peroxidase

iPS induced pluripotent stem

miPSC mouse induced pluripotent stem cell

NEAA non-essential amino acids

Oct-4A octamer-binding transcription factor 4A

PBS phosphate-buffered saline

(5)

4

PVDF polyvinylidene difluoride

pVH von hippel-lindau protein

pVHL von hippel-lindau tumor suppressor

RNA ribonucleic acid

RT-qPCR reverse transcription- quantitative polymerase

chain reaction

Runx1 runt-related transcription factor 1

SSC side scatter

TAA tumor associated adipocyte

TAM tumor associated macrophage

TER-119 erythroid lineage-119

Tris-HCl tris hydrochloride

Tween 20 polyoxyethylene sorbitan monolaurate

VEGF vascular endothelial growth factor

VEGFR1 vascular endothelial growth factor receptor 1

VEGFR2 vascular endothelial growth factor receptor 2

(6)

5

用語集

CoCl2

Cobalt(II) chloride。塩化コバルト。室温下において桃色の結晶として存在する。本研究

においてはHIF-1αの分解を阻害し、低酸素条件を模倣するために細胞培養時に添加し た。

CSC

Cancer Stem Cell。がん幹細胞。造腫瘍能を持ちながら幹細胞の性質である自己複製

能、多分化能を有している幹細胞。がん細胞を生み出すことから、治療標的として研究 が進められている。

HIF-1α

Hypoxia Inducible Factor-1α。低酸素誘導因子-1α。細胞に対する酸素の供給が不足した際 に誘導される低酸素誘導因子の一つ。通常の酸素濃度条件下では分解が進むが、低酸素 条件下においては安定に存在し、下流遺伝子の発現を行う。本研究においてはCoCl2を 添加した際に低酸素条件を模倣できているどうかの指標に用いた。

iPSC

induced pluripotent stem cell。人工多能性幹細胞。4遺伝子Oct3/4、Sox2、klf4、c-Mycの 発現を組み込むことにより、自己複製能、多分化能を獲得させた幹細胞。

(7)

6 miPSC

マウスiPS細胞。マウス細胞由来のiPS細胞であり、本研究に使用している細胞株は未 分化マーカーとして知られるNanog発現遺伝子のプロモーター領域にGFP(緑色蛍光タ ンパク)の配列を組み込んでいるため、GFPの蛍光強度によって未分化状態のモニタリ ングが可能である。

miPS-LLCcm

上記のmiPSC培養時にマウス肺がん細胞LLCの培養上清(Conditioned Medium)を処理す

ることで誘導したがん幹細胞モデル。本研究においては誘導後の細胞に加えて、マウス に移植を行い摘出、培養を行なったprimary culture細胞を使用した。

Oligomycin A

オリゴマイシンA。抗生物質の一種であり、その中でもATP合成酵素に結合し、酸化 的リン酸化を阻害することで知られている。本研究においてはCoCl2添加時の反応機構 探索のために使用した。

(8)

7

概要

がん幹細胞 (Cancer Stem Cell)とは、自己複製能力と分化能に加えて造腫瘍能を獲得し た幹細胞である。がん幹細胞は、がん細胞を含む様々な細胞に分化することで、腫瘍の 細胞構成を不均一なものへと変化させていく。この現象は、がん幹細胞を取り巻く、腫 瘍内微小環境を構成する細胞、例えば、血管内皮細胞、がん関連マクロファージあるい はがん関連線維芽細胞への分化によって、がん幹細胞自身が更に分化促進される可能性 が示唆されている。これらの性質を有することからがん幹細胞は研究対象として多くの 注目を集めているが、がん幹細胞を研究に用いるにはがん組織中に数パーセント以下し か存在しないなど多くのハードルが存在している。そのような中、著者の所属する研究 室グループにより、マウス人工多能性幹細胞をがん細胞の培養上清存在下で培養するこ とでがん幹細胞が得られることが明らかにされた。得られたがん幹細胞は維持培養が可 能であることから、がん幹細胞のモデル細胞として利用されており、実験の過程で異な る細胞種、例えば、血管内皮細胞、線維芽細胞へ分化することが報告されている。がん 幹細胞が血管内皮細胞へと分化するということは血球細胞へも分化している可能性があ る。しかしながら、この分化を誘導する条件は明らかとなっておらず、その実例は未だ 示されていない。

著者はこの課題を解決するため、がん幹細胞由来の造血幹細胞を血球系細胞へと分化 させる条件の探索を目的として本研究を行なった。

低酸素条件下においては血管内皮細胞への分化が促進されることが知られているので、

同条件下においてはがん幹細胞の血球系細胞への分化も促進されるという仮説を立てた。

(9)

8

この仮説を検証するため、培養細胞に低酸素条件を与えることができる CoCl2存在下 でがん幹細胞モデルmiPS-LLCcm細胞を培養した。適切な期間 (1~7日間)で培養後の細 胞で造血がん幹細胞マーカー、血管内皮細胞マーカー、血液細胞マーカーを中心に解析

した。qRT-PCR 解析により、低酸素条件下では造血幹細胞マーカーの遺伝子発現が上

昇すると同時に、血管内皮細胞マーカーの遺伝子発現減少が観察された。さらに、フロ ーサイトメトリー解析では低酸素条件下で造血幹細胞マーカーCD34および c-kit陽性細 胞の割合が増加していた。そして、免疫細胞染色解析においても同様に低酸素条件下で 造血幹細胞マーカーを発現している細胞が見られた。興味深いことに、一部の細胞では、

同条件下で赤芽球マーカーTER119 の発現が強く見られたことに加えて、赤芽球が赤血 球へと分化する際に発生する脱核も観察できた。さらに、この低酸素条件下での血球細 胞への分化傾向は ATP合成酵素阻害剤である Oligomycin Aを加えることで酸化的リン 酸化を阻害すると抑制され、血管内皮細胞への分化は促進された。

本論文により示したがん幹細胞の血球系細胞への分化は、腫瘍の不均一性を説明する 腫瘍微小環境に対して新しい知見を与えるものである。

(10)

9

第一章

序論

(11)

10

第一節 近年のがん治療について

1981 年以来今日に至るまで、がんは日本における疾病による死因として第1位の座 を占め続けている[1,2]。これは 20 世紀後半から飛躍的に進歩している分子生物学や細 胞生物学ひいては医学の知識や技術とは矛盾した現象であると言わざるを得ない。この 事実は、がんが他の疾病とは異なる複雑な要素を含んでおり、人類がそれらに対応でき る治療法にいまだ辿りついていないことを示すものである。実際、肺がんは小細胞がん、

非小細胞がんおよび扁平上皮がんなど複数の種類に分類される[3-5]。さらに、同種のが んであっても患者一人一人の遺伝子背景が異なるために同じ治療法が通用しないなど、

治療は一筋縄ではいかない。よって、個別化を含めた効果的ながん治療法の研究開発は 今後も重要である[6]。さらに近年、がん幹細胞と腫瘍の微小環境の存在が脚光を浴び ている。がん幹細胞は造腫瘍能を備えた幹細胞であり、多くのがんで報告、定義されて

いる[7-21]。がん幹細胞は腫瘍組織内においても自己複製と分化を繰り返して腫瘍を成

長させる[22]。この際、腫瘍を取り巻く微小環境は腫瘍の生存と成長を促す形で存在し、

がん細胞およびがん疾患の性質を制御する関連細胞の生成に関与することが報告されて

いる [23-25]。加えて、がん幹細胞は化学療法および放射線療法に対して抵抗性を示し、

がんの再発と転移の原因となっている [26-28]。がん幹細胞はがん治療の新しい治療標 的として大きな注目を集めており、腫瘍におけるがん幹細胞の役割を分子レベルで解明 することががん研究における重要課題である。

(12)

11

第二節 研究材料としてのがん幹細胞とその課題

幹細胞の研究を行う環境を整えることは必ずしも容易ではない。まず、腫瘍中に含ま れるがん幹細胞は一般的に数パーセント以下である。加えて、早期発見早期治療が進み、

入手可能ながん患者由来の腫瘍体積が以前よりも小さくなっていることで、がん幹細胞 を入手することは困難な状況にある。動物モデルなどから腫瘍を入手する場合でも、そ のサイズは限定されているため、細胞数には限りがある。さらには、細胞の由来によっ ては研究上の倫理的な問題も存在する。その一方で、成体幹細胞や人工多能性幹細胞 (iPS 細胞)などの幹細胞からがん幹細胞を実験的に作成する試みが著者の所属する研究 室グループで成功しており[29,30]、これらの細胞が上記のようなハードルを越えてがん 幹細胞研究の新たな材料となる可能性が高まっている。作製したがん幹細胞は培養維持 が可能であることから、がん幹細胞のモデル細胞として使用されており、実験の過程で 内皮細胞、線維芽細胞などの細胞種へ分化する能力を持つことが報告されている[31-35]。 最近の研究では、がん幹細胞をマウスに移入すると特定の造血幹細胞マーカーを持つ細 胞に分化し、骨髄に集積しやすくなることが示された[36]。さらに、がん幹細胞集団が 血管内皮細胞へと分化し、新しい血管を作る能力を有している事が明らかになっている [37-39]。がん幹細胞が血管内皮細胞へと分化するということは造血内皮細胞引いては血 球細胞へも分化している可能性がある。しかしながら、この分化を誘導する条件は明ら かとなっておらず、その実例は未だ示されていない。

がん幹細胞が血球細胞へと分化するならば、腫瘍自身が血液を生産する機構が存在す る可能性があり、腫瘍内の不均一性の観点からもその解明は急務である。しかしながら、

この分化を誘導する条件は未だ不明であり、その実例は未だ示されていない。

(13)

12

第三節 研究目的

本研究はがん幹細が造血幹細胞を経て血球系細胞へと分化させる条件を探索すること を目的とした。がん幹細胞が特定の条件下で造血幹細胞の性質を示すだけでなく、さら にがん関連の血液系細胞への分化能を示すことができれば、がん幹細胞が構築する微小 環境をより深く説明することが可能である。微小環境の実態が分かれば、がんの不均一 性への理解が進み、引いては新しいがん治療法の開発にも寄与すると期待される。

第四節 想定される分化条件

がん幹細胞から血球細胞への分化が発生する条件を検討するに当たり、血管内皮細胞 への分化が促進される環境に注目した。血管内皮細胞への分化が促進される環境の一つ には低酸素環境が挙げられる。腫瘍組織内のような低酸素環境では、低酸素誘導因子

HIF-1α の維持蓄積と血管内皮細胞増殖因子 VEGF の発現が促されることにより、がん

幹細胞は血管内皮細胞へと積極的に分化し血管新生を行うことが知られているためであ る[40]。そして、血球細胞の元となる造血幹細胞は血管内皮細胞にも分化することも知 られている[41]。

これらを踏まえ、著者は低酸素条件下においてがん幹細胞の血球系細胞への分化が促 進されるという仮説を立てた。

(14)

13

第五節 低酸素条件と CoCl

2

添加について

低酸素条件下の細胞培養操作を行う場合、主に 2 通りの手法がある。1つは低酸素状 態を維持可能なインキュベータ内で細胞培養を行う手法である。もう一つは培養時に CoCl2を添加することで低酸素状態を化学的に模倣するという手法である。後者では、

培養細胞内の鉄イオンをコバルトイオンに置換して HIF-1α の分解カスケードを阻害す ることにより低酸素状態が構築される。

また、本手法では酸素濃度維持用のインキュベータを必要とせず、培養時に CoCl2を 添加するのみという簡便な作業で酸素濃度維持用のインキュベータで培養を行なった場 合と同様の結果を得ることが可能であり、CoCl2の添加濃度を変更することで最適な条 件の探索も容易である点を評価した。そのため、本研究ではこの CoCl2を用いた低酸素 条件手法を採用した。

この鉄イオンをコバルトイオンに置換して HIF-1α の分解カスケードを阻害する分子 メカニズムは次のように説明される。HIF-1α は通常の酸素濃度下ではユビキチン化に より分解されるが、酸素濃度が低くなると分解が阻害され、核内に移行した後、転写因 子として低酸素応答遺伝子の発現を促進させる[42]。CoCl2の添加により、通常の酸素 濃度下においても低酸素条件下と同様に HIF-1α は分解されないことが知られている (Fig. 1)。

(15)

14

Fig. 1. Schematic drawing of induction of HIF-1α in the several conditions.

Co2+の作用は正常酸素状態で HIF-2α の安定化にも共通で起こり、CoCl2は化学的に低 酸素を誘発する。低酸素状態の誘発メカニズムは次のようにして起こることが知られて いる。正常な酸素濃度では、酸素依存性分解ドメインのプロリン残基でヒドロキシル化 された HIF タンパク質が、E3 ユビキチンリガーゼ複合体の一部であるフォンヒッペル リンダウタンパク質 (pVH) [43]によって認識・ポリユビキチン化されてプロテアソーム で分解される。 Fe2+はプロリルヒドロキシラーゼの低酸素感知ドメインの触媒ドメイン に存在している。プロリルヒドロキシラーゼは、正常酸素条件下で O2を触媒して HIF- 1α をヒドロキシル化する重要な酵素である[44]。CoCl2を加えた場合には Co2+が同条件 下に存在することになる。Co2+は、触媒ドメインの Fe2+を置換して、プロリルヒドロキ

(16)

15

シル化の酵素活性を不活性化することが可能である。Co2+は HIF-2α に直接結合して、

酸素依存性分解ドメイン内での pVHL と HIF-2α の結合間の相互作用を妨害することも 示唆されている[45]。Co2+は、HIF-2α のドメイン内のプロリン残基のヒドロキシル化を 阻害し、pVHL に結合するドメインを占める細胞質 HIF-2α を安定化し、HIF-2α がヒド ロキシル化されていても pVHL と HIF-2α の間の相互作用を阻害することが示されてい る[46]。Co2+はさらに、ヒドロキシル化HIFタンパク質を認識するE3ユビキチンリガー ゼ複合体の重要な成分である Cullin-2 に特異的に結合することが示された。Co2+

Cullin-2への結合はリガーゼ複合体の形成に影響を与えなかったが、Cullin-2活性へのい

くつかの影響が示唆された[47]。

実際の低酸素条件下においては、プロリルヒドロキシラーゼ活性が主に阻害され、

HIF タンパク質の蓄積量が上昇する。次に、HIF-1α/2α は核に移行し、HIF-1β とヘテロ 二量体化し、低酸素応答エレメントに結合して低酸素応答遺伝子をトランス活性化する

[48]。これに対し正常酸素条件下では、HIF-1α のカルボキシル末端ドメインのアスパラ

ギン残基をヒドロキシル化するHIF阻害因子 (FIH) が、HIF-1αと転写コアクチベーター

p300 / CREB 結合タンパク質との相互作用を妨害して転写活性を阻害する[49]。低酸素

条件下では、FIH によるアスパラギン残基のヒドロキシル化が阻害され、p300 / CREB 結合タンパク質複合体が HIF-1α/2α に結合することが可能になり、その結果、HIF によ る転写が可能になる[50]。一方で、Fe2+の枯渇はプロリルヒドロキシラーゼと FIH の両 方の活性を阻害し、HIF-1α は蓄積して活性を示した[51,52]。CoCl2によって誘発される 化学的低酸素は低酸素のメカニズムを模倣していると推測されるが、これは通常の酸素

(17)

16

濃度条件下での現象であり、Co2+はビタミン B12 にも組み込まれる[53]ことを想定すれ ば細胞増殖を誘発する可能性があることには注意が必要である。

これらの機構を踏まえ、CoCl2添加により、がん幹細胞培養においても低酸素条件の 模倣効果が得られると推測する。

(18)

17

第二章

実験材料および実験方法

(19)

18 細胞培養

マウスiPS細胞 (miPSC) (iPS-MEF-Ng-20D-17, Lot No. 012, Riken Cell Bank, Japan) は理 研セルバンクから購入した。このmiPSCに由来するmiPS-LLCcm細胞はChenらが作成 したものを使用した[29]。これらの細胞は未分化マーカーとして知られる Nanog遺伝子 のプロモーター領域にGFP (緑色蛍光タンパク)の配列を組み込んでいるため、GFPの蛍 光によって未分化と分化状態のモニタリングが可能である[54]。これらの細胞はDMEM (Sigma-Aldrich, USA)、15% fetal bovine serum (FBS) (Thermo Fisher Scientific, USA)、 2 mM

L-Glutamine (Nacalai Tesque, Japan)、 0.1 mM non-Essential amino acids (NEAA, Thermo Fisher Scientific, USA)、0.1 mM 2-mercaptoethanol (Sigma-Aldrich, USA) から成るマウス iPS 細胞用培地中で維持した。低酸素状態を誘発するため、細胞に 0~400 M CoCl2

(Sigma-Aldrich, USA)を 1~7 日間処理した。処理期間中、培地は毎日交換した。低酸素

状態と酸化的リン酸化によるATP合成との相関を調べるために、200 M CoCl2処理後2 日目に0~10 M Oligomycin A (MedChemExpress, USA)を細胞に添加し、24時間処理し た。

RNA抽出およびRT-qPCR

TRIzol RNA Isolation Reagents (Thermo Fisher Scientific, USA)を用いて細胞から全RNA を抽出し、DNase I (Promega, Fitchburg, USA)により染色体由来DNAを除いた。続いて、

4 gの全RNAをGoScript ™ Reverse Transcription System (Promega, USA)によってcDNA へと逆転写し、Light Cycler 480 II (Roche Diagnostics GmbH, Germany) とLight Cycler 480 SYBR green I Master (Roche Diagnostics GmbH, Germany) を用いて遺伝子の解析を行なっ た。遺伝子の発現レベルはβ-actinを用いて標準化した。

(20)

19 以下に使用したプライマーの配列を示す。

VEGFR1 (GenBank accession No. NM_010228)

forward: 5'-TGA CCC ATC GGC AGA CCA ATA C-3' reverse: 5'-AATTCCAGCTCATTTGCACCCTC-3'

VEGFR2 (GenBank accession No. X70842)

forward: 5'-TAG GCG CCT GCA CCA AGC CG-3' reverse: 5'-CCT TGC CCT GGC GGA AGC GT-3'

RUNX1 (GenBank accession No. NM_009821.3) forward: 5'-CTG CCC ATC GCT TTC AAG GTG-3' reverse: 5'-CTA TGG TAG GTG GCA ACT TGT GG-3'

CD31 (GenBank accession No. L06039)

forward: 5'- AAC TCC TTC ACC ATC AAC AGC ATC-3' reverse: 5'-AAT GAC GTA GCT CTC GGT GTG-3'

β-actin (GenBank accession No. NM_007393)

forward: 5'-AAA TCT GGC ACC ACA CCT TC-3' reverse: 5'-GGG GTG TTG AAG GTC TCA AA-3'

ウエスタンブロット

まず、プロテアーゼ阻害剤カクテル (動物細胞抽出物用)(Nacalai-Tesque, Japan) を150 mM NaCl、0.5 % Triton X-100および5 mM EDTAを含む50 mM Tris-HCl、pH8.0で100 倍に希釈してLysis bufferとした。細胞をLysis bufferに溶解し、細胞を1レーンにつき 回収したタンパク質30 g当量をアプライして8.5もしくは12.5 % SDS-ポリアクリルア ミドゲルを用いて電気泳動を行なった。泳動後、ゲルに展開されたタンパク質を PVDF 膜 (Immobilon-FL, Ireland)に転写した。PVDF膜を5 % スキムミルク (Snow Brand, Japan)

(21)

20

で30分ブロッキング後、希釈した一次抗体と共に4℃で一晩反応させた。一次抗体と反 応後、0.05 % Tween20 (Nacalai-Tesque, Japan)を含むTBST中で 5分×5回振盪し、二次 抗体を室温で1時間静置し反応させた。ここで用いた一次抗体は以下の通り。

anti-Oct-4A (9B7) mouse monoclonal IgG (希釈率1:1000, #4286, Cell Signaling Technology, MA)

anti-HIF-1 alpha mouse monoclonal IgG (希釈率1:1000, # 241809, R&D systems, MN)

anti-CD31 rabbit polyclonal antibody (希釈率1:500, ab28364, Abcam, UK)

anti-mouse β-tubulin rabbit polyclonal antibody (希釈率1:1000, #2146s, Cell Signaling Technology, MA)

anti β-actin mouse monoclonal antibody (希釈率1:2000, 010-27841, Wako, Japan)

anti-GFP goat polyclonal antibody labelled with HRP (希釈率1:2000, ab6663, Abcam, UK)

二次抗体は一次抗体に対応させて Horseradish peroxidase (HRP)で修飾された以下のも のを使用した。

anti-rabbit IgG goat IgG linked with HRP (希釈率1:10000, #7074s, Cell Signaling Technology, MA)

anti-mouse IgG goat IgG linked with HRP (希釈率1:10000, #7076s, Cell Signaling Technology, MA)

HRP反応はEz West Lumi plus (ATTO, Japan)を使用して行い、蛍光はLight Capture II (ATTO, Japan)もしくはLumino Graph I (ATTO, Japan)を用いて撮影した。

(22)

21 免疫蛍光染色

円形マイクロカバーガラス (d=18 mm, Matsunami, Japan)を 60-mm ディッシュ (TPP,

Swizerland)中に置き、ゼラチンでコートした後 7.0×105 個の細胞を播いた。翌日から

200 M CoCl2を7日間処理後、細胞をPBSで3回洗浄し、4% paraformaldehyde (Nacalai-

Tesque, Japan)により室温で 20 分反応することによって細胞を固定した。続いて、ブロ

ッキング溶液 (10 % FBS、0.05 % Tween 20を含むPBS)により室温で1時間振盪してブロ ッキングを行なった。細胞は前述のブロッキング溶液で希釈した一次抗体と共に 4℃で 一晩静置した。ここで使用した一次抗体は以下の2種類である。

anti-CD34 rabbit polyclonal antibody (H-140) (希釈率1:50, sc9095, Santa Cruz, CA)

anti-mouse TER-119/Erythroid Cells rat monoclonal IgG (希釈率1:100, 116201, BioLegend, CA)

一次抗体による反応後、細胞を PBS で洗浄し、それぞれの一次抗体に対する二次抗 体により室温で1 時間静置して反応させた。

CD34検出に用いた二次抗体は、

anti-rabbit IgG linked with Alexa fluor 555 (希釈率1:1000, A21427, Invitrogen, CA)

TER-119検出に用いた二次抗体は、

anti-rat IgG kinked with Texas red (希釈率1:1000, T6392, Invitrogen, CA)

二次抗体による反応後、細胞を再びPBSで洗浄し、VECTASHIELD Mounting Medium with 4', 6-diamidino-2-phenylindole (DAPI) (Vector Laboratories, CA)を用いて核を染色し、

カバーグラスをスライドガラス (Matsunami, Japan)上に移して固定した。画像は落射蛍 光装置を搭載した蛍光顕微鏡 (IX-80, Olympus, Japan)を用いて観察および撮影を行なっ た。

(23)

22 ライトギムザ染色

円形マイクロカバーガラス (d=18 mm, Matsunami, Japan)を 60-mm ディッシュ (TPP,

Swizerland)中に沈め、ゼラチンでコートした後、ガラス上に7.0×105 個の細胞を播いた。

CoCl2やOligomycin Aを処理した細胞をPBSで3回洗浄し、methanol (Wako, Japan)によ り室温で5分処理して細胞を固定した。そして、Light Giemsa stain I (MUTO, Japan)を用 いて室温で 10 分間染色した。その後、水によって洗浄、風乾した後にカバーガラスを Soft Mount (Wako, Japan)によってスライドガラス上に固定した。染色した細胞の観察、

撮影はbiological microscope (DPTIPHOT, Nikon, Japan) およびデジタルカメラを用いて行 なった。

FACS解析

7.0×105個の細胞をゼラチンでコートした60-mm ディッシュに播種し、200 M CoCl2

処理を3 日もしくは5 日間行なった後、細胞をトリプシン処理によって剥がして、試験

管に回収し、Centrifuge5415R (Eppendorf, Germany)を用いて室温、1500 rpmで10分間遠 心した。遠心後、細胞を PBS に懸濁し、同条件で再度遠心した。遠心後、細胞ペレッ

トを10 % FBSを含むPBSに懸濁した。続いて、細胞懸濁液に一次抗体を室温で30分反

応させた。ここで使用した一次抗体は以下の2種類である。

anti-CD34 rabbit antibody (希釈率1:167)

anti-CD117/c-KIT rabbit antibody (希釈率1:167, #3074T Cell Signaling Technology, MA)

PBSで洗浄を 2回行なった後、二次抗体を室温で 30分反応させた。ここでは以下の 二次抗体を使用した。

(24)

23

antibody linked with Alexa Fluor 647 (希釈率1:1000, #4414S Cell Signaling Technology, MA)

抗体と反応させた細胞をflow cytometer Accuri C6 Plus (BD Bioscience, San Jose, CA)を 用いて分取し、 Flowjo software (BD Bioscience, San Jose, CA)によって解析を行なった。

(25)

24

(26)

25

第三章

CoCl

2

添加によるがん幹細胞の分化傾向の検証

(27)

26

第一節 はじめに

本章ではmiPSC由来のがん幹細胞株miPS-LLCcmの培養を行い、実際にCoCl2を添加

した際の影響について検証を行なった。低酸素条件が模倣されているかどうかの確認、

続いて、がん幹細胞の各種マーカーの解析を実施した。

第二節 低酸素条件の模倣および細胞形態への影響

以前、Chenらはルイス肺がん細胞株の培養上清を 4週間処理して miPSCからがん幹

細胞 miPS-LLCcm細胞を誘導した[29]。この研究に基づいて、マウス iPS 細胞からがん

幹細胞に変換したmiPS-LLCcm細胞に対して低酸素が与える影響を評価した。低酸素状 態とするため、miPS-LLCcm細胞培養時に0~400 M CoCl2を1~7日間添加した。その 期間中、幹細胞マーカーであるNanogプロモーターの下で発現が制御される緑色蛍光タ

ンパク質 (GFP)の蛍光を指標として顕微鏡下で未分化細胞の集団を特定した。その結果、

CoCl2は miPS-LLCcm細胞およびポジティブコントロールである Balb/c 3T3細胞におい

て、シグナル伝達の誘導を示唆するHIF-1αの発現を向上させた (Fig. 2a)。この結果を受 け、低酸素条件として以下に用いる CoCl2の濃度を 200 Mとした。この濃度は既報値 と比較して同等であった[56]。同時に、CoCl2は miPS-LLCcm 細胞の形態に影響を及ぼ し、GFP を発現する未分化細胞のコロニーの周囲に出現する GFP を発現しない線維芽 細胞様細胞への分化を抑制した (Fig. 2b)。CoCl2の処理とは関係なく、GFP 陽性の未分 化コロニーは培養日数に応じて拡大した。また、低酸素条件下においてはがん幹細胞の 元となった細胞であるマウスiPS細胞は3日以上生存することはできなかった (Fig. 2c)。

(28)

27

このことから低酸素条件下におけるmiPS-LLCcm細胞の応答はiPS細胞とは異なる特有 の反応と考えられた。

a

(29)

28

b

(30)

29

c

Figure 2. Effects of CoCl2 on CSC model miPS-LLCcm cells. (a) The increase of hypoxia- inducing factor HIF-1α in miPS-LLCcm cells in the presence of CoCl2 in the range of 0 to 400

M was detected by western blotting (left). The relative densitometric quantification was made by ImageJ (right). Balb/c3T3 cells were put as the reference of positive control. (b) The cell morphology and GFP fluorescence of miPS-LLCcm cells affected by 200 M of CoCl2 during 7 days. (c) The growth of miPS cells was significantly inhibited and differentiated or died during 7 days in the presence of 200 M of CoCl2 . (b, c) BF, bright field. GFP, fluorescence of 530 nm.

Objective lens, x20.

(31)

30

第三節 分化方向性に与える影響

低酸素に起因するがん幹細胞の変化を調べるため、低酸素条件下における分化と幹細 胞性の段階に関連する遺伝子とタンパク質の発現を解析した。まず、血管内皮細胞への 分化能に対する影響をRT-qPCRによるCD31とVEGFR2の発現解析によって評価した。

その結果、血管内皮細胞マーカーであるCD31とVEGFR2の発現は未処理の細胞と比較 した場合、CoCl2の存在下で有意に減少した。しかし、血管芽細胞 (ヘマンジオブラス ト)のマーカーであるVEGFR1には有意な変化は見られなかった (Fig. 3a、b)。フローサ イトメトリー解析により、CoCl2の存在下では造血幹細胞マーカーである CD34 および c-KITの発現が増加することが判明した (Fig. 3c)。CD34陽性細胞は5日間のCoCl2処理

で 46.7%増加したが、CoCl2処理なしでは 4.6%の増加に止まった。また、c-KITは 5日

間の CoCl2処理で 37.7 %増加したが、CoCl2処理なしでも 33.5%増加した。5日目の時

点での差は小さかったが、c-KITの発現はCD34よりも速く現れ、CoCl2処理3日目の時

点でc-KIT陽性細胞が12.4%に増加した。

続いて、miPS-LLCcm 細胞とそれらの腫瘍由来の初代培養細胞の両方で CD34の発現

を免疫蛍光分析によって評価した (Fig. 3d、e)。その結果、CD34 は両細胞において CoCl2存在下で発現が増強されることが確認された。成熟血液細胞への分化に関与する

Runx1の発現が CD34および c-KITの発現と同様に CoCl2の存在下で上昇したことは注

目に値する。これらの結果より、低酸素条件下では HIF-1α の活性化と相関して造血幹 細胞の分化に関連するRunx1の活性化が示唆された。

(32)

31

a

(33)

32

b

(34)

33

c

(35)

34

d

(36)

35

e

Figure 3. Evaluation of the differentiation of miPS-LLCcm cells under hypoxic condition. (a) The expression of hematopoietic markers induced in the presence of CoCl2. The expression of each gene was analyzed by RT-qPCR. The data were statistically analyzed by Student t-test. “*”

depicts P < 0.05. (b) Western blotting analysis of Oct-4A, GFP, HIF-1α and CD31 during 7 days (top). The relative densitometric quantification was made by ImageJ (bottom). (c) Flowcytometric analysis of CD34 and c-KIT positive population vs side scatter (SSC) at day 3 and 5. (d, e) Immunofluorescent analysis of CD34 and DAPI. Objective lens, x40. (d) miPS-LLCcm cells. (e) miPS-LLCcm cell derived primary cells.

(37)

36

第四節 血球細胞への分化誘導

低酸素条件下5日目に観察された造血幹細胞へのがん幹細胞の分化に対して低酸素が 与える影響を評価するため、さらなる解析を行なった。CoCl2処理 7 日目、免疫染色に おいて造血幹細胞マーカーCD34 が発現の増強を示した。それら CD34 陽性細胞集団の 内、DAPI で染色した際に核が見られない細胞がいくつか発見された (Fig. 4a)。さらに、

低酸素条件下で miPS-LLCcm 細胞の初代培養細胞においても同様の細胞が観察された

(Fig. 4b)。核の無い細胞は、赤芽球から赤血球への分化の過程で観察される現象である

脱核[57]の結果生じたものであると推測された。低酸素条件下における赤芽球の存在を 確認するため、赤芽球のマーカーである TER-119 の発現を評価した。その結果、TER- 119 は、免疫染色において未処理の細胞と比較した場合、CoCl2存在下でより強く検出 された (Fig. 4c)。

一般的に血液細胞の検出と分析に使用されるライトギムザ染色により血球の存在を観 察した。その結果、低酸素条件下では赤から紫がかった赤色の呈色を示し、通常条件下 では青色の呈色を示した (Fig. 4d)。結論として、低酸素条件下においてmiPS-LLCcm細 胞は造血幹細胞の状態を経由して赤芽球および赤血球に分化する可能性があることが示 唆された。

(38)

37

a

(39)

38

b

c

(40)

39

d

Figure 4. Hematopoietic differentiation of miPS-LLCcm cells under hypoxic condition. (a, b) Immunofluorescent analysis of CD34 and DAPI. Squared parts of each image are enlarged to show the absence of DAPI staining surrounded by CD34 positive staining. BF, bright field. Objective lens, x40. (a) miPS-LLCcm cells. (b) miPS-LLCcm cell derived primary cells.

(c) Immunofluorescent analysis of erythroblast marker TER-119 together with GFP and DAPI miPS-LLCcm cells. Immunoreactivity to TER-119 was observed in the presence of CoCl2. Objective lens, x40. (d) Light-Giemsa staining of miPS-LLCcm cells. Red coloration was observed in the presence of CoCl2.

(41)

40

第五節 まとめ

CoCl2を添加することにより、がん幹細胞培養条件下においても低酸素条件の模倣に 成功した。この環境においては CD31を始めとする内皮細胞マーカーの発現が抑制され、

CD34、c-kit などの造血幹細胞マーカーの発現が増強された。続いて細胞の脱核および

赤芽球マーカーであるTER-119の発現が観察された。さらにライト・ギムザ染色におい ても赤色の呈色を示すなど、これらの結果は低酸素模倣条件下においてがん幹細胞の血 球系細胞への分化が促されていることを明らかにした。

(42)

41

第四章

酸化的リン酸化ががん幹細胞分化に与える影響の検証

(43)

42

第一節 はじめに

本章では引き続きがん幹細胞を培養条件下にCoCl2を添加し、さらにATP合成酵素阻 害剤であるOligomycin Aを加えることで、低酸素条件下における血球系細胞への分化誘 導にどのような影響を与えるか検証を行なった。Oligomycin Aの添加により血球系細胞 への分化が抑制されるならば、その経路は酸化的リン酸化による制御を受けている可能 性が考えられた。

第二節 Oligomycin A 処理による検証

前章の解析により、miPS-LLCcm 細胞は低酸素条件下で造血幹細胞に分化することが 示された。酸化的リン酸化による ATP 合成を阻害すると、HIF-1α の活性が抑制される ことが以前から報告されていた[52]が、低酸素におけるこのATP合成阻害の効果を調べ

るために miPS-LLCcm 細胞に対して CoCl2存在下で ATP 合成酵素阻害剤 Oligomycin

A[58]による処理を行なった。CoCl2処理を行なった 3 日間の最後の 24 時間に 10 M

Oligomycin Aを miPS-LLCcm細胞の培地へ添加した。その結果、CoCl2によって低酸素

誘導された細胞のコロニー形成はOligomycin A処理による影響を受けなかった (Fig. 5a)。

対照的に、低酸素条件下でのライトギムザ染色における赤から紫がかった赤色への変化

はOligomycin Aの濃度依存的に抑制された。10 M Oligomycin A存在下では色の変化は

ほぼ完全に抑制され、CoCl2 を添加しなかった場合と同様に青色の呈色を示した (Fig.

5b)。造血幹細胞への分化に関しては、CoCl2が分化を促進し、Oligomycin Aが CoCl2の 効果を打ち消していると考えられた。

(44)

43

続いて、CoCl2による低酸素条件下においてOligomycin Aの存在下または非存在下で 血管内皮細胞マーカーCD31 および未分化幹細胞性マーカーOct-4Aの発現解析を行なっ た。その結果、低酸素条件下ではCD31の発現は抑制され、Oct-4Aの発現は抑制された

が、Oligomycin A 存在下ではCD31の発現は促進され、Oct-4Aの発現は特に影響を受け

なかった (Fig. 5c)。

a

(45)

44

b

(46)

45

c

Figure 5. Effect of Oligomycin A on miPS-LLCcm cells under hypoxic condition. (a) Effect on the morphology and GFP expression was not significant in the presence of Oligomycin A. (b) Light-Giemsa staining of miPS-LLCcm cells in the presence of Oligomycin A. Red coloration was inhibited by the increase of Oligomycin A. (c) Western blotting analysis on CD31 and Oct-4A in miPS-LLCcm cells (left). The relative densitometric quantification was made by ImageJ (right).

Oligo, Oligomycin A.

(47)

46

第三節 まとめ

低酸素条件下ではがん幹細胞は造血幹細胞への分化が促進され、血管内皮細胞への分 化が抑制された。これらのことから、低酸素条件下でも造血幹細胞への分化は酸化的リ ン酸化による ATP 合成を必要とするが、血管内皮細胞への分化と幹細胞性の維持には 酸素を必要とするものの、酸化的リン酸化による ATP 合成に完全に依存するものでは ないと考えられる。

(48)

47

第五章

考察

(49)

48

本研究では、CoCl2による低酸素条件ががん幹細胞の分化に与える影響について検討 を行なった。低酸素条件下における細胞への影響については、その事例が多く報告され

ている[59-62]。そして、iPS細胞から誘導されたがん幹細胞モデルを用いたこれまでの

研究においてがん関連線維芽細胞 (cancer associated fibroblast, CAF)やがん関連マクロフ ァージ (tumor associated macrophage, TAM)への分化が既に報告されている[63,64]。しか し、その誘導条件についてはまだ詳細には調べられていなかった。

一般的に造血幹細胞/血管芽細胞 (hemangioblast)は CD34 陽性画分に濃縮されている [65]。また、血管内皮前駆細胞は血管芽細胞から分化していると考えられており、この 前駆細胞は血管新生においてCD31陽性血管内皮細胞 (endothelial cell)に成熟する。これ に関連して、これまでに報告されてきたがん幹細胞の血管内皮細胞への分化[62,66]は血 管芽細胞の分化段階を経て行われると推定された。これらの点を総合し、低酸素条件下 に お い て 、 が ん 幹 細 胞 が 造 血 幹 細 胞/血 管 芽 細 胞 へ の 分 化 を 介 し て 血 球 芽 細 胞 (hematopoietic precursor)へ分化するという考えに至った (Fig. 6)。

(50)

49

Figure 6. Schematic drawing of cancer stem cell differentiating cancer associated cell phenotypes. The CSC model was induced from miPSC[29] and shown to differentiate into cancer associated fibroblast (CAF) [34], tumor associated adipocyte (TAA) [63,67], vascular endothelial cells[68] including tumor associated macrophage (TAM) [63,64]. In this study the direction of differentiation was further demonstrated under hypoxia into TER119+ erythroblast together with enucleation.

(51)

50

実際に、低酸素条件下ではmiPS-LLCcm細胞のHIF-1αの蓄積が増大し(Fig. 2a)、細胞 の輪郭が明確なコロニーが減少してディッシュの底面に接着した細胞が増えた(Fig. 2b)。

GFP陽性細胞は、コロニー形成が弱くなってもコロニー自体は縁が緩くディッシュに接 着した状態で広がるが、低酸素状態の時間長に応じて GFP 陰性細胞への分化が著しく 増加しているのが観察された。数日で分化し、増殖が見られなくなった iPS細胞と比較 すると、がん幹細胞モデルであるmiPS-LLCcm細胞は低酸素に対してより生存性が高い と考えられた。また、造血幹細胞マーカーである VEGFR1、RUNX1 の発現は増加傾向 を示し、血管内皮細胞マーカーであるCD31とVEGFR2の発現は低酸素条件下で減少し た。加えて、造血幹細胞マーカーである CD34およびc-KITの発現は、低酸素状態の期 間に応じて増加した(Fig. 2c)。この結果は、低酸素により血管内皮細胞への分化は抑制 される一方で、逆に造血幹細胞への分化は促進されたことを示している (Fig. 2)。すな わち、がん幹細胞の造血幹細胞への分化は低酸素条件下で促進された。

低酸素条件下の miPS-LLCcm 細胞において、CD34陽性細胞の中で脱核を伴う細胞が 生じていることが観察され、血球細胞の成熟亢進が示唆された (Fig. 4)。一般に、脱核 は赤芽球が赤血球へと分化するときに発生すると考えられるため[57]、この結果は、が ん幹細胞が赤芽球などの血球芽細胞に分化していることを示唆している。この点は赤芽 球マーカーであるTER-119の発現向上および、Light-Giemsa染色において細胞が赤色の 呈色を示した結果からも支持される。

がん幹細胞が低酸素条件によって分化に対して受ける効果を好気的 ATP 合成の点か ら評価するため、CoCl2存在下および非存在下におけるOligomycin A処理を行なった。

その結果、Oligomycin A は血球細胞への分化を抑制する一方で、分化マーカーCD31 は

(52)

51

上昇、未分化マーカーOct-4Aは下降しており、Oligomycin Aが血管内皮細胞への分化を 促進したことを示した (Fig. 5)。このOligomycin Aによる造血幹細胞 / 血球芽細胞への分 化抑制は、Oligomycin A の濃度依存的に赤色の呈色が抑えられたLight-Giemsa染色の結 果とも一致している。つまり、低酸素状態は miPS-LLCcm 細胞の造血幹細胞および

TER-119陽性の赤芽球への分化を促進し、その一方で血管内皮細胞への分化を抑制した

と言える。この知見は、低酸素状態においてさらに酸化的リン酸化による ATP 合成が 抑制されると血管内皮細胞への分化も生じることを示唆している。

低酸素条件下ではがん幹細胞の分化の方向性が血球細胞へ向かうことが分かったが、

酸化的リン酸化による ATP 合成を阻害するとこの分化は阻害された。したがって、低 酸素条件下においては、酸化的リン酸化はがん幹細胞が血球芽細胞への分化を行う際に 必要であると考えられる。

細胞内の ATP 合成は嫌気呼吸である解糖系と好気呼吸の酸化的リン酸化に分類され る[69]。そして、一般的に低酸素状態とされる腫瘍に対してはワールブルク効果が提唱 されている [70,71]。すなわち、がん細胞は主に解糖系を利用して代謝を行うことで、

低酸素環境下でも安定したエネルギー生産が可能であるとされている。しかしながら、

本研究における低酸素条件下でのがん幹細胞の分化は、見かけ上、主としては使われて いないはずの酸化的リン酸化が血球分化に利用されているという結果となった。これら のことを総合的に考えると、低酸素状態はがん幹細胞から血球細胞への分化誘導と幹細 胞性維持の傾向を示す一方で、酸化的リン酸化による ATP 合成にも依存している部分 があり、好気と嫌気のバランスによって血管新生に転じるような状態を保っていると考 えられる。がん幹細胞に限定しなければ、好気呼吸と嫌気呼吸のバランスが細胞の分化

(53)

52

に影響を与えるという報告は以前からあり[72,73]、幹細胞へのリプログラミング時に酸 化的リン酸化と解糖系のバランスを整えることが重要であるという研究も複数報告され

ている[74,75]。同様に、がん幹細胞においても、好気呼吸と嫌気呼吸のシフトが細胞分

化の方向性を決定づける要因の一つであることは十分に考えられる。

がん幹細胞が低酸素条件下で造血幹細胞の特性を示すだけでなく、さらにがん関連の 血液系細胞への分化能を示したことは、がん幹細胞が条件依存的に細胞の階層構造を構 築することを示唆している。腫瘍自身が実際に血液を生産する機構を有している可能性 も考えられるが、その詳細の解明にはさらなる研究が必要である。

(54)

53

第六章

結論

(55)

54

本研究では、がん幹細胞由来の造血幹細胞を血球系細胞へと分化する条件の探索を目 的として解析を行い、以下の結論を得た。

iPS細胞から誘導されたがん幹細胞miPS-LLCcm細胞はがん関連細胞への分化能を有 しているが、血管内皮細胞と血球芽細胞への分化が低酸素状態により影響されることを 示した。特に、がん幹細胞が低酸素条件下において赤芽球および赤血球への分化が示唆 されたことは新しい発見である。また、低酸素下での血球への分化にも酸化的リン酸化 によるATP合成が必要であることも示唆された。これらの知見は、がん幹細胞ががん 組織の階層構造を支える上でエネルギー代謝における好気、嫌気条件のバランスが必要 であることを示すものでもある。本研究で得られた結果は、今後がんの全体像を理解す る上で重要な知見と考えられる。

(56)

55

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謝辞

本研究を行うにあたり、岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科ナノバイオシ ステム設計学研究室の妹尾昌治教授、妹尾彬正特任助教 、Maram HUSSEIN ZAKY

ZAHRA 特任助教には終始丁寧にご指導していただきました事を謹み、感謝の意を表し

ます。

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科ナノバイオシステム設計学研究室の Dr. Said Mohamed Abdelsabour Afify、Dr. Hend Magdy Abdelhamid Nawara、Dr. Hassan Ghmkin Fadel、Ms. Xiaoying Fu、Ms. Sadia Monzur、Ms. Hagar Ali Abdulraheem Abuquora、 Ms. Mona Anas Elsayed abdelmoety Sheta、 上 野 舜 介 君 、Nankai University Affiliated

Maternity HospitalのMs. Yanning Xuには本研究の実験補助、研究内容のアドバイス等を

含む多大な支援を頂きました。心より感謝の気持ちをお伝えします。

徳光浩教授、加来田博貴准教授には本論文作成に当たり、副査としてご助言を賜りま したことを感謝申し上げます。

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科ナノバイオシステム設計学研究室の三 村真梨様には研究室内での業務に関してアドバイスを頂くなど非常に御世話になりまし たことを心から感謝致します。

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研究室に配属され、右も左も分からなかった当時の私に丁寧な指導をしてくださった 水谷昭文助教、笠井智成特任助教、村上宏准教授、池田雅志氏、松田修一氏に心から感 謝を申し上げます。

ナノバイオシステム設計学研究室の既に卒業された方も含めた皆様には公私問わず非 常にお世話になりました。深く感謝申し上げます。

最後に、長期に渡って大学生活を送るわがままな息子を見守ってくれた両親に感謝の 意を表します。

2022年2月

参照

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