中国越境 EC の現状と将来展望
The current status and future of Chinese cross-border E-Commerce
マーケティング事業本部 研究員 徐 思婷 要旨
中国越境EC市場(インターネット通販サイトを通じた他国間の電子商取引を指す。)における日本製品の 需要が拡大している。経済産業省の「平成28年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子 商取引に関する市場調査)」によると、中国個人消費者向け越境EC市場における日本からの販売額は、2015
年の7,956億円に対し、2016年には1兆366億円と30%以上の伸びを示しており、今後の需要拡大も予測
されている。
本レポートでは、中国越境EC市場の現状、成長性及び市場機会や今後の取組課題を明らかにすることによ り、当該市場の将来性や課題を整理する。
Abstract
The demand for Japanese products in the Chinese cross-border E-Commerce market (which refers to the process of buying overseas products directly from foreign retailers and suppliers via internet) has been expanding. According to the report of “Basic Conditions (E-Commerce Market Survey) of Data-Driven Society in 2016” published by Japanese Ministry of Economy, Trade and Industry, the online sales from Japan in the cross-border E-Commerce market for Chinese consumers made 30%
increase in the sales for 2016, which is 1036.6 billion yen, comparing from the 2015 sales of 795.6 billion yen. The demand will likely to increase in the future.
In this report, we analyze the current status, future, market opportunity, and future challenges in the Chinese cross-border E-Commerce market and we summarize the future issues for this market.
1.中国越境 EC 市場の概況
越境ECとは、インターネット通販サイトを通じた多国 間の電子取引である。
中国越境EC市場は急成長している。その背景には大別 して3つの要因がある。
① 中国のインターネット人口の増加
中国互聯網信息中心によれば、インターネット人口は、
図表 1 中国インターネット人口及び普及率の推移
出典:中国互聯網信息中心(2017)「中国インターネット発展状 況統計報告」を基にテクノ・クリエイト作成
2006年の1億3,700万人に対し、2016年には7億3,100 万人の規模としている。また、インターネット普及率 については、2006年の10.5%に対し、2016年は53.2%
ともしている。以上より、中国EC市場は成長性が高
く、開拓余地が大いに残されていると言える。(図表1)
② スマートフォンユーザーの増加
eMarketer(2014)は、中国スマホユーザー数が2014 年に5億人を超え、世界トップとなったという。さらに、
2018年スマホユーザーは7億人を超えると予測してい る。
③ 海外製品に対する意識の高揚
中国における製品安全問題、特にベビー食品に対する 安全問題が頻繁に発生した影響で、国内製品に対する 不信感が強くなった。また、化粧品やベビー用品などへ の安心・安全意識が高まることに伴い、海外製品の人気 が沸騰してきた。そのため、インターネットを通じて、
より信頼性の高い日本製品の購入者が増えている。
以上の背景要因の他に、中国政府が越境EC市場の健 全な発展のために、越境EC市場を支援する政策を発布 した。例えば、越境ECの実験エリアの設置、保税輸入 方式の承認などの政策を実施している。こうした政策の 施行による影響も、当該市場規模を急速に拡大させてい
る。
中国電子商務中心によれば、2016年の中国輸入越境EC 市場規模は金額ベースで、2015年の9,000億元(約14兆 6,000億円)と比べ、33.3%増の1兆2,000億元(約 19
兆5,000億円)に達した。さらに、市場は急拡大を続けて
おり、2017年には1兆8,500億元(約30兆8,000億円)
が見込まれている。(図表2)
図表 2 中国輸入越境 EC 市場規模の推移
出典:中国電子商務中心(2017)「2016 年度中国 EC 小売市場 データ報告」を基にテクノ・クリエイト作成
中国現地ECユーザーは、海外から商品を購入する際、
天猫国際、網易考拉海購、京東全球購などの越境ECプラ ッ ト フ ォ ー ム を 活 用 し て い る こ と が 多 い 。iResearch
(2016)はその越境ECユーザー属性の特徴を以下の通り、
まとめている。
① 年齢層
ECユーザー全体に比べて、越境ECユーザーの年齢 層は高く、26~40歳が75%近くを占めており、その内 31~40歳の割合が最も高い。
② 所得、職業
収入は、月収1万円以上のユーザーが最も多く、全体 に対して25%以上を占めている。また職業は、50%以 上がビジネスマンであり、その内、一般社員が最も多い。
③ 学歴
高学歴傾向にある。大卒及び院卒が約75%であり、高 卒以下は5%未満である。
④ 居住地
東南沿海部に集中している。その内、広東省と上海市 は全体越境ECユーザーの約25%を占めている。トップ 5省は広東省、上海市、江蘇省、北京市、山東省である。
⑤ 人気商品カテゴリー
図表3の通り、越境ECユーザーがこれまでに購入経 験のある商品カテゴリーは、化粧品・美容品が約46%と、
トップを占めている。次いでマザー・ベビー関連商品で、
39.3%を占めている。
図表 3 越境 EC ユーザー購入経験のある商品カテゴリー
No. 品目 購買率
1 化粧品・美容品 45.7%
2 マザー・ベビー 39.3%
3 食品・健康 38.6%
4 衣料・靴・帽子 38.0%
5 デジタル用品 30.6%
6 家庭用品 26.6%
7 バッグ・ケース 26.1%
8 スポーツ・アウトドア 26.0%
9 家電 24.4%
10 玩具・お土産 23.1%
出典:iResearch(2016)「中国越境ECユーザー研究報告」
を基にテクノ・クリエイト作成
2.中国越境 EC 市場における日系企業の事例 経済産業省の「平成28年度 我が国におけるデータ駆 動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」 によると、中国個人消費者向け越境EC市場における日本 からの販売額は、2015年の7,956億円に対し、2016年に
は1兆366億円と30%以上の伸びを示しており、今後の
需要拡大も予測されている。
そのため、日本の事業者は中国越境ECに対する関心が 高まっており、進出企業も増加傾向にある。
日本企業は海外向けに越境EC事業を展開する際に、図 表4の通り、5つのパターンがある。
図表 4 越境 EC の展開パターン
出典:経済産業省(2017)「平成 28 年 電子商取引に関する市場 調査」を基にテクノ・クリエイト作成
パターン1は、自国内独自ECサイトを開設し、商品を 販売する方法である。事業者側は独自のサイトの翻訳・多 言語対応、国境を越えての配送手配等を自社で対応してい る。
パターン2は、自国内のECプラットフォームに出店し、
製品を販売する方法である。この方法は、翻訳対応、決済 手段の提供、海外への配送について、プラットフォーム側 よりサポートを受けられる。
パターン3は、進出先国のCtoCプラットフォームに店 舗を開設する方法である。代表的な例として、中国のタオ バオ(Taobao)が挙げられる。出店手数料が無料であり、
出店のハードルも低い。個人名義だけでなく、法人名義で 出店することも可能である。
パターン4は、進出先国のBtoCプラットフォームに出 店し、製品を販売する方法である。代表例は、「天猫Tmall」、
「京東」などがある。この方法は、現地での集客や決済手 段・配送手段を活用できるメリットがある。
パターン5は、進出国現地に独自のECサイトを開設し、
製品を販売する方法である。
中国への越境 EC に進出した日本企業の事例としては、
以下の通りゾゾタウン、ユニクロ、花王が挙げられる。
A.ゾゾタウン
2011 年9月、日本国内におけるファッション専業 EC
サイトZOZOTOWN を運営するスタートトゥデイは、中
国における電子取引最大手アリババのBtoCのECモール
「天猫 Tmall(当時タオバオモール)」に出店した。他に
も、中国向けの自社サイト「ZOZOTOWN CHINA」も開 設した。
しかし、同社は「天猫Tmall」に出店していた店舗と中 国の自社サイトを2013年に両方とも閉鎖した。
このような結果になった根本的な要因は、中国現地に関 するマーケティングリサーチの不足だと考えられる。それ によって、誤ったターゲッティングとブランディングが起 きたためとしている。
ターゲッティング
日本経済流通新聞(2013)によれば、中国ネットユー ザーは低所得者層と富裕層に二極分化が進んでおり、中 間層が少ない。
しかし、ZOZOTOWNは中間層をメインなターゲット で選定し、商品アイテムを多く販売していた。
この誤ったターゲットを選定することで、価格設定も 誤ったという。2012年に、商品の販売価格を大幅に下 げたものの、「天猫Tmall」での価格競争には勝てなか
った。
ブランディング
ZOZOTOWNは日本で知名度が高いものの、中国では
ZOZOTOWNの知名度が低い。また、当該サイトが取扱 っている多数のブランドも中国における知名度は低い。
ZOZOTOWNは実店舗を保有していない。しかし、衣
料品通販のマガシーク実体は中国で実店舗を持ってい
ないが、「天猫 Tmall」への出店ブランドは大半が中国
で店舗展開している。アパレル企業にとって、実店舗を 保有することによって、現地の利用者に信頼と安心をも たらすことは重要だと考えられる。
B.ユニクロ
ユニクロは中国向け独自サイトとECモール「天猫 Tmall(当時タオバオモール)」内の店舗を2009年4月
に同時に開設し、展開している。中国現地BtoCのECモ ールでの出店によって、集客や消費者の信頼性の獲得を 狙っていた。
また、中国最大の検索エンジン「バイドゥ」などへの 広告出稿といったプロモーションを行っている。尚、ユ ニクロは2002年9月に、中国上海で初出店し、現在(2017 年4月末)は香港を含む554店舗を展開している。
このように、実店舗数とEC事業の併用展開により、
同社のブランド知名度と信用力を高めていた。
これらの取組みによって、次の成果を得ている。
第1に、日経流通新聞(2011年)によれば、2009年4 月に「天猫Mall」の中で店舗を開設開始してから半年未 満であるものの、一日の取引金額が55万元(約900万円)
に達しおり、「天猫Tmall」の中で最も売り上げるアパレ ル店となった。
第2に、2015年11月に、ユニクロは中国の「独身の 日」通販サイトセール全業態第4位となり、アパレル部 門1位の売上実績を上げており、昨年比約2倍の6億元
(約100億円)以上を販売した。
また同社は、2015年8月期実績で、売上高約1兆6,818 億円(前期比21.6% 増)の営業利益1,644億円(前期比 26.1%増)と、過去最高の連結収益を達成した。
その内、海外ユニクロ事業の売上と営業利益は、それ ぞれ6,036億円(前年比45.9%増)、433億円(前年比 31.6%)と大幅に増加した。以上の通り、ユニクロが成
長著しい要因として、海外事業が高い成長を維持してい ることにある。
このような成功を収めた要因は、ユニクロが早くから 中国現地でビジネスを行っており、中国市場について綿
密なにマーケティングリサーチをしていたことにある。
ターゲッティング
当初、ユニクロは若年層をターゲットとし、「低価格」
戦略を展開していたものの、苦戦を強いられた。これを 打破するために、「低価格」から「高品質・高機能」へ ブランドコンセプトの転換を図った。
尚、ユニクロの主力商品の価格帯は「天猫Mall」の利 用層と一致しており、都市部の「ホワイトカラー層」に も適している。
ブランディング
ユニクロは中国で実店舗を保有し、さらに実店舗での サービスの評判も良いことから、ECビジネスにおいて も、その効果が及んでいた。その他、「天猫Tmall」に おける旗艦店も「良品保証」、「7日間以内で返品&交換 無料」などのサービスを行っており、利用者の信頼と安 心を獲得ししている。
以上の通り、ユニクロはこれまでリアル店舗とバーチ ャル店舗の融合を進めている。中国現地における実店舗 数を増やすとともに、ECサイトのプロモーションも行 ってきている。
変化が激しい中国市場の中で、EC事業をさらに拡大 するために、デジタルマーケティング(電子メディアを 通じた製品やブランドのプロモーションを指す。)は、
同社にとって、さらに重要度が増しているという。その 激しい変化に応じるために、ユニクロの中国現地法人は、
広告・マーケティング事業を行っているアドウェイズ社 と、同社の中国市場向けスマートフォンアプリ及びデジ タルマーケティング全般の業務を提携した。中国のスマ ートフォンの普及の背景には、ビジネス展開するための、
ソーシャルメディアの活用は不可欠だと考えられる。
C.花王
花王は、日本製紙おむつ「メリーズ」を輸出するだけで なく、中国現地向けの製品も開発・生産・販売している。
当初、現地生産品を開発するために、同社は家庭訪問など の実態調査を行っていた。販売価格は中~低価格帯に設定 した。しかし、「少し高くても子供にはお金をかけたい」
という消費者が増えたため、中国製より日本製を選ぶ傾向 が強いとしている。
以上の背景には、花王は現地大手の越境ECプラットフ ォームと提携始め、日本製の紙おむつ「メリーズ」を中心 に販売していたことにある。
2015年11月に、花王は中国アリババグループが運営す る消費者向け最大手の越境ECサイト「天猫(Tmall)国
際」に旗艦店を展開した。越境ECサイトに出店するのは 花王にとって初めてであった。
一方、「メリーズ」は既にEC モールの「天猫Tmall」
で販売しているが、越境ECサイト「天猫(Tmall)国際」
に出店し、同サイトのサポートを活用することで、中国現 地ユーザーは安定的に日本製ベビー用紙おむつ「メリー ズ」を購入できるようになった。その結果、花王は 2015 年11月の「独身の日」に一晩で約2億円を売り切った(東 洋経済2016)。
図表 5 花王 中国越境 EC 向けの取組み
時期 提携越境 EC サイト
2015 年 11 月 天猫国際(T-Mall)
2016 年 5 月 京東全球購(JD Worldwide)
2016 年 11 月 網易考拉海購(Kaola.com)
出典:公開情報を基にテクノ・クリエイト作成
また、2016年3月に、花王は中国の京東グループが運 営する消費者向け越境電子取引サイト「京東全球購(JD
Worldwide)」に出店を決定することを発表し、5月に運用
開始した。
さらに、同年11月に、花王は中国向け越境ECを強化 し 、 網 易 が 運 営 す る 越 境 EC サ イ ト 「 網 易 考 拉 海 購
(Kaola.com)」に出店した。
以上の取組みによって、2017年第1四半期の実績で、
花王はアジアにおけるヒューマンヘルスケア事業の売上
が前年比38%増となった。その内のサニタリー製品は、特
にベビー用紙おむつ「メリーズ」が好調で、売上を拡大し ている。
尚、同社ヒューマンヘルスケア事業における営業利益は、
中国を含むアジアの増収効果などにより、前年同期の 85 億円に対し、114億円と30億円の増加となっている。以 上の通り、花王は中国での越境EC事業を大きな成果を収 めている。
同社にとって、現地における最適なパートナー探しが成 功のポイントだという。特に、中国で外資系に対する規制 が厳しいため、パートナー企業の名でビジネス展開したほ うが有利だとしている。
中国は「二人っ子政策」を2016年1月から導入し始め、
今後ベビー関連用品の市場に新たな商機が生まれている。
「一人っ子」政策廃止による影響は、まず内陸部の農村部 から出始め、今後同社のベビー関連品が農村部に広がって 伸びる可能性が高いとみられる。
最後に、以上に述べた企業事例から、中国越境EC市場
における課題は以下の点が挙げられる。
① 新規参入する日本企業は、現地のマーケティングリサ ーチを徹底的に実施する
③ ソーシャルメディアをもってマーケティングに使う。
③ 現地における最適なパートナーの探しが重要である。
(研究員 徐 思婷)
参考文献
1. 中国互聯網信息中心(2017)「中国インターネット発展 状況統計報告」
2. eMarketer(2014)「2 Billion Consumers Worldwide to Get Smart(phones) by 2016」
3. 中国電子商務中心(2017)「2016年度中国EC小売市 場データ報告」
4.iResearch(2016)「2016年 中国越境ECユーザー研 究報告」
5. 経済産業省(2017)「平成28年度 我が国におけるデ ータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場 調査)」
6.『日本経済流通新聞』 2013年2月15日 7.『日本経済流通新聞』 2011年4月29日
8.原田良雄(2013)「越境eコマースの現状と展望―EC 事 業者の中国市場への取り組み―」『大阪産業大学経営論集』
第15卷 第1号 pp1-26
9.週刊東洋経済<http://toyokeizai.net/articles/-/110234
>(2016/03/27)
テクノ・クリエイトでは多種多様な業種・産業分野での調査・分析をはじめ、ビジネス戦略の提案、
各種情報サービスの提供を行っています。
調査は一般的な市場概要調査から競合企業の競争力を解明するベンチマーク調査など多岐に及んで います。どのような調査方法を採用するかはお客さまと一緒に考え、最適な方法でもって調査に臨 んでいます。
本レポートに関するお問合せおよび調査に関するお問合せは下記まで。
担当:営業本部 営業部 松永(TEL:03-3553-0112)
本レポートは、当社独自の取材および当社が信頼できると判断した情報源に基づき作成したものです。本レポー トに記載された意見、予測等は、レポート作成時点における当社の判断に基づくものであり、正確性、完全性を保 証するものでは ありません。今後、予告なしに変更されることがあります。
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条 約により保護されています。