• 検索結果がありません。

ユーザビリティ専門家の 育成に関する調査研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ユーザビリティ専門家の 育成に関する調査研究"

Copied!
202
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ユーザビリティ専門家の 育成に関する調査研究

平成 18 年 3 月

財団法人 ニューメディア開発協会

(2)
(3)

〒 108-0073 東京都港区三田 1-4-28 三田国際ビルヂング 23 階 電話:03-3457-0673

無断転載複製を禁ず

本報告書の内容に関するお問い合わせはテクニカルコミュニケーター協会事務局にお願い致します。

〒 169-0074 東京都新宿北新宿 4-22-15 電話:03-3368-4607

URL:http://www.jtca.org/

(4)
(5)

財団法人ニューメディア開発協会では、平成 17 年度事業として「ユーザビリティ専門 家の育成に関する調査研究」を実施した。この事業は、テクニカルコミュニケーター協 会に委託して報告書にまとめたものである。

財団法人パーソナル情報環境協会および財団法人ニューメディア開発協会は、かねてよ り通商産業省の指導の下に、情報環境のユーザサイドに立脚して、情報のパーソナル化 に対応したヒューマンインターフェースに係わる技術開発(未来型分散情報処理環境基 盤技術開発「FRIEND21 」)に取り組んできた。これと並行して情報のパーソナル化をさ らに推進するために、ユーザーフレンドリーなマニュアル、すなわちユーザの立場に立 ったマニュアルの品質を向上させることが緊急の課題であると考え、次に述べるような 調査・研究を実施してきた。

平成 2 年度「ユーザーフレンドリーマニュアルに関する調査研究」

平成 3 年度「マニュアル評価ガイドラインの作成に関する調査」

平成 4 年度「TC 技術に関わる人材育成に関する調査(指針)」

「マニュアル制作ツールに関する調査」

平成 5 年度「TC 技術に関わる人材育成に関する調査(教育カリキュラム)」

「優良マニュアルの審査基準ガイドラインの作成に関する調査」

平成 6 年度「テクニカルコミュニケーターの資格認定制度に関する調査」

「優良マニュアルの審査基準に基づくコンテストの実施に関する調査」

平成 7 年度「テクニカルコミュニケーターの技術検定制度に関する調査」

「マルチメディア環境におけるマニュアル進化の動向に関する調査」

平成 8 年度「テクニカルコミュニケーター技術検定試験トライアル実施に関する調査」

「電子マニュアル制作ガイドライン作成に関する調査」

平成 9 年度「テクニカルコミュニケーター技術検定試験実施に関する調査」

「電子マニュアル評価ガイドラインに関する調査」

平成 10 年度

「テクニカルコミュニケーター技術検定制度の人材育成の体系化に関する調査研究」

「電子マニュアルの評価ガイドラインの適正標準化に関する調査研究(1 )」

(6)

平成 11 年度 「テクニカルコミュニケーション(TC )技術の応用分野に関する調査研 究」「電子マニュアル評価ガイドラインの適正標準化に関する調査研究(2 )」

平成 12 年度 「情報機器のユーザーガイダンスに関する調査研究」

平成 13 年度 「Web 情報の制作ガイドラインに関する調査研究」

平成 14 年度「Web 情報のユーザインタフェース技術に関する調査研究」

平成 15 年度「Web 情報のユーザビリティ資格制度に関する調査研究」

平成 16 年度「Web 情報のユーザビリティ資格評価に関する調査研究」

本年度のプロジェクトでは、これまでの活動によって情報デザインのユーザビリティの 重要性が改めて認識されるようになったことに注目し、この分野を専門的に担当できる 人材を育成することを目的として、「ユーザビリティ専門家の育成に関する調査研究」

を実施した。すなわち、ユーザビリティ専門家としての資格を確立するために必要な、

採用、人材育成、そして資格認定という三つのプロセスのうち、採用については資格認 定と類似した基準を用いればよいと思われるため、人材育成の基本となる学習目標に関 する調査研究を実施した。

なお、この調査研究では、テクニカルコミュニケーター協会内に「テクニカルコミュニ ケーション技術審議会」を設置して、検討・審議を実施した。調査研究の実施にあたり、

多大なご協力を賜った経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課および上記審議 会の関係各位に感謝の意を表するとともに、この調査研究がわかりやすい電子マニュア ル制作現場にもドキュメント制作専門家の育成に役立つことを願うものである。

平成 18 年 3 月

財団法人ニューメディア開発協会

(7)

もくじ

1 調査研究の概要 ... 7

1.1 背景... 7

1.2 目的... 8

1.3 体制... 10

2 活動へのアプローチ ... 15

2.1 これまでの研究活動の概要... 15

2.1.1 ユーザビリティ活動とは...15

2.1.2 ユーザビリティ専門家のコンピタンスとは...16

2.1.3 コンピタンスリストの詳細...17

2.1.3 残されている課題...26

2.2 今年度の活動へのアプローチ... 29

2.2.1 ドキュメント制作分野におけるユーザビリティ活動...29

2.2.2 人材育成プログラムにおけるコンピタンスの重み付け...30

3. 活動報告 ... 33

3.1 ドキュメント制作専門家のコンピタンス調査... 33

3.1.1 調査の概要...33

3.1.2 調査結果...36

3.1.3 TC技術区分の位置付け...36

3.2 企業内の人材育成に関する調査... 38

3.2.1 調査の概要...38

3.2.2 回答の集計...39

3.3 調査結果に関する考察... 43

3.3.1 統計的観点からの考察...43

3.3.2今後の統計的観点からの課題...50

3.3.3人材育成の観点から...51

3.3.4 課題の抽出...53

4. 企業の人材育成方法に関する提案 ... 57

4.1 シラバス概要... 57

4.2 提案事項... 59

4.2.1 コンピタンス特性に対する考え方...59

4.2.2 個別のコンピタンス特性について...69

(8)

4.2.3 人材育成シラバスの提案...135

5. 結論 ... 139

参考資料 ... 141

1.(本文2.1資料)ユーザビリティ専門家コンピタンス... 145

2.(本文3.1資料)TC技術区分表... 149

3.(本文3.2資料)別紙:集計シート... 155

4.(本文3.3資料)分析シート... 159

5.(本文4.1資料)参考シラバス(案)... 163

6. 国内他団体のユーザビリティ活動の動向... 167

7. 米国大学ユーザビリティ課程カリキュラム事例... 171

アルバータ大学... 175

ミシガン大学... 179

SCSUSt.Cloud ミネソタ州立大学)... 183

UCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス分校)... 187

UW(ワシントン大学)... 191

(9)

調査研究の概要

1.1.背景

1.2.目的

1.3.体制

第 1

(10)
(11)

1 調査研究の概要

1.1 背景

テクニカルコミュニケーターの業務内容は、メディアの電子化が進展するにつれ、WEB デザインなど情報デザイン全般にわたる極めて幅広いものになってきた結果。最近では、

情報デザインにおけるユーザビリティの向上が大きな課題として認識されている。

テクニカルコミュニケーター協会(TC 協会)では、これまでに「情報機器のユーザーガ イダンスに関する調査研究」を実施して、電子ドキュメントを軸にした周辺技術と関連 ツール類に関する動向調査結果の掘り下げを行い、さらに「Web 情報の制作ガイドライ ンに関する調査研究」や「情報機器のユーザーインタフェース技術」に関する調査研究 を実施して、情報の内容をわかりやすくユーザに伝える電子ドキュメント制作における 情報デザインのユーザビリティ・ガイドラインを集約した。

また、これまでの調査研究活動を通して情報デザインに関するユーザビリティ活動の重 要性が改めて認識されるようになったことに注目し、この分野を専門的に担当できる人 材を育成することを目的として、ユーザビリティの資格制度や資格評価に関する調査研 究を継続的に行って来た。

本調査研究では、昨年度明らかにされたユーザビリティのコアコンピタンスに基づいて、

このようなコンピタンスを習得するためのシラバスを言及する。

(12)

1.2 目的

TC 協会では、これまでの成果に基づき、専門的な観点からユーザビリティを評価および 指導できる人材が非常に重要であるという認識から、ユーザビリティ専門家の育成に関 する調査を行う。

今年度の調査研究は、ユーザビリティ専門家としての資格を確立するために必要な、採 用、人材育成、そして資格認定という三つのプロセスのうち、採用については資格認定 と類似した基準を用いればよいと思われるため、人材育成の基本となる学習目標に関す る調査研究を実施する。

これまでの研究において明らかにされて来たコアコンピタンスには、概略以下のような ものがある。

(1) 知識について

認知科学、人間工学、心理学、社会学、人類学・民族誌学、経営学、UI などの学問領域 に関する知識、調査・評価手法に関する知識 (a) 調査・実験デザイン方法、(b) 統計 手法、(c) 各種調査・評価手法、UCD に関する知識、UD に関する知識、法令や規格・基 準などに関する知識、利用状況に関する知識、開発プロセスに関する知識、製品や技術 に関する知識、マーケティング・商品企画に関する知識

(2) 基本能力について

論理的思考能力、機転能力、メタ認知能力、想像力、コミュニケーション能力、自立能 力・柔軟性、体力

(3) ビジネス能力について

プロジェクトマネジメント推進能力 (a) プロジェクトデザイン能力、(b) 要件収集分 析力、(c) 折衝・調整能力、(d) チーム運営力、(e) プロジェクト管理力、説明能力 (a) プレゼンテーション能力、(b) 文章表現力、情報収集力、人材ネットワーク構築力、教 育能力、組織マネジメント能力、英語

(4) 専門能力について

調査・評価能力 (a) リサーチデザイン能力、(b) インタビュー実施能力、(c) 観察能 力、(d) ユーザテスト実施能力、(e) インスペクション評価実施能力、(f) 分析能力、

要求分析・要件定義能力、デザイン・開発能力、プロトタイプ作成能力

(5) 経験・実績について 開発経験、業務経験、人脈

(6) 考え方について

ユーザビリティ活動に対する興味・関心、ユーザビリティに対する考え方、ものに対す る考え方、共感性、新しいもの・領域への積極性、責任感・モチベーション

(13)

これらのコンピタンス項目に関する適切な教育を行い、人材育成を図るために、今年度 は、教育カリキュラムのベースを作成することを目的として、シラバスの原案を作成す る。なお、さらに余裕があれば、活動内容によるウェイト付けや業種や製品分野による ウェイト付けなども考察する。

学習目標として、各コンピタンス項目について、どのような下位項目をどのようなやり 方(座学や実習)によってどの程度の時間数教えることが必要かを明らかにする。

シラバスでは、各コンピタンス項目についての教授内容の概略を具体的に記載する。

またウェイト付けは、例えば、ユーザ調査と評価活動では当然要求されるコンピタンス が異なることが考えられるため、また、ソフトウェアとハードウェアでも要求されるコ ンピタンスが異なると考えられるため、各活動および各業種分野ごとの重要度を関係者 へのヒアリングなどによって明らかにし、各シラバス項目に対するウェイト付けを行う ものである。ただし、このようなウエイト付けの定義は、今後具体的にカリキュラムを 検討する各企業において、その業種や状況などを考慮しながらそれぞれが独自に工夫す ることが望ましい。

(14)

1.3 体制

体制調査ならびに報告書のとりまとめは、テクニカルコミュニケーター協会のプロジェ クトチームが行った。調査研究の体制は、下図のとおりである。

図 0-1. 調査研究の体制

テクニカルコミュニケーター協会 経済産業省商務情報政策局

文化情報関連産業課

財団法人

ニューメディア

開発協会

ユーザビリティ専門家の 育成に関する調査研究プロジェクト

ユーザビリティと

TC

技術の関連性

ユーザビリティ専門家の育成

学習目標としてのシラバス

ほか

調査研究の委託 調査研究結果報告

(15)

■テクニカルコミュニケーター協会(TC 協会)

<委員>

海保 博之 TC 協会会長 筑波大学心理系

高橋 正明 TC 協会運営委員長

■オブザーバ−

樋口 晋一 経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課 溝下 聡 経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課

■調査研究グループ

<プロジェクトリーダー>

黒須 正明 メディア教育開発センター 総合研究大学院大学

<プロジェクトメンバー>

伊藤 育世 株式会社ナナオ 伊東 昌子 常磐大学

鱗原 晴彦 株式会社ユー・アイズ・ノーバス 岡本 章伺 株式会社野村総合研究所

小野 正貴 株式会社ナナオ

鹿子嶋 功 マイクロソフト プロダクト ディベロップメント リミテッド 北島 美佐 株式会社ジャストシステム

小泉 創 株式会社ジャストシステム 小松原 明哲 早稲田大学 教授

酒井 英典 株式会社リコー

佐藤 大輔 ソニー株式会社/総合研究大学院大学 堂守 一也 株式会社日立製作所

戸崎 幹夫 富士ゼロックス株式会社 中村 一章 キヤノン株式会社 早川 誠二 株式会社リコー

(16)
(17)

活動へのアプローチ

2.1. これまでの研究活動の概要 2.2. 今年度の活動へのアプローチ

第 2

(18)
(19)

2 活動へのアプローチ

2.1 これまでの研究活動の概要

TC 協会では、これまでに大括りな形で行ったユーザビリティ専門家のコンピタンス概念 に関する研究を発展させ、コンピタンスの精細化、コンピタンス間の構造モデル、ユー ザビリティ活動毎に求められるコンピタンスの差違などについて以下のようにまとめ て来た。

2.1.1

ユーザビリティ活動とは

ユーザビリティ活動について、直接的活動および間接的活動に大別して次の表のように 整理した。

特徴

・ユーザビリティー活動は、大きく「直接的活動」と「間接的活動」にわけられる。

・「直接的活動」は、「A.基礎調査活動」「B.設計デザイン活動」から構成される。

・「間接的活動」は、「C.戦略的活動」「D.センター活動」から構成される。

・小分類レベルの9分類は、必要なコンピタンスによる分類と一致している。

1.市場調査 2.製品調査

3.ユーザビリティーテスト 4.インスペクション評価

A3.要求分析活動 5.要求分析

6.要求仕様作成 7.仕様検討

8.実設計・デザイン作成 9.プロトタイプ作成 10.製品・サービスのR&D 11.プロセス・手法のR&D 12.コンサルティング 13.組織マネージメント 14.教育・研修 15.啓蒙 16.情報収集・提供 17.社内インフラ機能 18.スタッフ機能 19.標準化活動 B3.研究開発活動

D1.教育啓蒙活動

D2.センター活動 A1.基礎調査活動

A2.評価活動

B1.仕様検討活動

B2.設計デザイン活動

A.

調査評価活動

B.

設計デザイン活動

C.

戦略的活動

D.

センター活動

(20)

2.1.2

ユーザビリティ専門家のコンピタンスとは

次に、一昨年にまとめたユーザビリティ専門家のコンピタンスリストについて、更にユ ーザビリティ実務を行っている企業への実態調査の実施、ユーザビリティマネジメント に関する調査の実施、製品開発関連部署における共通資質調査の実施、有識者によるレ ビュー調査などを経て、最終的に次のコンピタンスリスト(第4版)を得た。

A.興味・関心・態度 E3.関連学問分野・手法

1.ユーザビリティ活動に対する興味関心 32.人間工学に関する知識

2.ものづくりに対する興味関心 33.認知心理学に関する知識

3.ものに対する興味関心 34.心理学に関する知識

4.問題解決に対する柔軟さ 35.各種調査評価手法に関する知識

5.新しいもの・領域への積極性 36.調査・実験計画に関する知識

6.学習意欲 37.量的分析手法に関する知識

B.基本能力 38.質的分析手法に関する知識

7.論理的思考能力 F.ユーザビリティエンジニアリング能力

8.洞察力 F1.調査評価能力

9.機転能力 39.リサーチデザイン能力

10.メタ認知能力 40.分析考察能力

11.共感性 41.インタビュー実施能力

12.想像力 42.観察能力

13.持久力 43.ユーザビリティテスト実施能力

14.責任感 44.インスペクション評価実施能力

15.モチベーション 45.要求分析能力

16.自律能力 F2.設計デザイン能力

17.学習能力 46.要求仕様作成能力

C.ビジネス活動能力 47.デザイン・仕様提案能力

18.情報収集力 48.プロトタイプ作成能力

19.コミュニケーション能力 G.マネージメント能力 20.プレゼンテーション能力 G1.プロジェクト運営能力

21.文書作成能力 49プロジェクトデザイン能力

22.折衝調整・説得能力 50.チーム運営能力

23.人材ネットワーク構築力 51.プロジェクト管理能力

D.経験 G2.組織管理能力

24.開発経験 52.組織マネージメント能力

25.ユーザビリティ業務経験 53.教育能力

E.知識

E1.開発部署共通

26.ユーザーインタフェースに関する知識 付録

27.製品・技術に関する知識 a1.社会学に関する知識

28.利用状況に関する知識 a2.人類学や民族誌学に関する知識

29.開発プロセスに関する知識 a3.法令や規格、基準に関する知識 30.ユニバーサルデザインに関する知識 a4.商品企画に関する知識

E2.プロセス・理念 a5.経営学に関する知識

31.HCD・UCDに関する知識 a6.英語

(21)

特徴

・コンピタンスリストは、7分類(11 小分類)53 項目から構成される。その他、6項 目が付録される。

・ 7分類は、興味・関心・態度、基本能力、ビジネス活動能力、経験、知識、専門能 力、マネージメント能力からなる。この分類によって、多層的にコンピタンス概念が 構成されている。

2.1.3

コンピタンスリストの詳細

前項目で整理されたコンピタンスリスト(第4版)の詳細を以下に示す。

A.興味・関心・態度

1. ユーザビリティー活動に対する興味関心

・ユーザビリティー活動を通じて利用品質を向上させることに興味、関心を持って いること。

・ユーザビリティー活動そのものに興味、関心を持っていること。

・ ものづくりに対する興味関心

・社会の役に立つもの(道具、製品、システムなど)づくりに対する興味、関心を 持っていること。

・ものづくりの活動そのものに興味、関心を持っていること。

・ ものに対する興味、関心

・もの(道具、製品、システムなど)に対する興味、関心を持っていること。

・広い範囲が望ましいが、特に自分たちがものづくりをしている領域に関する興味、

関心のこと。

・ 問題解決に対する柔軟さ

・ユーザビリティーの問題や課題は多様であり、答えが一つに定まらず、正解がな いものであることを理解した上で、物事を過度に要素還元することなく適切な解 決を求める態度を持っていること。

・ 新しいもの・領域への積極性

・新しい製品、技術、手法、考え方、知識、人脈などに対して、積極的に興味を持 ち、取り組む能力のこと。

・視野を広く持ち、自身の専門性にこだわらず、柔軟に類型化されていない物事に 対して対応していくことが期待される。

・ 学習意欲

・学習意志を持ち、主体的に学習対象を選択し、それを最後まで実現しようとする

(22)

意欲のこと。

B.基本能力

・ 論理的思考能力

・事象間の因果関係や論理構造を理解し、帰納推論、演繹推論を用いて物事を理詰 め、論理的に思考する能力のこと。

・ 洞察力

・鋭い観察力で物事の本質を見通す能力のこと。

・事象を上位レベルで抽象化し、端的で応用性の高い概念として捉える。

・ 機転能力

・外部からの刺激や自身の着想に応じて機敏に心が働く能力のこと。

・外部刺激と自身の内面の知識を即座に結びつけて思考することができ、「頭の回 転が良い」などと称される。

・ メタ認知能力

・他人の思考について想像するのと同様に、上位の視点から自身の思考に対しても、

第三者的に思考する能力のこと。

・この能力によって、自身の言動行動や発言を客観的に捉えることが期待される。

・ 共感性

・他人の立場にたって物事を考え、気持ち、感情、考えを理解する能力のこと。

・他者に対して共感的理解をしようとする姿勢と、実際に他者を理解できる能力が 期待される。

・ 想像力

・他者の状況や思考、感情などを具体的に想像し、なりきる能力のこと。

・ 持久力

・物事に継続して集中的に取り組める能力のこと。

・肉体的体力と、精神的持続集中力が期待される。

・ 責任感

・業務に対する誠意を持ち、妥協せずに達成すべき目的に向けて強い意志を持って 業務を遂行する能力のこと。

・ モチベーション

・業務への取り組みに対する強い動機付けを持っていること。

(23)

・ 自律能力

・自己管理を行い、他者からの指示、マネージメントの有無によらず、自律的に意 志決定、活動を進める能力のこと。

・ 学習能力

・日々の活動や対話、読書などから様々な物事、知識を効率的に学ぶ能力のこと。

C.ビジネス活動能力

・ 情報収集力

・新しい情報を収集する能力のこと。

・書籍やネットなどを利用して必要な情報を集めるメディア利用能力と、対人的接 触により情報を集める人材ネットワークが期待される。

・ コミュニケーション能力

・他者と相互に理解し合う、影響を与え合うといった相互作用、コミュニケーショ ンを行う能力のこと。

・他者の対話や文書を理解すること、相手に合わせた適切な対話や文章表現を行う ことが期待される。

・ プレゼンテーション能力

・活動成果や自身の考えなどを、わかりやすく適切に伝え、相手を納得、理解させ る能力のこと。

・ゴール設定、参加ステークホルダーの決定と参集、ストーリーデザイン、資料作 成(構成、レイアウト、テキスト、図版など)、実際のプレゼンテーション、質 疑応対、フォローなどを適切に行うことが期待される。

・ 文書作成能力

・相手に適切に意図が伝わる文書、ドキュメントを作成する能力のこと。

・適切なドキュメント構成を行えること、適切な文章表現を行えることが期待され る。

・ 折衝調整・説得能力

・関係部門間のトレードオフや課題の優先順位を調整し、各部門を動かすことがで きる説得、交渉能力のこと。

・ 人材ネットワーク構築力

・社内外の人脈を構築する能力のこと。

(24)

D.経験

・ 開発経験

・製品やサービスの開発プロセスに対する参加経験である。

・多くの経験、プロセス上の様々なフェーズでの経験が期待される。

・ ユーザビリティー業務経験

・ユーザビリティー活動の業務経験である。

・多くの経験、様々なユーザビリティー活動の経験が期待される。

E.知識

E1.開発部署共通

・ ユーザーインタフェースに関する知識

・ユーザーインタフェースに関する様々な知識である。

・画面遷移、インタラクションフロー、画面レイアウト、GUI オブジェクト(リス ト、ボタン、チェックボックス、ラジオボタン、プルダウンメニューなど)の使 い分けと配置、アイコンデザイン、文言設計、入力デバイスとそのアサインとい った実際のインタフェース設計で用いられる設計指針や具体的事例の知識が期 待される。

・ 製品・技術に関する知識

・多様な自社および他社の既存の製品やサービスそのものに関する知識である。

・ラインナップや変遷、そこで利用されている様々な機能や技術、それらの将来動 向に関する知識を含む。

・ 利用状況に関する知識

・開発対象となる製品やサービスの利用状況、実使用場面に関する知識である。

・多様なユーザー属性の広範に渡る利用状況に関する知識が期待される。

・ 開発プロセスに関する知識

・製品やサービスの開発プロセスに関する知識である。

・ウォーターフォール、スパイラルなどのプロセススタイル、また全体的な開発ス ケジュールや予算、意志決定方法などを含む。

・ユーザビリティー活動が組み込まれるプロセスに関する知識と言い換えることが できる。

・ ユニバーサルデザインに関する知識

・ユニバーサルデザインとは、障害や一時的な障害、高齢、身長や体重、性別、文 化や言語などのために、多くの一般的健常者のみを対象としたものづくりで不利 益を被っていた人々に対しても考慮し、幅広い人々にとって良いものづくりを目

(25)

指す考え方やその考え方に基づいたデザインである。

・ユニバーサルデザインの7原則といった概念、障害者や高齢者の特性に対する知 識、ユニバーサルデザインの適用事例に関する知識が期待される。

E2.プロセス・理念

・ HCD・HCD に関する知識

・人間中心のものづくり、設計を推奨する Human-Centered Design、User-Centered Design の概念、プロセスに関する知識である。

・ 概念やプロセスそのものの知識と、ISO13407 や ISO/TR18529 などの HCD 関連規格につ いての知識が期待される。

E3.関連学問分野・手法

・ 人間工学(Human Factors, Ergonomics)に関する知識

・人間工学とは、人間の身体的・精神的能力とその限界など人間の特性に仕事、シ ステム、製品、環境を調和させるために人間諸科学に基づいた知識を統合してそ の応用をはかる学問分野である。

・運動特性、生理的特性、知覚特性、認知特性に基づく、操作器具や計器、環境、

ソフトウェアの設計に関する知識などが期待される。

・また、生理学に基づく生体計測に関する知識も期待される。

・ 認知心理学(Cognitive Psychology)に関する知識

・認知心理学とは、人間の認知の仕組み、知的活動に関する学問分野である。

・認知とは、生態の情報処理と情報処理活動の総称であり、知覚と注意、知識の獲 得と表現、記憶、言語、問題解決、推論と意志決定、社会的相互作用、人間と機 械の相互作用、学習、技能、感情、意識などの仕組みの解明を対象としている。

・ 心理学(Psychology)に関する知識

・心理学とは、人間(や動物)の心の働きや行動を実証的に研究する学問分野であ る。

・領域別心理学として、心理学の一般法則を研究する基礎心理学と、実際の問題へ の適応を研究する応用心理学を含む。

・基礎心理学としては発達心理学、認知心理学、学習心理学、社会心理学などが、

応用心理学としては臨床心理学、教育心理学、産業心理学、犯罪心理学などがあ る。

・主に各種基礎心理学に関する知識が期待される。

・ 各種調査評価手法に関する知識

・ユーザビリティー活動において用いられる様々な調査、評価手法に関する知識で ある。

・質問紙法、面接法、観察法、ユーザビリティーテスト(ユーザーテスト)、イン スペクション法(ヒューリスティック評価)、フィールドワークなどが代表的な 手法として挙げられる。

(26)

・また、グループインタビューや電話調査、訪問面接調査などのマーケットリサー チ手法に関する知識や、インフォームドコンセント、プライバシーの保護といっ た倫理的態度に関する知識も期待される。

・ 調査・実験計画に関する知識

・誤差の最小化、条件統制やランダム化、データの代表性などのリサーチデザイン に関する知識と、再現可能性やトレーサビリティといった妥当性のためのプロセ ス記述に関する知識である。

・ 量的分析手法に関する知識

・数字や数量といった量的なデータ分析に用いられる様々な統計手法、定量的分析 手法に関する知識である。

・統計手法としては、数量、分布、平均や標準偏差といった、データの特徴をわか りやすく示す記述統計、推定や仮説検定を行う推測統計、多変量解析などの知識 が期待される。

・その他定量的分析手法としては、弁別閾を明らかにするための定数測定法、名義 尺度や順序尺度といった尺度構成法などの知識が期待される。

・ 質的分析手法に関する知識

・言語や映像、音声などの質的なデータ分析に用いられる様々な質的分析手法に関 する知識である。

・代表的な手法としてはエスノグラフィー、グラウンデッドセオリー法、KJ 法な どがあり、データ生成、コーディング、概念(カテゴリー生成)化、構造化、モ デル化などの知識が期待される。

F.ユーザビリティーエンジニアリング能力 F1.調査評価能力

・ リサーチデザイン能力

・課題の本質が何かを適切に掴み、プロジェクトの目的に合わせて適切な調査、評 価方法を設計する能力のこと。

・調査、評価および分析手法(35~38 参照)に関する知識を持っているだけでは なく、何をどのように適用すべきかを判断、選択した上で、詳細な調査、評価計 画を作成することが期待される。

・ 分析考察能力

・収集したデータを分析して、考察を行い、答えを導き出す能力のこと。

・統計処理といった定量的な分析能力と、言語データ処理などの質的な分析能力の 両方が期待される。

(27)

・ インタビュー実施能力

・インタビューを実施し、相手との対話を通じて適切な話を引き出し、言語データ を得る能力のこと。

・ 観察能力

・ユーザーテストやフィールドワークなどにおける観察を通じて様々な事象に気づ き、目の前で起きていることと既存知識を結びつけ、洞察を行う能力のこと。

・ ユーザビリティーテスト実施能力

・ユーザビリティーテスト(ユーザーテスト)を適切に実施する能力のこと。

・主にモデレーター(司会進行、教示者)としてユーザビリティーテストを進行さ せることが期待される。他にはテスト環境の準備なども必要である。

・ インスペクション評価実施能力

・インスペクション評価を実施する能力のこと。インスペクション評価を通じて、

ユーザーインタフェースの良し悪しの判断、指摘が求められる。

・代表的なインスペクション評価としては、エキスパートレビュー(専門家評価)、

ヒューリスティック評価、各種ウォークスルー評価、チェックリスト評価などが ある。

・ 要求分析能力

・開発対象に求められる様々な要求を収集、分析し、シナリオなどを用いて要求を 適切に表現できる能力のこと。

F2.設計デザイン能力

・ 要求仕様作成能力

・ユーザーの要求から設計に必要な要件を優先順位とともに定義できる能力。

・ デザイン・仕様提案能力

・ユーザビリティー品質の高い、製品のデザインや仕様の改善案を提案する能力の こと。

・ プロトタイプ作成能力

・プロトタイプを作成する能力のこと。

・プロトタイプには、ペーパープロトタイプから詳細プロトタイプまであるが、主 には、開発の初期段階でのラピッドプロトタイピングが期待される。

(28)

G.マネージメント能力 G1.プロジェクト運営能力

・ プロジェクトデザイン能力

・プロジェクトに必要な要件を明確にし、プロジェクトそのもののゴールやプロセ ス、アクティビティ、チームアサインなどを適切に設計企画できる能力のこと。

・ チーム運営能力

・プロジェクト内のチームワークを維持し、他のメンバーを仲介、ドライブする能 力のこと。

・個々のメンバーがその能力を十全に発揮することが期待される。

・ プロジェクト管理能力

・プロジェクトのリソース(予算、人材)、スケジュール、リスクなどを管理する 能力のこと。

G2.組織管理能力

・ 組織マネージメント能力

・企業ポリシーにふさわしいユーザビリティー戦略のビジョンを描き、会社の戦略 の中にユーザビリティーを落とし込む具体的な組織体制、人員配置、活動の立案、

推進を行う能力のこと。

・ 教育能力

・教育、訓練を行い、組織の人的能力を向上させる能力のこと。

・OJT や業務外の研修、講義、対話などを通じて、メンバーのコンピタンスを向上 させることが期待される。

付録

a1. 社会学(Sociology)に関する知識

・社会学とは、人間の社会的共同生活の構造や機能、社会関係や社会で生じる現象 について研究する学問分野である。

・社会全体を対象とするため、流行、宗教、文化、都市、風俗、犯罪、差別、家族、

社会福祉、国際社会、産業、情報、マスコミ、集団、組織、労働、遊び、社会制 度、社会的モラル、環境問題などその範囲は多岐に渡る。

a2. 人類学(Anthropology)や民族誌学(Ethnography)に関する知識

・人類学とは、人類の本質、文化社会の多様性と普遍性、それらの由来を、さまざ まな側面から総合的・実証的に明らかにする学問分野である。

・形質面の研究を主とする形質人類学と文化や社会生活面から接近する文化人類学、

社会人類学を含む。

(29)

・民族誌学とは、特定の民族や集団の文化社会に関する具体的かつ網羅的な記述を 行うことで文化の多様性と普遍性を明らかにする学問分野である。

a3. 法令や規格、基準に関する知識

・安全性に関する PL 法やその他の、製品、サービスそのものの、および開発、製 造プロセスに関連する各種法規、基準に関する知識である。

a4. 商品企画に関する知識

・市場創造、販売戦略といったマーケティングや商品の企画立案に関する知識であ る。

a5. 経営学に関する知識

・経営学とは、企業経営において目的達成のために行われる人間、資金、技術、情 報などに関する活動を解明しようとする学問分野である。

・企業の目的や意義などの企業論、事業開発や競争戦略などの企業戦略論、組織構 造や人事制度などの企業組織論などに関する知識が期待される。

a6. 英語

・英語によるコミュニケーション能力(19.参照)のこと。

・言語だけではなく、国際的なコミュニケーション能力も期待される。

(30)

2.1.3

残されている課題

ユーザビリティ活動やユーザビリティ専門家のコンピタンスを整理する過程で、更に今 後検討すべき課題として以下のような考察が残されている。

・ 理念的コンピタンスと実践的コンピタンスの統合は可能か

これまでに示したコンピタンスは、現場の関係者へのヒアリング内容に基づいた保有し ていることが「望ましい」という概念をボトムアップにリストアップした言わば実践的 に必要とされているコンピタンスである。その意味では UPA や事務機械工業会で実施さ れたような ISO のユーザビリティ概念定義に基づいた、保有していることが「望ましい」

という概念をトップダウン的にリストアップした理念的なコンピタンス概念とは異な る。

ただし、現場から得られた実践的なコンピタンスもその根源をたどれば ISO の規格に基 づいた理念に沿った方向でのユーザビリティを実践し、その実践の中から得られたコン ピタンスではあるため、敢えて利用者の統合を図る必要性は低いとも考える事ができる。

しかし、現場での実践活動を行うにあたり、UPA で考えられていたような ISO の概念の 受け止め方がどのように「変質」してしまっているか、その可能性を探って最適な道を 探すという努力として、今回の結果を UPA アプローチなどとの比較検討が必要である。

・ これらのコンピタンスはユーザビリティ担当者に特有のものか

例えば、マーケティング部門や企画部門、設計開発部門などの創造的部門において求め られるコンピタンスや、ある組織において創造的な業務を行う人々にとって必要なもの をリストアップしたものは、今回得られたリストと相当部分が類似したものになると思 われる。すなわち、これらのコンピタンスは、必ずしもユーザビリティ活動に特有なも のではない、という批判を行うことも可能である。

しかし、ユーザビリティとマーケティングや企画、設計開発などの部門との大きな違い の一つは、ユーザビリティでは一連のコンピタンスを通プロセス的に必要としている点 である。つまりマーケティングや企画は上流プロセスを活動の中心とし、設計開発は中 流プロセスを活動の中心とする。しかし、ユーザビリティはデザインプロセスを俯瞰し、

上流から中流、そして下流へと一貫して関与すべき「唯一」の担当者である。また、下 流プロセスにおける評価活動はユーザビリティの独壇場である。その意味では他の関係 者には評価関連のコンピタンスは要求されていない。この大きな違いにより、ユーザビ リティ担当者のコンピタンスは独自性を持っていると言える。

このようにマーケティングや企画、設計などの関係者とコンピタンスの重複している部 分はあるが、ユーザビリティ活動の特殊性と重要性を鑑みれば、そのコンピタンスにお けるユニークな部分を強調することが必要である。従って、今回得られたコンピタンス リストを単にフラットなウェイトで概観するだけでなく、どこが他の関係者のコンピタ ンスとは異なっているかを精査する必要があり、そうした比較分析を行うことが今後の 課題の一つと考えられる。

(31)

・ 担当者とマネージャ以外に違う点はないか

ユーザビリティ活動リストでは、ユーザビリティに関連する活動の多様性が表現されて いる。少なくとも担当者レベルにおいてはこれらの作業をまんべんなくこなせることが 要求されるが、もしユーザビリティセクションの人数が多ければ、活動ごとに異なる人 材をあてることも可能で、そうなるとユーザビリティ活動についての専門性を強調する ことは容易になる。

マネージャと担当者は組織において明らかに異なるコンピタンスを要求されているた め、今回の結果のように、コンピタンスを担当者とマネージャに二分する考え方は妥当 であるといえるだろう。しかし、担当者レベルではその担当業務の内容に応じて異なる スキルや知識などが求められるのは当然である。

問題は、人数の少ない場合には、多少の無理をしても複数の担当業務をひとりの担当者 が受け持たざるを得ないこともある。こうした場合、どのユーザビリティ活動とどのユ ーザビリティ活動は親近性が高いから同じ担当者にまかせることができる、あるいは、

どれとどれは異なる部分が大きいので同じ担当者にまかせることは困難である、という ような活動リストの精査をおこなっておく必要があるだろう。

・ 業種・業態によって違う点はないか

製造業とサービス業ではその活動プロセスが大きく異なる。今回のコンピタンス研究で は、ISO13407 を相当部分意識したが、この規格はもともとコンピュータを用いた対話型 システムを対象にしたものであり、主として製造業が対象となっていると考えられる。

しかし、人間中心設計の考え方はサービス業など他業種にも適用可能であり、またそう すべきであると言える。

今回のコンピタンスは、情報収集にあたってかなり多様な業種の人々に協力をいただい ているが、その意味では、異なる活動プロセスの情報が結果の中に混在してしまったと も言える。そこで、一つの方向性として、今回得られたデータを製造業関連に限定して 再分析し、製造業におけるユーザビリティコンピタンスを整理するというやり方も考え られる。

また、ISO18529 においてはサービスは最終プロセスとして位置づけられているが、サー ビス業という業務を考えた場合、それは単純に一つの箱として表現できるような内容で はない。その意味で、もう一つの方向性として、サービス業など、製造業以外の業種業 態についての活動プロセスモデルを構築し、それにもとづいてコンピタンスを再検討す るというアプローチが必要であると言える。

・ 教育できるコンピタンスとできないコンピタンスの違いはないか

企業に就職する年代になってしまうと、人間はまだ変化できる部分と変化することに相 当な困難がつきまとう部分を持っている。例えば、知識の有無や動機付けなどは前者に 近く、知的な水準や性格や気質に関連した部分は後者に近い。具体的に、共感性の低い 人間を共感性の高い人間にしたてることはいかなる教育をもってしてもかなりの困難

(32)

を伴うと考えられる。

この意味で、コンピタンスリストは人材採用の段階と人材育成の段階の二段階で利用さ れるべきだと言える。人材採用の段階では、教育や訓練によっては変化させることが難 かしい側面を重視し、その面に関して適切な人材を採用する必要がある。人材育成や人 材教育の段階では、教育や訓練によって変化させることが可能な側面を重視し、そのた めの必要十分な教育訓練を与えることが必要となる。

これまでに得られたコンピタンスリストを再吟味すれば、適切な人材をユーザビリティ セクションに配置することが可能になる。なお、人材採用の段階で重視すべき項目につ いては、それを識別できるような指標(たとえば性格テストや適性テストなど)を用意す ることが必要であり、人材育成の段階で重視すべき項目については、それを補強するた めの教材(シラバス、テキスト、教師)が必要になる。こうした形で実践的なユーザビリ ティ人材の配置が可能になると考えられる。

また、人材教育や育成の段階で、どのような教育訓練を与えるか、どのような内容は OJT で与え、どのような内容は OffJT で与えるか、そういった問題について詳細な吟味をす る必要もある。これらの項目の中には現場での実践経験によって自然に獲得できるもの もあるが、ものによっては研修のような形をとる必要のあるものもあり、さらに、例え ば認知心理学の知識が必要であるといっても、大学や大学院で行っているような認知心 理学の知識を同じように与えればいいとは限らない。こうしたポイントを押さえたコン ピタンス強化のための教育のシラバス構築や教材の作成などが必要となる。なお、これ らは一企業が担当するには負荷の大きすぎる作業となるため、中立的な機関においてそ の作業を行うことが必要と考えられる。

(33)

2.2 今年度の活動へのアプローチ

ユーザビリティ専門家の活動とそのコンピタンスおよび残された課題について前述の 通り整理されて来たが、本調査では、ユーザビリティ活動対象分野の中からドキュメン ト制作分野の専門家、いわゆるテクニカルコミュニケーターが製品開発プロセスにおい て行う活動を対象として、TC 技術者が必要とするユーザビリティ活動について考察した。

2.2.1

ドキュメント制作分野におけるユーザビリティ活動

製品製造企業にとって開発される製品の取扱い説明書、いわゆるマニュアル等のドキュ メント制作を担当するテクニカルライターなどのテクニカルコミュニケーション(TC 技 術者)は、製品開発および製造工程において必要不可欠な存在となっている。

TC 技術者は、製品開発や製造工程において商品の特徴や機能をユーザーに対してわかり やすく説明するマニュアル類を典型とするドキュメント制作を行う。これらのマニュア ル制作工程は、以前は製品開発や製造段階が終わり製品が出来上がってから初めてドキ ュメント制作部門が商品の説明を受けながらマニュアルを制作していた。しかし、最近 では設計や製造の早い段階から開発チームに加わり製品製造の上流工程において設計 部門や製品評価、品質管理部門などにおいてユーザーの立場を考えながらユーザーガイ ダンスを行う TC 技術者に注目する企業が増えた。また、ユーザーエクスペリエンスを 主な仕事とする専門家の存在なども意識されるようになった。これらの職種や部門の位 置付けは、企業ごとに独自の概念を起こして様々な組織編成や名称で表現されているが、

いずれも製品開発工程において必要不可欠な役割を演じる製品開発技術の担当部署で あることには変わりない。

また近年これらのドキュメント制作環境自体も激変している。以前のマニュアルは紙の 印刷物が主体であったが、インターネットの普及や電子化社会の影響を受け今やドキュ メントの世界は Web 情報抜きには考えられなくなった。時代の変化と共に、マニュアル などのユーザーガイダンスツールも大きく変化し、パソコン画面上で動的に見る事ので きるオンラインヘルプ機能が発達し、マニュアル等の説明ドキュメントが製品そのもの に組み込まれていたり、インターネットを経由してダウンロードで提供されるような時 代の変化が見られる。

これらの時代背景の影響を受けて活動するドキュメント制作技術部門のスタッフにも 情報やドキュメントに関するユーザビリティを前提として活動することが急務となっ ており、従来言語や文章表現の専門家として位置付けられていた TC 技術者にも人間工 学系の製品開発手法やデザイン設計手法による製品開発アプローチが求められる。

従って、これまで蓄積してきた関連調査成果に基づいてドキュメント制作分野における ユーザビリティ活動や専門家のコンピタンスを掘り下げる事は、必要とされる専門家育 成の目標を明らかにする人材育成の観点からも重要である。

(34)

2.2.2

人材育成プログラムにおけるコンピタンスの重み付け

ユーザビリティ専門家育成の立場から焦点を当てれば、明らかにされて来た専門家のコ ンピタンス項目に対して、適用しようとする分野や業種、製品の違いなどによるニーズ の差異に適応するためのコンピタンスのリスト項目に対する重み付けが必要になる。す なわち、該当する業種や製品の違いによって必要とされる資質の度合いにばらつきがあ り、また企業内で組織編成上どこの部署の範疇としてどういう担当分けで仕事を分担す るかという現状環境の違いにより、当然のことながら必要とされる人材育成の目標やプ ログラムに差異が生じる。

逆に言えば、「ユーザビリティ専門家」の育成に共通する課題はあるが、どの業種でも 通用するマルチ人材的な万能人材育成コースはあり得ないため、各企業がそれぞれの環 境や内容に応じた重み付けを行い自社の人材育成プログラムに反映する必要がある。そ こで今年度は、TC 技術者を具体的分野として考え、その専門家のコンピタンスと一般概 念としてのユーザビリティ専門家の違いについて考察する。

さらに明らかにされたコンピタンスリストが人材育成目標であると言う事はできるが、

すべての資質項目を育成目標とすることは現実的ではない。すなわち人材の先天的資質 や就職以前の学習専門過程の違い、現在の職業に至るまでのキャリアの違いなどによっ て対象となる人の条件が異なるのが現実である。そこで企業としては、社内で育成対象 とすべき資質項目とあらかじめ人材を採用する時に応募者の資質や資格として選抜選 定する資質を見分ける必要がある。

従って、今年度の活動として次のような手順で調査研究を行った。

・ ユーザビリティ専門家のコンピタンスリスト(第4版)に基づいて、TC 技術者に 必要なコンピタンスを比較検討した。

・ 企業内教育としてコンピタンスリスト(第4版)に基づき各企業では育成担当者 がどのような重み付けを描いているか調査した。

・ ユーザビリティ能力と TC 技術者のスキルの関連性に関して考察した。

・ コンピタンスリストを育成目標と仮定して、企業内における人材育成シラバスの 概要を検討した。

・ 人材育成の具体的な現場環境における条件と育成シラバスどのギャップについて 考察した。

・ 今後の課題を検討した。

(35)

活 動 報 告

3.1. ドキュメント制作専門家のコンピタンス調査 3.2. 企業内の人材育成に関する調査

3.3. 調査結果に対する考察

第 3

(36)
(37)

3. 活動報告

3.1 ドキュメント制作専門家のコンピタンス調査

3.1.1

調査の概要

これまでの調査結果として蓄積されたユーザビリティ専門家のコンピタンスリスト(第 4版)にあるリスト項目をベースにして、ドキュメント制作専門家のコンピタンスを挙 げるとすれば、どのような結果が得られるのかについて以下の要領で調査を実施した。

・ 目的

本調査では、ユーザビリティ専門家のコンピタンスとドキュメント制作専門家のコンピ タンスの類似性や関係に関する業界意識を調べた。

・ 調査方法

本調査は、以下の手順で実施した。

z ユーザビリティ専門家のコンピタンス(第4版)をベースに、これらのコンピタン ス項目がドキュメント制作専門家のコンピタンスとして挙げられた場合の5段階 評価を行った。

z 回答に際して、1=ほとんど必要ない項目、5=絶対に必要な項目として、2〜4 は必要度の段階とした。

z さらに、「ドキュメント制作専門家」という定義だけでは実体像が確定できないた め、今回は2種類の専門家を「広義の TC 専門家」と「狭義の TC 専門家」に大別し た。

z 「広義」と「狭義」の定義は、科学的に定義されている訳でも規格のような定義も 正式に定義されている訳ではないが、イメージはユーザビリティの定義で Big Usability と Small Usabiulity が使い分けられているように、言わば Big TC と SmallTC ということになる。あるいは、別の角度から、Small=狭義=テクニカル ライター(ライティング作業だけをする人)、Big=広義=テクニカルコミュニケー ター(TC 技術を背景としたコミュニケーション作業をする人)とも言える。

z ただし、「コミュニケーション作業とは何か?」という新たな疑問が出る可能性が あるが、この定義も特に定めていないが、例えば、ライティングだけでなく、設計 上流工程や仕様書作成におけるヒアリングや仕様調整、ドキュメント制作に関する 管理、ディレクション、などなど製品製作工程の中で上流から下流までの「純粋な ライティング」以外のコミュニケーション作業ということを概念とした。

z 実施方法は、これらの定義や説明を文章にして添付し、調査シート(記入回答用紙)

と共に電子メールで回答者に送り、電子メール回答を集計分析した。

・ 調査期間

調査期間は、2006 年 1 月から 2 月の約1ケ月間とした。

(38)

・ 回答者

回答は、TC 業界において 10 年以上の活動を継続している TC 協会会員のベテランを任意 で選別し、個別に6名の協力を仰いだ。

・ 質問シート

質問シートを次のページに示す。

(39)

教育 vs 選抜 教育方法

1 => 企業で教育できる ---

5 => 個人の資質を選択すべき 狭義のTCの場合

1, 2, 3, 4, 5広義のTCの場合

1, 2, 3, 4, 5 1, 2, 3, 4, 5 A. 興味、関心、態度

1. ユーザビリティ活動に関する興味、関心 2. ものづくりに対する興味、関心 3. ものに対する興味、関心 4. 問題解決に対する柔軟さ 5. 新しいもの・領域への積極性 6. 学習意欲

B. 基本能力

7. 理論的思考能力 8. 洞察力 9. 機転能力 10. メタ認知能力 11. 共感性 12. 想像力 13. 持久力 14. 責任感 15. モチベーション 16. 自律能力 17. 学習能力 C. ビジネス活動能力

18. 情報収集力 19. コミュニケーション能力 20. プレゼンテーション能力 21. 文書作成能力 5段階

23. 人材ネットワーク構築力 D. 経験

24. 開発経験 25. ユーザビリティ業務経験 E. 知識

E1 開発部署共通

26. ユーザ-インタフェースに関する知識 27. 製品・技術に関する知識 28. 利用状況に関する知識 29. 開発プロセスに関する知識 30. ユニバーサルデザインに関する知識 E2 プロセス・理念

31. HCD・UCDに関する知識 E3 関連学問分野・手法

32. 人間工学に関する知識 33. 認知心理学に関する知識 34. 心理学に関する知識 35. 各種調査評価手法に関する知識 36. 調査実務計画に関する知識 37. 量的分析手法に関する知識 38. 質的分析手法に関する知識 F. ユーザビリティエンジニアリング能力 F1 調査評価能力

39. リサーチデザイン能力 40. 分析考察能力 41. インタビュー実施能力 42. 観察能力

43. ユーザビリティテスト実施能力 44. インスペクション評価実施能力 45. 要求分析能力

F2 設計デザイン能力

46. 要求仕様作成能力 47. デザイン・仕様提案能力 48. プロトタイプ作成能力 G. マネジメント能力

G1 プロジェクト運営能力

49. プロジェクトデザイン能力 50. チーム運営能力 51. プロジェクト管理能力 G2 組織管理能力

52. 組織マネジメント能力 53. 教育能力

付録

a1 社会学の関する能力 a2 人類学や民俗誌学に関する能力 a3 法令や規格、基準に関する知識 a4 商品企画に関する知識 a5 経営学に関する知識 a6 英語(語学)

自由回答

コンピタンス特性項目 必要性

カテゴリー 項目

1 => ほとんど必要ない ---

5 => 絶対に必要

(40)

3.1.2

調査結果

・ 回収シートの集計

質問シートを個別に回収し、各コンピタンス項目毎に平均をとった。

集計結果を次に示す。

・ 結果の考察

z 回答は、5段階評価の数字で記述し、その平均をとったため結果の数値的には 1=ほとんど必要ない

3=どちらとも言えない 5=絶対に必要

と言う事になる。

z 狭義の TC 技術については、3ポイント以下の数字の出ている資質に注目すると、A の 1. ユーザビリティ活動に関する興味、関心、2. ものづくりに対する興味、関心 の他、D.の 経験、E2 プロセス・理念、E3 関連学問分野・手法、F. ユーザビリティ エンジニアリング能力のほとんどの資質など、が「必要ない」という回答を得てい る。

z 広義の TC 技術者については、同様に3ポイント以下の「必要ない」項目は、D. 経 験や E3 関連学問分野・手法の一部、付録の社会学、人類学、民族誌学、経営学など が該当する。

z 逆に、平均 4.5 ポイント以上の高得点で「絶対に必要」な資質は、狭義の TC 技術者 の場合、7. 理論的思考能力、13. 持久力、21. 文書作成能力などに見られる。また 広義の TC 技術者の場合は、A. 興味、関心、態度、B. 基本能力、C. ビジネス活動 能力、E1 開発部署共通のうち 27. 製品・技術に関する知識、28. 利用状況に関する 知識、付録の a4 商品企画に関する知識、など幅が広くなり4ポイント以上の得点 項目でみれば、付録の関連学問知識以外のほとんどの資質項目が「必要」という傾 向を示した。

z また、「狭義の TC 技術者」と「広義の TC 技術者」の集計結果を比較すると、ほとん どの資質項目に同じ傾向が見られ、「広義の TC 技術者」の方がより広範な知識を要 求されることを示した。

z 特記すべきは、13. 持久力と 21. 文書作成能力の資質においては、「狭義の TC 技術 者」において「広義の TC 技術者」より「資質の必要性」が指摘されたが、これは職 業上の能力として考えれば当然である。

3.1.3 TC

技術区分の位置付け

TC 協会では、独自の体系による「テクニカルコミュニケーション技術検定試験」制度を 開発し、現在「初級/上級テクニカルライティング」コースならびに「制作ディレクシ ョン」コースを実施している。この体系の範疇とユーザビリティ専門家のコンピタンス を比べてみると、19. コミュニケーション能力、20. プレゼンテーション能力、21. 文 書作成能力あたりの資質を更に微細な項目にブレークダウンしていることがわかる。参 考までに、本調査書の最後にある「参考資料」にテクニカルコミュニケーション技術の 中項目レベルまでの項目を示す技術区分表を添付する。

参照

関連したドキュメント

In [10, 12], it was established the generic existence of solutions of problem (1.2) for certain classes of increasing lower semicontinuous functions f.. Note that the

The set of families K that we shall consider includes the family of real or imaginary quadratic fields, that of real biquadratic fields, the full cyclotomic fields, their maximal

Theorem 5 was the first result that really showed that Gorenstein liaison is a theory about divisors on arithmetically Cohen-Macaulay schemes, just as Hartshorne [50] had shown that

東京都は他の道府県とは値が離れているように見える。相関係数はこう

&BSCT. Let C, S and K be the classes of convex, starlike and close-to-convex functions respectively. Its basic properties, its relationship with other subclasses of S,

Within the family of isosceles 4-simplices with an equifacetal base, the degree of freedom in constructing an equiareal, equiradial, but non-equifacetal simplex is embodied in

Here we shall supply proofs for the estimates of some relevant arithmetic functions that are well-known in the number field case but not necessarily so in our function field case..

A connection with partially asymmetric exclusion process (PASEP) Type B Permutation tableaux defined by Lam and Williams.. 4