Rough path analysis
とはなんだろうか
会田 茂樹 大阪大学大学院基礎工学研究科1
前置き
xt (0 ≤ t ≤ 1)をRd上のpathとする。f (x) =t(f1(x), · · · , fd(x))をRd上のRd-値C∞関数とす る。xtが連続かつ有界変動ならば積分 R1 0(f (xu), dxu)はStieltjes積分として定義される。連続な path xtが有界変動ではなくp-variation norm (1 < p < 2)kxkp:= ( sup D N X i=1 |xti− xti−1|p )1/p (D = {0 = t0 < · · · < tN = 1}はすべての分割を動く)が有限のときも近似和の極限 lim m(D)→0 N X i=1
(f (xsi−1), xti − xti−1) (ti−1≤ si−1≤ ti) (1.1) は収束することはわかる。それをYoung integralという。Pathがγ-次のH¨older連続性をもつと き、γ > 1pならばp-variation normは有限である。したがって、Brown運動のpathは2 < p < 3
のp-variation normが有限だがYoung integralの考えを用いて(1.1)が収束するとは言えない。実
はiterated integral Rst(x(u) − x(s)) ⊗ dx(u) ∈ Rd⊗ Rdも込みにして近似和を定義すれば収束す ることがわかる。⊗はテンソル積を表す。それがTerry Lyonsによるrough path analysisとよば れるものである。この話の分かりにくい点は
1. Young integralのときはpath xtだけの言葉で積分が定義されるがrough pathはiterated
integral Rst(x(u) − x(s)) ⊗ dx(u)もペアにして考えなければならないこと
2. xtが滑らかなpathでなければYoung integralとしてすらiterated integral
Rt
s(x(u) − x(s)) ⊗
dx(u) は定義できないから、rough pathとはxtとRd⊗ Rd値の写像x2(s, t)のペアとして
定義されること,さらにすべてのtでxt= ytでもx2(s, t) 6= y2(s, t)となることがあること 3. 勝手なxtとx2(s, t)のペアではなくある代数的な関係式(Chenの恒等式)をみたす必要があ
ること(Young integralの定義でもimplicitにxt− xsのみたす代数的な関係を用いているが
それはほとんど意識されない)
4. Brown運動のpathに対してrough path analysisを適用するときはBrown運動のpathを
rough pathの空間に埋め込んで考えるがその埋め込みの仕方が一意的ではないこと
などがあると思う。数学としては、まったく抽象的に上で述べたChenの恒等式をみたす写 像としてrough pathが与えられたとして、その積分論を展開すればよいのだがそれだとやはり
わかりにくいと思われるので、そのようには話を進めずC1-path x
tに対して定義される汎関数
x →R01(f (xu), dxu) がどのような位相で連続かを考えるという立場でrough path analysisを紹介
する。その位相がp-variation (1 < p < 2)の位相より弱ければその空間で積分が連続的に拡張さ れ定義されるであろうし、自然とrough pathの空間も出てくるであろう。
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Introduction
f (x) = (fi j(x))1≤i≤n,1≤j≤d (x ∈ Rd)を(n, d)行列値Cb∞関数とする。Rd上の滑らかなpath xt (0 ≤ t ≤ 1)に対して、Riemann-Stieltjes積分 Is,t(x) := Z t s f (xu)dxu= Z t s fji(xu)dxju, (s, t ∈ [0, 1]) (2.1) はRn-値の滑らかなpathを与える。しかし、xtがBrown運動のように滑らかさが無いとき、ど のように定義したらよいだろうか。もちろんマルチンゲール理論による定義があるわけだが、こ こではT.Lyons ( [8, 9])によるrough path analysisで定義する方法を紹介する。ただし、以下、xtは滑らかなpath(C1級のpath)とする。Is,t(x)を近似する量として次のも のがあるであろう。 ˜ Is,t(x) := f (xs)(xt− xs), (2.2) Js,t(x) := f (xs)(xt− xs) + (∇f )(xs) µZ t s (xu− xs) ⊗ dxu ¶ . (2.3) ただし、a =Pdi=1aie i, b = Pd i=1biei, c = Pd i=1ciei, ei =t(0, . . . , i 1, . . . , 0) に対して [(∇f )(x)(a ⊗ b)]i = X 1≤j,k≤d ∂fi j ∂xk(x)a kbj (2.4) · (∇f )(xs) µZ t s (xu− xs) ⊗ dxu ¶¸i = X 1≤j,k≤d ∂fi j ∂xk(xs) Z t s (xku− xks)dxju (2.5) £ (∇2f )(x)(a ⊗ b ⊗ c)¤i = X 1≤k,l≤d ∂2fi j ∂xl∂xk(x)a lbkcj (2.6) と約束する([·]iはi成分を表す)。 ˜ Is,t(x)はIs,t(x)の第一近似、Js,t(x)は次の意味で、第二近似といえる。 Is,t(x) = Z t s · f (xs) + ½Z 1 0 (∇f )(xs+ θ(xu− xs))dθ ¾ (xu− xs) ¸ dxu = Z t s [f (xs) + (∇f )(xs)(xu− xs)] dxu + Z t s ½Z 1 0 (∇f )(xs+ θ(xu− xs))dθ − (∇f )(xs) ¾ (xu− xs)dxu = Js,t(x) + Z t s ½Z 1 0 µZ θ 0 (∇2f )(xs+ r(xu− xs))dr ¶ dθ ¾ (xu− xs) ⊗ (xu− xs)dxu =: Js,t(x) + Rs,t(x) (2.7)
さらに容易に、 |Is,t(x) − Js,t(x)| ≤ C Z t s |xu− xs|2| ˙xu|du. (2.8) [0, 1]の分割D := {0 = t0< t1< · · · < tN = 1}に対して、D¯ をさらにs, tを分点として付け 加えた分割とする(入っていたら付け加える必要無し)。それを順番に並べたものをtiと書くこと にする。 ˜ Is,t(x, D) := X s≤ti−1,ti≤t,ti−1,ti∈ ¯D ˜ Iti−1,ti(x) (2.9) Js,t(x, D) := X s≤ti−1,ti≤t,ti−1,ti∈ ¯D Jti−1,ti(x) (2.10) と定義する。明らかに、 Is,t(x) = X s≤ti−1,ti≤t,ti−1,ti∈ ¯D Iti−1,ti(x) (2.11) Is,t(x) = lim m(D)→0 ˜ Is,t(x, D) (2.12) Is,t(x) = lim m(D)→0Js,t(x, D), (2.13) m(D)は分割Dの最大幅。(2.12)はStieltjes積分の近似、(2.13)はT.Lyonsの仕事に出て来る近 似。このままでは、単にTaylor展開でf (xu)を2次まで近似して近似和を構成したに過ぎないが、 大事なのは、(2.13)を用いることにより次に述べる連続性定理が証明できることである。 そのため、p-variation normの定義を述べる。 Definition 2.1 滑らかなpath {xt}0≤t≤1について∆ = {(s, t) | 0 ≤ s ≤ t ≤ 1}上のRd値関数、 Rd⊗ Rd値関数 x1(s, t) = x(t) − x(s) (2.14) x2(s, t) = Z t s (x(u) − x(s)) ⊗ dx(u) (2.15) を定義し関数ψ(·, ·) : ∆ → V (V はベクトル空間) のq-variation normを kψkq = sup D (n−1 X i=0 |ψ(ti, ti+1)|q )1/q (2.16) と定義する。D := {0 = t0 < t1 < · · · < tN = 1}はすべての分割を動く。ψ = ¯x1, ¯x2などである。 また、区間[s, t]でのq-variation normをkψkq,[s,t]と書く。 Theorem 2.2 2 < p < 3とする。xt, ytをRd上の滑らかなpathとする。 max©k¯x1kp, k¯y1kp, k¯x2kp/2, k¯y2kp/2 ª ≤ R < ∞ (2.17) max©k¯x1− ¯y1kp, k¯x2− ¯y2kp/2 ª ≤ ε (2.18) とすると任意の0 ≤ s ≤ t ≤ 1に対して ¯ ¯ ¯ ¯ Z t s f (xu)dxu− Z t s f (yu)dyu ¯ ¯ ¯ ¯ ≤ ε · C (R, p, f ) , (2.19) C(R, p, f )はR, p, fの3階微分までのsupnormできまる定数。
さらにd次元Brown運動のpath w(t)について次の結果が示せる。 Theorem 2.3 (Pnw)(t)を分点{2kn}2 n k=0における値を結んで得られるw(t)の折れ線近似のpath とする。このpathに対して(Pnw)1, (Pnw)2 を考えるとほとんどすべてのwについて lim n,m→∞max{k(Pnw)1− (Pmw)1kp, k(Pnw)2− (Pmw)2kp/2} = 0 (2.20)
Brown運動のpath wでTheorem2.3のように近似path (Pnw)1, (Pnw)2がCauchy列となって
いるものを考える。Theorem 2.2よりすべての(s, t) ∈ ∆についてlimn→∞Is,t(Pnw)が収束する。そ
れを積分Is,t(w) =
Rt
sf (wu)dwuと考えるのが自然であろう。さらに(Pnw)1, (Pnw)2のp-variation norm, p/2-variation normの極限をw¯1, ¯w2と書くと連続性定理Theorem 2.2のx¯1, ¯x2, ¯y1, ¯y2をこ
れら極限で出てくるw¯1, ¯w2, ¯η1, ¯η2(¯η1, ¯η2もBrown運動のpath ηの極限で出てくるもの)などに置 き換えてそのまま成り立つ事も分かる。さらに、次の確率積分の近似定理に注意する。 Theorem 2.4 ほとんどすべてのwについて lim n→∞Is,t(Pnw) = Z t s f (wu) ◦ dwu (2.21) lim n→∞(Pnw)2(s, t) = Z t s (w(u) − w(s)) ⊗ dw(u) (2.22) ただし、右辺の積分はStratonovich積分である。 これより 1. Is,t(w)はStratonovich積分 Z t s f (wu) ◦ dwuとほとんどすべてのwについて等しいこと 2. ¯w2(s, t)はやはりStratonovich積分 Z t s (w(u) − w(s)) ⊗ dw(u) と等しいこと
がわかり確率積分のあるバージョンをとればpathの汎関数としてp-variation, p/2-variation norm
で計って連続であるとわかる。
以下、Theorem 2.2が近似(2.13)を用いてどのように証明されるか紹介する。
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連続性定理について
Is,t(x)はpath xの時刻[s, t]の部分だけを用いて定義されるから[s, t]部分のvariation normを用
いて評価されるはずである。実際、それは、次のcontrol functionを用いてなされ、それがT.Lyons の結果である。
Definition 3.1 連続関数ω(·, ·) : ∆ → [0, ∞) がcontrol functionであるとは次をみたすときに言 う:任意の0 ≤ s ≤ u ≤ t ≤ 1に対して、
ω(s, u) + ω(u, t) ≤ ω(s, t). (3.1)
Example 3.2 滑らかなpath xtとq > 0に対して
ω(s, t) = k¯x1kqq,[s,t]+ k¯x2kq/2q/2,[s,t] (3.2)
3.1 Rstf (xu)dxuの上からの評価
まず、連続性定理より考えやすいつぎの定理を示す。
Theorem 3.3 滑らかなpath xt がcontrol function ω に対して、すべてのs, tについて
|x1(s, t)| ≤ ω(s, t)1/p (3.3) |x2(s, t)| ≤ ω(s, t)2/p (3.4) を満たすと仮定する。このとき、 |Is,t(x)| = ¯ ¯ ¯ ¯ Z t s f (xu)dxu ¯ ¯ ¯ ¯ ≤ C(f, p) ³ ω(s, t)1/p+ ω(s, t)2/p+ ω(s, t)3/p ´ , (3.5) ここでC(f, p)はfの2階微分までのsup-normとpに依存する定数。
これは、確率積分が1次と2次のiterated integral のvariation normが有限の所ではやはり有限 になるということを述べている。 Lemma 3.4 N ≥ 2となる自然数とする。分割D = {s = t¯ 0 < t1 < · · · < tN = t} に対して、あ るti−1で ω(ti−1, ti+1) ≤ 2ω(s, t) N − 1 . (3.6) Proof. (N − 1) min i ω(ti−1, ti+1) ≤ N −1X i=1 ω(ti−1, ti+1) = X j≥0,2j+2≤N ω(t2j, t2j+2) + X l≥0,2l+3≤N ω(t2l+1, t2l+3) ≤ 2ω(s, t). (3.7) Proof of Theorem 3.3 D = D ∪ {s, t}¯ に注意する。Js,t(x, D) = Js,t(x, ¯D) である。D =¯ {s = t0< · · · < tN = t}としN ≥ 2とする。(3.6)を満たすiをとる。D¯−1 := ¯D \ {ti}とおく。 Js,t(x, ¯D) − Js,t(x, ¯D−1)を評価する。 Js,t(x, ¯D) − Js,t(x, ¯D−1)
= Jti−1,ti(x) + Jti,ti+1(x) − Jti−1,ti+1(x)
=¡f (xti) − f (xti−1)¢ ¡xti+1− xti¢
+∇f (xti−1)¯x2(ti−1, ti) + ∇f (xti)¯x2(ti, ti+1) − ∇f (xti−1)¯x2(ti−1, ti+1). (3.8) ここで一般にs < u < tのとき x2(s, t) = Z t s (x(r) − x(s)) ⊗ dx(r) = Z u s (x(r) − x(s)) ⊗ dx(r) + Z t u (x(r) − x(s)) ⊗ dx(r) = Z u s (x(r) − x(s)) ⊗ dx(r) + Z t u
(x(r) − x(u)) ⊗ dx(r) + (x(u) − x(s)) ⊗ (x(t) − x(u)) = ¯x2(s, u) + ¯x2(u, t) + ¯x1(s, u) ⊗ ¯x1(u, t) (3.9)
に注意して Js,t(x, ¯D) − Js,t(x, ¯D−1) = ∇f (xti−1) (x(ti) − x(ti−1)) ⊗ ¡ xti+1− xti ¢ + ·Z 1 0 n
(∇f )(xti−1+ θ(xti− xti−1)) − (∇f )(xti−1)
o dθ ¸ (x(ti) − x(ti−1)) ⊗ ¡ xti+1− xti ¢ +∇f (xti)¯x2(ti, ti+1) − ∇f (xti−1)¯x2(ti, ti+1) − ∇f (xti−1)¯x1(ti−1, ti) ⊗ ¯x1(ti, ti+1)
= R(f, x, ti−1, ti+1) [¯x1(ti−1, ti) ⊗ ¯x1(ti−1, ti) ⊗ ¯x1(ti, ti+1)]
+S(f, x, ti−1, ti) [¯x1(ti−1, ti) ⊗ ¯x2(ti, ti+1)] , (3.10)
ここで R(f, x, ti−1, ti+1) = Z 1 0 µZ θ 0 (∇2f )¡xti−1+ τ (xti− xti−1) ¢ dτ ¶ dθ (3.11) S(f, x, ti−1, ti) = Z 1 0 (∇2f ) ³ xti−1 + θ(xti− xti−1) ´ dθ. (3.12) 従って分点tiに対する仮定から、 ¯ ¯Js,t(x, ¯D) − Js,t(x, ¯D−1) ¯ ¯ ≤ C · k∇2f k ∞ (µ 2ω(s, t) N − 1 ¶3/p + µ 2ω(s, t) N − 1 ¶1/pµ 2ω(s, t) N − 1 ¶2/p) ≤ C µ 2ω(s, t) N − 1 ¶3/p k∇2f k∞. (3.13) Js,t(x, ¯D−1)に対しても同じルールで分点t0iを探して同様にそれを取り去った分割D¯−2を考える ようにしてこれを繰り返すと ¯ ¯Js,t(x, ¯D) − (f (xs)x1(s, t) + ∇f (xs)x2(s, t)) ¯ ¯ ≤ C · " N X k=2 µ 2ω(s, t) k − 1 ¶3/p# k∇2f k∞.(3.14) limm(D)→0Js,t(x, D) = Is,t(x)、2 < p < 3だから定理が証明された。 Remark 3.5 (1) limm(D)→0Js,t(x, D)がIs,t(x)に収束するのは(2.8), (2.11)からわかるが、上の 分割の点を選んで消去していく論法で次の評価も得られる。D = {0 = t0 < · · · < tN = 1}, D0を [0, 1]の分割とし、D00を共通の分割とする。すると |Js,t(x, D) − Js,t(x, D00)| ≤ C · k∇2f k∞ X k≥1 1
k3/p 1≤i≤Nmax ω(ti−1, ti)
3
p−1ω(0, 1). (3.15) ゆえにlimm(D)→0Js,t(x, D)は収束する。この論法は滑らかなpath xt から定まらないrough path
の積分の極限やYoung積分の収束を示すときは重要である。
(2) Young積分について簡単に述べる。近似和(2.12)はxtがγ = 1+ε2 -H¨older連続(ε > 0)または
k¯x1kp < ∞ (1 < p < 2)ならばm(D) → 0のとき収束することが上のような分点を選んでいく論
法でわかる。このように定義された積分をYoung積分という。xのp-variation normが有限のと きは、ω(s, t) := k¯x1kpp,[s,t]を用いて論ずれば良い。H¨older連続性のある時はω(s, t) = C · |t − s|,
3.2 Theorem 2.2 の証明
|Is,t(x) − Is,t(y)|を評価してTheorem 2.2を示す。それのcontrol functionを用いた次の精密な
バージョンで示す。
Theorem 3.6 滑らかなpath xt, yt がcontrol function ω に対して、すべてのs, tについて以下
をみたすと仮定する。 max {|x1(s, t)|, |y1(s, t)|} ≤ ω(s, t)1/p (3.16) max {|x2(s, t)|, |y2(s, t)|} ≤ ω(s, t)2/p (3.17) |x1(s, t) − y1(s, t)| ≤ εω(s, t)1/p (3.18) |x2(s, t) − y2(s, t)| ≤ εω(s, t)2/p. (3.19) このとき、 ¯ ¯ ¯ ¯ Z t s f (xu)dxu− Z t s f (yu)dyu ¯ ¯ ¯ ¯ ≤ εC(f, ω(0, 1), p)ω(s, t)1/p. (3.20) C(f, ω(0, 1), p)はω(0, 1), p, fの3階微分までのsup-normに依存する定数である。 Proof. N ≥ 2としD = {s = t¯ 0 < · · · < tN = t}から前と同じルールで分点をひとつづつ除いて 得られる分割の列D¯−kを考える。これはωにのみ依存しxt, yt共通に取れることに注意せよ。す ると ¯ ¯Js,t(x, ¯D) − Js,t(y, ¯D) ¯ ¯ ≤ N −2X k=0 ¯ ¯©Js,t(x, ¯D−k) − Js,t(x, ¯D−k−1)ª−©Js,t(y, ¯D−k) − Js,t(y, ¯D−k−1)ª¯¯ + |Js,t(x) − Js,t(y)| . (3.21) (3.10)と仮定から ¯ ¯©Js,t(x, ¯D−k) − Js,t(x, ¯D−k−1)ª−©Js,t(y, ¯D−k) − Js,t(y, ¯D−k−1)ª¯¯ ≤ C · ε µ 2ω(s, t) N − k − 1 ¶3/p¡ k∇2f k∞+ k∇3f k∞ ¢ . (3.22) Js,t(x) − Js,t(y)を評価し、m(D) → 0とすれば定理の証明は終る。 Theorem 3.6からTheorem 2.2を導く。
Proof of Theorem 2.2 Control function ωを
ω(s, t) = k¯x1kpp,[s,t]+ k¯y1kpp,[s,t]+ k¯x2kp/2p/2,[s,t]+ k¯y2kp/2p/2,[s,t] +¡ε−1k¯x1− ¯y1kp,[s,t] ¢p +¡ε−1k¯x2− ¯y2kp/2,[s,t] ¢p/2 . (3.23) とおけばTheorem 3.6の仮定が満たされる。その定理の結論にTheorem 2.2の仮定を適用すれば 良い。
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補足
われわれはxが滑らかでないpathのときもRstf (xu)dxuを定義する方法を紹介した。しかし、一 般に滑らかでない二つのpathxt, ytがまったく独立に与えられたとき R1 0 xsdysに意味をあたえて いるわけではないことに注意してほしい。したがって、R01f (t, w)dw(t)のようなItˆo積分すべてに 意味を与えているわけではない。 以下補足を述べる。 1. d = 1のとき、すなわちdriving path xtが1次元のときf (x) =t(f1(x), . . . , fd(x))に対して 原始関数((Fi)0(x) = fi(x))をとると Fi(xt) − Fi(xs) = Z t s fi(xu)dxu だからxtのみの連続な汎関数になり、2次の積分の部分はいらない。実際このときは、 Z t s (xu− xs) ⊗ dxu = Z t s (xu− xs)dxu= (xt− xs) 2 2 (4.1)でありこれのp/2-variation normはxのp-variation normと同じだから2次の項は自動的に評価 されて必要無いということがわかる。連続性定理が本質的なのはdriving pathが多次元のときで ある。 2.Itˆoの公式について 滑らかなpath xtについては f (xt) = f (x0) + Z t 0 (∇f )(xs)dxs (4.2)
が成立することは自明。xtがBrown運動のpathのときも右辺の積分をStratonovich積分と
解釈して(ほとんどすべてのpathについて) 等号が成立するというのがItˆoの公式である。これ は、連続性定理とTheorem 2.3から自然に証明される。
3. 滑らかなpath xt に対して、T2(Rd) = R ⊕ Rd⊕ (Rd ⊗ Rd) に値をとる∆上の連続写像
¯
x(s, t) = (1, x1(s, t), x2(s, t))をxに付随したsmooth rough pathという(smooth rough pathとは
自己矛盾的なネーミングだが)。ただし、x¯1, ¯x2は(2.14), (2.15)で定義したもの。x¯1をfirst level path, ¯x2をsecond level pathという。T2(Rd)は普通の和、スカラー倍、次の積
(a0, a1, a2) ⊗ (b0, b1, b2) = (a0b0, a0b1+ a1b0, a2b0+ a0b2+ a1b1) (4.3)
で非可換代数(Rd上のtruncated tensor algebra)になる。任意のs < u < tに対して
¯ x(s, t) = ¯x(s, u) ⊗ ¯x(u, t) (4.4) が成立する。これをChen(K.T.Chen)の恒等式と言う。これは, x1(s, t) = x1(s, u) + x1(u, t) (s < u < t)と式(3.9)と同値である。もう少し一般形で書くと任意の0 ≤ t0 < t1 < · · · < tN ≤ 1に対 して ¯ x1(t0, tN) = N −1X i=0 ¯ x1(ti, ti+1) (4.5) ¯ x2(t0, tN) = N −1X i=0 ¯ x2(ti, ti+1) + N −1X i=1 ¯ x1(t0, ti) ⊗ ¯x1(ti, ti+1) (4.6)
となるものである。これまでの議論を振り返って見る。Js,t(x, D)の定義、(2.13)によるIs,t(x)
の定義、Theorem 3.3の証明を見てもわかるように本質的なのはChenの恒等式とx¯1, ¯x2に対す
るpathの条件(3.3), (3.4)でありx¯2が実際になんらかのpathをiterated integralしたものであ
る必要は無い。まったく抽象的に(4.4), (3.3), (3.4) をみたすものをroughness p のrough path (2 < p < 3)という。(3.3), (3.4)をみたす連続なcontrol functionの存在とChenの恒等式をみた すC(∆ → T2(Rd))の元x = (¯¯ x1, ¯x2)についてx¯1のp-variation normが有限、x¯2のp/2-variation normが有限ということは同値になることも証明できる。Roughness pのrough path全体をΩp(Rd)
と書く。x, ¯¯ y ∈ Ωp(Rd)に対してdp(¯x, ¯y) = k¯x1− ¯y1kp+ k¯x2− ¯y2kp/2 でΩp(Rd)は距離空間にな
る。Smooth rough pathはrough pathの一例だが、そのdpでの極限もやはりrough pathになる。
これをgeometric rough pathという。
4.Almost rough pathについて
y1(s, t) := Js,t(x) (4.7)
y2(s, t) := f (xs) ⊗ f (xs) (x2(s, t)) (4.8)
ただしf (x) ⊗ f (x)(a ⊗ b) = (f (x)a) ⊗ (f (x)b)である。
y1(s, t), y2(s, t)はChenの恒等式を満たさないが次の関係式をみたす。この関係式を満たす
¯
y = (1, ¯y1, ¯y2)をalmost rough pathという。s < u < tのとき
|¯y1(s, u) + ¯y1(u, t) − ¯y1(s, t)| ≤ Cω(s, t)θ (4.9) |¯y2(s, u) + ¯y2(u, t) + ¯y1(s, u) ⊗ ¯y1(u, t) − ¯y2(s, t)| ≤ Cω(s, t)θ (4.10) (θ = 3p > 1) を満たす。Cはs, u, tに依存しない定数。(4.9)は(3.10)の帰結であり、これをもと にIs,t(x)の連続性定理が示された。y¯2の方も ¯ z2(s, t) := Z t s Is,u(x) ⊗ dIs,u(x) = lim m(D)→0 (N −1 X i=0 ¯ y2(ti, ti+1) + N −1X i=1 Ãi−1 X k=0 ¯ y1(tk, tk+1) ! ⊗ ¯y1(ti, ti+1) ) (4.11)
が成立するが、この右辺は一般なrough pathの場合も収束することがわかり、rough path ¯xから 積分という操作で新たなrough path¯z = (1, ¯z1, ¯z2) を作ることができる。almost rough pathとい
う名前はそれから上の操作で一意的にrough pathを作ることから来ている。また、この作り方で
second level pathが(Is,t(x)の連続性定理の証明をと同様にして) ¯xの連続な写像、すなわちrough
pathの間の写像x → ¯¯ zが連続であることもわかる。 5. xが滑らかなpathのとき、ODE ˙zt = g(zt) ˙xt (4.12) z0 = a ∈ Rd (4.13) を考えよう。ただし、g(·) ∈ C∞ b (RN, MN,d) (MN,dはN 行d列の行列の全体) とする。もちろ ん、この方程式には解があるがそれがdriving path xt に関してどんな位相で連続かを考える。次 の連続性定理が示せる。
Theorem 4.1 微分方程式(4.12)の解をI(x)tと書く。Driving pathがytの時の解をI(y)tと書
く。x, yがTheorem 3.6の仮定を満たすとすると次の評価が示される。
|(I(x)t− I(x)s) − (I(y)t− I(y)s)| ≤ εC(R, p, f )ω(s, t)1/p. (4.14)
C(R, p, f )はR, p, fの3階微分までのsup-normにのみ依存する定数。
ωをTheorem 2.2の証明のようにとればTheorem 2.2のようにdpでの連続性定理も示せる。
Theorem 4.1の証明はpath x, yをrough pathの空間Ωp(Rd)に埋め込んでrough pathの空間の
上でODEをPicardの逐次近似の方法で解くことによりなされる。具体的には次のようにする。 次が成立する。 µ ˙xt ˙zt ¶ = µ 1 0 g(zt) 0 ¶ µ ˙xt ˙zt ¶ (4.15) したがってzˆt=t(xt, zt) ∈ Rd+N、 f (x, z) = µ 1 0 g(z) 0 ¶ ∈ M(d+N ),(d+N ) とおくとzˆtは ˙ˆzt= f (ˆzt) ˙ˆzt の解である。通常のPicardの逐次近似法では ˆ zt(n) = t(a, 0) + Z t 0 f (ˆzu(n − 1)) dˆzu(n − 1) (4.16) ˆ zt(0) = (xt, 0) (4.17)
の極限limn→∞zˆt(n)をとり解zˆtを得る。ここではzˆtをrough pathの空間に埋め込み、rough
pathとしての積分の作用素¯ˆz →¡1, Is,t(ˆz), R· · I·,u(ˆz) ⊗ dI·,u(ˆz) ¢ の連続性を逐次に用いて証明がな される。 6. H1とp-variationの位相との関連。
Smooth rough pathを対応させることにより写像
H1([0, 1] → Rd) ,→ Cp を得るがこれはコンパクト写像。また次の評価も得られる。 Proposition 4.2 任意のpath xtについて k¯x1kp ≤ kxkH1 0, k¯x2kp/2≤ k¯x1kpkxkH1. 7. Theorem 2.3の証明について
Brown運動のpath wtは任意の0 < γ < 1/2に対してγ-次のH¨older連続性をもつからほとん
どすべてのwについてk ¯w1kp < ∞ (2 < p < 3)は自明。 Rt s(w(u) − w(s)) ⊗ dw(u)はほとんどす べてのwについて(s, t) ∈ ∆の連続な関数のバージョンをもつがそれのp/2-variation normが有 限かどうかはそれほど自明ではない。つぎの補題に注意すればそれが直ちにわかる。w¯2(s, t)を連 続なバージョンとする。
Lemma 4.3 κ > p2 − 1とする。ほとんどすべてのwに対して k ¯w2kp/2p/2 ≤ Cp,κ ∞ X n=1 nκ 2n X k=1 ³ | ¯w1(tnk−1, tnk)|p+ | ¯w2(tnk−1, tnk)|p/2 ´ . (4.18) ただし、tnk = 2kn. この補題はChenの恒等式をみたすT2(Rd)値連続関数について成立するもので、これを用い てTheorem 2.3が示される。
8. より一般なroughness p (n < p < n + 1)のrough pathの話題
9.現在ではp-variation normではなく、H¨older normなどでの連続性定理も知られている。連続
性定理の応用としてはSupport theorem, Large deviation, Laplace method, Wiener空間上のシュ レーディンガー作用素のポテンシャル関数がrough pathの意味でC3ぐらいあれば最低固有値の 準古典的振舞がわかること( [2]ではpotential functionは連続関数としていたがそれの拡張),ルー プ空間上でのweak Poincar´e inequalityの証明( [3]ではループ群やpath空間(終点を固定しない リーマン多様体上の道の空間)でweak Poincar´e不等式が示されているが一般のループ空間上でも その証明が可能なことは最近わかった, Weak Poincar´e inequality自身はS. Kusuokaの結果を用 いることにより、もっと前から成立することがわかっていた。[1], [10]を参照。) などがある。
A.Lejay氏のホームページ
http://www.iecn.u-nancy.fr/ lejay/rough.html
にはrough path関係の論文,研究者のページへのリンクがあり有用です。
References
[1] S. Aida, Uniform Positivity Improving Property, Sobolev Inequality and Spectral Gaps, J. Funct.Anal., 158 (1998) no.1, 152–185.
[2] S. Aida, Semiclassical limit of the lowest eigenvalue of a Schr¨odinger operator on a Wiener space, J.Funct.Anal. 203 (2003), no.2, 401–424.
[3] S. Aida, Weak Poincar´e inequalities on domains defined by Brownian rough paths, to appear in the Annals of Probability.
[4] P. Friz, Continuity of the Ito-Map for H¨older rough paths with applications to the support theorem in H¨older norm, in http://www.arxiv.org/abs/math.PR/0304501
[5] M. Ledoux, T. Lyons and Z. Qian, L´evy area of Wiener processes in Banach spaces, The Annals of Probability, 30. (2002), No.2, 546–578.
[6] M. Ledoux, Z. Qian and T. Zhang, Large deviations and support theorem for diffusions via rough paths, Stochastic proccess and their applications, 102 (2002), No.2, 265–283. [7] A. Lejay, An Introduction to Rough Paths, S´eminaire de probabilit´es XXXVII, Lecture
Notes in Mathematics (Springer-Verlag), (2003).
[8] T. Lyons, Differential equations driven by rough signals, Rev.Mat.Iberoamer., 14 (1998), 215–310.
[9] T. Lyons and Z. Qian, System control and rough paths, (2002), Oxford Mathematical Monographs.
[10] M. R¨ockner and F-Y. Wang, Weak Poincar´e inequalities and L2-Convergence Rates of Markov Semigroups, J.Funct.Anal. 185 (2001), no.2, 564–603.