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歴史認識を踏まえたこれからの河川技術者の役割に 関する研究

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

歴史認識を踏まえたこれからの河川技術者の役割に 関する研究

松木, 洋忠

九州大学大学院工学府建築システム工学専攻

https://doi.org/10.15017/26636

出版情報:Kyushu University, 2012, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

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(別紙様式2)

論 文 要 旨

区 分 甲 氏 名 松 木 洋 忠

論文題名 歴史認識を踏まえたこれからの河川技術者の役割に関する研究

論 文 内 容 の 要 旨

日本は,地震,暴風,津波,洪水といった自然災害の多い島国である.古来より日本人は,災 害を含む自然環境を活かし,土木技術を用いて自然に働きかけ,生活を持続,発展させてきた.し かしながら人為的な自然改変が大規模になり,その速度が大きくなると,開発行為の負の側面が 顕在化してきた.20世紀後半には,開発行為の象徴である土木は,環境破壊の原因として批判さ れる対象ともなった.そのすべての過程で,土木は自然災害から生命や財産を守る努力であり,

国土の恵みを日常生活や経済活動に取り込む工夫であった.これからも,土木の必要性そのもの には変わりはないと考える.

そこで本論文では,国土の保全と開発との調和に向けた取り組みの方向性を探るため,国土の 開発と土地利用の変遷を河川管理に着目して時空間的に捉え,これからの河川技術者の役割につ いて実証的に分析することを目的とする.そのため日本の歴史の中から,弥生時代以降,現代ま での水田開発を中心とする土地利用の拡大過程を把握し,これに土木技術がどのように関わって きたのかを検証する.特に持続的な土地利用を実現していた江戸時代の河川管理技術については,

その特徴と変化を明らかにすることによって,現在の河川管理上の課題を抽出する.さらに,こ の課題の解決に向けて取り組まれた事例として,国内外の3つの先駆的な川づくりに関してその 成果の分析を行い,これからの国土利用のために現在の河川技術者の役割,取りうる方策につい て検討を行う.

第1章では,国土に関する社会問題を受け,研究の必要性と方向性について述べ,論文の全体 構成を示した.

第2章では,遠賀川流域の事例を中心として,土地利用の拡大と土木技術の進化の関係を分析 した.水田稲作文化が定着した弥生時代の初期の土地利用では,干潟に近い低平地が木製農耕具 で拓かれた.古墳時代にかけて土木施工に鉄器が用いられるようになると,地方豪族が沖積地外

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縁部を開発していった.飛鳥・奈良時代には律令制度の地方行政の下で農業水利が普及し,平安 時代を通じて農民や領主層が競争的に水田開発を進めた.鎌倉時代以降は,武士が在地領主化し て土地開発を主導し,地縁的なまとまりが洪水等の自然災害による被害から土地を防衛するよう になった.江戸時代に至って,幕藩体制下のそれぞれの領国で土地利用が最大化し,領主と村が コメ生産の最大化を図った.このような過程を通じて,土木技術の進化とともに治水・利水の開 発領域が最大化し,限られた土地と水資源を持続的に活用する河川管理技術が生まれたことを明 らかにした.

第3章では,持続的な土地利用が行われた江戸時代の河川管理技術の特徴を整理し,現在との 比較分析を行った.江戸時代には,河川の営力を計画的に河川管理に活用して,現場で設置可能 な構造物の選択する技術が発達するとともに,自助・共助・公助を基本とする地域防災態勢が成 立した.その中で河川技術者は,土地利用全体を管理してコメ生産(税収)を最大化するため,

地域防災における公助,地域特性に応じた創意工夫,農民(納税者)を連携した維持補修を統括 する役割を担った.ところが,地域社会の構造が変化し,洪水・渇水被害の頻度が減少した現在 では,河川管理のあり方が質的に変化した.特に現場での創意工夫と地域住民との連携において は江戸時代の特徴が引き継がれておらず,ここに河川技術者の課題があることを指摘した.

第4章では,前章での課題を踏まえ,現在の河川技術者による先駆的な3つの取り組みについて 検証した.メコン川での連続水制では,河川営力を活用した技術開発により,施工能力や予算の 制約の下でも大規模な河岸侵食対策が可能であることを示した.また,粗朶沈床のラオスへの技 術移転では,河川分析,土木材料,施工技量,財源制約,管理態勢の総合監理が,維持管理を含 めたシステムとして機能することで適切な河川管理が実現できることを明らかにした.さらに,

遠賀川での新たな合意形成による川づくりでは,地域住民と基礎自治体と河川技術者の連携によ り,空間的,時間的,人間的につながりのある河川管理 が実現できることを実証した.これらの 具体事例から,河川技術者による自然環境と社会環境への創造的な働きかけによって,地域と一 体となった土地利用が現代でも実現可能であることを明らかにした.

第5章では,土木技術と土地利用と地域防災の関係について,歴史的な推移を総括的に分析し た.その結果として,河川の歴史認識を地域で共有すること,公助の立場から地域防災に積極的 に貢献すること,河川管理における地域の合意形成を促進することがこれからの河川技術者に求 められることを示した.

以上,河川技術者による現場での創意工夫と地域と連携した河川管理の実践的な取り組み手法 を示すとともに,国土の持続可能かつ健全なる発展と土木による開発との調和に向けたこれから の河川技術者の役割として,河川の履歴と現状について情報共有を図り,地域防災に対して 公助 の立場から貢献しながら,地域社会の合意形成を促進しつつ河川に働きかけていくことが必要で あることを提言した.

参照

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