57
女 性 差 別 撤 廃 委 員 会
通報番号 1 3 / 2 0 0 7
母の姓を名乗ることあるいは自分の姓を子に名乗ら せることができないのは,男女平等に反するとい う 複数の女性からの申立について,被害者適格,時間 的管轄権,国内救済手続未了を理由に不受理 と判断
された事例
通 報 者 Ms.Dayrasほか7名o
SOSSeXisme(NCO)
が提 出○
当 事 国 フランス
通 報 日 2006年 7月 6日 見 解 採 択 日 2009年 8月4日 条 約 発 効 日 1984年 1月13日
事案の概要
1 通報 者 は, フ ラ ンス国籍 を有 す る女 性7 名 で あ る。Ms Dayrasほか 1名 は結婚 して お
らず,子 を持 た ない こ とを選択 した理 由は, フ ラ ンス法 の下 で は 自 らの姓 を子 に継 がせ る こ と が で きない た めで あ る と主 張 して い る.Ms. Campo‑Trumelほ か4名 は,結 婚 し子 が あ る が,すべ ての子 が父 の姓 を名乗 ってお り,子 ら に 自 らの姓 を継 が せ た い と考 えて い る。Ms Dayrasほか2名 は, 自 らの母 の姓 を名 乗 りた い と考 えて い る。 フ ラ ンスで は,2003年6月
18日法 に よ り改正 され た姓 に関す る2002年3
月4日 法 (以 下,2003年 改 正 法) が,
2005年1月1日に発 効 した。 同法 で は,子 の 姓 はいずれの配偶者 の姓 あ るい は両方 の姓 を‑
イ フ ンで結 ん だ もので もよい とされてい るが, 夫婦 で意見 が異 な る場合 には,父 に拒否権 が認 め られ,子 は父 の姓 を名乗 る こ とにな る。 また, 夫婦 が妻 の姓 を子 に名 乗 らせ る と明示 してい な
い場合 には,子 は 自動 的 に夫 の姓 を名乗 る。 さ らに,2003年 改 正 法 は,2005年1月1日以 降 に生 まれた子 と2004年9月 1日に13歳未満 だ った子 に しか適用 され ない た め,通報者 らが 自 らの母 の姓 を名乗 るこ とはで きない。 こ うした 状況 は, 男女 の平等 に違反 してい る。本通報 の 受理可能性 について,姓 の変 更 につい て定 め ら れ た民 法61条 1項 の手続 は,終 了 まで少 な く とも10年 はか か り,効 果 的救 済 が もた ら され る見込 みが ない。本事 案 の通報者 を含 む女性 た ち に よる欧州 人 権 裁 判 所 へ の提 訴 は,2003年 改正法施 行以前 の法 を対象 と した もので あ り, 同一事案 で はない。
2 これ に対 し, 関係 国政 府 は以下 の よ うに 反論 した。
1) フラ ンスは,姓 の選択 を含 む夫 お よび妻 の 権 利 の 平 等 を定 め た 条 約16条 1項 (g)を 留保 してい る。
2) 通報者 の うち子 を持 た ない者 が,子 に 自 ら の姓 を細 がせ られ ない こ とをその理 由 として 主張す るこ とは権利 の濫用 で あ り, 当該通報 者 は議定書2条 にい う権利 の侵害 の被害者 と はい えない。
3) 母 の姓 を名 乗 りたい とい う通報者 は,父 の 姓 を名 乗 るこ とに よる差別 の被害 を立証 して い ない。姓 は子 の性別 に関係 な く与 え られて お り,子 の立場 か ら差別 を受 けた とはい えな
い 。
4) 結婚 し,子 が夫 の姓 を名乗 ってい る通報者 につい て は,権利侵 害 の被 害者 で あ る可能性 が あ るが, フラ ンスに対す る議定書発効以前 に子 が成人 に達 した通報者 に対 す る差別 は, その時点 で終 了 してい る。Ms.Delangeの未 成年 の子 につい て は,姓 の変 更 のた めの民法
61条1項 に よる手続 が尽 くされてい ない。
5) 同一事案 が欧州人権裁判所 ですで に審査 さ れてい る。
58 女性差別撤廃委員会
6) 子 の姓 について夫婦 の意見が異 な る場合 に 夫 に拒否権 が認 め られてい るのは,母 として の女性 の権利 と,生後速 やか に登録 され,安 定 的 な市民 的地位 を得 る とい う子 の利益 とを 調整す るためであ る。
4 委 員会 の暫定 的決定 に よ り,本事 案 は条 約2条,5条,16条 1項 に関す る問題 を提起 し てい る と考 え られ る として,両者 に再度意見 が 求 め られ た。通 報 者 は,2003年 改 正 法 は結 婚 した女性 は夫 の権威 に従 うもの とい う慣習的 な 性質 を有 してお り,条約2条,5条 に反 してい る。 また,議定書 は留保 を認 めてい ない ので, 条 約16条 1項 (g)の留 保 を考 慮 す る必 要 は ない と回答 した。一方, 関係締約 国 は,議定書 17条 の留保 の禁止 は,議 定 書 のみ にか か わ る もので あ る こ と,lex specialis(特別 法) の原 則 に則 り,本 事 案 は条 約16条1項 (g)に よ
り判 断 すべ きで あ る こ と,条約2条,5条,16 条1項 を考慮 す る場合 には,受理可能性 の検討 に限 られ るべ きで あ るが,本通報 は受理可能 と は考 え られ ないた め,適用 の余地 はない こ と, 5条 について は,2003年改正法 は偏見 や慣 習 と は関係 な く, 同条 の対象 とはな らない と主張 し た。
委員会の見解
1) 本 通 報 は,条 約16条1項 (g)に よ り検 討 され るべ きで あ る と考 える。
2) 条 約16条 1項 (g)は,夫 と妻 とい う関 係 におい て女性 が 自己の アイデ ンテ ィテ ィの 一部 として姓 を保持 し, 自分 の子 にそれ を伝 える権利 を定 めた もので あ り,結婚 してい る か事実婚 生活 を してい る女性 のみの権利 と考 え られ る。 よって,夫 と妻 とい う関係 を持 た ず,子 もい ないMs.Dayrusほか 1名 は,義 定書2条 に定 め る被害者 に相当 しない。
3) 母 の姓 を名乗 りたい とい う3名 につい て は, 国内救済手続 を尽 くす試 みが されてお らず, 父 の名 を名乗 る ときに性差別 を受 けた こ とが 証 明 されてい ない。
4) 子 に 自 らの姓 を名乗 らせ るこ とがで きなか った通報者 につい て は,被 害者 とい えるか も しれ ない が,子 が成人 に達 した時点,す なわ ち関係締約 国 に対 す る議定書発効以前 に当該 差別 は終 了 してい る。
5) 未成年 の子 を持 つ通報者 について は, 国内 で法 的手続 が とられてお らず,子 が姓 を変 え るこ とに同意す れば, 国内手続 を とるこ とが で きる。民 法61条 1項 の手 続 につい て は, 通用 お よび解釈 に改善 の余地 が あ る として も, 手続 が不 当 に遅延 してい るか,効果 的 な救済 が もた らされ る見込 みが ない とまで はい えな い。
*
Hayashi,Simonovie,Halperin‑Kaddari, Pimentel,Neubauer,Chutikul,Popescu委 員に よる同意意見
通報 を不受理 とす るこ とについて は賛成 だが, その理 由は国内救済措 置 が尽 くされてい ない た め とすべ きで あ る。
通報者 が問題 としてい る国内法 は,以下 の よ うに整理 で きる。
(1)通報者 らの出生時 には,結婚 した夫婦 の子 は母親 の夫 の姓 を名乗 る とい う慣習法 が適用
されてい た。
(2)2003年 改 正 法 で は,子 に夫 婦 い ず れ か の 姓 あ るい は両者 の姓 を‑ イ フ ンでつ ない だ姓 を名乗 らせ るこ とが認 め られた。 しか し,夫 婦 の意見 が異 な る場合,拒否権 は夫 にあ る。
また,2003年 改 正 法 は遡 及 的 に適 用 され な い。
(3)民 法61条 は,祖 先 や4親 等 まで の親 族 の 姓 が消滅す るこ とを防止 す る目的で姓名 の変 更 を認 め る もので あ る。
通報者 と関係締約 国 に よる主張 は,締約 国に 婚姻 お よび家族 関係 に係 る事項 につい て,女性 に対す る差別 を撤廃 す るた めの適 当な措置 を と る こ とを求 めた条約16条1項 に関す る もので あ る と考 え る。 同条 1項 (a)〜(h)は対 象 と
神奈川 ロージャーナル 第3号
な る事項 の例 示 であ り,網羅 的で はない。
通報者 か らの申立 は3つ に分類 で きる。
(1)Ms.Dayrasほか 1名 :母 の姓 を名 乗 りた い とい う主張 で あ る と解釈 すべ きで あ る。
(2)Ms.Muzard‑Fekkarほ か 1名 :子 に 自分 の姓 を名乗 らせ るこ とと, 自 らの母 の姓 を名 乗 るこ と。
(3)Ms.Campo‑Trumelほか2名 :子 に 自分 の 姓 を名乗 らせ るこ と。
母 の姓 を名 乗 りた い とい う主 張 は,条 約16 条1項 (g)の範 噂 で は ない。 よ って, 同規 定 へ の留保 について検討す る必要 はない。
通報者 らの出生時 の慣 習法 は女性 に対 して差 別 的 で あ るが, 関係 締 約 国 は,2003年 改 正 法 において過去 の侵 害 を救済す るた めの措置 を と
ってい ない。 また,子 の権利 を守 るた めに調整 され るのが,父で はな く母 の権利 で な くて はな らない理 由はない。 さらに, 出生時 の姓 が子 の 性別 に係 わ らず決定 されてい た こ とは,父 の姓 が 自動的 に付与 され るこ とに よる女性へ の差別
59
を減 ず る もので は ない。民 法61条 に よる姓 名 変更手続 は,姓 の消滅 を防止 す るた めで あ り, ジ ェ ンダ ー平 等 を 目的 と した もので は ない。
(2008年1月の フラ ンス報告書審 査 におい て, 姓 につい て の法律 改 正 が勧 告 され てい る。)母 の姓 を名乗 れ ない こ とが権利 の侵害で あ るか ど うか は,個別 に判 断 され るべ きで あ り,子 の有 無 にかか わ らず,通報者 には被害者 資格 が あ る と考 え られ る。 しか し,母 の姓 を名乗 るこ とを 求 め る通報者 は,少 な くとも国内救済手続 の利 用 を試 み るべ きで あ る。
子 に 自分 の姓 を名 乗 らせたい とい う主張 につ いて は,被害者 資格 は認 め られ るが,子 が成人 した時点で通報者 の被害 は終 了 してい る と考 え られ る。未成 年 の子 につい て は,民 法61条 の 手続 が とられてい ない状況 で, 当該手続 が不 当 に遅延 してい るか, あ るい は効 果的 な救 済 が も た らされ る見込 みが ない と判 断す るこ とはで き ない。
(担 当 :近江美保 )