— 51 — 修士論文要約
中華圏観光客による日本の寺社観光に関する研究
―「授与品」を中心に―
Research on the Japanese temples and shrines by tourists from Greater China:
Through the case of "jyuyohin"
韓 碧宇
HAN Biyu
キーワード:中華圏観光客,授与品,宗教的な土産,観光経験,観光動機
Keyword: tourists from Greater China, yuyohin, religious souvenir, sightseeing experience, tourism motivation
1.研究の背景と目的
日本のインバウンド観光における観光土産消費 に関する研究は,実証調査とともに理論的な関心 に基づくものはほとんど進んでいないのが現状で ある.「授与品」に関する研究は,観光分野にお いて先行研究の蓄積が少ない.
従来における「授与品」をめぐる研究はわずか であり,その大部分は日本人と「授与品」の関係 についてである.しかし,「授与品」と観光土産 のつながりも検討する必要がある.
そのため,本研究は,日本を訪れる最も大きな 市場となっている中華圏観光客を対象に,「授与 品」その自体モノやそれに関わる観光活動だけで はなく,両者の関係を通じて観光土産化されてい る「授与品」,さらに中華圏観光客の一連の考え や行動に焦点を当てる.
本研究の目的は,中華圏からの寺社観光客を調 査することにより,「授与品」の消費特徴を把握し,
観光経験の実現とその後の観光動機の可能性を検 討し,「授与品」がどのような存在として位置づ けられているのかを追究する.そのために,中華 圏からの寺社観光客における「授与品」の購入意 思や,「授与品」に対する評価・認知をもとに,
宗教的な土産を介した観光経験と観光動機の再構 築の関係などに対し,観光学からのアプローチを 試みるものである.
2.研究の方法と手続き
先行研究やオープンデータを始めとする文献調 査から「授与品」周辺の現状や課題を把握した.
そこで得られた視点に基づき,日本及び中国,台 湾,香港のメディアによる記事の分析により,「授 与品」に対する認識や考え方を分析した.
聞き取り調査は,2019 年 1 月から断続的に 4 回行なった.調査中,新型コロナウィルスの影響 を受けたため,聞き取り調査は現地インタビュー の代わりに SNS を通じて行った.これまでに「授 与品」を購入したことがある,という条件に該当 する中華圏観光客 11 名を調査協力者とした.聞 き取りの主な項目は,基礎情報及び購入経験,購 入意思などである.
3.研究の概要
本研究は 6 章で構成されている.
第 1 章では,研究背景及び,研究方法,論文構 成の概要を明らかにした.本論の 2 つのキーワー ドである「中華圏観光客」と「授与品」の概念を 理解した上で,研究対象や課題を選んだ理由を述 べた.
第 2 章では,観光文脈における人的な要素であ る観光者が紡ぎ出す観光経験と観光動機の再構築 に注目した.一方,モノ的な面において宗教的な モノと観光土産について先行研究をレビューした.
第 3 章では,日本の寺社観光という観光ルート の展開及び寺社観光における「授与品」の発展の 経緯について整理した.
立教観光学研究紀要 第 23 号 2021 年 3 月 St. Paulʼs Annals of Tourism Research No.23 March ʼ21 pp.51-52.
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St. Paul’s Annals of Tourism Research (SAT) No.23
また,Swanger と Mendes の研究に基づき,
お守りの形,機能,人気の理由の 3 つの特質から お守りの変遷を整理した.そして,2015 年から 現在に至るお守りに関する革新的な変化の例を加 えた(表 1).さらに,現在,授与/販売されてい る御朱印のレイアウトの代表的なものをあげた
(表 2).これらを踏まえ,「授与品」の宗教性,
取引の形,地理的代替真正性の特徴を明らかにし た上で,「授与品」をめぐる課題を分析した.
第 4 章では,日本と中国,台湾,香港のメディ アによる「授与品」に対する報道の現状及び中華 圏観光客の消費を扱うメディア記事で取り上げら れた内容を整理した.日本のメディアによる中華 圏観光客が「授与品」を消費するという報道では,
爆買いに焦点を当てている.それに対して,中華 圏のメディアでは「授与品」の情報を積極的に発 信している.
また,寺社側は「授与品」を収入源と位置づけ ている一方で,信者を増やすことや文化の理解な どの機能を期待している等の考え方を明らかにし た.これらは矛盾しているとはいえないが,寺社 側は消費者のニーズや動機に対する理解が不足し ているといえる.観光文脈における「授与品」の 極めて曖昧な現状が明らかになった.
第 5 章では,聞き取り調査事例から見えてきた,
中華圏観光客の「授与品」に対する意志決定プロ
セスにおける異なる行動パターンを明らかにし た.そこで「授与品」それ自体の役割と異文化の 理解下での華人消費者の動機の変化を分析し,「授 与品」の流行と中華圏観光客の消費との関連性を 明らかにした.
4.結論
①鈴木涼太郎(2014)による観光土産の要件と いう理論を参考にしながら,宗教的な土産の条件 を検討した.宗教的な土産の条件については,「真 正性」と「ギフト性」を保持した上で,「儀礼的 倒錯性」を「宗教実践性」,あるいは「聖性」に 置き換えるべきだと筆者は考えている.
②本研究では観光の観光スタイルによる観光土 産の購入傾向についての枠を超え,取り上げた事 例を通じ宗教的な土産に対する本質を探究した.
③以上の①と②を念頭に,様々なタイプの観光 者が,宗教的な土産を通じて観光体験を宗教的な 土産を介しての観光客と観光動機の再構築との関 係というモデルを構築した ( 図 1).
④聞き取り調査の結果から見ると,「授与品」
がその後の訪日旅行の動機や再訪意欲に影響を与 えていることがわかる.中華圏観光客による「授 与品」の消費行為は,異文化に対する探究心によ るものだけではなく,自らが属している社会にお ける宗教・文化との共感や受容などの感情を投影 しているということである.■
表 1 形,機能,普及に関するお守りの変遷をもとに筆者作成
表 2 お寺と神社の御朱印レイアウト
図 1 観光者による観光経験から求めた宗教的な土産 の特質と観光動機の構築の間の関係
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