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日本におけるフィッシャー仮説の検証 : 構造変化 を考慮した共和分分析

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(1)

を考慮した共和分分析

著者 佐竹 光彦

雑誌名 經濟學論叢

巻 65

号 4

ページ 667‑683

発行年 2014‑03‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/00027424

(2)

日本におけるフィッシャー仮説の検証

―構造変化を考慮した共和分分析―

佐 竹 光 彦  

1 は じ め に

 名目利子率とインフレ率の1対1の関係を示すフィッシャー仮説は,両変 数が共和分関係にあり,共和分ベクトルが(1, −1)であることを意味する.

ただし,長期データを利用する際,その関係に構造変化が生じる.そこで本 稿では,日本における1980年から2012年までのデータを用いて,構造変化 を考慮した共和分分析を行い,フィッシャー仮説を検証する.

 構造変化を処理する方法として,以下の3つの方法が考えられている.

 第1に,Malliaroplous (2000)の方法があげられる.彼は名目利子率とインフ レ率は,構造変化を考慮した場合,アメリカにおいて,トレンド定常である ことを発見し,それらのトレンド除去系列を利用し,VAR分析を適用して両 者の関係を分析し,長期的にフィッシャー仮説が成立することを示した.ト レンド除去の段階で,構造変化を考慮したのである.佐竹(2005, 2013)はこ の手法を日本に適用したが,個々の系列のトレンドを推定する段階で頑健な 結果を得ることができなかった.

 第2に,Choi (2002)が行った非線形モデルを利用する方法がある.インフ レ率の高低や変動の大きさが違う時期で,両者の関係は異なると仮定し,2 つの時期で異なるモデルを当てはめる非線形モデルによって,フィッシャー 効果の大きさを検証するのである.佐竹(2006)がこの方法を日本のデータに 適用し,2つの局面で異なるフィッシャー効果を発見している.また,Maki

(2005)は2局面を仮定したTARモデルを考慮した共和分検定を行い,名目利

(3)

子率とインフレ率の間の共和分関係を検出している.ただし,2変数間に1 対1の関係があるかについては言及していない.

 そして,第3の方法は,期待インフレ率の変動に対する名目利子率の反応,

すなわち,フィッシャー効果が経済構造の変化によって変化すると考える.

これらの関係の変化を,構造変化を考慮に入れた共和分分析を利用して,分 析する方法である.第2の方法ではインフレ率の状態によって局面を分けた が,第3の方法では,ある期間とそれに続く期間で,両変数の関係が変化を 考慮する.本稿ではこの第3の方法を検討する.

 以下の構成はつぎのとおりである.第2章で共和分分析の方法を簡単に解 説する.第3章で分析手順を説明し,分析結果を第4章に示す.第5章に結 果を要約する.

2 残差ベースの共和分分析

 本稿では,残差ベースの共和分検定といわれる非常にシンプルな方法を用 いて分析する.構造変化を考えない検定はEngle and Granger (1987)によって 考案された(以下,EGテストと呼ぶ).その方法のモデルに構造変化を加えた 検定はGregory and Hansen (1996)によって提案された(以下,GHテストと呼ぶ). 以下で,これらの方法を簡単に解説する.

2. 1 EGテスト

 EGテストは,つぎのような2段階の方法で行う.2変数xtytについての 共和分検定を考えよう.

ステップ 1:まずxtytについて,単位根検定を行う.それらが定常過程に 従うならば,共和分検定は必要ない.共和分関係とは2変数間の長期的な 関係をいい,それぞれがI(1)過程に従っているときに,それらの線形結合 が定常になることをいうからである.さて,xtytが単位根を持つ,すな わちI(1)過程に従うならば,OLSによってつぎの共和分ベクトルを推定する.

(4)

    yt= +n axt+et (1)  

 ただし、etは誤差項であり,長期均衡からの誤差である.

ステップ 2:xtytの間に共和分関係があるならば,(1)式から得られる残 差eˆtは定常である.すなわち,残差は長期均衡からの乖離と考えるのであ る.残差eˆt=yt-nˆ-aˆxtについて,それが単位根を持つか定常であるかを,

つぎの式に基づいてDickey and Fuller (1979, 1981)の検定(DFテスト,または ADFテスト)を行う.ただし,nˆ,aˆは(1)式におけるnaのOLS推定である.

     et et et i i

k

t 1

1

t c f

D = - + D -+

=

t t

!

t (2)  

 帰無仮説と対立仮説はそれぞれ,H0 : t=0,H1 : t<0となる.もし帰無仮 説H0が棄却されなければ,残差が単位根を持ち,xtytの間には共和分関 係は存在しない.他方,帰無仮説が棄却されれば,残差は定常であり,両変 数間に共和分関係が存在すると判断するのである.

 EGテストは,操作が簡単で,動学を特定化しなくても共和分ベクトルと誤 差修正モデルを推定できるので,広く利用されている.しかしながら,この テストにはいくつかの問題がある.第1に,被説明変数と説明変数を入れ替 えると,結果が頑健でないことである.共和分ベクトルを標準化するために 被説明変数を選ぶ,適当な基準を持たないのである.第2に,2変数以上の 関係においては,2つ以上の共和分関係が存在しうるが,EGテストには複数 の共和分ベクトルを別々に推定する体系的な方法がないことである.第3に,

EGテストは2段階の推定に基づいていることである.ステップ1の共和分回 帰の残差から導入される誤差がステップ2でのADFテストに含まれることで ある.これらの問題点はあるが,EGテストと同様の,残差ベースの構造変化 を考慮したGHテストを採用するので,ここでは,EGテストを基準に,構造 変化のないケースの共和分検定を行う.

(5)

2. 2 GHテスト

 Gregory and Hansen (1996)の構造変化を考慮した共和分検定(GHテスト)の 基本的な考え方はEGテストと同じで,その共和分回帰モデルに構造変化の 要素を加えたものである.そして,そのモデルの残差の定常性を検定すると いう意味で,「構造変化を含む残差ベースの共和分検定」と呼ばれている.本 稿では名目利子率とインフレ率の2変数を考えるので,(x, y)の2変数の関係 を示すモデルを考えよう.EGテストでは,以下のモデル1を考え,その残差 の単位根検定をADFテストによって行っている.

  モデル 1:yt= +n axt+et (3.1)  

そ れ に 対 し て,Gregory and Hansen (1996)は,t=l,…,Tの 期 間 の 中 で,

t=Tb に構造変化が起こったと仮定して,以下の3つのモデルを考えている.

  モデル 2:yt=n1+n2Dt+axt+et (3.2)  

  モデル 3:yt=n1+n2Dt+ +bt axt+et (3.3)  

  モデル 4:yt=n1+n2Dt+a1xt+a2^D xt th+et (3.4)  

 ここで,Dtはダミー変数で,t=l,…,Tbの第1期には0を取り,t=Tb+l,…,T の第2期には1を取る.またtはトレンドを示している.そして,モデル2 では定数項のシフトがあることを,そしてモデル3ではトレンドを含めて,

定数項のシフトがあることを仮定している.また,モデル4では,定数項と 説明変数xtの傾きにシフトがあることを仮定している.

 構造変化点t=Tbは未知なので,各モデルとも時点を逐次変化させて推定し ていく.そして,残差についてADFテストを行い,(2)式の係数tt統計量1)

1) もちろん,通常のt分布に従うわけではない.ADFテストの単位根検定の場合,EGテスト

の場合,GHテストの場合,それぞれ分布は異なる.GHテストの場合の分布表はGregory and Hansen (1996)に示されている.

(6)

の絶対値が最も大きい値を取る時点を構造変化点とする.そのとき,統計量

が5%ないしは1%の臨界値を超えて有意であれば,残差が定常であると判断

される.すなわち,残差が定常であるという対立仮説は,「構造変化があり,

2変数の間に共和分関係がある」である.そして,帰無仮説は「共和分なし」

である.

そして,ダミー変数を考慮して,共和分回帰モデルの推定結果を吟味すれば,

第1期,第2期の共和分関係とその間の構造変化が推測できる.

3 分析方法

 第2章で簡単に説明した共和分検定の方法を用いて,名目利子率とインフ レ率の1対1の関係であるフィッシャー仮説の検証をつぎのような手順で行 うことにする.

 第1に,標本期間全期間について,名目利子率とインフレ率が定常である か単位根を持っているかを検定する.結果として,両変数はI(1)過程に従っ ていると考えられる.そこで第2に,全期間について,EGテストによる共和 分検定を行う.ほかの検定方法についても考慮する必要があるかと思われる が,構造変化を考慮したGHテストは,EGテストをベースにしているので,

基本的にEGテストの結果を用いることとする.

 全期間について,EGテストによって共和分検定を行い,モデル1((3.1)式)

の残差が定常であるという結果が得られない場合,第3段階としてGHテス トにより,構造変化を考慮する共和分検定を行う.第2.2節では3つのモデ ルが考えられている.そのうち,モデル3には,トレンドが考慮されている.

ところが,フィッシャー仮説はつぎのフィッシャー方程式を考えるのでトレ ンドを入れる必要はない.

    Rt= +rt Etrt (4)  

 ここで,Rtt期から(t+1)期までの名目利子率,同じくrtは実質利子

(7)

率,Etrtt期におけるt期から(t+1)期までの期待インフレ率である.実 質利子率は実物要因によってきまり,一定でrと仮定する.そして,合理的 期待を仮定すると,Etrt=rt+ft,すなわち,期待は平均的には現実のインフ レ率を予測し, ftは平均ゼロで,分散一定の誤差項である.すると,(4)式は,

Rt=r+rt+ftとなり,つぎの回帰モデルによって検証することになる.

    Rt= +n art+ft (5)  

 すなわち, a=1が支持される場合,フィッシャー仮説が成立していること になる.また0<a<1の値をとる場合,フィッシャー効果は部分的にあり,

a=1の場合,完全なフィッシャー効果があるという.このような回帰モデル を考える場合はトレンド項を入れる必要はない.そこで,定数項のみシフト が起こるモデル2と,定数項と傾きの項にシフトが起こるモデル4を検討する.

 GHテストの結果,構造変化を考慮して,2変数の間に共和分関係が成立す るとき,第4段階として,得られた構造変化点の前後の2期間に分割して,

名目利子率とインフレ率の各変数の単位根検定を行う.そして,単位根あり の結果が得られた場合,第5段階としてモデル2の(3.2)式と,モデル4の(3.4)

式を推定して,第1期,第2期の共和分関係を具体的に検討し,それぞれの 期間でフィッシャー仮説が成立しているかどうか検証する.

4 分析結果

4. 1 データ

 本稿の分析では,標本期間は1980年から2012年で,四半期データを用いる.

1970年代後半から金融の自由化が行われ,利子率も変動するようになったと 考えられる1980年から期間を始める.また,GHテストでは,構造変化が1 回の場合を分析するため,金利自由化以降の時期と1990年代半ば以降の低金 利時代に局面が分けられると考えたからである.

 インフレ率を計算する物価指数はCPI(食料及びエネルギーを除く総合)を用

(8)

いる.そして,名目利子率は3か月物のCDレートである.原系列は月次デー タであるので,四半期平均を取っている.インフレ率は今期と4期前の間の 対数階差として計算されている.今期と1期前の対数階差として計算された インフレ率は変動が激しく,4期先と今期の対数階差で計算されたインフレ 率は名目利子率に先行している.人々は将来のインフレーションを予測する ために1年前からのインフレ率を考慮すると考えられる動きをしているので,

今期と4期前との対数階差を採用する.

 第 1 図は名目利子率NRとインフレ率DP4の推移を示したものである.第 2次石油ショックの影響で,1980年代初めにはインフレ率は7%の高水準であっ たが,その後低下していった.バブル期の1990年前後でも3%以下で推移し,

1998年以降インフレ率はマイナスとなり,デフレ時代を迎える.名目利子率 は第2次石油ショックとバブル期の高水準の時期と,1990年代後半以降の低 金利ないしはゼロ金利時代との2つの時期に分かれるにように見える.

 共和分関係,またはフィッシャー仮説の観点からみると,名目利子率NR 第 1 図 名目利子率とインフレ率の推移

14 12 10 8 6 4 2 0

−2

−4

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 (年)

DP4 NR

(9)

とインフレ率DP4の変動の中で,両者の差である実質利子率の大きさに2つ の時期で差がみられる.2000年以降には,名目利子率がほぼゼロに張り付いた.

実質利子率が非常に低い水準であると考えると,デフレによりインフレ率が マイナスで推移するが,デフレ幅が広がったとき,名目利子率がゼロに張り 付いて,デフレ幅の増加に十分に反応できず,実質利子率が均衡値よりも高 くなることがあるようにも読める.このようなデータの推移を以下で,共和 分関係を軸に検討していこう.

4. 2 単位根検定:全期間

 第 1 表は構造変化を考慮しない単位根検定の結果を示している.1980年 第1四半期から2012年第4四半期までについて3つの単位根検定を行った.

すなわち,加重対称(WS)テスト,Dickey and Fuller (DF)テスト,そして Phillips and Perron (PP)テストであり,TSP (Time Series Processor)プログラム・

パッケージを利用した.それぞれの検定式に,1)定数項を含む,2)定数項 と1次のトレンドを含むという2つの場合について行われている.階差のラ グの長さはAIC (Akaike Information Criterion)基準によって決定されている.

 原系列についての単位根検定の結果は第1表(1)に,1回階差の結果は第1 表(2)に示されている.表の値はそれぞれの統計量のP値を示している.検定

は5%の有意水準で行われる.すなわち,P値が0.05より小さければ,系列

が定常であると判断する.

 説明変数として定数項と傾きを含むモデルに関する原系列の検定では,DF テストはインフレ率のP値が0.07と大きくなっているが,それ以外は0.05よ りはるかに大きく,名目利子率,インフレ率とも単位根ありと判断できる.

 1回階差を取った場合,すべてのケースで0.05より小さな値を取り,定常 であるという結果を得た.全期間では,名目利子率NRとインフレ率DP4 はI(1)過程に従っていると考えて以下の分析を行う.

(10)

4. 3 共和分検定:全期間

 第 2 表は,1980年第1四半期から2012年第4四半期までの全期間について,

名目利子率NRとインフレ率DP4のEGテストを行った結果である.数値は P値を示しており,0.05以下であれば,2変数間に共和分関係ありと判断できる.

 EGテストの第1段階で共和分ベクトルを推定するが,そのとき,説明変数 に,①定数項を入れたモデルと,②定数項とトレンド項を入れた,2つのモ デルを推定した.①のケースではP値は0.295,②では0.317と,0.05よりは るか大きな値を取り,共和分関係なしという結果を得た2).そこで,つぎに,

GHテストによって,構造変化を考慮すると,共和分関係が発見されるかど うかを検討してみよう.

第 1 表 単位根検定の結果(全期間:1980.I−2012.IV)

第 2 表 共和分分析の結果(1980. I−2012. IV)

(1)レベル変数

A.定数項のみの場合 B.定数項とトレンドを含む場合 名目利子率 インフレ率

WS 0.891 0.984

DF 0.631 0.523

PP 0.541 0.455

名目利子率 インフレ率

WS 0.345 0.167

DF 0.497 0.071

PP 0.516 0.308

定数項 定数項+トレンド

EG 0.295 0.317

(2)1回階差

A.定数項のみの場合 B.定数項とトレンドを含む場合 名目利子率 インフレ率

WS 0.000 0.000

DF 0.000 0.000

PP 0.000 0.000

名目利子率 インフレ率

WS 0.000 0.001

DF 0.001 0.002

PP 0.000 0.000

2) なお,Johansenテストの結果,②のケースで,P値が0.0355%より小さくなった.

(11)

4. 4 構造変化を考慮した共和分検定

 第 3 表はGHテストの結果を示している.統計量の絶対値が最も大きくな る時点を構造変化点として,そのときの統計量が臨界値に比べて,絶対値が 大きい場合に,Gregory and Hansen (1996)が用いたモデルから得られた残差が 定常であり,名目利子率NRとインフレ率DP4が共和分の関係にあると判 断される.

 まず(1)名目利子率NRを被説明変数においた場合,すべてのケースで1%

臨界値より小さくなり,共和分関係があることを示している.また,被説明変 数を(2)インフレ率DP4とした場合でも,定数項のみの場合に5%で有意である.

 構造変化の時期は,被説明変数を名目利子率に取り,定数項と傾きにダミー 変数を入れた場合に1993年第3半期であるが,それ以外の場合すべて,1992 年第4四半期であった.

4. 5 期間分割した単位根検定

 つぎに,構造変化点とされる,1992年第4四半期で,2つの時期に分けて,

名目利子率NRとインフレ率DP4の単位根検定を行う.その結果は第 4 表 に示されている.数値はP値であり,0.05以下であれば,系列は定常である と判断される.WS,DF,PPの検定方法は第1表と同じである.

第 3 表 Gregory and Hansen (1996)の構造変化を含む共和検定の結果(1980. I2012. IV)

(1)被説明変数:名目利子率NR

シフト t統計量 1%臨界値 5%臨界値 構造変化点

定数項のみ  −5.987 −5.130 −4.610 1992. IV 定数項+傾き −6.753 −5.470 −4.950 1993. III

(2)被説明変数:インフレ率DP4

シフト t統計量 1%臨界値 5%臨界値 構造変化点

定数項のみ  −4.659 −5.130 −4.610 1992. IV 定数項+傾き −4.795 −5.470 −4.950 1992. IV

(12)

 第1期のレベル変数の場合に,定数項のみを説明変数に入れると,インフ レ率のDFテストで0.05より小さなP値を得ているが,その他は0.05以上で ある.また,1回階差の結果は,名目利子率のWSテストで0.05より大きな

第 4 表 単位根検定の結果(期間分割)

(1)レベル変数

I. 第1期:1980. I−1992. IV

A.定数項のみの場合 B.定数項とトレンドを含む場合 名目利子率 インフレ率

WS 0.094 0.478

DF 0.330 0.022

PP 0.372 0.485

名目利子率 インフレ率

WS 0.193 0.660

DF 0.362 0.230

PP 0.613 0.838

(2)1回階差

A.定数項のみの場合 B.定数項とトレンドを含む場合 名目利子率 インフレ率

WS 0.002 0.010

DF 0.064 0.000

PP 0.002 0.004

名目利子率 インフレ率

WS 0.032 0.213

DF 0.368 0.000

PP 0.016 0.026

(1)レベル変数

II. 第2期:1993. I−2012. IV

A.定数項のみの場合 B.定数項とトレンドを含む場合 名目利子率 インフレ率

WS 0.991 0.939

DF 0.022 0.555

PP 0.178 0.238

名目利子率 インフレ率

WS 0.976 0.402

DF 0.263 0.434

PP 0.515 0.282

(2)1回階差

A.定数項のみの場合 B.定数項とトレンドを含む場合 名目利子率 インフレ率

WS 0.000 0.005

DF 0.000 0.010

PP 0.000 0.000

名目利子率 インフレ率

WS 0.000 0.034

DF 0.000 0.050

PP 0.000 0.000

(13)

値となっているが,その他は臨界値より小さくなり,定常と判断できる.第 1期については,両変数ともI(1)過程に従うと判断する.

 また,第2期については,名目利子率のレベル変数の場合,DFテストのP

値が0.022と定常と判断できる結果を得たが,それ以外のP値はすべて0.05

よりはるかに大きく,レベル変数で単位根ありの結果を得ている.また,1回 階差ではすべてのケースで定常という結果が得られた.したがって,第2期 についても,両変数はI(1)過程に従っていると判断する.なお,1993年第3 四半期を構造変化点として,2期間に分けた場合もほぼ同様の結果が得られた.

4. 6 構造変化を考慮したモデルの推定結果

 第 5 表は,第2. 2節に示したGregory and Hansen (1996)が用いたモデルの うち,トレンド項を入れたものを除いた3つを推定した結果である.被説明 変数は名目利子率NRである.Dはダミー変数であり,構造変化点までの第 1期でゼロ,それ以降の期間で1をとる.構造変化点はそれぞれの表にTbで 示した時期である.DPDUMはインフレ率DP4にダミー変数を掛けた変数 の係数である.また,CDは定数項の推定値からから定数項ダミーの係数の 推定値を引いたもので,第2期の定数項,すなわち実質利子率を表している.

したがって,Cの係数は第1期の実質利子率の値である.そして,DP4の係 数は第1期のインフレ率の係数であり,インフレ率1%の上昇が名目利子率 を何パーセント引き上げるかを示すフィッシャー効果の大きさである.この 係数が1であれば,フィッシャー仮説が成立する.DP4―DPDUMの数値は,

第2期のそれである.( )内の数値は,各係数のt統計量のP値で,0.05以 下であれば有意であると判断する.第5表の推定結果のすべての係数は有意 であり,ゼロではないと判断できる.

 モデル1の推定結果は構造変化を考えない場合であり,DP4の係数が1.66 であり,インフレ率1%の上昇は名目利子率を1.66%上昇させることになる.

つぎに構造変化を考慮したモデル2とモデル4を検討しよう.第3表の結果

(14)

から,定数項のみシフトを考慮した場合,構造変化点は1992年第4四半期で あるという結果を得た.そこで,第5表(1)のモデル2の結果をみてみよう.

DP4の係数の推定値は0.957であり,その標準誤差が0.101で,係数a=1の 帰無仮説は棄却されない.したがって,インフレ率1%の上昇が名目利子率

をほぼ1%上昇させるという結果が得られる.また,定数項は3.8であり,第

第 5 表 構造変化を考慮したモデルの推定結果

(2)被説明変数:名目利子率NR  Tb=1993:Ⅲ

(1)被説明変数:名目利子率NR  Tb=1992:Ⅳ

説明変数 モデル1 モデル2 モデル4 係数 p値 係数 p値 係数 p値

C 1.159 (0.000) 3.800 (0.000) 3.272 (0.000)

D −3.161 (0.000) −2.663 (0.000)

DP4 1.658 (0.000) 0.957 (0.000) 1.147 (0.000)

DPDUM −0.499 (0.005)

CD 0.639 0.609

DP4―DPDUM 0.648

R2 0.847 0.934 0.945

説明変数 モデル1 モデル2 モデル4 係数 p値 係数 p値 係数 p値

C 1.159 (0.000) 3.649 (0.000) 2.985 (0.000)

D −3.047 (0.000) −2.465 (0.000)

DP4 1.658 (0.000) 0.965 (0.000) 1.214 (0.000)

DPDUM −0.737 (0.000)

C―D 0.601 0.520

DP4DPDUM 0.477

R2 0.847 0.926 0.939

(15)

1期の実質利子率は3.8%であるという結果を得ている.第2期には3.16%

低下し,実質利子率は0.64%に低下している.このモデルでは,名目利子率 NRとインフレ率DP4との関係は一定で,実質利子率に変化があると仮定し たことになる.2変数は1対1で変化しており,フィッシャー仮説が成立して おり,実質利子率が第1期の4%近くから1%を切るまで,低下したことが読 み取れる.

 では,2変数の共和分関係にも変化が生じたと仮定したモデル4の結果は どうだろうか.第3表のGHテストの結果から,定数項と傾きの両方にシフ トが生じると仮定した場合,構造変化点は1993年第3四半期であるので,第 5表(2)のモデル4を検討しよう.第1期の実質利子率は3.0%であり,フィッ シャー効果は1.21となっている.また,DP4の係数推定値の標準誤差は0.114 で,係数a=1の帰無仮説は棄却されない.また,第2期には実質利子率は2.5%

低下して0.52%になり,フィッシャー効果は0.74低下して0.48となっている.

このように,定数項と傾きの係数が変化し,共和分関係も変化していること が分かる.

 第5表に,構造変化が1992年第4四半期と,1993年第3四半期に起こっ た2つの場合について,定数項のみのシフト,定数項と傾きのシフトを仮定 したモデルを2つともに推定したが,両者の結果は頑健である.すべての係 数が有意であるので,モデル4の結果を採用しよう.

 モデル4の推定結果から,第1期には,実質利子率が3.0%あり,そしてフィッ シャー効果が1と考えられる結果を得られ,フィッシャー仮説が成立してい ると考えられる.それに対して,第2期にはフィッシャー効果が小さくなり,

フィッシャー効果は部分的になっている.また,実質利子率が大きく低下し

0.52%となった.1990年代後半以降の名目利子率が非常に低くなる.ゼロ金

利制約を受け,デフレの効果を名目利子率にすべて反映できなくなり,フィッ シャー仮説が成立しなくなったといえる.

(16)

5 お わ り に

 1980年から2012年までの日本のデータを用いて,構造変化を考慮した共 和分分析を用いて,フィッシャー仮説の検証を行った.まず,名目利子率と インフレ率がI(1)過程に従っていることを確認して,全期間の共和分検定を 行い,共和分関係がないことが示された.そこで,構造変化を考慮した共和 分検定であるGHテストを適用することにより,1992年ないしは1993年に 構造変化が生じており,かつ両変数の間には共和分関係があったと判断でき る結果を得た.

 そして,構造変化を仮定した両者の関係を示すモデルの推定結果を検討し た.その結果,1993年以前の第1期には名目利子率とインフレ率の間に1対 1の関係が発見されたが,それ以降の期間にはインフレ率の1%の低下が0.5%

以下の名目利子率の低下を生じるというと部分的フィッシャー効果があると いう結果が得られた.1980年代から1990年代前半までの金利自由化に進み,

またバブル期を含んだこの期間は,実質利子率が3%あり,そしてインフレ 率の変動に対する名目利子率の反応が1対1であり,フィッシャー仮説が成 立していることが示された.他方,1990年代後半以降の名目利子率の非常に 低く,デフレが発生しているこの時期は,実質利子率が0.5%と低く,また,

デフレ幅の増大に伴って,名目利子率にゼロ金利制約が課されることになり,

フィッシャー効果は部分的にしか現れなかったと考えられる.

【参考文献】

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佐竹光彦(2005)「日本におけるフィッシャー仮説の検証―構造変化を考慮した一考 察―」『龍谷大学経済学論集』第45巻第2号,231―240ページ.

佐竹光彦(2006)「日本におけるフィッシャー仮説の検証―TARモデルを用いた一考 察―」『経済学論叢』(同志社大学)第57巻第3号,409―428ページ.

佐竹光彦(2013)「日本におけるフィッシャー仮説の検証―複数回の構造変化を考慮 して―」『経済学論叢』(同志社大学)第64巻第3号,781―810ページ.

(さたけ みつひこ・同志社大学経済学部教授)

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The Doshisha University Economic Review, Vol. 65 No. 4 Abstract

Mitsuhiko SATAKE, Testing the Fisher Hypothesis by Applying a Co-integration Technique with Structural Breaks to the Japanese Economy

  The Fisher hypothesis, which postulates a one-for-one relationship between nominal interest rates and inflation rates, implies that there is co-integration between the two rates with a co-integrating vector of (1,-1). However, structural breaks occur in the long run. We conduct a co-integration analysis that allows for structural breaks using data between 1980 and 2012 in Japan. We find the following results: a structural break occurred in 1992, there is co-integration between the two rates in both subsamples, and a one-for-one relationship is found in the former subsample. Furthermore, a 1% increase in the inflation rate induces a less- than-0.5% increase in the nominal interest rate, that is, a partial Fisher effect exists.

参照

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