1 は し が き
著作物は従来,紙やインクなどのメディア(媒体)上に記載されていたり,
電波やテープなどの媒体を用いてアナログ情報として供給されていた.しか し,今日では従来の著作物はデジタル化されたり,あるいは最初からデジタ ル著作物として開発されるようになった.このデジタル化は情報伝達で効率 的で劣化しないなど,それまでのアナログ情報にはない高い機能をもつ反面,
複製が容易かつ劣化することのない性質をもち,さらにインターネットなど のネットが発達することで,デジタル化された著作物の複製が大量かつ瞬時 に,そして世界的な規模でなされるようになった.このために,著作物の供 給側はこの複製を抑制すべく,私的な保護に加えて政府に公的な保護を求め,
著作権制度は需要側での複製規制や使用対価支払いをさまざまな形で実現す るように強化されてきた.
著作物の供給側にとっては需要側での複製使用は「海賊行為」1)であり, その意味で需要側は供給側に損害を与える側面が強調されてきた.しかしな がら,供給側が需要側に与える損害に注意すべきである.たとえば,需要側
【論 説】
著作物の価格形成と使用許諾および保護
*神 隆 行
*本稿での研究は2005年度大阪学院大学研究助成を受けている.
1 )「海賊版」という用語が示すように,「海賊行為」は本来は他の供給側による複製物の供給行為 を指す.複製行為が一般消費者のような需要側ではできなかったからである.しかし,そうでな くなった最近では,著作物の単なる需要側での複製使用が海賊行為と呼ばれようになってきた.
これについては,たとえばBusiness Software Alliance(BSA)(www.bsa.or.jp/antipiracy/types.htm)
などを参照.
の複製が可能になると,供給側はその著作物の使用価格を引き上げる.これは,
複製からの損害を回避しようとする一つの手段であるが,正規の使用者には 価格引き上げという損害をもたらす.さらには,複製を抑制すべく,さまざ まな複製防止手段が講じられるが,同じく正規の使用者にそうした著作物使 用において不便を強いるなどの損害をもたらす.そして,使用許諾(ライセンス)
が供給側により一方的に設定あるいは強化され,使用者を不公正に束縛する.
かくて,供給側が需要側の「海賊行為」を非難すればするほど供給側が需 要側に与える損害に対する非難が需要側から生じることになる.しかしなが ら,供給側は当然ながら上述のBSAのような組織活動や政府との結びつきで 有利であるため,後者の側面は前者にくらべてその問題性が少ないようにみ られてしまう.今日の著作権問題は需要側での著作物の複製あるいは対価支 払いのない使用などの行為に焦点が当てられる傾向があるが,一方での供給 側での需要側に損害を与えるこうした行動についても注意を払うべきであろ う.需要側,供給側双方の行動はお互いに関連しあっているからである.
IT(情報技術)の発達により,著作物の需要側に著作物の再生保存編集など が可能となった新たな使用環境が生まれ,これによる需要側の使用に対して 供給側が使用許諾から逸脱しているとの認識が生まれる.このことが上述問 題の背景にはあるだろう.つまり,そうした需要側がえる利益は供給側に帰 すべきものであるとし,したがってその利益は供給側にとっては損害に他な らないとするわけである.これをめぐって議論がなされるが,新たな使用環 境での著作物使用とその便益の配分について経済学的な観点から分析する必 要があろう.
これまでの研究 1960年代以降でテープレコーダ機器などが普及し,これ にともなって生じたアナログ複製に対して,需要側での複製からの保護へ強 化拡大された.したがって,これをめぐって著作権問題が人々に関心を与え ることになり,経済学から複製問題の研究もなされた.たとえば,Novos and
Waldman(1984)は複製防止などのような複製保護が経済的厚生を引き上げる
ことを示した.また,Johnson(1985)は無制限な複製が経済的厚生を減少さ せることをモデルで示し,最適な複製保護のあり方を理論的にあきらかにし た.
しかし一方では,Liebowitz(1985,1986)は雑誌文献の複製が著作権者の収 入を減じるものではないということを実証的に示した.また,Besen(1986)
は複製保護が短期的には経済的厚生を減じるというモデルを呈示し,Morris
(1988)は複製保護が知的財産の評価に与える影響を考慮して,Novos and
Waldmanなどの結論に注意を促している.
法と経済学からの接近として,Landes and Posner(1989)やPosner(2005)
は知財全般について取り扱い,Landes and Posner(2003)では著作物使用にお ける公正使用(fair use)についての研究を行っている.
アナログ複製では,複製の規模は今日のようなものではなかった.1990年 代になり,著作物のデジタル化およびデジタル著作物の登場,それにそれら が発展途上国でも使用され,またインターネットで国をこえて瞬時大量に流 通することとなった.これにより,著作物の複製問題が再び大きく問題化され,
これに沿って経済学あるいは法と経済学からの研究がなされだした.
また,供給側からの保護強化のうごきに対する需要側の反発を招くことに
なり,Lessig(2004)に代表されるような保護の強化に対抗する運動が生まれ
てきた.さらには,コンピューターのソフトウェアが特許としての保護を求 める方向に進み,これに対する反発も生まれてきた.
こうした先行研究ではもっぱら需要側の著作物複製に関するものであった.
一方,Lessigは保護強化を求める著作物開発企業についての問題点を,とく
に開発企業が一方で古い著作物の複製(ディズニー映画がグリム兄弟の童話をも とにしている)していることを指摘して,その意味で「海賊行為」を行ってき た側面を強調した.しかし,著作物の供給側は需要側に対してその著作物使 用の供給にあたっての問題は少なくないが,これについての経済学あるいは
「法と経済学」からの研究はほとんどない.
本稿の目的 そこで本稿では,著作物の新たな使用により需要側と供給側 の双方に利益を与えるようなケースを想定し,この場合における供給側の保 護行動に焦点を当ててその行動を分析して,それが需要側に与える問題を考 察し,社会的に望ましい著作物使用許諾について考えよう.このためにまず,
次節では著作物の需要側の使用行動と供給側における保護行動,さらには保 護とは逆になる使用許諾緩和行動についてそれぞれ概観しよう.そして3節 にて,複製使用が可能になったことによる需要側の著作物行動とそれに対す る供給側の価格対応を考察しよう.4節では,価格対応ではなく,許諾外使 用を抑制する供給側の保護行動をみる.5節では,社会全体における利益の 観点から保護や使用許諾のあり方を考察しよう.
2 著作物使用と供給側による保護
需要側の著作物使用と供給側による保護 従来,著作物は紙とインクなど のメディア(媒体)で記された情報であり,その形態としては絵画のように本 体が一つのみのものから一般印刷物のように複製されて供給されるものまで ある.それらはメディアという財に搭載される.著作物は情報であるために,
複製が可能であるが,しかしそれらはもっぱら供給側においてのみ大量の複 製可能であり,いわゆる「海賊版」が登場し,著作物の所有者に損害を与え ることになる.これの抑制を求めて著作権制度が形成されてきた.
しかしながら,1960年代以降では複写機や録音録画機などにより著作物は 需要側においても複製可能となり,その複製の全体量は著作物の供給側に損 害を与えるものとなってきた.このように需要側において著作物の複製が可 能になると,需要側が複製した著作物の対価を支払うことなく使用すること になる.それゆえに,著作権制度は海賊版など供給側での複製に対する保護 から需要側での複製からの保護へ強化拡大され,需要側に対する複製抑制あ るいは対価請求などに強化されるようになった.そこでの複製は技術的には アナログ形式であり,したがってアナログ複製ともいえる.
しかし,近年の著作物ではITの発展とともに新たにデジタル化されたもの が登場し,しかも広く大量に使用されるようになっている.その例としては,
PC(パーソナル・コンピューター)を主とするコンピューター用のソフトウェア,
音楽CDから映画DVD,さらにはインターネットなどネット上で流通するファ イルがある.こうしたデジタル化された著作物は,その性質上複製が簡単で その複製範囲や正確性が高い.いわば複製はデジタル複製といえる.これが 大量の対価支払いのない使用につながり,この著作物の供給側に損害を与え ることとなる.このために,供給側ではさまざまな保護対策が講じられるよ うになり,また著作権制度もこの面での損害に対応するように強化された.
前者では,ソフトウェアの複製防止や認証の設定,音楽CDの複製防止(CCCD)
や映画(音楽)DVDの複製防止(現在使用されているのはCSS方式で,これを強化
したのがCPPM / CPRM方式.しかし,前者は有名なDeCSSプログラムで回避されて
しまう.)などが導入されている.また後者では,たとえば日本では,メディ アや関連機器に対してあらかじめ使用料の一部を徴収する私的録音録画補償 金(著作権法,第五章)制度が1999年より実施された.また,インターネット 上のファイル交換問題では供給側での対応が厳しく,米国では個人を対象と する訴訟にまでいたっている2).
最近では,AV機器の進歩により放送番組をハードディスク録画機器で録画 し,CMなどをスキップして再生することが可能になってきた.このような 機器では多くの番組を予約録画し,録画したものをそのまま保存して,あと で自由に観たいところだけを再生できる.このために,従来のビデオテープ 式にくらべ,CMなどをすばやくスキップすることが可能となり,したがっ て需要側が著作物を不正に使用しているとの認識を放送会社がいだくにい たっている3).放送もデジタル化し,これに対応する著作物保護が実施され
2 )全米レコード協会(RIAA)は2003年9月に261件の訴訟を起こしたのを手始めにその後多く の個人対象の訴訟活動を行っている.米映画協会(MPAA)も同じような個人対象の訴訟を行っ ている.これらについてはたとえば,www.itmedia.co.jp/news/articles/0410/29/news012.html,www.
itmedia.co.jp/news/articles/0411/17/news069.htmlなどを参照.
3 )こうした行為について,日枝久・日本民間放送連盟会長は著作権法に違反する可能性もあると して対応を検討しはじめたという報道がある(朝日新聞,2004年11月13日).
た4).
保護が需要側に与える損害 需要側からみるとこうした供給側からの保護 は著作物の使用に不便を強いることになり,また過剰な保護は経済全体から みて望ましくはないとする意見がインターネットを通じて全世界で流される ようになった.このインターネットを通じた供給側以外からの議論が盛んに なり,この面でこうした供給側および政府による著作物保護強化のうごきに 人々は敏感になった.インターネット上には無料で閲覧できるPC関係の記 事がふんだんにあり,著作権問題は常にそこで触れられるために,一般の著 作物使用者に大きな関心を呼ぶ5).また,上で触れたLessig(2004)の原文は インターネット上にあり,Lessigによるフリーカルチャー運動6)とともにそ こで大きな影響力をもつ.
供給側が設定する保護防止機能は需要側での著作物使用において不便を もたらす.たとえば,音楽CDの複製防止策として一部の供給側が導入した CCCDは一部の再生機器で再生に不具合が生じたり,音質低下がみられたり した7).また,先に触れた日本デジタル放送での番組のコピーガード施策によ り,番組の保存や編集が困難となっている.PC上のOSや重要なソフトウェ アにはその認証が強化され,これがその使用に不便を強いる.これはその使 用方法をより高めることを困難にしてしまう.認証が平均的な使用水準を想 定して設定されているためである.
また,著作物使用サービスの取引は使用許諾として行われるが,その使用 許諾条件設定は供給側の一方的なものとなっている.たとえば,コンピュー タープログラムをインストールする際に示される条件を一般の人々は読むだ ろうか.その条件をすべて表示させることでインストールへと進むように設 定するプログラムも少なくない.これは供給側の都合のいい方法であるが,
4 )たとえば,日本のデジタル放送では番組のコピーガード施策が2004年4月から実施され,これ までのような録画とその利用に制約がかけられるようになった.
5 )たとえば,海外生産される邦楽CDが日本へ還流することを防止するという,還流防止策につ いては,輸入CDの抑制につながるという不安を人々にもたらした(朝日新聞,2004年5月20日).
6)free-culture.org/
7 ) た と え ば, 本 田 雅 一「 音 楽 の 持 ち 歩 き 方 を 規 制 せ よ!?」(www.watch.impress.co.jp/pc/
docs/2002/0319/mobile145.htm)参照.
需要側からみると不公正だと認識されるだろう.
ITの進歩による著作物使用の向上により,需要側での使用方法を高めるこ とでえられる便益が上昇する.たとえば,著作物がファイルとして購入され るが, 保全のためにこれのバックアップをとるとする.ファイルであるため に,瞬時に喪失することがありえるからである.しかし複製防止がなされて いるとそうした保全が不可能になり,もしそのファイルを失った場合には再 度供給側から入手するには多少の費用と時間などを要する.また,それまで 需要側では不可能であった著作物の編集や個人の好みに沿った変更などが可 能になった.しかしながら,著作物保護によりこれが制限される.
その使用許諾条件は複製についての制限が表記されているが,使用者の不 便を強いるものとなっている.たとえばPC(パーソナル・コンピューター)1台 について1台のみとする使用許諾が多いが,その使用しなくなったPCから 別のPCにそのプログラムを移行させようとしても容易にはできない場合が ある.こうした使用許諾条件は供給側から一方的に設定されるために,当然 ながら需要側にとって不便を強いるもとのとなる.これも需要側からみれば,
供給側の不公正な行動となる.
供給される著作物が需要側が使用する以外のものを機能として含めて供給 される.こうした機能が価格に含まれており,したがって需要側はその面で 押し付け販売を受ける.すなわち,供給側による一種の過剰販売がなされて 需要側に損害を与える.音楽配信により曲ごとの購入が可能になった今日,
音楽CD購入は目的の曲の取得に不要な曲の購入を強いるものとみなされる ようになる.
使用許諾の緩和 著作物の使用に対して対価を支払わない,ということで 供給側がさまざまな対応をする.その結果としての著作物保護が上で触れた ように部分的に行き過ぎが生じる.ITの進歩により著作物の新たな使用環境 が高まり,これが需要側に利益を与えるが,供給側がこれに損害認識をもち,
したがって保護行動に結びつく.しかしながら,損害認識はそれまでの古い
使用環境のもとで生じていることに注意すべきである.たとえば,デジタル 著作物の場合,それを使用する人々が増加するとネットワーク外部性効果と いうITに特有の規模の収益性が発生する.したがって中古市場の登場がこの 効果をもたらし,著作物の供給側にさらに利益をもたらす側面がある8). ITの進歩は音楽をインターネット上でダウンロードして携帯再生装置で楽 しむということを可能にした.これには当然ながら著作権保護装置が多く設 定されるが,その程度が過度になるとその市場は拡大しない.米国Apple社
のiTMS-iPodのその使用許諾を緩めて価格をも低め,世界に大きな市場をつ
くりだしたことは記憶に新しい9).その後,インターネット上では使用許諾 条件を緩和した著作物配信が米国を中心に登場しだした.
音楽CDの複製防止策を取りやめる10),という最近のうごきも使用許諾の 緩和の一つであろう.先に触れたように,携帯再生装置などの発達のもとで はこの防止策は需要側に負担を与え,これによる市場の縮小が理解されるよ うになったといえる.
著作物の供給側がその保護を強化して行くことに対して,供給側において すら反発を招く.すなわち,供給側も他の著作物の需要側となりうる.さら には,その著作物の使用により新たな著作物を制作する.したがって,一方 的に著作物の保護を行うことは最終消費者の便益を損なうだけではなく,供 給側における次の著作物制作に損害を与えることになる.
こうした,供給側においてオープンソース運動が生じたり,あるいは
Lessig(2004)に示されるフリーカルチャー運動が登場し,同じくLessigによ
るクリエイティブ・コモンズという著作物のあり方が提唱されるようになる.
これは著作物の使用を制限したり,複製防止を施したりするのとは逆のうご き,つまり使用許諾の緩和である.しかも,注意すべきはこうしたことが第 三者や政府ではなく,供給側から生じているということである11).
8 )この点については,たとえばLiebowitz(2002,pp.147-155)参照.
9)これについては,たとえばit.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?i=20050805ea000ea&cp=1参照.
10 )たとえば,www.watch.impress.co.jp/av/docs/20040930/sme.htm参照.
11 )Varian(2005)では,著作権保護のない形でのいくつかのビジネスモデルが提案されている.また,
林(2004,終章)では,デジタル著作物についてのこうした方向に沿った著作権のあり方が提唱 されている.
著作物がデジタル化するもとで,以上でみたように保護がさまざまな手段 でなされるが,一方では逆の使用許諾緩和のうごきがある.そこでこの点を みるために,著作物の使用環境の向上による需要側の新たな著作物使用が需 要側に便益を与えると同時に,供給側にも利益を与える,とした場合を想定 しよう.
3 需要側の使用行動と供給側における価格形成
複製機器などの発達により著作物の複製使用が可能になると,需要側は使 用許諾購入した著作物をこの複製使用により使用許諾をこえて使用する.た だし,使用許諾そのものが供給側が一方的に設定されたものであり,またIT の進歩による新たな利用環境のもとでは許諾条件が不適当であるなど,需要 側からみて不公正にみえる.しかし,形式上著作物使用サービスの取引は使 用許諾で実施されている.そこで,こうした使用許諾をこえての著作物の使 用を以下で使用許諾外使用,簡略して許諾外使用と呼ぼう.
需要側におけるこの許諾外使用により,その複製の分だけ供給側使用許諾 販売ができなくなり,したがって,販売量が減少して被害を受ける.これが 通常の理解であり,需要側さえこの認識をもっているといえる.しかしなが ら,複製があってもそうした需要の減退が生じないケースがありえる.つま り,許諾外使用により需要側にはさらに便益が生じ,これが価格を実質的に 引き下げることになる12).この場合でも供給側は損害を認識することができ る.許諾外使用が生じているからである.そこで,複製使用というケースが 利潤増大につながるケースを前提に議論を展開しよう.
基本的な仮定 まず,一つの著作物を想定し,この需要者はxで表示され,
かつ1単位だけの使用許諾についてu(x)だけの便益をえる.そして,簡単化 のために使用許諾a単位の使用によりau(x)だけの便益をえるとしよう.かく
12 )このようなことはたとえばデジタル著作物の中古市場の登場によっても生じる.すなわち,新 品の著作物が中古として販売できることにより,需要者にとってはその中古で販売できる価格分 だけ価格が引き下げられたことになる.この点については,たとえば神(2002)参照.
て,著作物に対する便益は需要者ごとに異なるが,同じ使用者であれば便益 が使用量に比例する.
しかしながら,市場では1単位だけの使用許諾取引がなされるとする.か くて,需要者xの便益の大きさu(x)は需要曲線の高さを示す.そこで,通常 の需要曲線の性質にしたがって,このu(x)は
u´(・)< 0,
u(0)<∞, ある正の値xに対してu(x) = 0 (1)
なる性質をもつとする.つまり,xが高い需要者ほど便益u(x)は低くなる.
なお,以下の分析を単純にするために
u´´(・) ≤ 0 (2)
であると仮定しよう.すなわちxの増加に対してu´(x)が緩やかに減少するこ とはないとする.たとえばu(x)が線形である場合,このことがいえる.これは,
ここで想定している著作物が価格の低下にともなって急速に購入者を増加さ せるようなものでないことを示す.したがって,価格が上昇したとしても使 用者が急速に減少することはない.
各需要者について1単位のみ価格pで購入されるので,その需要者は
v(x) = u(x)−p (3)
なる便益v(x)をえる.このために,この著作物使用許諾を購入するのは
v(x) = u(x)−p =0 (4)
を満たす需要者xまでとなる.よって,価格pが与えられると
x = u−1(p)=d e f d(p) (5)
となるxだけが購入される.ただし,ここでd(p)はu−1(p)を表している.
一方,想定している著作物の供給側は独占状態にあるとする.そして,そ の使用許諾販売の費用をcxとする.ただし,ここで簡単のために平均費用c を正でかつ一定としている.供給側は利潤π(x)
π(x) = px−cx = ( p−c ) d(p) (6)
を最大になるように価格pを決定する.このことは
π(x)= px−cx = u(x) x−cx (7)
を最大にすることに他ならない.よって,利潤最大化の1階の条件
g(x) =d e f u(x) + u´(x) x = c (8)
となる.つまり,著作物使用許諾販売の限界収入g(x)はその限界費用cに等 しい.さらに上式をxで微分し,(1)と(2)に注意すれば
g´(x)=u´´(x) x +2u´(x) < 0 (9)
となり,利潤最大化の2階の条件が成立する.かくて,第 1 図に描かれたように,
横軸にxをとる座標上で限界収入g(x)は右下がりとなり,これがcに等しく なるようなxが供給側によって選択され,著作物の価格はu(x)となる.
なお,上のようにして供給側が決定する価格と市場均衡として成立する著 作物使用許諾の取引量をそれぞれ,p1とx1としよう.つまり,(8)を満たす ようなxの値を
x1=d e f{x : g(x) = c} (10)
としよう.ただし,{x : g(x) = c}は:の左側の変数でその右側の式を満たす値 のことを意味する.
また,価格p1は(4)から
p1 = u( x1 ) (11)
となる.
このようすは第1図で描かれている.ただし,描画の便宜上,曲線を直線 として描いている(以下の図も同様).
許諾外使用 使用許諾購入している著作物は複製などが可能であり,これ により使用許諾条件をこえてその著作物を対価の支払いなしに使用する.そ こで,使用許諾にしたがった使用分1単位にこの許諾外使用の使用分を加え た使用単位をどの購入者についても同じλ(≥1)で,かつ一定の値をもつもの としよう.したがって,λ−1は許諾外使用率となる.
ここで,各需要者xは1単位の使用許諾が正規であり,その便益は使用分 に正比例することに注意しよう.かくて,著作物の購入者xにとってはその
便益u(x)がλu(x)に増加することになる.よって,所与の価格pのもとでは v(x,λ) =λu(x)−p = 0 (12)
までの購入者xまでがこの著作物を購入する.このxの値をx12としよう.こ のとき,u(x)は減少関数であるので,上式からこのxは需要側での許諾外使 用により増加する.各購入者は1単位のみであるので,したがってまた著作 物の使用許諾購入量も増加する.許諾外使用により,需要側にとっては価格 がpからp/λに下落したことになる.
価格形成 この需要側の複製などによる許諾外使用により,需要関数が(4)
のp = u(x)から(12)のp =λu(x)に変化する.そこで,供給側はこのことを 知っているものとする.したがって,この新たな需要関数にしたがって利潤 を最大にするように価格を調整する.すなわち,(7)は
π(x;λ) = px−cx =λu(x) x−cx (13)
のように書き換えられ,この利潤が最大化される.よって,(8)に注意すれ ば利潤最大化の1階の条件は
第 1 図
λg(x) = c (14)
となり,供給側はxを上式を満足するように価格を決定する.そのようなx をx2とすると,g(x)は減少関数なので,上式よりx1<x2であることがいえる.
なお,x = x2のときの価格をp2とすると(12)より
p2 = λu(x2) (15)
となる.そこで,この価格とp1との大小関係をみるために,(12)と(14) の両辺をそれぞれλで微分して整理し,(1)と(2)および(9)に注意すれ ば
g´(x)
u(x) u´(x)+x{u(x) u´´(x)−[u´(x)]2}
= >0 dλ
dp (16)
がえられる.したがって,許諾外使用が増加してλが増加すれば,供給側は これに対応して価格を引き上げる.かくて,p1<p2となることがわかる.
次に,(11)をλで微分し,(10)に注意すれば dπ(x ;λ)
dλ = u(x) x>0 (17)
となる.かくて,著作物の許諾外使用率が上昇することにより供給側の利潤 は増加する.
この結果は一般の常識に反するようにみえる.しかしながら,ここで想定 している著作物では各需要者xでは1ライセンスのみの使用が前提となって いることに注意すべきである.このもとで関連機器の発達により複製使用な どの許諾外使用が可能になり,これにより使用量が増加する.このために価 格がそのままなら需要者にとっては価格が実質的に下落し,このために新た に購入しだす需要者がでてくることになる.したがって,価格がこれまでと 同じであっても供給側の利潤は増加することになる.
ここで,さらに注意すべきはこうした状況のもとでも供給側が価格を引き 上げることである.需要側の使用環境が変化して著作物の使用で発生する便 益が増加すると,供給側は価格を引き上げてその一部を取り込む.しかしな
がら,需要側にとっての便益増加は需要側における許諾外使用によるのであ り,したがって供給側はこの面で損害を意識するだろう.この点を以下でみ よう.
損害の認識 ここで想定している著作物使用サービスの使用許諾体系のも とでは,複製機器などの発達により需要側が許諾外使用をすることで供給側 にはこれまでの価格であっても利潤増をもたらす.さらに,前節では需要側 の著作物使用行動に対して供給側は価格を最適に調整し,利潤を最大にする ケースをみた.この場合,供給側が設定する使用許諾条件にしたがって取引 が行われ,価格の変更があってもこの使用許諾の変更はない.したがって,
市場で調整されるのは価格であり,この使用許諾条件ではない.
しかしながら,供給側にとっては許諾外使用という面で損害を受けている との認識をもつことは否定できない13).このために,供給側はこの対応を求 める.すなわち,許諾外使用を抑制すべく供給側で複製防止などの可能な措 置を探り,これを実施しようとすることもありえる.この場合には,法制度 の面や訴訟などで公的な対応をも求めるだろう.こうした保護行動は需要側 の許諾外使用が供給側に直接利潤減少をもたらす場合に生じるといえる.し かしながら,ここで想定しているケースでは許諾外使用により,利潤増が実 現しているにもかかわらず供給側が損害を認識しているとしている.
この認識される損害は,価格p1のもとで需要側における許諾外使用により 発生した需要側の便益の大きさといえる.すると,この額をL( p1 ;λ)とすれば,
これは第1図におけるλu(x)曲線とu(x)曲線との間における価格p1以上の部 分で示される.したがって,価格が価格p1であるときの損害認識額L( p1 ;λ) は
L( p1 ;λ)=
∫
x01(λ−1) u(y) dy+∫
[λu(y)−p1]dyx12
x1 (18)
となる.
13 )たとえば日本では,ゲームソフト会社が1998年に中古財販売会社を相手どって中古財販売の差 し止め請求の訴訟を起こした.これは,中古ゲームソフトの使用に際してその対価がえられない ことに損害意識をもったことを意味している.なお,2002年4月25日に最高裁はゲームソフト 会社側の上告を棄却して中古財販売は違法とはならないこととなった.
なお,許諾外使用により需要側において増加した便益を供給側が損害と認 識するとすれば,その便益は上述のような値ではなく,許諾外使用によって 形成された価格p2をこえる値14)とすべきようにみえる.しかしながら,この 損害はp1という価格設定で生じたものであることに注意すべきである.
供給側が認識する損害額L(p1 ;λ)はこの需要側が許諾外使用によりえてい る便益であり,供給側からすれば許諾外使用という点でこれは供給側に帰す べき便益と考えるだろう.しかしながら需要側からみると,新たな使用環境 の進歩により需要側がえたものであり,このような使用の仕方はそれまでの 使用許諾では想定されていないといえる.また,その認識される損害を縮小 するために保護行動をとるとすると,供給側がここでえている利潤をも縮小 するという問題が生じる.ところが,供給側では損害を認識しているのであ るから,これまでの利潤からこの損害額を差し引いたものが最大化されるべ きものとなる.そこでこの点に注意しながら,次節では許諾外使用に対する 供給側の保護行動をみよう.
4 供給側の保護行動
この節では許諾外使用がある場合,価格を調整するのではなく著作物の供 給側は複製防止策などの保護行動をとるとしよう.そこで,この行動により,
各需要者の使用量λがμを乗じた値,つまりμλに減じるものとしよう.し たがって,ここでは保護は許諾外使用の抑制を目的とし,需要側がえている 便益を供給側が回収することは想定していない.なお,保護水準μは0<μ
<1 で,供給側が決定する値としょう15).かくて,需要側にとっては著作物 の使用からえられる便益λu(x)がμλu(x)に下落する.
14 )すなわち,x21=d(p2)とすれば
L( x2 ;λ)=
∫
x021(λ−1) u(y) dy+∫
λ[u(y)−p2]dyx2
x21
である.
15 )許諾外使用による需要側の便益そのものを減額させるとすれば,このλu(x)の傾きを低めるよ うな保護が考えられよう.しかし,ここでは単純化のためにμはxには依存しないものとする.
かくて,需要側の使用許諾購入は価格がp1であるもとでは
v( x,μ)=μλu(x)−p1 = 0 (19)
つまり
p1 =μλu(x) (20)
となるxまでの需要者となる16).
保護費用 この保護行動は費用をともなう.この費用はそれまでの平均費 用cをbだけ引き上げるものとしよう.そして,このbは保護水準μの引き 下げに対して逓増的に増加する.これは,保護の強化にはより多くの費用を 要することを意味する.そしてまた,許諾外使用を完全になくす(つまり,
μλ= 1とする)には無限大の費用を要するものとしよう.かくて,これらは
b = b(μ) (21)
として,b(・)は
b(1) = b´(1) = 0, b´(・) < 0, b´´(・) > 0, b 1 = ∞
( )
λ (22)となる.
よって,著作物使用許諾の取引量xにおける供給側の利潤π(x,μ)は価格 がp1であることに注意して
π(x,μ) =[ p1−c−b(μ)] x (23)
となる.しかしながら,すでに述べたように供給側は需要側の許諾外使用に よる損害を(18)で表示されたL(p1)と認識している.つまり,μに注意すれ ば,価格がp1であるときにおいて認識されている損害額L(p1 ,μ) は
L( p1 ,μ)=
∫
0x1[μλu(y)−1] u(y) dy+∫
[μλu(y)−p1] dyx x1
=μλ
∫
0xu(y) dy−∫
0x1u(y)dy−(x−x1)p1 (24)となる.
16 )以下では関数内は変数のみとし,パラメーターであるλの表記は省略しよう.
損害を考慮した利潤の最大化 さて,この損害認識により最大化すべき値 は,これまでの利潤π(x,μ)ではなく,これより損害認識分を差し引いた値 Π(μ),すなわち
Π(μ)=[ p1−c−b(μ)] x−μλ
∫
0xu(y )dy+
∫
0x1u(y )dy+(x−x1) p1 (25)となる.この最大化される利潤をここでは便宜上,実質利潤と呼ぶことにし よう.この実質利潤は保護水準μに依存しており,この値が決定されると,
価格p1のもとで(20)にしたがってxが決まる.
よって,その実質利潤最大化の一階の条件は
−λ
∫
0xu(y)dy = 0u(x)[2p1−c−b(μ)−μλu(x)]
Π´(μ)=− −b´(μ)x μu´(x)
(26a)
となり,したがって
μu´(x)
u(x)[2p1−c−b(μ)−μλu(x)]
x
λ
∫
0 u(y)dy=− −b´(μ)x (26b)となるようにμが決定され,取引量xが(20)にしたがって決まる.このと きのμとxをそれぞれμ3とx3としよう.
供給側が決定するこの保護水準μ3をみるために,μが1から減少して行く ときのb(μ)のうごきを(22)と(26a)に注意しながら調べてみよう.すなわち,
Π(μ)は最初では上昇するが,μが1 /λに近づくにつれて減少する.第 2 図 ではこの実質利潤と保護水準との関係が示されている.ただし,保護がない ときの実質利潤はu(・)とcとの性質によっては負となる場合もありえるが,
ここでは正の場合が描かれている.
5 使用許諾の緩和
需要側における許諾外使用を供給側は損害として認識し,その抑制のため
の保護行動をとり,そのようすを前節で考察した.ここでは,社会全体の利 益という観点から,この供給側が行う保護,したがって使用許諾のあり方に ついて考察しよう.
社会全体の厚生水準 この社会全体の利益をどのようにとらえるかにより,
最適な保護は異なる.そこでまず,社会全体の厚生水準をWa(μ)とすれば,
これは供給側における通常の利潤と需要側の便益(これは供給側の損害認識額で もある)を合計した値になる.需要側の便益は(24)で示される供給側の損害 認識額L( p1 ,μ)に等しいことに注意すると,この厚生水準は
Wa(μ)=π(μ)+L(μ) (27)
となる.ただし,ここで,L( p1 ,μ)とπ(x,μ)をそれぞれL(μ)とπ(μ)とし て表記しなおしている.この上式から,最大になるような保護水準はμ=1と なることが容易にわかる.したがって,新たな使用環境での許諾外使用を抑
第 2 図
制するような保護は認められないことになる.
また,実質利潤を社会全体の厚生水準に組み入れることもできよう.この ときの値をWb(μ)とすれば,社会全体の厚生水準は
Wb(μ)=π(μ) (28)
となる.したがって,この場合,需要側での便益は供給側の損害として相殺 されてしまう.かくて,価格 p1のもとで社会全体の厚生水準を最大にするのは,
供給側の利潤π(μ)を最大にするような保護水準となる.(23)が示すように,
μ=1でこの利潤が最大になり,したがってこのケースでも保護を認めないこ とが望ましい,という結果になる.
かくて,こうした保護を認めない政策などが実施されるとすれば,供給側 は価格を対応させることになるだろう.すなわち,3節でみたように,供給 側において価格形成がなされて価格は p1から p2と調整されることになる.こ れは当然ながら,通常の社会全体の厚生水準Wa(μ)を低める.
損害の認定 さて,供給側による著作物保護は前節でみたように実質利潤 が最大化されるのであり,この結果,通常の利潤は減少する.そして同時に,
この保護行動は需要側の便益を減少させる.かくて,本稿で想定している著 作物市場においては,供給側における保護は社会全体における通常の厚生水 準を低めることになる.そこで,この保護のあり方を考える必要がある.
そこで,供給側が認識する損害分であるL( p1 ,μ)に対して社会的に認定す る比率をβとしよう.ただし,これは0<β<1の値をもつ.この損害認定 はいいかえると,使用許諾を1から(1−β)λだけに緩和することに他ならない.
すると,供給側にとっての実質利潤Π(μ)は
Π(μ,β)=π(μ)−βL(μ) (29)
となり,これが最大化される.第2図を利用すると,この認定率βが1から ゼロまで変化した場合のようすを容易に理解できよう.第 3 図にはそのよう すが描かれている.同図の縦軸には,横軸の保護水準μと認定率βにより決 まる実質利潤Π(μ,β)がとられている.
この第3図では次のことが示されている.まず,βが1の場合は前節でみ たケースであり,したがってそのときの実質利潤Π(μ, 1)は第2図と同じ曲 線を描き,その最大点A点が供給側で選択される.また,βが1より低くな ると,認定が低くなるために実質利潤Π(μ,β)曲線は上昇し,最大点はB点 のようにA点より右上へ移動する.そして,βがゼロでは実質利潤はΠ(μ, 0) で,これは(29)によりπ(μ)に等しく,したがって,μをゼロとした値,つ まり図のC点で最大となる.こうして,この認定により損害分は減少するた めに,保護水準もそれだけ緩和される.したがって,βが1ならばA点,そ れがゼロならばC点,そして中間ではB点がそれぞれ選択される.
以上のようにして,供給側が認識する損害に対して社会的に認定する比率 βが与えられると,供給側により保護水準μが決まる.そこで,二つの社会 全体の厚生水準
Wa(μ)=π(μ)+L(μ) (30)
第 3 図
Wb(μ,β)=π(μ)+(1−β) L(μ) (31)
がそれぞれ決まる.ただし,(31)では損害認定率βを変数として組み入れて
Wb(μ)をWb(μ,β)として表記している.この上式(30)と(31)において,
損害認定率βを1から引き下げるとすれば,第3図からわかるように保護水 準が引き下げられ,利潤と需要側の便益がともに増加する.このため,上の 2式の右辺はともに増加し,結局この二つの基準でみても保護は望ましくな いことになる.
常識的な理解に反する上の結果は,すでに述べたように,本稿では問題を 浮かび上がらせるためにやや極端なケースを想定していることによる.著作 物制作には開発費用がかかり,この回収には著作物(他の知財も同じ)使用に 対してその対価を確保する必要があり,したがって著作物の保護が必要とさ れる.しかしながら,ここではすでにその回収が可能となっているもとで,
新たな使用環境で保護を求めようとすることの経済的な行動を調べ,また社 会的な観点からみるとそれは支持されないことが示された.
6 む す び
ITの発達により著作物,とくにデジタル著作物の需要側ではそれまでにな かったような使用が可能となる.このために,それまでの使用許諾をこえた 許諾外使用となり,供給側からみるとこうした使用は不正使用となる.これ はまた需要関数の変化であり,さしあたって供給側は価格を調整し,さらに 使用許諾条件の強化や複製防止などの保護行動をとろうとする.しかしなが ら,この需要側の著作物使用環境の変化はそれまでの使用許諾には不適切で あり,こうした供給側の対応は需要側にとっては不公正にみえる側面がある.
このために,現行の制度のもとでは合法であるとしても,供給側が行う対抗 措置は問題をはらみ,このことは供給側がいう需要側による不法な行為と同 じようなものである,と需要側にはみえるであろう.
本稿では,この点に焦点を当てるために,やや極端化したモデルを想定し
てその行動がもつ性格を考察した.すなわち,想定した著作物の使用許諾は 一定単位だけ供給されるとし,需要者の便益はお互いに異なるとした.すると,
需要側の許諾外使用に価格面で対応するのが自然であり,この価格形成面を みた.この場合,この許諾外使用は供給側に対して,常識とは逆に利潤増を もたらす.しかしそれにもかかわらず,価格が引き上げられる.また,需要 側による許諾外使用は供給側には損害認識をいだかせ,供給側は本格的な対 抗措置として著作物保護を施す.しかも使用許諾条件を強化することで,供 給側の損害意識は増大し,この面で保護も強化される.この点をみるために,
本稿では利潤から損害額を差し引いた値を供給側が最大化するとしてモデル を展開した.しかし,こうした供給側の行動は認識される損害を減少させても,
結果的には利潤を減少させる.そこで,新たな使用環境ではこの損害の認識 を改めて使用許諾条件を緩和させることで,需要側の便益増大の保全のみな らず供給側の利潤増大を実現させることができる.
しかし,供給側の損害認識は払拭できないであろう.その新たな使用環境 による需要側がえる利益は著作物にも起因するため,これに対する分配請求 は強いといえる.私的録音録画補償金制度は制度面での一つの表れであるが,
供給側として請求行動についての分析が必要になる.また,この新たな使用 環境での需要側の許諾外使用に対する供給側の損害認識と供給側に実際に損 害を与えることを区別したモデル展開も求められる.さらに,保護は次の著 作物制作を約束するものという長期的な面については本稿では対象外とした.
かくて,こうした面でのモデル改善が今後の課題となる.
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The Doshisha University Economic Review Vol.57 No.3 Abstract
Takayuki KAMI, Pricing, Licensing and Protection of Creative Works
Recent progress of IT(information technology) has brought us new and more efficient ways in using creative works such as backup of software and processsing of AV content by users. This means the demand curve of creative works licensing shifts to the right, with the result of bringing more benefit(consumer surplus) not only to the users of creative works but even to their suppliers. In this case, the suppliers may adjust the price of creative works for the first time, and receive maximum profits. But, they think that the benefit gained by the new uses should be returned to them, so that they, at the same time, regard the new way of using creative works as an illegal use of license. Hence, by strengthening the licensing level and/or protection of creative works, the suppliers try to use creative works efficiently. This paper will bring the suppliers' behavior of protecting and licensing creative works into focus by a simple model. We will find that by examining the behavior of the protection, moderating the licensing level will increase social welfare.