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仕事満足度に対する産業の効果 : SSM 2015 データ を用いた計量的アプローチ

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仕事満足度に対する産業の効果 : SSM 2015 データ を用いた計量的アプローチ

著者 稲元 洋輔

雑誌名 評論・社会科学

号 130

ページ 85‑105

発行年 2019‑09‑30

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000402

(2)

要約:本稿は,労働者の仕事に対する満足度と産業の関係について論じるものである。こ れまで,仕事満足度についての計量的な研究では,産業というカテゴリーがあまり用いら れてこなかった。しかし,産業も職業や雇用形態と同じく労働者の属性の1つであると考 えられるため,本稿では職業や職務の特性を考慮しつつ,産業の効果について検討する。

分析の結果,産業の違いよって労働者の仕事満足度に差異がみられ,これは他の変数と は独立した効果であることが示された。また,産業を職業などの枠組みとしてマクロに捉 えた場合,直接的な効果を持つことが確認された。さらに,この効果は性別によって異な る傾向であった。これらの結果は,労働者の主観的な世界と産業が深く結びついているこ とを意味している。

キーワード:仕事満足度,産業,職業,職務特性,雇用形態

目次

1.労働者の意識と産業の関係 2.仕事に対する満足度と産業

2-1.データと分析方針

2-2.産業分類と職業による仕事満足度 3.仕事満足度に影響を与えるもの

3-1.産業分類の主効果 3-2.産業全体の影響 4.性別による産業効果の違い 5.産業効果についての解釈の可能性

1.労働者の意識と産業の関係

「あなたの仕事は何ですか?」

このように尋ねられた場合,人びとはどのように答えるだろうか。会社員と答える人 もいれば,より具体的に職業名を答える人もいるように思う。また,人によっては勤め

────────────

同志社大学大学院社会学研究科社会学専攻博士後期課程

201978日受付,2019722日掲載決定

論文

仕事満足度に対する産業の効果

── SSM 2015

データを用いた計量的アプローチ──

稲元洋輔

85

(3)

先の企業名や産業について答えるかもしれない。この問いの場合,捉え方によっては自 らの仕事の意味や理念について尋ねられていると感じる人もいるかもしれないが,それ は前後の文脈があって読み取れる内容であるため,文頭のように単純な疑問文であるほ ど,大半の人はなにかしらの固有名詞を回答するだろう。日常でよく耳にするこの問い は,こうして考えてみるとかなり漠然とした内容を尋ねていることに気付かされる。こ のように「仕事」の意味するところは日々の働く内容を指しているが,言葉としての捉 え方は人によってさまざまである。そして,この「仕事」という概念への認識の多様さ が本稿の問題関心に関わる重要な観点でもある。

では,人びとは仕事や労働についてどのように捉えており,また,それに対してどの ような評価を下しているのか。こうした働く人びとの意識的側面にまつわる学術的な研 究は数えきれないほど存在し,その内容も多岐にわたる。本稿もまた,その大きな論題 の一部に取り組むものであり,ここでは特に労働者と産業の関係性について考えていき たい。産業という経済的なカテゴリーは労働者にとって何を意味しており,労働者に対 してどのような影響をもたらしているのか。これが筆者の主たる問題関心である。この 関心を基により具体的に述べると,その労働者が属している産業の分類の違いを議論の 中心に据えて,労働者の「仕事に対する意識」の差異が産業間にみられるのかを,計量 的な分析により明らかにすることが本稿の目的である。

さて,このように労働者と産業の関係について検討する為には,いくつか押さえてお かなければならないことがある。まずは,そもそも人びとの労働という活動と産業とい う社会構造が密に関わっているのか,ということについてだ。これについては言うまで もないかもしれないが,改めて簡単に整理しておくとしよう。

かつては,どのような社会においても第一次産業が大部分を占めており,そこでの人 びとの労働は現在のような経済活動というよりは,生きるために必要な行為であった。

その後,日本においては戦後から

1960

年代後半にかけて第一次産業から第二次産業中 心の社会へと変化し,農民層から労働者層へと人々の働き方も変わっていくこととなっ た。そして,高度経済成長を通して現在に至るまでも産業形態は発展し,今では第三次 産業が経済の中心となり,分業が発達した結果,そこではさまざまな働き方や職業が存 在している。また,近年では第四次産業革命という言葉まで耳にするようになった。こ れは,モノのインターネット化(Internet of Things)やビッグデータ,人工知能(Artifi-

cial Intelligence)やロボットなどに代表される産業・技術革新のことであり,第三次産

業に次ぐ新たな産業が生まれていることを意味している(内閣府

2017)。このような時

代の変化は社会や企業の経済活動だけでなく,人びとの働き方や価値観などのライフス タイルも変容させる可能性を含んでいるといえる。私たちの生活は労働という社会経済 活動に支えられており,そこでの多種多様な働き方の基盤となるものは間違いなく産業

86 仕事満足度に対する産業の効果

(4)

である。要するに,これまでも,そしてこれからも私たちの労働は産業の枠組み内に在 るのであり,その営みは枠組みの様態によって左右され,影響されていくことになるの である。

次に,産業についての研究はどのように行われてきたのか,という観点についてであ る。十名直喜(2017)によると,これまでの産業研究の多くは経済学の領域で行われて きたとされており,大別すると

2

つの流れがみられるという。1つは個別の産業につい ての研究であり,もう

1

つは産業を類型的・構造的に捉え,その本質と発展傾向を明ら かにしようとする試み(1)である。基本的に前者は産業をミクロな視点で捉え,企業など の集団を対象とし,後者はマクロな視点から産業の総体を経済全体として,構造や機能 について把握しようとするものである。また,そこでの労働とは経済活動の一側面であ り,産業を人的レベルでみる際の切り口とされている(2)

このような研究は,ミクロであろうとマクロであろうと労働者の外側からの視座であ り,筆者の関心とは少し異なる。本稿では,労働者を軸として産業の影響を確認するこ とを目的としており,分析において,その効果を確認する際に仕事に対する意識を用い るのもそのためである。例えば,産業によって職業や雇用形態などが異なるといった議 論は産業の構造に注目しているのであって,労働者の働き方(形態)の違いを検討して いるにすぎない。これも産業による違いであることは間違いないが,労働者側からの視 点で分析しているとはいえないだろう。産業自体も職業などと同様に人びとの置かれた

「環境」を表すラベルの

1

つと捉えるならば,労働者の意識的な側面に影響をもたらす といったことは十分に考えられる。したがって,本稿においては人びとの仕事に対する 意識を扱うことで,労働者側の視点に立つ分析を行いたい。

もちろん,産業と労働者の関係について解釈するには,先に少し述べたような歴史的 変遷に鑑みることや,各産業の構造を含めた分析を行うことが重要であろう。しかし,

ここではまず産業というカテゴリーの違いによる影響に焦点をあてたい。その理由につ いても述べることにしよう。

本稿は産業効果について計量的アプローチを試みるものであるが,同様に産業分類を 扱った研究には次のようなものがある。まず,藤本昌代(2007)は,正規雇用の男性労 働者について年間所得と年間総実労働時間の産業間比較を就業構造基本調査と賃金構造 基本調査のデータを用いて行っている。分析の結果,年間所得が高い産業は労働時間が 短く,逆に年間所得が低い産業は労働時間が長いといった傾向にあり,所得と労働時間 のあいだに負の相関関係がみられることを指摘した。さらに,そこから計算された各産 業の時間あたりの賃金と,労働者の学歴や務めている事業所の規模との関係についてい くつかの産業をもとに比較を行っており,産業によってそれらの効果が異なることを明 らかにしている。例えば,「金融,保険業」においては事業所規模が小さくとも一貫し

仕事満足度に対する産業の効果 87

(5)

て学歴が賃金に影響を与えており,反対に「製造業」は高卒者であっても大企業に勤め ることが効果を持つというような結果である。この研究については,雇用形態や職業分 類がある程度統制されており,産業の枠組みからの視点に立つことで労働者における不 平等の問題を説明している。

また,長松奈美江(2011)は個人の労働時間と不平等の関係について論じるうえで,

労働者の立場だけでなく産業側の特性も含めた分析を行っている。その結果は男性で年 齢が若いほど,また務める企業の規模が小さいほど労働時間は長くなるといった傾向で あり,職業では専門,技術,サービス・販売職であると事務職と比べて長時間労働にな りやすいというものである。他方,女性で未就学子がいると労働時間は短くなるという 傾向が確認された。また,産業に関しては,その特性を各産業の賃金率と非正規雇用者 割合でみた場合,どちらも労働時間に対して影響を与えていることが確認された。労働 者が属している産業の賃金率が低いほど長時間労働となりやすいといった傾向は,先の 藤本の研究結果と対応しているだろう。異なる点は,労働者自身の属性や職業分類も分 析に加えているということだが,この研究においても産業効果に対応する個人レベルの 収入や雇用形態といった要素は考慮されていない。

その一方で,労働者の意識についての研究も労働社会学や経営学,心理学といった幅 広い分野で数多くみられる。特に社会学や社会階層論においての議論では,意識や評価 を規定する要因の明確化や,その認識の構造を明らかにする分析が主流であり,より個 人や集団の労働状況に寄り添った分析がなされている。例えば,職場での人間関係や職 務の性質に対する自己評価は,仕事や職務に対する満足度を高めるうえで重要な役割を 担っている,といったことや,その満足度などへ影響を及ぼす要因に対しても個人の属 性や階層変数などが関連している,というようなことなどが挙げられる(筒井

2011,

山本

2010

等)。また,労働時間や賃金といった労働の条件についても意識と密接な関係 にあることは明らかであり,この点は伝統的な労働のモチベーション研究においても述 べられている(ハーズバーグ

1966

等)(3)。このように労働者の意識といえどもそれには さまざまな論点があり,あらゆる角度から理論的にも実証的にも研究が積み上げられて いる。

さて,これらの視座を整理すると次のようなことがわかる。それは,計量的な研究に おいて労働者の意識の問題を扱う場合,産業というカテゴリーはあまり用いられていな いということである。対して,産業の効果を検討するにあたっては,労働者の特性や条 件に構造が影響を及ぼすといった議論に留まっているものが多く,労働者の意識面を視 野に入れた分析はほとんどなされていない。つまり,労働者の意識と産業の関係性につ いては,「枠組みと状況」,「状況と意識」といった

2

つの論点に分かれている現状があ る。このような背景には

2

つの理由が考えられる。

88 仕事満足度に対する産業の効果

(6)

まず

1

つ目は,分析のうえで職業や雇用形態というラベル(変数)の方が強い特徴を 持つからであろう。産業とはその職業などを内包する複合的な概念であり,労働者に対 してなんらかの影響を及ぼすには間接的である,とこれまで捉えられてきたのではない だろうか。産業についての研究の多くが経済学の分野で行われていることからもそのよ うに考えることができる。では,産業とは人びとの自らの労働への認識において,たん なる経済的カテゴリーでしかないのだろうか。そうではない,という見方もできるはず だ。先にも述べた「仕事は何をしているか?」という問いからもわかるように,人びと にとっての仕事や労働への認識は多様な意味合いを含んでおり,その解釈についてもか なり幅広い。このように考えるのであれば,労働者の意識のなかで産業というカテゴリ ーは決して遠いものではないともいえる。さらに,近年では世間の認識において職業と いう概念について曖昧さが増してきている,といった主張もある(梅澤

2008)。

また,もう

1

つの理由としては産業というものの概念的な解釈の困難さが挙げられ る。計量的な分析において産業分類自体が変数として用いられ難いのは,産業間の関係 性についての整理がまだ十分になされていないからとも考えられよう。それに対して,

職業や従業上の地位,雇用形態といった労働者の特性を表すものは,その分類の違いに よって与える影響も明確になってきている。なかでも職業は,これまでの社会構造につ いて解釈することを目的とした多くの研究において,概念としても理論的にもその差異 がもたらす影響についての知見が積み上げられてきている。つまり,職業の違いは社会 的な地位や経済的な側面と密接に関わる客観的な区分であり,人びとの生活におけるさ まざまな不平等や階層性を説明するものであると実証されてきたのである。職業間には ヒエラルキカルな関係性が存在しており,こういったことから近年では,当たり前のよ うに職業(分類)が使用されているのだと考えられる。

では,産業の影響について検討するためにはどのようにすればよいのだろうか。産業 というカテゴリーも各産業の賃金率や雇用形態の比率,平均労働時間などを示し,産業 間の関係性を考察することはできるが,それは産業が持つ特徴の一側面であり,構成さ れる要素としてすべてを表しているわけではないだろう。特に労働者に与える影響とい う点においては,このような特徴は職業の傾向にかなり依存している。したがって,ま ずは職業のように産業についても,そもそもの分類において労働者の意識に対して与え る影響に差異がみられるのか,ということを確認する作業は必要であるといえる。

次節からは労働者の仕事に対する意識についての分析に入るとしよう。人びとが従事 する活動によって得られる社会的価値があるモノのカテゴリーは,人びとにどのような 影響をもたらすのか。また,その影響はカテゴリー内の個人の働き方(形態)によって 説明されうるのか。あるいは直接,人びとの意識に作用するのか。このような点に着目 し論を進めたい(4)

仕事満足度に対する産業の効果 89

(7)

2.仕事に対する満足度と産業

2-1.データと分析方針

本稿の分析では,2015年

SSM

調査データを用いる。分析対象となるのは,仕事をし ているすべての人びとであり有効サンプル数は

5076

であった。ここで,改めて本稿に おける「労働者」の定義について述べておく。労働基準法によると,労働者とは職業の 種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者(労働基準法第

9

条)とされており,一般的には雇用者と同義である。しかし,本稿での分析対象には 自営業主や経営者・役員も含んでおり,これには理由がある。まず,これらの人びとの 職業分布をデータより確認すると,管理的職業従事者以外にも数多くみられた。特に自 営業主はなんらかの職務を行っている場合がほとんどである。雇用者との違いは収入を 得る先が異なる点(業主は自らの営業により得る)であり,「労働」をしていることに はなんら変わりないだろう。さらに,このデータでは経営者と役員がまとめられている が,通常,役員は雇用者と捉える方が妥当である。よって,仕事に対する意識を検討す る場合,このような人びとを対象としない方が適切でないと判断した。もちろん,これ らの人びとを一般的な労働者の議論に含むには注意が必要であるが,分析では仕事をし ている人びとの枠組みの影響に焦点を当てているため,今回はこのように処理してい る。したがって,本稿での労働者とは「労働」をする者である。もうひとつの理由は,

産業ごとのサンプル数を確保するためである。

次に,仕事に対する意識を測る変数として用いる質問項目は「現在の仕事の内容に対 する満足度」である。この項目は「満足している」から「不満である」の

5

段階で尋ね られており,分析では値が大きくなるほど満足していると示すように,値の割り当てを 行ったものを用いている。また,これ以降の本文では「仕事満足度」と略して表記す る。労働者にとっての仕事満足度は,自身の労働に対する意識のなかでも包括的な評価 であり,全体的な傾向を捉えるには適していると考えられるため,この変数を採用し た。さらに,この項目は「仕事」という言葉を使用している点が重要であり,職務や業 務といった事柄をも含んだ全体について問うているニュアンスがある。この場合の満足 度という評価には,産業による影響の可能性がないとは言い切れないだろう。

また,満足度以外にも仕事に対する意識というものには異なる水準もある。それは仕 事や職場の性質と関わる意識であり,職務に対する具体的な評価のことである。この点 について,SSM調査データにはいくつかの質問項目があり,本稿では今の職場で「自 分の能力が発揮できる」と,「自分の仕事の内容やペースを自分で決めることができる」

2

つを取り上げて分析で用いたい。これらの変数は,これまでの労働者研究の観点を

90 仕事満足度に対する産業の効果

(8)

考慮するためにも必要となる。以降では,仕事満足度と同様に前者を「能力発揮」,後 者を「裁量性」と略して表記する(5)

独立変数として用いる産業カテゴリーには,日本標準産業分類を使用する(6)。その他 に,労働者の属性を表す,職業・勤め先の企業規模・雇用形態,また個人の労働状況を 表す,年収・労働時間についても用いる。さらに,統制変数として年齢・性別・教育年 数も分析に加えることとする。

以降の分析では,まず産業分類による記述統計から概観を確認し傾向を示す。その 後,仕事満足度に対するそれぞれの独立変数の単純効果を検討し,最後に産業の効果は どのようなものであるのかについてマルチレベル・モデルによる分析を行う。なお,本 稿は仕事満足度を従属変数として扱っているが,規定要因を探り詳細に描くことを目的 とはしていない。あくまで,先述の理由から産業(分類)の直接的な効果に着目し,そ こから得られた事柄を整理し考察することに重きを置いている。この点について留意し ておきたい。

2-2.産業分類と職業による仕事満足度

労働者の仕事に対する満足度について示す前に,まず産業による職業構成(4分類)

の分布を確認しよう。それが表

1

であり,産業によって職業の構成が多様に異なってい ることがわかる。「情報通信業」,「学術研究,専門・技術サービス業」,「教育,学習支

1 産業分類別の職業構成 専門・

技術・管理 事務

販売・

サービス

(グレー)

その他

(ブルー) 合計 N A 農業,林業

B 漁業

C 鉱業,採石業,砂利採取業

D 建設業

E 製造業

F 電気・ガス・熱供給・水道業 G 情報通信業

H 運輸業,郵便業 I 卸売業,小売業 J 金融業,保険業 K 不動産業,物品賃貸業

L 学術研究,専門・技術サービス業 M 宿泊業,飲食サービス業 N 生活関連サービス業,娯楽業 O 教育,学習支援業

P 医療,福祉 Q 複合サービス事業

R サービス業(他に分類されないもの)

S 公務(他に分類されるものを除く)

0.4 0.0 0.0 9.0 12.6 5.9 63.1 2.9 7.4 7.0 9.7 55.9 0.8 6.7 78.6 47.7 16.2 8.2 21.2

2.9 7.1 0.0 17.8 17.5 47.1 23.8 23.4 25.0 54.7 20.8 28.6 3.8 12.8 10.9 14.2 43.2 27.3 61.3

0.8 0.0 0.0 2.5 5.4 0.0 10.0 2.9 48.3 36.7 52.8 5.6 85.0 67.8 5.4 34.7 16.2 11.2 2.3

95.9 92.9 100.0 70.6 64.5 47.1 3.1 70.8 19.3 1.6 16.7 9.9 10.4 12.8 5.1 3.4 24.3 53.3 15.2

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

244 14 2 398 847 34 130 209 729 128 72 161 260 180 276 709 74 392 217

全体 20.7 21.1 23.4 34.7 100.0% 5076

仕事満足度に対する産業の効果 91

(9)

援業」は専門・技術・管理職の割合が高く,「農業,林業」などのいわゆる第一次産業 や「建設業」,「製造業」などの第二次産業についてはその他(ブルーカラー)職の割合 が高い(7)。また,第三次産業に含まれるものの多くは事務職,販売・サービス(グレー カラー)職に偏っている。表

1

については,SSM調査データのサンプルの構成割合で あるが,政府統計の

2015

年国勢調査の結果と比べてもおおむね同様の比率であった。

以降の分析ではサンプル数が少ない「漁業」,「鉱業,採石業,砂利採取業」について

「農業,林業」と合わせて表記することにする。では,このような産業の構成を踏まえ たうえで,仕事満足度の分布をみてみよう。

2

は産業と職業分類別の仕事満足度の平均値を示している。まず,産業別平均をみ るとわかるようにカテゴリーによる単純な差異は確認された。有意確率についても

1%

未満である。また,全体的に平均値が高いことも特徴だろう。相対的に満足度が高い産 業は「電気・ガス・熱供給・水道業」,「教育,学習支援業」,「公務」であり,反対に

「運輸業,郵便業」,「不動産業,物品賃貸業」は低い傾向であった。次に,職業別平均 に目を向けると,専門・技術・管理職がもっとも満足度は高く,事務職,販売・サービ ス(グレー)職,その他(ブルー)職といった順に少しずつ低くなるといった傾向が見 て取れる。

では,産業の結果について職業構成の特徴も含めると,どのような事がみえてくるだ ろうか。先ほど,高い満足度の様子がうかがえた「電気・ガス・熱供給・水道業」,「教 育,学習支援業」,「公務」については,全体的にどの職業であっても高い値を示してい る。これは一般的な職業の傾向と反する結果であり,統計的に有意な交互作用の効果を 表している部分でもある。これらの産業については,表

1

での職業構成比がそれぞれ異 なっていることからも,職業の性質というよりは産業の特徴であるといえる。要する に,産業内での働き方による差異ではなく,その産業で働いているという状況が人びと の仕事満足度を高めている可能性があるということだ。また,いくつかの産業では職業 による満足度に違いがみられないという点も確認できる。

反対に,低い傾向であった産業については,それぞれ職業分類ごとに異なる結果がう かがえた。まず「運輸業,郵便業」では,その他(ブルー)職として働く人びとの仕事 満足度が低い(3.73)。この職業に従事する人は産業内の

70.8% を占めており,ここか

ら産業を代表する働き方である労働者の満足度が低いということがわかる。また,この 産業については専門・技術・管理職の平均値が特徴的に高い。この職業として働く人は 産業内において僅かであるが,この結果は産業内の働き方の状況を表しているのかもし れない(8)。次に「不動産業,物品賃貸業」では,これまでとは逆に専門・技術・管理 職,事務職の人びとが低い値であった(3.71, 3.33)。この産業内の半数以上を占める職 業は販売・サービス(グレー)職であるが,彼らの仕事満足度は決して低くない。この

92 仕事満足度に対する産業の効果

(10)

産業では,外回りや肉体労働というようないわゆる「現場」での仕事よりも,ホワイト カラーに代表されるような「内勤」の仕事であることの方が,比較的満足度を下げる傾 向にあるのかもしれない。こういった解釈は今のところ推測に留まっているが,ここで の確かなことは同じように仕事満足度が低い産業であっても,その要因は異なる可能性 があるということである。

ここまでの分析結果については,また別の要因が影響しているとも考えられる。つま り,産業と仕事満足度の関係についての背後には,職業だけでなく個人の属性や労働の 条件,職務の性質といった効果があると推測できる。産業という枠組みは,労働者を表 す指標のなかでももっとも包括的な概念であるのは間違いなく,それゆえに他の要因と 比べて労働者の意識に対して作用するには距離が遠いと考えるのが妥当であろう。した がって,産業の違いに着目する以上,その影響が直接的なものであるのか,間接的なも のであるのかを確かめなければならない。この過程を経ることで,本来の目的である産 業の直接的な効果を確認することができると考えられるため,次節ではこれらすべての 要因を踏まえた分析を行うとしよう。

2 産業・職業分類別の仕事満足度 専門・

技術・管理 事務

販売・

サービス

(グレー)

その他

(ブルー)産業別平均 農業,林業,漁業,鉱業

建設業 製造業

電気・ガス・熱供給・水道業 情報通信業

運輸業,郵便業 卸売業,小売業 金融業,保険業 不動産業,物品賃貸業

学術研究,専門・技術サービス業 宿泊業,飲食サービス業 生活関連サービス業,娯楽業 教育,学習支援業

医療,福祉 複合サービス事業

サービス業(他に分類されないもの)

公務(他に分類されるものを除く)

5.00 4.08 4.31 4.50 3.91 4.67 4.09 4.44 3.71 4.09 3.50 4.42 4.46 4.05 3.92 4.23 4.35

4.25 4.01 4.04 4.33 3.90 3.98 4.07 4.12 3.33 4.11 4.30 4.00 4.43 4.19 4.09 3.89 4.20

4.50 3.70 3.78 0.00 3.92 4.00 4.05 4.04 4.05 4.44 4.08 4.10 4.40 4.02 4.33 3.91 4.00

3.93 4.00 3.81 4.31 4.00 3.73 4.10 3.00 4.17 4.19 4.00 4.14 4.43 4.21 3.33 3.87 4.39

3.95 4.00 3.91 4.33 3.92 3.82 4.07 4.09 3.89 4.13 4.07 4.11 4.45 4.06 3.92 3.91 4.26 職業別平均 4.18 4.07 4.04 3.91 4.03 有意確率(主効果産業分類:0.00,職業分類:0.00,交互作用:0.08)

仕事満足度に対する産業の効果 93

(11)

3.仕事満足度に影響を与えるもの

3-1.産業分類の主効果

3

は仕事満足度を従属変数とする重回帰分析の結果である。順にモデルの結果を確 認していこう。まず,モデル

1

は産業のみを独立変数として投入したものである。産業 分類はカテゴリカルな変数であるため,ここではダミー変数化しており,基準は第一次 産業の「農業,林業,漁業,鉱業」である。これらは,産業発展の歴史において初期の 形態であり,現在多様化している労働についての基礎となった活動の枠組みであるた め,基準として採用した。本来であれば,第二次産業に含まれるものと第三次産業に含

3 仕事満足度の規定要因 モデル1

β

モデル2 β

モデル3 β

(基準:農業,林業,漁業,鉱業)

建設業 製造業

電気・ガス・熱供給・水道業 情報通信業

運輸業,郵便業 卸売業,小売業 金融業,保険業 不動産業,物品賃貸業

学術研究,専門・技術サービス業 宿泊業,飲食サービス業 生活関連サービス業,娯楽業 教育,学習支援業

医療,福祉 複合サービス事業

サービス業(他に分類されないもの)

公務(他に分類されるものを除く)

0.015

−0.014 0.033*

−0.005

−0.026 0.044†

0.024

−0.007 0.033†

0.029 0.032†

0.120**

0.042†

−0.003

−0.010 0.066**

−0.004

−0.025 0.021

−0.030

−0.030 0.018 0.005

−0.024 0.001 0.024 0.011 0.095**

−0.003

−0.015

−0.025 0.048*

0.017 0.008 0.030*

−0.018

−0.013 0.043 0.011

−0.007 0.009 0.056*

0.009 0.094**

0.040 0.004

−0.003 0.058**

年齢 女性ダミー 教育年数 非正規ダミー

(基準:30人未満)

30-500人未満 500人以上+官公庁

(基準:ブルーカラー)

専門・技術・管理 事務

販売・サービス(グレー)

個人年収 週の労働時間

0.033†

0.036†

−0.005 0.006

−0.039*

−0.032 0.042†

0.032 0.022 0.150**

−0.086**

−0.016 0.039*

0.006 0.056**

0.014 0.025

−0.009 0.022

−0.012 0.108**

−0.086**

能力発揮 裁量性

0.360**

0.113**

調整済みR 2 F

0.019 7.103**

0.043 8.023**

0.200 37.345**

** : p<0.01, * : p<0.05, † : p<0.1

94 仕事満足度に対する産業の効果

(12)

まれるものとの比較も必要であるのは当然だが,本稿ではまず基本的な違いによる効果 を確認することに注視したい。この過程を踏まえたうえで,そのような観点については 稿を改めて検討する。

では,モデル

1

の結果に話を戻すとしよう。有意な効果を示しているものは,「電 気・ガス・熱供給・水道業」,「卸売業,小売業」,「学術研究,専門・技術サービス業」,

「生活関連サービス業,娯楽業」,「教育,学習支援業」,「医療,福祉」,「公務」である。

2

での産業別満足度の傾向をおおむね反映した結果となっている。

次にモデル

2

についてであるが,これはモデル

1

に労働者の基本的な属性(統制変 数),特徴(職業・雇用形態・企業規模)とそこから生じた労働の条件(年収・労働時 間)を独立変数として加えたものである。これらを投入したことで,モデル

1

で有意だ った産業の内過半数が有意ではなくなり,「教育,学習支援業」,「公務」についてもそ の影響は弱まっている。また,加えた変数の係数を確認すると,年齢が高くなるほど,

男性と比べて女性であると,ブルーカラー職と比べて専門・技術・管理職であると,年 収が高いほど,仕事満足度が高くなる傾向にあり,反対に勤め先の企業規模(従業員 数)が大きいことや労働時間が長くなると満足度を下げる作用がある。多くの産業効果 は,これらの変数によって複合的に説明されうるようだ。例えば,これまでの分析結果 を踏まえると,「学術研究,専門・技術サービス業」や「医療,福祉」の係数が大幅に 下がっている(0.033→0.001, 0.042→−0.003)原因の一部には,専門・技術・管理職の 効果があると推測できる。この

2

つの産業については,約半数が専門・技術・管理職と して働いており,満足度の値は他産業のそれと比べてそれほど高いわけではないのだ が,相対的にみてこの職業のプラスの影響を表していると考えられる。さらに,一般的 に専門・技術・管理職であることは他職業と比べて年収も高いことが多く,こういった 要素も関係しているのではないだろうか。

最後に,職務に対する評価意識の変数を加えたモデル

3

を確認しよう。新たに投入し た能力発揮,裁量性は強い影響を示しており,モデルの説明率も大幅に増加している

(調整済み

R 2

乗値:0.200)。職場で能力が発揮できていると感じる人や,仕事のペー スや内容を自身で決めることができていると感じる人は満足度が高くなるという傾向で あるが,この効果によって産業の影響が説明されるかというとそうでもなく,むしろ有 意な効果を示す産業(「電気・ガス・熱供給・水道業」,「宿泊業,飲食サービス業」)が 現れた。一方で,年齢,企業規模,職業の効果については有意でなくなり,それとは対 照的に非正規ダミーが強い影響を持つようになった。評価意識を加えることで,正規・

非正規の違いが明確となり仕事満足度に影響を与えるようである。ここで注目すべきは

「教育,学習支援業」,「公務」の

2

つの産業についてである。これらは,追加で投入し た変数によって多少効果に変化はあれど,仕事満足度に対して一定の影響力を持ってい

仕事満足度に対する産業の効果 95

(13)

る。言い換えると,「教育,学習支援業」,「公務」はその他の独立変数の影響を統制し ても作用しており,あくまで「農業,林業,漁業,鉱業」と比べてであるが,その効果 は満足度を高めるといった傾向である。したがって,産業分類の内のいくつかは仕事満 足度に直接的な影響を及ぼすということが明らかとなった。

さて,表

3

では産業に独立した影響がみられるのかについて確認してきたが,これは 条件付きの効果であった。つまり,ダミー変数による産業の効果だけでは,産業分類の ばらつきの程度を把握することができないということである。よって,産業というカテ ゴリー全体が仕事満足度に影響を及ぼしているのかについて考察するにはまだ十分でな い。次はこの点について分析するとしよう。

3-2.産業全体の影響

本稿の中心的な関心である産業による仕事満足度への影響を確認するためには,満足 度に対して産業の分類自体が影響を及ぼしているのか,それとも,労働の条件や職務に 対する評価意識が満足度に与える効果の程度について産業の違いが影響しているのか,

といったことを明らかにする必要がある。これは仕事満足度の線形モデルにおいて,産 業というカテゴリーは切片に影響しているのか,それとも傾きに影響しているのか,ま たその両方であるのかを考えることになる。このような問いを明らかにするため,仕事 満足度を従属変数とするマルチレベル・モデルによる分析を行った(9)。その結果が表

4

4 仕事満足度に対する産業全体の効果 モデル1

推定値

モデル2 推定値

モデル3 推定値

【固定効果】

切片 年齢 女性ダミー 教育年数 非正規ダミー

(基準:30人未満)

30-500人未満 500人以上+官公庁

(基準:ブルーカラー)

専門・技術・管理 事務

販売・サービス(グレー)

個人年収 週の労働時間 能力発揮 裁量性

4.048** 3.983**

−0.001 0.091**

0.002 0.123**

0.019 0.044

−0.010 0.053

−0.025 0.108**

−0.087**

0.467**

0.111**

3.992**

−0.001 0.086**

0.001 0.123**

0.018 0.044

−0.008 0.054

−0.030 0.105**

−0.085**

0.465**

0.099*

【ランダム効果】

切片 能力発揮 裁量性

0.022* 0.022* 0.023*

0.001 0.009 ** : p<0.01, * : p<0.05, † : p<0.1

96 仕事満足度に対する産業の効果

(14)

である(10)

まず,モデル

1

は独立変数を投入しない場合の切片に対する産業のランダム効果のみ を仮定したものであり,いわゆるヌルモデルである。切片のランダム効果(0.022)が 統計的に有意であることから,産業といったカテゴリーによる違いでの満足度のばらつ きは,大きくないが無視することもできないということがわかる。次にこのヌルモデル に対して,表

3

で用いた独立変数を加えたものがモデル

2

であるが,切片の変動への産 業の効果は残ったままであった。

そこで,切片だけでなく傾きにもランダム効果を導入したモデル

3

を確認してみよ う。ここで変動をみる傾きには能力発揮,裁量性を用いた。これにより,満足度に大き な影響を与えている要因に対して,産業分類が効果を持つのかどうかを検討することが できる。モデル

3

のランダム効果をみてみると,依然として切片への変動は残っている

(0.023)が,傾きの係数に対しては有意な結果を示さなかった。また表では割愛してい るが,能力発揮,裁量性と同様に,満足度に対して比較的強い影響を及ぼしていた個人 年収と週の労働時間の係数についても変動を確認したが,有意な結果は得られなかっ た。このことは,産業の分類によって満足度の平均値は異なるが,その満足度を説明す る変数に対しては効果を持たないということを表している。言い換えると,労働者につ いての研究において一般的に用いられている独立変数によって説明される(職業や雇用 形態,個人の属性などで統制されている)仕事満足度の回帰直線は,傾きがどうであれ 産業の違いによって切片が異なり,満足度が高い産業・低い産業が存在するのである。

これは次のようなことを意味しているのかもしれない。すなわち,産業というカテゴ リーは労働者の意識の面において,なんらかの階層性を持つということである。これは 驚くようなことでもないだろう。職業威信のように人びとにとって職業がヒエラルキカ ルな特徴を持つのと同様に,その職業の枠組みである産業に対してもこのような傾向が うかがえたのは不思議なことではない。ここで重要であるのは職業などから説明された 仕事満足度に対しても,その傾向が存在するということである。これは,表

1

で示した ような産業内による職業構成のみに左右されたものではなく,労働者たちが産業という カテゴリーをどのように認識しているのか,といったことが関係していると考えられ る。もちろん,労働者が産業をどのように捉えているかについては,その産業の特徴や そこで従事する人びとの仕事の性質にある程度規定されていることは言うまでもない が,満足度といった仕事に対する包括的な意識に対しては,そのカテゴリー自体が僅か にでも影響を及ぼしているのである。

さて,ここでマルチレベル・モデルによる分析結果から得られた,新たな課題につい て述べておくとしよう。この分析で明らかになったことは,産業というカテゴリーは切 片に直接的な効果を持つということであった。いくつかの独立変数についてはランダム

仕事満足度に対する産業の効果 97

(15)

効果の有無を確認したが有意ではなかったということからも,産業分類による切片のば らつきを説明するものが何かといったことまでは今回の分析で検討できていない。この ような点を分析するには,マクロレベル変数(例えば,各変数の産業ごとの平均値)を 加えることや,それと個人レベルの変数との交互作用効果を確認する作業が必要となる が,本稿ではそういったプロセスを経ていない。しかし,これにはいくつかの理由があ る。まず,傾きに対してランダム効果が確認できないもののマクロレベル変数を投入す ることの意味についてである。そもそも今回の分析で,能力発揮や裁量性といった変数 に産業分類の効果がみられなかったのは,仕事満足度という意識についての推定値に対 して変動を確認しているからであろう。つまり,個人の労働を表す職業分類や労働の条 件など,影響を及ぼすと考えられる変数を可能な限り統制している上での推定値である ため,産業分類による分散が相対的に弱まるのは当然である。そういった結果に対し て,産業効果としてマクロレベル変数を投入することはあまり建設的な方法でないよう に思われる。また,結果は割愛するが,試験的にいくつかのマクロレベル変数を固定効 果へ投入したが,やはり個人レベルの変数が効果を示すのみで,統計的に有意な結果は 得られなかった(11)。これが

1

つ目の理由である。

そして

2

つ目はマクロレベルに対する解釈についてである。一般的にマルチレベル・

モデルによる分析を行う際は,なんらかの仮説を基にマクロレベルを設定し,モデルの 検証を行う。この時,切片等にマクロレベルによるランダム効果がみられるならば,論 理的に関連があると考えられる(または,そう捉えることが妥当である)マクロレベル の変数を第

2

レベルの固定効果へ投入し,その効果は何であったのかということを解釈 している。こういった手続きは研究の目的やリサーチクエスチョンに依存しているが,

根本的にはマクロレベルによってネストされた個人に差異があるという考えを前提とし た検証である。それに対して,本稿の目的は一般的な仮説検証と水準が異なっており,

そもそも産業というものに効果はあるのか,といった根本的な問いからの検討である。

産業を構成する要素のどの部分が人びとの意識に影響を及ぼすのか,という点について は,これまでに十分な議論がなされていない現状があり,そういったなかでマクロレベ ルとして探索的に変数を用いる行為は,解釈の不透明さが増す可能性があると考えられ る。したがって,本稿では産業の効果をマクロレベルとして無理やり解釈するような手 順は避けることにした。

では,産業の影響をどのように解釈すればよいのであろうか。この問いに答えるに は,各産業の構造やその特徴をより詳細に描いていく他ないだろう。ここまでの分析結 果から,産業というカテゴリーは働く人びと全体に対して一定の影響を及ぼすことが確 認されたが,それは階層的な効果であると同時に,条件によっては産業ごとの特徴であ る可能性もうかがえた。こういった点について更に整理する必要があり,次節では個人

98 仕事満足度に対する産業の効果

(16)

の属性の違いを考慮に入れた分析を行うとしよう。具体的には,性別ごとに産業の主効 果について確認していく。労働の在り方が男女で異なっている現状に目を向けることに よって,産業の効果がどのように表れるのか注目したい。また,表

3

からもわかるよう に全体では,女性であるほうが仕事満足度は高く,産業効果と独立したものであるた め,この変数をコントロールした分析過程は産業についての丁寧な解釈に繋がるものだ といえるだろう。

4.性別による産業効果の違い

5

は性別ごとの仕事満足度に対する重回帰分析の結果である。男女ともにモデル

1

は産業分類のみを投入したものであり,そのモデル

1

に,これまでの分析で用いたすべ ての変数(女性ダミーを除く)を加えたものがモデル

2

である(基本的に表

3

と同様の 分析手順である)。

まず,男性の分析結果から確認しよう。モデル

1

では,「電気・ガス・熱供給・水道 業」,「教育,学習支援業」,「医療,福祉」,「公務」が有意な効果を示している。なかで も「電気・ガス・熱供給・水道業」,「医療,福祉」については男性においてのみ表れた 傾向であるが,他変数を加えたモデル

2

にでは,その効果が有意でなくなっている。満 足度に対して強い影響をもたらしているのは,表

3

と同様に年収,労働時間と能力発 揮,裁量性であり,これらによって有意であった

4

つの産業の効果はすべて弱まってい る。ただ,「電気・ガス・熱供給・水道業」については統計的に有意ではなくなったも のの,係数自体はほとんど下がっておらず(0.038→0.032),これらの追加変数だけでは 説明されえない要因があるのかもしれない。この産業については表

3

の結果において も,モデル

3

で再び有意な傾向を示すことからも独自の様子うかがえる。そして,男性 の全体的な傾向は表

3

の労働者全般についての傾向とおおむね同じような結果となっ た。

次に,女性のモデル

1

では「学術研究,専門・技術サービス業」,「生活関連サービス 業,娯楽業」,「教育,学習支援業」,「公務」の影響が確認された。先の男性のモデル

1

と比べてわかるように「学術研究,専門・技術サービス業」,「生活関連サービス業,娯 楽業」が女性特有の効果であり,表

3

のモデル

1

の結果は性別ごとの特徴を比較的綺麗 に表している(「卸売業,小売業」を除く)。それでは,モデル

2

はどのように変化する だろうか。まず目に付くのは,他変数を加えても産業の効果はあまり変わらないといっ た点である。なかには,係数が大きくなるものもあり,それは「宿泊業,飲食サービス 業」である(0.050→0.102)。この産業については,男性の「電気・ガス・熱供給・水道 業」のように女性独自の産業効果の可能性がある。また,男性の結果とは異なり,仕事

仕事満足度に対する産業の効果 99

(17)

満足度に強い影響をもたらす他の変数は労働時間と能力発揮,裁量性であり,女性の場 合は年収の効果が驚くほど弱い。収入が多いほど満足度が高まるといったロジックは女 性にはあてはまらず,仕事満足度の規定要因が微妙に異なるということは,仕事の捉え 方や求めているものが男性と違うといったことが考えられるのではないだろうか。裁量 性の係数が男性と比べて高いことも,この推測を多少裏付ける要素であろう。また,他 変数を加えても産業の効果は変化しないといった結果は多分な意味合いを含んでおり,

今後,個人の属性や労働の特性に左右されない産業そのものの効果として,さらに検討 が必要であることが再び示唆される結果だといえる。

このように性別ごとに仕事満足度に影響を与える要因が異なっており,そのなかでも 産業の効果がそれぞれ違うという結果は興味深いものであった。こうした内容は,産業

5 男女別・仕事満足度の規定要因

男性 女性

モデル1 β

モデル2 β

モデル1 β

モデル2 β

(基準:農業,林業,漁業,鉱業)

建設業 製造業

電気・ガス・熱供給・水道業 情報通信業

運輸業,郵便業 卸売業,小売業 金融業,保険業 不動産業,物品賃貸業

学術研究,専門・技術サービス業 宿泊業,飲食サービス業 生活関連サービス業,娯楽業 教育,学習支援業

医療,福祉 複合サービス事業

サービス業(他に分類されないもの)

公務(他に分類されるものを除く)

0.031

−0.006 0.038†

−0.006

−0.038 0.025 0.030

−0.010 0.009 0.000

−0.017 0.103**

0.062*

−0.002

−0.012 0.057*

0.026 0.007 0.032

−0.018

−0.028 0.025 0.009

−0.010

−0.021 0.013

−0.025 0.076**

0.035 0.006

−0.007 0.048†

−0.024

−0.027 0.024

−0.004 0.001 0.062 0.019

−0.003 0.068**

0.050 0.071*

0.138**

0.032

−0.006

−0.008 0.079**

−0.003 0.008 0.027

−0.018 0.005 0.072 0.018

−0.003 0.051†

0.102*

0.046 0.127**

0.076 0.002 0.003 0.077*

年齢 教育年数 非正規ダミー

(基準:30人未満)

30-500人未満 500人以上+官公庁

(基準:ブルーカラー)

専門・技術・管理 事務

販売・サービス(グレー)

個人年収 週の労働時間

−0.008

−0.017 0.051†

0.062**

0.040 0.013 0.019 0.009 0.118**

−0.085**

−0.017 0.035 0.049†

−0.036 0.020

−0.042 0.009

−0.038 0.041

−0.062*

能力発揮 裁量性

0.393**

0.092**

0.323**

0.130**

調整済みR 2 F

0.016 3.632**

0.223 23.920**

0.025 4.900**

0.174 15.910**

** : p<0.01, * : p<0.05, † : p<0.1

100 仕事満足度に対する産業の効果

(18)

の効果について議論する為の新たな視座を与えてくれるものである。

5.産業効果についての解釈の可能性

本稿では産業分類を基準とした効果について計量的なアプローチに取り組んできた。

仕事に対する満足度といった,労働者の視点から分析を進めることで何がみえてきたの か。ここで,分析結果ついて整理しておきたい。

①産業の分類によって仕事満足度に違いがみられた。具体的には「電気・ガス・熱供 給・水道業」,「教育,学習支援業」,「公務」で働く人びとは満足度が高く,反対に「運 輸業,郵便業」,「不動産業,物品賃貸業」の人びとは低い傾向であった。②満足度が高 い産業に属する人びとは,どのような職業であったとしても比較的満足度が高い傾向で あった。さらに各産業については職業構成比が異なるため,一般的な職業分類の効果と いうよりも産業の特徴である可能性がうかがえた。この点については満足度が低い産業 についても同様である。③満足度が高い産業については,その他の労働に関わる変数な どを統制しても,その効果が確認された。つまり「教育,学習支援業」,「公務」といっ た産業は,仕事満足度に対して独立した影響を及ぼしているのである。④労働者が産業 にネストされた構造であるとした場合,その職業や職務の性質,労働の条件などによっ て説明される満足度の線形モデルに対して,産業というカテゴリー全体が直接的な効果 を持つことが確認された。すなわち,仕事満足度は労働者個人の特性によって規定され ているが,その満足度自体について産業の分類による差異(階層性)が存在するという ことである。⑤仕事満足度に与える産業の効果は,男女でその傾向が異なっていた。特 に女性において産業の影響は顕著であり,労働者の特徴に還元されない要因の可能性が 示唆された。

本稿で明らかになったことは,「産業は労働者に対して『直接的』な影響をもたらし ている」ということである。そして,その影響は産業ごとの独自のものであるかもしれ ない。労働者にとっての産業は単なる経済的カテゴリーでなく,それ自体が人びとの認 識において階層性を有するものであり,どの産業に属しているかによって意識は変化す る可能性がある。これは,労働者の主観的な世界と産業が深く結びついていることを意 味しており,仕事満足度についての差異は確かに存在するのである。

では,このような産業の効果とは何か。これが今後の重要な課題となる。本稿におい ても職業構成比や性別といった要素を用いて産業の持つ特徴の一側面を考察したが,ま だ不十分であることは言うまでもない。産業は包括的な概念であるがゆえに,構造やそ れによる影響を解釈するには,さまざまなデータを精査する必要があるだろう。例え ば,産業別の男女比率や雇用形態比率,またそれに付随する平均年収や平均労働時間な

仕事満足度に対する産業の効果 101

(19)

どから特徴を描き,人びとの意識に影響をもたらたす可能性がある要因を整理できたな らば,再びマルチレベル・モデルにおいて切片を説明するものとしてクロスレベルの交 互作用項を投入する,というような詳細な分析についても解釈が可能になるかもしれな い。さらに,産業内の構造に注目するだけでなく,なぜそういった特徴を持つのか,と いう視点から産業間の関連性についての議論も不可欠になると考えられる。このよう に,「枠組みと状況」,「状況と意識」を繋ぐには,産業構造とそこで働く人びとの実態 を捉えていかなければならないだろう。

本稿で得られた知見は「枠組みと意識」の関係性についての一端である。だがそれ は,属する環境が人びとに影響を及ぼすということを示唆するものであり,産業という 労働の場が労働者の拠りどころになっているのかもしれない。

付記

本研究はJSPS科研費特別推進研究事業(課題番号25000001)に伴う成果の一つであり,本データ使用 にあたっては2015SSM調査データ管理委員会の許可を得た。

⑴ 代表的なものの1つとして,クラーク(1940)の研究が挙げられる。クラークは,産業を第一次,第 二次,第三次の3つに区分し,経済の発展につれて労働人口と所得水準は一次から二次,さらに三次 へとシフトすることを統計的に立証した。なお,本稿で述べている一次,二次,三次といった分類は クラークの定義が基礎となっている。

⑵ 現代経済学の基礎を築いたカール・マルクスは後者に該当し,類型的な把握を質的に行った先駆けで あるとされている。マルクスは自身の著書である『資本論』(1867)において,労働という概念を「意 識的に自然界に働きかけて有用な価値を形成する基本的な営為」として捉え,これを軸に社会におけ る人々の階級関係を論じた。この階級関係の背景には,当時の産業形態,つまり製造業を中心とした 第二次産業による生産関係が存在している。それは,資本や工場などの生産手段を所有し労働の価値 を受け取る資本家と,手段を所有していないため労働力を売る労働者といった関係であり,このよう な二者間の利害の対立が階級を規定している,というのがマルクスの理論における基本的な骨格であ る。この主張からもわかるように,19世紀においても人びとの働き方は産業のあり方と深く結びつい ている様がうかがえる。

⑶ ハーズバーグは労働者の動機づけ・衛生理論を提唱し,仕事に対して満足と感じる要因と不満足と感 じる要因は別のものである主張した。労働者に満足を与える要因は,仕事を通しての達成や承認,仕 事自体のおもしろさといったものが挙げられ,これらの欲求が向上し満たされることで満足を感じる という。しかし,これらが低下したところで不満足になるわけではなく,たんに満足を感じないだけ であるとも述べている。一方で,不満足を与える要因は給与や職場での対人関係,また労働条件など であり,これらが満たされないと不満足に陥るとされている。このように労働のモチベーション研究 においても,満足度といった労働者の意識は労働時間や賃金によって左右されるということが指摘さ れている。

⑷ 本稿では人びとの仕事に対する意識に注目しているが,産業分類がそれ以外の意識や価値観に影響を 与えるということも十分に考えられる。例えば,高田洋(2011)は社会参加と投票態度の関係を検討 するなかで,産業によって社会参加の程度が異なり,それは投票態度へも作用していることを計量的 分析から明らかにしている。

⑸ これらの質問項目は,「かなりあてはまる」から「あてはまらない」の4段階で尋ねられており,仕事

102 仕事満足度に対する産業の効果

(20)

満足度と同様の値の割り当てを行ったものを使用する。

⑹ 分類不能の産業というカテゴリーについては,本稿の分析では用いない。よって19分類の産業を扱 う。

⑺ 第一次産業従事者はブルーカラー職でないことには注意が必要である。これらは自然から直接資源を 採取する産業であり,ブルーカラー職とは異なる肉体労働者である。

⑻ 稲元洋輔・羽石寛寿(2012)は「運輸業,郵便業」のなかでも代表的なトラック運送業界における労 働環境について実態調査を行い,トラックドライバーの劣悪な労働状況を明らかにしている。また,

この背後には業界内の階層構造があると述べている。物流を総合的に管理する大手企業や荷主企業と,

実際にトラックを走らせる中小零細企業(ほとんどがドライバー職である)との関係は従属的であり,

こういった要因も本稿での職業による満足度の違いに影響を及ぼしている可能性がある。

⑼ マルチレベル・モデルは,通常の回帰分析における切片と傾きの係数に対して,マクロレベルの分類 による変動(ランダム効果)があるかどうかを分析するものである。このランダム効果が有意である ならば,マクロレベルによって変動があるということを意味している。また,本分析におけるマクロ レベルは産業分類を指している。

⑽ 回帰係数の変動を確認する独立変数については,グループ平均に基づくセンタリング(CWC)を行っ ている。また,このモデル3は次のように表記される。

Level 1:職務満足度=β0+β1年齢+…+β13能力発揮+β14裁量性+γ Level 2:β0=γ00+μ00

β13=γ13+μ13

β14=γ14+μ14

⑾ ただし,係数(推定値)の分散が有意でなくてもマルチレベルの変数とのクロスレベルの交互作用は 有意な効果を示す場合もある(三輪・林2014)。この点については稿を改めて検討する必要があるが,

本稿においては2つ目の理由からも切片の変動を説明する変数を投入しなかった。

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仕事満足度に対する産業の効果 103

参照

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