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魚類筋肉ミオグロビンのメト化率測定法の検討
井ノ原康太,
1尾上由季乃,
2木 村 郁 夫
1,2
(2014 年 11 月 13 日受付,2015 年 2 月 9 日受理)
1鹿児島大学大学院連合農学研究科,2鹿児島大学水産学部食品工学研究室
Method of measuring the ratio of metmyoglobin formation in ˆsh meat KOTAINOHARA,1 YUKINOONOUE2AND IKUOKIMURA1,2
1The United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, Korimoto, Kagoshima 890
0065,2Laboratory of Food Engineering, Faculty of Fisheries, Kagoshima University, Shimoarata, Kagoshima
8900056, Japan
The color of ˆsh meat is a major factor that in‰uences the purchasing decisions of consumers. In ˆsheries, a bright red color is a commercially important factor for raw ˆsh meat such as ordinary muscle of tuna and dark muscle of ˆsh for sashimi. The discoloration of meat from red to brown is induced by autoxidation of oxym-yoglobin to metmoxym-yoglobin. Previously, we reported that the method of Bitou for measuring the ratio of generated metMb in myoglobin contained in ordinary muscle of tuna was not applicable for amberjack Seroiola dumerili my-oglobin. Therefore, we suggested that for measuring the ratio of generated metMb, an individual method for each ˆsh myoglobin should be developed. In this study, we prepared puriˆed myoglobin from yellowtail Seriola quin-queradiata, spotted mackerel Scomber australasicus, chub mackerel Scomber japonicus, red seabream Chrysophrys majorand southern blueˆn tuna Thunnus maccoyi and then prepared deoxymyoglobin, oxymyoglobin and myoglobin. The wavelength of isosbestic point among visible spectra of deoxymyoglobin, oxymyoglobin and met-myoglobin and between visible spectra in theb peak of deoxymyoglobin and metmyoglobin were 523525 nm and 547549 nm. From these data, we developed a method for measuring the ratio of generated metmyoglobin in my-oglobin for each ˆsh.
キーワードゴマサバ,ブリ,マサバ,マダイ,ミオグロビン,ミナミマグロ,メト化率 魚肉の血合肉や赤身魚の普通肉の色調は刺身等の重要 な品質要因である。鮮度低下や-20°C のような温度帯 で保存した場合,色調が鮮やかな赤色から褐色に変化す る。この現象は,魚肉の血合肉や赤身魚の普通肉に多く 含まれる色素タンパク質ミオグロビン(Mb)のメト化 によるものである。Mb は,ポルフィン環に存在する鉄 原子の酸化還元や酸素との結合によりデオキシ Mb ( deoxyMb ), オ キ シ Mb ( oxyMb ) お よ び メ ト Mb (metMb)の 3 状態を呈す。deoxyMb は暗赤色であり 酸素が結合した oxyMb は鮮赤色を示すが,酸素の解離 とともに生成する metMb は褐色を示す。生体内では, metMb は還元反応によりに deoxyMb となるが,死後 の魚肉中では還元反応は停止するため metMb が蓄積 し,死後の経過時間とともに魚肉の色調が褐色に変化し 商品価値を失う。1,2) Mb のメト化抑制法としては-35°C 以下の超低温保 蔵が有効でありマグロ類の流通や冷凍保存に応用されて いるが,3)カンパチやブリなどの魚種では-20°C での流 通が一般的であり冷凍流通時の褐変が問題となってい る。著者らはマグロ Mb を用いたメト化抑制に関する 研 究 で生 体 内 エ ネ ルギ ー 物 質 の ア デ ノ シ ン 三 リ ン 酸 (ATP)が Mb のメト化を抑制することを報告した。4) さらに前報では,5)養殖カンパチで活きしめ後に行う海 水氷溶液中での冷却時間を調整して作製した ATP 濃度 の異なるフィレを-20°Cで保存したときのメト化の進 行を比較し,ATP 濃度が高いフィレでメト化の進行が 抑制されることを明らかにした。この研究では,5)Mb のメト化率測定法についてマグロ Mb のメト化率測定
法である尾藤法6)をカンパチ Mb に適用したところ,活 きしめ直後のサンプルでもメト化率が高い結果となった ため,カンパチ Mb のメト化率測定法について新たに 確 立 し た 。 精 製 Mb か ら deoxyMb, oxyMb お よ び metMb をそれぞれ調製し可視部吸収スペクトルを測定 したところ,尾藤法で使用している metMb の検出波長 における特性がマグロ Mb とカンパチ Mb で異なるこ とが明らかとなり,尾藤法はカンパチ Mb に応用でき ないことが示された。5)以上のことから,魚種により
deoxy 型,oxy 型,met 型の 3 種 Mb の可視部吸収スペ クトル特性の関係が異なることが推察されたので,魚種 ごとに Mb メト化率測定法の検討を行うこととした。 現在まで,魚類ミオグロビン(Mb)の自動酸化や構造 については多くの研究がなされており711)Mb の自動酸 化は魚肉の肉色に大きく関与することが明らかにされて いる。しかし,Mb の自動酸化を分析する簡易測定法に ついては,同一測定法で魚種ごとに比較検討した報告は 少ない。 本 研 究 で は ブ リ Seriola quinqueradiata , ゴ マ サ バ Scomber australasicus,マサバ Scomber japonicus,マダ イ Chrysophrys major , ミ ナ ミ マ グ ロ Thunnus maccoyi を対象とし,血合肉および普通肉(ミナミマグロ)から Mb を精製した後,deoxyMb, oxyMb および metMb を それぞれ調製し,これら三状態の Mb の可視部吸収ス ペクトル特性を測定することにより Mb メト化率を導 き出す式を求めた。また,精製 Mb から oxyMb を調製 後,加熱処理により経時的に metMb 濃度が異なるサン プルを調製し,これらのスペクトルから Mb のメト化 率を求め,本研究により確立した方法と尾藤法でそれぞ れ求められるメト化率の値の関係とその差異の要因につ いて検討した。 材料と方法 材料 ブリ(平均体重 4.34 kg),ゴマサバ(平均体 重 0.42 kg),マサバ(平均体重 0.55 kg),マダイ(平 均体重 2.0 kg)は,活きしめ処理した死後硬直前のもの を養殖場あるいは市場にて購入し実験に供した。これら の魚種では血合肉を材料として Mb を調製した。ミナ ミマグロは,延縄漁法で生きた状態で漁獲され船上で急 速凍結(-60°C)した冷凍品から,冷凍状態で柵取り したものを購入後実験に供するまで-80°C の冷凍庫で 保管した。このサンプルは急速解凍すると解凍硬直を示 した。ミナミマグロ Mb は普通肉から調製した。 精製 Mb の調製 魚類 Mb の調製はマグロ Mb の精 製法である落合らの方法4,5,12,13)に準じて行った。すなわ ち,細切した魚肉に 3 倍量の 0.1 M KCl20 mM Tris-HCl (pH 7.5)を添加しホモジナイズを行い,遠心分離 して上清を得た。この上清の 7090 飽和硫安画分を 沈殿として集め,これを抽出液と同じ緩衝液に透析し粗 ミオグロビン(cMb)溶液を得た。この cMb 溶液をフ ィルター(Minisart RC 15)で処理したろ液を落合らの 方法12)に準じ て 0.1 M KCl 20 mM Tris-HCl (pH 7.5)
で平衡化した Superdex 200 prep grade (GE Healthcare 製)を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行った。 Mb の検出は溶出液の 280 nm と 540 nm の吸光値を測 定して行った。Mb の純度と分子量は,SDSポリアク リルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)により分析 し た 。 SDS-PAGE は Laemmli の 方 法14)に 従 い 17.5 ポリアクリルアミドゲルを使用して行った。Mb の分子 量は分子量マーカー(アトー社製 AE1440)を使用し SDS-PAGE における移動距離から求めた。
deoxyMb, oxyMb, metMbの 調 製 Mb の メ ト 化 率 測 定 法 を 確 立 す る た め に , deoxyMb, oxyMb, metMb を調製し可視部吸収スペクトル特性の測定を前報と同様 に行った。5)すなわち,deoxyMb は精製 Mb 溶液(0.1 M KCl20 mM Tris-HCl, pH 7.5)にヒドロ亜硫酸ナト リウムを 13 添加して調製した。15)oxyMb は deox-yMb 溶液をスターラーで撹拌して調製したが,deox-yMbから oxyMb 調製時のオキシ化についてはそれぞれ の Mb の可視部吸収スペクトルの特徴から 540 nm にお ける吸光値を指標とし,この吸光値が deoxyMb の 556 nmにおける吸光値を越えた段階で oxyMb が生成した と判断した。metMb は泉本らの方法16)に準じて,精製 Mb 溶液にフェリシアン化カリウムを 3mM 添加して調 製した。可視部吸収スペクトルの測定は Mb のタンパ ク質濃度 0.11.0 mg/mL (0.1 M KCl 20 mM Tris-HCl, pH 7.5), 測 定 波 長 500 700 nm, 25 °C で Shimadzu UV1800 を用いて行った。 Mb タンパク質濃度の定量は,ウマミオグロビン(ナ カライテスク製)を標準タンパク質として使用しビウレ ット法により比色定量した。17) Mbの加熱処理 各魚種から調製した oxyMb を加熱 処理し可視部吸収スペクトル変化を測定した。oxyMb は精製 Mb (0.1 M KCl 20 mM Tris-HCl, pH 7.5, 0.5 mg/mL)から前記の方法で調製し,25°C で 1 h 加熱処 理を行った。加熱処理 2 min ごとに可視部吸収スペクト ルの測定を行った。 統計処理 各状態の Mb のスペクトルを様々なタン パク質濃度で測定した後,各スペクトルが交差する測定 波長を決定するために Student's t-test による有意差検 定を行った。 結 果 各 魚 種 Mb の 性 状 Figure 1 に 各 魚 種 Mb の SDS PAGE 像を示した。SDSPAGE より求めた各 Mb の分 子 量 は ブ リ ( 15,000 ), ゴ マ サ バ ( 14,800 ), マ サ バ
Fig. 1 SDS-PAGE pattern of various puriˆed Mbs. a: puriˆed yellowtail Mb, b: puriˆed spotted mackerel Mb, c: puriˆed chub mackerel Mb, d: puriˆed red sea-bream Mb, e: puriˆed southern blueˆn tuna Mb. M: molecular weight markers. a, b, c and d were prepared from dark muscle, e from ordinary muscle.
(14,800),マダイ(15,200),ミナミマグロ(15,200) であり,魚種により多少の違いはあるが約 15,000 を示 し た 。 Figure 2 に 各 魚 種 の deoxyMb, oxyMb お よ び metMb の可視部吸収スペクトルを示した。各魚種の Mb は典型的な 3 状態(deoxy-, oxy-, met-型)の可視部
吸収スペクトルを示した。5)これら 3 状態の Mb 可視部
吸収スペクトルはいずれの魚種でも等吸収点(isosbes-tic point, IS点 と 略 ) を 有 し た 。 IS 点 の 波 長 と deox-yMb, oxyMbの吸光値が交差する波長(A0)を Table 1
に示した。各魚種 Mb の IS 点の波長は 523525 nm で あり,Mb のメト化率 0 の指標として採用した deox-yMbと oxyMb が交差する波長(A0)は 547549 nm を
示した。 Mbメト化率測定法の検討 各魚種 Mb メト化率算出 式の検討は,前報5)に準じて行った。即ち,deoxyMb, oxyMb, metMb の可視部吸収スペクトルを測定し,3 状態の Mb が混在しても同一の吸光値を示す IS 点を基 準値としてメト化率算出式を導出した。各魚種の deox-yMb, oxyMbが交差する波長は 3 点を示したが,3 波長 のうち Mb メト化率 0 の指標となる吸光値は 540 nm 付近の値を選択した。(Fig. 2)これらのスペクトル特 性を応用し,Mb メト化率算出式を導出した。以下に本 研究で検討を行ったブリ Mb を例として説明する。ブ リの deoxyMb, oxyMb, metMb の可視部吸収スペクト ルを測定した結果を Fig. 2(a)に示した。IS 点の波長は 524 nm であった。deoxyMb と oxyMb のスペクトルは 548, 572, 588 nm の 3 波長で交差し,赤色の強さは 540 nm 付近の吸光値が反映されるので 548 nm の吸光値を 採用した。この 548 nm における吸光値を A0とした。 吸光値 A0は deoxyMb と oxyMb が同じ値を示す波長で の吸光値なので,deoxyMb と oxyMb が混在している メト化率 0 の状態を示す値である。IS 点の吸光値(B) と A0の吸光値比(A0/B)をメト化率 0 の値とした。 一 方 , メ ト 化 率 100 の 吸 光 値 比 は , metMb の 548 nmにおける吸光値(C)と IS 点である 524 nm の吸光 値(B)を用いて求めた(C/B)値とした。ブリ Mb の メト化率 0 の A0/B 値は 1.65±0.05(平均値±標準偏 差 , n = 39 ) を , メ ト 化 率 100 の C / B 値 は 0.65 ± 0.02(n=39)を示した。以上の結果よりブリ Mb のメ ト化率算出式(1)を得た。 metMb()=-99.70(A/B )+164.96 (1) な お , A 及 び B は Mb 溶 液 の A ( 548 nm ), B ( 524 nm)における吸光値である。 ゴマサバ,マサバ,マダイ,ミナミマグロについても Fig. 2 の 結 果 よ り 各 魚 種 Mb の deoxyMb と oxyMb の
スペクトルが交差する波長(A0)および IS 点の波長 (Table 1)における吸光値を求め,A0/B 値,C/B 値を 算出した結果を,Table 2 に示した。Table 1 および 2 の結果より各魚種 Mb のメト化率算出式を求め以下に 示した。 ゴマサバ metMb()=-98.53(A/B )+162.83 (2) な お , A 及 び B は Mb 溶 液 の A ( 547 nm ), B ( 524 nm)における吸光値である。 マサバ metMb()=-98.79(A/B)+164.87 (3) な お , A 及 び B は Mb 溶 液 の A ( 547 nm ), B ( 523 nm)における吸光値である。 マダイ metMb()=-100.09(A/B )+166.85 (4) な お , A 及 び B は Mb 溶 液 の A ( 549 nm ), B ( 525 nm)における吸光値である。 ミナミマグロ metMb()=-96.23(A/B )+162.79 (5) な お , A 及 び B は Mb 溶 液 の A ( 549 nm ), B ( 524 nm)における吸光値である。 本研究で確立した Mb メト化率測定法と尾藤法との 関係 前報5)では新たに確立したカンパチ Mb メト化率 測定法で得られる Mb メト化率の値と尾藤法を応用し て算出した値との関係について検討を行い,両方法によ り得られる値は異なるものの直線関係が認められること から尾藤法により算出した値から正しいメト化率に換算 が可能であることを明らかにした。本研究においても, 新たに確立した各魚種 Mb メト化率測定法で求められ るメト化率と尾藤法を応用して得られる値との関係につ
Fig. 2 Visible absorbance spectra of deoxyMb, oxyMb and metMb from dark muscle of yellowtail, spotted mackerel, chub erel and red seabream and from ordinary muscle of southern blueˆn tuna: (a) yellowtail, (b) spotted mackerel, (c) chub mack-erel, (d) red seabream, (e) southern blueˆn tuna. The visible absorbance spectra of deoxyMb (-), oxyMb (…) and metMb ()were measured. Protein concentration of Mb was measured as 0.25 mg/mL in 0.1 M KCl20 mM Tris-HCl (pH 7.5).
いて検討を行った。各魚種血合肉より調製した Mb の 濃度を 0.5 mg/mL に調整し,これにヒドロ亜硫酸ナト リウムを添加して deoxyMb とした後,スターラー撹拌 により oxyMb を調製した。この oxyMb を 25°C で加熱 処理した時の可視部吸収スペクトルの経時変化を測定し た結果を Fig. 3 に示した。加熱時間に対応して oxyMb のb ピークと a ピークが減少し metMb の生成が進行し た 。 精 製 Mb を 還 元 剤 や 酸 化 剤 で 処 理 し て 調 製 し た deoxyMb, oxyMb および metMb の可視部吸収スペクト ルから求められた IS 点の波長は,oxyMb の加熱処理で 生成した metMb と oxyMb の混合液においても同様に IS 点の波長として確認できた。Figure 3 のデータを用
Table 1 Wavelength of A0and isosbestic point measured in spectra of deoxyMb, oxyMb and metMb prepared from yellowtail,
spot-ted mackerel, chub mackerel, red seabream and southern blueˆn tuna
Yellowtail Spotted mackerel Chub mackerel Red seabream Southern blueˆn tuna Wavelength of A0(nm) 548 547 547 549 549
Wavelength of I.S. (nm) 524 524 523 525 524
A0means the wavelength at crossing of spectra of oxyMb and deoxyMb in theb peak of oxyMb. I.S., isosbestic point, means the wavelength at crossing of spectra of oxyMb, deoxyMb and metMb.
Table 2 The ratio of absorbance at A0and B (100 oxyMb) or C and B (100 metMb) of ˆsh Mb
Yellowtail
(n=39) Spotted mackerel(n=19) Chub mackerel(n=17) Red seabream(n=23) Southern blueˆn tuna(n=11) A0/B (100 oxyMb) 1.65±0.05 1.65±0.03 1.66±0.03 1.66±0.03 1.69±0.01
C/B (100 metMb) 0.65±0.02 0.63±0.02 0.65±0.02 0.66±0.05 0.65±0.02
A0is the absorbance of oxyMb at the wavelength of crossing of oxyMb and deoxyMb spectra as in Table 1.B is the absorbance at the wavelength of the isosbestic point. The ratio ofA0/B means 100 of oxyMb. C is the absorbance of metMb at the wavelength of crossing of oxyMb and deoxyMb spectra as in Table 1. The ratio ofC/B means 100 of metMb. Numbers show average value and standard deviation.
いて,本研究で確立した各魚種 Mb のメト化率算出式 で求めたメト化率の値と尾藤法を応用して得られた値と の関係を Fig. 4 に示した。ミナミマグロ以外の魚種で は,尾藤法を応用して求めた値はメト化率が低い範囲で 1519 ほど高い値を示す結果となった。一方,ミナミ マグロ Mb の場合は,(5)式で求めたメト化率と尾藤法 で得られるメト化率の値は,尾藤法で 37 ほど高い もののほぼ同じ値を示す結果となった。前報5)では,カ ンパチ Mb のメト化率について,尾藤法を応用して求 めた値と前報で確立したカンパチ Mb メト化率算出式 で得られるメト化率がほぼ直線関係を示すことから,尾 藤法を応用して求めた値から正確なメト化率に換算する ことが可能であることを示した。本研究でも各魚種 Mb のメト化率を算出するために尾藤法を応用して求めた値 について,本研究で確立した方法で求められる正確なメ ト化率に換算するための式を魚種ごとに求めることが可 能なので以下に示した。 ブリ metMb()=(A-17.10)/0.85 (6) ゴマサバ metMb()=(A-14.73)/0.96 (7) マサバ metMb()=(A-18.78)/0.83 (8) マダイ metMb()=(A-14.86)/0.86 (9) ミナミマグロ metMb()=(A-7.00)/0.94 (10) なお,A は尾藤法で求めた値である。換算式は Mb メ ト化率算出式と同様に各魚種間で異なる式を示す結果と なった。ミナミマグロの換算式(10)は,他の魚種の場 合に比べて尾藤法で求められる値との差が小さいことを 示した。 考 察 血合肉や赤身魚の普通肉の赤い色調は刺身等において 重要な商品指標である。これらの色調は,Mb の酸素結 合 状 態や 鉄 原 子 の 酸化 還 元 に よ り 影 響 を 受 け る た め,2)Mb が酸化した状態である metMb の存在比は色調 の重要な指標となる。魚類 Mb のメト化率測定方法と しては,マグロ Mb を対象とした尾藤法,6)カルボニル Mb と metMb を調製して求める佐野らの方法18,19),お よび畜肉 Mb のメト化率測定法20)を利用した方法など が報告されている。尾藤法に比べて他の方法は煩雑であ り一般的な品質分析への応用例は少ない。そのため,尾 藤法はマグロ Mb を対象としたメト化率の簡易測定法 であるが,マグロ以外の魚種の Mb のメト化率測定に 応用されてきた。2124)前報5)において,カンパチ Mb の メト化率の測定で尾藤法を応用して得られる値は,活き しめ直後の高鮮度状態でも 20 以上の高い値を示すこ とを認めた。その原因を濁りのない精製 Mb で検討し た と こ ろ , 尾 藤 法 で 採 用 さ れ て い る 波 長 の 503 nm (metMb の吸収極大波長として定義されている)におけ る metMb と oxyMb の吸光値比がマグロ Mb と大きく 異なるためであることを明らかにした。魚種により Mb のメト化率測定方法を検討する必要があることが示唆さ れたため,本研究ではゴマサバ,マサバ,マダイ,ブ リ,ミナミマグロを対象としてメト化率測定法の検討を 行った。各魚種の Mb から調製した oxyMb, deoxyMb, metMbの可視部吸収スペクトルはいずれも IS 点を有 し,この IS 点における吸収値を基準値としてメト化率 測定式(式 15)を導くことができた。各魚種 oxyMb の 加熱処理を行い尾藤法と本報告の方法で Mb メト化率
Fig. 3 Changes in visible absorbance spectra of puriˆed oxyMb during heat treatment at 25°C: (a) yellowtail, (b) spotted mack-erel, (c) chub mackmack-erel, (d) red seabream, (e) southern blueˆn tuna. The puriˆed oxyMb (0.5 mg/mL) from each ˆsh was treated at 25°C in 0.1 M KCl20 mM Tris-HCl (pH 7.5) solution. Measurement of the spectra was carried out every 2 minutes for 1 hour. Color lines show incubation time at 25°C.
Fig. 4 The relationship between data on the ratio of metMb calculated by the Bitou method and each scheme of (1)(5) from the spectra shown in Fig. 3. ○: Data of ratio of metMb calculated by each scheme of (1)(5), ●: Data of ratio of metMb calculated by the Bitou method. Scheme (1): scheme for yellowtail Mb, scheme (2): scheme for spotted mackerel Mb, Scheme (3): scheme for chub mackerel Mb, scheme (4): scheme for red seabream Mb, scheme (5): scheme for southern blue tuna Mb.
を測定した結果,oxyMb 調製直後において尾藤法で得 られる値が約 1519 高いことをミナミマグロ以外の 各魚種 Mb で確認した。(Fig. 4)Mb 溶液が清澄である にもかかわらず尾藤法で解析するとミナミマグロ以外の 魚種で高い値を示すが,この原因として尾藤法で採用し た 503 nm に お け る oxyMb と metMb の 吸 光 値 の 魚 種 特性が影響することが推察された。5)各魚種 Mb の可視 部吸収スペクトル測定結果(Fig. 2)より,503 nm に おける oxyMb と metMb の吸光値比(oxyMb/metMb)
を求め Table 3 に示した。ミナミマグロ Mb の吸光値比 は 0.59 と他魚種の吸光値比と大きく異なる結果となっ た。すなわち,マグロ以外の各魚種 Mb の 503 nm にお ける oxyMb の吸光値がマグロ Mb に比べて metMb の 吸光値に近い値を示しているので,尾藤法を応用すると metMb がほとんど生成していない場合でもメト化率が 高く算出される結果となることが明らかとなった。 また,本研究では近縁種であるゴマサバとマサバのメ ト化率算出式の関係について検討を行った。両魚種 Mb
Table 3 Ratio of the absorbance of oxymyoglobin and metmyoglobin at 503 nm Yellowtail (n=39) Spotted mackerel (n=19) Chub mackerel (n=17) Red seabream (n=23) Southern blueˆn tuna (n=11) 0.64±0.08 0.62±0.02 0.64±0.03 0.64±0.04 0.59±0.06
Numbers show average value and standard deviation.
Fig. 5 The relationship between schemes 2 and 3 for spotted mackerel and chub mackerel by using the data of changes in spectra of chub mackerel Mb shown in Fig. 3(c). ○: Data of ratio of metMb calculated by scheme 3 for chub mackerel Mb from Fig. 3(c), ●: Data of ratio of metMb calculated by scheme 2 for spotted mackerel Mb from Fig. 3(c).
の IS 点 は 524 nm と 523 nm と わ ず か な 差 を 示 し た が,両魚種の Mb メト化率算出式の(2)と(3)は非常に 近い算出式である。ゴマサバ Mb メト化率算出式(2)で マ サ バ Mb メ ト 化 率 を 算 出 し た 場 合 の 両 値 の 関 係 を Fig. 5 に示した。ゴマサバ Mb のメト化算出式を応用し て得られた値はマサバ Mb メト化率算出式で得られる 値とほぼ同じ値を示したので,マサバ Mb メト化率算 出式とゴマサバ Mb メト化率算出式は同じ式として扱 えることが明らかとなった。 また,尾藤法と本報告で確立した Mb メト化率算出 法の関係では,算出される Mb メト化率の両値はすべ ての魚種でほぼ直線関係を示したことから,尾藤法を応 用して算出した値から正確なメト化率を求める換算式も 得られた。マグロ Mb のメト化率測定法である尾藤法 を本研究で検討した各魚種の Mb に応用し算出したメ ト化率は,測定時の Mb 溶液に濁りが無ければ正確な 値に換算することが可能である。なお魚の普通肉や血合 肉から抽出した粗 Mb 溶液の清澄化法については,前 報で示した硫安分画法が簡便で効果的な方法である。5) 本研究で,魚種ごとに Mb メト化率測定法の構築が 必要であることが明らかとなった。マグロ Mb のメト 化率測定方法を最初に確立した佐野らは18)魚種が異な ると測定に使用するカルボニル Mb のa 極大の現れる 波長およびこの波長におけるカルボニル Mb と metMb の吸光係数が異なることを予測し,魚種毎にメト化率測 定法を検討しなくてはいけないことを指摘している。本 研 究 で は 各 魚 種 の metMb と oxyMb の 503 nm に お け る関係がそれぞれ異なる結果を得ているが,これは佐野 らが指摘したことに対応すると推察される。ヘム構造は 同一なのに oxyMb, deoxyMb, metMb の可視部吸収ス ペクトルやこれらスペクトルの関係が魚種により異なる 結果が得られることを説明するためには,ヘム構造とタ ンパク質との関係について検討が必要である。魚肉のヘ ムはヘム b であり,Mb のタンパク質とは非共有結合に より結合している。25)また,ヘムはその大きさから,巨 大な Mb 分子に埋まっている状態にある。しかも,Mb タンパク質は一酸化炭素や酸素分子などと結合するとき に形を変えることが明らかにされている。26)Mb メト化 率測定法が魚種ごとに異なる理由を明らかにするため に,魚種ごとの Mb タンパク質の構造特性とヘムとの 関係について今後検討を予定する。 水産物加工や鮮度保持技術の開発検討を行う際に,鮮 度状態や色調を数値として示すことは非常に重要であ る 。 現 在 , 赤 身 魚 の 重 要 魚 種 で あ る サ ン マ Cololabis saira , マ イ ワ シ Sardinops melanostictus , マ ア ジ Trachurus japonicusの Mb の メ ト 化 率 測 定 法 に つ い て,本研究と同様の方法で測定法を構築したので次に報 告を予定している。 謝 辞 本研究の一部は農林水産省「革新的技術緊急展開事業 (うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)」 および社団法人日本海事検定協会公益目的事業の補助を 受けたものである。 文 献 1) 木村郁夫.水産食品の鮮度と品質.マテリアルライフ 1993;5: 4551. 2) 杉本昌明.冷凍冷蔵中における水産物の色調変化.日本 コールドチェーン研究会誌「食品と低温」1986; 12: 137 142. 3) 岡o恵美子.ミオグロビンのメト化.「新版 食品冷凍技 術」(新版 食品冷凍技術編集委員会編)社団法人日本冷 凍空調学会,東京.2009; 8789.
4) Inohara K, Kimura I, Yuan C. Suppressive eŠect of ATP on autoxidation of tuna oxymyoglobin to metmyoglobin. Fish. Sci. 2013;79: 503511. 5) 井ノ原康太,黒木信介,尾上由季乃,濱田三喜夫,保 聖子,木村郁夫.筋肉内ATP による冷凍カンパチ血合 肉の褐変抑制.日本水産学会誌 2014; 80: 965972. 6) 尾藤方通.冷凍マグロ肉の肉色保持に関する研究1.冷 凍貯蔵中の変色と抽出液の吸光曲線との関係.日本水産 学会誌 1964; 30: 847857.
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