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全文

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上 顎 骨 延 長 に よ る 小 児 の 顎 変 形 症 治 療

― RED システムの術式と治療成績 ―

原 田   清

山梨大学医学部附属病院歯科口腔外科 要 旨:骨延長法は低侵襲であることから小児の顎変形症患者にも応用されているが,顎骨骨延長 を行った小児の治療成績については,いまだ十分な検討がなされていない。本稿では筆者が経験し た口唇裂口蓋裂に伴う上顎劣成長を有する患児の上顎骨延長についてその術式を概説し,CT 画像 上の変化,側貌硬組織・軟組織の形態変化,鼻咽腔閉鎖機能の変化等の治療成績を分析した。その 結果,延長部の骨形成は術後 6 ヶ月でほぼ終了し,同時期より顎態も安定する傾向がみられた。し かし術後長期では,下顎骨の成長変化に伴い,咬合が浅く不安定になる傾向が見られた。硬組織の 移動量は骨延長によらない従来の骨切り移動術より有意に大きいにもかかわらず,硬組織に対する 軟組織の移動比率は従来法と同等もしくはそれ以上の値を示した。鼻咽腔閉鎖機能については,上 顎骨延長量が 15 ㎜未満の小児および成人患者では悪化はなかったが,15 ㎜の延長を行った成人患 者では悪化がみられた。小児期はいまだ成長発育が残っていることから,トリートメントゴールを 定めることは難しいが,さらにより多くの症例検討に基づいた小児期の顎骨骨延長に関するガイド ラインの策定が望まれる。 キーワード 小児顎変形症,上顎骨延長,RED システム 緒  言 近年,顎変形症の治療にも骨延長法が応用さ れ,その治療侵襲が低いことから従来不可能と されていた小児や,変形の著しい患者にも治療 が可能となってきた。中でも口唇裂口蓋裂を有 する患者では,口唇および口蓋の形成手術の影 響から著しい上顎劣成長を呈する場合が多く, 上顎骨延長による形態ならびに咬合の改善治療 は,従来までの外科的矯正手術ではとうてい達 成できない効果をもたらすに至っている。しか し,この骨延長法で治療した顎変形症患者,な かでも小児顎変形症患者の骨延長に伴う機能や 形態の変化,術後長期の顎態や咬合の安定性な ど治療成績については,この治療法が導入され てからの歴史が浅いこともあり,いまだ検討不 十分と言わざるを得ない。

RED(rigid, external, distraction) システム は,シカゴの Polley,Figueroa ら1,2)によって 考案された上顎骨延長を行うための装置の 1 つ である。筆者は 1999 年にこの装置を本邦で初 めて導入3)して以来,RED システムを応用し て主に口唇裂口蓋裂を有する小児顎変形症患者 の上顎骨延長を実施してきた。本稿では,この RED システムによる上顎骨延長法の概略を述 べるとともに,同システムによって治療を行っ た患児の骨延長に伴う機能や形態の変化,なら びに術後比較的長期にわたる治療成績について 略説する。 山梨医科学誌 21(2),15 ∼ 25,2006 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 受付: 2006 年 7 月 21 日 受理: 2006 年 7 月 21 日

総  説

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RED システムによる上顎骨延長法 Ⅰ.装置 RED システム(ドイツ Martin 社製)は創外 固定型上顎骨延長装置で,固定源となる halo と骨延長スクリュウの付属するユニット,そし てそれらを連結するカーボンロッドから成る。 上顎骨を延長するときには上顎歯列に装着する traction hook と骨延長スクリュウとをワイヤ ーで連結して牽引する(図 1)。 Ⅱ.適応年齢 本システムを用いて上顎骨延長を行う場合の 患児の適応年齢については,装置が創外かつ口 腔外固定型であること,つまり halo を頭部に 固定することから,いわゆる乳幼児には適さな いと言われている。筆者が本システムを適用し た症例のうち,最年少の患児は 9 歳 6 ヶ月であ った。 Ⅲ.術式 A.上顎骨骨切り 頭部に halo を装着するため,経口挿管下で 手術を施行する。小児の場合は永久歯歯胚の損 傷を避けるため,また成人の場合でも整容的な 観点から,high Le Fort Ⅰ 型骨切り術に準じて 骨切りを行う(図 2)。 B.halo の固定 麻酔から覚醒する前に,4 本のスクリュウ (scalp screw)を用いて頭部に halo を固定する。

このとき,側頭骨の陥没骨折に注意する。 C.術後管理 術後約 5 日間は経管栄養。洗髪は術後 4 日目 より可とし,就寝時は特殊な枕などは使用せず, 通常通りとする。 D.上顎骨延長 1.骨延長の開始 骨延長は術後 2 ∼ 4 日目より開始する。骨延 長のペースは,原則的には朝夕で延長用 rod を 各 1 回転(0.5 mm)ずつ,1 日 1 mm で行うこ ととなっているが,装置上の延長距離と実際の 上顎骨の延長距離(前方移動量)との間にはか なりの差があるため,セファロ上での上顎骨の 移動量が 1 日 1 mm を越えないところまで,あ るいは患者が骨延長中に疼痛を訴えないところ までペースアップする方が治療期間を短縮でき る。なお,延長方向は上顎の咬合平面に平行, もしくはそれよりも若干前下方になるように設 定する(図 1)。 2.骨延長比(実際の上顎骨延長量/装置上の 延長量)について 1 でも述べたように,本システムの特徴の一 つとして,装置上の延長距離と実際の上顎骨の 延長距離(前方移動量)との間にかなりの差が ある点が挙げられる。筆者が本システムによる 上顎骨延長を行った患者のうち,完全唇顎口蓋 裂(片側・両側)を有する患者 10 名の骨延長 比(実際の上顎骨延長量/装置上の延長量)は 平均 0.24 であった4)。つまり,完全唇顎口蓋裂 を有する患者の上顎骨延長を行う場合,RED システム上の延長距離は,実際に予定している 上顎骨の前方移動量の約 4 倍を要するというこ とになる。 3.halo の除去および保定

図 1. RED システムの概要(a : halo,b :骨 延 長 ユ ニ ッ ト , c : カ ー ボ ン ロ ッ ド , d : traction hook,矢印:延長方向)。

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halo の除去は骨延長終了後約 4 週で行う。 halo 固定用の頭部のスクリュー(scalp screw) を除去する際には,スプレー式の表面麻酔剤を 使用する。筆者が本システムを適用した症例の うち,スクリュー除去時の疼痛が強いために外 来でスクリュー除去ができなかった患児は今ま でのところいない。スクリュー除去創はポピド ンヨードで消毒し,開放創として経過観察する。 同創部は 2 ∼ 3 日で痂皮が形成されるため,洗 髪はスクリュウ除去後 4 日目から可とする。ス クリュー除去創は約 1 週間で治癒するが,最終 的には alopecia となる。halo 除去後は,矯正 治療に用いられるマスクタイプの上顎前方牽引 装置をリテーナーとして装着する(3 ∼ 6 ヶ月 間)。 治療成績 Ⅰ.CT および三次元 CT 画像上の変化3) A.CT 画像(図 3) halo 除去直後では,骨切りが行われ延長さ れた翼突上顎縫合部に若干の骨様不透過像が観 察されたが,術後 6 ヶ月で同部はそのほとんど が骨様不透過像で満たされ,その後,術後 1 年 まで大きな変化は観察されなかった。 B.三次元 CT 画像(図 4) halo 除去直後では,骨切りの行われた上顎 洞前壁部に骨延長に伴う段差が著名に観察され たが,同段差は経時的に平坦化する傾向がみら れた。 Ⅱ.側貌硬組織の変化5) 本システムによる上顎骨延長を行った唇顎口 蓋裂を有する患児 8 名の側貌硬組織の変化を, 図 5A に示す頭部 X 線規格写真上の各基準点の 位置変化として分析したところ,結果は以下の 如くであった。 A.上顎の骨格性の術後変化(ANS [anterior nasal spine :前鼻棘] の変化)(図 6) 上顎骨延長後は上下的には比較的安定してい たが,前後的には術後 6 ヶ月まで徐々に後方へ と変化し,術後 6 ヶ月以降で安定する傾向がみ られた。この後方への変化の割合,つまり骨延 17 上顎骨延長による小児の顎変形症治療

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図 3. CT 画像の経時的変化(A :術前,B :術後 2 ヶ月,C :術後 6 ヶ月)。

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長に伴う上顎骨の前方移動量に対する,延長後 の 後 方 へ の 変 化 量 の 割 合 を 平 均 す る と , 約 20 %であった。なお,骨格性の変化が術後 6 ヶ月以降で安定するという結果は,延長された 翼突上顎縫合部が術後 6 ヶ月に骨様不透過像で 満たされていたという CT 画像所見と一致して いた。一方術後長期の変化では,前後的には比 較的安定しているのに対して,上下的には徐々 に下方へ変化する傾向がみられた。 B.下顎の骨格性の術後変化(Pog[pogonion] の変化)(図 7) 上顎骨延長後比較的短期の術後 6 ∼ 12 ヶ月 までは,前後的にも上下的にも変化に一定した 傾向は観察されなかったが,前後的には術後 12 ヶ月以降より前方に,上下的には術後 6 ヶ 月以降より下方へ変化する傾向がみられた。な お,この Pog の下方への変化量は,1)で述べ た ANS の下方への変化量よりも大きく,下顎 の下方への変化が上顎の下方への変化のみで生 じているわけではないことが示唆された。 C.上 顎 お よ び 下 顎 の 歯 性 の 術 後 変 化 ( U 1

[upper incisors]および L1[lower incisors] の変化) U1 の変化は ANS の変化とほぼ連動してお り,術後長期では下方へ変化する傾向がみられ た。L1 の変化は Pog の変化とほぼ連動してお り,術後長期では前下方へ変化する傾向がみら れた。また L1 の下方への変化量は,U1 の下方 への変化量よりも大きかった。 D.水平被蓋(OJ[overjet])および垂直被蓋 (OB[overbite])の術後変化(図 8) 術後短期では OJ ・ OB 両者の変化に一定し 19 上顎骨延長による小児の顎変形症治療

図 5. A :硬組織セファログラム計測点(N: nasion,ANS: anterior nasal spine[前鼻棘],U1: upper in-cisors, L1: lower inin-cisors, Pog: pogonion,X : X 座標,Y : Y 座標)。

B :安静時側貌セファログラム上の鼻咽腔計測点(N: nasion,ANS: anterior nasal spine[前鼻棘], PNS: posterior nasal spine[後鼻棘],Uv: uvula[口蓋垂点],PPW: posterior pharyngeal wall [咽頭後壁点],X : X 座標,Y : Y 座標)。

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た傾向は観察されなかったが,術後長期では両 者ともに減少する傾向がみられた。 Ⅲ.側貌軟組織の変化6) 本システムによる上顎骨延長を行った唇顎口 蓋裂の患児 6 名の側貌軟組織の変化を,骨延長 によらない従来法の一期的上顎骨前方移動を行 った成人 9 名の唇顎口蓋裂患者と比較した。成 人と小児の違いはあるが,側貌セファロ上で上 顎骨の移動量に対する中顔面軟組織の変化量の 割合(軟組織追随率[軟組織移動量/上顎骨移 動量])を計算すると,鼻下点の前後的な追随 率の平均値は,従来法で手術を行った成人では 約 60 %であったのに対し,上顎骨延長を行っ た患児では約 80 %であった。鼻尖点の前後的 な追随率は上顎骨延長と従来法とでほぼ同等で 60 %弱であった。 Ⅳ.鼻咽腔閉鎖機能の変化7) 本システムによる上顎骨延長を行った唇顎口 蓋裂の患児 4 名と成人患者 2 名の鼻咽腔閉鎖機 能の変化を検討した。各患者に対して,術後 1 年以上経過した時点での術前術後の安静時側貌 セファログラム上の計測8)(図 5B)と,言語治 療士による開鼻声判定の評価を行った。 A.安静時側貌セファログラム上の計測結果 (表 1)

全患者で,posterior nasal spine(PNS :後 鼻 棘 ) か ら 口 蓋 垂 先 端 ま で の 距 離 に 対 す る PNS から咽頭後壁( PPW : posterior

pharyn-図 6. ANS の変化(X-axis:X 座標上の変化,Y-axis : Y 座標上の 変化,Pre:術前,halo removal: halo 除去直後[術後約 2 ヶ 月],3M :術後 3 ヶ月,6M :術後 6 ヶ月,12M :術後 1 年,24M :術後 2 年,36M :術後 3 年)。

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geal wall)までの距離の割合(need ratio)は 増大していた。つまり,鼻咽腔の距離計測の結 果からは上顎骨延長はその閉鎖に不利な状況を もたらすことが示唆された。 B.言語治療士による開鼻声判定結果(表 2) A の結果がそのまま反映されることはなく, 患児と成人患者 1 名の開鼻声評価は術前後で不 変であった。ただし,開鼻声評価が不変であっ た患者の上顎骨延長量(前方移動量)はいずれ も 15 mm 未満であったのに対して,15 mm の 上顎骨延長を行った成人患者では術後に開鼻声 の悪化がみられた。 ま と め Ⅰ.RED システムの利点・問題点 小児に限らないが,RED システムによる上 顎骨延長の利点および問題点としては,以下の ようなことが考えられる。 A.利点 1.創内外の交通がなく,感染のリスクが低 い。 2.上顎骨延長中に延長方向の修正が可能で ある。 3.装置にトラブルが生じた時の対処が非観 血的に行える。 B.問題点 21 上顎骨延長による小児の顎変形症治療

図 7. Pog の変化(X-axis:X 座標上の変化,Y-axis : Y 座標上の 変化,Pre:術前,halo removal: halo 除去直後[術後約 2 ヶ 月],3M :術後 3 ヶ月,6M :術後 6 ヶ月,12M :術後 1 年,24M :術後 2 年,36M :術後 3 年)。

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1.装置が第三者から容易に見える。 2.固定源を歯列に求めているため,歯に負 担がかかりやすい。 3.頭部スクリュウ痕が alopecia になる。 Ⅱ.RED システムによる小児の上顎骨延長の 治療成績 筆者が経験した小児の症例でその治療成績を まとめると,以下の如くである。 A.形態および咬合状態の変化について CT 画像上,骨格的には術後 6 ヶ月で上顎骨 延長部の骨形成が観察された。しかし術後長期 では,上顎については下方への成長変化が,下 顎については前下方への成長変化が観察され, 概して前歯部の被蓋が浅く,不安定になる傾向 が見られた。軟組織の変化では,上顎骨延長の 方が従来の一期的な移動手術時よりも硬組織の 移動に対する軟組織の移動比率が大きく,形態 の改善効果が高いことが示唆された。しかし, 鼻尖の移動比率は両者でほぼ同等であったこと から,上顎骨延長を行うと鼻は平坦化する傾向 があると考えられた。 B. 鼻咽腔閉鎖機能の変化について 安静時側貌セファログラム上の計測では,上 顎骨延長を行うと鼻咽腔閉鎖に不利になる結果 を呈していたが,実際に開鼻声が悪化した患児 はいなかった。しかし,成人を含め開鼻声評価 で変化の無かった患者の骨延長による上顎の前 方移動量は 15 mm 未満であったのに対して, 図 8. 水平被蓋(OJ[overjet])・垂直被蓋(OB[overbite]) の変化(Pre: 術前,halo removal: halo 除去直後[術後約 2 ヶ月],3M :術後 3 ヶ月,6M :術後 6 ヶ月,12M :術 後 1 年,24M :術後 2 年,36M :術後 3 年)。

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15 mm の上顎骨延長を行った成人患者では術 後に開鼻声が“悪化”と判定された。 Ⅲ.RED システムによる小児の上顎骨延長の 今後の課題 骨延長治療全般にいえることであるが,治療 期間が長期に及ぶことが骨延長法の最大の欠点 である。治療の負担を長期に強いるということ は,とくにその対象患者が小児となると,精神 発育にも影響をもたらす可能性がある。骨延長 治療を可及的に短縮する方法として,延長中あ るいは延長後に超音波を患部に照射したり,微 少電流を延長部に流すなどいくつかの試みがな されてはいるが,いずれも抜本的な治療期間短 縮法にはなっていない。また実験的に骨形成因 子(BMP: bone morphogenetic protein)を応 用して骨延長部の骨化を促進したとの報告がな されている9,10)が,臨床応用には直結していな い。よって,骨延長治療の期間短縮化は今後の 最大の課題といえる。 また,小児の場合は発育があるため,劣成長 23 上顎骨延長による小児の顎変形症治療 表 1.安静時側貌セファログラム上の鼻咽腔計測結果

症例番号(延長量 ㎜) PPW-PNS PNS-Uv need ratio (mm) (mm) (PPW-PNS/PNS-Uv) 術前 24.2 31.4 0.77 Ⅰ(13.0) 術後 32.2 34.5 0.93 術前 24.5 27.0 0.91 Ⅱ(7.4) 術後 32.0 33.5 0.96 術前 17.5 28.0 0.63 Ⅲ(14.6) 術後 31.5 32.8 0.96 術前 22.3 32.0 0.70 Ⅳ(8.3) 術後 30.2 41.8 0.72 術前 26.3 36.5 0.72 Ⅴ(12.0) 術後 35.2 38.1 0.92 術前 29.1 24.2 1.20 Ⅵ(15.0) 術後 41.2 24.0 1.72

Ⅰ∼Ⅳ:小児症例,Ⅴ,Ⅵ:成人症例,ANS : anterior nasal spine(前鼻棘), PNS : posterior nasal spine(後鼻棘),Uv : uvula (口蓋垂点),PPW : poste-rior pharyngeal wall(咽頭後壁点).

表 2.言語治療士による開鼻声判定結果 症例番号(延長量 mm) 術前 術後 判定結果 Ⅰ(13.0) − − 不変 Ⅱ(7.4) ± ± 不変 Ⅲ(14.6) − − 不変 Ⅳ(8.3) − − 不変 Ⅴ (12.0) ± ± 不変 Ⅵ(15.0) + ++ 悪化 Ⅰ∼Ⅳ:小児症例,Ⅴ,Ⅵ: 成人症例,(−):開鼻声なし,(±):軽度 開鼻声あり,(+):明らかに開鼻声あり,(++):著しい開鼻声あり.

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の上顎を骨延長して下顎に catch up させたと しても,その後の下顎の発育によって再び下顎 前突症を生じる可能性がある。つまり,小児に おける上顎骨延長のトリートメントゴールをど こに設定するかが問題となる。しかし,下顎の 発育を想定して成人の顎態に合わせた上顎骨延 長を小児期に行うことが果たしてベストといえ るであろうか。想像するに,成人の顎態に合わ せて患児の上顎骨を前方移動させてしまうと, 患児にとっては上顎骨が過剰に前方位となるた め,その後の咬合や咀嚼機能にはむしろ支障が 生じるであろう。咬合・咀嚼機能に支障が生じ ると,それらを起因とする顎変形症が新たに発 症する可能性も考えられる。一方,患児の下顎 に catch up させる上顎骨延長であれば,治療 時点での患児の咬合・咀嚼機能は改善され,咬 合・咀嚼機能の改善がその後の患児の下顎の発 育を制御する可能性があると考えられる。この 点も今後症例数を増やして検討すべき事項であ る。 さらに,骨延長による上顎骨の前方移動量が ある閾値を越えると鼻咽腔閉鎖機能が悪化する 可能性が示唆された。筆者が経験した症例では その閾値は 15 mm 程度と考えられたが,文献 的にも 15 mm を超える上顎骨延長を行った患 者で開鼻声判定が悪化したとの結果が報告され ており11),予定上顎骨延長量が 15 mm 以上の 場合を,術後の鼻咽腔閉鎖機能に注意を要する 一つの目安とすべきではないかと考えられた。 おわりに まだ成長発育の残っている小児期での上顎骨 延長法には,本稿で述べた如くさまざまな問題 が山積しているが,従来までは成長期が終わる まで適用できなかった顔貌や咬合・咀嚼機能の 積極的改善治療が小児期でも可能になったこと は骨延長法の最大の功績であり,患児に対する 利益は種々の問題点を凌駕してなお余りあるも のと考えられる。今後多施設でより多くの症例 を検討し,その結果に基づいた小児期の顎骨骨 延長に関するガイドラインの策定が望まれる。 文  献

1) Polley JW, Figueroa AA: Management of severe maxillary deficiency in childhood and adoles-cence through distraction osteogenesis with an external, adjustable, rigid distraction device. J Craniofac Surg 8: 181–185, 1997.

2) Polley JW, Figueroa AA: Rigid external distrac-tion: Its application in cleft maxillary deformi-ties. Plast Reconstr Surg 102: 1360–1372, 1998. 3) Harada K, Baba Y, Ohyama K, Enomoto S:

Maxil-lary distraction osteogenesis for cleft lip and palate children using an external, adjustable, rigid distraction device: A report of 2 cases. J Oral Maxillofac Surg 59: 1492–6, 2001.

4) Harada K, Sato M, Omura K: Maxillary distrac-tion in patients with cleft deformity using a rigid external distraction device: A pilot study on the distraction ratio of the maxilla to the device. Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg 38(5): 277–280, 2004.

5) Harada K, Sato M, Omura K: Long-term maxillo-mandibular skeletal and dental changes in chil-dren with cleft lip and palate after maxillary dis-traction. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 2006 (in press).

6) Harada K, Baba Y, Ohyama K, Omura K: Soft tis-sue profile changes of the midface in patients with cleft lip and palate following maxillary dis-traction osteogenesis: A preliminary study. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 94: 673–677, 2002. 7) Harada K, Ishii Y, Ishii M, Imaizumi F, Mibu M,

Omura K: Effect of maxillary distraction osteoge-nesis on velopharyngeal function: A pilot study. Oral Surgery Oral Medicine Oral Pathology 93: 538–543, 2002.

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9) Yonezawa H, Harada K, Yamashita Y, Enomoto S: Effect of recombinant human bone morpho-genetic protein-2 (rhBMP-2) on distraction os-teogenesis: An experimental study in rabbit mandible. Asian J Oral and Maxillofac Surg

13(1): 1–10, 2001.

10) Yonezawa H, Harada K, Ikebe T, Shinohara M, Enomoto S: Effect of recombinant human bone morphogenetic protein-2 (rhBMP-2) on distrac-tion osteogenesis: A preliminary study in rabbit mandible. J Cranio-Maxillofac Surg 34: 270–276, 2006.

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11) Ko EW, Figueroa AA, Guyette TW, Polley JW, Law WR: Velopharyngeal changes after maxillary advancement in cleft patients with distraction

os-teogenesis using a rigid external distraction de-vice: A 1-year cephalometric follow-up. J Cranio-fac Surg 10: 312–20, 1999.

25 上顎骨延長による小児の顎変形症治療

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