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日本臨床麻酔学会 vol.37

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Academic year: 2021

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著者連絡先 加藤 愼 〒 231︲0007 神奈川県横浜市中区弁天通 2︲21 アトム関内ビル 3 階 加藤法律事務所 *加藤法律事務所 因究明に関するモデル事業(2005 年)が先行してい たことを考えると,かれこれ 10 年近い年月をかけ てできた制度といえる.この約 10 年間の間には医 療安全に関する現場の組織や制度,さらには意識も 大きく変化したことは今さらいうまでもない.また, この間にはいくつかの刑事事件化した医療事故も報 道され,訴訟では責任が否定されたものもあるとは いえ1),患者側の医療に対する責任追及を改めて意 識させる結果となり,医療側との間の緊張関係を高 めることにもなった.  こうした背景もあり,医療事故調についてもこの Ⅰ 医療事故調査制度の開始  2014 年(平成 26 年)6 月に成立した改正医療法に 基づいて,翌 2015 年 10 月より,医療事故調査制度 (以下「医療事故調」)がスタートした.この法案を 提出した厚生労働省によれば,この制度は 2013 年 に取りまとめられた「医療事故にかかる調査の仕組 み等あり方検討会」の結論を踏まえて法制化された ものと説明されているが,これを遡ること 6 年あま り,2007 年には同省で「死因究明などのあり方に 関する検討会」が始まっており,しかもこれには死 日本臨床麻酔学会第 35 回大会シンポジウム 日臨麻会誌 Vol.37 No.2, 243 〜 251, 2017 医療法改正による院内事故調査委員会の在り方・進め方・問題点を考える

医療事故調査制度の課題

─新たな「医療事故」の概念について─

加藤 愼

[要旨]医療事故調査制度(以下「医療事故調」)は,2014 年 6 月に成立した改正医療法で設置され, 医療の安全を確保し,医療事故の再発防止を図ることを目的とすると位置付けられている.この制 度はその後 2015 年 10 月より施行され,既に 1 年余りが経過するに至った(2017 年 1 月現在). この 1 年間の統計的な数値については,毎月更新されながら開示されており,全国での実施状況 を窺い知ることができるが,それを見る限り,事故調査の現場となるべき医療機関や,その調査対 象となりうる臨床医の制度に対する理解が深まり,制度が軌道に乗っているとは言い難い状況にあ る.また,既に施行されているにもかかわらず,医療事故調査制度のあり方に関する議論や,運用 上の疑問に関する検討も収束しているとはいえない.医療事故調に関する課題は,医療事故自体の 定義に始まり,調査の手順,報告書のあり方等多岐にわたっている.そんな中で,本稿は,臨床医 である麻酔科医が日常の診療の中で知っておくべき基礎知識として,医療事故調の対象となるべき 「医療事故」とは何か,またこの制度によって臨床の現場にどのような影響があるかを考える.日 常の診療において医療事故調に惑わされたり煩わされたりすることなく,麻酔科医として医療を提 供する一助となれば幸いである. キーワード:医療事故調査制度,医療事故

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244 日臨麻会誌 Vol.37 No.2/Mar. 2017 制度と法的責任の関係については,法制化における さまざまな議論を経た後に「法的責任」とは切り離 された制度として位置付けられている2)とされてい る.  本稿も,医療事故調は医療行為の法的責任を追及 するための制度ではなく,あくまで患者の死因を究 明し(原因究明),それを通じて再発防止を図るため の制度であることを前提に進める. Ⅱ 医療事故調の概要 1. 医療事故とは  医療事故調の手続は,改正医療法 6 条の 11 に定 められた,「病院等の管理者は,医療事故が発生し た場合には,厚生労働省令で定めるところにより, 速やかにその原因を明らかにするために必要な調査 を行わなければならない.」という規定に尽きると いってよい.つまり,医療事故が発生した場合,医 療機関の管理者(通常は院長を指す)には速やかに原 因を明らかにするための調査を行うことが義務付け られることになった.  では,ここでいう「医療事故」とは何か? 同じ く改正医療法 6 条の 10 では医療事故について,「当 該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起 因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であっ て,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかっ たものとして厚生労働省令で定めるもの」と定義し ている.すなわち,医療事故調の対象となる医療事 故とは, ① 医療従事者が提供した医療に起因する(または起 因すると疑われる) ②管理者が予期しなかった ③死亡(または死産) を指している.  これらの各要件については後述するが,ここで重 要なことは,医療事故の定義の中には「過失」「過誤」 といった医療従事者のミスが含まれていないことに ある.既に説明したとおり,法制化された医療事故 調は法的責任の追及とは切り離された原因究明によ る再発防止を目的とした制度と位置付けられてい る.したがって,その対象はあくまで「医療の提供 に起因する予期せぬ死亡」とされているのである.  さて,敢えてここでいうまでもなく,社会におい てはこれまで「医療事故」といえば,医療行為によ って偶発的に生じた結果(死亡,後遺障害の残存, 治療の遷延等のいわば「悪しき結果」)に基づく紛争 やクレームを指してきた.そこでは常に医療機関や 医療者の責任が問われており,その現状は今も変わ りない.となると,改正医療法が施行されることで, 社会に 2 つの「医療事故」が存在することとなる. 1 つは従来の紛争を指し,もう 1 つは改正医療法で 調査の対象となる事象である.前者はほとんどの場 合に責任追及(あるいは責任の有無の確認)を目的と し,後者は責任とは切り離された原因究明と再発防 止を目的とする.極めてわかりにくい制度3)の誕生 と言わざるを得ない.  このため,医療に従事する人間としては,かかる 2 つの「医療事故」をきちんと分けて認識すること が求められている.臨床の現場において「医療事故」 が話題になった場合,上記のどちらの話なのかを常 に意識しておかないと,議論がすれ違ったり,間違 った方向へ行きかねないからである. 2. 医療事故調の手続  医療事故調の手続の流れを図示すれば図 1 のとお りである.引用した図以外にも,さまざまな機関, 団体が説明しているところであり,本稿ではこれを 繰り返さない.  この図のとおり,今回の医療事故調の特徴は,院 内調査と院外調査の「2 つ(2 段階)の事故調査」に ある.すなわち,調査の対象となる「医療事故」が 発生した場合,医療機関は遺族にその旨を説明する と共に医療事故調査・支援センター(以下「支援セ ンター」)へ報告し,まずは院内での事故調査を行う (院内調査).院内調査が終了した場合,その結果を 遺族に説明し,また支援センターに報告をする.医

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療機関として明確な死因の究明ができ,その説明に 遺族も理解・納得すればこれで手続は終了する.し かし,調査の結果が不十分であると遺族が考えた場 合,あるいは医療機関としても調査が十分でないと 判断した場合等には遺族または医療機関から支援セ ンターに対し調査の依頼をすることができる.この 場合,支援センターは自ら原因究明のための調査を 行う(院外調査).そして,その結果が遺族及び医療 機関に対して報告される.このような 2 段階方式の 事故調査の手続が今回の医療事故調の特色である. これまでも,麻酔事故のように手術中の病態急変等 があった場合に院内で調査委員会を開催し,原因を 検討する体制が取られている病院も多かったが,今 後,自ら携わった医療がこの医療事故調の対象とな った場合には,院内で行われる事故調査だけでなく, 支援センターで行われる院外の事故調査に移行する 可能性があることを常に認識しておく必要がある.  ところで,院内調査に満足せず,院外調査へ進む に際しては,遺族,医療機関共にこれを支援センタ ーへ依頼することができるが,そもそも医療事故調 にかかるかどうか,すなわち改正医療法にいう「医 療事故」に該当するかどうかの判断は医療機関だけ が行うことができるものとされている.したがって, 患者の死亡に際して遺族が改正医療法上の医療事故 であると主張して支援センターに報告したり,院内 事故調の開始を医療機関に請求したりする権限は付 与されていない.このことは,医療事故調の対象と なるべき「医療事故」に該当するかどうかの判断が 医療機関に委ねられていることを意味しており,臨 床現場においても,医療事故か否かが適正に識別さ れることが求められていることになる. 図 1 医療事故に係る調査の流れ 〔厚生労働省 「医療事故調査制度について」 より引用〕

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246 日臨麻会誌 Vol.37 No.2/Mar. 2017 であって「医療」の一部であるといえる.しかし, 例えば深夜の救急外来で搬送された患者について, さしあたって救命処置や緊急の処置が必要な状態で はないと判断し,翌朝から通常診療の中で精査を始 めるために入院措置として病室で「経過観察」とし たところ,その後死亡したような場合,これを「提 供した医療に起因する死亡」といえるかは疑問であ る.この場合,患者の死亡は「経過観察」のいかん に関わらないのであって,経過観察という医療の提 供に起因したとはいえないからである.  もう 1 点,提供した医療の主体は「当該病院等に 勤務する医療従事者」とされている.そこで,患者 が突然急変した後に他院へ搬送され,到着後間もな く死亡した場合の取り扱いが問題となる.死亡が搬 送先の病院の「医療従事者が提供した医療の提供」 に起因するものでなければここでの院内調査にはな Ⅲ 医療事故調における「医療事故」の課題 1. 「医療の提供に起因する」とは  先に述べたとおり,改正医療法に示される「医療 事故」の定義では「当該病院等に勤務する医療従事 者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われ る死亡又は死産」となっており,医療の提供に起因 する(または起因すると疑われる)死亡が対象となっ ている.では,その「医療」とはどの範囲を指すの か.これについて厚生労働省は図 2 をその範囲とし て挙げている4)  ここで挙げられている「医療」の範囲は極めて広 い.積極的な診察や治療行為はもちろん,「経過観 察も含む」とされ,また「療養に関連するもの」も 含まれうることとされている.  確かに経過観察もまた医学的な判断に基づくもの 図 2 「医療に起因する(疑いを含む)」 死亡または死産の考え方 〔厚生労働省「平成 27 年 5 月 8 日医政発 0508 第 1 号」より引用〕

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りえない.しかし,他方で搬送元の病院では転送後 の状況をリアルタイムに把握しているわけではな く,また患者の死亡を自ら確認できるわけでもない ため,医療事故に該当するか否かの判断ができると もいえない.つまりどちらの病院にとっても「当該 病院等」であるとの認識が生じ得ない可能性がある といえる.これについては,搬送元と搬送先の医療 機関が協力して医療事故の該当性や院内調査の情報 提供を行い,連携して判断すべき5),とされており, 一般論としてはそのとおりであるが,自らの院内で の患者の死亡に関する判断や院内調査の手続もまま ならない現状において,他院への情報提供を行った り,他の病院の院内調査のために協力したり,とい うような体制が現在期待できるかといえば難しいと 言わざるを得ないところである. 2. 「予期せぬ」「予期する」とは  「提供した医療に起因する」という要件と共に必 要とされているのが「当該管理者が当該死亡又は死 産を予期しなかったもの」という要件である.これ は,「予期しなかった」主体が,医療を提供した医 療従事者自身(主治医や執刀医,麻酔科医,看護師 等)ではなく「管理者」とされているため,さらに わかりにくい要件となっている.  この点について,厚生労働省は改正医療法に関す る厚生労働省令を図 36)のとおり定めている.すな わち,「予期しなかった」場合を具体的に規定する のではなく,「当該死亡又は死産を予期していなか ったものとして,以下の事項のいずれにも該当しな いと管理者が認めたもの」(下線は筆者による)とい う形式で「予期していた死亡(または死産)」を列挙 し,これに該当しなければ「予期しない死亡」とし て医療事故の対象になるという規定の仕方である.  そして,省令が列挙する「予期していた死亡」と は,①医療の提供前に,当該医療従事者から患者等 図 3 医療事故の定義について(当該死亡または死産を予期しなかったもの) 〔厚生労働省「平成 27 年 5 月 8 日医政発 0508 第 1 号」より引用〕

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248 日臨麻会誌 Vol.37 No.2/Mar. 2017 に対して死亡が予期されていることを説明していた と認めた場合,②医療の提供前に,当該医療従事者 により死亡が予期されていることを診療録その他の 文書等に記録していたと認めた場合,③説明も記録 もないが,事情聴取や意見聴取によって,医療の提 供前に当該医療従事者により死亡が予期されている と認めた場合,とされている.「認めた」というの は医療機関の管理者(通常は院長となろう)が認めた 場合を指している7)  こうした法律と省令の規定の組み合わせは,法律 解釈論としては興味深い.まず「予期」という言葉 は一般的な法律用語ではない.したがって,本来で あれば「予期」の具体的な内容を規定し,解釈の基 準を示すのが省令の役割のはずである.とりわけ, もう 1 つの医療事故(紛争としての医療事故)におけ る「過失」論で問題とされる「予見義務」のように 「予見すべき義務」があったか,それを果たしてい たかという規範的な評価ではなく,改正医療法は, 「予期した」「予期していない」という主観そのもの を問題としている.そうであれば,法律の委任を受 けて細目を規定する省令としては,「予期」の具体 的な内容を明らかにすることが必要といえる8)  しかしながら,省令では「予期」自体の内容を示 すことなく,「予期されていることを説明していた と認めた」あるいは「予期されていることを記録し ていたと認めた」ことをもって「予期した」と判断 すると規定しているのである.本来,説明や記録は 「予期」の証明資料であって,「予期」という主観の 要件ではない.つまり「予期」していたから説明や 記録がされているのであって,説明や記録があるか ら「予期」したわけではない.  にもかかわらず,「説明」や「記録」があえて「予 期したもの」すなわち医療事故調の除外事由とされ, 原則として説明や記録が残されていない場合には 「予期しない死亡」として医療事故調の対象となる, というような省令が定められていることは,次述の とおり医療の現場に対し,この制度を通じて医療安 全のあり方に大きな影響を及ぼすものと考えら れる. Ⅳ 医療事故調施行に伴う 新たな「医療安全」のあり方 1. 「予期」に関する規則  前述のとおり,改正医療法は医療事故調の対象と なる「医療事故」の定義の 1 つとして「当該管理者 が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」を挙げ, これを受けた厚生労働省令が,その適用を除外する いわば「予期していた場合」として,「死亡が予期 されていることを説明していた」または「死亡が予 期されていたことを診療録その他の文書等に記録し ていた」ことを求めている.これはつまり,当該患 者の死亡が予期されていることを説明ないし記録し ていないような場合は,原則として「予期していな かった死亡」に該当するものとして原因究明をしな さい,という制度であると言わざるを得ない.逆に 言えば,患者の死亡を予期している場合には,それ をきちんと患者に説明し,あるいは診療録等に記載 することを医療従事者に求めているともいえる9)  すなわち,改正医療法とその省令は,単に医療事 故調の実施を医療機関に義務付けているだけではな い.死亡が予期される患者に対しては,医療従事者 が患者(ないし家族)に対し,そのことを適切に説明 して伝えること,同時に医療従事者は患者の死亡を きちんと認識して医療を提供すべきこと,そのこと を通じて生命リスクのある患者に対する医療の危険 性を十分に自覚し,それによって医療の安全を確保 することが改正医療法の大きな狙いであることが窺 われるのである. 2. 医療事故調の施行が臨床現場にもたらすもの  そうであるとしたら,臨床の現場はどのように対 応すべきなのか.麻酔科医は麻酔を行う際に何を考 え,何をすべきなのか.  改正医療法が,患者の死亡を予期していなかった ことを医療事故調の要件の 1 つとし,省令が,予期

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していたかどうかの判断について説明や記録の有無 に基づくものとする以上,上記のとおり,臨床の現 場にいる医療従事者は,患者の死亡リスクをきちん と認識すること,そしてそのことを患者ないし家族 に伝え,記録を残すことが求められている.このこ とは,医療を提供する医師が,患者の病態やこれか ら行う医療についての生命リスクを把握し,これを 患者家族にきちんと伝えることが必要になると言わ ざるを得ない.  元来,医師は,患者家族に対して具体的な生命リ スクを伝えることに慎重である.患者が医師にいわ ば自分の生命を預けていることからすれば,預かっ ている医師が,むやみに生命リスクが大きいことを 伝えれば,自らの職務を放棄しているようにもとら れかねない.そのため,医師や看護師は患者に差し 迫った生命リスクがあるときでも,極めて婉曲的な 言い回し(例えば「この先はちょっとわかりません」 「何があってもおかしくありません」「難しいかもし れません」といった表現)を用いることが多い.し かし,こうした表現は必ずしも家族に正しく伝わっ ているとは限らず,あとから「死亡するとは思って なかった」「聞いていない」というクレームを生じ させることも少なくない.  今回の医療事故調は,決して紛争回避のためにあ るわけではないものの,医療事故調が「予期」を説 明,記録といった外的表現の有無に求める以上,臨 床医としてはこれを患者家族に適切に表現し,説明 することに取り組まざるを得ないと思われる.麻酔 科医としても,行われる手術の麻酔がハイリスクな 場合には,術前のムンテラに際し,患者の病態,手 術における麻酔の内容を患者家族に説明する中で, 単なるリスクにとどまらず,そのリスクが発現した 場合には生命の危険があることを明確に伝える必要 があると考えるべきである.  これは,医療者と患者家族との間の関係に大きな 影響を与えうるものである.とはいえ,上記のよう な大きな意味での「医療の安全確保」という趣旨か らすれば,具体的な生命リスクを医師と患者家族が 正確に認識し,慎重に医療を提供することもまた医 療安全のあり方の 1 つである.そして,こうした説 明のあり方の変化は,がん告知の例のように,これ までもなかったわけではない.  以上のように考えると,今回始まった医療事故調 の基本的な運用は, (1) 患者の病状に基づき,行われる医療行為に生命 リスクがあると医療従事者が考えた場合(つまり 死亡を予期した場合)には,そのことを明確に患 者家族に伝えましょう.あるいはきちんと記録 しましょう.そのことによって患者家族も医療 者もその生命リスクをしっかり認識し,患者の 診療に取り組みましょう. (2) 他方,患者の生命リスクをまったく考えなかっ たような場合に,予期に反して患者が死亡した 場合には,その原因を究明しましょう,それに よって原因が判明した場合には再発の防止に役 立てましょう.そして,その結果を患者の家族 と共有しましょう. という理解のもとに行われるべきものと考える.繰 り返しになるが,こうした理解によれば,この制度 運用には医療ミスかどうか,法的責任があるかどう かといった評価が入る余地はない.したがって,調 査においても報告においても責任の有無に関する分 析をする必要はなく,あくまで上記のような運用の あり方に従って進められるべきものである. おわりに  本稿では,医療事故調における新たな「医療事故」 の定義について検討した.医療事故調に関しては, このほかにも調査のあり方,報告のあり方,支援の あり方,そして経済的な負担等,さまざまな課題が いまだ山積している.  他方で,医療事故調は 2015 年 10 月の発足から既 に 1 年以上が経過している(2017 年 1 月末現在).当 初,厚生労働省からは年間約 1,500 件程度との予想

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250 日臨麻会誌 Vol.37 No.2/Mar. 2017 があったと聞いているが,2016 年 9 月末での医療事 故報告件数は 388 件,医療事故調査報告(院内事故 調)は 161 件,センター調査(院外事故調)の依頼件 数は 16 件と予想を大幅に下回るペースとなってい る.その原因については,制度の理解が不十分であ る,あるいは医療事故の該当性の判断が困難である, といった点が挙げられているところであるが,やは り「医療事故」という言葉に対する心理的抵抗も一 因ではないかと感じる.前記のとおり,死亡リスク をまったく考えていなかった患者の死亡について, 原因を究明して今後の医療に役立てましょう,とい ういわば臨床医学の本質に関わる制度が,「事故」 という表現で捉えられ,調査・報告を求められると いう手続の流れに本質的な違和感があるのではない だろうか.  改正医療法は,医療事故調の内容(医療事故の報 告,医療事故調査及び医療事故調査・支援センター のあり方)等を今後も見直し,改正法の公布後 2 年 以内にさらなる改正等の措置を講ずべきことを附則 に規定している10).公布されたのは 2014 年 6 月 25 日であるから,既に 2 年が経過しようとしている.  10 年以上の長い歳月をかけてできあがった法的 制度である以上,それが医療安全の向上ひいては医 療そのものの進歩に資するものでなくては社会的な 使命を果たすことにはならない.これから医療事故 調がこうした有益な制度として進化していくことを 願ってやまない. 1) 医療事故が刑事事件になったものの,判決において医 師の刑事責任が否定された例としては,福島地裁平成 20 年 8 月 20 日判決,東京高裁平成 20 年 11 月 20 日判決 等が挙げられる. 2) 厚生労働省はこの点につき「医療事故調査制度の目的 は,医療法の『第 3 章 医療の安全の確保』に位置づけ られているとおり,医療の安全を確保するために,医 療事故の再発防止を行うことです.」と説明している(厚 生労働省「医療事故調査制度に関する Q&A(Q1)」).実 際の医療法の改正作業にあたっても,当初の大綱案で は事故調査報告の対象が「誤った医療行為による死亡」 「予期しなかった死亡」の 2 類型とされていたのに対し, 最終的には「予期しなかった死亡」のみが対象となり, いわゆる過誤事例が除外された経過がある.こうした ことからすると,やはり医療事故調は法的責任の追及 とは切り離された制度であると理解すべきであろう. 3) こうした理由から,法律の成立時より「医療事故」の 名称は適切ではない,むしろ「医療関連死」とすべき ではないかとの意見は多い.現に,制度の検討段階で 行われていたモデル事業においても,その名称は「医 療行為に関連した死亡の調査分析事業」(2005 年)とされ ていた. 4) 「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進する ための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医 療事故調査制度)について」(平成 27 年 5 月 8 日医政発 0508 第 1 号)より抜粋 5) 厚生労働省によれば,このような症例について「死亡 が発生した医療機関から,搬送元となった医療機関に 対して,当該患者の死亡の事実とその状況について情 報提供し,医療事故に該当するかどうかについて,両 者で連携して判断した上で,原則として当該死亡の要 因となった医療を提供した医療機関から報告していた だくことになります.」と説明している(厚生労働省「医 療事故調査制度に関する Q&A(Q3)」). 6) 「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進する ための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医 療事故調査制度)について」(平成 27 年 5 月 8 日医政発 0508 第 1 号)より抜粋 7) 厚生労働省による医療事故調施行前の説明では,①と ②が原則,③は例外的な場合との説明がなされていた ようである. 8) なお,〔図 3〕の右欄にあるように,厚生労働省の通知 では省令の解釈として,説明と記録につき「一般的な 死亡の可能性についての説明や記録ではなく,当該患 者個人の臨床経過等を踏まえて,当該死亡又は死産が 起こりうることについての説明及び記録であることに 留意すること.」とされている.この解釈によれば,疾 患の一般的な可能性ではなく,患者の具体的な病態, 経過,検査データ等に基づく具体的な死亡リスクが「予 期」であることが示されている. 9) 前掲の〔図 3〕における右側「通知」欄でも,厚生労働 省令の解釈として「患者等に対し当該死亡又は死産が 予期されていることを説明する際は,医療法第一条の 四第二項の規定に基づき,適切な説明を行い,医療を 受ける者の理解を得るよう努めること.」とされている. 10) 改正医療法附則第 2 条 2 項

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Issues Regarding the Medical Accident Investigation System Shin KATO Kato Law Office  The Medical Accident Investigation System(MAIS)was established according to the Amended Medical Service Law(2014)and enacted in October 2015 to help ensure the safety of medicine and prevent the recurrence of medical malpractice. The latest statistical document is released every month, it looks that understanding of medical care providers is not still enough. In addition, neither debate over a vision of what MAIS should be nor consideration of operational issues are yet to settle.  There are a wide array of issues ranging from the definition of medical accidents to procedures of investigation and the role of reporting.  This section describes basic elements of the system anesthesiologists need to know in their daily medical practice. Problems with MAIS are also discussed. Key Words : Medical malpractice, Medical Accident Investigation System

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