日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 24, No. 1, 4-16, 2010
*日本赤十字看護大学大学院看護学研究科博士後期課程(Japanese Red Cross College of Nursing, Graduate School, Doctoral Course) 2009年6月3日受付 2009年12月24日採用
原 著
出産後3か月までの双子の母親が
授乳方法を形成するプロセス
The process of acquiring feeding method
by mothers of 0-3months twins
藤 井 美穂子(Mihoko FUJII)
抄 録 目 的
出産後3か月までの双子の母親が授乳方法を形成するプロセスを明らかにすることを目的とした。 対象と方法
理論的基盤としてBlumerのシンボリック相互作用論をおき,Grounded Theory Approachに基づいて 研究を行った。双子の出生時に先天性奇形や疾患を有さず,すぐに経口授乳が開始された双子の母親5 名を対象に参加観察と半構成的面接法によりデータを収集した。面接は,産褥入院中,子どもの1か月 健診時頃,3か月健診時頃の3時点で実施し,Strauss & Corbin(1990/1999)及び才木(2005)の手法を用 いて分析を行った。 結 果 出産後3か月までの双子の母親の授乳方法を形成するプロセスは[比例授乳の獲得]であった。【比例 授乳】とは,ジャン・サーモン・ピクテ(井上,1975)が明文化した「比例」の概念を応用し,本研究で見 出した授乳態度であり,《個性を尊重》《平等を尊重》するために《2児の比較》を行っていることに対して 《矛盾した思い》を抱きながら,《優先度を考慮》して双子の母親が判断して作り上げる双子特有の授乳 態度である。入院中の母親は,助産師に伴走されるような形で授乳を進める【伴走型授乳】を行ってい た。退院後は【泣きのプレッシャー】が高まり,さらに【一時的な出来事】に遭遇しながらも【迷いなが らの人工乳の補充】や【頻回授乳への対応戦略】によって2児の泣きと戦っていた。母親は,出産後約1 か月までは主に体重差を気づかい授乳方法を選択していた。その後,【児の成長】により,体重差への気 づかいは減少し,2児を比較して個々の特徴を見ながら児の優先度に応じた授乳を行うようになってい た。そして,【泣きのプレッシャー】は低下し,2児の欲求に応じて主体的に授乳する【主体型授乳】へ変 化し,【母乳育児の継続】を行っていた。 結 論 出産後3か月までの双子の母親が自分なりの授乳方法を形成するプロセスは,[比例授乳の獲得]であ った。保健医療従事者は,このプロセスを理解した上で,双子の母親が,個々の児の特徴がわかるよう な支援が必要であることが示唆された。 キーワード:出産後3か月,双子,授乳方法,プロセス,グラウンデッドセオリーアプローチ
Abstract Objective
The objective of this study was to elucidate the process of acquiring a feeding method by mothers of 0-3 month-old twins.
Subjects and Methods
Research was conducted based on the Grounded Theory Approach using the Symbolic Interaction Theory proposed by Blumer as theoretical bases. Data were collected by observation of participants and semi-structured interview methods from 5 mothers of twins who had no congenital anomaly or disease at birth and who started breastfeeding immediately after birth. Interviews took place during postpartum hospitalization, and at 1 month and 3 month check-ups of infants. The methods of Strauss & Corbin (1990/1999) and Saiki (2005) were used for analy-sis.
Results
The process of acquiring a feeding method by mothers of 0-3 month-old twins was "acquisition of due propor-tion feeding". "Due proporpropor-tion feeding" is a feeding attitude that applies the concept of "due proporpropor-tion" clarified by Jean Simon Pictet (Inoue, 1975). It is a unique feeding attitude toward twin created by their mothers who make judgments "taking priorities into consideration", while having "contradictory feelings" about "comparing the twins" in order to "respect their individuality" and "respect equality". During hospitalization, mothers conducted "accom-panied feeding" in which midwives accompany their feeding. After discharge, "pressure from crying infants" was increased and "unusual physical condition" occurred, but mothers handled the crying twins by "supplementing with formula after wavering" or using "a strategy to overcome frequent feeding". Until 1 month postpartum, mothers selected feeding methods caring mainly about the weight difference of the twins, but concern about the weight dif-ference disappeared with "growth of the babies" and they came to feed the infant with higher priority by comparing the twins, in order to understand their individual characteristics. Then "pressure from crying infants" decreased and mothers shifted to "mother-led breastfeeding" where the twins were fed based on their needs and conducted "continued breastfeeding".
Conclusion
The process of acquiring a feeding method that fits the mothers of 0-3 month-old twins was "acquisition of due proportion feeding". Healthcare professionals should understand this process and provide support so that the moth-ers of twins undmoth-erstand the characteristics of each individual infant.
Key words: 3 months postpartum, twin, feeding method, process, Grounded Theory Approach.
Ⅰ.は じ め に
双子の母親は妊娠中に単胎と比較し不安を多く抱え ていること(横山,2002)や産後の双子の育児では,家 事育児の負担や体調の不良により,母親の心身の負担 が大きいこと(服部,2002;服部・堀内・兼子,2005), 産後は睡眠時間が短く睡眠不足を感じ重度の疲労感を 訴えていることが先行研究で明らかになっている(横 山,2002)。 特に双子の母親は,家事育児の仕事量の多さに最 も大変さを感じており,その中でも「授乳」に費やす 時間が長く,一人ひとりに十分接することができな い辛さや平等に接することに大変さを感じている(服 部,2002)。実際に乳児期の多胎児の平均授乳時間 は,単胎児の平均授乳時間の約2倍(西村・津田・林他, 2000)であり,双子の母親は,授乳時に子どもに同時 に泣きだされるための焦りや,どのように同時に複数 の子どもに対応するかという悩みや不安がある(大高 ・山本,2000)という報告もある。このように双子の 授乳の困難さや負担状況については,いくつかの先行 研究により明らかになっている。しかし,個々の母親 が困難さに対しどのように対応したのかを明らかにし た研究はほとんどない。Gromada & Spangler(1998)は,ほとんどの母親は, 同時授乳と個々に応じて一人ひとりに向き合って一人 ずつの授乳を合わせた授乳方法を好み,看護職は,母 親の関心のある一人ずつに対話をして同時授乳を進め ることができると述べている。しかし,入院中の授乳 指導は双子の母親の53.3%が受けていないという結果 もあり(皆川・服部・宮川,2000),実際の育児に即し た具体的な授乳指導が病院では行われていないことが うかがえる。今後,どのような生活が待ちうけ,どの ように立ち向かうのかという育児の予測性を含んだ双 子の授乳に関する情報の提供が重要である。
相互作用論をおいた。 2.研究参加者
研究参加者は,総合周産期母子医療センターで, BFH(Baby Friendly Hospital;赤ちゃんにやさしい病 院)の認定を受けている病院で,在胎週数35週以降で 2200g以上の双子を出産し双子が出生時に先天性奇形 や疾患を有さず,すぐに経口授乳が開始され,産後3 か月までの研究参加協力を得られた母親とした。研究 参加者はポスターで呼びかけ,研究参加者である母親 へは,担当スタッフと相談し,母親の体調の回復状態 を見ながら研究目的を説明して協力を依頼した。参加 の同意が得られた場合は病棟内に設置したボックスに 封書で同意の旨を返信してもらうようにした。6名の 母親に研究協力依頼をし,5名の母親から快諾を得ら れ,途中辞退者はいなかった。研究参加者の全員が自 然妊娠であり,家族の協力も得られ,双子の妊娠の受 け入れがよいという特徴があった。 3.データ収集期間 本研究の予備調査は,2007年2月∼3月に実施した。 また,本調査は,2007年5月から10月までの約5か月 間であった。 4.データ収集方法 データ収集は,産褥入院中,子どもの1か月健診時 頃,子どもの3か月健診頃の3時点で半構成的面接と 参加観察法を行い,参加観察で得られたデータは補足 的に使用した。 1 )授乳場面における参加観察法 参加観察では,研究参加者の入院中に産科棟へ行き, 主に授乳場面に同席して観察を行った。授乳の際に担 当助産師がケアを行っている場面においては,自らは 直接参加せず,母子の様子を観察した。子どもの1か 月健診時は,小児健診部門での健診を受ける研究参加 者に同行して,母子の様子や助産師・保健師・小児科 医との関わりや授乳場面を観察した。子どもの3か月 健診で,研究参加施設を利用した研究参加者は2名で あり,1か月健診同様に同行した。また,面接場所は 研究参加者の希望に応じて実施し,全員が自宅を希望 したため,自宅でも授乳場面の観察を行った。主に授 乳の姿勢,母親の表情,児の飲み方を観察し,実際の 授乳に即したインタビューを行い豊かなデータが収集 できるようにした。 以上から,本研究は,双子の母親の授乳が最も困難 と予測される出産後3か月までの双子の母親が,自分 なりの授乳方法を形成するプロセスを明らかにするこ とを目的とした。授乳方法を形成するプロセスを明ら かにすることで,これから双子を出産・育児しようと する母親に対し,育児情報の一部として提示すること ができ,予測をもった育児に臨むための一助となる。
Ⅱ.用語の定義
授乳方法とは,児に与える栄養の方法(母乳,人工 乳,混合など)やそれらをいつどれだけ与えるか,ど のように与えるか(抱き方など),授乳するための具体 的な手立てであり,母親の思考や態度を含めることと した。Ⅲ.研 究 方 法
1.理論的基盤 理論的基盤としてブルーマーのシンボリック相互作 用論をおいた。シンボリック相互理論は,人間を単に 反応するだけの生命体ではなく,行為する生命体であ り,自分に対し相互作用したなんらかの要因への反応 を単に解釈するだけではなく,自分が考慮したものご とに立脚して行為を作り出していく生命体(Blumer, 1969/1991, pp.18-19)と捉えている。また,「行為を, 行為者の内部に外部から喚起されるものとして見るの ではなく,行為者によって作り上げられていくもの として見なくてはならない(中略)行為者の役割を取 得し,その世界をその立場から見なくてはならない」 (Blumer, pp.94-95)と述べている。本研究で目指すのは, 双子の母親がどのように授乳方法を形成するのか,困 難とされる双子の育児の実像を明らかにすることであ る。母親がどのように自分なりの授乳方法を形成して いくか,行為者である母親の見地から現象を捉えるこ とが大切であると考える。さらに,本研究の予備調査 において,母親は,単に他者の指導を受け受動的に授 乳を行う存在ではなく,授乳方法を自分なりに解釈し ながら行動する生命体と捉えられ,シンボリック相互 作用論の捉える人間観と本研究で明らかにしたい母親 の姿が一致していた。 以上より,行為者である母親の見地から,母親が授 乳方法を形成するプロセスを明らかにするための視座 を与えるものとして,理論的基盤としてシンボリック2 )出産後から出産後3か月までの半構成面接 面接に際しては,1名ずつの面接が終了する毎にカ テゴリー化を行いパラダイムを組み,カテゴリーの関 連図で全体像を描き,今までのデータと比較を行い特 性と次元の視点から次のインタビューガイドを作成し, 次の出来事のサンプリングを行った。例えば,授乳の やり方を変更する時に実母のサポート力が強く影響し た母親と,実母のサポートが得られない母親を比較し て,「どのように授乳の方法を変更していったのかを 詳しく教えて下さい」と実母のサポート力の程度に着 目しながら類意点や相違点を捉えながらインタビュー を実施した。 産褥入院中は,研究参加者の疲労や授乳時間,産科 棟のスケジュールなどを考慮しながら行った。子ども の1か月健診時と3か月健診頃は,研究参加者の希望 に合わせて日時と場所を設定した。面接時間は,1回 35∼75分であった。面接の内容は,研究参加者の承 諾を得てICレコーダーとメモに記録した。 5.データ分析方法 本研究では,双子の母親の立場から授乳方法を形成 するプロセスを明らかにするためにグラウンデッドセ オリーアプローチを用いた。 グラウンデッドセオリーによるデータ分析は, Strauss & Corbin(1990/1999)及び才木(2005)の手法 を用いた。生のデータを切片化し,文脈から切り離し ラベル名をつけた後で,それらをまとめ直してカテゴ リー(概念)を見出し,カテゴリー同士の関係を検討 し,特性と次元を比較し分析を進めた。5名の縦断的 な比較分析で全体像をつかんでから,再度,オープン コード化へ戻り,横断的に3つのコード化を用いて分 析を行った。さらに本研究においては,カテゴリー間 の全体像をつかむために,パラダイムを作成した後に, カテゴリーの関連図(才木,2005)を作成した。そして, 全体像をつかんでからコアカテゴリーを捉え,ストー リーラインを描き構造化した。 インタビュー中に研究参加者が授乳を行う際には, 授乳方法を理解して,実施する方法に即したインタビ ューが行えるように参加観察を行った。参加観察した 内容をインタビュー時に補足的に使用することで,よ り詳細なデータ収集が得られるようにした。 データ収集と分析過程において,母性看護学領域・ 助産領域で約10年から40年の教育経験のある教員か ら定期的にスーパーヴィジョンを受けることで,デー タの解釈や分析結果の妥当性を高めた。 6.倫理的配慮 本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員 会の承認を得て行った(承認番号2007-20)。母親には, 研究依頼をする際に研究者の立場,研究の目的,方法, 研究の任意性(途中辞退が可能であること,研究参加 の有無によって母子に不利益が生じないこと),個人 情報の保護,同意を得て面接内容を録音することを口 頭と文書で十分に説明した。そして,研究参加者の直 筆の署名を得て参加の同意とした。研究に際して,参 加観察や面接は,母親の心身の状態や授乳行動の妨げ にならないように配慮した。
Ⅳ.結 果
1.研究参加者の概要 研究参加者5名の背景については表1に示す。年齢は, 28歳∼37歳(平均33.4歳)であった。分娩週数は,妊 娠36週から40週であり,子どもの出生時体重は2210g ∼2720g(平均2498.6g)であった。初産婦3名と経産婦 2名であり,帝王切開は2名,自然分娩は3名であった。3名の子どもがLFD(light for date;在胎週数に比して 体重の小さい児)で出産し,1名の子どもは妊娠36週 の早産であり,GCU(Growing Care Unit)へ1日入院 した。また,母親の経過は全員が順調であり,母親の 体調に応じて母子同室が早期より開始され母乳育児が 推進された。また,全員が里帰り先や自宅での育児援 助者を有し,出産後3か月には全員が自宅へ戻ってい た。面接時期は,母親の希望する日時を尊重し実施し た。 表1 研究参加者の概要 事例 年齢 初経産 出産週数 出生児体重 A氏 20代後半 初産婦 40週3日 第第2子2,520g1子2,650g B氏 30代後半 初産婦 38週4日 第第2子2,370g1子2,600g C氏 30代前半(長子1歳3か月)経産婦 38週0日 第第2子2,630g1子2,620g D氏 30代前半 初産婦 39週4日 第第2子2,210g1子2,360g E氏 30代後半 (長子3歳)経産婦 36週1日 第第2子2,720g1子2,300g
2.出産後3か月までの授乳方法を形成するプロセス 本研究での切片化数は,2876であった。切片化した 結果を最終的にカテゴリー化し,40のサブカテゴリー を作成し,さらに9のカテゴリーを導いた。本研究で, 出産後3か月までの双子の母親が自分なりの授乳方法 を形成するプロセスが,[比例授乳の獲得]であること が明らかになった。記述にあたっては,カテゴリーを 【 】,サブカテゴリーを《 》で示した。 1 )ストーリーライン 入院中の母親は,助産師に伴走されるような形で 授乳を進める【伴走型授乳】を行っていた。出産後は, 助産師の支援があり2児はあまり泣かないが,退院後 は2児が同時に泣くことにより,母親の【泣きのプレ ッシャー】が高まっていった。さらに【一時的な出来事】 に遭遇しながらも【迷いながらの人工乳の補充】や【頻 回授乳への対応戦略】によって2児の授乳方法を変化 させ2児の泣きと戦っていた。 母親は,出産後約1か月までは主に体重差を気づか い授乳方法を選択していた。その後【児の成長】により, 体重差への気づかいは減少し,2児を比較して個々の 特徴(吸着力・飲み方・好む姿勢)を見ながら,児の 優先度に応じて母親が判断して行う授乳へと授乳方法 を変化させていた。そして,【泣きのプレッシャー】は 低下し,2児の欲求に応じて主体的に授乳する【主体型 授乳】へ変化し,【母乳育児の継続】が行われていた。 つまり,入院中は,助産師に伴走されながら比例 授乳を行っていたが,3か月の過程の中で2児を比較し 個々の特徴に応じて優先度に応じて,自らが判断して 主体的に授乳方法を選択し,【比例授乳】を獲得してい た。 以上より,本研究のコアカテゴリーである[比例授 乳の獲得]とは,助産師に伴走されながら進める伴走 型比例授乳期(Stage1)から,伴走者から徐々に独立 していく伴走型から主体型への移行期(Stage2),子ど もの欲求に応じて,主体的に自分なりの授乳を行う主 体型比例授乳期(Stage3)へと3つのStageをたどりな がら授乳方法を変化させて,個々の児の優先度に応じ て母親が母乳育児を継続していくプロセスであり,プ ロセス全体には,【児の成長】【泣きのプレッシャー】が 影響していた。 2 )カテゴリーの特徴の説明 双子の母親は,出産後3か月間を通して【児の成長】 と【泣きのプレッシャー】の影響を受けながら,【伴走 型授乳】から【主体型授乳】へと変化しながら【比例授 乳】を獲得していた。またその過程には,【一時的な出 来事】という予想していなかった出来事に遭遇し,【迷 いながらの人工乳の補充】や【頻回授乳を打破する戦 略】をとりながら授乳方法を模索する移行期が存在し ていた(図1)。以下,この【伴走型授乳】を行っていた 時期,【主体型授乳】を行っていた時期と,その中間で ある移行期の3つのStageと全期間に影響した【児の成 長】【泣きのプレッシャー】の4つに分けてカテゴリー を説明する。研究参加者の語りを縮小文字で記述した。 〈 〉はラベルを示し,( )内は研究参加者と場面につ いてアルファベットを用いて記号化した。 (1)Stage1『助産師の伴走を受けながら進める比例授 乳;伴走型比例授乳期』 ①【伴走型授乳】 【伴走型授乳】とは,母親の主体性を尊重しながら, 助産師が伴走するような形で授乳を進めることであり, 《助産師の援助》《助産師の行動を試すことで効果を実 感》《先のみえない授乳》《優先事項を確認》の4つのサ ブカテゴリーから構成されていた。そのうち,《助産 師の援助》は,母親に対する助産師から受ける援助で あり,〈助産師に相談しながら進めた母子同室〉〈授乳 方法に関する助言〉〈助産師の介助を受けながら実施 した同時授乳〉〈退院後の生活を踏まえた助言〉〈授乳 方法の確認〉〈精神的サポート〉〈助産師の助言が受け られない不安〉の7つのラベルから成り立っていた。 「(術後)2日3日あたりは,けっこうベットの上にずっ といたので,もう授乳の時は,看護師さんに手伝って いただいて(中略)二人一緒のほうがまあ,効率的だ っていうのもあるし,同じぐらいに多分泣くんだと思 うんですけど,一緒にこう連れて来られるんで,じゃ あっていう感じで,まあ,手伝っていただきながら, 二人同時にっていう感じだったんでしょうね」 (入院中:B 氏) 例えば帝王切開で双子を出産したB氏は,吸着時間, 授乳間隔,1日の授乳回数を助産師の助言を受け授乳 介助を受けながら授乳を行っていた。 (2)Stage2『一時的な出来事に遭遇し試行錯誤で進め る比例授乳;移行期』 ①【一時的な出来事】 【一時的な出来事】は,《困惑した出来事》《出来事 に対する判断》《出来事への対応》の3つのサブカテゴ リーで構成されていた。
《困惑した出来事》は,一時的に母親が困惑した出 来事であり,〈哺乳瓶を拒否〉〈2児の欲求の高まり〉〈母 親の内服〉〈1児の便秘〉の4つのラベルから成り立って いた。《出来事に対する判断》は,一時的な出来事に対 する母親の判断であり,〈一時的な出来事に対する考 え〉〈一時的な出来事に対する試み〉の2つのラベルか ら成り立っていた。《出来事への対応》とは,一時的な 出来事を受け,判断した結果,それを解消するために 取った母親の行動であり,〈一時的な出来事に対する 母親の対応〉のラベルで成り立っていた。 「たぶん,Yちゃんの方はーきちんと,なんだ満腹中 枢が働いてるかもしれないですよ。Nちゃんはいっく らでも飲むんですけどーおっぱいでもミルクでもー Y ちゃんは結局,お腹空いてない時には,おっぱいなら まだしも,ミルクは必要ないっていう感じのかなって。 お腹空いてると飲むんですよね。ミルク。」 (出産後3か月;D 氏) 例えばD氏は,〈哺乳瓶を拒否〉する体験をした母親 は,2児を比較して様子を観察して哺乳瓶を受け付け なくなった原因を探り,人工乳が嫌で哺乳瓶から飲ま なくなったのではなく,満腹中枢が働いていると判断 していた。 このように双子の母親は,一時的に起こった出来事 の原因を探り,自分なりの解釈を行い判断していた。 そして,その出来事の内容により,乳首を柔らかいタ イプへ交換する,搾乳した母乳を乳首の先端に溜める などの児がのみやすくなる方法を取り,一時的な出来 事に対応していた。 ②【迷いながらの人工乳の補充】 【迷いながらの人工乳の補充】は,《今後を考慮して 人工乳の必要性を実感》《人工乳の使用への迷い》《複 数の理由で人工乳の使用が開始》《人工乳の効果を実 感》《人工乳を増量》の5つのサブカテゴリーで構成さ れていた。 《今後を考慮して人工乳の必要性を実感》は,双子 の母乳育児の大変さから今後の生活を考慮して人工乳 の必要性を実感することであった。 双子の母親は,2児に泣かれることから〈双子の母乳 育児の大変さ〉や〈人にあずける必要性を考慮〉〈外出 の大変さを実感〉したり,自分の疲労が蓄積し双子へ 実際に行われた授乳 出来事 【 】カテゴリー 《 》サブカテゴリー 〈 〉ラベル サブカテゴリーの具体的戦略 3か月 出産 高 低 【児の成長】 《泣きの変化》《飲み方の変化》《あやさず入眠》《夜間の入眠》 《生活リズム》《体重増加》《授乳間隔の増大》 〈2児の体重を重視〉→〈2児の成長を重視〉
比例授乳の獲得
【全体型授乳】 《泣きへの対応》 《授乳時の気づかいの減少》 《欲求に応じた授乳》 【頻回授乳を打破する戦略】 《2児の欲求を同時に満たす同時授乳》 《泣きの連鎖防止対策》 《片側の乳房を与える授乳》 《乳房緊満を高める試み》 Stage1;伴走型比例授乳期 Stage2;移行期 Stage3;主体型比例授乳期 【母乳育児の継続】 《周囲への気づかい》 《欲求の読み取り》 《欲求の読み取りの確認》 《2児の充足を図る試み》 《育児援助力》 《母親自身の求を満たす試み》 【一時的な出来事】 《困惑した出来事》 《出来事に対する判断》 《出来事へ対応》 【比例授乳】 《平等の愛情》 《平等を尊重》 《個性を尊重》 《2児の比較》 《矛盾した思い》 《優先度を考慮》 【伴走型授乳】 《助産師の援助》 《助産師の行動を試す ことで効果を実感》 《先の見えない授乳》 《優先事項を確認》 【迷いながらの人工乳の補充】 《今後を考慮して人工乳の必要性を実感》 《人工乳の使用への迷い》 《複数の理由で人工乳の使用が開始》 《人工乳の効果を実感》《人工乳を増量》 ︻泣きのプレッシャー︼︽2児の泣きのプレッシャー︾ ︽2児の泣きのプレッシャーからの解放︾ 図1 授乳方法の形成図の愛情が低下するのではないか等の様々な思いを抱き 〈母乳へのこだわりの低下〉していた。その一方で,〈母 乳分泌低下への危惧〉や〈人工乳の効果への疑い〉によ り《人工乳の使用への迷い》を抱きながらも,〈同時に 泣かれる大変さ〉〈母乳不足感〉〈強い乳頭痛〉〈育児援 助者の影響〉などの《複数の理由で人工乳の使用が開 始》し,〈双子の生活リズム〉ができることや〈長子に とっての利点〉〈2児が寝て楽を実感〉など《人工乳の効 果を実感》することによって《人工乳を増量》していた。 「寝かしつけ,寝かせる時にえんえん言われるとお兄 ちゃんも寝そうな時にだめになっちゃって,また起き てやり直しの時があって,結構そういうことがあっ て12時1時でもう目開けてたりしたんですよ。上の子 がそういうのがあってもうどたんばったんしてたんで すけど,今はそういうのがペースがついたんで,なん か母が(ミルク)やってくれてるんで。で,だいたい 上の子がね 双子がミルクを飲み終わった後で下にお いたら寝てくれるようになって今は,すごい楽になっ た」 (出産後3か月;C 氏) 例えばC氏は,「ミルクを使用しても寝るわけでな い」と〈人工乳の効果への疑い〉を抱き,人工乳の使用 を迷っていたが,一度,人工乳を使用してみると長子 の生活リズムができるようになるという《人工乳の効 果を実感》したことで《人工乳を増量》していた。 ③【頻回授乳への対応戦略】 【頻回授乳への対応戦略】は,《2児の欲求を同時に満 たす同時授乳》《泣きの連鎖防止対策》《片側の乳房を 与える授乳》《乳房緊満を高める試み》の4つのサブカ テゴリーで構成されていた。 《2児の欲求を同時に満たす同時授乳》とは,同時に 泣いた児に対して同時授乳を行い2児の欲求を満たす ことである。〈介助を受けた同時授乳〉〈介助無しの同 時授乳〉〈介助を受けた混合の同時授乳〉〈介助無しの 混合の同時授乳〉〈介助無しの人工乳の同時授乳〉〈同 時授乳を成功させるための工夫〉の6つのラベルで成 り立っていた。 そのうち〈介助無しの同時授乳〉とは,介助を受け ずに母親が一人で同時授乳を実施することである。入 院中や1か月の時点では,同時授乳の困難さを全員の 母親が語り,体勢維持や姿勢がずれて吸着が外れるこ とや有効的に吸着できないことや転落の危険性を感じ 介助を要していた。そして「同時授乳は難しい」「自信 が無い」「大変」といった理由から介助無しで実施する 母親はいなかった。 「退院した後からです。それは,ただ,やっぱりすご い色々やらなきゃいけないんで,周りにクッション置 いたり,母がいないと出来ないんですよ。連れてきて もらったりするんで,だから夜はちょっと無理で」 (出産後1か月;D 氏) 例えばD氏は,夜間は実母の授乳介助が得られな いために,クッションなどの補助用具のセッティング が一人では困難で同時授乳ができないでいた。吸着痛 が強く上手く吸着できないと思ったA氏は実施してい なかったが,他の母親は,実母のサポートが得られず, 2児に同時に泣かれて手に負えないときに介助無しの 同時授乳を試していた。出産後2∼3か月には,児が 自ら乳頭をとらえられ深い吸着ができるようになった ことや月齢に伴う成長・発達により定頸や体重増加が みられ,体が安定したことによって介助無しの同時授 乳を実施する母親は増えていた。 また,《泣きの連鎖防止対策》とは,同時授乳ができ ない場合に2児に対してとる戦略である。 「どっちか泣いたらあの,連鎖反応を起こすんでどっ ちかすぐに連れてってもらって,お母さんにすぐ持っ ていって貰ってちょっと離して離して泣き声を聞こえ ないようにして,もう泣き声をとにかく,こう聞こえ ないようにすることも気をつけた」 (出産後1か月:A 氏) 例えばA氏は,双子の泣きの連鎖を防ぐために,1 児が泣き出したら他児を別の部屋に連れて行き,泣き の連鎖を防ぎ頻回授乳を打破していた。 (3)Stage3『主体的に進める比例授乳;主体型比例授 乳期』 ①【比例授乳】 【比例授乳】は,《平等の愛情》《平等を尊重》《個性を 尊重》《2児の比較》《矛盾した思い》《優先度を考慮》の 6つのカテゴリーで構成されていた。 《平等の愛情》とは,母親が平等に愛情を持ってい ることであり,〈2児に対する愛情〉のラベルから成り 立っていた。《平等の尊重》とは,2児を平等に扱いた いという母親の思いであり〈平等にしたい〉〈母乳を 平等にあげたい〉の2つのラベルから成り立っていた。
《個性を尊重》は,〈一人ひとりにじっくり向き合いた い〉〈個性を大切にしたい〉〈比較したくない〉〈平等が 気にならない〉の4つのラベルから成り立っていた。 《2児の比較》は,〈無意識な比較〉〈吸着の比較〉〈泣 き方の比較〉〈成長の比較〉〈体重の比較〉の5つのラベ ルから成り立っていた。 「でも,飲みは Kの方が眠りながらでもチュウチュウ 吸って最後まで飲んでるんですけど,Tは,おっぱい がもういいってなったらべろでべーって出すんです よ。」 (出産後3か月;C 氏) 例えばC氏は,2児を比較することで第2子が飲み終 わった時には,自ら舌で乳首を押し出すという特徴に 気づいていた。このように双子の母親は,無意識に2 児を比較することで,吸着力の強さ,飲むための時間, 開口の大きさ,効率的な飲み方など一人一人の吸着を 比較していた。 《矛盾した思い》は〈2児に対する矛盾した思い〉であ り,2児の平等性と個別性の尊重という2つの思いを抱 き,2児を比較していることに対して,母親は矛盾と 捉えていた。《優先度を考慮》は,母親が優先度を考え ながら授乳を行うことであり,〈2児の体重を重視〉〈2 児の成長を重視〉の2つのラベルで成り立っていた。 (a)〈2児の体重を重視〉 〈2児の体重を重視〉は,母親が体重を重視して授乳 を行うことであり,2児の体重を比較し,体重の小さ い子の体重増加を優先することである。例えば体重の 小さい児が飲みやすいように順番を考慮することであ る。入院中に体重増加の必要性について助言を受けた 母親や退院後に2児の体重差が出現した母親は,体重 増加を優先させて授乳を行っていた。 (b)〈2児の成長を重視〉 〈2児の成長を重視〉は,2児の成長を重視して授乳 を行うことである。2児を比較し,吸着の強さ,長さ, 飲み方,体重の増加の程度,人工乳の補充量等の違い を探り,飲めていない児を優先させて飲めるように考 慮することである。 「小さい分あんまりえんえん泣かせていると体力が消 耗しちゃうかなって思っておっぱい吸う力がなくなち ゃうかなとか思って」 (出産後1か月;C 氏) 「そうですね Tの方が飲んでないと思うんで Tの方にあ げたいっていう,あげるってことはないんですけど, よく吸って欲しいなって思います。早い時間にちょっ とおっぱいをあげてて,眠っちゃいそうな時は(口の 周りを)つんつんしてのませるようにしてますね。気 持ちよさそうな時でももうちょっと吸いなさいみたい な感じですね」 (出産後3か月;C 氏) 例えばC氏は,出産後1か月の時は,体重の小さい 児が飲めるように考慮して授乳を行っていたが,出産 後3か月には,体重の大きい児が飲めていないと感じ, 眠りそうな時に口を刺激して飲ませるなどの方法をと っていた。このように双子の母親は,出産後3か月の 間を通して2児を比較し,〈2児の体重を重視〉から〈2 児の成長を重視〉へと変化しながら,優先度に応じた 授乳方法を選択していた。 ②【母乳育児の継続】 【母乳育児の継続】は,《周囲への気づかい》《欲求の 読み取り》《欲求の読み取りの確認》《2児の充足を図る 試み》《育児援助力》《母親自身の欲求を満たす試み》の 6つのサブカテゴリーから構成されていた。 そのうちの《周囲への気づかい》は,〈入院中の同室 者〉〈家族〉〈長子〉の3つのラベルで成り立っていた。 「(母親がいなくなると)すごい急に泣き始めるって, 同時に。その声がたまらなく大きいって,そういうの は申し訳ないなって思って,私が帰るとぴたっと泣き やむっていうか安心したような声になるらしく。さっ きまでと違うって言ってました」(出産後3か月;E 氏) 例えばE氏は,実母が泣き声に対して腹を立ててお り,実母への気づかいから,泣く前に早めに授乳を行 っていた。このように母親は,周囲の人々に対して2 児の泣き声に対して気づかったり,《育児援助力》に応 じて授乳方法を選択し,【児の成長】に伴い2児が泣か なくなることや《欲求の読み取りの確認》ができ《2児 の充足を図る試み》ができることで【母乳育児の継続】 が行われていた。 ③【主体型授乳】 【主体型授乳】とは,《泣きへの対応》《授乳時の気づ かいの減少》《欲求に応じた授乳》の3つのサブカテゴ リーから構成されていた。 《泣きへの対応》は,母親が2児の泣きに対してとっ た対応であり,《泣きへの対応》は,〈泣かせないため の対策〉〈泣いた時の対応〉の2つのラベルで成り立っ ていた。例えば母親は,泣く前に授乳をする等〈泣か
せないための対策〉や,大泣きした時は泣かせて掃除 機をかける,沐浴をして泣き止ませる等〈泣いた時の 対応〉を取り,2児の泣きに対応していた。 《授乳時の気づかいの減少》は,授乳時に注意する 点が少なくなったことであり〈体重増加の気づかいの 減少〉〈順番や時間の気づかいの減少〉の2つのラベル から成り立っていた。 《欲求に応じた授乳》は,児の授乳欲求に応じた自 律授乳のことであり,〈泣きの意味の見極め〉〈授乳欲 求に応じた授乳〉の2つのラベルから成り立っていた。 「最初は,こっちが小さかったんでそれが気になった んですけど,最近はそんなに気にならなくなりました ね。どっちもそれなりに大きくなってきて」 (出産後3か月;B 氏) 「まぁ欲しがるので,取りあえずおっぱいをあげてみ て,で,飲みたいだけ飲ませてみたらミルクをまぁ 80(ml)だったり60(ml)だったり飲んだって感じだっ た」 (出産後3か月;B 氏) 例えばB氏は,入院中から1か月までは,体重の小 さい児に気づかいながら授乳を行っていたが,体重増 加を確認できたことで,1児ずつの授乳欲求に応じて 授乳を行うように変化していた。 (4)全体に影響する【泣きのプレッシャー】【児の成長】 ①【泣きのプレッシャー】 【泣きのプレッシャー】は,《2児の泣きのプレッシ ャー》《2児の泣きのプレッシャーからの解放》の2つの サブカテゴリーから構成されていた。 《2児の泣きのプレッシャー》は,2児が同時に泣くこ とに対して,母親が同時に欲求を満たせずに困惑する 状態であり,〈待たせて泣かせる辛さ〉〈対応できない 2児の泣きのプレッシャー〉〈長子に影響する2児の泣 き〉の3つのラベルから成り立っていた。 「あー,今抱っこしてあげるとご機嫌になるのにとか, あー今ミルクあげると絶対に泣き止むのにってわかる のに,手が足りないからどうしても一人大泣きしてる っていう状況なんで,それが結構プレッシャーですよ ね」 (出産後1か月:B 氏) 例えばB氏は,何をしたら泣き止むかわかっている のに手が足りず一人を泣かせていることをプレッシ ャーに感じながら一人ずつ授乳していた。 《2児の泣きのプレッシャーからの解放》は,児の成 長により児が泣かなくなることや,泣いた時の対応が とれるようになり,2児が同時に泣いても困惑しなく なることであり,〈泣きに対する余裕〉〈周囲に対する 泣きのプレッシャーからの解放〉〈同時授乳による泣 きのプレッシャーからの解放〉の3つのラベルで成り 立っていた。 「病室で泣いてるのを放置するとこう周りの人の迷惑 になるしとかそういう気持ちとか,あーあっぱいあげ なきゃ,急がなきゃとかすごく思ってたのが,今は 徐々にっていうか,自宅に来て無くなった」 (出産後1か月;A 氏) 例えばA氏は,周囲に対する気づかいから2児の泣 きを早く泣きやませようというプレッシャーがあった が,自宅に戻り周囲を気にする必要性が無くなり2児 の泣きのプレッシャーから解放されていた。さらに, 出産後3か月には,児の定頸に伴い体が安定し,抱き やすくなり吸着も上手になるために母親が一人でも同 時授乳が可能となり,同時授乳によって2児を泣き止 ませることができるようになることで母親は泣きのプ レッシャーから解放されていた。 ②【児の成長】 【児の成長】は,《泣きの変化》《飲み方の変化》《あや さず入眠》《夜間の入眠》《生活リズム》《体重増加》《授 乳間隔の増大》の7つのサブカテゴリーから構成され ていた。 《泣きの変化》は,〈泣きの減少〉〈つられ泣きの減 少〉〈夕暮れ泣きの出現〉の3つのサブカテゴリーで成 り立っていた。《飲み方の変化》は,出産後3か月の間 に母親の感じた飲み方の変化であり,〈1回の人工乳の 増量〉〈吸着の差異の減少〉の2つのラベルから成り立 っていた。《あやさず入眠》は,母親が寝るまであやさ なくても児が一人で入眠することであり,〈ベビーラ ックの使用〉〈玩具の使用〉の2つのラベルから成り立 っていた。《夜間の入眠》は,出産後3か月経過し,夜 間の寝るようになった児の変化であり,〈夜間の入眠 時間の延長〉〈昼夜のリズム〉の2つのラベルで構成さ れていた。《生活リズム》は,出産後3か月までの経過 の中で徐々に確立されたる児の覚醒リズムであった。 《生活リズム》は,〈夜間のリズム〉〈人工乳補充パター ン〉〈授乳リズム〉の3つのラベルで構成されていた。 《体重増加》は,〈他者からの体重増加を確認〉〈外見上
から体重増加を実感〉の2つのラベルで構成されてい た。《授乳間隔の増大》は,〈授乳回数の減少〉〈人工乳 の補充頻度が減少〉〈夜間母乳割合の向上〉の3つのラ ベルで構成されていた。 「夜は,間隔,もう1回とか起きなくなっちゃったんで, だから,起きても2回かな。Iなんて,もう1回かな」 (出産後3か月;A 氏) 例えばA氏は,出産後3か月には夜間の児の睡眠時 間の延長により,授乳間隔が開き,夜間母乳割合が向 上していた。このように双子の母親は,《泣きの変化》 《夜間の入眠》《体重増加》などの【児の成長】を実感し ながらStage3へ移行していた。そして,出産後3か月 の時点では,全員の双子の母親が授乳回数の減少に伴 い,夜間の母乳割合が向上したと語った。
Ⅴ.考 察
本稿では,まず,中核カテゴリーである【比例授乳】 について説明する。その後,先行研究で明らかにされ てきた母親の愛着形成の確立の支援に関する知見と合 わせて,比例授乳に着目して考察を述べる。 1.コアカテゴリー【比例授乳】 【比例授乳】とは,ピクテ(井上,1975, pp.19-20)が 赤十字の諸原則の一つとして明文化した「比例」の概 念を応用し,本研究で見出した双子特有の授乳態度で ある。【比例授乳】とは,2児への平等の愛情を根底に おき,2児に対して平等に授乳するために,1児ずつの 特徴に合わせ必要性と緊急度の程度に比例し,優先度 を考慮して授乳するという特徴を持ち,母親が自分な りの授乳方法を判断しながら作り上げていく授乳態度 を示す。これらの概念を用いて《平等の愛情》を根底 にして《平等を尊重》した授乳を行うために双子のそ れぞれの《個性を尊重》し《優先度を考慮》した授乳で あり,平等にしたいと思いながらも無意識に2児を比 較していることに対して《矛盾した思い》を抱きなが ら母親が自分で判断し作り上げる授乳態度を【比例授 乳】というカテゴリーで命名した。 また,ピクテ(井上,p.88)は,「比例は事柄の先後 を決める原則である」と言及している。判断すること は比例の原則の応用であり,母親が一人ひとりの児に 応じた授乳ができるように自分で判断して授乳方法を 作り上げる意味も【比例授乳】の概念に含めた。 以上のように本研究では,【比例授乳】という授乳態 度,つまり2児に対して愛情の偏りなく平等に授乳す ることを目的として1児ずつ個々に応じて授乳すると いう特徴を持ち,母親が自分なりの授乳方法を判断し ながら作り上げていく双子特有の授乳態度が見出され た。双子の母親は,この比例授乳の継続への支援が必 要であると考える。以下,1)一人ひとりに平等に授乳 したい母親の思い,2)2児の比較の2点から比例授乳 に着目した考察を述べる。 2.比例授乳に着目した考察 1 )一人ひとりに平等に授乳したい母親の思い 双子の母親にとって2児を平等に扱うことへの関心 は高く(久保田,1998)双子の母親が2児に対して同じ 栄養方法をとることが先行研究で明らかになってい る(Geraghty, Khoury, & Kalkwarf, 2004;矢野・小池,2001)。本研究においても母親は,比例授乳を継続し ていくプロセスの根底には,2児に対する愛情があり, 「母乳を平等にあげたい」という平等性の尊重と「個性 を大切にしたい」という個別性の尊重の2つの母親の 思いがあることが明らかになった。 また,本研究の参加者は,児の成長に伴い出産後3 か月になると児が泣かなくなることや,母親が児の欲 求がわかるようになることで比例授乳を獲得すること ができていた。しかし,出産後3か月までの期間は【泣 きのプレッシャー】に困惑し,平等に授乳したい思い があり,優先度に応じた授乳を行うために2児を比較 するという行為に対して葛藤していた。この葛藤が, 双子の授乳を困難にさせていたと考える。本研究の参 加者の中で,双子の育児は比較してはいけないという 思いを抱きながら,同じように大きくなって欲しいと 願い2児を比較していることに対して矛盾を感じる母 親もいた。これは,《平等を尊重》つまり,「平等=比 較しない」という母親の思いがあり,その一方で《個 性を尊重》するための《2児の比較》という行為をとっ ていることに対して「矛盾」を感じ,「比較」すること を誤った行為と認識していたと考える。 ピクテ(井上,1975)は,「平等と比例の原則は,人 道の原則から必然的に出てくるものであり,人道の原 則と一体をなしており,これと密着しているが,一方 は差別を禁じ,一方は差別を命ずるものであるため, 両者は互いに反撥し合い矛盾する様に見えるかもし れない。(中略)換言すれば,両者は矛盾どころか,互
いに補完し合っている(中略)実体法としての人道と, 施行法としての平等及び比例は一環をなしており,そ れ自体において完結している」(pp.19-20)と述べてい る。この比例の原則を元にして,双子の母親が矛盾と 感じたこの現象を捉えると,母親は双子を平等に授乳 するために,個々の特性を知り違いを認め,成長とい う優先度に比例した授乳方法をとっており,平等性を 保つ上でも2児を比較して,個性に応じて授乳してい くことは重要であると言える。双子の母親には,「平 等性」と「個別性」という一見,対極したように捉えら れる思いがある。しかし,これらは《平等を尊重》す るための思いであり,「比較」という行為は「矛盾」で はなく,双子に対して平等な授乳をするために必要で あり,比例授乳の継続のためには大切な行為であると 考える。 母親が自分なりの授乳方法を見出すためには,この 矛盾した思いを解決し,一人ひとりに平等に授乳する ために2児を比較することが必要と考えられた。 2 )2児の比較 塩野・大久保(2002)は,双子の母親が育児生活を 生き抜くプロセスとして「一人育児との比較による違 いを編みなおす」「双子の平等性と個性の両者に向き 合う」こと等を明らかにし,二人を同時に抱けない辛 さ,一人の育児のようにはならない世話への不十分感 や比較可能なことによる無用な心配は,双子の母親を 悩ませると述べている。双子の母親が,平等性と個性 の両者に向き合っていることは,本研究と一致してい るが,一人育児との比較や比較可能なことで無用な心 配をするという点では異なる見解であった。塩野・大 久保らの研究は,0歳から1歳までを研究対象とし比較 的幅を持っているのに対して,本研究においては,出 産後3か月までと月齢が少なく,母親が外出し一人の 育児と比較する機会が少ないことが結果に反映したと 考える。 また,本研究では,[比例授乳の継続]である全プ ロセスを通して2児の比較が行われ,一人育児との比 較ではなく2児を指標として比較しながらそれぞれの 特徴を把握していた。また,比較によって体重差など の違いを気にすることはあったが,比較することで現 象が「わかる」ようになった母親もいた。D氏は,飲 み方の違いを見て人工乳が嫌なのではなくて「満腹中 枢が働いている」などと一時的に起こった事象を母親 自身が解決する手立てとして2児の比較を行っており, 比較するという行為が必ずしも母親を心配させるとい うマイナス面に影響を与えることではないことが示唆 された。
Anderson & Anderson(1990)は,母親が出生から1 歳までの間にどのようにして双子との関係性を発展さ せていくかを明らかにしている。[個別化](individua-tion)を中核カテゴリーとして【正反対】(polarization) や【相違】(differentiation)【母親の平等性】(maternal justice)【サポート】の4つのカテゴリーを見出してお り,【正反対】と【相違】は個人の世話において双子の 間の違いを見出し,個人の世話を助けるための方法で あり,この2つは,母親が双子のそれぞれの違いやニー ズに母親が適応するために使われた戦略であり,2児 を個人として区別して関係性を築くために,双子の性 格や身体的特徴から相違を見出す必要があると述べて いた。 本研究においては,【比例授乳】という双子特有の 授乳態度を獲得するにあたり《平等を尊重》《個性を尊 重》という相反するサブカテゴリーが抽出され,《2児 を比較》して特徴を見出し,《優先度を考慮》していた。 双子に対して,平等にしたいという母親の思いがあり, 個々の児を尊重していることは類似していた。しかし, Anderson & Andersonの中核カテゴリーは[個別化]を
中心として個を見るために【正反対】【相違】といった 違いに着目したカテゴリーを抽出しているが,本研究 においては,《優先度を考慮》するために《2児の比較》 を行い特徴を見出していた。つまり,違いに着目して いたのではなく,特徴を見つけようとしている点に相 違があった。これは,「双子を比較されたくない」「同 じように育てたい」という日本の文化や母親が抱く双 子の育児に対する思いが反映した結果と考える。 しかし,本研究の参加者は,2児の比較をすること で各児の特徴を捉え平等な対応である比例授乳を行う ことができていた。Theroux(1989)は,産褥早期には, プライマリーナースが双子それぞれのユニークな面の 認識を促し,両親に双子の独自性と共通性を示すこと によって親子の愛着を促進することができると述べて いる。また,Nyqvist(2002)は,母乳栄養は新生児と コミュニケーションをとり,臨機応変に対応を理解し ていく双子の母親の能力を高め,双子に対する愛着と 別々の特徴ある個としての双子の扱い方の一助となる と述べている。入院中から母親の授乳方法が形成でき るように伴走していた助産師は,母親が2児の特徴を 気づくような言葉かけによって,双子の相違や類似点 等の特徴を伝え,双子の愛着を促進するとともに優先
度を考慮した比例授乳の獲得を支援することができる と考える。特に一卵性双生児など,性別や体重差がな い場合は,2児の違いを見つけ出すことが困難と予側 され,2児間に優劣等の評価を下すような比較ではな く,母親が,双子の一人ひとりに応じて平等に授乳し たいという思いを理解し,母親が2児の特徴を見つけ 出すための比較ができるような支援が必要であると考 えられた。
Ⅵ.研究の限界
本研究の限界と今後の課題について,以下の2点を あげる。 第1に,本研究では,参加者数,及び参加者が提供 された施設の特徴的偏りから,一般化という点で限界 があると考える。本研究では,限られた対象者の中で 理論的サンプリングを行った。そのため,参加者は, 全員が自然妊娠であることや家族の協力が得られ,双 子の妊娠の受け入れがよいなどの特徴が偏っており, 理論的サンプリングが十分とは言えない。 また,本研究の対象者が分娩・産褥期に過ごした施 設は,BFHに認定されており,母乳育児を推進してい る。そのため対象者は,妊娠中より母乳育児を希望し ている母親が多く,主体的に母乳育児が継続できるよ うに行動するという点で偏りがあると考える。今後は, より多くの施設で出産した双子の母親を対象に,デー タ数を増やし研究を重ねていく必要があると考える。 第2に,本研究は,双子の母親の最も困難とされる 出産後3か月に着目した。しかし,児の成長や発達に 伴いさらに双子の特徴は変化し,双子の母親は授乳方 法を変化させていくことが予側される。そのため,出 産後3か月以降の母親が行う授乳についても調査して いくことで双子の母親の困難とされる授乳の実像が明 らかにすることができると考える。Ⅶ.結 論
出産後3か月までの双子の母親が自分なりの授乳方 法を形成するプロセスは,[比例授乳の獲得]であった。 【比例授乳】とは,《平等の愛情》を根底にして《平等 を尊重》した授乳を行うために双子のそれぞれの《個 性を尊重》し《優先度を考慮》した授乳であり,平等に したいと思いながらも《2児の比較》を行っていること に対して《矛盾した思い》を抱きながら母親が自分で 判断し作り上げる双子特有の授乳態度が本研究で見出 された。 入院中の母親は,【伴走型授乳】を行ない,退院後は 2児が同時に泣くことにより,母親の【泣きのプレッ シャー】が高まっていった。さらに【一時的な出来事】 に遭遇しながらも【迷いながらの人工乳の補充】や【頻 回授乳への対応戦略】によって2児の授乳方法を変化 させ2児の泣きと戦っていた。 母親は,出産後約1か月までは主に体重差を気づか い授乳方法を選択していた。その後【児の成長】により, 体重差への気づかいは減少し,2児を比較して個々の 特徴(吸着力・飲み方・好む姿勢)を見ながら,児の優 先度に応じて母親が判断して行う授乳へと授乳方法を 変化させていた。そして,【泣きのプレッシャー】は低 下し,2児の欲求に応じて主体的に授乳する【主体型授 乳】へ変化し,【母乳育児の継続】が行われていた(図1)。 つまり,入院中は,助産師に伴走されながら比例授 乳を行っていたが,《2児の比較》により個々の特徴に 応じて優先度に応じて,自らが判断して主体的に授乳 方法を選択し,【比例授乳】を獲得していた。 以上より,本研究のコアカテゴリーである[比例授 乳の獲得]とは,助産師に伴走されながら進める伴走 型授乳から,伴走者から独立して,子どもの欲求に応 じて,主体的に自分なりの授乳を行う主体型授乳へと 授乳方法を変化させながら,2児を比較しながら,個々 の児の優先度に応じて母親が母乳育児を継続していく プロセスであった。 謝 辞 本研究にご協力くださいましたお母様方,施設の皆 様,ご指導いただきました日本赤十字看護大学大学院 の平澤美恵子教授,谷津裕子准教授に深謝いたします。 尚,本研究は,日本赤十字看護大学大学院看護学研究 科に提出した修士論文の一部を加筆修正したものであ る。また,内容の一部は,第23回日本助産学会学術 集会で発表した。 文 献Anderson, A., & Anderson, B. (1990). Toward a Substantive Theory of MOTHER-TWIN Attachment. The American Journal of Maternal child Nursing, 15(6), 373-377. Blumer, H. (1969)/後藤将之訳(1991).シンボリック相互
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