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院内助産システムの方針と運用・管理の実態:質問紙を用いたインタビュー調査

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Academic year: 2021

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院内助産システムの方針と運用・管理の実態:

質問紙を用いたインタビュー調査

Policies and management of midwife-led unit:

Questionnaire-based interview survey

藤 田 景 子(Keiko FUJITA)

*1

片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)

*2

石 川 紀 子(Noriko ISHIKAWA)

*1

井 村 真 澄(Masumi IMURA)

*3

福 井 トシ子(Toshiko FUKUI)

*4

唐 沢

泉(Izumi KARASAWA)

*5

菊 地 敦 子(Atsuko KIKUCHI)

*6

日 隈 ふみ子(Fumiko HINOKUMA)

*7

松 村 恵 子(Keiko MATSUMURA)

*8

真 野 真紀子(Makiko MANO)

*9

吉 留 厚 子(Atsuko YOSHIDOME)

*10

工 藤 一 子(Ichiko KUDO)

*11

須 藤 桃 代(Momoyo SUDO)

*12

柏 木 麻衣子(Maiko KASHIWAGI)

*3

島 田 啓 子(Keiko SHIMADA)

*13 抄  録 目 的 本研究は,助産外来と院内助産の開設,組織体制,運営,評価に関する実態を記述することを目的と した。 2018年2月20日受付 2018年9月2日採用 2018年12月25日公開 *1静岡県立大学(University of Shizuoka)

*2聖路加国際大学(St. Luke's International University) *3日本赤十字看護大学(Japanese Red Cross College of Nursing) *4日本看護協会(Japanese Nursing Association)

*5岐阜医療科学大学(Gifu University of Medical Science) *6慶應義塾大学病院(Keio University Hospital) *7佛教大学(Bukkyo University)

*8香川県立保健医療大学(Kagawa Prefectural University of Health Sciences) *9名古屋第一赤十字病院(Japanese Red Cross Nagoya First Hospital) *10鹿児島大学(Kagoshima University)

*11秋田県看護協会(Akita Nursing Association) *12北海道科学大学(Hokkaido University of Science) *13元金沢大学(Former Kanazawa University)

(2)

方 法 本研究は助産外来と院内助産の実態を記述する量的・質的記述的研究である。研究対象施設・対象者 は,助産外来と院内助産の両者を設置し分娩の取り扱いがある病院・診療所とその施設の助産師とし た。データ収集は,対象者にヒアリング前に質問紙に記入,その事前質問紙を用いた構成的面接を 行った。期間は2017年9月から12月であった。調査内容は(1)助産師数とアドバンス助産師数(2)助産外 来・院内助産の担当助産師の要件(3)対象妊産婦の基準,等とした。量的データは記述統計量を算出し, 質的データは類似データをカテゴリ化した。本研究は,聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得 て行った(17-A 054)。 結 果 全国28施設の助産師から同意と回答を得た。院内助産の年間分娩数は,平均45.5(SD65.2)件であっ たが,0から255件と幅があり中央値は13件であった。施設全体の助産師数は平均40.6(28.9)名であり, アドバンス助産師数は平均13.5(SD9.7)名であった。助産外来に関わる助産師数は平均12.8(SD9.4)名 であり,経験年数が 10~15 年の助産師が最も多かった。一方,院内助産に関わる助産師数は 10.1 (SD3.9)名であり,経験年数20年以上が最も多かった。助産外来及び院内助産の妊婦の受診基準や医師 への報告基準は27施設(96.4%)が設けており,産婦人科診療ガイドラインを参考に作成していた。2施 設(7.1%)は,医師と協働して院内助産システムにおいて切迫早産の妊婦や社会的ハイリスク妊産婦に 関わっていた。 結 論 助産外来や院内助産の対象者の受診や報告等の基準は,産婦人科ガイドラインを基盤に作成し,医師 に相談報告がしやすい環境を生かし,助産師が安全にケアを行っている実態が明らかになった。 キーワード:助産外来,院内助産,院内助産システム,調査,管理体制 Abstract Aim

The aim of the study was to describe the actual organizational structure, policy, management and administration, and evaluation concerning the establishment of midwife-led birth units alongside hospitals or clinics where midwives conducted pregnancy checkups and deliveries.

Methods

The study design was a quantitative-qualitative descriptive study. The research facilities were hospitals and clinics, which had midwife-led birth units. The survey participants were one midwife from each facility. To collect data the researchers first sent midwives a questionnaire to respond and then they conducted structured interviews based on participants' responses. The collection period was from September to December 2017. The survey queried the: (1) number of midwives and advanced midwives, (2) requirements for midwives who could work in midwife-led birth units, and (3) criteria for pregnant women eligible for admittance to midwife-led birth units and other minor details. Descriptive statistics were used to analyze quantitative data and the qualitative data was sorted into categories re-garding their similarities. St. Luke's International University Research Ethics Review Committee (17-A 054) approved this research.

Results

Midwives from 28 medical facilities throughout Japan consented to participate. The annual average number of deliveries for midwives within the hospital 45.5 (SD 65.2), and ranged from 0 to 255 cases; the median number was 13 cases. The average number of midwives in the hospital was 40.6 (SD 28.9) and the average number of advanced midwives was 13.5 (SD 9.7). The number of midwives involved in midwifery outpatients averaged 12.8 (SD 9.4), with the most frequent period of midwifery experience being 10 to 15 years. The number of midwives involved in in-hospital midwifery was 10.1 (SD 3.9); with commonly more than 20 years of experience. The Japanese Guidelines for Obstetrics and Gynecology criteria for pregnancy admissions for midwife-led units and for referrals to obstetricians were adopted in 27 facilities (96.4%). Midwives and obstetricians collaborated with each other to support women who have threatened preterm birth or women with psychosocial risk factors at two hospitals (7.1%).

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Conclusion

In midwife-led birth units alongside the hospitals or clinics, criteria for low risk pregnancies and for referral to obstetricians were based on the Japanese Guidelines for Obstetrics and Gynecology. Midwives implemented their practice safely by using timely consultations with near by obstetricians.

Key words: outpatient midwifery, in-hospital midwifery, midwife-led birth units, survey, management

Ⅰ.緒   言

近年,安全・安心で快適な出産場所の確保は喫緊の 課題となっている。厚生労働省(2008)は「安心と希 望の医療確保ビジョン」にて,医師との連携の元,正 常分娩を助産師が担うよう助産外来・院内助産所の普 及を図ることを示した。また,開設のための施設整備 や研修事業を開始し,院内助産所ガイドラインの普及 活動の活性化を推進している。日本看護協会も 2008 年度より重点事業として「安心・安全な出産環境の実 現に向けた院内助産システムの推進」を掲げ,院内助 産システム推進プロジェクトを設置し取り組んでいる (日本看護協会,2013)。この結果,2008 年には助産 外来273施設,院内助産31施設であったものが,2014 年には助産外来 947 施設,院内助産 166 施設まで増加 した(厚生労働省,2014)。 海外の助産師主導の妊産婦ケアに関して,ローリス ク妊婦の自宅分娩と病院分娩の両群間で母児の死亡率 や罹患率は有意な差がなかったこと(de Jonge et al., 2009),助産師主導の妊産婦ケアは医師主導の管理と 比較し麻酔使用が少なく自然分娩の可能性を増加さ せ,早産と胎児死亡の確率は少ないことが報告されて いる(Sandoll et al., 2015)。 日本においても,院内助産と医師管理分娩において 安全性に差は無く,妊産婦の状態を適切にスクリーニ ングし,医師に報告協働していることが報告されてい る(高橋他,2013;間中他,2013;鈴木,2012;吉井 他,2014)。しかし,日本国内の助産外来及び院内助産 において,対象選定や運営基準にはばらつきがあるこ とが指摘されている。これは,産婦人科診療ガイドラ イン(2014)にて「個々の基準の取捨選択/数値基準の再 設定については各施設の独自性を尊重する」(p.260)と 定めていることから,各施設において運用基準を定め ていることに起因する。 平成28年に日本看護協会(2016)は分娩を取り扱っ ている病院 684,診療所 471 施設において助産外来及 び院内助産に関する実態調査において,院内助産シス テムを管理運営するうえでのアドバンス助産師数や運 営状況,対象(利用条件)等について明らかにしてい る。しかし,具体的な対象妊産婦の基準や医師への報 告基準,医師管理への移行基準といった助産外来や院 内助産を運営する上での基準に関する実態については 明らかになっていない。また,水野ら(2015)は,院 内助産システムの現状と今後の課題に関して,助産師 数や勤務形態の整備等の実態に関しての調査報告 3 件,医師管理への移行や分娩アウトカムに関する調査 研究 12 件について文献検討を行っているが,検討に 用いた調査研究はいずれも自施設1施設における報告 であり,日本の各地区における院内助産システムの実 態を明らかにしたものではない。しかし,日本におい て助産師や医師数は偏在しており,院内助産システム の運営の現状が異なることが予測される。現在,院内 助産システム機能評価指標等はあるが,助産外来及び 院内助産に関する開設や運営に関する基準を明記した ものは断片的で,標準化がなされていない。そこで, 全国の助産外来及び院内助産の開設,管理,運営,評 価に関する実態を把握する必要があると考えた。 本研究は,助産外来と院内助産を設置している分娩 取扱い施設における助産外来と院内助産の開設,組織 体制,方針,管理・運営,評価に関する実態を記述す ることを目的とする。本研究において各地域で開設さ れている助産外来や院内助産を実施し,院外に実践発 表している施設の管理運営の実態を明らかにすること は,今後の助産外来及び院内助産の開設,運営に関す る基準作りの基礎データの一助となりうる。さらには 今後,全国の母子に安全・安心な出産環境を提供する ための体制づくりに貢献できると考える。

Ⅱ.用語の定義

本研究では,助産外来,院内助産,院内助産システ ムを以下のように定義した。 1.助産外来 妊婦・褥婦の健康診査並びに保健指導が助産師によ り行われる外来をいう(日本看護協会,2009)。

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2.院内助産 分娩を目的に入院する産婦および産後の母子に対 して,助産師が主体的なケア提供を行う方法・体制を いう。特に,ローリスクの分娩は助産師により行われ る(日本看護協会,2009)。 3.院内助産システム 病院や診療所において,保健師助産師看護師法で定 められている業務範囲にのっとって,妊婦健康診査, 分娩介助並びに保健指導(健康相談・教育)を助産師 が主体的に行う看護・助産提供体制としての「助産外 来」や「院内助産」を持ち,助産師を活用する仕組み をいう(日本看護協会,2009)。 4.助産外来及び院内助産の標準化 JISにおける「標準」とは,「関係する人々の間で利益 又は利便が公正に得られるように,統一し,単純化を 図る目的で,もの(生産活動の産出物)及びもの以外 (組織,責任権限,システム,方法など)について定 めた取決め」としている(日本工業規格,2004)。本研 究における“助産外来及び院内助産の標準化”とは,こ の定義を活用し「関係する人々の間で利益又は利便が 公正に得られるように,統一し,単純化を図る目的 で,院内助産システムの組織,責任権限,システム, 方法などについて定めた取決め」と定義する。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究デザイン 実際に各地域において院内助産システムを可動さ せ,院外に実践報告している施設の実際の取り組んで いる状況を丁寧に記述することで実態を明らかにする ことを目的とした。よって,院内助産システムの実態 として具体的な状況を記述することとし,構成的面接 によって得られたデータを分析した記述研究とした。 2.研究対象者 研究対象施設は,分娩の取り扱いがあり,助産外来 と院内助産の両者を設置している病院および診療所で あり,北海道,東北,関東甲信越,中部,関西,中国 四国,九州の各地区から選択した。研究対象者は,研 究対象施設の産科の看護管理者または助産外来と院内 助産のケアの実際を把握している研究対象施設の助産 師1名とした。 3.サンプル数 本研究の対象とする院内助産システムを有する施設 は全国に166施設(厚生労働省,2014)であるが,各地 域により医師や助産師数に偏りもみられ,院内助産シ ステムに関しても地域性が大きく関係していることが 考えられた。そこで,本研究において全国を北海道地 区,東北地区,関東甲信越地区,中部地区,関西地区, 中国・四国地区,九州地区の 7 地区に分けた。次に, 研究対象施設について文献検索を行い,助産外来・院 内助産に関する実践報告(学会抄録等)を行なっている 施設の中から,院内助産システムに精通している各地 区の共同研究者を中心に地区毎に選出した。さらに, 機縁法にて助産外来・院内助産を行っている施設を追 加した。 4.データ収集方法 抽出した研究対象施設の施設長または看護部長に対 し電話にて施設用研究説明書と事前質問紙の送付の可 否を尋ね,許可が得られたらこれらの書類を送付した。 施設長または看護部長から,産科の看護管理者など 助産外来と院内助産実施状況を把握している人(研究 対象者)を紹介してもらった。インタビューは,研究 対象者の都合がよくプライバシーが守れる場所に研究 者が出向いた。インタビューの前に,再度文書および 口頭にて研究説明を行い,同意が得られたら同意書に 署名してもらった。データ収集期間は,2017年9月か ら12月であった。 研究対象者には,インタビューの前に事前質問紙を 配布し記入してもらい,回答に必要な資料等と共に, イ ン タ ビ ュ ー 場 所 に 持 参 し て も ら っ た。 イ ン タ ビューは,事前質問紙の項目に沿って構成的面接を実 施した。事前に記入してある項目は回答について確認 し,回答していない項目や詳細の内容についてインタ ビューにて回答してもらった。インタビューは1時間 程度とし,研究対象者の承諾が得られたら IC レコー ダーにて録音した。 5.調査内容 調査内容は,助産外来と院内助産について,助産師 数とアドバンス助産師数,担当助産師の基準,助産師 の教育体制,対象妊産婦基準,専用医療機器・備品, 料金設定,業務基準・手順,産後のケア体制,連携体 制,感染管理,災害時対策,広報ツール等とした。施 設の特性として施設の種類(周産期母子医療セン

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ター/一般病院/診療所),産科病棟の形態,産科病 床数,年間分娩数,研究対象者の特性として年齢,所 属および職位,助産師としての経験年数を収集した。 6.データ分析方法 事前質問紙を用いたインタビュー調査において得ら れた助産師人数等の量的変数や,「はい」「いいえ」等 を変数に変換した質的変数については,度数分布,記 述統計量を算出した。事前質問紙を用いたインタ ビューにおいて聞き取った内容は,その場で事前質問 紙に記載した。事前質問紙に記載された自由記載内容 や,インタビューにおいて聞き取った内容について は,意味のまとまりごとに抽出し,意味内容の類似性 に従い分類し,その分類を反映したカテゴリーネーム をつけた。 7.倫理的配慮 本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫 理指針」を遵守して行った。研究対象者には,研究説 明書を用いて,研究の目的や方法に加え,研究協力及 び撤回の自由意思,データの安全な保管及び破棄,個 人情報やプライバシーの保護について口頭及び文書に て説明し,同意書に署名をもらった。本研究は,聖路 加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った (17-A 054)。

Ⅳ.結   果

本研究で対象とした施設は,助産外来と院内助産の 両者を設置している病院および診療所であることか ら,助産外来及び院内助産の項目における 28 施設は 同一施設である。 1.研究対象施設 研究対象施設は,28 施設(北海道 2 施設,東北 2 施 設,関東甲信越 3 施設,中部 3 施設,関西 7 施設,中 国四国 8 施設,九州 3 施設)の医療機関である。その 内訳は総合周産期母子医療センター8施設,地域周産 期母子医療センター8施設,一般病院10施設,診療所 2施設であった。このうちの半数(57.1%)は,混合病 棟であった。産科の病床数は平均 27.7(SD15.9)床で あり,院内助産の平均は 2.0(SD3.7)床であったが, 半数以上(57.1%)が院内助産専用の病床はなかった。 年間分娩数(2016年)の平均は,716.1(SD596.6)件で あり,0から2773件と幅があった。同年の院内助産の 年間分娩数は,平均45.5(SD65.2)件であったが,0か ら 255 件と幅があり最頻値は 11 件,中央値は 13 件で あった。0~10 件が最も多かったが 100 件を超える施 設が5施設あった。 研究対象者は,各研究対象施設の助産師1名であり, そ の 年 齢 は 50 歳 代 が 14 名(50.0%), 40 歳 代 13 名 (46.4%),30歳代1名であり,職位は師長19名(67.9%) で最も多く,主任6名(21.4%),スタッフ1名,看護部 長2名であった。 2.施設の助産師の特性 研究対象施設全体の助産師数は平均 40.6(SD28.9, range 6-134)名であり,産科病棟の助産師数は平均 29.2(SD20.9, range3-89)名であった。施設全体のアド バンス助産師の平均人数は 13.5(SD9.7, range0-39)名 であった。助産外来担当助産師全員がアドバンス助産 師である施設は7施設あり,半数以上がアドバンス助 産師である施設は,22施設であった。院内助産では, 担当助産師全員がアドバンス助産師である施設は9施 設あり,半数以上がアドバンス助産師である施設は, 27施設であった。院内助産では特にアドバンス助産 師を活用していたことがわかった。 助 産 外 来 に 関 わ る 助 産 師 数 は, 施 設 平 均 12.8 (SD9.4)名であり,助産師経験年数が10~15年が最も 多く平均 3.4 名,20 年以上 3.2 名,5~10 年も 3.2 名で あった。一方,院内助産に関わる助産師数は,施設平 均10.1(SD3.9)名であり,助産師経験年数20年以上が 最も多く3.4名,次に5~10年2.4名であった。助産外 来に関わるアドバンス助産師数は施設平均8.2(SD5.0, range0-16)名であり,院内助産も 7.6(SD3.9, range0-15)名であった。 3.助産外来の実施 1)助産外来の実施状況 助産外来の開設年で最も多かったのは,2005 年と 2007年であり各年5施設であった。この時期をピーク に徐々に減少していた。助産外来の週当たりの実施日 数は,5日/週が最も多く15施設(55.6%)であり,続 い て 3 日 / 週 が 4 施 設(14.8%), 6 日 / 週 が 3 施 設 (11.1%)であった。助産外来における 1日当たりの妊 婦健診件数は平均5.7(SD5.0)件/日であった。また, 1名 の 助 産 師 が 担 当 す る 妊 婦 健 診 件 数 は 平 均 5.6 (SD3.2)名 / 日, 産 後 健 診 は 1.8(SD2.1, median2,

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range0-8)名/日と少なかった。助産外来の所要時間 は,平均43.2(SD12.5)分/回であった。健診料金は, 平均 4,581.4(SD1,574.3, range2,000-8,000)円/回であ り,医師と同額が25(89.3%)施設であり,3施設が医 師より低額であった。 2)助産外来の対象妊婦の受診基準 助産外来の対象妊婦の受診基準は,27 施設全て(1 施設未記入)において基準を設けていた。院内助産対 象の助産外来受診の具体的基準は,助産師が管理でき る対象者としていた。正常に妊娠期を経過している妊 婦,単胎,感染症の罹患がない,体重増加が正常範囲 内,合併症がない,産科的既往がない等が挙げられ た。助産外来対象妊婦に対しては,妊娠 12 週~19 週 頃に助産外来及び院内助産に関する説明を助産師が行 い,分娩対象基準を満たしているか判断し,医師の確 認を得て,助産外来の対象妊婦となっていた。1施設 (3.6%)は本人及び家族の同意を条件としていた。 さらに,1施設は,助産外来において,シングルマ ザーや生活保護者等の社会的ハイリスクについても医 療ソーシャルワーカーや保健師との連携をもちながら 関わっていた。 3)週数別の助産外来と医師外来の基準 28施設すべてにおいて,助産外来と医師外来の受 診週数を取り決めていた。助産外来と医師外来の受診 スケジュールが提示された 18 施設のうち,最も早く 助産外来を行っていたのは 12 週(1 施設)であった。 次に 16 週から開始している施設が 5 施設,24 週から の開始が7施設であった。その後,医師外来と交互に 助産外来を行っている等様々であった。 4)医師への診察依頼及び報告基準 28施設中 27 施設(96.4%)は医師への診察依頼及び 報告基準を設けていた。産婦人科診療ガイドラインを 参考にチェックリストを作成し,逸脱した場合には, 医師に診察依頼及び報告を行い,必要時に医師とカン ファレンスを行い情報共有していた。 具体的な基準としては,胎動の減少や超音波検査所 見において胎児の発育を認めない場合,羊水量異常, 妊娠28週または36週以降の胎位異常,胎児の発育遅延 が挙げられていた。また,母体の正常からの逸脱項目 として,尿検査の結果や血圧,貧血,血糖,感染症等 の異常,切迫徴候が見られた場合等が挙げられた。2施 設は,切迫早産になったとしても,その後問題なけれ ば院内助産対象者として助産外来で再び診察対象とし ていたり,医師との協働管理基準を設けたりしていた。 助産外来において,助産師が異常と判断した場合 や,助産師が相談したい時には,医師が隣のブースで 外来を行っているため,気軽に診察の相談ができると いう意見や,助産師と医師が状況を共有し,助産外来 において妊婦健診を実施しているという意見も聞か れ,院内助産システムにおける助産師と医師との協働 で妊婦健診を行っていた。 医師への報告基準を設けていないと回答した1施設 (3.6%)は,診療所であり,常に医師と相談しながら 運営をしているため特別な組織づくりもしていないと のことであった。 5)妊娠経過中における医師管理への移行率と移行 内容 妊娠中の医師管理への移行率は,0%~70% であっ た。移行理由としては,妊娠高血圧症候群(Hyper-tensive disorders pf pregnancy:HDP),切迫早産,貧 血,体重増加,予定日超過等が挙げられ,それは助産 外来の対象妊婦の基準を逸脱した場合であった。 4.院内助産の実施 1)院内助産の実施状況 院内助産の開設年は,2009年が最も多く5施設,続 いて2013年4施設であった。院内助産における1日の 担当助産師数は,1 名が 14 施設(50.0%)で,2名が 11 施設(39.3%),未記入 3 施設(10.7%)であった。勤務 体制は,2 交代制が 11 施設(39.3%),続いて 3 交代制 が7施設(25.0%)で,2交替と3交替を選べるのは1施 設(3.6%)であった。また,2交替と3交替を選べ,そ の上で院内助産があればオンコールとなる施設が1施 設(3.6%),2交替制ではあるが院内助産があればオン コールとなる施設は 3 施設(10.7%),当直体制は 1 施 設(3.6%),オンコール体制のみは 3 施設(10.7%)で あった。妊娠期からの受持ち制は,9施設(32.1%)が 行っており,チーム受持ち制をとっていたのが3施設 (10.7%)であった。院内助産の分娩料金は平均 46.9 (SD9.1)万円であり,医師と同額が19施設(67.9%)で あり,医師より低額の施設が 5施設(17.9%),高額の 施設が3施設(10.7%)あった。 すべての施設で院内助産では産婦に異常がない限 り,助産師のみで分娩介助を含めケアを行っていた。 会陰裂傷の対応は,28施設中 14施設(50%)の回答で あるが,第1度裂傷は様子観察またはクレンメで対応 すると回答した施設が10施設と最も多かった。第2度 裂傷に関しては 7 施設(25.0%)の回答ではあるが,1

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施設で院内にて認定を受けた助産師が縫合を行ってお り,他6施設は医師が縫合を行っていた。 2)院内助産の対象妊婦の受診基準 院内助産の対象妊婦の受診基準について,28 施設 (100.0%)全てが基準を設けており,産婦人科診療ガ イドライン等の基準に準じて作成していた。具体的な 基準としては,リスクスコアの点数が 0~1 点や 2 点, 3点以下等,各施設において基準として設けていた。 また,本人や家族の希望があり,正常に経過し,医師 の許可が得られている妊婦を受診基準として設けてい た。1 施設(3.6%)は,妊娠,分娩経過中の異常によ り医師による分娩に移行した場合でも,産後経過が正 常で院内助産希望があれば利用できると回答した。 3)医師への診察依頼及び報告基準 院内助産の妊婦に関して医師への診察依頼及び報告 基準を設けている施設は,手順見直し中で情報の得ら れなかった 1 施設を除いた 27 施設中 26 施設(96.3%) であった。1 施設は助産外来の妊婦の受診基準と同 様,院内の基準は設けていないが,診療所であり「常 に医師と相談しながら運営をしている」と回答した。 基準を設けている26施設中6施設(21.4%)は,院内助 産対象産婦の医師への診察依頼及び報告基準につい て,産婦人科診療ガイドラインに準ずるとし,助産師 が正常から逸脱していると判断した時,適宜医師に相 談していた。26 施設の具体的な基準としては,破水 時の所見や CTG 所見,血圧等の母体の健康状態,微 弱陣痛,回旋異常等の分娩遷延及び分娩停止,異常出 血や胎盤遺残等であった。 4)妊娠経過中における医師管理への移行基準と移行率 院内助産から医師管理分娩への移行基準は,28 施 設中27施設(96.4%)があると回答した。1施設は,院 内助産除外基準のみならず,医師との協働管理基準を 設けていた。移行基準についても,報告基準と同様6 施設(21.4%)が産婦人科診療ガイドラインに準じ,他 の施設は各病院での基準を設け,その基準より逸脱し た際に医師管理へ移行としていた。1施設は,41週を 超えたら,院内助産で医師立会いの元医療介入の分娩 となると回答した。 分娩経過中の移行率は,11.1%~35% であった。移 行理由としては,児心音の低下や胎児心拍異常,血圧 上昇,母体発熱,前期破水,弛緩出血等の分娩時異常 出血,GBS,分娩所用時間,卵膜遺残,胎盤娩出が自 然に行われない等であった。また,予定日超過や破水 後の未陣発,微弱陣痛による遷延分娩等の理由により 陣痛誘発剤や陣痛促進剤の使用のため医師管理分娩に 移行していた。 5)産褥期(入院中・退院後)のケア実施状況 退院後のケアを院内助産システムの一環として実施 している施設は,20 施設(74.1%)であった。その内 容は,母乳外来が16施設(57.1%),2週間健診が14施 設(50.0%),1 か月健診が 9 施設(32.1%)であった。 電話訪問は8施設(28.6%)が実施していた。 5.院内助産システムの運営・管理体制 1)院内助産システムの位置づけ 組織内の院内助産システムの位置づけについて,28 施設中 27 施設(96.4%)から回答が得られた。看護部 のみに位置づけている施設は 6 施設(22.2%),看護部 の助産科が 1 施設(3.7%),看護部と周産期母子セン ターが 1 施設(3.7%),看護部と産科の双方が 1 施設 (3.7%),組織としては看護部,機能は外来診療とし て位置づけているが 1 施設(3.7%)であった。また, 産科・産婦人科診療科内に位置づけているのは7施設 (25.9%),産科病棟内は 2 施設(7.4%),第一診療局は 1施設(3.7%),周産期母子センターは3施設(11.1%), 2つの診療所のうち 1 施設(3.7%)は位置づけなし,1 施設(3.7%)は診療所内で独立していた。さらに,1 施設(3.7%)は助産所として独立した位置づけとなっ ていた。 2)院内助産システムの理念や基本方針 院内助産システムの理念や基本方針を明文化してい る施設は,23 施設(82.1%)であった。明文化してい ないと回答した3施設(10.7%)においても,周産期セ ンターの助産理念や産科病棟の基本方針,産科病棟内 に位置づけられている理念や基本方針,看護部の理念 に基づいていると回答していた。具体的には,「妊産 褥婦とその家族に安心・安全・快適で満足のいく出産 と産後の母子ケアの提供」等,安心,安全,快適,寄 り添いといった言葉が多く使用されていた。 3)院内助産システムの年度の活動目標 年度の活動目標は,21 施設(75.0%)で設定されて いた。目標内容は,年度の分娩数や産後ケアの入院数 等の具体的な数値や,「母乳育児の推進」といった助産 ケア目標,「院内助産を担える助産師の確保」と言った 教育目標を設定していた。目標を設定していないと回 答した 7 施設(25.0%)においても,その内の 1 施設は 年度毎の目標ではないが目標を立てていたり,他の1 施設は産科病棟内の活動目標に準じていたりした。医

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師と助産師が協働で目標を設定している施設は年度の 活動目標を設定している 21 施設中 14 施設(66.7%)で あった。 4)院内助産システム・担当助産師のケアの評価 院内助産システムの評価について,分娩の振返り等 で実施後の評価をしている施設は 25 施設(89.3%)で あった。3施設(10.7%)は評価を実施しておらず,マ ンパワー不足がその理由であった。 担当助産師のケアの自己評価を実施している施設 は,25施設(89.3%)であった。評価内容は「バースプ ランに基づいたケアができたか」「対象者が満足して いるか」等アンケート結果とバースプランをすり合わ せたり,バースレビュ結果から対象者の満足度を検討 したり,カンファレンスを行い評価していた。 助産師による他者評価を行っている施設は 23 施設 (82.1%)で あ っ た。 そ の 内 容 は, 妊 産 婦 や 家 族 の ニーズやバースプランに答えられていたかといった対 象者へのケアに関する評価や,チームワーク体制や院 内助産の雰囲気,院内助産における協力体制や過度な 負担等の運営上の評価を行っていた。評価方法は,医 師と助産師とで評価を行ったり,院内助産の経験年数 が長い助産師と経験年数の浅い助産師がペアで院内助 産を担当したりと,相互評価等を用いていた。 院内助産システムを利用した対象者からの評価は, 妊婦及び家族の満足度等から行っている施設は 27 施 設(96.4%)であった。満足度は,入院期間中や退院時 などに行うアンケートやお産ノート,意見箱,バース プランの評価,バースレビュに基づく振返り等により 行っていた。妊産婦や家族からの意見として,「妊婦 健診で顔見知りになった助産師が立ち会ってくれてよ かった」といった助産師への評価や,「何かあれば周産 期センターがあるのも安心だった」「助産師の存在の 大きさと緊急時は医師が駆けつけてくれるという安心 感がある」のように院内助産に特徴的感想も得られて いた。 5)院内助産システムの周知方法 周知方法としては,外来で対象となりそうな妊婦に 紹介する,医師が院内助産のリーフレットで説明す る,マタニティ相談室にリーフレットを設置する,助 産師が月一回説明会を実施,妊婦健診時に助産師や医 師の説明等を行っていた。周知のための媒体は,HP やリーフレット,母親教室等のカレンダーに記載,地 域の広報誌,病院報,院内掲示,助産師新聞等を用い ていた。 6)院内助産システムに関する定期会議の開催 院内助産システムに関する定期的な会議は,24 施 設(85.7%)が実施していた。頻度について回答した 14施設中,5 施設は週に 1 回から月 2 回,8 施設は月 1 回,1施設は2ヶ月に1回の開催頻度であった。定期会 議の内容は,対象者の情報共有やケア方針の確認,院 内助産の対象者となりうるか,助産外来対象から医師 管理に移行するかどうか,事例の振返りといったと いった対象者に関する内容や,院内助産システムの運 営について定期的に会議を行っていた。定期会議のメ ンバーは,産科医や小児科医,薬剤師,臨床心理士, MSW,医事課職員,遺伝カウンセラーといった職種 や,産科,MFICU,バースセンターの医師や助産師 といった関係職種での連携会議が行われていた。2施 設(8.3%)は,助産外来においてハイリスク妊婦を発 見し,地域につなげる必要があったり,事前に保健師 より社会的ハイリスク妊婦の情報を受け助産外来で フォローしたりする場合があるため,保健師等と定期 的に対象者の情報共有を行う会議を行っていた。 院内助産システムの運営や利用実態といった実施状 況について,28 施設全ての施設において,師長等の 産科管理者や医師が把握しており,定期的に情報交換 やカンファレンスを行い院内助産システムの運営実施 状況を共有していた。また,1施設は体制として院内 助産担当師長と担当医師を設けていた。 7)対象者及び家族の権利の明文化 院内助産システムの対象妊産婦及び家族の権利を明 文化している施設は 28 施設中 18 施設(64.3%)であっ た。具体的な方法としては,いつでも院内助産を辞退 可能であること等を説明書と同意書に明示したり,病 院の玄関に提示したりしていた。明文化していないと 回答した8施設(28.6%)では,患者の権利は明記して いるが家族の権利までは記載していないという施設 や,病院の基本方針に患者の権利が明文化されてお り,その方針に沿った対応をしているようであった。 2施設(7.1%)はわからないと回答していた。 8)院内助産システムに特化した安全管理指針・感染 管理指針 院内助産システムに特化した安全管理指針が「あ る」と回答した施設は 28 施設中 13 施設(46.4%)であ り,院内助産システムの報告連絡相談に関する指示命 令系統の明文化や,出血等の緊急時の対応,児の連れ 去り防止といった防犯に関するもの,ベビーセン サーといった児の安全に関するものであった。「ない」

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と回答した 15 施設(53.6%)は,病院の安全管理指針 に基づいていると回答した。 院内助産システムに特化した感染管理指針があると 回答したのは28施設中4施設(14.8%)であった。具体 的には,感染症の母親から出生した新生児の取り扱い や,GBS 陽性妊婦の対応,混合病棟における MRSA の定期検査やゾーニングといった産科特有の内容を部 署マニュアルに記載していた。院内助産システムに特 化した感染管理指針はないと回答した24施設(85.7%) は,院内助産システムに特化はしていないが病院の感 染対策に準じていると回答した。 9)インシデント・アクシデント発生時の対応手順 院内助産システムでインシデント・アクシデントが 起こった場合の対応手順については,1 施設(3.6%) のみ現在手順を見直し中のためわからないと回答した が,他 27 施設(96.4%)は全て院内の医療事故の対応 に基づいて行っていると回答した。 6.院内助産システムの課題 院内助産システムの課題は,以下の 6 点であった。 「院内助産を担当できる人材育成と人材確保」が 16 施 設(57.1%),「院内助産の対象妊産婦が少ないこと」6 施設(21.4%),「病院内組織における院内助産システム の位置づけの調整」6 施設(21.4%),「多職種・地域連 携」5 施設(17.9%),「院内助産に携わる助産師のモチ ベーションの維持」3 施設(10.7%),「院内助産システ ムの運営管理」2施設(7.1%)であった。 院内助産を担当できる人材育成と人材確保につい て,具体的には,院内助産を担当できる助産実践能力 の向上や,ハイリスク妊産婦への対応,院内助産を担 当する助産師の人員確保,院内助産を担当できる新人 の育成,院内助産を担当するためにアドバンス助産師 申請のための分娩数の確保が課題として上がってい た。院内助産の対象妊産婦が少ないことについては, ローリスク要件が厳しいこと,妊産婦の院内助産の周 知度が低いこと等を要因としてあげていた。病院内組 織における院内助産システムの位置づけの調整とし て,勤務体制の調整の困難があった。院内助産担当助 産師は LDR 勤務となっておりオンコールとの両立の ため勤務調整が難しいことや,助産外来と院内助産の 勤務体制の組み方,院内助産分娩待機の拘束手当の支 給等,勤務体制をどのように組んだらよいか各施設に おいて課題となっていた。病院内組織における院内助 産システムの位置づけによっては勤務体制の調整が難 しくなったり,助産外来と院内助産の連動の調整がで きづらかったりしている現状があった。院内助産シス テムの運営には病院の理解も必要であるが,そこも課 題として挙げられていた。さらに,院内助産に携わる 助産師のモチベーションは,院内助産システムの開設 リーダーの退職や異動により低下していたり,混合病 棟で働く助産師が助産師の専門性においてモチベー ションが下がったりしているという意見が聞かれた。 しかし,院内助産システムを取り入れることでモチ ベーションが上がるという意見も聞かれた。

Ⅴ.考   察

1.助産外来・院内助産の実施状況について 日本全国の助産外来,院内助産の数は年々増加して いる。これまで院内助産の分娩数は,個別の病院の報 告はあるものの,28 施設の院内助産の傾向を示した のは本報告が初めてである。院内助産での年間分娩数 は,平均約46件であったが,0~10件である施設が多 かった。一方,年間分娩数が 100 件を超える施設も 5 施設あった。本研究のデータでは,取扱い分娩数の 違いによる施設の特徴は見いだせなかったが,院内助 産の分娩数を増やすことを,多くの施設において課題 としていた。今後,年間分娩数が多いまたは増加して いる院内助産の特徴を明確化することで,院内助産 を発展させるための方略を考察することができると考 える。 助産外来や院内助産の対象者の受診基準は,産婦人 科診療ガイドライン産科編(2017)の『Low risk妊婦抽 出のためのチェックリスト』,『妊娠週数別検査結果 チェックリスト』等の項目を参考に各施設において受 診基準を決めていた。本研究の対象施設は,ガイドラ インを遵守し,本研究の対象施設における助産外来や 院内助産の対象者基準を定め,妊婦の安全性を保証し ていると考える。しかし,昨今のハイリスク妊婦の増 加に伴い,対象妊婦が少なくなっている現状がある。 今回の調査では,実際に医師と助産師が協働し,ハイ リスク妊産婦を院内助産システムにおいてフォローし ている施設があった。医師や院内の多職種との情報共 有やケア方針の決定の会議等を定期的に設定している 施設も多く,多職種で関われるのは院内助産システム の強みと考える。今後,ハイリスク妊産婦も含めた妊 産婦の多様なニーズに応じた形で院内助産システムを 有効活用するために,医師にすぐに報告相談できる環

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境の強みを生かした院内助産システムの在り方を今一 度検討する必要がある。 助産外来及び院内助産において,医師への診察依頼 や報告基準については,ほぼ全ての施設で設けてい た。報告基準としては,院内助産ガイドライン(中林, 2008)の医師への報告の目安の項目の使用,産婦人科 診療ガイドラインのLow risk妊婦の基準から逸脱した 場合に医師へ相談報告を行っていた。本研究の協力施 設28施設のうち2施設は,切迫早産等,助産外来を受 診していた妊産婦が切迫早産になる等一時的に医師外 来に切り替わったとしても,その後問題なければ院内 助産対象者として助産外来で再び診察対象としてお り,助産師と医師が連携・協働して妊婦健診や分娩を 行っていた。これは「助産師主導院内助産システム」 の定義が「予め当該病(医)院常勤医師との間で策定さ れたルールに基づき,助産師が医師の同席・立ち合い なしに妊娠・分娩管理ができる体制,かつ必要に応じ て速やかに医師主導に切り替えられる体制である」と 明記されている通り(日本産婦人科ガイドライン, 2017),病院・診療所の中に助産外来,院内助産を設 置しているシステムの強みであると考えられる。 本調査の対象とした 28 施設すべてにおいて助産外 来と医師外来の受診週数を取り決めていた。しかし, 助産外来と医師外来の受診週数は各施設によって 様々であり,助産師と医師が交互に妊婦健診を行って いる施設も多かった。産婦人科診療ガイドライン (2017)によると,妊娠初期,妊娠20週,妊娠30週は 医師主導でなされることが望ましく,その他必要時に 応じて速やかに医師主導に切り替えられる体制が推奨 されていることから,これらの週数以外は助産外来で フォローしていくことは可能であると考えられる。全 妊娠分娩の約3割は全妊娠全期間を通じて数回の医師 の診察のみ(助産師が妊娠分娩管理を行う)で良好な 妊娠予後が得られるとの報告もあり(MacDorman MF, et al, 1998),院内に「助産外来」「院内助産」を設置し ていることで医師にすぐに相談できる体制という院内 助産システムの強みを生かし,助産外来の回数を増や すなど外来受診スケジュールを検討していくことも今 後必要である。 助産外来や院内助産においてフォローしている妊産 婦の中には,社会的ハイリスクであるシングルマザー や生活保護者もおり,医療ソーシャルワーカーや保健 師との連携を持ちながら関わっていた。周産期では妊 産婦のメンタルヘルスや望まない妊娠,産後うつ病, 児童虐待などが深刻化しており,助産師による妊娠期 の支援は,ハイリスク者の把握,出産準備教育におけ る情報提供などが効果的であるとの報告もある(長友 他,2013)。本研究において,助産外来の所要時間は平 均43.2分/回であったことからも,社会的ハイリスク 妊産婦に助産師が丁寧に関わることが可能であり,医 師やMSW,地域の保健師等多職種と連携を持ちながら 支援していくことで,社会的ハイリスク妊婦の増加と いう近年の状況へも助産外来が有効であると考える。 2.院内助産システムの運営・管理体制 院内助産システムの理念や基本方針について,23施 設(82.1%)が明文化していた。2008年度に厚生労働省 が「安心と希望の医療確保ビジョン」を打ちだし,医師 と連携して正常分娩を助産師が担い,助産外来・院内 助 産 の 普 及 を 図 る こ と が 示 さ れ た(厚 生 労 働 省, 2008)。厚生労働省医政局の院内助産所・助産外来開設 促進事業等の実施ついて(2009)において,助産外来・ 院内助産所の推進の目的として「妊婦の多様なニーズ に応え,地域における安全・安心・快適なお産の場を 確保するとともに,産科病院・産科診療所において助 産師を積極的に活用し,正常産を助産師が担うことで 産科医師の負担を軽減する」としており,各施設にお いてもこの理念を基盤に明文化していると考えられる。 年度の目標について21施設(75.0%)が設定しており, 具体的な数値目標を掲げていた。具体的な数値目標を 掲げその達成を評価していくことは,システム全体を より良いものに改善していくためにも重要である。ま た,多くの施設にて利用者である産婦や家族からの評 価を得ていた。その中で,助産師のケアへの満足に関 する評価や,医師が身近にいる状況での院内助産であ る安心感という利用者からの意見も聞かれていた。 Low risk妊娠・分娩では助産師主導の妊娠・分娩管理 が,予後を損なわずに終了することができ(Hiraizumi, 2013),妊婦から肯定的評価(妊婦の満足度が高い)を 受ける可能性がある(Turnbull, et al., 1996)との報告も ある。院内助産システムは,利用する妊産婦や家族か らも安心が得られていると評価することができ,妊産 婦の満足度の向上のためにも更なる設置の促進が求め られる。 3.本研究の限界と今後の課題 本報告の研究対象施設は,全国の助産外来と院内助 産から無作為抽出されたものではないため,全体の傾

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向を示してはいない。今後,助産外来及び院内助産の 実践や安全性を示すデータも含め,対象施設を増や し,調査を継続していく必要がある。

Ⅵ.結   論

本研究の結果より,院内助産システムの対象者の基 準として産婦人科ガイドラインを基盤に安全を担保し つつ,医師に相談報告がしやすい環境を生かし,助産 師がケアを行っていた。院内に「助産外来」「院内助 産」を設置しているという強みを生かし,昨今の妊産 婦の身体的・精神的・社会的ハイリスクの増加を踏ま え,医師と協働して助産師の専門性を生かせるシステ ムを検討し,普及していくことが今後も求められる。 謝 辞 本研究において,調査にご協力くださいました対象 者の皆様に感謝いたします。なお,本研究は日本助産 学会研究助成(特別指定研究「院内助産システムの標 準化研究」)を受けて行った。本論文は,日本助産学 会助産政策委員会平成 29 年度活動報告における,日 本助産学会 委託研究助成 特別指定研究「院内助産 システムの標準化研究」の一部を加筆・修正したもの である。 利益相反 本研究に関わる利益相反はありません。 文 献

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参照

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