脳磁図(MEG)を利用した脳機能計測とその応用
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(2) 脳磁図(MEG)を利用した脳機能計測とその応用. 515. 表 1 各種脳機能計測法の特徴 計測方法. 計測対象. 空間分解能 (mm). 時間分解能 (秒). EEG. 神経活動 (電位). 30 ‒ 40. 10. MEG. 神経活動 (磁場). 5‒7. 10 4 ‒ 10. fMRI. 神経活動に伴う 血流動態. 3‒5. NIRS. 神経活動に伴う 血流動態. 20. 長所. 短所. 高時間分解能, 低拘束性,低コスト. 低空間分解能. 高時間分解能 高空間分解能. 深部での低感度. 4‒5. 高空間分解能. 低時間分解能. 4‒5. 低拘束性. 低時間分解能 低空間分解能. ‒3. ‒. ‒3. りをもった神経活動が発生し,同時に複数の領域が活動 するため,脳全体での処理過程を把握することが困難で ある。 2.空間フィルタ法 空間フィルタ法は,空間領域における適合信号処理技 術を MEG 信号処理に応用した方法である. 7)8). 。頭蓋内. の関心領域を格子状(voxel)に区切り,2 つの状態間 における神経活動の変化について,各 voxel の信号強度 を推定することができる。この手法を用いることで,関 図 1 脳磁図計測の概要 超伝導素子を用いたセンサーによって,細胞内電流が右 ねじの法則にしたがって外部につくりだす磁場を検出し ている.. 心領域外からの信号をノイズとして除去し,妨害信号に 埋もれた弱い信号を検出することが可能となる。また, 複数の広がりをもった領域の神経活動を捉えることが可 能で,データを加算平均しないため,等価電流双極子法 では失われがちな高周波成分も長潜時まで調べることが. どがある。加算平均法は,微弱な脳磁場を加算すること. できる。そのため,空間フィルタ法は高次脳機能解析に. により,脳の磁場強度変化を波形として検出する方法. も適している。. で,100 ミリ秒程度までの比較的短潜時の脳活動を検出 するのに適している(図 2A)。等磁場線図は,ある時. 3.脳律動変化. 間における磁場分布を視覚的に捉えるために,磁場の等. 脳律動については,閉眼時に後頭部優位に出現する α. しい部分を線で結んで表示したものであり,前述の加算. 波をはじめ,いくつかの脳領域において特有の同期性脳. 平均法で得られた特定の時間の磁場分布をこの等磁場線. 活動(基礎律動)が観察される。これらの基礎律動が,. 図で表せば,磁場の湧きだしと吸いこみの分布を知るこ. 脳賦活に伴い脱同期して信号強度が減弱する現象は事. とができる(図 2B)。等価電流双極子法はこの磁場の湧. 象関連脱同期(event-related desynchronization:以下,. きだし・吸いこみ分布の間にある電流源を双極子として. ERD) ,あるいは逆に同期して信号強度が増強する現象. 推定するものであり,正確に電流源を推定することがで. は事象関連同期(event-related synchronization:以下,. きる(図 2C) 。これらの手法には,比較的簡単な原理で. ERS)として知られている 11). 9)10). 。近年ではこの ERD や. や体性感覚処理 12),言語活動 13) や記. 脳磁場を把握できるという長所があるが,一方でいくつ. ERS が運動. かの短所もある。たとえば,加算平均法で刺激に対する. 憶. 誘発反応を検出する場合には,刺激から近い短潜時領域. な単位のひとつとして考えられつつある。本稿では,例. では脳の反応も刺激に対して位相がそろっているため詳. として右手運動時の脳律動変化を示す(図 3A) 。右手. しい情報が得られるが,刺激から離れた長潜時領域では. の運動開始前から左運動野周辺のセンサーで α 帯域(8. 脳の反応の位相はばらつく可能性がある。そのため,高. ∼ 13 Hz),β 帯域(13 ∼ 25 Hz)の ERD が認められる。. 周波数帯域になるほど脳の情報が失われやすい。また,. また,前述の空間フィルタ法を用いてこの律動変化を解. 等価電流双極子法では電流源をひとつの領域と仮定して. 析することによって,高い空間分解能で運動種特有の脳. 推定するが,認知機能などの高次脳機能では脳内で広が. 律動変化をマッピングすることができる(図 3B) 。. 14). など,様々な情報処理における脳内表現の基本的.
(3) 516. 理学療法学 第 43 巻第 6 号. 図 2 標準的脳磁図解析法 右手指屈曲時の反応を示す. (A)加算平均波形, (B)等磁場線図, (C)上図矢印 時点における等価電流双極子. 図 3 運動関連脳律動変化 (A)運動野周辺センサー(右図)から得られた右手指屈曲時の脳律動変 化.運動開始(0 秒)前後で α 帯域(8 ∼ 13 Hz) ,β 帯域(13 ∼ 25 Hz) の ERD が認められる. (B)空間フィルタ解析によって得られた β 帯域の ERD.運動種特有の脳活動をマッピングすることができる.. 4.脳領域間解析. 野で脳活動が上昇するのが見て取れ,さらに,開始直後. 空間フィルタ法を用いて脳内の特定の領域の時系列信 15). には両者の活動に有意差が生じていることがわかる。こ. 。この手. のことは,実際の運動と運動イメージとでは開始直後か. 法を用いて,特定の脳領域のデータを解析することによ. ら一次運動野における情報処理過程が異なることを示. り,領域ごとの脳磁場の差を比較することが可能とな. している. る。図 4 は,仮想センサー法を用いて右手運動および運. の脳活動をミリ秒単位で解析できるのが MEG の特徴で. 動イメージ時の脳領域ごとの磁場強度の変化を抽出した. ある。. 号を抽出する手法を仮想センサー法という. ものである。運動・運動イメージに伴い,左の一次運動. 16). 。このように,脳領域を詳細に分割し,そ.
(4) 脳磁図(MEG)を利用した脳機能計測とその応用. 517. 図 4 右手指屈曲運動・運動イメージ時の各脳領域における脳活動 仮想センサー法を用いて左右の前頭前野(●) ,運動野(★) ,感覚野(■)および頭 頂葉(◆)の各領域からそれぞれ 40 点の脳信号を抽出し,領域ごとに平均.左の運動 野で運動および運動イメージ開始直後の脳活動に有意差が認められるが(* p < 0.05) , そのほかの領域では有意差は見られない(文献 16 より改変引用) .. 5.脳領域間機能的ネットワークの可視化. つの有意な機能的ネットワークが存在するかを示してい. 近年,脳内ネットワークの構造・機能解析を目的とし. る。本解析を行うことで,運動イメージ時にどの脳領域. たイメージング手法が提案されたことで,脳機能を異. がネットワークの拠点,すなわち「ハブ」になっている. なる機能に特化した脳領域の集合としてではなく,相. のかを知ることができる。この結果では,左の感覚運動. 互に接続した脳領域が情報のやり取りをしながら働く. 野,両側の頭頂葉にネットワークが集中しており,特に. ネットワークとして理解することの重要性が再認識さ. 左の運動野がネットワークのハブとして機能しているこ. 17). 。ここで,ネットワークを規定する脳領域. とがわかる。このように,脳領域間の機能的ネットワー. 間の結合には解剖学的結合だけでなく,機能的ネット. クを解析することで,情報の流れを詳細に可視化できる. ワーク,たとえば coherence などによって評価される. ようになっている。. れている. functional connectivity や,granger causality などによっ て評価される effective connectivity がある. 18). 。本稿で. は,coherence の虚部を用いる imaginary coherence 解. MEG を用いたニューロリハビリテーション の可能性. 析について紹介する。imaginary coherence の特徴は,. 近年,fMRI や EEG, MEG で脳活動を計測してこれを. 外部からのノイズや体積伝導などの位相成分が同期しや. コンピュータで解読(decoding)し,脳信号の意味す. すい coherence の実部を排除し虚部のみを使用すること. るところ,すなわち脳機能の内容を推定し,外部機器を. にある. 19). 。これにより,ある特定の時間差をもって脳. 内で形成される「真のネットワーク」を検出できると考 20)21). 操作しようとする研究が盛んに行われている. 22‒25). 。こ. のような技術は Brain-machine interface(BMI)と呼ば. 。図 5A は,空間フィルタ法によっ. れ,重度の運動機能障害によって失われた神経機能の代. て各脳領域から得られた運動イメージ中の脳磁場を用い. 行や新しい神経リハビリテーション手法の開発につなが. て imaginary coherence 解析を行った結果である。左の. るとして近年期待が高まっている. 感覚運動野と各脳領域(特に頭頂葉)との間に強い機能. が開発した MEG によるリアルタイム・ニューロフィー. 的ネットワークが形成されているのが見て取れる。ま. ドバックシステムについて紹介する. た,図 5B は上記の機能的ネットワークをもとに度数分. などによって一側上肢の運動が困難になった患者に対. 布を調べたもので,各マーカーは該当する脳領域にいく. し,麻痺手の運動イメージ(伸展・屈曲)を行わせ,そ. えられている. 26). 。本稿では,我々. 27). 。腕神経叢麻痺.
(5) 518. 理学療法学 第 43 巻第 6 号. 図 5 右手屈曲運動イメージ時の機能的ネットワーク (A)有意な機能的ネットワークを脳画像に重畳したもの.左の感覚運動野と各脳領域 との間に強い機能ネットワークが認められる. (B) 各脳領域に存在する有意な機能的ネッ トワークの度数分布.degree が高い部分ほど他の脳領域とのネットワークを多くもち, ネットワークの「ハブ」として機能していることを示す.左の感覚運動野と両側の頭頂 葉にネットワークの「ハブ」が多数認められる.. の際の脳信号を MEG で計測した(図 6) 。これを,サポー ト・ベクター・マシンという機械学習アルゴリズムに学 習データとしてパラメーター設定を行い,次にそのパラ メーターを用いて連続的な decoding を行った。そして, その decoding 結果を連続的に出力することで,ロボッ トハンドをリアルタイムで制御した。その際,ロボット ハンドの動きはリアルタイムに患者へと視覚フィード バックした(詳細は文献 27 を参照) 。本システムを用い ることで,一側上肢麻痺の患者が自らの脳信号を適切に コントロールすることでロボットアームを制御できるこ とが明らかとなった。このようなリアルタイム・ニュー ロフィードバックシステムはこれまで EEG を用いて 行われることが多かったが. 28‒30). ,本システムの開発に. よって,より空間分解能が高い MEG での実施が可能と なった。今回,我々は腕神経叢麻痺や上肢切断患者に対 して本システムを用いたが,脳卒中片麻痺患者の麻痺側. 図 6 脳磁図によるロボットハンドのリアルタイム制御 ①患者は視覚刺激に合わせて,②麻痺側手指の伸展(または 屈曲)の運動イメージを行う.③運動イメージ中の脳活動を 脳磁図で計測し,④運動イメージの内容を解読アルゴリズム で連続的に解読.⑤運動イメージの解析結果をロボットハン ドに出力して連続的に動きを制御する.⑥ロボットハンドの 動きは患者に対して視覚的にフィードバックする(文献 27 より改変引用).. 上肢に対するニューロリハビリテーションとして本シス テムを用いることで,麻痺側上肢の運動機能が向上する と期待しており,今後さらに検証を進める予定である。. おわりに. 性について,我々の知見を交えて紹介した。MEG はこ れまで,運動や感覚機能,高次脳機能解明のための基礎 研究で用いられることが多かった。しかし,今後は科学. MEG を用いた脳機能計測について概説するとともに,. 技術・解析技術の進歩と相まって,脳領域間の機能的. MEG による新たなニューロリハビリテーションの可能. ネットワーク解明やそれを用いた新たな治療応用,すな.
(6) 脳磁図(MEG)を利用した脳機能計測とその応用. わちニューロリハビリテーションの開発など,応用的・ 実用的な研究分野においても広く貢献していくものと考 えられる。 文 献 1)Hirata M: Neural decoding and brain machine interfaces based on electromagnetic oscillatory activities: a challenge for MEG. In: Supek S, Aine CJ (eds): Magnetoencephalography, Springer-Verlag Berlin Heidelberg, Germany, 2014, pp. 503‒ 505. 2)依藤史郎,平田雅之,他:神経領域の生理機能検査の現状 と展開.臨床病理.2012; 60: 900‒903. 3)Hari R, Parkkonen L, et al.: The brain in time: insights from neuromagnetic recordings. Ann N Y Acad Sci. 2010; 1191: 89‒109. 4)Cohen D: Magnetoencephalography: detection of the brain’s electrical activity with a superconducting magnetometer. Science. 1972; 175: 664‒666. 5)Heckman CJ, Mottram C, et al.: Motoneuron excitability: the importance of neuromodulatory inputs. Clin Neurophysiol. 2009; 120: 2040‒2054. 6)西谷信之,柴崎 浩:MEG による高次脳機能研究.神経 進歩.2003; 47: 882‒889. 7)Sekihara K, Nagarajan SS, et al.: Application of an MEG eigenspace beamformer to reconstructing spatio-temporal activities of neural sources. Hum Brain Mapp. 2002; 15: 199‒215. 8)Sekihara K, Sahani M, et al.: Localization bias and spatial resolution of adaptive and non-adaptive spatial filters for MEG source reconstruction. Neuroimage. 2005; 25: 1056‒ 1067. 9)Pfurtscheller G: Graphical display and statistical evaluation of event-related desynchronization (ERD). Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1977; 43: 757‒760. 10)Pfurtscheller G: Event-related synchronization (ERS): an electrophysiological correlate of cortical areas at rest. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1992; 83: 62‒69. 11)Pfurtscheller G, Graimann B, et al.: Spatiotemporal patterns of beta desynchronization and gamma synchronization in corticographic data during self-paced movement. Clin Neurophysiol. 2003; 114: 1226‒1236. 12)Baker SN: Oscillatory interactions between sensorimotor cortex and the periphery. Curr Opin Neurobiol. 2007; 17: 649‒655. 13)Goto T, Hirata M, et al.: Frequency-dependent spatiotemporal distribution of cerebral oscillatory changes during silent reading: a magnetoencephalograhic group analysis. Neuroimage. 2011; 54: 560‒567. 14)Burke JF, Zaghloul KA, et al.: Synchronous and asynchronous theta and gamma activity during episodic memory formation. J Neurosci. 2013; 33: 292‒304. 15)Robinson SE, Vrba J: Functional neuroimaging by. 519. synthetic aperture magnetometry (SAM). In: Yoshimoto T, Kotani M, et al. (eds): Recent Advances in Biomagnetism, Tohoku Univ Press, Japan, 1999, pp. 302‒305. 16)Sugata H, Hirata M, et al.: Common neural correlates of real and imagined movements contributing to the performance of brain-machine interfaces. Sci Rep. 2016; 6: 24663. 17)Sporns O: Networks of the Brain. The MIT Press, Massachusetts, 2011. 18)Stam CJ, van Straaten EC: The organization of physiological brain networks. Clin Neurophysiol. 2012; 123: 1067‒1087. 19)Sugata H, Hirata M, et al.: Alpha band functional connectivity correlates with the performance of brainmachine interfaces to decode real and imagined movements. Front Hum Neurosci. 2014; 8: 620. 20)Guggisberg AG, Honma SM, et al.: Mapping functional connectivity in patients with brain lesions. Ann Neurol. 2008; 63: 193‒203. 21)Nolte G, Bai O, et al.: Identifying true brain interaction from EEG data using the imaginary part of coherency. Clin Neurophysiol. 2004; 115: 2292‒2307. 22)Birbaumer N: Breaking the silence: brain-computer interfaces (BCI) for communication and motor control. Psychophysiology. 2006; 43: 517‒532. 23)Hirata M, Matsushita K, et al.: Motor Restoration Based on the Brain-Machine Interface Using Brain Surface Electrodes: Real-Time Robot Control and a Fully Implantable Wireless System. Advanced Robotics. 2012; 26: 399‒408. 24)Wolpaw JR, Birbaumer N, et al.: Brain-computer interfaces for communication and control. Clin Neurophysiol. 2002; 113: 767‒791. 25)Sugata H, Goto T, et al.: Neural decoding of unilateral upper limb movements using single trial MEG signals. Brain Res. 2012; 1468: 29‒37. 26)菅田陽怜,平田雅之,他:脳・脊髄疾患への BMI の応用. 脊椎脊髄ジャーナル.2014; 27: 121‒127. 27)Fukuma R, Yanagisawa T, et al.: Real-Time Control of a Neuroprosthetic Hand by Magnetoencephalographic Signals from Paralysed Patients. Sci Rep. 2016; 6: 21781. 28)Ramos-Murguialday A, Broetz D, et al.: Brain-machineinterface in chronic stroke rehabilitation: A controlled study. Ann Neurol. 2013; 74: 100‒108. 29)Shindo K, Kawashima K, et al.: Effects of neurofeedback training with an electroencephalogram-based braincomputer interface for hand paralysis in patients with chronic stroke: a preliminary case series study. J Rehabil Med. 2011; 43: 951‒957. 30)Sugata H, Hirata M, et al.: Relationship between the spatial pattern of P300 and performance of a P300-based brain-computer interface in amyotrophic lateral sclerosis. Brain-Computer Interfaces. 2016; 3: 1‒8..
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