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脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因の検討

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 1 号 1 ∼ 8 頁(2019 脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因の検討 年). 1. 研究論文(原著). 脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因の検討* 荒 川 武 士 1)# 石 田 茂 靖 2) 佐 藤   祐 2) 森 田 祐 二 2) 下 川 龍 平 3)  煙 山 翔 子 3) 岡 村   唯 3) 新 野 直 明 4). 要旨 【目的】本研究の目的は,脳血管障害者の嚥下障害の関連要因について,おもに運動要因に着目して検討 することである。 【方法】対象は回復期病棟入院中の脳血管障害者 90 名(嚥下障害あり 45 名,嚥下障害 なし 45 名)とした。調査項目は,基本属性の他に上下肢の運動麻痺の程度,歩行自立度,舌圧,舌骨上 筋群の筋力,喉頭位置,頸部可動域,脊柱後弯度,体幹機能,呼吸機能,握力などの運動要因を評価し た。単変量解析にて有意な差があったものを説明変数とし,嚥下障害の有無を目的変数とした二項ロジス ティック回帰分析(尤度比検定:変数減少法)を実施した。【結果】脳血管障害者の嚥下障害に関連する 運動要因は,舌骨上筋群の筋力,頸部伸展可動域,脊柱後弯度であることが明らかとなった。 【結論】本 報告は,理学療法士でも嚥下障害に介入できる可能性を示すものになると考えられ,臨床場面でも応用可 能な有益な情報になるものと考えられた。 キーワード 脳血管障害,嚥下障害,関連要因. 機能の低下は誤嚥が原因で起こる誤嚥性肺炎を引き起こ. はじめに. し,生命に大きく影響する。以上のことからも嚥下機能. 1.背景. に対する取り組みは,人の尊厳や生命を守るうえで大き.  嚥下障害は脳血管障害発症直後の急性期で約半数にみ. な意味があるといえ,優先して改善すべき後遺症のひと. られ,そのうちの約 1 割は発症後 1 ヵ月間以上継続する. つと考えられる。. 1‒3). 。嚥下機能に関連する日常生活動作.  嚥下障害を引き起こす原疾患の約 4 割が脳血管障害で. の食事は生存に必要なばかりでなく,日常の大きな楽し. あり,嚥下中枢の障害による球麻痺や両側の皮質延髄路. みでもある。特に高齢障害者にとって「残された最後の. の障害による偽性球麻痺,一側の大脳半球障害など脳の. 楽しみ」と推測され,生活の質を考えるうえでも重要な. 器質的病変によるものが代表的である. キーワードとなる。また,食事動作は障害者の日常生活. 球麻痺は嚥下関連諸器官が障害されて嚥下障害が生じる. 活動において難易度がもっとも低く,「食べる」という. が,一側性脳障害による嚥下障害は,嚥下中枢に直接的. 欲求から動機づけしやすいこともあり,脳血管障害者で. な損傷がないにもかかわらず生じる嚥下障害であり,そ. 4) は最後まで自立している項目でもある 。さらに,嚥下. の中には脳血管障害後の筋緊張変化や姿勢調節障害など. といわれている. *. An Examination of Motor Functions Associated with Dysphagia Caused by Cerebrovascular Disease 1)専門学校東京医療学院 (〒 104‒0033 東京都中央区新川 1‒10‒18) Takeshi Arakawa, PT: Tokyo College of Allied Medicine 2)東京脳神経センター病院 Shigeyasu Ishida, PT, Yu Sato, PT, Yuji Morita, PT: Tokyo Neurological Center Hospital 3)葛飾リハビリテーション病院 Ryuhei Shimokawa, PT, Shoko Kemuriyama, PT, Yui Okamura, PT: Katsushika Rehabilitation Hospital 4)桜美林大学大学院老年学研究科 Naoakira Niino, MD, PhD: Graduate School of Gerontology J. F. Oberlin University # E-mail: [email protected] (受付日 2018 年 4 月 17 日/受理日 2018 年 9 月 10 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 11 月 30 日]. 5). 。球麻痺・偽性. の関連要因によって嚥下運動が阻害されている者が存在 する可能性が推測される。しかし,嚥下障害の関連要因 に対する報告の多くは予後予測を目的にしたもので. 6‒10). ,. リハビリテーション介入が可能な関連要因に着目した検 討は十分とはいえない。吉田らは喉頭運動に着目して臨 床指標を開発し. 11). ,脳血管障害後の嚥下障害者に対し. て喉頭運動と頸部・体幹機能の関係を縦断研究によって 検討したところ,舌骨上筋群の機能,頸部・体幹機能な どが嚥下運動の関連要因であったとしている. 12). 。この. 研究では,日常生活における姿勢の影響などその他の身 体要因についても検証することが課題となっていた。し.

(2) 2. 理学療法学 第 46 巻第 1 号. かし,その後の報告は症例報告にとどまっており 13)14),. 3.目的. 十数年間この議論は進んでいない。そのため,検討要因.  本研究の目的は,脳血管障害者の嚥下障害の関連要因. を増やして追実験を実施することは,効果的なリハビリ. について,おもに運動要因に着目して検討することであ. テーションプログラムの確立においてきわめて重要な知. る。関連要因を明らかにすることは,介入ポイントを明. 見を提供するものと期待される。. 確にした効果的な治療を実施するうえで重要と考えら れ,機能回復促進のための有効な手段の開発につながる. 2.嚥下障害の定義づけと病態仮説の設定. ものと考えられる。.  ものを食べる動作は,5 期モデル(先行期,準備期, 口腔期,咽頭期,食道期)で説明され. 15). ,これらのど. 方   法. こかが障害されてものを食べることが困難になることを. 1.対象. 摂食嚥下障害(Dysphagia)という。しかし,狭義では.  対象は,2017 年 8 月 10 日∼ 2018 年 3 月 31 日に東京. 先行期と準備期が「摂食」を指し,口腔期,咽頭期,食. 都内の A リハビリテーション病院および B 病院の回復. 道期が「嚥下」を指すとされ,嚥下障害とは食塊を口腔. 期リハビリテーション病棟(それぞれ 83 床,96 床)に,. から胃へと送り込む一連の輸送機構の障害(飲み込むこ. 急性期治療を脱して脳血管障害後遺症のリハビリテー. との障害 Swallowing disorder)とされている. 16)17). 。そ. ションをおもな目的として入院し,以下の選択基準・除. こで,本研究における「嚥下」とは狭義の嚥下を指すこ. 外基準に適合した脳血管障害者とした。選択基準は,1). ととし,「嚥下障害」とは狭義の嚥下が障害されること. 65 歳以上,2)初回発作,3)単一病変,4)発症後 1 ヵ. とする。たとえば,意識障害や高次脳機能障害によって. 月以上 1 年以内,5)意思の疎通が可能なもの,6)頭頸. 食物が口腔内に入っても認知できずに飲み込むことがで. 部・体幹・四肢に本研究を行うのに問題があるようなあ. きない場合は準備期の問題(摂食障害)であり,本研究. きらかな拘縮・疼痛を認めないもの,7)本研究に対し. の嚥下障害とは区別することとする。. て同意が得られるものとした。除外基準は,1)嚥下障.  嚥下障害は嚥下反射の障害と捉えられ,嚥下反射の遅. 害または歯科領域の問題などにより本発症前より調整食. 延や惹起不全 Robbins. 19). 18). などと表現されることがある。しかし,. や青木. 20). らは嚥下障害者に対して舌尖の. を摂取しているもの,2)意識レベルが低下しているも の(Japan Coma Scale. 26). 2 桁以上),3)認知機能が低 27). 挙上位を保持させる等尺性収縮運動にて舌圧を強化する. 下しているもの(改訂長谷川式簡易知能評価スケール. 訓練を実施し,嚥下障害の改善を報告している。また,. 20 点以下または Mini Mental State Examination ミニメ. 喉頭挙上にかかわる舌骨上筋群の筋力を強化すること. ンタルステート検査. で,喉頭挙上能力の改善や食道入口部の開大による嚥下. 吸器障害を合併し運動に対するリスクを呈するもの,5). 障害の改善効果が期待できるとされており,背臥位にて. 主治医が不適当と判断したものとした。まず,嚥下障害. 頭部挙上運動を実施するシャキア法(Shaker exercise). あり群を 45 名選別し,次に,嚥下障害あり群を基準に. は変法も含め,その効果が本邦においても広く認知され. 性別・年齢・発症からの日数をマッチング(性別:同. ている. 21)22). 。これらの報告より,嚥下を舌や舌骨上筋. 群による「嚥下運動」として捉えることが可能ではない かと推測される. 11). 。さらに,頸椎の可動性を制限した. 28). 23 点以下),4)循環器障害や呼. 性,年齢:± 5 歳,発症からの日数:± 30 日)させた 嚥下障害なし群を選別した。嚥下障害の有無の判定は, 反復唾液嚥下テストを実施し,30 秒間に 3 回未満の場 29). 。嚥下障害あり群の嚥下障. 状態にて,嚥下造影検査を用いて嚥下への影響を調査し. 合に嚥下障害ありとした. たところ,健常人においても嚥下が困難になるという報. 害の程度は,functional oral intake scale(FOIS). 告が存在する. 23). 。また,姿勢,体幹機能などの改善に. よって脳血管障害者の嚥下障害が改善したという症例報 告. 13)24). や呼気筋トレーニングによって高齢者の嚥下能. 力が改善したという報告が存在する. 25). 。これらの報告. 30). に. て Level 5 ∼ 6(刻み食トロミかけ,全粥軟菜食レベル) でペースト食や経管栄養のものは存在しなかった。ま た,嚥下障害なし群の中には,調整食を摂取している者 が存在したが,それらの対象者は,本発症前より調整食. より,頸部可動域,姿勢,体幹機能,呼吸機能は嚥下運. を摂取していることを確認した。. 動を阻害する要因であることが推測される。そこで本研.  対象者には事前に口頭および書面にて十分な説明を行. 究において,前述のような嚥下関連筋群や嚥下に影響を. い,書面による同意を得たうえで実施した。なお,本研. 与える姿勢運動項目を「運動要因」と呼ぶこととし,嚥. 究は桜美林大学研究倫理委員会での承認(承認番号. 下障害を吉田の提案. 11)12). に準じ,嚥下運動障害と捉え. 17011)を得たうえで実施した。. ることとした。 2.調査項目  調査項目として,基本属性および運動要因の評価を実.

(3) 脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因の検討. 3. 表 1 GS グレードの判定基準 1. 完全落下. 途中で保持できず床上まで落下するもの. 2. 重度落下. 頸部屈曲可動域の 2 分の 1 以上落下するが止まるもの. 3. 軽度落下. 可動域の 2 分の 1 以内で落下が止まるもの. 4. 静止保持. 最大屈曲位で落下せずに止まるもの. 表 2 運動要因の評価項目と評価方法および各変数への数値の割り振り 評価項目. 評価方法,カテゴリーの割りあて. 1. 上下肢の運動麻痺の程度. Brunnstrom recovery Stage Ⅰ・Ⅱ:重度,Ⅲ・Ⅳ:中等度,Ⅴ・Ⅵ:重度. 2. 歩行自立度. 非自立:1,自立:0. 3. 舌圧. JMS 舌圧測定器. 4. 舌骨上筋群筋力. GS グレード 完全落下∼軽度落下:1(筋力低下),静止保持:0(正常). 5. 喉頭位置. 相対的喉頭位置. 6. 頸部可動域. 方向:屈曲,伸展,側屈,回旋. 7. 脊柱後弯度. 円背指数. 8. 体幹機能. Trunk impairment scale. 9. 呼吸機能. 最大呼吸流速(peak expiratory flow rate: PEF). 10. 握力. kg / 体重. 施した。. 骨上端は上甲状切痕部,胸骨上端は胸骨上縁正中部とし.  基本属性は,年齢,性別,Body Mass Index(以下,. た。測定値は 5 mm 単位のメモリにもっとも近い値と. BMI),診断名(出血または梗塞),麻痺側(右または左),. し,GT/(GT + TS)の値を計算して小数点第 3 位を四. 延髄嚥下中枢の病巣の有無,発症からの日数とした。運. 捨五入した値を算出した。相対的喉頭位置は,値が小さ. 動要因は,上下肢の運動麻痺の程度,歩行自立度,舌圧,. いほど喉頭位置が上方にあることを意味している。頸部. 舌骨上筋群の筋力,喉頭位置,頸部可動域,脊柱後弯度,. 可動域は,日本整形外科学会,日本リハビリテーション. 体幹機能,呼吸機能,握力とした。上下肢の運動麻痺の. 医学会制定の方法に準じ,ゴニオメーターを使用して 5. 程度は Brunnstrom recovery Stage を用い,Ⅰ・Ⅱを. 度単位で測定した。方向は,屈曲,伸展,回旋,側屈と. 31). し,側屈および回旋に関しては左右の制限がある角度を. 歩行自立度は,杖や装具の使用を問わず日中病棟歩行自. 選択した。脊柱後弯度は,寺垣らの方法に準じて評価し. 立である「自立」と歩行困難で車いすを日常的に使用し. た. ている場合や離床困難でベッド上生活の場合の「非自. 長さ 60 cm の自在曲線定規(ステッドラー社製)を用い,. 立」で評価した。舌圧は,JMS 舌圧測定器(GC 社製). 第 7 頸椎から第 4 腰椎棘突起までの背部の弯曲をなぞり,. 重度,Ⅲ・Ⅳを中等度,Ⅴ・Ⅵを軽度に分類した. を使用して 3 回計測し,平均値を算出した. 。. 20). 。舌骨上. 11). 32). 。方法は,腕組み・足底非接地の安楽座位にて,. その形状を紙上にトレースした。紙上にトレースした弯. に準じて評価した。. 曲の第 7 頸椎と第 4 腰椎を結ぶ直線を L(cm),直線 L. 方法は,背臥位で頸部を他動的に最大前方屈曲位にし,. から弯曲の頂点までの距離を H(cm)とし,その割合. 下顎を引いて保持するよう指示してから手を離し,自力. を円背指数(H / L × 100)として算出した。体幹機能. で静止保持させた。このときの頭部が落下する程度を 4. 33) は Trunk impairment scale(以下,TIS) にて評価し,. 段階のグレードで評価し(表 1),1 の完全落下から 3 の. 合計点を算出した。呼吸機能は,嚥下機能と関連性のあ. 軽度落下を筋力低下,4 の静止保持を正常とする 2 段階. る咳嗽能力(cough peak flow)の指標として最大呼吸. 筋群の筋力は吉田の GS グレード. で評価した。喉頭位置は吉田の相対的喉頭位置. 11). に準. 流速(peak expiratory flow rate:PEF)を代用し,ス 34). 。CHESTGRAPH ジュ. じて評価した。方法は,側臥位で頸部最大伸展位とし,. パイロメーターにて評価した. オトガイ(Genio)と甲状軟骨(Thyroid)上端間の距. ニア HI-101(チェスト株式会社製)を使用して 3 回測. 離(GT)と甲状軟骨(Thyroid)上端と胸骨(Stemum). 定し,最大値を採用した。握力は,非麻痺側の握力を 2. 上端間の距離(TS)をテープメジャーにて計測した。. 回計測し,平均値を体重で除して体重比を算出した。運. ランドマークは,オトガイは下顎底全面中央部,甲状軟. 動要因の評価項目をまとめたものを表 2 に記した。.

(4) 4. 理学療法学 第 46 巻第 1 号. 表 3 基本属性 嚥下障害あり群(45 名) 年齢(歳) 性別(男 / 女). 嚥下障害なし群(45 名). 75.6 ± 6.2. 有意差. 73.7 ± 6.3. n.s.. 28 / 17. 28 / 17. n.s.. 21.8 ± 4.0. 21.8 ± 3.3. n.s.. 診断名(出血 / 梗塞). 15 / 30. 22 / 23. n.s.. 麻痺側(右 / 左). 17 / 28. 18 / 27. n.s.. 嚥下中枢損傷の有無(有 / 無). 0 / 45. 0 / 45. n.s.. 53.4 ± 30.4. 58.8 ± 31.5. n.s.. BMI. 発症からの日数(日). 平均値±標準偏差 2 性別,診断名,麻痺側,嚥下中枢損傷の有無:χ 検定,その他:対応のない t 検定 n.s.:非有意. 表 4 単変量解析結果 嚥下障害あり群(45 名). 嚥下障害なし群(45 名). 有意差. 上肢の運動麻痺(Ⅰ・Ⅱ / Ⅲ・Ⅳ / Ⅳ・Ⅵ). 14 / 13 / 18. 8 / 14 / 23. n.s.. 下肢の運動麻痺(Ⅰ・Ⅱ / Ⅲ・Ⅳ / Ⅳ・Ⅵ). 5 / 21 / 19. 4 / 18 / 23. n.s.. 3 / 42. 13 / 32. **. 20.0 ± 10.1. 28.8 ± 10.0. **. 28 / 17. 2 / 43. **. 相対的喉頭位置. 0.45 ± 0.05. 0.44 ± 0.04. n.s.. 頸部可動域 屈曲(度). 35.1 ± 11.0. 38.1 ± 11.0. n.s.. 頸部可動域 伸展(度). 0.1 ± 13.5. 20.2 ± 16.0. **. 頸部可動域 側屈(度). 20.5 ± 11.1. 30.0 ± 9.9. **. 頸部可動域 回旋(度). 33.2 ± 11.3. 44.2 ± 11.8. **. 脊柱後弯度(円背指数). 歩行自立度(自立 / 非自立) 舌圧(KPa) 舌骨上筋群の筋力(筋力低下 / 正常). 14.8 ± 5.2. 9.4 ± 4.7. **. 体幹機能 Trunk Impairment Scale(点). 6.9 ± 5.4. 11.5 ± 4.3. **. 最大呼吸流速(L / min). 3.4 ± 1.8. 4.4 ± 2.0. *. 39.7 ± 11.1. **. 握力(kg / 体重). 31.6 ± 14.1. 平均値±標準偏差 上下肢の運動麻痺,歩行自立度,舌骨上筋群の筋力:χ 2 検定,その他:対応のない t 検定 **:p < 0.01,*:p < 0.05,n.s.:非有意 頸部可動域(側屈・回旋)は制限側のみ. 3.データ分析方法. ティック回帰分析(尤度比検定:変数減少法)を実施し.  まず,基本属性の検討を確認のために実施した。嚥下. た。有意水準は 5% とした。解析ソフトには SPSS ver.. 障害あり群と嚥下障害なし群について,名義尺度(性別,. 24(IBM 社製)を使用した。. 2 診断名,麻痺側,延髄嚥下中枢の病巣の有無)は χ 検定. にて検討した。間隔尺度または比率尺度(年齢,BMI,. 結   果. 発症からの日数)は対応のない t 検定にて検討した。. 1.基本属性.  次に,運動要因の関連を,嚥下障害あり群と嚥下障害.  基本属性について嚥下障害あり群と嚥下障害なし群を. なし群について,単変量解析にて検討した。名義尺度. 検討した結果を表 3 に示した。すべての項目で有意な差. (上下肢の運動麻痺の程度,歩行自立度,舌骨上筋群の. は認められなかった。. 2. 筋力)は χ 検定にて検討した。間隔尺度または比率尺 度(舌圧,喉頭位置,頸部可動域,脊柱後弯度,体幹機. 2.運動要因. 能,呼吸機能,握力)は対応のない t 検定にて検討した。. 1)単変量解析.  嚥下障害の有無で比較した単変量解析にて有意差を認.  運動要因の関連について嚥下障害あり群と嚥下障害な. めた運動要因から,多重共線性を考慮して説明変数を選. し群を単変量解析にて検討した結果を表 4 に示した。歩. 択し,嚥下障害の有無を目的変数とした二項ロジス. 行自立度,舌圧,舌骨上筋群筋力(GS グレード) ,頸部.

(5) 脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因の検討. 5. 表 5 多変量解析(二項ロジスティック回帰分析)結果 オッズ比. オッズ比の 95%信頼区間. 舌骨上筋群筋力(GS グレード). 回帰係数 ‒ 2.69. < 0.01. 0.06. 0.01 ∼ 0.34. 頸部可動域(伸展). ‒ 0.06. < 0.01. 0.94. 0.90 ∼ 0.98. 0.13. 0.04. 1.14. 1.00 ∼ 1.31. 脊柱後弯度(円背指数). p値. 2. モデル χ 検定 p < 0.01,Hosmer-Lemeshow 検定 p = 0.87,判別的中率 80.0% 目的変数:嚥下障害あり 1・嚥下障害なし 0 説明変数:GS グレード;低下 1・正常 0,頸部可動域・円背指数;連続変数. 可動域(伸展) ,頸部可動域(側屈),頸部可動域(回旋),. れる嚥下障害は,時間経過による自然回復が期待できる. 脊柱後弯度(円背指数) ,体幹機能(TIS),呼吸機能(最. とされており. 大呼吸流速),握力に有意差を認めた(最大呼吸流速は. 害は約 1 割とされている. p < 0.05,その他はすべて p < 0.01) 。. 以上経過したものを選択基準とし,嚥下障害なし群は発. 2)多変量解析(二項ロジスティック回帰分析). 症からの日数をマッチングさせた。. 35). ,発症後 1 ヵ月間以上継続する嚥下障 1‒3). 。そのため,発症後 1 ヵ月.  単変量解析にて有意差を認めた説明変数の多重共線性 を考慮し,Spearman の相関係数を用いた検討を行った. 2.運動要因. 結果,相関係数の絶対値が 0.7 を超えるものが存在しな.  運動要因については,単変量解析の時点で,上下肢の. かった。そのため,単変量解析にて有意差を認めたすべ. 運動麻痺の程度,相対的喉頭位置,頸部可動域(屈曲). ての運動要因を説明変数とし,嚥下障害の有無(嚥下障. について有意な差はみられなかった。. 害あり:1,なし:0)を目的変数とした二項ロジスティッ.  脳卒中急性期では,運動麻痺の程度と嚥下障害の有無. ク回帰分析(尤度比検定,変数減少法)を実施した。結果,. または経口摂取の可否について関連性があるという報告. 2. 10)36). モデル χ 検定 p < 0.01,Hosmer - Lemeshow 検定 p =. が存在する. 0.87,判別的中率 80.0% であり,高い的中率を示した。. 歩行獲得の可能性にもかかわると報告されており. 選択された要因は,舌骨上筋群の筋力(GS グレード). 急性期における上下肢の運動麻痺の程度は身体機能や嚥. (回帰係数 ‒ 2.69,p < 0.01,オッズ比 0.06,95%信頼区. 。発症初期の運動麻痺の程度は将来の 37). ,. 下機能となんらかの関連があるものと考えられる。しか. 間:0.01 ‒ 0.34),頸部可動域(伸展)(回帰係数 ‒ 0.06,. し,本研究で対象とした発症 1 ヵ月後以上の場合は,運. p < 0.01, オ ッ ズ 比 0.94,95 % 信 頼 区 間:0.90 ‒ 0.98),. 動麻痺の程度は必ずしも嚥下機能と関連があるとはいえ. 脊柱後弯度(円背指数)(回帰係数 0.13,p < 0.05,オッ. ず,嚥下障害の関連要因となる可能性が低いことが示唆. ズ比 1.14,95%信頼区間:1.00 ‒ 1.31)の 3 要因であっ. された。加齢により喉頭位置が低位となることで喉頭挙. た(表 5)。. 上が不十分となり嚥下が困難になることが報告されてい る. 考   察. 38). 。しかし,脳血管障害者の喉頭位置は高位になる. という報告. 39). や喉頭位置が変化しなくても嚥下障害が 13). が存在する。そのため,脳血管. 1.基本属性. 改善したという報告.  基本属性において,嚥下障害あり群と嚥下障害なし群. 障害者の喉頭位置の変化は高齢者とは異なる機序や原因. との間に有意な差は認められなかった。このことは,運. が推測され,今後は姿勢や体幹機能の影響なども含めて. 動要因を検討する前提条件として重要であると考えら. 諸要因との関係を厳密に検討していきたい。. れた。.  頸部可動域の改善は頸部周囲筋のリラクゼーションを.  急性期脳血管障害者を対象とした先行研究において,. 図るうえでも重要性が指摘されているが. 嚥下障害の有無もしくは摂食嚥下障害者の経口摂取可否 8)10). についての指摘は少ない. 21). ,運動方向. 12)40). 。本研究において頸部屈. 。. 曲の可動域は,嚥下障害あり群・なし群ともに平均約. 本研究では初回発作・単一病変を選択基準としたため,. 40 度であり,日本整形外科学会,日本リハビリテーショ. 両側病変が存在する対象者は除外している。その理由と. ン医学会が制定する参考可動域 60 度と比較しても,著. して以下の 2 つを挙げた。1 つ目に両側病変の存在は意. 明な制限があるとはいえない。その理由については,急. 識障害や両片麻痺症状の存在を示唆していると考えら. 性期病院での情報を入手できなかったために明言はでき. れ,本研究において除外している摂食障害者が含まれて. ないが,急性期病院でのなんらかの処置が少なからず影. しまう可能性が考えられたためである。2 つ目に,両側. 響していることが推測され,今後は急性期病院への協力. 性支配である体幹筋群の機能に影響を与えてしまう可能. を依頼して再検討することが必要と考えられた。. 性が考えられたためである。また,脳卒中急性期にみら.  単変量解析の時点で,歩行自立度,舌圧,舌骨上筋群. に両側病変の有無が影響するという報告がある.

(6) 6. 理学療法学 第 46 巻第 1 号. の筋力,頸部可動域(伸展・側屈・回旋),脊柱後弯度,. ため,嚥下障害をきたした経緯や処置,前院での嚥下訓. 体幹機能,最大呼吸流速,握力に有意な差が認められた。. 練の詳細,発症からの介入期間など急性期病院での状態. これらを説明変数とした二項ロジスティック回帰分析の. を検討項目には入れられなかった。入院前や介入開始時. 結果,舌骨上筋群の筋力,頸部可動域(伸展),脊柱後. の状態が嚥下能力の改善に影響することも予測されるこ. 弯度の 3 要因が脳血管障害者の嚥下障害の関連要因とし. とから,今後は急性期病院への協力を依頼して連携を深. て選択された。. め,より詳細な情報を元に再検討することが必要である.  舌骨上筋群は嚥下時の喉頭挙上にかかわる重要な筋群. と考えられた。. であり,先行研究においても舌骨上筋群の筋力向上訓練.  本研究では嚥下障害を口腔期,咽頭期,食道期での障. 22)41)42). 害という狭義の嚥下障害と定義付けているため,認知機. しかし,複数の要因の影響を考慮して検討した報告は見. 能が低下している者や意識障害が重度の者を除外してい. あたらず,本研究の結果は先行研究をさらに支持する結. る。そのため,先行期,準備期に障害がある者について. 果となる可能性が示唆された。また,舌骨上筋群の筋力. は本結果を適用することができず,食事という活動制限. は呼吸機能や舌圧と関係があることが報告されている. が生じている者すべてには適用することはできない。今. による嚥下障害の改善効果が報告されている. が. 。. 43)44). ,本研究において内部相関は認められなかった。. 後は嚥下障害のみならず摂食障害も対象とし,食事動作. そのため,今後は舌骨上筋群の筋力と諸要因との関係を. につながる関連要因の検討が必要と考えられた。しか. 厳密に検討していきたい。嚥下障害者の頸部可動域を改. し,脳血管障害者の中には嚥下可能な潜在能力があるに. 善させることの重要性は指摘されているが,運動方向に. もかかわらず本研究で検討した運動要因が低下して嚥下. ついての指摘は少ない. 12). 。具体的な運動方向を示した. 運動が困難になっている症例が少なからず存在すると推 13). 。もし,これらの不利な条件をそのままに. 本結果は,臨床場面に応用可能な有益な知見となる可能. 測される. 性が示唆された。. し,食形態の工夫などの直接訓練に終始すれば,本来有.  嚥下障害なし群は,頸部伸展の可動域が保たれている. している嚥下機能の潜在能力を生かせないままである可. ことで,喉頭運動に関与する舌骨上・下筋群の筋緊張ア. 能性が考えられた。この側面からは本研究にて得られた. ンバランスさや伸張性が保たれていることにつながり,. 知見が有益な情報になるものと推測された。. 喉頭挙上運動を起こしやすい状態と推測された。また, 嚥下障害あり群では平均の値がほぼゼロ度となってお り,強く制限されていた。頭頸部の肢位は,脊柱後弯の 45)46). 結   論  脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因は,舌骨. ,臨床場面で. 上筋群の筋力,頸部伸展可動域,脊柱後弯度であること. も脊柱後弯を呈する患者を矢状面で観察すると,顎を突. が明らかとなった。理学療法士などリハビリテーション. きだすように頭部を前方に突出させた頭部の前方突出肢. スタッフが介入可能な運動要因に着目し,脳血管障害者. 影響を受けることが報告されており. 位と呼ばれる姿勢. 47). となることをしばしば目にする。. この肢位は下位頸椎が後弯,上位頸椎は前弯位を呈する と報告されており. 48). ,脊柱後弯度と頸部伸展可動域の. 間にはなんらかの関連が存在する可能性が示唆され,今 後はさらなる検討が必要と考えられた。また,臨床場面. の嚥下障害に対する運動要因を具体的に記した本報告 は,臨床場面においても応用可能な有益な情報になるも のと考えられた。 利益相反. においては発症からの期間が長期化することで伸展以外.  本研究に関連し,すべての著者に開示すべき利益相反. の可動域も制限されることを経験する。本研究の対象者. はない。. は発症からの期間が比較的短いため,可動域制限の影響 がでにくかった可能性も考えられた。 3.本研究の限界と今後の展望  本研究結果より,脳血管障害者の嚥下障害に関連する 運動要因として,舌骨上筋群の筋力,頸部伸展可動域, 脊柱後弯度が選択された。しかし,本研究は対象者数が 少なく,また,横断研究のため因果関係に言及すること は困難である。そのため,今後は対象者数を増やすとと もに縦断研究を実施し,より厳密に検討していく必要性 があると考えられる。  本研究の被験者はすべて回復期病棟入院患者であった. 文  献 1)Kuhlemeier KV: Epidemiology and Dysphagia. Dysphagia. 1994; 9: 209‒217. 2)Mann G, Hankey GJ, et al.: Swallowing function after stroke. Stroke. 1999; 30: 744‒748. 3)Smithard DG, O’Neill PA, et al.: The natural history of dysphagia following a stroke. Dysphagia. 1997; 12: 188‒193. 4)千野直一(監訳) :FIM;医学的リハビリテーションのた めの統一的データセット利用の手引き.医学書センター, 東京,1991. 5)才藤栄一,植田耕一郎(監修) :摂食嚥下リハビリテーショ ン(第 3 版).医歯薬出版,東京,2016,pp. 17‒18. 6)山田恵理子,西村智子,他:急性期脳血管疾患患者の嚥下 機能改善に影響を及ぼす因子の検討.日摂食嚥下リハ会.

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(8) 8. 理学療法学 第 46 巻第 1 号. 〈Abstract〉. An Examination of Motor Functions Associated with Dysphagia Caused by Cerebrovascular Disease. Takeshi ARAKAWA, PT Tokyo College of Allied Medicine Shigeyasu ISHIDA, PT, Yu SATO, PT, Yuji MORITA, PT Tokyo Neurological Center Hospital Ryuhei SHIMOKAWA, PT, Shoko KEMURIYAMA, PT, Yui OKAMURA, PT Katsushika Rehabilitation Hospital Naoakira NIINO, MD, PhD Graduate School of Gerontology J. F. Oberlin University. Purpose: The purpose of this study was to analyze swallowing-related motor function and to investigate the factors related to swallowing disorders. Methods: Ninety patients with cerebrovascular disorder (45 with swallowing disorder, 45 without swallowing disorder) were recruited. Motor paralysis of upper and lower limbs, gait independence, tongue pressure, strength of suprahyoid muscles, laryngeal position, neck range of motion, spinal kyphosis, trunk function, breathing function, and grip strength were measured as indices of motor function related to swallowing. We analyzed the differences between the two groups of subjects using univariate analysis. Next, multivariate analysis (logistic regression analysis) was performed. Explanatory variables were those with significant differences in univariate analysis. The dependent variable was the presence or absence of swallowing disorder. Results: The strength of suprahyoid muscles, neck extension range of motion, and spinal kyphosis were found to be significant predictors of swallowing disorders in multivariate analysis. Conclusions: The fact that the strength of suprahyoid muscles, neck extension range of motion, and spinal kyphosis were found to be related to swallowing function indicates that physiotherapists should take part in the management of swallowing disorders and these findings should thus be applicable to clinical situations. Key Words: Cerebrovascular disease, Dysphagia, Relevant factors.

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