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魚類

魚類

① 名古屋市における水域環境および魚類の概況 名古屋市内には庄内川、天白川、山崎川、新川、堀川を含む5 水系 49 河川が流れている。こ のうち全長96 ㎞の庄内川は岐阜県恵那市に源を発し、全流域面積(1,010 ㎢)も県内では矢作 川に次いで大きい。本河川に名古屋市内で流入する支流も多く、特に矢田川がその代表格であ る。庄内川水系に合流するいくつかの支流は、瀬戸市や長久手市など比較的良好な自然が残さ れている地域を流れる。庄内川が名古屋市という大都市を流れながらも比較的豊かな生物相を 擁する理由は、本流および支流の上流域にある自然の豊かさにあると言えるだろう。一方、庄 内川に次いで規模が大きいのは天白川水系であるが、源流は名古屋市のベッドタウンとして急 速に都市化が進んできた日進市にあることと、扇川、植田川をはじめとする支流の多くが名古 屋市内の住宅密集地域を流れること等により、流域の自然度は高くない。しかし、天白川下流 域(感潮域付近)にはニホンウナギ、ハゼ類が一定数見られる。なお、天白川の流域にはかつ て今よりも多くの農業用溜め池が存在していた。これは、東部丘陵地と呼ばれる市の東部地域 では河川からの用水取水が困難であったためである。しかし、かつて市内に360 箇所以上あっ た溜め池は、2004 年までに 116 までその数を減らした。近年、これらの溜め池の多くは農業利 用頻度の減少とともに定期的な池干し等のメンテナンス機会も減り、ブルーギル、オオクチバ ス等の外来魚類にとって生息しやすい、水位変動の少ない安定した環境条件を整えてしまって いる。 1957 年に出された名古屋市環境白書によれば、名古屋市内には 21 魚種が確認されていた。 その後、1970 年代にいったん 18 種に減じたが、2000 年代にかけて 44 種にまで増加した。経 時的な記録が残されている13 河川(庄内川、矢田川、野添川、長戸川、天神川、香流川、扇川、 荒子川、他)では、現在、外来魚類を含む63 種を数えることができる。増加した要因の一つに 外来魚類の侵入と定着が挙げられる。累積出現魚種数がもっとも多いのは庄内川で、単独で34 種に上り、これに13 河川を加えた全河川にほぼ共通して出現する魚種は、ヨシノボリ類、オイ カワ、タモロコ、ドジョウ、カワムツ、モツゴ、マハゼ、フナ類、カマツカである。しかし、 2009 年を境に、外来魚類がこれらすべての河川で認められるようになった。たとえば、10 河 川以上でカダヤシ、ブルーギル、オオクチバスの3 種がセットで生息している。加えて、カム ルチー、ナイルティラピアの定着も確認されている。 ② 名古屋市における絶滅危惧種の概況 2010 年度補遺版では汽水域および河口域(干潟等)に生息する魚類について十分な文献およ び現地の調査を行うことができなかったため、レッドリストの対象魚種に含めなかった。しか し、川と海が出会うエコトーンと呼ばれる生態系の境界は、生物多様性が高く、しかしその一 方で干潟の埋め立てなどの環境悪化に拍車がかかっている場所でもある。また、汽水魚をレッ ドリストの対象とする先行事例も増えている。このような状況を踏まえ、2015 年度版では、汽 水域と干潟に生息する魚類を検討対象に含めた。さらに、生活史を通じて海と行き来すること

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魚類

のない純淡水魚全般についても文献を中心に見直しをはかった。そのため、前版では1 名で行 った作業を汽水・淡水魚類に詳しい研究者7 名で行うこととした。なお、リスト作成に先立ち、 愛知県産魚類目録を作成することとした。そのため、1955 年から 2014 年に出版された 120 編 以上の文献の精査および現地・標本調査を行った。標本のなかには,古いものでは 1925 年作 成のものも含まれていた。この結果、リスト化された170 種以上から外来種、偶産種と考えら れるものを慎重に除外し、70 種程度に絞り込まれた。明確な名古屋市産魚類目録の作成は困難 と判断し、これらをレッドリストの対象母集団として選定作業を行った。作業の結果、2010 年 度版の計 19 種のうち 2 種(イチモンジタナゴ、チチブ)がリスト外とされた一方で汽水魚 9 種を含む15 種が新たに追加され、合計 32 種が選定された。リスト外とされたイチモンジタナ ゴは、元来名古屋市内には分布しなかったと判断したこと、チチブは市内に生息するが、個体 数の減少が確認できなかったことがそれぞれの主な理由である。なお、ランクの決定には、一 般市民や研究者らからパブリックコメント等を通じて寄せられた貴重な意見を参考にさせて頂 いたことを付記する。 新規掲載種およびランクに大きな変更が生じた魚種を中心に概略を述べる。これらのなかに は、個体群サイズがきわめて小さく、生息場所が局在し、河川工事、溜め池の埋め立て、水田 地帯・里地里山の消失、河口干潟の埋め立て等による生息場所の悪化や喪失、生息環境(餌生 物量、産卵基質、水草などの隠れ場所等)の悪化、外来魚による捕食や競争、マニアによる乱 獲等によって危機的な状況にあるものが含まれている。 絶滅危惧IA類にランクされたカワバタモロコおよびトウカイヨシノボリは、近年の調査で 初めて市内で生息が明らかになったものであり、両種ともに分布地点、個体数ともにきわめて 限られている。絶滅危惧IB類のカワムツは、精査した結果、生息が確認されている河川にお いて個体数がさらに減少しているものと推測された。同じくIB類のトビハゼ、エドハゼ、マ サゴハゼの 3 種は、いずれも県内複数の河口域・干潟域に生息するが、名古屋市内ではこれら の環境が悪化しており、個体数が減少している。また、II類からIB類にランクアップされ たニホンウナギについては、個体数や分布に関して現在の状態と比較が可能な古いデータが存 在しないため、実際には推定以上に少なくなっている可能性があり、国内の他の地域に比べて も生息環境が明らかに悪い名古屋市においては、今後個体数がさらに減少していく可能性もあ る。そのため、予防原則的にも従来のⅡ類からⅠ類への変更が妥当と考えられた。 絶滅危惧Ⅱ類に掲載されたドジョウは、県内大部分の個体群が小さくなりつつあり、市内で も守山区等の一部の環境が比較的良好な地域を除けば確認することが難しくなってきている。 アユは、両側回遊魚であり、周辺個体群からの移入を鑑みれば「絶滅」は容易に起こらないと 考えられるが、庄内川等においては遡上阻害や寄生虫の蔓延により十分に再生産していない可 能性があり、前版の準絶滅危惧からⅡ類へとランクアップされた。汽水魚のシラウオは、産卵 場所である河口域の砂底の減少、赤潮などの水質悪化で個体数が減少している。準絶滅危惧類 には、タモロコ、スミウキゴリが新たに追加された。前者は、河川改修や圃場整備事業に伴う 水路等のコンクリート護岸化により、隠れる場所ならびに産卵基質である水草や抽水植物の激 減により個体数の減少が見られる。後者は、転石等の生息に必要な河床材料が減少したことに より、数を減らしている。最後に、情報不足として記載された 6 魚種については、いずれもカ テゴリー判定に足る情報が十分に得られておらず、今後の知見の集積が望まれる。特に、コイ (在来型)については、生息の可能性がある以上、今後の遺伝的情報の蓄積を待ちつつ、交雑

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魚類

のおそれのあるコイ(飼育型)の放流や河川における餌づけなどを厳しく制限する方法を検討 すべきであろう。 名古屋市内に残された水辺の生息環境の多くは、様々な人為的影響により悪化の一途を辿っ ている。これにオオクチバスなど肉食性外来魚の定着が拍車をかけている。外来魚類は、在来 魚の卵から成魚に至る成長段階すべてにおいて捕食・競争圧をかけるため、特に溜め池などの 閉鎖水域および水路などの空間分化に乏しい水域において負の影響が著しい。本版に挙げた魚 類のなかには比較的水質の汚濁に強い種もあり、現在は市内の各所において確認されるものの、 個体数が少ないものが多く、今後、餌生物の減少、生息状況への配慮に欠けた河川改修および 海浜工事等が続けば、個体数の減少が続き、将来ランクが上昇する恐れが強い。 (執筆者 谷口義則)

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魚類

③ レッドリスト掲載種の解説 レッドリストに掲載された各魚類について、種ごとに形態的な特徴や分布、市内の状況等を 解説した。記述の項目、内容等は以下の凡例のとおりとした。準絶滅危惧種についても、絶滅 危惧種と同じ様式で記述した。 【 掲載種の解説(魚類)に関する凡例 】 【分類群名等】 対象種の本調査における分類群名、分類上の位置を示す目名、科名を各頁左上に記述した。目及 び科の範囲と種の配列は原則として「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」(中坊徹次(編),2013) に準拠した。 【和名・学名】 対象種の和名及び学名を各頁上の枠内に記述した。和名および学名(目、科、種名)については、 「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」中坊編(2013)によった。 【カテゴリー】 対象種の名古屋市におけるカテゴリーを各頁右上の枠内に記述した。参考として「第三次レッド リスト レッドリストあいち 2015」(愛知県,2015)の愛知県での評価区分、及び「レッドデータ ブック 2014 -日本の絶滅のおそれのある野生生物- 4 汽水・淡水魚類」(環境省,2015)の全国 でのカテゴリーも併記した。 【選定理由】 対象種を名古屋市版レッドデータブック掲載種として選定した理由について記述した。 【形 態】 対象種の形態の概要を記述した。 【分布の概要】 対象種の分布状況を記述した。また、本調査において対象種の生息が現地調査及び文献調査によ って確認された地域について、各区ごとに着色して市内分布図として掲載した。ただし、情報不足 カテゴリーの一部の種については、分布が不明であるため、地図を掲載しなかった。 【生息地の環境/生態的特性】 対象種の生息環境及び生態的特性について記述した。 【現在の生息状況/減少の要因】 対象種の名古屋市における現在の生息状況、減少の要因等について記述した。 【保全上の留意点】 対象種を保全する上で留意すべき主な事項を記述した。 【特記事項】 以上の項目で記述できなかった事項を記述した。 【引用文献】 記述中に引用した文献を、著者、発行年、表題、掲載頁または総頁数、雑誌名または発行機関と その所在地の順に掲載した。 【関連文献】 対象種の関連する文献のうち代表的なものを、著者、発行年、表題、掲載頁または総頁数、雑誌 名または発行機関とその所在地の順に掲載した。

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魚類

魚類 <ヤツメウナギ目 ヤツメウナギ科>

スナヤツメ類

Lethenteron spp. 【選定理由】 本種の減少には歯止めがかかっておらず、絶滅リスクがきわ めて高い。本種の主要な生息場所である湧水環境が市内では緑 地の減少と共に激減しており、残された数少ない生息場所も圃 場整備および水質汚染の危機にさらされている。 【形 態】 体長20cm。体側に 7 つのエラ穴が開き、目 と合わせて8 つの目(ヤツメ)があるように見 える。幼生(アンモシーテス幼生)には目が無 い。ウナギに似るが、口には顎が無く、2 万種 以上の魚類の中でもきわめて原始的な姿を留め た化石時代の生き残りの種である。 【分布の概要】 【市内の分布】 守山区。 【県内の分布】 五条川水系、矢作川水系、豊川水系など。 【国内の分布】 北海道、本州、四国及び九州北部。 【世界の分布】 日本、朝鮮半島、中国。 【生息地の環境/生態的特性】 幼生期は、河床や川岸に溜まった砂泥に潜り、 分解された落ち葉などの有機物や藻類を食べる。 生まれてから数年間のアンモシーテス幼生期を 経て、変態する(成魚になる)。その後は消化管 が機能を失い、まったく餌を採らず、翌春に産 卵して死ぬ。一生を河川で過ごす。非寄生性で ある。 【現在の生息状況/減少の要因】 繁殖場となる湧水や伏流水の消失により個体 数が激減している。特に大きな河川では伏流水 のあるワンドや細流が生息環境となるため、護 岸工事などにより消失しやすい。本種は水質汚 染に弱く、護岸工事等で淀みなどが消失したり、 落ち葉等の有機物の滞留場所(緩流部)が失わ れると生息できなくなる。市内では著しい緑地 の減少に伴う湧き水の枯渇や水温上昇により、 ほぼ絶滅に近い状態にあると推測される。 【保全上の留意点】 湧水が出る農業用排水路も幼生にとって重要 な生育場となる。コンクリート張りでも泥底な ら可能性があるが、市内では絶滅状態に近く、緊急の保全策が必要である。 【特記事項】 スナヤツメは北方種と南方種に分けられる。愛知県内では、これまでのところ南方種しか確認さ れていないが、名古屋市内に生息する個体群は同定されていないため、両種を含めたスナヤツメ類 とした。 【関連文献】 岩田明久,1987.スナヤツメ.川那部浩哉・水野信彦(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚,pp.38-40.山と渓谷社,東京. 中坊徹次・甲斐嘉晃,2013.ヤツメウナギ科.日本産魚類検索 全種の同定 第三版,pp.144-145,1753-1755.東海大学出 版会,神奈川. 鈴木誉士・浅香智也・中川雅博,2006.琵琶湖につながる護岸された農業用水路におけるスナヤツメ Lethenteron reissneri 個体数の経月および経年変動.関西自然保護機構会報,28(1):49-57. 山崎裕治,2005.スナヤツメ-湧水にひそむ生きた化石-.片野修・森誠一(編),希少淡水魚の現在と未来:積極的保全の シナリオ.pp.37-48.信山社,東京. (執筆者 谷口義則) 市内分布図 スナヤツメ類 岐阜県木曽川水系、2006 年 5 月 9 日、荒尾一樹 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠB類 環 境 省2014 絶滅危惧Ⅱ類

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魚類

魚類 <コイ目 コイ科>

カワバタモロコ

Hemigrammocypris rasborella Fowler

【選定理由】 名古屋市内における生息地はきわめて局所的であり、開発お よび外来魚の侵入による絶滅リスクがきわめて高い。 【形 態】 体長6cm。タモロコに似るが、口ひげは無 い。また、腹縁がキール状になっている。側 線は不完全で胸鰭上方までしか達しない。縦 列鱗数は 30~35 枚である(細谷,2013)。 体側には黒色の縦帯がある。産卵期の雄は色 鮮やかな黄金色になる。雌は、雄より大型に なる(前畑,2001)。 【分布の概要】 【市内の分布】 非公表。 【県内の分布】 尾張地方(犬山市、瀬戸市、長久手町,津 島市など)、三河地方(豊田市、刈谷市、岡崎 市、新城市など)。 【国内の分布】 本州中部以西から九州北西部。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 平野部の浅い池沼、溜池、小川、水路など に生息し、群れを作り表層付近を遊泳する。 産卵期は、5 月中旬から 7 月下旬で地域によ り若干差がある。付着藻類から水生小動物な ど幅広く食う雑食性である(前畑,2001)。 【現在の生息状況/減少の要因】 個体数は比較的多いが、きわめて限られた 地域で確認されるにすぎない。都市化にとも なう河川整備、圃場整備による水田用水路の 劣化や消失、水質汚濁を含む生息環境の悪化 が進行したことが、減少の主たる要因である。 加えて、オオクチバスなどの肉食性外来生物 による捕食の影響も大きいと推測される。 【保全上の留意点】 水質改善、コンクリート護岸の回避が必要 である。ワンドや浅場,抽水植物帯の確保、 肉食性外来生物の捕食圧の低減も効果的であ る。また、施設内での系統保存を行うことが望ましい。 【特記事項】 黄金色に輝く雄の婚姻色が観賞魚として価値があり、かつ希少魚であるため、乱獲の対象となる。 また、増殖目的で他地域の個体を放す、「善意の放流」が行われることもあり、遺伝子汚染が生じ る危険性がある。行政、専門家、地域住民など多様な主体が連携して、本種と生息環境を保全する ことが緊急の課題である。豊田市や西尾市では、天然記念物に指定されている。 【引用文献】 細谷和海,2013.コイ科.中坊徹次編,日本産魚類検索 第三版 全種の同定,pp.308-327,1813-1819.東海大学出版会, 神奈川. 前畑政善,2001.カワバタモロコ.川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編,日本の淡水魚,pp.256-257.山と渓谷社,東京. 【関連文献】

Watanabe, K. and S. Mori,2008.Comparison of genetic population structure between two cyprinids, Hemigrammocypris rasborella and Pseudorasbora pumila subsp., in the Ise Bay basin, central Honshu, Japan.IchthyologicalResearch, 55:309-320. (執筆者 浅香智也) 市内分布図 カワバタモロコ 名古屋市内、2014 年 6 月 22 日、鳥居亮一 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠB類 環 境 省2014 絶滅危惧ⅠB類 生息地保護のため 分布図は示さない

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魚類

魚類 <コイ目 コイ科>

ヤリタナゴ

Tanakia lanceolata (Temminck et Schlegel)

【選定理由】 市内各地で個体群の著しい減少が認められる。開発による生 息地の破壊、産卵母貝である二枚貝類の減少、オオクチバス等 の魚食性外来魚による捕食による生息数の激減にくわえて、飼 育愛好家による過剰採集も脅威である。 【形 態】 体長 8cm。比較的大型個体では 10cm 以上 になる。体は側扁するが、体高はあまり高く ない。本種に近縁なアブラボテも含め、背鰭 の条間膜に紡錘形の暗色斑紋があり、やや長 い 1 対の口ひげを持つ。婚姻色の出た雄は背 部が蒼褐色で、体側は銀白色。頬部と腹部が 朱色になり、背鰭と臀鰭に朱色の幅広い縦帯 が出て縁辺には細い黒縁が出る。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川、天白川水系。 【県内の分布】 矢作川、豊川を含む県内の主要な水系。知 多半島にも分布情報があるが、移入個体群で ある可能性がある。 【国内の分布】 北海道、南九州、沖縄を除く全国各地。 【世界の分布】 日本、朝鮮半島西岸。 【生息地の環境/生態的特性】 日本産タナゴ類のなかではもっとも広く分 布する。平野部の河川、用水路を主たる生息 の場とするが、これらと連絡する浅い溜池、 池沼などにも生息する。タナゴ類の中でも比 較的流れのある場所を好み、砂礫底によく見 られる。雑食性で、付着藻類・底生植物など を食べる。産卵期は4~8 月で、雄がマツカサ ガイやニセマツカサガイなど二枚貝に縄張り を作り、これらの鰓に雌が産卵する。孵化し た仔魚はそのまま母貝内で成長し、1 ヶ月ほ どで母貝から浮出する。1 年で成熟し、寿命 は2~3 年である。 【現在の生息状況/減少の要因】 宅地・工業用地開発、河川改修等による生息 地の破壊、二枚貝類の減少、オオクチバス等の 魚食性外来魚による捕食により生息数が激減したものと推測される。名古屋市では生息地の保護対 策は特に行っていない。飼育愛好家による過剰採集も脅威となっている。 【保全上の留意点】 生息場所と淡水二枚貝の保全、魚食性外来魚の侵入防止およびこれらの駆除が必要である。近縁 な外来種による競争的な排除(例:霞ヶ浦のオオタナゴ)や交雑(例:愛媛県におけるアブラボテ との交雑)に注意が必要である。 【特記事項】 保全対象水域を決定し、保全策を講じる必要がある。 【関連文献】 松葉成生・吉見翔太郎・井上幹生・畑 啓生,2014.分子系統地理が示す愛媛県松山平野におけるアブラボテの人為移入起 源.魚類学雑誌,61:89-96. 長田芳和,1987.ヤリタナゴ.川那部浩哉・水野信彦(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚,pp.354-355. (執筆者 谷口義則) 市内分布図 ヤリタナゴ 知多半島、2008 年 12 月 7 日、荒尾一樹 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠA類 環 境 省2014 準絶滅危惧

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魚類

魚類 <コイ目 ドジョウ科>

トウカイコガタスジシマドジョウ

Cobitis minamorii tokaiensis Nakajima

【選定理由】 過去に知られていた分布域が著しく縮小しており、市内に現 存する個体数もきわめて少なく、絶滅の危険性がきわめて高い と推測される。 【形 態】 体長 12cm。体は細長く、やや側扁した円 筒形。スジシマドジョウ属の中では小型で、 最大体長は雄で約10cm、雌で 12cm、一般に 7cm 以下の個体が多い。他のシマドジョウ属 魚類とは、体が小さく、雄の第二次特徴であ る胸鰭基部の骨質盤が丸く、体側に縦帯があ ることで識別できる。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系の1 支流など。 【県内の分布】 矢作川、豊川を含む県内の主要な水系およ びこれらの支流。 【国内の分布】 静岡県太田川から三重県宮川まで。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 流れの緩やかな砂泥底の農業水路、河川本 流等を主な生息場所としている。産卵期は 5 ~7 月で、一般に、雌雄とも 1 年で成熟する が、雌では2 年目に成熟するものもいる。 【現在の生息状況/減少の要因】 かつての生息地の多くは、圃場整備をはじ めとする農業用水路のコンクリート化、農業 形態の変化にともなう乾田化や水路の水涸れ により消滅している。最近、生物に優しい農 法を取り入れる試みがなされているが、生息 場所の復元は難しい。 【保全上の留意点】 本種の存続には、河床に一定量の土砂(砂 泥)が継続して供給され、三面コンクリート 化されていないことが不可欠である。水田と 農業用水路を往復できる構造を復元すること も重要である。 【特記事項】 スジシマドジョウ小型種東海型とされてきたが、2012 年にトウカイコガタスジシマドジョウの標 準和名が提唱された。他のスジシマドジョウ類についても全国的に分布域が縮小している。 【関連文献】 細谷和海,1997.日本の希少淡水魚.長田芳和・細谷和海(編),日本の希少淡水魚の現状と系統保存,pp.3-21.緑書房, 東京. 環境省自然環境局野生生物課,2003.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 –レッドデータブック– 4 汽水・淡水魚 類,pp.102-103.財団法人自然環境研究センター,東京.

Nakajima, J.,2012.Taxonomic study of the Cobitis striata complex (Cypriniformes, Cobitidae) in Japan. Zootaxa, 3586:103-130. 中島 淳・洲澤 譲・清水孝昭・斉藤憲治,2012.日本産シマドジョウ属魚類の標準和名の提唱.魚類学雑誌,59: 86-95. 齊藤憲治,1993.スジシマドジョウ小型種と大型種の急減.魚類学雑誌,40:394-397. 齊藤憲治,2001.スジシマドジョウ亜群.川那部浩哉・水野信彦・細谷和海(編),日本の淡水魚,pp.386-391.山と渓谷社, 東京. (執筆者 谷口義則) 市内分布図 トウカイコガタスジシマドジョウ 西尾市矢作川水系、2012 年 12 月 29 日、鳥居亮一 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠB類 環 境 省2014 絶滅危惧ⅠB類

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魚類

魚類 <コイ目 ドジョウ科>

ホトケドジョウ

Lefua echigonia Jordan et Richardson

【選定理由】 県内各地において、湧水の枯渇、圃場整備、過度の農薬散布、 宅地化により激減している。市内では水田の急減のほかに、緑 地の激減による湧水箇所数および湧水量の減少に伴う湿地の喪 失により本種の絶滅リスクは著しく高まっている。 【形 態】 体長 8cm。体は細長く円筒形で、背鰭は腹鰭 と対在するか後方にある。吻は短く、目は大き い。ひげの数は 4 対、体と鰭は茶褐色で暗色斑 点が散在する。同属のナガレホトケドジョウや トウカイナガレホトケドジョウとは、体型や斑 紋のパターン、生息場所の違いにより識別でき る。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系の小河川、周辺の小水路、緑地内 の湿原、水田周りの水路。 【県内の分布】 矢作川、豊川を含む県内の主要な河川のほか、 丘陵地域にある水田周辺水路、湿原、湧水起源 の溜め池。 【国内の分布】 東北地方から三重県,京都府,兵庫県。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 湧水を水源とする細流、湿原や水田周りの小 溝に生息する。準冷水性の底生魚で、水温が 27°C を越えると弱る。特に、やや開けた流れの 緩やかな場所の砂泥底に多い。一般に、成長は 1 年で 3~4cm、2 年で 4~7cm に達する。産卵 期は3~7 月で、水草に産卵する。仔魚は孵化後 すぐに着底せず、全長約20mm になるまで底近 くを浮遊している。底生小動物を中心とする雑 食性。多くが 1 年で成熟するが、個体によって は2 年目に成熟するものもいる。 【現在の生息状況/減少の要因】 生息地の減少から判断して個体数も減少して いることは間違いない。かつての生息地の多く は宅地化や圃場整備により消失している。 【保全上の留意点】 湧水の消失や、水田周りの小溝のU字溝化に伴い、全国的に減少している。1970 年代に農薬生産 量の増大と共に本種が減少していることから、農薬の過度散布が要因であると推測される。本種の 生息地復元を目的とするビオトープの造成がなされてきた場所もある。 【特記事項】 本種を指標とする水田の生物多様性保全も可能である。 【関連文献】 細谷和海,2013.ドジョウ科.日本産魚類検索 全種の同定 第三版,pp.328-334.東海大学出版会,神奈川. 勝呂尚之,2002.ホトケドジョウの初期飼育条件.SUISANZOUSHOKU,50(1):55-62. 澤田幸雄,1987.ホトケドジョウ.川那部浩哉・水野信彦編,山渓カラー名鑑 日本の淡水魚,p.400.山と渓谷社,東京. (執筆者 谷口義則) 市内分布図 ホトケドジョウ 岡崎市矢作川水系(湿地)、2010 年 4 月 10 日、 鳥居亮一 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠB類 環 境 省2014 絶滅危惧ⅠB類

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魚類

魚類 <ナマズ目 アカザ科>

アカザ

Liobagrus reini Hilgendorf

【選定理由】 本種は清流に生息し、河川の高い自然度の指標生物の1種で ある。愛知県内の河川における生息数も多くなく、名古屋市内 においては局所的に分布するのみであり、絶滅に近いと推定さ れる。 【形 態】 体長 10cm。体は赤褐色で腹部はやや白色を 帯び、細長い。頭部は縦扁し、体の後部は側偏 する。鱗は無く、側線は不完全。胸鰭と背鰭の 第1 鰭条は肥大して硬く、鋭い棘になっている。 尾鰭の後縁はやや丸い。脂鰭は尾鰭に連続する。 口ひげは前鼻孔部1 対、上顎に 1 対、下顎に 2 対、計4 対ある。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系。 【県内の分布】 矢作川、豊川を含む県内の主要な水系。 【国内の分布】 宮城県、秋田県以南の本州、四国、九州。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 河川の中・上流部の比較的水のきれいな流水 域で、礫の多い河川に生息する。従来は自然環 境が比較的豊かだった九州、四国、中国地方で も河川中流域から姿を消しつつあり、分布域の 減少や分断化は全国に及んでいる。本種は比較 的小さく、夜行性で水底を滑るように泳ぐ。昼 間は比較的大きい浮き石の下に潜む。水生昆虫 を捕食する。産卵期は 5~6 月で、石の下に生 みつけられた卵塊を雄が保護する。 【現在の生息状況/減少の要因】 過去に調査が行われた地域では、河川の中流 域の生息地が消滅している。本来、群れをなす ような種ではなく、個体数はもともと多くない が、近年いっそう減少したと指摘されている。 【保全上の留意点】 河川の中・上流域の30cm 以浅の平瀬や早瀬 でよく見られる。隠れ場所や産卵場所として適 度な大きさの礫を必要とする。しかし、河川改修(流路の直線化、床固めなど)や砂礫の採取など によって環境が破壊されてきたために、生息場所の減少は深刻である。 【特記事項】 河床掘削で隠れ場所や産卵場所が消失してしまう。たとえば、河川工事で土砂が堆積すると礫間 の空隙のみならず、餌生物も失われてしまう。 【関連文献】 森 誠一・名越 誠,1987.アカザ.川那部浩哉・水野信彦(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚.p.410.山と渓谷社, 東京.

Watanabe, K. , 1994. A note on the reproductive ecology of the torrent catfish,Liobagrus reini (Siluriformes: Amblycipitidae).Japanese Journal of Ichthyology,41:219-221.

(執筆者 谷口義則) 市内分布図 アカザ 岡崎市矢作川水系、2012 年 4 月 29 日、鳥居亮一 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 準絶滅危惧 環 境 省2014 絶滅危惧Ⅱ類

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魚類

魚類 <スズキ目 ドンコ科>

ドンコ

Odontobutis obscura (Temminck et Schlegel)

【選定理由】 市内における本種の生息域は依然限られており、現存する個 体群も決して大きくないと推測され、今後実効性のある保全対 策を実施しない限り、本種の絶滅リスクは小さくないと考えら れる。 【形 態】 体長20cm。ハゼ類の中では大型で、頭部が 大きく横幅があり、胴が短い。口は大きく、 唇が厚い。うちわのような形の胸鰭が大きく 発達し、腹鰭は左右に分離し、吸盤状にはな っていない。褐色の体色で、背鰭と尾鰭の基 底に黒い斑紋がある。全身に大柄な暗斑があ る。繁殖期の雄は全身が黒っぽくなる。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系。 【県内の分布】 矢作川、豊川を含む県内の主要な水系で確 認されているが、個体数は少ない。 【国内の分布】 愛知県・新潟県以西の本州、四国、九州。 【世界の分布】 日本、韓国。 【生息地の環境/生態的特性】 砂礫底のある中小規模河川の緩流部を好む。 湖沼、水田周辺の用排水路にも生息する。純 淡水魚であり、海との行き来はしない。大き めの礫や水草等を隠れ場所とし、強い縄張り を持つ。主に夜行性で、魚類、水生昆虫の他 に、甲殻類等を捕食する。4〜7 月に産卵する。 雄が石の下に巣を作り、誘引された雌は巣の 天井に卵を産み、立ち去る。雄はその後も卵 を孵化するまで保護する。孵化後の仔魚は他 のハゼ類と異なり、浮遊生活期を経ずに、即 座に底生生活に入る。 【現在の生息状況/減少の要因】 愛知県では 1960 年代には広範囲に分布す る普通種だったが、現在ではほとんど姿を見 なくなってしまった。河川工事により礫河床 が失われ、産卵環境が損なわれてしまったこ とが本種減少の最大要因であろう。 【保全上の留意点】 市内における本種の生息水域は非常に限られているものと推測される。まずは、これらの生息場 所をこれ以上損なわないこと、産卵に必要な適度な大きさの礫を主体とする河床を復元することが 重要である。 【特記事項】 ドンコに限らず、ネット販売で入手した個体を意図的・非意図的に野外に放逐する行為が横行し ているものと推測される。現に関東地方にも本種の分布が拡大しており、問題視されている。 【関連文献】 岩田明久,2001.ドンコ.川那部浩哉・水野信彦・細谷和海(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 改訂版,pp.558-560. 山と渓谷社,東京. 向井貴彦・西田睦,2003.日本産ドンコにおけるミトコンドリア DNA の系統と関東地方への人為移植の分子的証拠. 魚類学 雜誌,50(1):71-76. (執筆者 谷口義則) カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠB類 環 境 省2014 リスト外 市内分布図 ドンコ 豊田市矢作川水系、2012 年 5 月 1 日、鳥居亮一 撮影

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魚類

魚類 <スズキ目 ハゼ科>

トウカイヨシノボリ

Rhinogobius sp. TO 【選定理由】 名古屋市内における生息地は非常に限られており、いずれの個 体群も、開発による生息地の消滅、外来魚による捕食、近縁種の 侵入による交雑といったリスクにさらされている。 【形 態】 体長 4cm。小型のハゼ科魚類で、前鰓蓋管 が無いことで他の日本産ヨシノボリ属魚類と 区別される。体色は褐色でやや不定型な斑紋が あり、雄の喉部は橙色になる。成熟した雄の第 1 背鰭は伸張しない(鈴木・坂本,2005)。 【分布の概要】 【市内の分布】 非公表。 【県内の分布】 犬山市、長久手市、日進市、岡崎市、豊田市、 刈谷市、西尾市、豊川市。 【国内の分布】 伊勢湾周辺地域のみ。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 主に丘陵地に作られた溜め池に生息する。繁 殖期は 4~6 月頃と推定される。仔稚魚は流 れの無い場所で浮遊生活を送り、海に降ること はない(Tsunagawa et al., 2010)。 【現在の生息状況/減少の要因】 本種は濃尾平野から岡崎平野を中心に分布 し、豊川市の溜め池を分布東限としていたが、 豊川市の生息地は2000 年代に埋め立てられて 消失した。また、オオクチバスの生息する溜め 池では激減もしくは絶滅するため、オオクチバ スの放流によって多くの生息地が失われたと 考えられる。形態と mtDNA の比較から、侵 入した近縁種(他地域産のトウヨシノボリ、シ マヒレヨシノボリ、ビワヨシノボリ)と雑種化 して絶滅したと考えられる地点が犬山市、名古 屋市、豊田市に見られることから、アユやコイ、 ヘラブナの放流に混じって侵入したヨシノボ リ類との交雑も減少要因になっている。名古屋 市内にも生息地があるために、都市化しても生 き残ると誤解されている可能性がある。しかし、 いずれの生息地も孤立しており、周辺は宅地開 発が進み、オオクチバスや近畿地方から侵入したヨシノボリ類の生息地が周辺に広がるため、現在 残された生息地は危機的状況にさらされている。 【保全上の留意点】 溜池の埋立てによる生息地全体の改変は避ける。その上で、捕食性外来魚(オオクチバス・ブル ーギル)、交雑可能な近縁種(トウヨシノボリ等)の侵入を避けるため、そうした外来種の混入する 可能性のあるアユ、コイ、フナなどの放流を防止する必要がある。 【特記事項】 2005 年に現在の新称が付けられた。東海地方の里山環境を特徴づける淡水魚である。 【引用文献】 鈴木寿之・坂本勝一,2005.岐阜県と愛知県で採集されたトウカイヨシノボリ(新称).日本生物地理学会会報,60:13-20. Tsunagawa, T., T. Suzuki and T. Arai,2010.Otolith Sr: Ca ratios of freshwater goby Rhinogobius sp. TO indicating

absence of sea migrating traits. IchthyologicalResearch,57:319-322.

【関連文献】 向井貴彦・平嶋健太郎・古橋 芽・古田莉奈・淀 太我・中西尚文,2012.三重県鈴鹿市南部のため池群におけるヨシノボ リ類の分布と種間交雑.日本生物地理学会会報,67:15-24. 鈴木寿之・向井貴彦,2010.シマヒレヨシノボリとトウカイヨシノボリ:池沼性ヨシノボリ類の特徴と生息状況.魚類学雑 誌,57:176-179. (執筆者 向井貴彦) トウカイヨシノボリ 名古屋市、2012 年 11 月 15 日、古橋 芽 撮影 市内分布図 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠA類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠA類 環 境 省2014 準絶滅危惧 生息地保護のため 分布図は示さない

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魚類

魚類 <ウナギ目 ウナギ科>

ニホンウナギ

Anguilla japonica Temminck et Schlegel

【選定理由】 市内の分布地点は少なくないが、個体数の減少が著しいと考え られる。降河回遊魚である本種の移動の妨げとなる河川横断工作 物が多数の河川に構築され、幼魚に必要な下流域の砂地環境およ びコンクリート護岸化による成魚の隠れ場が減少している。 【形 態】 体長 1m。成魚の背中側は黒く、腹側は白 や黄色。レプトケファルス幼生(海を浮遊移 動しやすい扁平な葉状形)期を経て変態し、 円筒形の稚魚シラスウナギ(無色透明、体長 5cm 程度)となる。産卵のために降河する成 魚個体は、背側と鰭が黒化し、腹面は銀白色 を呈する。県内には移入種であるヨーロッパ ウナギも生息するが、外見から両種を識別す ることは困難とされている。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系および天白川水系など。 【県内の分布】 県内全域。矢作川水系に多い。 【国内の分布】 北海道から琉球列島にいたる全国各地。 【世界の分布】 日本、朝鮮半島、中国、ベトナム、台湾、フ ィリピン。 【生息地の環境/生態的特性】 成魚は河川中・下流、河口のほか溜め池、 海(内湾)にも生息する。降海した成魚はマ リアナ諸島沖で産卵、2~3 日で孵化し、幼 生は河口に到達後、遡河して小動物を捕食し て成長し、5 年から 10 数年ほどで成熟する。 【現在の生息状況/減少の要因】 市内の河川における個体数密度は市外の河 川の平均値のおよそ半分程度である。仔魚は 海からなんとか遡上するものの、河川工事に よって餌となる小魚やエビ類、隠れ場となる 土砂や石の隙間などが減っている。幼魚は下 流部の砂地で、成魚は河川内構造物の隙間や 水際植物の影に潜むが、これらの環境が著し く損なわれている。 【保全上の留意点】 食物ピラミッドの頂点に立つ捕食者のニホ ンウナギが生息できる川を再生していくことができれば、他の多くの淡水生物にとっても居心地の 良い川が復元されることにつながる。 【特記事項】 幼魚は下流部の砂地に、成魚は河川内構造物の隙間や水際植物の陰に潜んでいる。 【関連文献】 広正 義,1975.魚類.庄内川の水生生物,pp.125-139.建設省庄内川工事事務所,愛知. 多部田修,2002.ウナギ.川那部浩哉・水野信彦・細谷和海(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚(第3版),pp.47-49.山 と渓谷社,東京. 荒尾一樹,2008.庄内川で採集された魚類.豊橋市自然史博物館研報,(18):25-27. (執筆者 谷口義則) ニホンウナギ 西尾市矢作川水系、2012 年 6 月 28 日、鳥居亮一 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠB類 環 境 省2014 絶滅危惧ⅠB類 市内分布図

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魚類

魚類 <コイ目 コイ科>

カワムツ

Candidia temminckii (Temminck et Schlegel)

【選定理由】 県内全域でみれば普通種であるが、本来比較的水のきれいな自 然度の高い河川に生息する。かつては市内の主たる河川の上流部 に豊富に生息していたと推察されるが、現在では確認される生息 地点、生息数ともにきわめて限られている。 【形 態】 体長20cm。主鰭条数が臀鰭 10 条、側線鱗 数43~51 枚、側線上部鱗数 10~11 枚。体側 中央に暗藍色の幅広い縦帯があり、腹部は白 っぽい。臀鰭が大きく特に雄は明瞭な婚姻色 を現し、頭部の下面や腹面が朱色や暗赤色と なり、胸鰭・腹鰭の前縁も黄色~オレンジ色 を現す。雌雄共に繁殖期に頭部、体表、臀鰭 などに追星を現すが、近縁なヌマムツと異な り、鰓蓋には出現しない。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川支流。 【県内の分布】 五条川、矢作川水系、豊川水系、他。 【国内の分布】 東海地方以西の本州瀬戸内海沿岸、九州北 部。ただし、関東、東北地方にも侵入。 【世界の分布】 日本、朝鮮半島。 【生息地の環境/生態的特性】 河川上流から中流などに生息する。流れの 緩やかな淵に多く生息している。オイカワよ りも上流部に生息する。河床に大きい礫が多 く、河畔林によるうっ閉度が高い場所を好む。 雑食性で、水草、付着藻類、水生・陸生昆虫 類を利用する。繁殖期に雄間に順位関係が現 れ、雌をめぐる競争がある(Katano,1994)。 産卵期は5 月中旬~8 月下旬頃で砂礫を好む。 野生個体の体長頻度分布から寿命は3 年程度 であると考えられる。 【現在の生息状況/減少の要因】 本来、河川上流部で夏季の水温が比較的低 く保たれ、水質の良い場所に生息するため、 都市化によるこれらの環境悪化が個体数減少 の原因であると考えられる。河畔林から供給 される餌となる陸生動物の減少も主たる要因 である。産卵に必要な河床材料となる土砂の減少も拍車をかけている。 【保全上の留意点】 不用意な河川改修を慎むこと。河畔林の修復、復元により、隠れ場所、餌としての陸生動物を確 保すること。夏季の水温上昇を抑制することも重要である。 【特記事項】 本種は雑魚の代名詞であり、どこにでも見られた魚がいつの間にか激減していたことを示す好例 であろう。 【引用文献】

Katano, O.1994.Aggressive interactions between the dark chub, Zacco temmincki, and the pale chub, Z. platypus, in relation to their feeding behaviour.JapaneseJournalofIchthyology,40:441-449.

【関連文献】

片野 修,2002.カワムツ.山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 第三版,pp.239-243.山と渓谷社,東京. 細谷和海,2013.コイ科.日本産魚類検索 第三版 全種の同定,p.318.東海大学出版会,神奈川.

Hosoya, K., H. Ashiwa, M. Watanabe, K. Mizuguchi and T. Okazaki,2003.Zacco sieboldii, a species distinct from Zacco temminckii (Cyprinidae).IchthyologicalResearch,50:1-8.

(執筆者 谷口義則) カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 リスト外 環 境 省2014 リスト外 市内分布図 カワムツ 豊田市、2009 年 11 月 3 日、荒尾一樹 撮影

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魚類

魚類 <コイ目 ドジョウ科>

ニシシマドジョウ

Cobitis sp. BIWAE type B

【選定理由】 県内には矢作川水系をはじめ、本種の生息する河川は多い。し かし、市内では、河川の直線化、コンクリート護岸化等による緩 流部の喪失、砂礫底の減少、移動を妨げる落差工の構築、産卵適 地となる細流の消失により生息数が著しく減少している。 【形 態】 体長15cm。口ひげは 6 本。体側の斑紋は点 列のものが多いが、直線状の斑紋をもつ個体も いる。雄の二次性徴として胸鰭基部の骨質板が 細長いくちばし状になり、この点でスジシマド ジョウ類との識別が可能である。尾鰭基部の斑 紋なども区別点となる。また、雄の胸鰭は雌よ りも長い。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系。 【県内の分布】 矢作川、豊川を含む県内の主要な水系および これらの支流。 【国内の分布】 東海、北陸、山陰地方。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 河川の中・下流部の砂質底に普通に見ること ができるが、水の澄んだ池等にも見られる。河 川では、特に平瀬から淵の砂底を好む。砂によ く潜り、砂中で越冬する。砂を吸い込み、含ま れる底生藻類やその半分解物、小型の水生昆虫 等をこし取るように食べる。仔稚魚は浅い砂泥 底の場所にすみ、原生動物や藻類などを食べる。 産卵期は 4~6 月で、砂礫底に生える水生植物 の根や茎に 1 個ずつ産着される。卵の直径は約 2mm で、卵黄は白色、卵膜は薄く粘着性があ る。受精後2~3 日でふ化する。ふ化後 2 日で 全長 5mm 程度となり、外鰓が長く伸びる。体 長6cm 以上で成熟する。 【現在の生息状況/減少の要因】 河川の直線化による緩流部の喪失による砂底 あるいは砂礫底の減少、水質悪化、本流から産 卵のために遡上できる細流の消失等により生息 適地が奪われ減少している。 【保全上の留意点】 本種の生息に必要な砂礫の河床を保全する必要がある。河川工事においては、事後に砂礫が河床 に滞留するよう緩流部を設けること、産卵時期の上流への移動を可能にするよう落差工等を無くす ことが重要である。 【特記事項】 2012 年にシマドジョウ類は細分され、中部地方の種にはニシシマドジョウの和名が提唱された。 【関連文献】 君塚芳輝,1989.シマドジョウ.川那部浩哉・水野信彦(編),日本の淡水魚,pp.392-393,山と渓谷社,東京. 中島 淳・洲澤 譲・清水孝昭・斉藤憲治,2012.日本産シマドジョウ属魚類の標準和名の提唱.魚類学雑誌,59: 86-95. (執筆者 谷口義則) 市内分布図 ニシシマドジョウ 三重県津市、2005 年 9 月 30 日、荒尾一樹 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 絶滅危惧Ⅱ類 環 境 省2014 リスト外

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魚類

魚類 <スズキ目 カジカ科>

カマキリ(アユカケ)

Cottus kazika Jordan et Starks

【選定理由】 海と川を行き来する降河回遊魚である本種は、県下全域でも 減少しているが、市内の河川においては、特に横断構造物(落差 工,堰堤等)の影響により、仮に魚道が付いていても遡上が困難 であり、個体数が著しく減少していると推定される。 【形 態】 体長20cm。灰褐色で黒い帯が 4 本、背鰭の 後方と尾鰭近くにある。鰓蓋の上方に 4 本の 棘があり、アユなどの魚を引っかけて捕らえ るという伝説がアユカケの名の由来である。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川、天白川水系。 【県内の分布】 矢作川水系、豊川水系を含む県内の主要な 水系。 【国内の分布】 本州、四国、九州。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 親魚は秋に川を降り、河口域や沿岸域で産 卵する。ふ化した稚魚は海で成長し、初夏に 河川を遡上する。稚魚は水生昆虫を主体に食 べるが、成長すると魚食性が強まる。夜行性 で、昼間は礫の間隙などに潜み、夜になると 浅い瀬や淵に出てくる。 【現在の生息状況/減少の要因】 本種は河川の遡上能力が低いことから、落 差工(堰)や階段式魚道の落差が非常に小さく てもこれを越えて上流に行くことが困難であ る。 【保全上の留意点】 市内の主要な河川には横断構造物(落差工) が多数あることから、生息域が縮小している ものと推定され、魚道の設置等の早急な整備 が望まれる。 【特記事項】 福井県、熊本県では天然記念物に指定され ている。 【関連文献】 後藤 晃,1987.アユカケ.川那部浩哉・水野信彦(編),山渓カラー名鑑.日本の淡水魚,p.655.山と渓谷社,東京. (執筆者 谷口義則) カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 絶滅危惧ⅠB類 環 境 省2014 絶滅危惧Ⅱ類 市内分布図 カマキリ(アユカケ) 名古屋市庄内川、2007 年 5 月 20 日、荒尾一樹 撮影

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魚類

魚類 <スズキ目 カジカ科>

ウツセミカジカ

Cottus reinii Hilgendorf

【選定理由】 生息条件が悪化しており、全国的にもきわめて危険な状態にあ り、絶滅が危惧されている。市内では河川の直線化およびコンク リート護岸化に起因する土砂堆積量の激減および隠れ場所の消失 等により、生息個体数が著しく減少していると推定される。 【形 態】 体長 15cm。体色は淡褐色から暗褐色まで 様々で、体側に暗色斑紋が4~5 個ある。カマ キリなど他のカジカ科魚類と比較して、鰓蓋 にある棘が1 本、胸鰭の軟条数が 13~17 軟条、 眼から前鰓蓋骨棘へ向かって 2 本の暗色帯が あること、腹鰭には顕著な斑紋がないことな どが特徴である。本種は近縁種のカジカと混 同されることが多いが、カジカに比べて尾柄 部分が細長い。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系、天白川水系など。 【県内の分布】 矢作川、豊川を含む県内の主要な河川で広 範囲だが少数が確認されている。 【国内の分布】 北海道南部の日本海側、本州、四国および 九州西部。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 本種は肉食性で、水生昆虫や魚類を主な餌 とする。一般的に卵径 1.8~2.4mm、一腹卵 数は600~1500 個程度とされる。指標種とさ れることも多く、カジカ類を復元する活動が 行われている地域もある。 【現在の生息状況/減少の要因】 ウツセミカジカは、河川工事に伴う人工構 築物や堰堤の影響で上下移動に制約を受けて いる。本種は水質の悪化にも弱い。砂礫底を 回復するための復元工事も必要である。今後、 市内および県内における生息状況を明らかに する必要があるが、本種は形態による明確な 分類が困難で、分子生物学的手法を取り入れ る必要もある。 【保全上の留意点】 元々は市内の広範囲に分布していたものと推測される。下流域の堰堤による海からの遡上阻害を 軽減し、生息水域の河床環境を復元する等を行う必要がある。産卵環境の復元も鍵となる。 【関連文献】 後藤 晃,1987.ウツセミカジカ.川那部浩哉・水野信彦(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚,p.668.山と渓谷社, 東京. 木村清志・岡田 誠・山下剛司他,1999.長良川河口域に出現する魚卵・仔稚魚.三重大学生物資源学部紀要,23:37-62. (執筆者 谷口義則) カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 絶滅危惧Ⅱ類 環 境 省2014 絶滅危惧ⅠB類 市内分布図 ウツセミカジカ 岡崎市矢作川水系、2012 年 4 月 29 日、鳥居亮一 撮影

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魚類

魚類 <スズキ目 ハゼ科>

トビハゼ

Periophthalmus modestus Cantor

【選定理由】 名古屋市内における分布は局地的で、干潟の埋め立てや浚渫、 護岸工事などの開発の影響を受け、生息地が大幅に減少してい る。 【形 態】 体長約8cm。頭と体は円筒形で、後方はや や側扁する。眼は上方に突出し、両眼の間隔 は狭い。第1 背鰭は丸い。腹鰭は吸盤状で、 後縁はくぼむ。胸鰭基部の筋肉は発達し、こ れを腕のように使って泥干潟上を這い回る。 体側に小さな黒色点が散在する。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川河口、藤前干潟。 【県内の分布】 伊勢湾、三河湾の河口干潟。 【国内の分布】 東京湾から沖縄島。 【世界の分布】 日本、朝鮮半島、中国、台湾。 【生息地の環境/生態的特性】 内湾の湾奥や河川の河口域の泥底が発達し た干潟に生息する。日中の干出時に泥干潟上 で活動し、索餌や求愛行動を行う。陸上では 主に皮膚を用いて空気呼吸を行う。尾部を使 って泥面や水面を飛び跳ねて移動する。潮が 満ちてくると水から逃げるように岸際の石や 杭、湿生植物などに這い上がって休息し、干 潮を待つ。産卵期は 6〜8 月。雄は泥中に産 卵巣をつくり、求愛ジャンプで雌を呼ぶ。11 〜3 月の休止期には終日、泥底に掘った巣穴 で過ごし、餌も食べない(岩田,2001)。名 古屋市内でも泥質の河口干潟で採集されてい る(荒尾ほか,2007)。 【現在の生息状況/減少の要因】 名古屋市内における分布は局地的である。 コンクリート護岸化に伴う岸辺の転石帯や植 物帯の消失は生息場所・休息場所の減少の要 因となっている。 【保全上の留意点】 名古屋港に流入する河川の河口域の泥干潟に広く分布していたと考えられるが、干潟の埋め立て や浚渫、護岸工事、河川改修による生息環境悪化に伴って生息地が減少した。生息場所となる泥干 潟の保全、休息場所となる岸辺の転石帯やヨシなどの植物帯の保全が必要である。 【引用文献】 荒尾一樹・山上将史・大仲知樹,2007.愛知県の河口域魚類.豊橋市自然史博研報,(17):29-40. 岩田勝哉,2001.トビハゼ.川那部浩哉・水野信彦・細谷和海(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 改訂版,pp.642-643. 山と渓谷社,東京. 【関連文献】 鈴木寿之,2010.トビハゼ.環境省自然環境局野生生物課(編),改訂レッドリスト 付属説明資料 汽水・淡水魚類,p.53. 環境省自然環境局野生生物課,東京. (執筆者 荒尾一樹) 市内分布図 トビハゼ 三重県木曽岬町、2010 年 4 月 18 日、荒尾一樹 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 絶滅危惧Ⅱ類 環 境 省2014 準絶滅危惧

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魚類

魚類 <スズキ目 ハゼ科>

マサゴハゼ

Pseudogobius masago (Tomiyama)

【選定理由】 名古屋市内における分布は局地的で、干潟の埋め立てや浚渫、 護岸工事などの開発の影響を受け、生息地が大幅に減少してい る。 【形 態】 体長3cm。体は細長く、体高は低い。吻端 は丸く突出し、上唇をわずかに被う。尾鰭後 縁は丸い。尾鰭基部にくさび形の黒色斑があ る。 【分布の概要】 【市内の分布】 日光川、庄内川の河口干潟。 【県内の分布】 伊勢湾、三河湾の河口干潟、前浜干潟。 【国内の分布】 宮城県から沖縄島。 【世界の分布】 日本、鮮半島、台湾。 【生息地の環境/生態的特性】 河口干潟や塩水湿地の軟泥底や砂泥底に生 息する。名古屋市内でも泥質の河口干潟、そ れに連なる前浜干潟を流れる水路や浅い水た まりで採集されている(荒尾ほか,2007)。 産卵期は九州西岸で5~6 月(道津,2014)、 三重県揖斐川で6~8 月(伊藤・向井,2007) と考えられている。産卵はアナジャコなどの 小型甲殻類の生息孔内で行うと示唆されてい る(伊藤・向井,2007)。7~9 月には成魚が 生息する河口汽水域で着底した稚魚がみられ る(道津,2014)。 【現在の生息状況/減少の要因】 名古屋市内における分布は局地的である。 干潟の埋め立てや護岸工事、河川改修、土砂 流入、水質汚染、底質汚濁などにより生息地 が減少している。 【保全上の留意点】 干潟の埋め立てや浚渫、護岸工事は直接的に生息環境を消滅させる原因となる。護岸工事や河川 改修を行う際には、水質汚染、底質の有機汚染、土砂の流入による底質の変化などに留意する必要 がある。また、汽水域の保全、小型甲殻類の保全も重要である。 【引用文献】 荒尾一樹・山上将史・大仲知樹,2007.愛知県の河口域魚類.豊橋市自然史博研報,(17):29-40. 道津喜衛,2014.マサゴハゼ.沖山宗雄編,日本産 稚魚図鑑 第二版,p.1301.東海大学出版会,神奈川. 伊藤 亮・向井貴彦,2007.三重県揖斐川下流域におけるマサゴハゼの生活史.南紀生物,49(2):103-107. 【関連文献】 鈴木寿之,2010.マサゴハゼ.環境省自然環境局野生生物課(編),改訂レッドリスト 付属説明資料 汽水・淡水魚類,p.48. 環境省自然環境局野生生物課,東京. (執筆者 荒尾一樹) 市内分布図 マサゴハゼ 三重県津市、2004 年 12 月 11 日、荒尾一樹 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 絶滅危惧Ⅱ類 環 境 省2014 絶滅危惧Ⅱ類

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魚類

魚類 <スズキ目 ハゼ科>

エドハゼ

Gymnogobius macrognathos Bleeker

【選定理由】 名古屋市内における分布は局地的で、干潟の埋め立てや浚渫、 護岸工事などの開発の影響により生息地が大幅に減少してい る。 【形 態】 体長5cm。頭は縦扁、体後部は側扁する。 上顎後端は眼の後縁を大きく越え、上顎より 下顎がやや突出する。生時の頭と体は褐色で、 腹部は白色。体側には下部を除き、数本の不 明瞭な暗色斑がある。背鰭と尾鰭上部の鰭条 に斑点がある。 【分布の概要】 【市内の分布】 日光川河口、藤前干潟。 【県内の分布】 伊勢湾、三河湾の河口干潟、前浜干潟。 【国内の分布】 宮城県から宮崎県にかけての太平洋、瀬戸 内海、兵庫県から佐賀県にかけての日本海、 有明海。 【世界の分布】 日本、ロシア沿岸州、渤海、黄海。 【生息地の環境/生態的特性】 河口干潟や前浜干潟、塩水湿地に生息する。 砂泥底に掘られたニホンスナモグリやアナジ ャコなどの小型甲殻類の生息孔内に生息する。 名古屋市内でもアナジャコのものと思われる 生息孔がみられる砂泥底で採集されている (荒尾ほか,2007)。産卵も小型甲殻類の生 息 孔 内 で 行 う と 考 え ら れ て い る ( 鈴 木 , 2003)。 【現在の生息状況/減少の要因】 名古屋市内の分布は局地的である。生息地 では釣り餌用にアナジャコなどの小型甲殻類 が採集されている。ポンプを使った小型甲殻 類の採集は生息孔をも破壊することになり、 生息に与える悪影響は大きい。 【保全上の留意点】 干潟の埋め立てや浚渫、護岸工事は直接的 に生息環境を消滅させる原因となる。本種は 還元層が形成されていない砂泥底に生息するため(鈴木,2003)、底質の有機汚染、土砂の流入に よる底質の変化などに留意する必要がある。また、生息・産卵に必要な小型甲殻類の保全も重要で ある。 【引用文献】 荒尾一樹・山上将史・大仲知樹,2007.愛知県の河口域魚類.豊橋市自然史博研報,(17):29-40. 鈴木寿之,2003.環境省自然保護局野生生物課(編),エドハゼ.改訂・絶滅のおそれのある野生生物 –レッドデータブッ ク– 4 汽水・淡水魚類,pp.136-137.自然環境研究センター,東京. 【関連文献】

Stevenson, D. E.,2002.Systematics and distribution of fishes of the Asian goby genera Chaenogobius and Gymnogobius

(Osteichthyes: Perciformes: Gobiidae), with the description of a new species.SpeciesDiversity,7:251-312. 鈴木寿之・増田 修,1993.兵庫県で再発見されたキセルハゼと分布上興味あるハゼ科魚類 4 種.伊豆海洋公園通信,4(11):2-6. (執筆者 荒尾一樹) 市内分布図 エドハゼ 愛知県西尾市、2012 年 1 月 20 日、荒尾一樹 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧ⅠB類 愛 知 県2015 準絶滅危惧 環 境 省2014 絶滅危惧Ⅱ類

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魚類

魚類 <コイ目 コイ科>

ゼゼラ

Biwia zezera (Ishikawa)

【選定理由】 生息に適する砂および泥底の淀み、産卵基質となる水生植物 根、仔稚魚の生育に必要な河原の一時的水域等の環境が激減し ており、個体群が減少傾向にある。 【形 態】 体長 10cm。細長く、前部がやや縦扁し後 部が側扁する灰白色の体色の底生魚。体側に は完全な側線を持ち、瞳と同大程度の円形の 暗色斑が縦に並ぶ。口は小さく、吻端の下方 に開き、吻は全体的に短く丸い。口ひげは無 く、唇はなめらか。眼は高い位置にある。雄 は紫黒色の婚姻色が全身に現れ、胸鰭前縁に 追い星が出る。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系。 【県内の分布】 木曽川、庄内川、矢作川水系など。 【国内の分布】 琵琶湖・淀川水系および濃尾平野の水系、 山陽地方および九州北部に自然分布する。 北陸、関東地方および新潟県にも移殖による 分布が見られる。 【世界の分布】 日本固有種。 【生息地の環境/生態的特性】 河川下流域、平野部の湖沼の流れの少ない 淀みにある砂および泥底を主に生活の場とす る。口が小さい本種は、底生藻類、小型の底 生動物プランクトン、沈殿した有機物などを 摂食する。4~7 月に産卵し、川岸の水生植物 根に粘着卵を固着させる。卵塊を雄親が保護 する。雌雄ともに1 歳で成熟し産卵後死ぬ。 【現在の生息状況/減少の要因】 庄内川水系に生息するが、個体群サイズは 小さく、環境悪化や破壊により減少傾向にあ ると見られる。 【特記事項】 琵琶湖水系からの個体の移入による遺伝的撹乱が生じている可能性がある。 【関連文献】 細谷和海,2002.ゼゼラ.山渓カラー名鑑 日本の淡水魚(第 3 版),p.317.山と渓谷社,東京. 堀川まりな・向井貴彦,2007.濃尾平野におけるゼゼラのミトコンドリア DNA 二型の分布.日本生物地理学会会報,62:29-34. (執筆者 谷口義則) 市内分布図 ゼゼラ 西尾市矢作川水系、2009 年 4 月 12 日、荒尾一樹 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧Ⅱ類 愛 知 県2015 準絶滅危惧 環 境 省2014 絶滅危惧Ⅱ類

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魚類

魚類 <コイ目 ドジョウ科>

ドジョウ

Misgurnus anguillicaudatus (Cantor)

【選定理由】 水路のコンクリート護岸化を含む農業形態の変化などにより、 大部分の個体群で個体数が減少している。外来種のカラドジョ ウによる競争や置き換わりなどの影響も懸念される。 【形 態】 体長 20cm。雌は雄よりも大きくなる。体 形は細長い円筒形。口には上顎に3 対、下顎 に2 対の計 5 対 10 本のひげがある。体色は 灰褐色で、背面に不明瞭な斑紋を持つ。腹面 は淡色で斑紋がない。尾鰭と背鰭に褐色の小 斑が散在し、尾鰭基部上角に小さな黒色斑が ある。 【分布の概要】 【市内の分布】 天白川水系、庄内川水系など。 【県内の分布】 県内各地。 【国内の分布】 北海道から沖縄県。 【世界の分布】 日本、ロシア、中国、朝鮮半島、台湾、ベ トナム北部、ミャンマー。 【生息地の環境/生態的特性】 平野部を中心に、河川緩流域やワンド、水 路、浅い池沼の泥底または砂泥底、水田、湿 地に生息する。冬季には水が無い湿った土中 で越冬する個体もある。雑食性で、主にユス リカ幼虫などの水生昆虫を捕食する。産卵期 は 4~8 月。夜間、雄が雌に巻き付き、産 卵・放精し、卵は泥上にばらまかれる。 【現在の生息状況/減少の要因】 市内の平野部に広く生息していたが、都市 化、河川改修、圃場整備事業に伴う水路のコ ンクリート護岸化、乾田化や転作に伴う水路 の干上がり、農薬散布により激減。落差工な ど構造物による繁殖に伴う移動の阻害も大き く影響していると考えられる。また、名古屋 市内においては,外来種のカラドジョウの分 布域が広がっており,競争や置き換わりなど の影響が懸念される。 【保全上の留意点】 水田地帯における水路の干上がり防止策ならびに河川と水路、水田の水域のつながりを復元させ、 生息・繁殖に伴う移動を妨げない対策が必要である。また、釣具店やペットショップ等でカラドジ ョウや他地域産のドジョウ類が販売されており、それらの野外への放流防止が課題である。 【関連文献】 細谷和海,2013.ドジョウ科.日本産魚類検索 第三版 全種の同定,pp.328-334.東海大学出版会,神奈川. 斉藤憲治,1989.ドジョウ.川那部浩哉・水野信彦(編),山渓カラー名鑑 日本の淡水魚,pp.382-385.山と渓谷社.東京. 清水孝昭,2014.ドジョウ:資源利用と撹乱.シリーズ・日本の希少魚類の現状と課題.魚類学雑誌,61(1):36-40. 谷口義則,2012.カラドジョウ.STOP!移入種 守ろう!あいちの生態系~愛知県移入種対策ハンドブック~,p.81.愛知県 環境部自然環境課,愛知. (執筆者 鳥居亮一) 市内分布図 ドジョウ(幼魚) 碧南市(農業用水路)、2007 年 8 月 11 日 鳥居亮一 撮影 カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧Ⅱ類 愛 知 県2015 絶滅危惧Ⅱ類 環 境 省2014 情報不足

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魚類

魚類 <サケ目 アユ科>

アユ

Plecoglossus altivelis altivelis (Temminck et Schlegel)

【選定理由】 名古屋港周辺および伊勢湾の海洋環境の悪化、遡上河川の水 質汚濁、河川横断構造物による稚魚の遡上阻害等により、市内 における本種の出現河川数は少なく、回復の糸口はつかめてい ない。 【形 態】 体長30cm。ただし、10cm ほどで成熟する 個体群や地域もある。背側は青みがかったオ リーブ色で腹側は銀白色で、背鰭が黒く、 特に縄張りを持つ個体では胸鰭後方に大き な黄色の楕円形斑が一つ現れる。脂鰭の先端 が鮮やかな橙色。唇は厚いが、柔らかい。秋 に性成熟すると体全体に橙色と黒の婚姻色が 現れる。雄では追星の出現が著しく、体の 表面がざらざらになる。 【分布の概要】 【市内の分布】 庄内川水系、山崎川。 【県内の分布】 矢作川、豊川の両水系をはじめとする主要 河川。 【国内の分布】 北海道から鹿児島。 【世界の分布】 日本、朝鮮半島、ベトナム北部。 【生息地の環境/生態的特性】 アユは川魚であるが、仔稚魚は海洋生活を 送るため、両側回遊魚と呼ばれる。成熟したア ユは秋に河川下流域に降り、砂や小礫の多い瀬 で産卵する。ふ化した仔魚は卵黄嚢を吸収しな がら数日のうちに海に流下し、越冬しながら動 物プランクトンを利用して成長する。翌年 4 ~5 月頃に 5~10cm 程度になり、遡河する。 この時期、小型水生昆虫や陸生昆虫も捕食する が、付着藻類(珪藻類)を主食とするようにな る。藻類が多い場所を中心に縄張りを作り、他 個体の侵入から激しく防衛する。産卵を終えた アユは 1 年間の短い一生を終える。 【現在の生息状況/減少の要因】 本種の個体数は、特に仔稚魚期を過ごす海洋環境(水温、溶存酸素濃度、餌となる動物プランク トン量など)の状態によって著しく左右されるようである。市内では,庄内川や山崎川に遡上する アユが話題になるが、遡上数は多くない。くわえて、取水堰、落差工などの河川横断構造物による 仔魚の降河、稚魚の遡上の阻害も本種の個体数に影響を及ぼす。 【保全上の留意点】 伊勢湾、名古屋港周辺の海洋環境の改善が重要な鍵を握る。河川内のすべての構造物(堰堤等) には十分な流量をもつ魚道を設置する必要がある。 【特記事項】 都市河川にアユを復活させるためには,生活排水流入などによる水質の改善も重要課題である。 【関連文献】 井口恵一郎,1994.アユ–両側回遊から陸封へ.後藤・塚本・前川編,川と海を回遊する淡水魚–生活史と進化,pp.128-140. 東海大学出版会,東京. 西田睦,2002.アユ.山渓カラー名鑑 日本の淡水魚(第 3 版),pp.66-79.山と渓谷社,東京. (執筆者 谷口義則) カテゴリー 名古屋市2015 絶滅危惧Ⅱ類 愛 知 県2015 リスト外 環 境 省2014 リスト外 市内分布図 アユ 田原市、2009 年 10 月 25 日、荒尾一樹 撮影

参照

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