歩道状空地は宅地か私道か 東京地裁平成 27 年 7 月 16 日判決〔TAINS Z888-1972〕 東京高裁平成 28 年 1 月 13 日判決〔TAINS Z888-2003〕 最高裁 平成 29 年 2 月 28 日判決〔TAINS Z888-2047〕 1.はじめに 本件は、相続人が、相続財産である土地の一部につき、財産評価基本通達(以下、「評価 通達」という。)の24に定める私道の用に供されている宅地として相続税の申告をしたと ころ、税務署長から、これを私道として評価することはできないとして更正処分及び過少申 告加算税賦課決定処分を受けたため、各処分の取消しを求める事案である。 第一審、第二審ともに国側勝訴の判決が下されていたが、最高裁で差戻しの判決がでたた め、その動向が注目されている事案である。 2.事実の概要 イ 本件における被相続人は、平成20年3月19日に死亡した。 ロ 本件相続における相続財産の中には、相続人である長男が取得した相模原土地(以下、 「本件相模原土地」という。)及び大和土地(以下「本件大和土地」といい、併せて「本 件各土地」という。)が含まれており、相続開始時の状況は次のとおりである。 ① 本件相模原土地について(図1参照) (ⅰ)本件相模原土地は、共同住宅3棟(以下「本件相模原共同住宅」という。)の敷地 となっており、その西側において市道 α219号線及び同528号線と接面し、そ の北側において市道 β 線と接面している。 (ⅱ)本件相模原土地のうち、西側の市道 α219号線沿いの部分、同528号線沿い の一部及び北側の市道 β 線沿いの一部には、インターロッキング舗装が施された幅 員2メートルの歩道状空地(図1の着色部分。以下「本件相模原歩道状空地」という。) が整備されている。 (ⅲ)本件相模原歩道状空地の南端は、本件相模原共同住宅のうち最も南側に位置する建 物(図1にC棟と記載されている建物)の敷地内にある居住者用の駐車場の出入口に 接面している。 (ⅳ)本件相模原土地のうち、本件相模原歩道状空地を除く通路部分は、本件相模原歩道 状空地と同様にインターロッキング舗装が施され、本件相模原土地と一体として整 備されている。 (図1)本件相模原土地の見取図
②本件大和土地について(図2参照) (ⅰ)本件大和土地は、共同住宅8棟(以下「本件大和共同住宅」といい、本件相模原共 同住宅と併せて「本件各共同住宅」という。)の敷地となっており、その西側におい て市道 γ67号線、その東側において δ 線及びその南側において市道 γ72号線 とそれぞれ接面している。 (ⅱ)本件大和土地のうち、南側の市道 γ72号線沿いの部分、西側の同67号線沿い の一部及び東側の δ 線沿いの一部は、インターロッキング舗装が施された幅員2メ ートルの歩道状空地(図2の着色部分。以下「本件大和歩道状空地」といい、本件相 模原歩道状空地と併せて「本件各歩道状空地」という。)が整備されている。 (ⅲ)本件大和土地内にある居住者用の駐車場から市道 γ72号線へ出入りすることは、 本件大和歩道状空地を通過することのみにより可能となっている。 (ⅳ)本件大和土地のうち、本件大和歩道状空地を除く通路部分は、本件大和歩道状空地 と同様にインターロッキング舗装が施され、本件大和土地と一体として整備されて いる。 (図2)本件大和土地の見取図
ハ 原告らは、平成21年1月14日、本件相続に係る相続税申告書を提出した(以下「本 件相続税申告」という。)。 ニ 原告らは、平成23年7月4日、本件相模原歩道状空地について、当初申告において不 特定多数の者の通行の用に供されている私道であるとしてその価額を評価していなかっ たが、自用地の価額の100分の30に相当する価額によって評価すべきであったとし て、これを是正する旨の修正申告書を提出し、税務署長は、同年8日付けで、これに対応 する過少申告加算税の賦課決定処分をした。 ホ 税務署長は、平成23年7月8日付けで、本件各歩道状空地については、私道供用宅地 には該当せず、本件各土地の一部を構成し、本件各共同住宅の敷地ごとに評価すべきであ ることを前提とする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算 税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各 処分」という。)をした。 へ 原告らは、平成23年9月6日、本件各処分を不服として、税務署長に対し、異議申立 てをしたが、同税務署長は、同年12月5日、原告らの異議申立てを棄却する旨の異議決 定をした。 ト 原告らは、平成23年12月28日、本件各処分に不服があるとして、国税不服審判所 長に対する審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成24年12月20日、原告らの 審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。 3.争点 本件各歩道状空地は、私道か貸家建付地か。 4.納税者の主張 本件各歩道状空地は、①通り抜け道路であり現に不特定多数の者の通行の用に供されて
いること、②都市計画法の開発許可を受けるための道路内建築の制限により、通行を妨害す る行為が禁止されること、③都市計画法の開発許可に基づき私道の廃止又は変更が制限さ れていること、④私道の減価を100パーセントとみるべきであることから、私道供用宅地 に該当するというべきである。 5.税務署長の主張 私道供用宅地に当たるか否かは、その私道が私有物として使用・収益する権能が制約され ることにより、私道の宅地としての価額が著しく低下しているか否かによって判断するの が相当であるところ、①本件各歩道状空地は本件各土地と併せて建築基準法上の接道義務 を満たしており、本件各歩道状空地の歩道としての状況は、同法上の接道義務の判断に何ら 影響しないこと、②本件各歩道状空地は、建築基準法上の道路内の建築制限及び建築基準法 上の私道の変更又は廃止の制限のほか、道路法の道路上の私権の行使の制限も受けない土 地であること、さらに、③都市計画法による開発行為に該当しない戸建住宅を建築する際に は、本件各歩道状空地を戸建住宅の敷地の一部として使用することも可能であり、加えて、 ④本件各共同住宅を建築した際には、建築基準法上の建ぺい率及び容積率(以下、併せて「建 ぺい率等」という。)の算定の基となり、宅地の一部として扱われていることが認められる から、本件各歩道状空地を使用・収益する権能の制約は、たとえ本件各歩道状空地が第三者 の通行の用に供されていたとしても、その限度にとどまるものであり、本件各歩道状空地の 価額が著しく低下しているものとは認められない。 したがって、本件各歩道状空地は、私道供用宅地には該当せず、本件各共同住宅の敷地の 一部を構成するものとして評価するのが相当である。 6.第一審判決 請求棄却 ①検討 評価通達24は、私道供用宅地の価額は、自用地の価額の100分の30に相当する価額 によって評価する旨及びこの場合において、その私道が不特定多数の者の通行の用に供さ れているときは、その私道の価額は評価しない旨を定めているが、ここにいう「私道」がい かなるものかについて、同通達上は明記されていない。 そこで検討すると、私人が所有する道という広い意味で私道を捉えた場合、その中には、 例えば、複数の建物敷地のいわゆる接道義務を満たすために当該各敷地所有者が共有する 道であって建築基準法上の道路とされているものもあるであろうし、他方において、宅地の 所有者が事実上その宅地の一部を通路として一般の通行の用に供しているものもあり得る ところである。 このうち、前者は、これに隣接する各敷地の所有者が、それぞれその接道義務を果たすた めに不可欠のものであるから、個別の敷地所有者(すなわち私道の一共有者)の意思により、
これを私道以外の用途に用いることには困難を伴うといえるし、また、道路内の建築制限 (建築基準法44条)や私道の変更等の制限(同法45条)も適用されるのであって、その 利用には制約があるものである。 これに対し、後者は、宅地の所有者が宅地の使用方法の選択肢の一つとして任意にその宅 地の一部を通路としているにすぎず、特段の事情のない限り、通路としての使用を継続する か否かは当該所有者の意思に委ねられているのであって、その利用に制約があるわけでは ない。 このような違いを宅地の価額の評価という観点からみた場合、前者については、上記のよ うな制約がある以上、評価通達24が定めるように、所定の方法により計算された価額の3 0%で評価することとし、それが不特定多数の者の通行の用に供されているためにより大 きい制約を受ける状況にあるといえるときにはその価額を評価しないとすることには、合 理性があるものということができる。 しかしながら、後者については、そもそもかかる制約がなく、特段の事情がない限り、私 道を廃止して通常の宅地として利用することも所有者の意思によって可能である以上、こ れを通常の宅地と同様に評価するのがむしろ合理的というべきである。そうすると、評価通 達24にいう「私道」とは、その利用に上記のような制約があるものを指すと解するのが相 当である。 この点、評価通達24を解説した文献においては、同通達の定めにつき、次のような解説 がされているが、これは上記検討と基本的に同様の考えに出たものであり、既に述べた前者 の場合に類するものとしてア及びイが、後者の場合に類するものとしてウが例に挙げられ ているものと解される。 ア 私道のうち不特定多数の者の通行の用に供されているものについては、①当該私道に ついて第三者が通行することを容認しなければならず、②私道内建築の制限により、通行 を妨害する行為が禁止され、③私道の廃止又は変更が制限されること等の制限があり、取 引実態からみても、かかる場合には私道の減価を100%としている事例が多いことな どから、私道の価額を評価しないこととしたものである。 イ 専ら特定の者の通行の用に供されているものは、その使用収益にある程度の制約はあ るものの、所有者の意思に基づく処分の可能性が残されていることなどから、所定の方法 により計算した価額の30%の相当額によって評価することとしたものである。 ウ 敷地の所有者が当該敷地の一部を公道に通じる通路としてのみ使用している場合には、 当該通路部分は自用地としての評価を行い、私道としての評価は行わない。 ③本件各歩道状空地は私道に該当するか まず、本件各土地は、いずれも公道に接しているのであり、本件各歩道状空地は、接道義 務を果たすために設けられたものではない。したがって、本件各歩道状空地の利用について、 私道としての建築基準法上の利用制限が課されることになるわけではない。
本件各歩道状空地が設けられたのは、相模原市や大和市から、要綱等に基づき歩道部分を 設けるように指導されたことによるものであるが、かかる指導がされることとなったのは、 本件被相続人が、本件各土地上に、それぞれ共同住宅を建築するべく、都市計画法に基づく 開発行為を行うこととしたためである。すなわち、本件各土地の利用方法として様々な選択 肢があり得る中で、本件被相続人は、上記開発行為をすることを選択したのであって、その 結果、上記指導を受けて、本件各歩道状空地を設けることとなったものであるところ、かか る指導によって本件各歩道状空地を設けることを事実上やむなくされたことをもって仮に 制約と評価する余地があるとしても、かかる制約は、それを受け入れつつ開発行為を行うの が本件各土地の利用形態として適切であると考えた上での選択の結果生じたものというこ とができる。 しかも、本件各土地は、本件被相続人が所有し、原告らが相続したものであり、その利用 形態は同人らが決定し得るものであって、同人らが、その意思により、本件各土地の利用形 態を変更すれば、上記のような制約を受けることもなくなるのであるから、通常の宅地と同 様に利用することができる潜在的可能性とそれに相応する価値を有しているといえる。 また、制約の態様についてみると、本件各土地においては、歩道としての供用が求められ ているにすぎないし、しかも、本件各歩道状空地も含めて建物敷地の一部として建ぺい率等 が算定されているのであって、つまるところ、同部分は、所定の容積率の建物を建築し得る ための建物敷地としての役割をも果たしており、それに相応する価値を現に有していると 考えられるところである。 この点、複数の建物敷地の接道義務を満たすために当該各敷地所有者が共有する私道の 例などでは、個別の建物敷地所有者が当該敷地の利用形態をどのように選択しようと、当該 私道を私道以外の用途に用いることは困難というべきであるし、また、私道部分と建物敷地 部分は区別されており、前者を建ぺい率等算定のための建物敷地として用いることもでき ない(建築基準法施行令2条1項1号参照)。 以上のような事情に照らすと、評価通達24が想定している私道に課せられた制約の程 度と、本件各歩道状空地に課されている上記の制約の程度は、大きく異なるものといわざる を得ないのであり、後者の程度の制約しかない本件各歩道状空地をもって、評価通達24の 適用される私道供用宅地に該当するということはできないものというべきである。 7.第二審判決 控訴棄却 当裁判所も、控訴人らの請求は、いずれも理由がないものと判断する。 8.最高裁判決 破棄差戻し ①法令解釈
相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価 による旨を定めているところ、ここにいう時価とは、課税時期である被相続人の死亡時にお ける当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。 そして、私道の用に供されている宅地については、それが第三者の通行の用に供され、所 有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をすることに制約が存在することに より、その客観的交換価値が低下する場合に、そのような制約のない宅地と比較して、相続 税に係る財産の評価において減額されるべきものということができる。 そうすると、相続税に係る財産の評価において、私道の用に供されている宅地につき客観 的交換価値が低下するものとして減額されるべき場合を、建築基準法等の法令によって建 築制限や私道の変更等の制限などの制約が課されている場合に限定する理由はなく、その ような宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、私道としての利用 に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道 路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、当該宅 地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決 定する必要があるというべきである。 ②本件各歩道状空地は私道に該当するか これを本件についてみると、本件各歩道状空地は、車道に沿って幅員2mの歩道としてイ ンターロッキング舗装が施されたもので、いずれも相応の面積がある上に、本件各共同住宅 の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていることがうかがわれる。 また、本件各歩道状空地は、いずれも本件各共同住宅を建築する際、都市計画法所定の開 発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供 されるに至ったものであり、本件各共同住宅が存在する限りにおいて、上告人らが道路以外 の用途へ転用することが容易であるとは認め難い。 そして、これらの事情に照らせば、本件各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人に よる選択の結果であるとしても、このことから直ちに本件各歩道状空地について減額して 評価をする必要がないということはできない。 ③結論 以上によれば、本件各歩道状空地の相続税に係る財産の評価につき、建築基準法等の法令 による制約がある土地でないことや、所有者が市の指導を受け入れつつ開発行為を行うこ とが適切であると考えて選択した結果として設置された私道であることのみを理由として、 前記に説示した点について具体的に検討することなく、減額をする必要がないとした原審 の判断には、相続税法22条の解釈適用を誤った違法があるというべきである。 したがって、原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、論旨 はこの趣旨をいうものとして理由がある。原判決は破棄を免れない。そして、本件各歩道状
空地につき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。 9.判例評釈 ①本件歩道状空地の評価 本件の歩道状空地は、幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されたもので、 第三者による自由な通行の用に供されているものである。 第一審及び第二審においては、本件歩道状空地は、隣接する他の宅地の接道義務を充たす ために設けられたものではなく、また、その利用形態は土地所有者が決定し得るものである ことから、評価通達が想定している私道としての制約はないものと判示している。 これに対し最高裁においては、都市計画法の開発行為の許可を受けるために、市の指導要 綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったものであり、道路以外の用 途へ転用することが容易であるとは認め難いことなどから、直ちに本件各歩道状空地につ いて減額する必要がないということはできないと判示している。 ②マンション用地の取扱いとの類似性 これは、例えば、公団等のマンション敷地の評価において、マンション敷地のうちに公衆 化している道路、公園等の施設の用に供されている宅地が多数含まれていて、建物の専有面 積に対する共有部分に応ずる敷地面積が広大となるため、通常の評価方法にしたがって評 価することが著しく不適当であると認められる場合には、その公衆化している道路等の施 設の用に供されている宅地部分の面積を除いて評価して差し支えないとされているところ でもある。 ③公開空地との相違点 一方、実務上、建築基準法のいわゆる総合設計制度の公開空地については、特にしんしゃ くしないこととされている(国税庁質疑応答事例「公開空地のある宅地の評価」)。 公開空地は、建物を建てるために必要な敷地を構成するものであり、建築基準法上建ぺい 率や容積率の計算に当たっては、その宅地を含めて算定するものであること等からみて、一 般の建物の敷地と何ら異ならないからである。 本件で争点となっている歩道状空地は、建築基準法上建ぺい率や容積率の計算に当たっ てその宅地を含めて算定されるものであるが、共同住宅を建築する際、市の行政指導によっ て私道の用に供されるに至ったものであり、土地所有者が道路以外の用途へ転用すること が容易であるとは認め難いとされている。 建築基準法上の公開空地は宅地として評価し、都市計画法上の歩道状空地は私道として 評価する相違点は何かという点は今後の研究課題である。 ④相続税法 22 条に定める客観的交換価値との関係
さらに、私道については、所有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をする ことに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下することから減額すべきも のと解されている。 仮に、本件土地及び歩道状空地を売買するとして、売主が歩道として利用していた部分に ついて、買主は、その敷地部分の価値はゼロだといえるだろうか。 ⑤まとめ これまでは実務上、歩道状空地は私道として評価がされてこなかった。建築基準法上の公 開空地についても特にしんしゃくしないということでもある(もし、歩道状空地を私道とし て評価するのであれば、当該公開空地との違いを明らかとしなければならない。)。 差戻し審において、歩道状空地を私道として評価することとなれば、これまでの取扱いに 変更を与える論点となり、今後、土地の評価にあたって、開発許可面積基準以上の地積を有 するマンションやビルの敷地については、開発指導要綱に基づいて設置した歩道状空地が あるか否かは必ず確認しなければならない点となる。