伊藤忠経済研究所 チーフエコノミスト 武田淳 (03-3497-3676) takeda-ats @itochu.co.jp 【内 容】 1. 最近の注目点 7~9 月期のマイナ ス成長は一時的 原 油 相 場 は 大 幅 下 落し物価下押し圧力 に 補正予算により公共 投資を積み増し 政府は 9 項目の消 費増税対策を検討 2. 日本経済見通し 個 人 消 費 は 所 得 環 境 の 改 善 を 背 景 に 持ち直す 設備投資はピークア ウトの可能性 2018 年度の成長率 見通しを下方修正 2020 年度までデフレ 脱却は見込めず
日本経済情報
2018 年 11 月号
Summary
日本経済改定見通し~デフレ脱却遠のく中で政策対応に注目
11 月 14 日に発表された 7~9 月期の GDP は 2 四半期ぶりのマイナス成
長となったが、主因は地震や台風などの自然災害であり、特に個人消費
や輸出にその影響が大きく出た。ただ、
10 月の経済指標は自然災害から
の回復を示しており、
10~12 月期はプラス成長に復する見込み。
原油相場は、米国がイラン制裁再開において原油の輸出制限を
180 日猶
予したことをきっかけに下落。原油需給は今後も供給過剰気味で推移す
るとみられ、原油価格の反発は見込み難く、国内物価を下押ししよう。
政府は災害復旧費用を柱とする
1 次補正予算を成立させ、来年早々の成
立を目指す
2 次補正予算でも公共投資を積み増す方針。また、既に決ま
っている幼児教育無償化や給付金、軽減税率に加え、プレミアム商品券
や自動車・住宅購入支援策、キャッシュレス決済へのポイント還元、防
災・被災や国土強靭化対策までも盛り込んだ
9 項目の消費増税対策を検
討開始。一定の景気下支え効果が見込まれる。
今後の景気は、個人消費が賃金上昇など所得環境の改善を背景に持ち直
す一方で、設備投資は年内こそ拡大が続くものの、年明け後は循環的に
ピークアウトする可能性が高い。そうした中、
2018 年度第一次補正予
算に盛り込まれた公共事業の執行が本格化すること、消費増税が視野に
入り駆け込み需要が出始めることから、
2019 年 10 月の消費増税までは
景気の拡大が続くと予想される。
懸案事項である消費増税は、前回に比べ税率の引き上げ幅が小さく、軽
減税率などの対応策が打ち出されることから、景気を一時足踏みさせる
程度の影響にとどまろう。しかしながら、
2020 年夏の東京五輪後は、
消費増税対策の反動が見込まれるほか、米国によって自動車輸出が制限
される可能性もあり、景気は再び停滞しよう。こうした状況を踏まえる
と、現時点では
2020 年度までの間にデフレ脱却の実現を見込めない。
政府は消費増税対策の具体化などにおいて、どのような政策判断をして
いくのか注視していきたい。
1. 最近の注目点
7~9 月期のマイナス成長は一時的 11 月 14 日に発表された 2018 年 7~9 月期の実質 GDP(1 次速報値)は、前期比▲0.3%(年率▲1.2%) と2 四半期ぶりのマイナス成長となった(下左図)。ただ、その主因は夏場に続いた悪天候や 9 月の北海道 地震・台風21 号など自然災害の影響である。なかでも、個人消費と輸出にその影響が大きく出たとみられ、 個人消費は4~6 月期の前期比+0.7%から 7~9 月期は▲0.1%へ、輸出は+0.3%から▲1.8%へ、それぞ れマイナスに転じた。 ( 出所) 内閣府 ( 出所) 内閣府 実質GDPの推移(季節調整値、前期比年率、%) 家計消費の形態別の推移(季節調整値、2013年Q1=100) ▲ 3 ▲ 2 ▲ 1 0 1 2 3 4 5 6 7 2015 2016 2017 2018 実質GDP 純輸出 個人消費 その他 設備投資 公共投資 90 95 100 105 110 115 120 125 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 耐久財 半耐久財 非耐久財 サービス 個人消費(家計消費)を形態別に見ると(上右図)、全体の約 6 割を占めるサービス消費(4~6 月期前期 比+0.9%→7~9 月期▲0.7%)の落ち込みが顕著である。観光シーズンにおける自然災害の多発が大きく 影響したとみられる。また、循環的な買い替え期を迎えている耐久財(+2.2%→+0.4%)も伸び悩んで おり、サービス同様、多発する自然災害が購買の機会を奪った可能性があろう。 輸出については、モノ(財貨)が減少に転じ(4~6 月期前期比+0.8%→7~9 月期▲1.3%)、サービス(▲ 1.6%→▲3.8%)は落ち込み幅が拡大した。モノについては、9 月に上陸した台風 21 号の影響によって関 西空港が一時閉鎖されたこと、サービスについては台風に加えて北海道地震の発生が海外からの旅行客の 減少 1につながった影響が大きいとみ られる。 以上の通り、7~9 月期の個人消費と 輸出の落ち込みは、ともに自然災害の 影響という一過性の部分が大きく、10 月以降はリバウンドが見込まれる。実 際に、10 月の指標を見ると(右図)、 個人消費関連はまちまちとはいえ、百 貨店売上がインバウンド需要中心の 化粧品の急回復により 4 ヵ月ぶりの 前年比プラスに転じたほか、乗用車販 1 政府環境局の統計によると、9 月の訪日外国人数は、前年同月比▲5.3%の 216.0 万人にとどまった。前年比マイナスは 2013 年1 月以来 5 年 8 ヵ月ぶり。 個人消費・輸出関連指標の9月から10月にかけての推移 9 月 1 0 月 備考 個人消費関連 百貨店売上 合計 前年同月比 ▲ 3.0 1.64ヵ月ぶりプラス 衣料品 (店舗数調整済) ▲ 5.4 ▲ 1.0気温低下で秋冬商材好調 化粧品 1.8 9.4インバウンド需要中心 スーパー売上 合計 前年同月比 1.9 ▲ 0.75ヵ月ぶりマイナス 食料品 (既存店) 2.8 0.3価格上昇により底堅く推移 衣料品 ▲ 5.6 ▲ 11.0寒さが強まらなかったため低調 コンビニ売上 合計 前年同月比 3.5 ▲ 1.5 非食品 (既存店) 13.8 ▲ 3.9たばこ増税に伴う駆け込み需要 乗用車販売台数 合計 前年同月比 ▲ 3.3 11.62ヵ月ぶりプラス 輸出関連 輸出数量指数 合計 前年同月比 ▲ 4.9 3.82ヵ月ぶりプラス 訪日外国人数 合計 前年同月比 ▲ 5.3 1.82ヵ月ぶりプラス (出所)各業界団体、財務省、政府観光局売台数も9 月のマイナスから 10 月は 2 桁プラスに転じている。輸出関連についても、モノの動向を示す 輸出数量指数、旅行関連サービスの指標となる訪日外国人数とも、前年比マイナスからプラスに転じてい る。 そのため、10~12 月期の個人消費と輸出は、ともに 7~9 月期に落ち込んだ反動によって押し上げられる とみて良いだろう。さらに、個人消費は賃金が上昇傾向にあること、輸出は減速気味とはいえ海外景気の 拡大が続いていることを踏まえると、基調としても増加方向にあると考えて良いだろう。10~12 月期は前 期比でともに相応のプラスとなると見込まれる。 原油相場は大幅下落し物価下押し圧力に このところの原油相場の下落も、景気や特に物価の 先行きを見る上で重要な要素であろう。WTI 先物(期 近)価格は、米国の制裁再開によるイランの供給減 少への懸念から、10 月上旬には 76 ドル/バレル台 まで上昇した。しかしながら、11 月 5 日に再開した 制裁の内容は、8 か国2に対して原油輸出禁止を180 日間適用除外とするものとなり、供給不足懸念が後 退し原油価格は反転、米国シェールオイルの大幅増 産や、ロシア及び OPEC 主要国の増産が下押しし、 11 月下旬には昨年 10 月上旬以来の水準となる 50 ドル近くまで下落した。 米国のイラン制裁再開から180 日後には猶予期間が終了する 8 か国向け計 190 万バレル/日程度の供給が 再び懸念されることとなるが、今後も見込まれる米国やロシア、OPEC など主要産油国の増産により十分 にカバーできる見通しである。むしろ、原油需給は供給過剰気味で推移する可能性が高く、原油価格の反 発は見込み難い。 足元の原油価格は、既にピークから3 割強落ち込み、前年同月の水準を下回っている。今後も現状程度の 水準が続けば、国内物価を押し下げる要因となろう。このことは、消費者の購買力を高め、個人消費を押 し上げる点で景気にプラスである一方で、物価の上昇を遅らせる、すなわちデフレ脱却が遠のく要因とも なる。また、このところ資源高により赤字基調で推移する貿易収支を改善させ、経常収支の黒字幅拡大に も寄与、為替相場に円高圧力をかける要因ともなる。これらのような外生的要因による物価押し下げは、 本来、経済成長にプラスとなることが多いが、デフレ脱却のために不可欠な物価上昇期待は、一般的に物 価の実績に引きずられやすいとされているため、デフレ脱却を遅らせかねない点に注意が必要である。 補正予算により公共投資を積み増し 政府は10 月 24 日、相次ぐ自然災害の復旧費用を柱とする 2018 年度第 1 次補正予算案を国会に提出、11 月7 日に原案通り成立した。歳出総額 9,356 億円のうち公共投資につながるものは、主に 7 月豪雨や北海 道胆振東部地震、台風21 号、大阪北部地震に関連した災害復旧 4,000 億円強と、学校の緊急重点安全確保 対策として盛り込まれた施設費約1,000 億円の計 5,000 億円強、GDP の約 0.1%である。政府は年内の執 行開始を目指すとしており、年明け後にも執行が本格化し、7~9 月期まで前期比で 5 四半期連続減少して 2 中国、インド、韓国、トルコ、イタリア、日本、ギリシャ、台湾。 ( 出所) C EIC DAT A 原油価格の推移(WTI先物、ドル/バレル) 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 2014 2015 2016 2017 2018
いた公共投資は下げ止まるとみられる。 さらに政府は、1 次補正予算で計上しきれなか った北海道地震や台風 21 号被害の復旧費な どを盛り込んだ第 2 次補正予算案を策定中で あり、年明け直後から始まる通常国会の冒頭 に提出、速やかに成立し、執行に移される見 込みである。その規模は1 兆円を上回るとの 観測もあり、仮にその程度となれば、2 次に渡 る補正予算により公共投資は 1.5 兆円程度積 み増され、年明け後の執行本格化に伴いGDP を0.3%程度押し上げることになる。 政府は 9 項目の消費増税対策を検討 政府は11 月 26 日に開催した経済財政諮問会議や未来投資会議などの合同会議で、9 項目の消費増税対策 案を示した。主な内容は、「社会保障の充実」として、幼児教育無償化(1.4 兆円程度)や年金生活者への 給付金(0.5 兆円程度)など、「低所得者に対する支援策」として飲食料品などへの軽減税率適用(1.0 兆 円程度)、低所得者・子育て世帯向けプレミ アム商品券(0.2 兆円程度)、「駆け込み・反 動減の平準化、中小・小規模事業者等への 対策」として、自動車関連減税(0.1 兆円程 度)、住宅ローン減税拡充(0.1 兆円程度)、 すまい給付金拡充(0.1 兆円程度)、キャッ シュレス決済への5%ポイント還元(0.5 兆 円程度)など、「防災・被災、国土強靭化対 策」として 3 ヵ年緊急対策の実施(3.5~4 兆円)が盛り込まれており、推定できるも のだけで総額8 兆円近くにも上る。 これらのうち、上記の通り防災・減災、国 土強靭化対策の一部(1 兆円程度)は北海道 地震や台風21 号被害関連とともに今年度 2 次補正予算に計上、残りは2020 年度にかけ て予算化され、公共投資の水準維持に貢献 しよう。また、幼児教育の無償化や給付金、 プレミアム商品券やキャッシュレス決済の ポイント還元といった事実上の所得補てん 策は、軽減税率と相俟って消費増税に伴う 負担増を大幅に緩和することになる(詳細 後述)。 2018年度第1次補正予算の概要 (単位:億円) 災害からの復旧・ 復興 7 ,2 7 5 公債金( 建設国債) 6 ,9 5 0 7月豪雨への対応 5,034 北海道胆振東部地震への対応 1,188 台風21号、大阪北部地震等への対応 1,053 学校の緊急重点安全確保対策 1 ,0 8 1 税外収入 4 2 熱中症対策としてのエアコン設置 822 倒壊の危険性のあるブロック塀対応 259 予備費の追加 1 ,0 0 0 前年度剰余金受入 2 ,3 6 4 歳出計 9 ,3 5 6 歳入計 9 ,3 5 6 (出所)財務省 消費増税対策9項目の概要 <社会保障の充実> 予算規模 ①幼児教育無償化、年金生活者支援給付金 3~5歳の幼稚園、保育所、認定こども園の費用を無償化 (0~2歳は住民税非課税世帯を対象に無償化) 勤続10年以上の介護福祉士の介護報酬改善 低年金の高齢者に対し年金生活者支援給付金を支給 0.5兆円 <低所得者に対する支援策> ②軽減税率制度 酒類及び外食を除く飲食料品、新聞に軽減税率適用 1.0兆円 ③プレミアム商品券 低所得者・子育て世帯(0~2歳児)に商品券を発行・販売 0.2兆円 <駆け込み・反動減の平準化、中小・小規模事業者等への対策> ④耐久消費財( 自動車・ 住宅) の購入支援策 自動車の保有に係る税負担の軽減 0.1兆円 住宅購入時の税制優遇措置の検討 0.1兆円 すまい給付金の拡充(対象、給付額30万円→50万円) 0.1兆円 介護負担軽減住宅の新築・リフォームにポイント付与 ⑤消費税率の引上げに伴う柔軟な価格設定( ガイドライン) 消費税率引上げ前後に事業者の判断で柔軟に価格設定 - 消費税の転嫁拒否等に対する監視・取締りの強化 - ⑥中小小売業に関する消費者へのポイント還元支援 キャッシュレス決済に増税後9ヵ月間、5%ポイント還元 0.5兆円 ⑦マイナンバーカードを活用したプレミアムポイント 他の政策実施後の一定期間、自治体ポイントを加算 ⑧商店街活性化 インバウンド需要取り込みや商店街の集客向上を支援 <防災・減災、国土強靭化対策> ⑨防災・ 減災、国土強靭化対策 「防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策」実施 3.5~4.0兆円 (出所)予算規模は、経済財政諮問会議資料、日銀試算、予算資料などから伊藤忠経済研究所にて試算。 1.4兆円
2. 日本経済見通し
個人消費は所得環境の改善を背景に持ち直す 個人消費の先行きを展望すると、外部環境は改善しているため、来年にかけて回復に向けた動きを維 持するとみられる。一人当たり賃金は、9 月に前年同月比+1.1%へ伸びを高め(8 月+0.8%)、7~9 月期を均して見ても前年同期比+1.2%と物価上昇3を若干ながらも上回る伸びを記録した。夏のボー ナスが集中する4~6 月期(+2.2%)からは大きく減速しているが、家計の所得環境は緩やかながら 着実に改善していると言える 4。冬のボーナスについても、経団連の集計で前年同期比+3.49%、労 務行政研究所で+3.9%と、上場企業中心の調査5ながら夏に続いて比較的高い伸びが予定されている。 ( 出所) 厚生労働省 ( 出所) 総務省 就業者数と失業率の推移(季節調整値、万人、%) 勤労者一人当たりの平均賃金(前年同期比、%) ▲ 2.0 ▲ 1.5 ▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 特別給与 所定外給与 所定内給与 総額 2 3 4 5 6 6,200 6,300 6,400 6,500 6,600 6,700 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 失業率 (右目盛) 就業者数 雇用情勢に関しても、就業者数こそ労働力の伸び悩みを主因に頭打ちしているものの、失業率は9 月 に2.3%へ低下(8 月は 2.4%)、事実上の下限近くで推移している。日銀短観の雇用判断 DI などで確 認されている通り人手不足は極まっており、今後も雇用の拡大を伴う経済成長が続くとすれば、賃金 の上昇圧力は一段と高まることとなろう。 懸念されるのは、今一つ盛り上がりを欠く消費者マ インドである。代表的な消費者マインドの指標であ る消費者態度指数は、9 月の 43.4 から 10 月は 43.0 へ0.4 ポイント低下し、2018 年に入ってからの低 下傾向に歯止めが掛かっていない。主な内訳を見る と、上記の通り賃金や雇用情勢が改善しているにも かかわらず、「収入の増え方」が 9 月の 41.9 から 10 月は 41.3 へ、「雇用環境」は 47.7 から 46.8 へ 比較的大きな落ち込みとなっている。 その原因としては、現在の賃金や雇用の改善では不十分なこと、今後の悪化を懸念している可能性、 などが指摘できる。ただ、賃金については、冬のボーナスで上記のような高い伸びが実現し、来春闘 3 7~9 月期の消費者物価は総合で前年同期比+1.1%(当研究所による計算値)であった。 4 2018 年 1 月に実施されたサンプル入れ替え等の影響により嵩上げされている部分があり、賃金の伸びは 2018 年に入り鈍 化している可能性はあるが、増加傾向を維持していることに違いはない。 5 経団連の調査は原則として東証 1 部上場、従業員 500 人以上の主要 21 業種大手 251 社対象で、11 月 16 日発表の第 1 回 集計。労務行政研究所の調査は東証1 部上場企業のうち 203 社。 ( 出所) 内閣府 消費者態度指数の推移(季節調整値) 36 38 40 42 44 46 48 50 52 2013 2014 2015 2016 2017 2018 消費者態度指数 収入の増え方 雇用環境においてもベースアップの継続が確認されれば、ある程度の改善が期待できよう。一方で、雇用環境 については、労働需給が逼迫している足元の状況を踏まえると現状への不満というよりは、先行きに 対する懸念が強いと考えるべきであろう。海外景気の減速が見込まれる中で、消費増税という不透明 要因がより一層マインドを悪化させている可能性がある。仮にそうであれば早期改善は見込み難く、 当面、消費者マインドの改善は賃金の上昇に多くを依存することになる。また、政府による消費増税 への対応が、単なる負担増緩和策で良いのか、将来的な財政や社会保障に対する懸念にも目配せする 必要があるのかの見極めも重要となろう。 設備投資はピークアウトの可能性 設備投資は、7~9 月期に小幅ながら 2 年ぶりの前 期比減少(▲0.2%)となったが、主に前期(4~6 月期)に高い伸び(前期比+3.1%)となった反動 であり、足元では引き続き拡大基調を維持している とみるのが妥当であろう。先行指標である機械受注 (船舶・電力を除く民需)は(右図)、7~9 月期に 前期比+0.9%と 4~6 月期(前期比+2.2%)から 減速はしたものの5 四半期連続で拡大しており、少 なくとも年内は拡大が続く可能性を示唆している。 ただ、9 月の機械受注が前月比▲18.3%もの大幅減少を記録した点には留意が必要である。工作機械 販売の現場からは米中貿易摩擦など先行きに対する不透明感から注文の最終判断に時間がかかり始め ているとの声も聞こえている。また、マクロ的に見ても、従来から指摘している通り 、ストック循環 の観点から設備投資のピークが近付いている 可能性が高い。設備の更新サイクルに基づいて 投資の動きを表現する資本ストック循環図(右 図)によると、2018 年 4~6 月期から 7~9 月 期にかけての設備投資は、2%を超える期待成 長率を前提とするほどの拡大ペースとなって おり、循環的に見ればこのまま拡大を続けるこ とは困難なところまで来ている。そのため、今 後、1%程度の期待成長率を前提とした自然な 状態に収斂していくとすれば、設備投資はスピ ード調整を余儀なくされる。 過去の例に倣えば、2019 年 10 月の消費増税前に駆け込み的な動きが出ることによって、一旦持ち直すこ ともあろうが、一方で米国発の貿易摩擦が自動車関税という形などで日本にも悪影響を及ぼす可能性もあ り、企業が設備投資に対して様子見姿勢を強めることが懸念される。設備投資の先行きを見通す上では、 これらの点について見極めが重要になるが、いずれにしても今後には大きな期待はできないと考えておく べきだろう。 ( 出所) 内閣府 機械受注の推移(季節調整値、年率、兆円) 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 製造業 非製造業 ( 出所) 内閣府公表資料を基に伊藤忠経済研究所にて試算 民間企業資本ストック循環図 ▲ 2 0 2 4 6 8 10 12 11.0 11.5 12.0 12.5 13.0 13.5 前期のIK比率(%) 設備投資の前年同期比(%) 2012年Q1 2013年Q1 2018年Q2 1.5% 2.0% 0.5% 1.0% 2015年Q1 期待成長率 2017年Q1 2016年Q1 0.0% 2014年Q1 2019年Q1 2018年Q3
2018 年度の成長率見通しを下方修正 以上を踏まえると、実質GDP 成長率は 10~12 月期にはプラスに転じ、以降も個人消費の持ち直しや、 海外景気の拡大を背景に増加傾向を取り戻す輸出が牽引する形でプラス成長を維持するとみられる。 2019 年に入ると、11 月 7 日に成立した 2018 年度第一次補正予算に盛り込まれた公共事業の執行が 本格化すること、10 月の消費増税が視野に入り駆け込み需要が徐々に出始めることも、景気の追い風 となろう。消費増税までの日本経済は、均してみれば 1%程度とされる潜在成長率をやや上回る拡大 ペースを続け、デフレ脱却に向けて前進すると予想する。 懸案事項である消費増税は、駆け込み需要の反動と税負担増による購買力の低下が景気を押し下げる ため、増税後に日本経済が足踏みすることは避けられないだろう。ただ、今回の消費増税による負の インパクトは、前回2014 年 4 月に比べかなり小さいとみられる。日銀の試算6によると、前回の増税 規模は3%分で年間 8.2 兆円、負担軽減策などを考慮した実質的な負担増は 8 兆円であった。一方、 今回の増税規模は2%分で年間 5.6 兆円にとどまるうえ、軽減税率導入で 1 兆円、年金生活者への給 付金や介護保険料の軽減などで0.5 兆円、教育無償化で 1.4 兆円の合計 2.9 兆円に上る緩和策が既に 決まっており、差し引き負担増は2.7 兆円、前回の約 3 分の 1 に圧縮される。 しかも、所得との関係が前回と大きく異なる。 2014 年度は給与所得(雇用者報酬)が年間 4.7 兆円増加したが、負担増8 兆円の半分強にとど まり増税分を十分にカバーできなかった。しか し今回は、2017 年度の給与所得が年間 6.2 兆 円増加しており、2019 年度には賃上げやボー ナス次第で 4 兆円前後まで落ちる可能性があ るが、それでも2.7 兆円の負担増を十分に上回 る。マクロ的な数字とはいえ、総額で見て負担 増が所得増の範囲内かどうかは、大きな違いで ある。 そのため、消費増税後の日本経済は、一旦停滞 するものの、2020 年に入ると東京五輪開催に 伴う関連需要の盛り上がりが見込まれるため、 拡大を再開しよう。しかしながら、この頃には 米国との間で進めている物品貿易協定(TAG) の交渉が終了し、次のテーマである日本から米国への自動車輸出について、関税引き上げなど輸出を 抑制する方向での合意を迫られている可能性がある点に留意が必要である(本予測では一定の制約が 設けられ対米自動車輸出が落ち込むことを想定している)。 以上の結果、実質GDP 成長率は、2018 年度については 7~9 月期の予想外のマイナス成長により大 幅に下方修正(前年比+1.4%→+1.1%)、潜在成長率程度にとどまると予想する。2019 年度につい 6 日本銀行「展望レポート 2018 年 4 月 BOX1 消費増税前後の家計のネット負担額」参照。なお、本稿では今回の増税に 関して、慎重を期するため、年金額改定と税制改正の影響は加味していない。 2016 2017 2018 2019 2020 前年比,%,%Pt 実績 実績 予想 予想 予想 実質GDP 1.2 1.6 1.1 0.9 0.5 国内需要 0.4 1.2 1.0 0.5 0.2 民間需要 0.4 1.3 1.3 0.6 0.2 個人消費 0.3 0.8 0.8 0.8 0.7 住宅投資 6.2 ▲0.3 ▲4.5 ▲3.1 ▲3.5 設備投資 1.2 3.1 3.2 ▲0.9 ▲0.9 在庫投資(寄与度) (▲0.3) (0.1) (0.1) (0.2) (▲0.0) 政府消費 0.5 0.7 0.6 0.7 0.8 公共投資 0.9 1.5 ▲0.5 ▲0.5 ▲1.2 純輸出(寄与度) (0.7) (0.3) (0.1) (0.3) (0.3) 輸 出 3.6 6.3 2.9 3.4 2.4 輸 入 ▲0.8 4.1 2.4 1.5 1.0 名目GDP 1.0 1.7 1.4 2.5 1.5 実質GDP(暦年ベース) 1.0 1.7 1.0 1.2 0.3 鉱工業生産 1.1 4.1 1.4 1.2 0.7 失業率(%、平均) 3.0 2.7 2.4 2.4 2.3 経常収支(兆円) 21.0 21.8 20.1 24.2 27.0 消費者物価(除く生鮮) ▲0.2 0.7 0.8 1.3 0.9 (出所)内閣府ほか、予想部分は当研究所による。 日本経済の推移と予測(年度)
ては、公共事業の追加や輸出の反動増により若干の上方修正(前年比+0.8%→+0.9%)とするが、 消費増税後の停滞により通年で潜在成長率を下回り、2020 年度も消費増税や対米自動車輸出減少の影 響などから小幅プラス成長(前回から変わらず)にとどまると見込む。2020 年度も通年で潜在成長率 に届かず、デフレ脱却に向けた動きは一段と後退することになる。さらに、東京五輪後は消費増税対 策の効果が剥落するため、景気が再び停滞する可能性があろう。 2020 年度までデフレ脱却は見込めず こうした景気の状況を踏まえると、需給ギャップ (需要-供給力)は、マイナス成長となった2018 年7~9 月期にゼロまで縮小(内閣府試算)したが、 10~12 月期以降は再び明確なプラスとなり、2019 年10 月の消費増税まで GDP 比 0.6~0.7%程度で 推移する。しかしながら、消費増税後は再びゼロ前 後へ落ち込み、そうした状況が東京五輪を跨いで 2020 年度中続くと予想される。その結果、コア消 費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は、原油価 格の下落という下押し圧力もあり、消費増税まで前 年同期比+1%弱で推移、消費増税後は徐々に伸びが鈍化しよう。すなわち、現時点では 2020 年度ま での間にデフレ脱却の実現を見込めないことになる。こうした状況に対して、政府は先述の消費増税 対策の具体化などにおいて、どのような政策判断をしていくのか注視していきたい。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊 藤忠経済研究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負い ません。見通しは予告なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と 整合的であるとは限りません。 ( 出所) 内閣府、 総務省の資料を基に伊藤忠経済研究所にて試算 消費者物価と需給ギャップの推移(前年同期比、GDP比、%) ▲ 4 ▲ 3 ▲ 2 ▲ 1 0 1 2 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 除く消費税・生鮮商品・エネルギー 需給ギャップ(GDP比) 予想