• 検索結果がありません。

405 論文 楽譜印刷の歴史を考える 初期の楽譜用活字から細分活字まで * History of Music Printing: from Petrucci s Fonts to Mozaic Fonts* 内藤郁夫 ** 長谷川由美子 *** 芝木儀夫 **** Ikuo NAITOU**, Yu

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "405 論文 楽譜印刷の歴史を考える 初期の楽譜用活字から細分活字まで * History of Music Printing: from Petrucci s Fonts to Mozaic Fonts* 内藤郁夫 ** 長谷川由美子 *** 芝木儀夫 **** Ikuo NAITOU**, Yu"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

論 文

楽譜印刷の歴史を考える

─初期の楽譜用活字から細分活字ま

で─

*

History of Music Printing: from Petrucci’s Fonts to Mozaic Fonts*

内藤郁夫

**

・長谷川由美子

***

・芝木儀夫

****

 

Ikuo NAITOU**, Yumiko HASEGAWA*** and Norio SHIBAKI****

** Kyushu Sangyo University, Faculty of Fine Arts

2-3-1, Matsugadai, Higashi-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 813-8503 JAPAN *** Kunitachi College of Music Library

5-5-1, Kashiwa-Cho, Tachikawa-shi, Tokyo, 190-8520 JAPAN **** Seika Women’s Junior College

2-12-1, Minamihachiman-machi, Hakata-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 812-0886 JAPAN

1

.はじめに

 「楽譜」は「歌曲や楽曲を一定の約束に従って,視覚的 に書き表したもの.(後略)」と説明されており1),楽譜印 刷を英語では“Music Printing”という非常に興味深い表 現である.音楽記号はアルファベットに比べて多い訳では ないが,楽譜は音程や演奏時間により音符を五線に書き込 んだもので,演奏法をも表す.最初から楽譜に五線が使 用された訳ではない.14 世紀以前は線を使用しないもの, 線があっても四線のもの,六線のものといろいろあった2). 一方邦楽では五線譜を使用しないものが多数ある3)  簡単な楽譜印刷の歴史を年表にして紹介する(Table1). 最初に楽譜に譜線を使用したのはネウマ譜で(13 世紀 以降),宗教音楽の楽譜が主に手書きで製作されていた. 1498 年に到り,Ottaviano dei Petrucci は五線・音符・歌 詞と 3 回凸版印刷を繰り返して楽譜を製作した4).さらに, Pierre Haultin は 1525 年五線と音符とを組合せた楽譜用 活字注 1)を発明した(以降,「初期楽譜用活字」と呼称する). それらを横に並べて植字し,一回の印刷で楽譜を制作し た4).この方法は楽譜の発行部数を飛躍的に増加させ,そ の価格も大幅に引き下げた5).パリの Pierre Attaingnant (1527 年以降)は,この印刷技法を完成させ,多くの楽譜 を多量に印刷した6).また,この方法は西ヨーロッパ諸国 にも広く伝播し,オランダやイタリーでも楽譜印刷が盛ん になった4, 7).  初期楽譜用活字で印刷された楽譜は,モノフォニーには 対応するが,他のパートの演奏者との同期が執り難く,合 奏曲等ポリフォニーには不向きであった.さらに,使用し た符頭(たま)は菱形(ダイヤモンド形)で,五線は破線

Abstract

Developments in music printing by letterpresses were studied using several historical scores, i.e., score I printed by Gardano in Venice in 1575, score II printed by Gardano in Venice in 1679, score III printed by Ch. Ballard in Paris in 1679, score IV printed by Endter in Nuremberg in 1682, score V printed by F. Heptinstall in London in 1697, and score VI printed by Breitkopf & Härtel in Leipzig in 1799. Score I was printed using fonts similar to those invented by Ottaviano dei Petrucci in 1525. About 100 years after score I was printed, there were many differences in the scores in different cities (score II to V). The differences were studied to develop the next font, a mosaic-type font. Finally, the characteristics and typesetting of the mosaic-type font were clarified using score VI.

* 2015 年 5 月 7 日受理

** 九州産業大学芸術学部(〒 813-8503 福岡県福岡市東区松香台 2-3-1) *** 国立音楽大学附属図書館(〒 190-8520 東京都立川市柏町 5-5-1) **** 精華女子短期大学(〒 812-0886 福岡県福岡市博多区南八幡町 2-12-1)

(2)

であった.このため,大橋は,音符や記号には丸みがなく, 楽譜は非常にゴツゴツしたものと説明している8).符頭や 符鉤(はた)等は徐々に改良されたが,音楽的な軽やかさ に欠け,あまり好まれなかったようである.  1755 年に至り J.G. Immanuel Breitkopf は,細分活字(モ ザイク活字)による印刷法を開発した4).この方法は,音 符を符頭(タマ)・符尾(ボウ)・符鉤(ハタ)等の細かい 部品の活字で構成する印刷法で,五線を表現するにも一線 ずつ小さい活字を使用して植字された.多種多様の活字を 多量に使用するので,この方法は大変手数の掛る難しい技 術であった.しかしこの印刷法は,活版印刷の一種であり, 耐刷性が高い.活字鋳造技術の発展にともない,この印刷 法で 20 世紀初頭まで多量の美しい楽譜が生産された.  次に凹版印刷や平版印刷についても紹介する.1575 年 Simone Verovio は絵画技法である腐食銅板での印刷を楽 譜製造に応用した.W. Hole は 1612 年頃手描き彫刻法を 開発し,18 世紀中頃には種々の父型ポンチで銅版を打刻 して製作する彫版印刷が多くの都市でも行われた.この印 刷法は,綺麗な楽譜を提供するが,大量複製には不向きで あった.一方,1803 年 Alois Senefelder は石版印刷を発 明した.この技術は 1900 年頃にはオフセット印刷に発展 した.  従来,楽譜は作曲家や演奏家等への興味からよく研究 されてきた.しかし五線上を音符が上下する楽譜印刷 は,文字印刷とは異なり,あまり研究されていない分野 である.ただ Poole は楽譜印刷の技術の発展史を概観し ているが,具体的な印刷技術の検討には充分でない4, 9) Attaingnant らによる初期楽譜用活字での楽譜印刷から Breitkopf の細分活字による楽譜印刷に一足飛びに技術が 進歩した訳ではない.一連の着実な技術的発展が 20 世紀 まで続く楽譜印刷を担ったのである.この研究の目的は活 版印刷の進歩の過程を解明することである.彫版印刷(彫 刻凹版印刷)による楽譜製作も同時代行われたが,本報告 では活版印刷に限定し,彫版印刷については論及しない.  本論は 4 章より成る.第 1 章ははじめにである.第 2 章 では,初期楽譜用活字による楽譜印刷として,1580 年ベ ニスの Gardano 社印刷の Porta 作曲,“Liber quinquaginta duorm”,(楽譜 I)を使用して活字や植字法を研究した. 17 世紀後半になると,楽譜印刷にも綺麗に仕上げるため 色々な改良が起こった.第 3 章では国別の技術的発展をベ ニス Gardano 社 1675 年印刷の C. Grossi 作曲の“Anfione” (楽譜 II)・パリ Ch. Ballard 社 1679 年印刷の M.D. Lully

作曲“Bellerophon”(楽譜 III)・ニュルンベルグ Endter 社 1682 年印刷の D. Rosenmüller 作曲“Sonateà 2. 3. 4. è の 5”(楽譜 IV)・ロンドン F. Heptinstall 社 1697 年印刷 の H. Purcell 作 曲“10 Sonatas in four parts”( 楽 譜 V) を使用し,印刷物を美しく製作した技術を研究した.さら に,第 4 章では細分活字(モザイク活字)による楽譜印刷 を 1799 年 Breitkopf & Härtel 社印刷の Mozart 作曲“Violin sonata K. 374d”(楽譜 VI)を使用して研究した.この論 文では,「研究した楽譜」を実験項目に,以降の項目は「結 果および考察」に相当する.最期の「おわりに」で全体の まとめと総括を行った.

Table 1

 

Histry of music printing.

年 代 事       項 13 世紀以降 譜線付きネウマ譜(手書き)

1457 年 典礼聖歌本 ,“Mainzer Psalterium”テキストは凸版印刷,音符(黒)と譜表(赤)手書き 1473 年 K. Fyner による J.Ch.de Gerson の“Collectorin Super Magnificat”,鋳造音符活字による印刷

楽譜(譜表は手書き)

1473 年 複数回印刷,コンスタンツの“Graduale”(グレゴリオミサ曲)等(150 部程度印刷) 印刷:① 五線譜表,② 音符,③ テキスト飾り文字等

1498 年 複数回印刷法(Petrucci の方法,五線・音符・歌詞を 3 回凸版印刷) 1525 年 Pierre Haultin 凸版一回刷法を発明

1527 年 Pierre Attaingnant,(凸版一回刷法,“Chansons nouvelles en musique a quatre parties”) 1575 年 Simone Verovio 腐食銅板での印刷(凹版) 1612 年頃 W. Hole 手描き彫刻(凹版) 18 世紀中頃 種々の父型のポンチでの打刻による凹版 Artaria(ウイーン),Andre(オッヘンバッハ) 1755 年 J.G. Immanuel Breitkopf の細分植字法(凸版印刷) 1803 年 Alois Senefelder の石版印刷(平版印刷) 1900 年頃 オフセット印刷(平版印刷)

(3)

2

16

世紀後期の楽譜印刷

2.1

 研究した楽譜

  ベ ニ ス Gardano 社 の 1580 年 に 印 刷 し た Porta 作 曲, “Liber quinquaginta duorm”,(楽譜 I)を使用して初期楽

譜活字による楽譜を撮影した.ニコンマクロレンズ AF-S 形(40 mm)を装着したニコンカメラ 3100D 形を複写台 に固定し,0. 5 mm 刻みの定規とともに楽譜を約 30cm の 距離より撮影し,画像を PC で処理した.定規の目盛を参 考に等倍および拡大画像をキャノン PIXUS iX7000 プリン ターで出力した.定規を画面四隅に入れたが,出力画像で は入れた場所による影響が認められなかった.

 Fig.1に Gardano 社の紐の印章ページ(a)と楽譜の最 初のページ(b)を示す.Fig.2には楽譜ページの一部の拡 大図を示す.楽譜ページ五線の断線個所は五線それぞれが 横方向で一致し,五線の断線個所から次の五線の断線個所 までが一つの活字である.これらの活字を横軸方向に並べ て楽譜が印刷されていた.

2.2

 楽譜より活字を考える  活字の横幅を五線の断線個所中心より隣接する五線の断 線個所中心までとした.最も狭い活字幅を基準にすると, 他の活字幅はおおよそその整数倍(2,4 倍)の活字が主 に使用され,さらに幅広い活字もあった.活字サイズを最 小のものから 1. 0,1. 4,2. 3 mm(± 0. 1 mm),3. 3 ~ 3. 6 mm, 14. 1 ~ 15. 0 mm と計測した.Fig.2における活字の相対幅 1,2,4 はそれぞれ 1. 0,1. 4,3. 3 ~ 3. 6 mm である.  五線それぞれの線間隔を 2. 9 mm[第一線と第五線との 間隔:11. 6(± 0. 2)mm]と計測した.音符の符頭や符尾 はいずれも五線記譜法(以下「五線譜」と記載する)での 下第一間から上第一間の間に配置されており,その上部や 下部には演奏法などを示すレンダリングや歌詞が印刷され ていた.五線譜第一段の上第一間にある全音符と二分音符 の頂点を結ぶ線(おおよそ上第一線に一致)は,楽譜の上 のレンダリング文字「数字 4」の底辺に一致する(Fig.3). 上第一間の 2 つの音符頂点を結ぶ線までが楽譜活字の範囲 である.第五線からの距離を d とする.この楽譜には活 字の上下植字ミスとみなせる部分があり,そこでは五線が 約 0. 3 mm 下にズレていた(eighth font in Fig.2).この ズレは初期楽譜活字が下に 0. 3 mm 長いことを示す.これ より,五線間隔に d の倍の距離とズレ幅を加えた長さ(ca. 18. 3 mm)注 2)が初期楽譜活字の縦幅であろう(Fig.3). これらの活字を横軸方向に並べて楽譜が構成されていた.

2.3

 初期楽譜用活字  五線用活字については次節に譲り,音符用初期楽譜活字 (a)      (b)

Fig.1  Musical score of “Liber quinquaginta duorm” composed by Porta (score I). The score was printed by Gardano in Venice in 1580. Cover bear the lope crest of Gardano (a) and the initial score page (b) were demonstrated.

Fig.2  A partial figure of the score I. The partial area (a) can be divided to narrow patterns (red-squares) using red dotted lines (b). These patterns were indicated the initial music font. Relative widths of the font were listed in this figure.

(4)

を考察した.音符の符頭は縦長の菱形(◇と◆,一般的に ダイヤモンド形と呼称する)であり,活字の横方向中心線 を通る垂線上に配置されている.4 分音符・8 分音符の符 頭(◆)はほぼ正確な菱形である.一方,全音符や 2 分音 符の白い符頭(◇)は長方形を斜めに傾けた形であり,右 下がりの二辺は太い線,左下がりの二辺は細い線で構成さ れていた.符頭サイズ(縦×横 /mm)はそれぞれ 4. 0(4. 5) × 3. 2(白),4. 0(4. 2,縦長タイプで五線の線間に使用) × 3. 2(黒)(± 0. 2)注 3)であった.もし符頭の縦サイズ が五線の線間隔と一致する場合,少しの符頭位置のズレで も楽譜の外観は大きい影響を受ける.このため,符頭の縦 サイズを線間隔より大きく取ったのであろう.音階と音符 の種類が同じ場合,同じ母型で製作した活字が使用された と推論した注 3).  音符と音符の間には幅の狭い五線用活字が挿入されてい た.楽譜に符点音符(・)が付く場合,音符活字に隣接し て符点の活字(ダイヤモンド型の小さい点,◆)が並ぶ. 符点の位置は,符頭が五線線上にある場合は上の線間に, 符頭が線間にある場合は同じ線間に付いていた.  符尾(ぼう,|)はダイヤモンドの頂点より,垂線方向 に付く.符頭が五線譜の第三線以下にある場合は上向きに, それ以上の音程では下向きに符尾が付く.その長さは音 符の位置により変化する.符頭が第三線にある場合は符尾 の長さは五線の線間隔の約 2 倍の長さ(ca. 5. 6 mm),符 頭が第二線間や第三線間にある場合には線間隔の約 2. 5 倍 (ca. 7. 1 mm),符頭が他の場所にある場合には線間隔の約 3 倍(ca. 8. 5 mm)と変化した.  符鉤(はた)は,符尾の先端より右側活字端までのび, 途中で折れ曲がり符尾の直線まで戻るような形であった (third and fourteenth fonts in Fig.2).その形は片仮名文 字「フ」または記号「ゝ」に近似していた.まるで直角三 角形の長辺が符尾に重なったような形である.下向きの符 尾には左側にそれぞれ符鉤が付いていた.

2.4

 初期楽譜用活字の製造と植字  楽譜 I より,活字製作から植字工程までを考察した. 1)  (母型製造)五線を一線ずつ銅版に打刻すると,線間隔 にズレ等の問題が発生する.印刷された線間隔はほぼ 一定であり,五線は 5 本の凸線のある父型を銅板に打 刻して製作したことが明らかである.幅の狭い五線用 活字・2 分音符用活字・4 分音符用活字の模型を

Fig.4

に示す.同じ五線用活字でも,線の太いもの・細いも の・少し曲がったものと様々であった.これより,複 数の母型の使用が確認できた.初期楽譜用活字も同様 で,同じ母型より鋳造したと思えないものが多々あっ た. 2)  種々のトラブルの画像を

Fig.5

に示す.これらは母型 製造の手順を示唆していた.   ア)  全音符や二分音符の符頭の太い 2 線には菱形枠か らずれたもの(Fig.5-1)や,符頭サイズ自体にも 少し大きい物と小さいものとがあった.白い符頭 は,細線の菱形枠に太い線を一線ずつ打刻して作

Fig.5  Defect patterns of typical font. Doubled lines of the head of music note (1), tousled staff line in the head of a whole note (2), and miss-type setting of five-line staff score (3).

Fig.4  Models of typical music font, staff notation (1), half note (2) and quarter note (3). The shoulder width (a) was 1.0 to 1.5 times larger than the space distance between lines of staff score.

(5)

られていた.このため,符頭サイズが微妙に変化 したのであろう(Fig.5-1,

-2).

  イ)  全音符や二分音符が五線上にある場合,符頭中の 五線にはずれたものが多く,太い線用父型の打刻 位置のズレによると推論した(Fig.5-1,

-2).

  ウ)  符尾が五線と交差する場合,その付近の五線には 細くなったものがある(Fig.5-1,

-3).母型の製造

において,符尾は太く打刻するので,先に打刻し た五線の凹面が狭くなったのであろう.もし逆に 音符より打刻すると,符頭の向きや符尾の線の太 さの問題などが発生すると想像する.   エ)  符鉤には 2 種類ある.いずれも符尾の先端近くに 付く.その形は直角三角形に近似できる.まず符 尾の先端から短辺が活字右端まで付き折れ曲る. さらに長辺が符尾まで伸びる.その夾角がおおよ そ直角であった.一種類の L 字形ポンチでの打刻 で符鉤を作成したのなら,2 種類の符鉤は生成し ない.このため,長短 2 種類のポンチを別々に打 刻して作成したことが明らかである(Fig.5-3).     以上の結果,母型製造は以下の手順で行われた.① 銅板に五線を打刻する.② 五線を規準に符頭を打刻す る.白い符頭は前述の方法(ア)で,黒い符頭はそれ 専用ポンチで打刻して製作する.③ 符頭頂点からの垂 線に合わせ,符尾用の太い線用ポンチで打刻する.符 尾用ポンチの打刻位置でその長さが変化したと推論し た.④ 符尾先端に符鉤を打刻する. 3)  活字の高さの統一は活字鋳造上の重要な課題である. 同じ活字でも太い線と細い線とを組み合わせたものも あり,ポンチの打刻程度により銅板上に形成される母 型凹部の深さが変化する.この深さが活字肩面から字 づらまでの高さにおおよそ一致する.母型の凹部深さ を一定に揃えることは困難である.このため,著者ら は以下のように推論した.活字の肩から足までの高さ を一定に揃えて活字を鋳造し,字づらの極端に高い凸 部は鉋で削って高さを揃えた.僅かに高い突起は平圧 機で均一に押さえ付ける方法も想像される.活字ブロッ クの上から加圧できるので,許用範囲は広かったと想 像する.一方,活字の一部欠けたものも多々見受けら れた.凸部の低いものであろう.活字の足の下に詰め 物を入れる方法もある.実際,どのような方法で字づ らの高さを調整したかは不明である. 4)  初期楽譜用活字での楽譜製作は,活字を横方向に並べ て植字する.留意しなければならない問題は,活字の 天地の植字間違いである. 5)  計測した活字横幅は大変変化に富み,一定していない.    音符用活字と音符用活字との間に狭い五線用活字が挿 入されていた(Fig.3).音符のある活字は横幅 3. 3 ~ 3. 6 mm であり,その間に挿入した五線用活字の横幅 は 1. 4 mm である.符点音符が付く場合,符点用活字 の横幅は 1. 4 mm であり,符点用活字と次の音符用活 字との間には横幅 1. 0 mm の五線用活字が挿入されて いた.

2.5

 楽譜組版  Fig.1の楽譜では,第一行はレンダリング(演奏法など), 第二行は楽譜,第三行は歌詞である.「O」の飾り文字 (Ornamental writing)を含め,“ORnauerunt fa ci-”が歌

詞となる.その下には楽譜と歌詞がほぼ等間隔で続く.  準備した多くの初期楽譜用活字より文選し,ステッキ上 に植字する.植字した活字の列を一段ずつゲラに移し,行 間にはインテルを挿入して固定したのであろう.ゲラ上の 活字は校正刷で充分チェックされ,印刷されたと推論した.

2.6

 まとめ  初期楽譜用活字により印刷した楽譜の例として,ベニ ス Gardano 社 が 1580 年 に 印 刷 し た Porta 作 曲 ,“Liber quinquaginta duorm”,(楽譜 I)を研究した.楽譜は五線 と音符と組み込んだ初期楽譜用活字を横に並べて植字され ていた.音符用活字が続く場合,その半分サイズの五線用 活字が挿入されていた.符点が付く場合はさらに小さい五 線用活字が挿入されていた.この時代,縦長のダイヤモン ド形符頭が使用された.黒い符頭は菱形の綺麗な形であっ たが,白い符頭では線の乱れが多々認められる.同じ音階 にある同じ音符の活字でも,複数の活字が認められ,同じ 母型より製造したとは考えられないものもあった.しかし, Petrucci の 3 回印刷する方法からみれば画期的方法であっ たのであろう.

3

17

世紀後期の楽譜印刷

3.1

 研究した楽譜  前章では初期楽譜用活字による楽譜印刷物を分析した. この技術は広く西ヨーロッパ各地に伝播し,多くの町でも 楽譜が印刷された.本章では,楽譜用活字発明より約 150 年後(1680 年頃,楽譜Ⅰより約 100 年後)の楽譜を使用 し,初期楽譜用活字のからの技術的進歩を検証した.使用 した楽譜はベニス Gardano 社 1675 年印刷の C. Grossi 作 曲“Anfione”(楽譜 II)・パリ Ch. Ballard 社 1679 年印刷

(6)

の M.D. Lully 作曲“Bellerophon”(楽譜 III)・ニュルンベ ルグ Endter 社 1682 年印刷の D. Rosenmüller 作曲“Sonate à 2. 3. 4. è の 5”( 楽 譜 IV)・ ロ ン ド ン F. Heptinstall 社 1697年印刷のH. Purcell作曲“10 Sonatas in four parts”(楽 譜 V)である.これらの楽譜は,楽譜 I と同様に写真を撮 影し,その出力画像より特徴を研究した.これより国ごと の技術進歩の過程や特徴を検討した.以降これらの楽譜で 使用した活字を改良型楽譜用活字と呼ぶ.この章で研究し た楽譜はいずれも国立音楽大学の所蔵の楽譜である.

3.2

 

1675

年ベニス

Gardano

社印刷の楽譜   前 章 で 研 究 し た 楽 譜 I と 同 様, 楽 譜 II(Fig.6) は Gardano 社の製品であり,ほぼ 100 年間でどのように楽譜 印刷の技術が進歩したかを検討した.楽譜 II の一部分を 拡大した(Fig.7).それぞれの時代の楽譜データ―をまと め(Table2),それぞれの特徴を以下に示す. 1)  五線譜の第一線と第五線との間隔は 10. 8 mm(各線間 隔= 2. 7 mm)と楽譜 I の値(11. 6 ± 0. 2)mm)に比べ 狭い.この値は楽譜 III ~ V でほぼ一定であった.し かし,五線それぞれの線の太さには大きいバラつきが 認められた. 2)  一方,五線の破線部分は長い(0. 8 ~ 1. 2 mm).活字 横幅を,五線破線部分中心から次の破線部分中心まで とし,1. 4,2. 4,3. 4(± 0. 1)mm と計測した. 3)  同時代の楽譜 III ~ V とは異なり,楽譜 II では楽譜 I と同様の初期楽譜用活字が使用されていた.後述する Ch. Ballard 社の印刷楽譜(楽譜 III)で使用されたよ うな,横方向に長い活字の使用は確認できなかった. 4)  楽譜 1 行目には五線譜の下にレンダリングが印刷され ていた.上第二間の音符上端は上部レンダリング文字 の字面線(文字下の線)の延長線上に一致した. 5)  五線譜の段と段との間隔も計測した.その間隔は一定 でなく,五線用活字だけを印刷した個所でも,活字横 幅は 11 ~ 16. 5 mm と変化した. 6)  ダイヤモンド形符頭が使用され,そのサイズ(縦 × 横) は 3. 0 × 2. 5 mm(黒)と 3. 2 × 2. 2 mm(白)であっ た注 3).この縦方向の距離は五線それぞれの線間隔よ り少し広い.また形の崩れた符頭やインキの付着して いない部分のある黒い符頭が多い. 7)  符尾が付く場合,活字幅 3 mm 以上の活字に,ダイヤ モンドの頂点より音程が第三線までは上向きに,それ 以上の音程では下向きに付く.その長さは,音符の位 置に関係なく,ほぼ一定(7. 2 ~ 8. 0 mm)であった. 母型製造時の符頭と符尾の打刻位置のズレで生じた誤 差であろう.符鉤の横幅は活字横幅の半分であった. 五線譜第三線以下の音符の鉤は符尾の右側に,第三間 以上の音程の音符の符鉤は符尾の左側に付く.両者は 点対称の関係にあった. 8)  この楽譜には 8 分音符や 16 分音符も使用されていた. 8 分音符の符鉤は符尾に小さい三角形を付けたような 形で,16 分音符の符鉤は三角形の下に小さい 1/4 円を

Fig.6  Music score of “Anfione” composed by C. Grossi (score II). The score was printed by Del Gardano in Venice in 1675.

Fig.7  Music score of “Bellerophon” composed by M.D. Lully (score III) (a). The score was printed by Ch. Ballard in Paris in 1679. Typical music notes of quarted (b), eighth (c), and sixteenth (d) were demonstrated.

(7)

付けたような形であった(Fig.7).これらはパリ Ch. Ballard 社のものと一致した. 9)  符点を除き,音符活字の後には幅の狭い五線用活字が 挿入されていた. 10)  符頭が第三線にある 8 分音符の場合,符尾は五線の上 第二間にまで至る.短い上第一線まで付いていた.一 方,上第二間にある 8 分音符の符尾は第三線にまで至 る.この符頭には上第一線と上第二線とが付いていた. 前者の活字は,母型製造において,第二線上の 8 分音 符の母型を製作し,下に新たな第一線を銅版に打刻し て追加する.このため,この活字の横棒は 6 本となる. 後者の場合,第 4 間にある 8 分音符用母型を製作し, 下に第一線・第二線用横棒を追加する.この結果,五 線譜用横棒は 7 本となる.この活字の前後には五線を 七線に増やした活字で挟まれていた. (まとめ)楽譜 II(1675 年印刷)は同社の 1580 年印刷の楽 譜 I に比べ進歩が認められず,むしろ品質の低下が起こっ たといえる.活字と活字との間の五線破断部分はむしろ広 がった.さらに五線の個々の線幅も太い物・細いものとバ ラバラであった.使用された用紙の問題までは検討してい ないが,楽譜 II の用紙は楽譜 I のものに比べ極端に低品 質とも言えない.活版で印刷したのに,黒い符頭は大きく 崩れていた.このため,古くからの活字を使い回したため と推論した.さらに,8 分音符や 16 分音符の符尾や符鉤 の形・五線の線間隔はパリ Ch. Ballard 社のものと一致し た.五線の間隔を変更することは多くの活字製作に影響を 及ぼす.活字の父型からの問題であり,よほど大きい変革 があったのではと想像する.これより,パリ Ch. Ballard 社の技術が再びベニスに伝播したと推論した.

3.3

 

1679

年パリ

Ch. Ballard

社印刷の楽譜  Ch. Ballard社1679年印刷のM.D. Lully作曲“Bellerophon” (楽譜 III,Fig.8)を使用し,当時のパリでの楽譜の印刷 技術を検討した.特徴を以下にまとめる. 1)  初期楽譜用活字で印刷した楽譜では,他のパートの楽 譜と同期を執ることが難しい.その主な理由は,楽譜 が異なると使用する音符や記号も異なり,符面上の物 理的距離も異なるためである.この楽譜では,五線譜 の 2 段または 4 段毎(それぞれ 2 パートまたは 4 パー トに相当)にすべての小節線が一致した. 2)  五線の間隔は 10. 4 ~ 10. 8 mm(線間隔= 2. 6 ~ 2. 7 mm) で,楽譜 II,IV,V での値と一致した. 3)  横方向の活字幅は,五線断線個所の中心と次の断線箇 所の中心までの間隔であり,1. 0,1. 3 ~ 1. 4,2. 0,3. 0 Table 2 Fundamental data of music printings.

項目  都市     製作社名     年 ベニス Del Gardano 社 1675 年 パリ Ch. Ballard 社 1679 年 ニュルンベルグ Endter 社 1682 年 ロンドン F.Heptinstall 社 1697 年 五線譜線間隔 2.7 mm 2.6-2.7 mm 2.7 mm 2.6-2.7 mm 活字サイズ横 1.4 mm 2.4 mm 3.4 mm 1.0 mm 1.3-1.4 mm 2.0 mm 3.0 mm 3.4-3.6 mm 19.6-19.8 mm 1.0 mm 1.3-1.4 mm 2.0, 3.0 mm 3.4-3.6, 4.6 mm 6.2, 8.2 mm 12.6 mm 1.2 mm 1.6 mm 3.0 mm 4.0, 4.5 mm 6.0, 6.6 mm 12.6 mm 活字サイズ縦 不明 不明 , 活字 2 段も 不明,活字 3 段もあり 不明,活字 4 段もあり 線用活字の追加利用 なし あり あり(少ない) あり 符頭形 符頭白(縦×横)サイズ 符頭黒(縦×横)サイズ ダイヤモンド型 3.2 × 2.2 mm 3.0 × 2.5 mm ダイヤモンド型 3.4 × 2.8 mm 4.2 × 2.4 mm 3.2 × 2.4 mm 卵型 2.7 × 3.2 mm 2.7 × 3.0 mm 卵型 2.8 × 2.4 mm 2.2 × 2.5 mm 2.2 × 2.2 mm 符尾の長さ 符尾(3 線上)線間の 符尾(2・3 線間) 符尾(以外) 7.2-8.0 mm 5.2-5.6 mm 2 分音符 7.0 mm 4 分,8 分,16 分音符 8.5 ~ 9.0mm 規則性認められず 鉤 符尾の右側 符尾の右側 直線,符尾右に 60° 現在と同型,符尾右側 鉤(桁,8 分音符処理) なし 桁の横に通常の鉤 主に桁 主に桁 その他 汚い ポリフォニーに対応する ため小節線を揃える 8 分音符や 16 分音符に強引な桁を掛ける 丁寧な作品

(8)

(± 0.1),3. 4 ~ 3. 6,19. 6 ~ 19. 8 mm と測定した. 4)  五線譜と次の段の五線譜との間隔は,広い所・狭い所 と色々であった.両者の間隔にレンダリングや歌詞の 入ったもの,楽譜が下第一線より上第二線と広がった ものと様々である. 5)  ダイヤモンド形符頭のサイズ(縦×横 /mm)は 3. 2 × 2. 4 と 4. 2 × 2. 4(黒符頭 2 種類);3. 2×2. 4(白符頭) であった注 3).この縦の長さはいずれも五線の線間隔 より広い.また,2 種類の黒符頭の使い分けやその理 由は明確でない. 6)  符尾はダイヤモンドの頂点より垂線方向に伸びており, その長さは五線間隔の約 2 倍(5. 2 ~ 5. 8 mm)であっ た.しかし符頭サイズにも大きいバラつきがあり,符頭・ 符尾の分割箇所を見出すことが困難な場合も多い.母 型製造において,五線・符頭に続いて符尾が打刻される. その打刻位置の微妙なズレにより,このような計測結 果になったと推論した. 7)  楽譜には音符のある場所と無い場所とがある.音符の ある場所でも,音符と重なる五線と重ならない五線と がある.重ならない線を,隣接する活字の線と組み合 わせ,長い線用活字に置き換えられた注 4).音符用活 字と線用活字との組み合わせの例を示す(Fig.9).楽 譜を綺麗に見せる工夫の一つである.音符の音階と長 い線用活字導入場所との関係を以下にまとめる.   ア)  符尾を持つ音符が下第一線または下第一間にある 場合,符頭と符尾は「下第二間より第三間」の位 置を占める.これに別に線用活字で第四線・第五 線が印刷された(blue circles in Fig.8).

  イ)  符尾を持つ音符が第一線上または第一間にある場 合,符頭と符尾は「下第一間より第四間」の位置 を占める.これに別の線用活字を使用して第五線 が印刷された.   ウ)  符尾を持つ音符が第二線上または第二間にある場 合,符頭と符尾は「第一間より上第一間」の位置 を占める.これに別の線用活字で第一線が印刷さ れた.   エ)  符尾を持つ音符が第三線上にある場合,符頭と符 尾は「第三間より上第二間」の位置を占める(符 尾が上向きの場合).これに別の線用活字で第一線・ 第二線が印刷された.符尾が下向きの場合,音符 用活字に第四線・第五線用の別の線用活字も使用 された.   オ)  符尾を持つ音符が第三間以上の音階にある場合, 同様の方式で音符用活字と線用活字とが使用され た.   カ)  第三線上にある音符では,第二線(符尾が上向) または第四線(符尾が下向)に線用活字を押し込 んだためか,変形した活字も認められた. 8)  音符が上第一線より高い音階にある場合,符頭が第五 線上や上第一間にある活字が流用された.これらの活 字を上に移動させ,空いた第一線と第二線には新たな 線用活字が挿入されていた. 9)  音符と音符の間隔が広い場合は符鉤が,音符と音符と が隣接する(間隔が無い)場合には桁が使用された. 10)  符鉤は横幅 3. 4 ~ 3. 6 mm の活字に付いていた. 11)  上向きの音符(第 3 線以下の音階の音符)の符鉤は符 尾の先より右側に,下向きの音符には左側に付く.そ の横幅は活字の 1/2 以下である.この形は第三線の中 心での点対称である.このため,活字を回転させて第 三線以上の音階にも使用したのではないかと期待した が,使用した証拠がない. 12)  桁にも音符毎に断線箇所がある.また,最初の音符の 桁棒は楽譜左側に飛び出し,最後の音符の桁棒には符 鉤のような形であった(green circles in Fig.8).

Fig.8 Music score of “Bellerophon” composed by M.D.Lully (score III, printed by Ch. Ballard in Paris in 1679).Purple rectangles showed the position of bar line for each step. Blue circles showed replacement from short lines of each note to a longer line type. Green circles showed interesting

(9)

13)  全音符や二分音符の白い符頭が線上にある場合,符頭 内の線はずれたものが多い. 14)  歌詞は下第二線に合わせて組版し,レンダリングは第 五線に合わせて組版していた. (まとめ)この印刷楽譜は,あわせて調査した同社の 1683 年印刷楽譜・1694 年印刷楽譜・1703 年印刷楽譜と使用し た活字・組版方法等がほぼ同じ品質であり,五線を綺麗に 見せるための長い線用活字の利用や,楽譜 2 段ずつまた は 4 段ずつ小節線を揃える等興味深い工夫が認められた (purple rectangles in Fig.8).楽譜を 4 段ずつ小節線が揃 えられると室内四重奏のようなポリフォニーにも対応でき る.当時の彫版印刷では,卵形符頭を使用し綺麗な楽譜が 印刷されていた.フランスでの楽譜独占販売権を持つ Ch. Ballard 社では,かえって技術的進歩が遅れたのではと想 像する.  1683 年ロンドンで出版された J. Moxon の書籍10)には 活字にネッキの記載がある.時代が下るが,1745 年パリ で 出 版 さ れ た“Encyclopedie, ou Dictionnaire Raisonne Des Sciences, Des Arts et Des Metiers, Par Une Societe de Gens de Letter”11)にも活字の背側にネッキを報告し ている.単に活字を横方向に並べるだけならネッキの必要 性は低い.しかしこの楽譜には,音符の部分と五線の一部 とが縦方向に分割された個所があり注 3),ネッキの使用は 不可欠であろう.

3.4

 

1682

年ニュルンベルグ

Endter

社印刷の楽譜

 Endter 社印刷の D. Rosenmüller 作曲“Sonateà 2. 3. 4. è 5”(楽譜 IV)を

Fig.10

に示す.この楽譜では,当時の 彫版印刷でのものと同様,丸い卵形符頭が使用された.五 線・音符ともに線を太く,インキの濃度を高く印刷したの で,決して軽やかとは言えず,むしろ重厚であった.以下 にその特徴をまとめる. 1)  五線の間隔(一線~五線)は 10. 6 ~ 10. 8 mm であっ た(線間隔= ca. 2. 7 mm). 2)  この楽譜では,五線の切断個所が少ない.しかし,活 字境界面では,線がずれたり太さが異なったりと,活 字の側面を削って成型したことが明かである.これら の線の乱れで活字の両端が簡単に判別できる.活字の 横幅は 1. 0,1. 3 ~ 1. 4,2. 0,3. 0(±0. 1),3. 4 ~ 3. 6, 4. 6,6. 2,8. 2,12. 6(± 0. 4 mm であった. 3)  活字の縦範囲は,下第二線~上第三線(22. 2 mm,実 際に使用された範囲)以上と推論した. 4)  五線より上に外れた音符には,前 3 節第 7 項と同様, 第五線上にある楽譜用活字を高音階側にずらして使用 し,空いた五線の下部(第一線や第二線)には新た な線用活字が組み合わせて植字されていた注 4).上第 一間の音符には第四間の音符を利用し,空いた五線 譜下部には線用活字を組み合わせて植字された(red

circles in Fig.10).

5)  符頭は卵形であり,そのサイズ(縦×横 /mm)は 2. 7 × 3. 0(黒符頭);2. 7 × 3. 2(白符頭)である注 3).その 縦方向サイズは五線の間隔と一致した. 6)  符尾の長さは音符により変化し,2 分音符の場合 7(± 0. 3)mm,他の音符では 8. 5 ~ 9. 0 mm で,音符の音 階には無関係であった.五線を含め,符尾の線幅は太 いもの・細いものと色々であった.この違いは母型製 造における父型ポンチの打刻むらと推論した. 7)  符鉤の大半は桁形で,現在使用する記号と同形であっ た. 8)  音符と音符の間隔が広い場合(五線用活字を挟む場合) は符鉤を使用し,間隔が無い場合は桁が使用された. 9)  桁にも右下がり(\)・左下がり(/)と色々なタイプ がある.極端な場合,3 線間隔分(例:第一線と第四線) 音階が離れた 2 つの音符を繋いだ桁もある.繋ぐ位置 も符尾先端ばかりとは限らない.桁の付け方に規則性 が認められず,一括して活字を準備するのが難しい. それぞれの楽譜で新たに多数の活字を鋳造したと推論 した.桁の太さには大きい変化が認められない.一方, 16 分音符には二本の桁が使用される.その間隔は広い 物・狭い物と一定しない.母型製造において,桁は一 本ずつポンチで打刻されたことが明らかである. 10)  全音符や二分音符の符頭が五線譜線上にある場合,符 頭中の線にずれたものが多い. 11)  歌詞は下第二線に合わせて組版され,レンダリングは 第五線に合わせて組版されていた. 12)  この楽譜は卵形符頭や長い線だけの活字を使用してい Fig.10  Music score of “Sonate à 2. 3. 4. è 5” composed by

D. Rosenmüller (score IV, printed by Endter in Nuremberg in 1682). Red circles showed replacement from short lines of each note to a longer line type.

(10)

た.五線には活字と活字の間の空きが無いが,線の太 さが変化する.また活字と活字の境界部で,左右の活 字の五線パターンが上下にずれている場合もある.こ のため,製造した活字は鉋を掛けて丁寧に仕上げたこ とが明らかである. (まとめ)ニュルンベルグ Endter 社にはパリ Ch. Ballard 社の楽譜独占販売権のような特別な事情はない.彫版印刷 (凹版)で綺麗な楽譜が製作されており12),これが活字印 刷物の競争相手であったのであろう.この楽譜には興味深 い特徴が多々ある.卵形符頭の使用・五線に断線個所が少 ない・五線の一部の線を長い線用活字への置き換え等の操 作で,楽譜を重厚に見せている.同時代のベニスやパリの 楽譜に比べ,金属加工の点で大きい進歩が認められた.あ と一つ,桁の利用があげられる.この楽譜では,桁が多用 されていた.その画像設計と活字製作をどのような手順で 行ったのかは解析できなかった.

3.5

 

1697

年ロンドン

F. Heptinstall

社印刷の楽譜

 F. Heptinstall 社印刷の H. Purcell 作曲“10 Sonatas in four parts”(楽譜 V)を

Fig.11

に示す.楽譜 V は,楽譜 II ~ IV 比べ約 15 年遅く印刷されたもので,卵型符頭を 使用し,細い綺麗な線で構成されていた.以下にその特徴 をまとめる. 1)  五線の間隔(第一線~第五線)は 10. 80(±0. 1)mm 線間隔= 2. 7 mm)であった. 2)  破線間距離は 1. 2,1. 6(± 0. 1),3. 0,4. 0,4. 5,6. 0,6. 6(± 0. 2),12. 6 mm(破線部分の距離= 0. 5 ~ 0. 8 mm)であっ た.一方,楽譜の範囲は五線の下第二線~上第三線(22. 2 ~ mm)以上であり,五線のすぐ下にレンダリングが 印字されていた.レンダリング文字の字づらの位置は 下向き第三線上音符の符尾と重なる.このため,活字 の縦幅も不明である. 3)  音程が五線範囲より上下に外れた音符には,主に五線 の下または上に線を追加し,活字が鋳造された. 4)  卵形符頭が使用され,その大きさ(縦×横 /mm)は 2. 2 × 2. 5,2. 2 × 2. 2(黒 2 種類);2. 8×2. 4(白)であった. 5)  符尾の長さは 7. 0(白符頭),7. 3,7. 8,8. 8(±0. 2)mm(黒 符頭)であり,音符位置とは無関係であった. 6)  8 分音符には符鉤の付くハタ形と桁形がある. 7)  上向き・下向きともに符鉤は右側につく. 8)  第三線上の音符の符尾は上向きのも下向きのものもあ る. 9)  上向き符尾につく符鉤サイズは 1. 6(横幅),4. 0(±0. 2) mm(縦幅)であった.下向き符尾につくものでは 2. 2 (横幅),4. 0(± 0. 2)mm(縦幅)であった. 10)  符尾と符鉤で囲まれた部分の線は印刷されない. 11)  符鉤の付く下向きの符尾では,符尾が符頭部側と符鉤 部側とに分割されていた.まず音符が五線上にある場 合と,線間にある場合とに分かれる.前者の場合,全 長を符頭の上端から符尾の下端までの距離はおおよそ 約 9. 4 mm(線間距離の約 3. 5 倍)となる.符頭上端 からは約 5. 4 mm(線間距離の約 2. 0 倍)と符尾先端 より約 4. 0 mm(線間距離の約 1. 5 倍)とに分割され ていた.後者の場合,符頭上端から符尾先端までの距 離が 10. 8 mm(線間距離の 4 倍)となる.符頭上端 から約 6. 7 mm(線間距離 2. 5 倍)と符尾先端より約 4. 0 mm(線間距離 1. 5 倍)とに分割されていた.こ れらの分割位置はいずれも線間の中心である.(8 分 音符の符頭は線間距離より小さく,符尾も五線を突き 抜けているので,約を付けた.) 12)  五線譜の中にスラーが付く場合,6. 6(±0. 2)mm の 活字に付いていた. 13)  五線は全音符や二分音符の符頭が重なると乱れたもの が多い. 14)  五線より上に外れた音符には,前節と同様,空いた五 線下部(第一線や第二線)には新たな線用活字を組み 合わせて植字されていた注 4) (まとめ)この楽譜は 17 世紀終わりに印刷されたもので, ニュルンベルグ Endter 社の楽譜 IV に比べ,大変軽やか に感じられた.その理由には,個々の音楽記号の美しさと Fig.11  Music score of “10 Sonatas in four parts” composed by

H. Purcell (score V, printed by F. Heptinstall in London in 1697).

(11)

ともに,a)線が細く揃っている,b)画面が明るい(印 刷面積が少ない)ことがあげられる.前項目 11 で指摘し たように,活字の加工精度は楽譜 II,III に比べ高い.そ れなのに,符尾と符鉤で囲まれた五線が省略されていた(前 項目 10).下向きの 8 分音符では活字が分割されていた. この改良は細分活字に繋がる進歩である.符尾と五線との 交差する箇所も,音符の左側の五線が空き,破線となって いた.細い一定の線幅で楽譜を印刷することは大変難しい. 母型制作において,凹画像の線幅と深さを一定に揃えなけ ればならない.どのように調整したのかは不明である.さ らに,断線箇所が目立たないように・他の活字の線と繋が るように丁寧に加工されていた.この他,一部の活字も五 線譜の一部をまとめて長い線用活字への置き換えが認めら れた.これらの工夫によりこの楽譜は軽やかであり,他の 都市で印刷されたものより支持されたと確信する.また, 使用した活字にはネッキがあったと推論した.

3.6

 改良型楽譜用活字での印刷  1680 年頃は,初期楽譜用活字が発明されて約 150 年後, ベニスの Gardano 社の楽譜 I より約 100 年後である.初 期楽譜用活字による活版印刷も徐々に発展し,印刷物の品 質も大幅に向上していった.本章では 1680 年頃の改良型 楽譜用活字と活版印刷を研究し,細分活字に至る進歩の過 程を検討した.しかし時代はほぼ一定であるが,その発展 の状況は各国バラバラであった.このため,改良型楽譜用 活字を前期と後期とに分けて考察した.  ベニス Gardano 社の楽譜 II は 100 年前の同社のもの(楽 譜 I)と大きい違いが認められない.しかし,五線の間隔 は狭くなり,8 分音符や 16 分音符の形も Ch. Ballard 社の ものに一致した.ベニス Gardano 社には再度 Ch. Ballard 社の技術が伝播したと推論した.このため,楽譜 II を初 期楽譜用活字での印刷楽譜に分類した.  パリ Ch. Ballard 社の楽譜 III では,符頭こそダイヤモ ンド形を使用したが,長い線用活字の利用等により綺麗な 楽譜になるよう工夫がされていた.たとえば第 4 線や第 5 線に音符が有る場合,音符から外れた第1線(または第1線・ 第 2 線)には長い線用活字が使用された.音符が五線より 上に外れる場合も同様である.第五線にある活字をずらし て使用し,空いた五線の箇所には新たな線用活字が使用さ れた.この楽譜にはまだ卵形符頭も使用されておらず,楽 譜を綺麗に見せる取り組みの始った楽譜とも言える.改良 型楽譜用活字の前期のものに分類した.この他,顕著な工 夫は楽譜を 2 段または 4 段組みで取り扱い,ポリフォニー にも対応したことである.  ニュルンベルグ Endter 社の楽譜 IV は卵形符頭を使用 し,濃いインキ濃度で明確に印刷されていた.この楽譜は, 五線の破断個所が少なく,鋳造後の活字のボディに鉋をか けて丁寧に仕上げられた.これらの改良点より,この楽譜 を後期の改良型楽譜用活字での印刷物に分類する.この楽 譜の後一つの特徴は桁の掛け方である.8 分音符や 16 分 音符が続く場合,桁が多用された.  一方ロンドンの F. Heptinstall 社の楽譜 V は,約 20 年 近く遅く印刷されたが,Ch. Ballard 社や Endter 社での改 良や工夫を取り込み,初期楽譜用活字の改良を図ったと推 論する.五線や符尾・小節線は細くなり,符鉤や桁が付く 場合も,その太さはあまり変化しない.母型の凹画像の底 部での幅が細くほぼ一定であることを意味し,金属加工技 術がより進歩したことが明かである.一部の音符活字では 縦方向での分割も始まり,細分活字に繋がる進歩であろう. これを後期の改良型楽譜用活字での印刷物に分類した.  この時代の印刷楽譜の特徴を以下に示す(Table2).未 解決で残った最大の問題点は,「必要とする活字の決定(画 像を含め)から活字制作・植字に至るまでの手順をどのよ うに行っていたのか」である.熟練技術者が経験を基に 行ったとも考えられるが,考察のための手掛かりがない. Endter 社の桁の使い方等から,我々は手書楽譜を使用し て印刷に使用する活字とその植字手順とを細かく決めたと 推論している.

4

.細分活字での楽譜印刷

4.1

 研究した楽譜  ライプチィヒ Breitkopf & Härtel 社が 1799 年発売した Mozart 作 曲“Violin sonata K. 374d”( 楽 譜 VI,Fig.12) を使用して細分(モザイク)活字印刷楽譜を研究した.研 究法は,楽譜 I での方法に従った.Fig.12の左側は楽譜 の表紙・ペガサスに乗るニンフ像であり,右側は楽譜の 1 ページ目である.この楽譜ではマージナルゾーン(blue

circles and rectangles in Fig.13)も観測し,この印刷物

が凸版印刷で製作されたことが明らかである.  楽譜 VI の拡大画像の一部(3 段目第 3 小節)を

Fig.14a

に示す.これも他の楽譜(I ~ V)と同様に,横方向で分 割できる.分割個所に青い矢印を加筆した.興味深いこと に,符尾の縦棒にも 1 ヶ所または 2 ヶ所の不連続箇所が認 められた.これらの不連続箇所は五線の線と線の中間に位 置する.活字が縦方向にも線間の中心で分割されたことが 明らかである.以上の結果,この楽譜は1)縦方向にも・ 横方向にも分割した多数の小さい活字を植字して印刷され

(12)

た.さらに,五線や符尾の断線箇所が狭く,それぞれの活 字の加工精度が非常に高かったことが明らかである.  最も小さい活字に分割した一案を

Fig.14b

に示す.この 印刷法は,20 世紀まで長期間使用されたので,多くの活 字見本が残されている.Breitkopf & Härtel 社のオリジナ ル(Fig.15a)13),1764 年の活字広告(パリ,

Fig.15b)

9) 19 世紀のモザイクタイプ4),1922 年の Shanks のモザイ クタイプ(Fig.15c)14),日本でも 1933 年のもの15)等が 残されている.カタログより想像する活字デザインは時代 により少々変化する.本論では,最も細かい活字サイズを Fig.12  Music score of“Violin sonata K. 374d” composed by W.A. Mozart (score VI, printed by

Breitkopf & Härtel in Leipzig in 1799). Cover bear the pegasus crest of Breitkopf & Härtel (a) and the initial score page (b, score VI) were demonstrated.

Fig.13  Marginal zones detected on the score VI. Blue circles and rectangles show marginal zones.

(a)       (b)

Fig.14  There are many snappings on the staff notation and on notes. Snappings on the staff notation were indicated by blue arrows (upper, a). The score was divided to small piecies (units) shown by red-blocks, lower, b). These units were mosaic fonts.

(13)

(a)

(b)      (c)

Fig.15  Lists of mosaic font. a) Breitkopf & Härtel reported by K. Faulmann, “Illustrirte Geschichte der Buchdrukerkunst”, A. Hartlebens Verlag (Wien). (1882), b) bill of font from Fournier' s Manuel (1764) (H.E. Poole, “New Music Types Invention in the Eighteen Century:II”, J. Printing Histroy, 3, 23-44. (1966), c); A mosaic system of P.M. Shanks reported in “Printing and Publishing of Music” by J.M. Thomson, D. Arnold et al. edit., “The Oxford Companion to Music, vol. 2”, Oxford Univ. Press, (1983), pp. 1487-1499.

(14)

想定して以下の研究を進めた.

4.2

 使用した活字  楽譜の基本的な値を計測した.五線第一線と第五線との 間隔は 7. 7 mm(線間隔= ca. 1. 9 mm)と他の楽譜の値よ り狭い.活字横方向サイズは,1. 8,3. 6,7. 6,9. 5,11. 3, 13. 4 mm であった注 5).最小活字ブロック(基本サイズと 呼称する)の縦方向は五線の中心で分割できる(幅:ca. 1. 9 mm).これに最小横幅(ca. 1. 8 mm)で最小活字が形 成されていた.  カタログだけでは活字サイズや字づらの向き・植字法な ど不明な点が多い.このため細分活字による楽譜の再現を 上記の最小活字サイズの印字パターンで検討した.8 分音 符で説明する.まず基本形を以下の 4 パターンに分類した (Table3).それぞれのパターンの印刷された画像・それ を構成する細分活字の組合せと活字番号の図をセットにし て説明する(Fig.16).  符尾が上向きで符頭が五線線上にある場合を

Fig.16a

に 示す.符頭は最小活字サイズにほぼ内接した卵形(楕円形) で,右上端に小さい突起を持つ活字(活字 1)である.そ のすぐ上には,やはり最小活字サイズで五線の線用横棒が 中央に一本と,符尾用縦棒が右端に入った活字(活字 2) が使用された.さらに,活字 2 の上には五線の線用横棒の 活字(活字 3)が使用された.活字 2 と活字 3 の横には最 小活字の縦方向 2 倍サイズの活字(活字 4)が使用された(縦 横サイズ:3. 8,1. 8 mm).この活字 4 の上半分左端には 符尾用縦棒とその頂点より右下がりの太い符鉤用直線と五 線用横棒が付く.符尾と符鉤の夾角は約 45 度である.さ らに,活字 4 の下半分中央には五線用横棒がある.  符尾が上向きで符頭が線間にある場合を

Fig.16b

に示 す.符頭には最小活字サイズの縦方向 2 倍の活字(活字 5) が使用された.活字の中心には符頭があり,符頭の上下に 五線用横棒がある.符頭の右上部には符尾用の短い線が付 く.活字 5 の上部には前出の活字 2 が,その上には活字 3 が使用された.活字 2 と活字 3 の右隣には活字 4 が使用さ れた.  符尾が下向きで符頭が五線上にある場合を

Fig.16c

に示 す.符頭(活字 6)は最小活字サイズにほぼ内接した卵形 であり,左下は活字の枠に接触していた.その下には五線 と右端が符尾の活字(活字 7)が付く.活字 7 の下には新 しい活字(活字 8)が付く.この活字は最小活字サイズの 縦方向 2 倍サイズで,五線用横棒と活字左端に符尾用縦棒

Fig.16 Compositions of several type of eighth musical note. Printed patterns, a model of pattern, and a numbering table, which put in order of fonts, were demonstrated. a) head of note toward upper on five-line staff, pattern was decomposed to three small fonts (parts), b) head of note toward upper on a space composed to three small fonts, c) head of note toward lower on five-line staff decomposed to three small fonts, d) head of note toward lower on space decomposed to three small fonts.

Table 3 Model combination of small segments to form the note in the mosaic music printing. 音符種類 音程と(符尾の向き) 音階の位置 図番号 8 分音符 五線譜第 3 線以下の音程(上向き)  線上 16a   同上  線間 16b   五線譜第 3 間以上の音程(下向き)  線上 16c   同上  線間 16d

(15)

が付く.この棒は下の五線まで伸び,下端から符鉤用直線 が右上に向け伸びていた.  符尾が下向きで符頭が線間にある場合を

Fig.16d

に示 す.符頭は最小活字の縦方向 2 倍サイズの活字(活字 9) が使用された.活字の中心には符頭があり,符頭の上下に 五線用横棒が付く.符頭の左下部には符尾用の短い線が付 く.その下には活字 7 とその下には活字 8 が付いていた.  活字 6,7,9 の字づらはそれぞれ活字 1,2,5 の字づ らと 180 度回転対称形である.Breitkopf & Härtel のカタ ログ(Fig.15a)13)には符尾が符頭右端から上向きに付い た活字のみが記載されていた.一方,Fournier' s Manuel (1764 年,Fig.15b)9)や Shanks の カ タ ロ グ(1922 年,

Fig.15c)

14)では符尾が下向きに付いた活字のみが紹介さ れていた.細分活字の金属加工精度を考慮すると,同じ活 字を逆向けにしても使用可能であろう.  16 分音符は下向きの五線譜線上の音符と線間の音符し か出現しない(Fig.17).前出の活字 6 の下に最小活字の 縦方向 3 倍サイズの活字(活字 10)で構成されていた. 活字 10 は 3 本の五線用横線と交差する符尾と,符尾より 斜め上に伸びた 2 本の太い符鉤用直線で出来ていた.符頭 が線間にある場合は,活字 9 と活字 10 を組み合わせて使 用されていた.  4 分音符の場合も,和音の場合も,桁を掛けた音符も 8 分音符の場合とほぼ同様である.一方 2 分音符や全音符の 場合,符頭は最小活字の横幅 2 倍サイズで,縦幅は通常の ものと通常の 2 倍または 3 倍サイズ(それぞれ符頭が線 間または線上にある場合)のものが使用された(Fig.18). この大きいサイズの活字の使用は目立ち,2 分音符と 4 分 音符の弁別能・全音符と全休符の弁別能はそれぞれ向上す る.しかし,強調以外の使用目的はまだ不明である.

4.3

 組版   ド イ ツ や イ ギ リ ス の 活 字 に は 腹 側 に ネ ッ キ が あ る (Moxon の書籍10)他).一方,フランスの活字のネッキは 背側にある11).ドイツやイギリスでは,楽譜それぞれの 段を上側より下側に向け,常に上方より活字のネッキが確 認できるように,ステッキに字づらを揃えて植字したので あろう.簡単化にため,最も小さい細分活字で印刷する場 合の活字とその植字順を

Fig.19

に示す.Fig.19aに示すよ うに,楽譜は細かく分割できる.五線上の段左より番号を 付ける.ステッキ上に活字の上下を逆向けにして(ネッキ が確認できるよう)番号順に植字する.Fig.19bに番号順 に植字する過程を示す.この図において,五線だけの活字 は水色に,他の記号と組み合わされた活字は青にそれぞれ 着色した.印刷画像(Fig.19a)と活字番号(Fig.19b)と の関係を対比するため,一部両矢印で繋いだ.一行の楽譜 でも活字が 7 段(五線に上下各一段ずつ)以上にも及ぶこ とがある.このため,植字後一段ずつ注意深く紐を掛けて まとめたのであろう.一方フランスの活字にはネッキが活 字背側に付く.このため,楽譜それぞれの段を下部分から 上部へ組み上げる方法(植字中常にネッキが上になる)で 植字したのであろう.

Fig.17  Compositions of several types of sixteenth musical note. Printed patterns and a model of pattern were demonstrated. a) head of note toward lower on five-line staff, pattern was decomposed to two small fonts (parts), b) head of note toward lower on a space composed to two small fonts.

Fig.18  Compositions of several types of whole notes, half notes, and quarter notes. Printed patterns and models of pattern were demonstrated.

(16)

4.4

 まとめ  細分活字での印刷は,(1)使用する活字の数が非常に多 く,(2)活字サイズもバラエティーに富む.その上,(3) 植字位置も音階により変化し,(4)活字の向きも考慮しな ければならない.大変困難な作業である.金属加工の精度 向上で,個々の活字製作は可能となった.しかし,必要な 活字の種類とその数をどのように整理し決定したのであろ うか.これが最後に残った課題である.著者らは,写真植 字での「割付け用紙」のような活字の種類と植字場所とを 指示する図があれば,活字製造・文選と続く一連の作業を 効率的に行えると推論した.現在多くの活字の見本が残さ れている.しかし,活字の向きやサイズの記載がない.指 示書も作業に不可欠な要素と著者は確信する.  日本においても細分活字の印刷物として 1905 年青山印 刷所が印刷した「賛美歌」(国立音楽大学附属図書館所蔵) が残されていた.やはりロングランと大量ニーズの期待で きる楽譜であった.

5

.おわりに

 現在コンピュータ(PC)の発展に伴い楽譜の出力まで もが,ディスップレーやプリンターを介して出力される. 演奏だけでなく,作曲までもが PC を介して行えるように なった.我々は音楽に感動し,その作曲家や歌手・演奏者 に着目してきた.しかし,それらを支えた楽器・楽譜を含 め補助的な事物にはあまりにも目を向けてこなかった.楽 譜には多くの記号が使用される.最も代表的なものに音符 があり,音階の高低・音の連続時間・音色等を示す.この 他,休止符・音の強弱・テンポ・ハーモニー等多くの記号 が使用されており,文書の印刷とは全く異なる世界であっ た.本研究は,それまでゴツゴツしていた楽譜をどのよう に美しいものに変化させたのか,その技術的進歩や努力を 解明することを目的とした.  音符や五線に変化の現れた年代と場所を

Table4

に示す.  Gutenberg の発明した活版印刷では,活字を一列に並べ Fig.19  An idea of a mosaic pattern composed of small fonts (a) and its order table of

typesetting (b). The both mosaic patterns were numbered in order of the typesetting. Thick line blocks specified the staff-line and a part of musical note. Thin line blocks specified small font of the staff-line. Green arrows (solid and dotted lines) demonstrate relations between the font of table (a) and that on the typesetting table (b).

Table 4 Improvements and reforms in music printing.

 符号や記号 旧 新 変化の場所と年代  音符符頭 ダイヤ形 卵形 :1680 年頃ニュルンベルグ    符尾 線 線分割 :1695 年頃ロンドン    鉤サイズ 活字幅の半分 活字の幅,曲線 :1680 年頃ニュルンベルグ    桁利用 なし あり :1678 年頃パリ  五線譜 活字間の破線 長い活字に置き換え :1678 年頃パリ  小節線 モノフォニー対応 ポリフォニー対応 :1678 年頃パリ 注)現在この分野の証拠は急速に失われつつあり,証明の困難な事項も多数含まれる.このため,調査した範囲での結果を記載した.

(17)

て文を構成する.同様に,1525 年 Haultin が発明した初期 楽譜用活字では五線と音符一つずつを同一の活字面(鏡像 の凸版)に作り込み,それらを横方向に並べて印刷した. 使用した活字は,母型用銅板に五線用父型(凸画像)と音 符用父型(鏡像の凸画像)とを 2 度以上打刻して作成され た.この母型(正像の凹画像)をハンドモールドに固定し て活字合金を鋳込み,初期楽譜用活字(鏡像の凸画像)を 製作した.  Scheme1に研究した楽譜用活字の分類と特徴的進化を 赤字で示す.初期楽譜用活字による印刷楽譜は,文字通り Haultin や Attaingnant の開発した活字による印刷楽譜で あり,1)ダイヤモンド型符頭,2)符頭頂点から伸びた符 尾,3)活字ごと切切になった五線で特徴づけられる.ベ ニス Gardano 社 1580 年の楽譜(楽譜 I)がこれにあたる. 同社 1675 年の楽譜も研究した.この楽譜では顕著な活字 の改良は認められず,五線の間隔も符鉤の形も楽譜 III で の値と同様であった.このため,Ch. Ballard 社の古い技 術が再度移植されたと推論でき,初期楽譜用活字による印 刷楽譜と分類した.  初期楽譜用活字での印刷楽譜は,綺麗に見えるよう,徐々 に改良された.楽譜 III ~ V を改良型楽譜用活字による印 刷楽譜に分類した.切れ切れになっていた五線の一部を 楽譜 III では,長い線用活字への置き換えが起こった.こ れを前期改良型楽譜用活字による印刷楽譜とする.ニュ ルンベルグ Endter 社 1682 年の楽譜(楽譜 IV)では,卵 形符頭が使用された.五線の一部には長い線用活字の使 用や鋳込んだ活字の鉋がけ等により破線箇所が少ない. しかし,符尾や五線の太さにはばらつきが多い.一方 F. Heptinstall 社の楽譜(楽譜 V)は,卵形符頭の使用・長 い線用活字の使用とともに均一な細い線で印刷されてい た.活字の母型製作において,線を細く均一に打刻したこ とを示す.さらに,下向きの 8 分音符の符尾は中間で 2 分 割されていた.これは細分活字に至る進歩の第一歩として 著者らは認識する.これらの楽譜を後期改良形楽譜用活字 による作品とする.  1755 年 Breitkopf により細分活字が発明された.最小活 字サイズは縦横 2 mm 以下であり,音符の符尾でさえ 2 ヶ 所で切断されていた.楽譜 VI は細分活字による印刷楽譜 である.本報告ではその構成の一案も示した.この植字法 は複雑であり,修正が困難である.このため,植字には活 字のネッキとともに植字指示書が不可欠であろう.  細分活字での楽譜印刷は約 500 年間続けてきた技術では あるが,現在すでに失われ・忘れられつつある.詳細な検 討の必要な分野であるが,古い楽譜を多量に系統的に収蔵 する機関も少ない.一般的に音楽やその作曲家についての 興味は大きいが,補助的な楽譜についてはあまり研究され てこなかった.本研究では,楽譜の活版印刷技術を研究し, その進歩と発展の過程が少し解明できたと確信する.しか し,解決すべき課題も多数残った.  最期に,本研究は国立音楽大学附属図書館が所蔵する 400 年以上前の貴重な資料を多数使用して行った.この御 厚情に対し,著者一同国立音楽大学当局に深謝する次第で す. 文献 1)  日本国語大辞典第二版編集委員会編,『日本国語大辞典 3 第 二版』,小学館,(2001),p.458. 2)  皆川達夫著,『楽譜の歴史』,音楽の友社,(1985). 3)  たとえば,下中弥三郎編,『音楽辞典,第 2 巻』,平凡社, (1955),pp.181-3.

4)  S. Boorman, E. Selfridgee-field, and D.W. Krummmel, “Printing and Publishing of Music”, S. Sadie and J. Tyrrell ed., “The New Grove Dictionary of Music and Musicians, vol. 20 2nd ed.” The Macmillan Company, pp. 326-381; S. Boorman, E. Selfridgee-field, and D.W. Krummmel, “Printing and Publishing of Music”, S. Sadie and J. Tyrrell ed., “The New

(18)

Grove Dictionary of Music and Musicians, vol. 15”,The Macmillan Company, (1980), pp. 232-275.

5)  大崎滋生著,『楽譜の文化史』,音楽之友社,(1993),pp.10-12. 6)  高野紀子,「印刷楽譜の変遷」,NHK交響楽団編,『楽譜の世界1, 楽譜の本質と歴史』,日本放送出版協会,(1974),pp.143-156. 7)  D.B. Updike, “Printing Types Their History, Forms and Use,

A Study in Survivals, 2nd ed.”, Oxford University Press (London)(1937):印刷博物館編集発行,『プランタン=モ

レトゥス博物館展』,(2005),pp.155.

8)  大崎滋生著,『楽譜の文化史』,音楽之友社,(1993),pp.13-16. 9)  H.E. Poole, “New Music Types, Investigation in the Eighteen Centry: 1”, J. Print. Historical Soc., 1, 21-38 (1965);H.E. Poole, “New Music Types, Investigation in the Eighteen Centry: II”, J. Print. Historical Soc., 2, 23-44 (1966). 10)  Joseph Moxon, “Mechanick Exercieses or the Doctrine of

Handworks Applied to the Art of Printing” (London), Numb. X, Sec. XV (1683); Committee of the Typothetoe edit., “Mechanick Exercieses”, as one of“Classic Works on the Histry of the Book”, Thoemmes Press & Kinokuniya, (1998), p.139.

11)  M. Didrot et M. D' Alembert, “Encyclopedie, ou Dictionnaire Raisonne Des Sciences, Des Arts et Des Metiers, Par Une Societe de Gens de Letter”, Paris, (1745);ジャック・プルー スト監修・解説,青木国夫ら訳,『フランス百科全書絵引』, 平凡社,(1985),p.228.

12)  J.M. Thomson, “Printing and Publishing of Music”, D. Arnold et al. edit., “The Oxford Campanion to Music, vol. 2”, Oxford University Press, (1983)pp.1487-1500.

13)  K. Faulmann, “Illustrirte Geschichte der Buchdruckerkunst

mit Besondere Berucksichligung ihidr Technischen Entwicklung bis zur Gegenwart.”, A. Hartlebens Verlag. (Wien), (1882), p.511.; 文献 9 にも転載されている. 14)  H.E. Poole and D.W. Krummel, “Printing and Publishing of

Music”, S. Sadie ed., “The New Grove Dictionary of Music and Musicians, vol. 15”, Macmillan Publishers, (1980), pp.232-275. 15)  島屋政一著,「印刷文明史第 5 巻」,大阪出版社,(1933),p.3086. 脚注 注 1)  島屋政一は同氏著書で“music font”を「楽譜用記号活字」 と表現していたが,後には「楽譜用活字」や「楽譜活字」 との用語も使用した(同氏著,『印刷文明史』(第 5 巻), 五月書房,(1980),p.3067-87.).本論では「楽譜用活字」 と呼称した.この呼称では総称として意味が広いので, 音符と五線とを組み合わせたものに「音符用活字」・五 線とその一部の線の活字にはそれぞれ「五線用活字」・「線 用活字」との名称も使用した. 注 2)  “ca.”はラテン語“circa”の略で,“about”の意味である. 注 3)  符頭サイズは斜辺を延長して交点を決め,この交点を使 用してサイズを計測した.誤差は± 0. 2 mm であった. 一方,卵形符頭では図より直接計測した. 注 4)  たとえば隣接した 2 つの音符が第二線や第三線または第 二間にある場合,第一線を“切れ目”の無い長い線用活 字に置き換える. 注 5)  測定箇所の問題かもしれないが,横方向に測定した場合, 最小活字が横の活字と密着していない部分が含まれたと 推論する.細分活字においてサイズは一定であるので, それ以上の計測は行っていない.

Table 1   Histry of music printing.
Table 3   Model combination of small segments to form the note in the mosaic music printing.
Table 4   Improvements and reforms in music printing.

参照

関連したドキュメント

We establish an upper bound on the asymptotic probability of an SLE(κ) curve hitting two small intervals on the real line as the interval width goes to zero, for the range 4 < κ

Taking a partially penetrating well as a uniform line sink in three dimensional space, by the orthogonal decomposition of Dirac function and using Green’s function to

One can show that if C e is a small deformation of a coassociative 4–fold C of type (a) or (b) then C e is also of type (a) or (b) and thus, Theorem 1.1 implies analogous results on

Variational iteration method is a powerful and efficient technique in finding exact and approximate solutions for one-dimensional fractional hyperbolic partial differential equations..

This paper presents an investigation into the mechanics of this specific problem and develops an analytical approach that accounts for the effects of geometrical and material data on

While conducting an experiment regarding fetal move- ments as a result of Pulsed Wave Doppler (PWD) ultrasound, [8] we encountered the severe artifacts in the acquired image2.

For the earlier works on existence, uniqueness, and stability of various types of solu- tions of differential and functional differential equations with nonlocal conditions, we refer

In order to describe key relevant dynamics of the disease in these communities, we consider a five compartments SEIR model with five possible routes toward TB infection: