はじめに
第四脳室近傍もしくは第四脳室を占拠する腫瘍は小児 に多く発生し,悪性腫瘍が多く,水頭症を伴う.症候性 になってからは短期間に神経症状が悪化することも多 い.鑑別すべき疾患は多くはないが限られた時間の中 で,脊髄を含めての画像診断,心配する親への病状説明 や対応,小児科や麻酔科への連絡などを行うため十分な 術前検討ができないまま手術室に入ることも少なくな い.マンパワーが十分あり,周囲の環境も良好な状況で は受診当日に手術をすることが望ましいが,そうでない 場合にはまずは水頭症の治療を先行させ(脳室ドレナー ジやシャント術など),日を改めて手術を行うことは非 難されない.第四脳室(近傍)腫瘍で鑑別が必要な疾患 は髄芽腫,上衣腫,毛様細胞性星細胞腫,血管芽腫,脈 絡叢乳頭腫であるが,ここでは厳密には腫瘍ではないが 橋の海綿状血管奇形も鑑別に挙げる.特に髄芽腫,上衣 腫,毛様細胞性星細胞腫に関してはその発生母地や腫瘍 の進展形式を理解することが手術の一助になる.いずれ の疾患も腫瘍摘出率が予後に影響するため手術の役割が 大きい. 連絡先:寺坂俊介,〒 060 8638 札幌市北区北 14 条西 5 丁目 北海道大学病院脳神経外科Address reprint requests to:Shunsuke Terasaka, M.D., Department of Neurosurgery, Hokkaido University Hospital, N14 W5, Kita ku, Sapporo shi, Hokkaido 060 8638, Japan
第四脳室(近傍)腫瘍の診断と手術
寺坂 俊介,山口 秀
北海道大学病院脳神経外科Diagnosis and Surgical Treatment of Fourth Ventricle Tumors
Shunsuke Terasaka, M.D. and Shigeru Yamaguchi, M.D. Department of Neurosurgery, Hokkaido University Hospital
Fourth ventricle tumors are generally classified into two groups from the point of view of benign or malignant nature, or pediatric or adult tumors. But based on a surgical perspective, it is more important to classify whether the tumor is a true fourth ventricle tumor or not. Ependymomas, hemangioblastomas and choroid plexus papillomas are representative true fourth ventricle tumors. On the other hand, medulloblas-tomas and pilocytic astrocymedulloblas-tomas are tumors that originate from the surrounding cerebellar hemisphere or cerebellar vermis, which extend to the fourth ventricle. In surgery of true fourth ventricle tumors, the cer-ebello medullary fissure approach including the incision of the taenia and wide opening of the tela choroi-dea is effective in exposing both the tumor and the fourth ventricle floor. However, for medulloblastoma resection, using the uvulo tonsillar space without dissection of the cerebello medullary fissure is often effective. Key anatomical landmarks for surgery near the fourth ventricle are the inferior velum and the tela choroidea.
In this manuscript, we present typical MRI findings of fourth ventricle tumors and our surgical proce-dures.
(Received March 23, 2017;accepted April 24, 2017) Key words:ependymoma, fourth ventricle tumor, medulloblastoma, surgical anatomy, surgical approach
Jpn J Neurosurg(Tokyo)26:436 443, 2017
第四脳室の外科解剖
第四脳室は正中矢状断で後方に傾いたテントの形をし た空間で,天井前半部は側方が上小脳脚,正中は上髄帆 で形成され,天井後半部は下髄帆と脈絡膜,虫部結節で 形成される.菱形の第四脳室底は橋と延髄で形成され, 上方は中脳水道を介して第三脳室,下方はマジャン ディー孔を介して大槽,外側は外側陥凹(ルシュカ孔) を介して小脳橋角槽へ連続している.第四脳室底を正中 で二分割する正中溝とその外側を走る境界溝との間は正 中隆起と呼ばれ,隆起の下に頭側より顔面神経核(顔面 神経丘),舌下神経核(舌下神経三角),迷走神経背側核 (迷走神経三角)が存在する.境界溝よりも外側で外側陥 凹に移行する領域は前庭神経野と呼ばれその下には蝸牛 核や前庭神経核が存在する. 第四脳室への手術到達法としては小脳虫部の一部を切 除する経虫部法や部分的に小脳を切除する経小脳法で行 われることが多かったが,最近では第四脳室底の観察に 優れ,小脳虫部切開を回避できる小脳延髄裂到達法が好 んで用いられている.小脳延髄裂到達法は Rhoton ら6)や Matsushimaら4)がその詳細を報告しているが,いまだ成 書には誤った記載も多い.小脳延髄裂は第四脳室天井後 半部(下髄帆・脈絡膜)と虫部垂,小脳 桃,二腹小葉 の間にある裂溝で,虫部垂と小脳 桃の間の uvulo ton-silar spaceと延髄と小脳 桃の間の medullo tonsilarspaceを剝離し,脈絡膜と延髄背側をつなぐ脈絡ヒモを 外側陥凹まで切離することによって虫部垂や小脳 桃を 脈絡膜ごと上方へ持ち上げ,第四脳室を大きく開放しよ うとする到達法である.Telovelar approach は下髄帆と脈 絡膜との移行部,telovelar junction を切開して第四脳室 を開放する方法であるが小脳延髄裂を外側まで剝離する ことから小脳延髄裂到達法とは同じコンセプトの手術到 達法である5).下髄帆は虫部結節と小脳片葉を連絡する 薄い半透明状の組織で小脳 桃の前上方に位置する.以 前は神経細胞を有しており蝸牛神経核との連絡が考えら れていたが,2013 年 Tubbs ら9)は本組織が左右の小脳を 結合する遺残組織で,損傷しても神経学的な障害が出る 可能性は少ないと報告した. 第四脳室腫瘍の代表である“髄芽腫”は髄帆から発生 する腫瘍という意味で命名されたが,最近の分子診断の 発展は“髄芽腫”が単に髄帆から発生する腫瘍ではない ことを示している.髄芽腫は分子診断を基に 4 型に分類 されたが,たとえば sonic hedgehog subgroup(SHH)髄 芽腫では SHH 経路が小脳の顆粒細胞の発生に深く関与 していることから腫瘍の細胞起源が顆粒細胞の前駆細胞
と考えられている.SHH 髄芽腫が小脳半球に多く発生す る臨床とも一致する.小脳の顆粒細胞は胎生期に上菱脳 唇(upper rhomboid lip)から発生する.詳述はしないが 下菱脳唇(lower rhomboid lip)由来と考えられている
WNT髄芽腫とはそもそも細胞起源が異なる可能性があ
る.分子診断の進歩によって腫瘍細胞の起源が類推さ れ,さらに起源細胞の由来を発生過程で考えることに よってより本質的な治療や手術を行える可能性がある. 小脳延髄裂内を走行する動脈は後下小脳動脈の tonsil-lomedullary segmentと telovelotonsilar segment,静脈は vein of the inferior cerebellar peduncleである.
第四脳室(近傍)腫瘍の画像診断
髄芽腫(Fig. 1)
代表的な第四脳室腫瘍である.従来は classic,desmo-plastic nodular,anaclassic,desmo-plastic/large cell に分類されていた が,近年は分子生物学的分類の WNT,SHH,group 3, group 4に分類されることも多い1).一般的な MRI 所見と
しては T2/FLAIR で高信号を呈し,いわゆる blue cell
tumorと呼ばれる高い細胞密度を反映して拡散強調画像
では高信号で描出される.腫瘍の形状やガドリニウムに よる増強効果はさまざまなことが多い.興味深い所見と しては,前述したように髄芽腫の亜型である
desmoplas-tic nodular typeは境界明瞭で強く増強され,小脳皮質に
浸潤するという特徴があるが,分子生物学的にはほぼ全 例が SHH type である8).また増強されない髄芽腫の多く は group 4 であると言われており,画像所見で分子生物 学的な診断を予測することができるかもしれない7). 小児∼若年成人の第 4 脳室腫瘍を診た際にはまず髄芽 腫を念頭に置く.もちろん,発症時から播種病変(脳槽 や脳幹周囲の線状増強像や脊髄播種など)がある場合に は本腫瘍を第一に考えるべきである(ほぼ全例が group 3 の髄芽腫である).分子学的には発生部位に諸説はある ものの,髄芽腫は小脳側(虫部や下髄帆)から生じる腫 瘍である.よって MRI では第四脳室の背尾側を構成する 組織が早期に不鮮明となるが,第四脳室底と腫瘍との境 界は晩期まで保たれることが多い.小脳側から発生する 髄芽腫にとって下髄帆や脈絡膜が脳幹浸潤のバリアーと なっていることがわかる.側方進展をする場合にも脈絡 膜がバリアーとなり腫瘍本体がルシュカ孔から小脳橋角 部に進展することはほとんどない.これは後述する上衣 腫との重要な鑑別点となる. 1
上衣腫(Fig. 2) 小児の第四脳室腫瘍で髄芽腫に次ぐ頻度である.髄芽 腫と同様,特徴的な MRI 所見はなく,まったく増強され ない腫瘍から強く増強されるものまでさまざまである. 上衣腫の画像の特徴は,“plastic ependymoma”と称され る,脳室や脳槽が鋳型になるような腫瘍進展である.ル シュカ孔やマジャンディー孔が開大して腫瘍本体が小脳 橋角部や大槽へと進展する.腫瘍の発生母地は第四脳室 底の正中部または外側陥凹で,髄芽腫のように小脳側か ら発生することはまれである10).真の第四脳室内腫瘍で はあるが,脳幹深部に浸潤することはほとんどなく,脳 幹は腫瘍により前方や側方に圧排,偏位している.脳幹 浸潤が明らかな場合には退形成上衣腫の可能性がある. 2
Fig. 1 MRI appearances of medulloblastomas
A D: Medulloblastomas show various degrees of tumoral enhancement.
E, F: A large tumor is observed in the fourth ventricle with obstructive hydrocephalus, but the floor of the fourth ventricle is usually intact(arrow head). The lateral recess is not usually enlarged by the tumor(arrow).
E FLAIR FLAIR A B C D F
毛様細胞性星細胞腫(Fig. 3) 本腫瘍も小児に好発する腫瘍で,小脳半球に囊胞を形 成する腫瘍として有名であるが,第四脳室にもしばしば 発生する.囊胞を形成している場合には比較的容易に診 断ができるが,充実性の場合には髄芽腫や上衣腫との診 断が困難な場合もある.鑑別に重要な画像所見として, 本腫瘍はその低細胞密度から拡散強調画像では低信号で 描出されることが多い8). 血管芽腫(Fig. 4) 成人の第四脳室腫瘍では比較的頻度が高い.強く増強 される腫瘍と腫瘍周囲の拡張した流出静脈がflow voidと して描出されるため,他の腫瘍との鑑別は可能である. フォン・ヒッペル・リンドー病の除外のために脊髄の精 査も必要である.本腫瘍に関しては血管造影検査が必須 であり,強い腫瘍濃染像を呈することで診断が確定で き,腫瘍栄養血管と流出静脈の部位によって手術戦略が 立てられる. 3 4
Fig. 2 Fourth ventricle ependymomas
A D: Ependymomas also show various patterns of tumoral enhancement.
E, F: The foramen of Magendie is remarkably enlarged and the tumor extended into the cisterna magna. The left lateral recess(foramen of Luschka)is widened and the tumor extends into the cerebello pontine cistern.
FLAIR
FLAIR
A B
C D
海綿状血管奇形(Fig. 5) 脳幹部,特に橋背側の海綿状血管腫が第四脳室側に突 出し腫瘤を形成することがある.内部の繰り返す出血を 反映して MRI では不均一な信号となる.血管奇形そのも のは造影されないことが多い.T2*画像でヘモジデリン の沈着を示す強い低信号を呈するのが特徴的である. ロゼット形成性グリア神経細胞腫瘍 30 歳代を中心として小脳正中部や第四脳室周囲に発 生する腫瘍である.病理学的には毛様細胞性星細胞腫領 域と神経細胞性腫瘍領域の 2 相性増殖を基本とする腫瘍 で神経細胞性腫瘍領域には血管周囲偽ロゼットや神経ロ ゼットを認める.MRI では比較的境界明瞭な腫瘍として 描出され,充実性が 40%,囊胞との混在が 35%,囊胞が 25%で,一部分のみが造影されるパターンが最も多い. 石灰化は約 4 分の 1 の症例で認める.
第四脳室腫瘍の手術
上衣腫や血管芽腫は第四脳室底に腫瘍浸潤(腫瘍発生) することが多いため,術後に顔面神経麻痺,外転神経麻 痺,下位脳神経麻痺を呈する危険がある.特に血管芽腫 は延髄背側発生が多く,両側下位脳神経麻痺の可能性が ある場合には術後に気管切開や胃瘻が必要である.これ らの腫瘍では脈絡膜や下髄帆が解剖学的なバリアーとな るため小脳への浸潤は認められないことが多い.一方, 髄芽腫や毛様細胞性星細胞腫では前述のように腫瘍径が 大きくても第四脳室底への浸潤が認められないことが多 5 6Fig. 3 Fourth ventricle pilocytic astrocytomas
Solid type of pilocytic astrocytomas with strong enhancement are easily misdiagnosed as medullo-blastomas or ependymomas. The tumor usually shows low intensity on diffusion weighted images and the roof of the fourth ventricle(arrow)might be identified on sagittal planes of heavy T2 images.
Gd-T1WI DWI
Fig. 4 Fourth ventricle hemangioblastomas Hemangioblastomas show strong post contrast enhancement. On T2 weighted images, a peritumoral flow void is usually observed, reflected in enlarged draining veins.
い.髄芽腫の術後に脳神経麻痺が少なく小脳性無言症が 多い臨床結果とも符合する.第四脳室底を切開する橋背 側海綿状血管奇形の手術では脳神経合併症に加えて内側 縦束症候群を呈し,複視が日常生活の支障になることが ある. 術中神経モニターとしては,両側顔面神経モニター, 両側聴性脳幹反応,下位脳神経モニター(EMG チュー ブ),両側運動誘発電位を行う. 体位と皮膚切開 当施設では手術体位は外側進展の強い側を下にする パークベンチとし,頭部はやや下に回旋する.術者は患 者の背中側に立ち後方から手術をすることが多い.この 体位は腹臥位(コンコルド体位)に比べより強い頚部の 屈曲を可能とし,尾側からの術野を確保したい(小脳延 髄裂到達法を用いるため)上衣腫や血管芽腫の手術で有 効である.一方,欠点は横向き(首を回旋した状態)で の後頚部の筋肉剝離や開頭のため正中を見失うことがあ ることである.皮膚切開は大後頭隆起の 2∼3 cm 上方と C2の棘突起を結ぶ正中切開を行うが,水頭症を合併して いる症例では後角より脳室ドレナージを行うために後頭 部にドレナージ用の皮膚切開を追加する. 開頭と硬膜切開(Fig. 6) 橋背側の血管奇形を除く腫瘍性病変では一様に後頭蓋 窩の圧が亢進しているため,脳室ドレナージからの髄液 の排出と同時にできるだけ大きな後頭蓋窩の開頭を行 う.大孔の開放は必須で C1の椎弓切除は症例によるが 1 2
Fig. 5 Dorsal pontine cavernous malformation
MRI images of cerebral cavernous malformations show various signal patterns due to acute or subacute blood degradation products. Apparent enhancement is unusual and a strong black signal on T2* weighted image is a typical finding.
Gd-T1WI FLAIR T2*WI
Fig. 6 Foramen magnum opening and dural incision
The foramen magnum is widely opened(white arrows). After dural incision, the cerebellar tonsils(black asterisks)and cerebellar vermis(blue asterisk)are confirmed.
*
*
削除したほうがよい例が多い.開頭の際に注意したいこ とは大孔の開放が狭くならないようにすることで,狭い と後の Y 字型の硬膜切開が有効にならず,結果小脳延髄 裂到達法での本来の術野が獲得できない.大孔外側には 椎骨動脈の硬膜貫通部や発達した静脈叢があるがドップ ラーなどを用いて可能なかぎりの骨削除を行う.硬膜切 開は C1レベルからはじめ,髄液を排出したのち両方の 横静脈洞 S 状静脈洞移行部へ延ばす.小児では頚静脈孔 へ連続する後頭静脈洞が発達しており硬膜切開に難渋す ることがある.小脳 桃や大槽に進展した腫瘍の下極が 硬膜切開のさらに尾側にある時は躊躇なく C2の椎弓削 除を行う. 腫瘍の剝離と摘出の注意点 硬膜を開けた際に比較的透明感のある灰色の腫瘍が大 槽に進展している場合は上衣腫の可能性が高い.小脳延 髄裂を十分に剝離したのちに第四脳室内の腫瘍を摘出し ていく.小脳延髄裂を剝離する際に後下小脳動脈からの 腫瘍栄養血管を随時凝固切断していく.腫瘍の内減圧は 可能で,徐々に発生母地の脳室壁に腫瘍を収束させてい く.本腫瘍の摘出は発生母地が第四脳室底尾側の場合に 最も難しい.第四脳室髄条や閂といった舌下神経三角や 迷走神経三角同定のための解剖学的指標すら確認できな い場合が多い.下位脳神経の電気刺激を行いながら少し ずつ腫瘍の摘出を行うが,術後の合併症を懸念して腫瘍 を残存させることも多い.術中の髄液播種が多いので腫 瘍摘出前にはゼルフォームなどで髄液腔を囲う配慮が必 要である. 一方,小脳 桃を持ち上げてマジャンディー孔から脳 室内を観察した際に第四脳室底が確認できる場合には髄 芽腫や毛様細胞性星細胞腫の可能性が高い.髄芽腫の場 合には小脳延髄裂の剝離にかかわらず虫部垂と小脳 桃 の間の uvulo tonsilar space も腫瘍摘出ルートとして適し ている.髄芽腫と毛様細胞性星細胞腫は肉眼的には鑑別 はつきにくい.いずれの腫瘍も柔らかく,吸引器で吸引 可能な腫瘍であるが髄芽腫がより柔らかく,摘出時に腫 瘍が崩れて途中で操作を中断することが困難となる.周 囲の準備を整えたのちに比較的太い吸引管を用いて腫瘍 摘出を行う.腫瘍の上極付近で太く脆弱な静脈に遭遇す るが,これを処理すると腫瘍が取りきれていることが多 い.太い吸引管のまま第四脳室底に癒着している腫瘍を 剝離すると顔面神経核や外転神経を損傷することがあ る.髄芽腫では腫瘍摘出度が重要な予後因子であるため 第四脳室底からの腫瘍剝離は重要ではあるが,重度の神 経合併症が出ない程度に,とするのが現在のコンセンサ スである.第四脳室底に癒着している腫瘍に対しては細 い道具での丁寧な剝離操作が必要である.髄芽腫の手術 では腹側よりも背側に腫瘍が残存しやすいことを術者は 認識すべきである. 血管芽腫はあたかも動静脈奇形のような血管塊を伴う 橙色の腫瘍で延髄背側から第四脳室底にかけて発生す る.閂よりも尾側に腫瘍の主座がある場合が多い.はじ めに小脳延髄槽で後下小脳動脈の本幹を確保したのちに 術前の血管造影と術中インドシアニングリーン蛍光血管 撮影を基に腫瘍栄養血管にミニクリップをかけていく. 徐々に腫瘍が写らなくなり流出静脈の流れが十分低下し た時点で腫瘍の摘出を行う.内減圧は禁忌な腫瘍で一塊 切除が基本である.腫瘍周囲の囊胞やグリオーシスを利 用して慎重に脳幹から剝離する.通常の術中神経モニ ターに加え病変摘出中の高度の徐脈や心停止に備えて体 外ペーシングを挿入して手術を行う場合もある. 橋背側に発生した海綿状血管奇形を第四脳室経由で摘 出することがある.この手術では腫瘍性病変よりも厳密 に小脳延髄裂を剝離して下髄帆や虫部垂を上方へ牽引す る必要がある.第四脳室底から脳幹への安全な入り口と して Kyoshima ら3)は supra and infrafacial triagle を 1993
年に提唱した.顔面神経丘よりも頭側で内側は内側縦 束,外側は上小脳脚に囲まれた三角形が suprafacial tri-angleで,顔面神経丘よりも尾側で内側は内側縦束,尾側 は第四脳室髄条に囲まれた三角形を infrafacial triangle と した.顔面神経核を同定したのちに血腫に近いほうの三 角に 5∼7 mm の切開を入れここより血管奇形の摘出を 行うが,顕微鏡の視軸と血管奇形摘出方向が一致しない ため技術的に非常に難しい手術になる. 術後・周術期の注意事項 両側下位脳神経麻痺の可能性がある場合には術後に一 度挿管のままで覚醒させ,麻痺や意識障害がないことを 確認したのちに再び鎮静し,人工呼吸器下で数日間全身 管理を行うこともある.術場で抜管を行った場合も EMGチューブが通常の挿管チューブよりも固いことや パークベンチ体位での頚部の回旋などの影響で声帯の腫 脹や顎下腺の腫脹が術後に起こることがあり慎重な呼吸 モニターが必要である.
結 語
第四脳室腫瘍の治療には術前・術中・術後に注意すべ き点も多く,ピットフォールも少なくない.しかし治療 が順調にいった際には,患者の症状も劇的に改善するこ 3 4とが多い.鑑別すべき第四脳室腫瘍はおのおのが特徴的 な臨床・画像所見を有している.これらを基に術前に的 確な治療戦略を立てることが,患者の予後にとって重要 であることを改めて強調したい. COI 著者会員は日本脳神経外科学会への COI 自己申告の登録を 完了しています.本論文に関して開示すべき COI はありませ ん. 文 献
1) Gibson P, Tong Y, Robinson G, Thompson MC, Currle DS, Eden C, Kranenburg TA, Hogg T, Poppleton H, Martin J, Finkelstein D, Pounds S, Weiss A, Patay Z, Scoggins M, Ogg R, Pei Y, Yang ZJ, Brun S, Lee Y, Zindy F, Lindsey JC, Taketo MM, Boop FA, Sanford RA, Gajjar A, Clifford SC, Roussel MF, McKinnon PJ, Gutmann DH, Ellison DW, Wechsler Reya R, Gilbertson RJ:Subtype of medulloblastoma have distinct developmental origins. Nature 468:1095 1099, 2010.
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第四脳室(近傍)腫瘍の診断と手術 寺坂 俊介 山口 秀 第四脳室(近傍)腫瘍は良性か悪性か,または小児か成人か,という観点で分類されることが多い が,手術という側面からは真の第四脳室発生か否か,という観点が重要である.第四脳室(近傍)腫 瘍で真の第四脳室発生は上衣腫や血管芽腫,脈絡叢乳頭腫であり,第四脳室周囲の小脳や脳幹から発 生する腫瘍として髄芽腫や毛様細胞性星細胞腫が挙げられる.真の第四脳室腫瘍の手術では小脳延髄 裂を外側陥凹まで切開する小脳延髄裂到達法が有用である.一方,髄芽腫の手術では虫部垂と小脳 桃の間の uvulo tonsillar space が腫瘍摘出ルートとして適していることがある.第四脳室腫瘍の手術 で重要な解剖学的な指標は下髄帆とそれに連続する脈絡膜であり,腫瘍が本組織よりも脳室側にある か,小脳側にあるかで手術のリスクや腫瘍摘出の手順が異なってくる. 本論文では鑑別すべき第四脳室(近傍)腫瘍の MRI 所見,そして実際に当施設で行っている手術の 手順とピットフォールに関して詳述する. 脳外誌 26:436⊖443,2017 要 旨