INTELLIGENCE MANAGEMENT Vol.1, No.1 / 2009
[ 論 文 ]
オープン・イノベーション時代におけるCTI
―半導体先端技術産業を中心に―
Competitive Technical Intelligence in an Era of Open Innovation
― Focus on high-tech Semiconductor Industry―
高 橋 文 行
*菅 澤 喜 男
**Abstract
The innovation system is in a big revolutionary period now, because of global competition. The new approach of the Open innovation as antithesis of traditional linear R&D model is on the rise.
This research is focused on new approach of the Open innovation, using case studies from the high-tech Semiconductor industry which describes the importance and the role of CTI especially on value creation uti-lizing external technology and knowledge in the Open innovation. At the end, it presents the competitive advantage necessary for the construction of a technological strategy of the enterprise.
要 旨 企業が国際競争力を維持していくためには,持続的なイノベーションが不可欠である。企業はグローバル 競争が激化する中で,研究開発のあり方も大きく変化してきた。過去に定型とされた研究開発のリニアモデル の「中央研究所時代の終焉」とオープン・イノベーションの新しい時代の研究開発マネジメント方法論が議論 されている。 グローバル競争の激化と製品・技術のライフサイクルの短縮化により,研究開発に投じる資金・人材・技術 などの経営資源が,全てを一企業で賄うことが困難な状況になった。企業は産学連携、外部機関の活用などオ ープン・イノベーションの重要性は認識されつつある。その場合,競合または潜在的競合と連携する場合もあ り,ライバル企業と自社の技術力を比較し,競合する企業の技術情報に関る収集・分析・評価する一連の分析 プロセスと理論を体系化したコンペティティブ・テクニカル・インテリジェンス(Competitive Technical Intelligence, CTIと略す)手法の活用が重要である。 本論文では,オープン・イノベーションを中心とした新たな研究・開発のあり方とその傾向に注目し,半導 体先端技術産業の研究開発企業に焦点を当って,戦略的技術提携の構築と外部技術の活用において,CTIの意 義と重要性を明らかにすると共に,CTIはどのように活用するかについて考察を行う。最後に企業の技術戦略 構築に必要な競争優位性の確保について議論するものである。 キーワード:半導体先端技術産業,戦略的研究・開発,オープン・イノベーション,技術戦略,価値創造,CTI ●日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授 ●米国ノースロップ工科大学大学院 ●工学博士(北海道大学) ●〒102-8275 東京都千代田区九段南4-8-24 ●03-5275-9438 ●[email protected]
●Graduate School of Business, Nihon University
Professor
●Graduate School of Engineering, Northrop
Institute of Technology
●Doctor of Engineering (Hokkaido University)
●4-8-24 Kudan-Minami, Chiyoda-ku, Tokyo
102-8275 Japan **Yoshio SUGASAWA ●NECエレクトロニクス株式会社 ●日本大学大学院 ●MBA 工学修士 ●〒2111-8668 神奈川県川崎市中原区下沼部1753 ●044-435-5278 ●[email protected]
●NEC Electronics Corporation
●Nihon University Graduate School of Business ●MBA (Technology Management), Nihon University
MA of Engineering in Tokai University
●1753, Shimonumabe, Nakahara-Ku, Kawasaki,
Kanagawa 211-8668, Japan
ー・チェスブロウ(Henry Chesbrough)により提唱さ れた「オープン・イノベーション」[2][3]の概念を基本 とした新たな研究開発のあり方として,企業内部と外部 のアイデアを有機的に結合させ,価値を創造する時代が 到達したと言える。 顧客ニーズの多様化や産業技術の高度化,複雑化に伴 い,企業は自社技術のみで製品開発を完結させることが 難しくなっている。企業側はいかに効率的に新技術や新 製品を研究開発し,素早く市場に投入できるのか,ある いは自社開発と外部の大学や研究機関との連携をどのよ うに進めるのかなど,限られた資源で効率的に研究開発 をどう行うかは,一層重要な経営課題となっている。 本論文では最初に研究開発のオープン・イノベーショ ンの背景と現状を外観し,先端技術産業である半導体企 業を事例として取り上げ,製品・技術ライフサイクルが 短縮化する傾向にある中,CTI[4]活用という視点から オープン・イノベーションにより新たな創出される価値 を確保するための外部技術の有効活用に関わる課題を明 確に捕まえるために,CTIを活用する役割と目的につい て述べる。
2 オープン・イノベーションとCTI
2.1 オープン・イノベーションの背景 近年の急速な技術革新,市場ニーズの多様化などによ り,製品が市場に投入されてから,成長,成熟,衰退ま での製品ライフサイクルの期間が短くなる傾向がある。 図1の07年経済産業省の調査結果[5]によると,現在の ライフサイクル期間を5年前と比較し,どの程度短期化 しているかを業種別にみると,特に家電産業における短 めることが,企業の競争力を左右するようになってきて いる。また新製品開発コストが急激的に上昇し,個々の 企業がそのコストを背負うことが難しくなっている。一 般的に,基礎研究から事業化までには長い年月が必要と される。その結果,現収益性重視の選択と集中の経営方 針を追求する一企業だけでは自前の資源だけでは,研究 開発と事業化の取り込みは限界に来ている。自社の研究 資源を他社との間で差別化されるコア技術に集中させ, 周辺技術を外部技術で補完する従来の方法は,さらに異 分野の先端技術も外部から導入して,社内の技術に与え られていた同様な役割を果たす方向へ進化している。 先端技術に関する研究開発は成功するための不確実性 が高い共に,高いリスクを伴うこともある。このような イノベーション活動を取り巻く環境の変化を背景とし て,外部の優れた技術を積極的に導入して自社の研究開 発を効率的に推進することが求められる。また,自社内 に眠っている技術を外部企業にライセンスして利益を得 るオープン・イノベーションが広がりつつあると考え る。 2.2 日本企業の研究開発における外部技術導入の 現状と課題 日本では,1945年からの高度成長期には,基礎技術を 海外から外部調達し,自前で実用化開発することで経済 成長を遂げてきて,最少の投入で最大の経済収益を得る ことを実現した。総務省が毎年実施している科学技術研 究調査[6]により,平成19年の科学技術研究費は18兆 9438億円で,前年度に比べ2.6%増となり,8年連続の 増加となっている。 図1 ライフサイクルの短縮率 出所:経済産業省・厚生労働省・文部科学省「ものづくり白書2007年版」INTELLIGENCE MANAGEMENT Vol.1, No.1 / 2009 一方,多額の研究開発費を使って市場に出したヒット 商品のライフサイクルは極めて短くなっている。例えば パーソナルコンピューターの場合は,春モデル,夏モデ ルそして秋冬モデルと年3回の新製品発表を行い,携帯 電話についても1年で3回のモデルチェンジをしてい る。その結果,顧客のニーズに迅速かつ的確に対応する ためには,自社で保有していない技術に対して,外部に 広く求めるオープン・イノベーション型の技術戦略に転 換する結果になってきていることを言える。 企業が社外に存在する有用なアイデアや技術を内部に 取り込むことにより,外部経営資源などを利用した研究 開発活動という概念自体は新しいものではない。これま でも,開発の種となる技術を自分のグループ会社やサプ ライヤー,大学に求めることは一般的に行われていた。 フォン・ヒッペル(von Hippel)[7]は社外の知的源泉 としては,(a)サプライヤーと顧客,(b)大学,政府,私 設研究所,(c)ライバル企業,(d)外国の4種類を挙げて いる。安部[8]は研究開発における社外資源活用を,試 験検査委託,研究委託,研究成果の購入,ベンチャー企 業などの買収・出資及び共同研究に分けている。 技術の高度化,複雑化,多様化に伴い,研究開発のリ スクやコストが膨大なものとなっているため,複数事業 者による相互補完,コスト,リスクの軽減等を目的とし た共同研究開発が多く見られるようになっている。外部 技術を活用するための経営管理上の課題は,いかに役に 立つ社外技術を見つけ,技術の妥当性を評価した上で, 社内の知識に取り込むことである。組織内部で活用され ていない技術の流出もあるが,明確な市場価値が認識さ れない場合には,技術流出のリスクも生じる。このビジ ネスチャンスの獲得と自社技術の流出リスクとはトレー ドオフ問題として,そのバランスをどう取るかが課題で ある。90年代初めには,企業戦略とイノベーションにお けるコア・コンピタンス理論は,一般的高く評価されて いたが,技術を獲得するための戦略提携,パートナー選 びなどについても大きな課題として残されていた。 2.3 オープン・イノベーションにおけるCTI このような環境の中で,効率的かつスピーディーなイ ノベーションを促進する観点からオープン・イノベーシ ョンに向けた取組が注目されている。必要な技術を開発 して事業を推進していく上で,内部リソースを利用する ばかりでなく,外部資源をより積極的に活用して,新た な技術,新たな市場を開拓していこうとする考え方であ る。図2に示すオープン・イノベーションによる研究開 発マネジメントは,社内のアイデアに頼るだけでなく, 社外のアイデアも上手く活用し,企業の境界線を越える ことで,研究開発や事業化を進めることで,新たなマー ケットを創出するということである。 オープン・イノベーションは利益を得るためには,外 部の研究開発によって大きな価値創造ができるなら,必 ずしも基礎から研究を行なう必要はないという考え方で ある。社内と社外のアイデアを最も有効に活用できた者 が勝つ,優れたビジネスモデルの構築が最も重要である。 ビジネス及び競争に関する技術情報の収集,分析するに はCTIとその上位概念であるコンペティティブ・インテ リジェンス(CI: Competitive Intelligence)の理論と分 析手法が知られている。 CTIとは,競合する企業の情報,特に技術に関る収 集・分析・評価する一連の分析プロセスと理論を体系化 したものである。広範なビジネスに係る情報を基にした アクショナブル・インフォメーション,意識決定を支援 する優れた情報,つまりインテリジェンスとして捉える 図2 オープン・イノベーションによる研究開発マネジメント 出所:ヘンリー・チェスブロウ著「OPEN INNOVATION」日本語版p.9より引用
発ある他社と自社の技術力を比較し,自らが構築しなけ ればならない研究開発戦略を決定することである。 経済のグローバル化,変化のスピード化で誘発される オープン・イノベーション時代の新たな競争では,思い もかけない場所あるいは時間に競争相手が出現してく る。こうした競争環境にあっては,競合または潜在的な 競合の技術プロファイルの作成,特許分析、技術予測な どCTI活動は戦略的な研究開発計画の立案に重要な役割 を担っている。
3 半導体先端技術産業の事例
先端技術と言われている半導体産業は,技術革新のス ピードが速く,投資規模が巨大,そして需要の変動幅が 大きいという三つの特徴がある。半導体の技術革新の速 さは,いわゆるムーアの法則[9]によってよく知られて いる。この法則は,インテル社の設立者であるゴード ン・ムーア(Gordon E. Moore)が提唱した経験則で, 「半導体チップの集積度は,およそ18カ月で2倍になる」 というものである。 半導体の加工寸法は,微細化技術によりナノテクのレ ベルに達しており,高度な設計技術が求められる。1970 年に10μmだった半導体の加工寸法は,最新のLSIで 45nm(nm:ナノメートル,ナノは10億分の1を意味す る)付近にまで小さくなった。この微細加工による面積 削減と,回路上の工夫によって,チップ面積当たりの集 積度が18カ月で2倍になる「ムーアの法則」を実現して きた。 半導体技術は微細化の進展に伴い,様々な物理限界に 直面している。これらの技術課題はデバイスそのものだ は難しく,材料・部材メーカーや製造装置メーカーとの 連携が欠かせない。また,製造面でも微細化の進展によ り投資負担は莫大なものとなっている。例えば,一般的 に,直径300mmウエハーの論理LSI工場の平均的な建設 費用は約40億米ドルの投資が必要とされる。図3にはプ ロセス技術の微細化に伴う半導体メーカーの300mmウエ ハーの論理LSI工場の平均的な建設費用と論理LSI向け プロセス技術の平均的な研究開発費用を表している[10]。 図3で示したように,研究,開発の両面で製造大企業 でも,一企業でそれらを負担することは難しくなり,垂 直統合のIDM(Integrated Device Manufacturer)型半 導体メーカーとして存続することは困難である。多くの 企業が他社との積極的な企業提携,研究コンソーシアム やプラットフォーム[11]など業界団体等を結成するケー スが増加している。パートナーシップの確立を進め,同 業者等との間で将来の技術課題への認識を共有し,技術 ロードマップを共同で策定している。新技術や新サービ スの共同研究,開発,共同マーケティング拡販等も行っ ている。そのパートナーシップも,これまで以上に多く の企業が深い関係を構築するようになり,企業間提携は 一層の広がりと深さを見せるようになっている。また図 4で示したファブレス企業と呼ばれている設計専業企業 やファンダリーと呼ばれている製造受託専業企業も出現 した。半導体など最先端の科学技術が活用される産業領 域においても,オープン・イノベーションの必要性が顕 著に高まってきている。 欧州における成功事例として,次世代半導体プロセス の研究機関として知られるIMEC(ベルギー)が挙げ られる。IMECは情報通信技術分野の産業ニーズを3∼ 図3 半導体工場建設費用とプロセス技術開発費用 出所:日経エレクトロニクス創刊1000号記念 特別編集版INTELLIGENCE MANAGEMENT Vol.1, No.1 / 2009 10年先行する科学的研究を行うため,84年に地元大学を 拠点とする特定非営利活動法人としての研究機関を設立 した。主力の最先端の半導体技術分野では,大企業との 共同研究で蓄積された知的財産をベースに魅力的な研究 開発プログラムを策定することにより,世界有数の企業 を引きつけることに成功している。IMECでは最先端の 半導体評価機器が導入され,材料・装置のテストを容易 に行うことができるため,共同研究には米国インテルや 韓国サムスン電子など世界の大手半導体メーカーだけで なく,半導体材料メーカーや半導体製造装置メーカーの 参加も多い。 日本においては,表1で示したように,最先端の半導 体分野では,09年度の半導体メーカー主要8社の設備投 資総額が前年度に比べて半減し,約3000億円になる見通 しである。市況悪化に伴う業績不振により,半導体各社 の増産投資に対する見方は極めて慎重である。 NECエレクトロニクスは,従来の東芝との45nm世代 のCMOSプロセス技術共同開発(2005年11月発表)に加 えて,2008年9月からIBMのバルク半導体プロセス開発 アライアンスに参加している。32nm世代の基幹CMOS プロセス共同開発プロジェクトと民生機器向け28nm低 消費電力プロセス技術の共同開発を行うことに合意して いる[12]。IBMのテクノロジー・アライアンスには,チ ャータード・セミコンダクター,Global Foundries,イ ンフィニオンテクノロジーズ,NECエレクトロニクス, サムスン電子,STマイクロエレクトロニクス,東芝が 参加している。またNECエレクトロニクスとルネサス テクノロジは2010年春に経営統合も協議している。その 図4 半導体企業のビジネス形態 出所:日刊工業新聞 2009年5/20(1面),5/21(36面) 表1 主要半導体各社の09年度設備投資計画
略方針を取っている。個々企業の投資負担を軽減しなが ら,関連技術を有する競合企業との連携を強化している。 競合各社が基幹プロセスだけで製品の差異化を図ること ではなく,共通的なプロセス・プラットフォームを開発 することになった。
4 オープン・イノベーション時代のCTIの役割
CTI活動の3つの基本は情報収集,分析,そしてアク ションである。オープン・イノベーションにおける競合 および潜在的な競合の情報収集と分析に関しては,本論 文では重要な研究領域であると捉えている。 4.1 技術情報の収集と分析 グローバリゼーションの進展により,各企業はコアと なる企業活動にいっそう力を集中するようになってい る。市場機会を最大限に捉え,強みを最大限に発揮させ る戦略は,製品開発・生産・販売・サービスに至るまで のバリューチェーン構造を企業内,そして企業間まで広 げて,バリューネットワーク型に進化している[13]。オ ープン・イノベーションが企業の枠を越えたコラボレー ションを構築し,顧客に向けて新たな価値を創出するこ とである。 競合の現在の能力と将来の戦略を知るためには,第一 にマーケティング要素として良く言われる3C,つまり Customer(顧客),Company(自社),Competitor(競 合)を知ることが重要である。競合情報の分析手法につ いては,フレイシカー(Fieisher)とベンソウソン (Bensoussan)[14]はビジネス分析方法とテクニックを集 約している。具体的なプロセスとしては,業界分析, SWOT分析,ポートフォリオ,価値連鎖など戦略分析, げている。 オープン・イノベーションによる参加する企業では, 企業間で情報をオープンにして,情報の共有のみならず, 相互依存,協調関係を深くすることである。このような 価値連鎖の構造変化において,企業により競争優位をも たらす,CTI活動が求められている[15]。ここでは,特 にオープン・イノベーションにおいて,企業が情報収集 の特徴について考察する。 一般的なCTI活動による情報収集と比べ,オープン・ イノベーションにおける情報収集は以下の特徴がある。 情報収集の目的,内容の重点及び情報源は異なっている。 競争優位性を確立するために,競争相手を攻撃するため の情報収集が目的ではない。あくまでも相手の協力を得 るための情報収集である。また競争相手の弱点を攻略す るため,相手の強み,弱みに関する情報収集ではなくて, 相手の協力を求めるための技術優位性とコンピテンシー に関する情報を重視している。情報ソースも一般的な第 三者の間接的なルートを通じて獲得するではなくて,企 業間の協業を前提にする場合に必要な情報の出所は主に 協力相手になる。 4.2 戦略的外部技術の導入 オープン・イノベーションにおいて,企業間,業界間で 技術提携,競争優位獲得を実現するビジネスモデルであ る。コーエン(Cohen)とレヴィンソール(Levinthal)[16] は,最も革新的な企業は,新しい外部情報の妥当性を最 もよく認識し,取り入れ,同化させ,そして情報に適用 する企業であると述べている。しかし,多くの企業は, さらに多くの問題にあたり処理しなければならない。問 題の複雑さについて,アバナシー(Abernathy)とアタ 図5 技術インパクトの評価INTELLIGENCE MANAGEMENT Vol.1, No.1 / 2009 バック(Utterback)[17]は,技術環境の複雑度が増して いるからであると指摘している。 外部技術導入の際に一つ重要な課題とは,技術的なイ ンパクト評価である。どのような場合に外部技術を活用 するかは,外部技術がビジネスに与えるインパクトと外 部技術導入によるリスクは重要な要因である。 ビジネスに与えるインパクトが大きければ大きい程売 上または収益が増える。ビジネスに大きいインパクトを 与える可能性がある技術こそが企業として競争力のある 技術であり,逆に内部で開発することが最適だとも言え る。その技術を外部から導入するか、買収するかの技術 戦略は重要である。技術がビジネスに与えるインパクト とそれぞれの技術に対する技術ライフサイクル,企業の 競争上のポジションの変化など総合的判断が必要であ る。具体的なCTI活動としては,まず目的遂行のために 重要な技術要素を明確,そしてその重要性についてのレ ベルを明確化して,競争上の優位性を確立のため,選択 する外部技術はその製品,市場,ビジネスに与える技術 インパクトと,その外部技術を導入によって,どのよう なリスクがあるかの判断になる。ビジネスに与えるイン パクトを決定することで,技術戦略を構築することを期 待するものである。図5に示すように外部技術を導入す るため,市場規模,競争優位性,技術成熟度に関する情 報収集,分析のコンセプトである。
5 まとめ
技術革新が急速に進展し,企業が競争優位を積極的に 追求する上で,研究開発を中心とするオープン・イノベ ーションは有効であると考える。オープン・イノベーシ ョンを実現することにより,企業にとっては複雑化する 環境への対応,スピードアップによる革新的製品開発, 技術革新と新製品の商品化,顧客に対する新たな価値提 供能力をされることが期待できる。 CTI活動による新製品,新プロセス,あるいは協業の 側面からの技術評価の分析情報を提供することで,競争 が激しい環境における技術動向を計画的な開発の準備と して利用可能である。特に潜在的なビジネス脅威や機会 を暗示するような外部の技術開発や企業動向を早期警告 としての提示を行うことができる。 本論文ではオープン・イノベーションの背景および日 本企業がオープン・イノベーションを展開する現状を概 観し,オープン・イノベーションにおけるCTIの意義と 重要性を述べた。また先端技術半導体業界の取り込み実 例などを分析し,協働関係と潜在的競争関係が併存する 環境でのCTI情報収集の特徴を考察,企業がオープン・ イノベーションにおける戦略的外部技術を活用できるよ うに提言を行った。 本論文ではオープン・イノベーションにおけるCTIの 分析手法をいくつか挙げたが,有効な分析ツールとして の指摘にとどまっている。残された研究課題としては, オープン・イノベーションに適した技術,事業分野の選 定と市場規模,競争優位性およびビジネスモデルとの関 係の考察;技術ライフサイクルのS曲線における各ステ ージにCTI活動の特徴と有効性の分析,特に不連続技術 の場合,外部技術の導入と自社技術所有のトレードオフ の検討などが課題として残されている。 企業の持続的な競争優位の源泉を,他社には模倣でき ないようなユニークな経営資源,それをコア・コンピタ ンスやダイナミックケイパビリティという形で概念化さ れている。オープン・イノベーションにおいて,自社の 技 術 情 報 を ど う 守 る か , 技 術 情 報 防 衛 ( D e f e n s i v e Intelligence)の考え方と実行する上で必要な具体的な 方策も今後の研究課題になる。 参考文献:[1]Richard S. Rosenbloom, W. J. Spencer, Engines of Innovation: U.S. Industrial Research at the End of an Era, Boston, Mass. Harvard Business School Press, (1996) 西村吉雄訳,「中央研究所の時代の終焉」,日経 BP社(1998)
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