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261 サッカーにおけるペナルティエリア侵入に関する分析 鈴木 健介  浅井 武  平嶋 裕輔  中山 雅雄

サッカーにおけるペナルティエリアへの

侵入に関する攻撃プレーの分析

筑波大学体育系 〒 305-8574 茨城県つくば市天王台 1-1-1 連絡先 鈴木健介

University of Tsukuba, Faculty of Health and Sport Science 1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki 305-8574

Corresponding author szkknsk@hotmail.co.jp

Abstract: In soccer, as the number of goals determines victory or defeat, the top priority of soccer attacks is to score goals. In

many competitions, more than 70% of goals are scored by shooting from within the penalty area (PA). Thus, entering the PA is an important factor in scoring goals to win games and advance in a tournament. However, as no previous research has analyzed in detail attacking play involving entry into the PA, players are unable to receive effective coaching. Focusing on the group stage of the 2014 FIFA World Cup, the present study compared attacking play into the PA between top-ranked teams that advanced (top teams) and lower-ranked teams that were defeated and did not advance (lower teams) in order to identify the characteristics and differences of the two groups. Samples were obtained from all 48 games played in the tournament at this stage. For statistical analysis, the unpaired t test and c2 test were used. No significant inter-group differences were found in the number of attacks or

entering the PA and the number of shots, but the top teams had higher success rates in shooting and attacking, suggesting that they had excellent finishers or created better shooting situations. With regard to movements for receiving passes by players who entered the PA, the top teams showed a higher frequency of moving from the outside to the inside of the PA and receiving passes there, suggesting that their players received the ball as they moved toward the PA. Moreover, compared to the players of lower teams, they received passes inside the PA when no opposition defenders were in the attacking direction. These findings suggest that players of top teams evaded marking by opponents by receiving the ball while moving toward the PA. Furthermore, since top teams had higher scoring rates when their players dribbled into the PA, they likely had players more highly skilled in dribbling, thus resulting in goals.

Key words : notational game performance analysis, match analysis, goal scoring

キーワード:記述的ゲームパフォーマンス分析,試合分析,得点

SUZUKI Kensuke, ASAI Takeshi, HIRASHIMA Yusuke and NAKAYAMA Masao: Analysis of attacking play on entering the penalty area in soccer. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci.

Ⅰ 緒 言 サッカーは得点が勝敗を規定するスポーツであ る.そのため,攻撃の最優先事項は得点を奪うこ とである(日本サッカー協会(以下「JFA」と略す), 2012).サッカーの得点に関する研究の多くは記 述的ゲームパフォーマンス分析(中川,2011)に よって行われており,得点をあげたエリアに焦点 を当てると,ペナルティエリア(以下「PA」と 略す)内からのシュートが 70%以上を占めてい る(Michailidis et al., 2013; Njororai, 2013).加えて, シュート成功率においても PA 内からのシュート は PA 外からのシュートよりも成功率が高いこと も報告されている(Dufour, 1993).これらのこと から,得点をあげるためには PA 内に侵入してシ ュートを打つことが重要であると考えられる. PA 内でのシュートが攻撃において重要である ことは指導現場レベルでも報告されている(ヒュ ーズ,1996;Rees and Meer, 1997).河治(2013) は,試合内容の優劣とシュート本数が必ずしも一 致しないことから,攻撃の有効性を評価する指標 として,PA 内への侵入回数を提案している.先 行研究においても,得点機会としてシュート・相 手守備陣背後のスペースへの侵入・PA 内への侵 入があげられている(鈴木ほか,2018).これら 実践研究 体育学研究 66:261-275,2021

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のことから,PA 内への侵入自体も攻撃において 重要であると考えられる.さらに,Ruiz-Ruiz et al.(2013)は,試合に勝利したチームは敗北した チームよりも PA 内への侵入回数が有意に多いこ とを報告しており,PA 内への侵入回数と試合結 果との関連性を示唆している. 同様に,PA 内への侵入方法に関する先行研究 もみられ,Mulyk et al.(2015)は,PA 内への侵 入方法の種類をドリブルとパスに分けて 1 試合に おける侵入回数をそれぞれ測定し,80%以上がパ スでの侵入であることを明らかにしている.パス の中でもクロスに着目すると,クロスからの得点 の多くは PA 内からのシュートによって生まれて いることも報告されている(Yamada and Hayashi, 2014).育成年代においても PA 内への侵入に関 する研究は行われており,Nakayama et al.(2016) は,スペインと日本の 12 歳以下のチームを対象 にPA内への侵入辺(PAを構成している辺を左辺・ 右辺・中央辺に分類し,どの辺から侵入したか), PA 内侵入後のプレーについて比較を行い,日本 のチームは PA の中央辺からの侵入が多く,侵入 後はシュートを多く選択していたが枠外のシュー トが多かったことを明らかにしている.以上の事 から,PA 内への侵入は攻撃の指標として重要で ある可能性が考えられる.しかし,PA 内への侵 入方法に関する研究はドリブル・パスなどの技術 を分類したものと,侵入辺に着目したものであ り,現場に示唆を与えるためにはより詳細な検討 が必要であると考えられる. 2014FIFA ワールドカップの日本代表チームは, 平均ボール支配率が 55.7%と出場 32 チーム中 3 位であったが,全攻撃回数に占める PA 内でのシ ュート比率は 10.6% と出場チーム中 29 位と低か った(庄司,2014).このことから,日本代表チ ームは PA 内侵入回数もしくは PA 内侵入時のシ ュート数が少なかった可能性が考えられる.さ らに,JFA(2015)は,2014FIFA ワールドカップ において 1 試合における平均 PA 内侵入回数が 32 チーム中 21 位であったことや「パスはまわるが ゴールに向かうプレーが少なくチャンスの数が少 ない」ことを報告している.つまり,日本代表チ ームは,ボールを保持することはできるが PA 内 に侵入することや,PA 内に侵入した後にシュー トを打つことができていないといった課題がある と考えられる.得点機会の 1 つである PA 内への 侵入方法や,PA 内に侵入した後のプレーについ て,FIFA ワールドカップでグループステージを 突破したチームとグループステージで敗退した チームとを比較し,その特徴や差異を明らかに することは,有効な PA 内侵入方法および侵入後 のプレーを明らかにすることに繋がり,上述し た日本代表チームの課題解決の一助となると考 えられる.また,2018FIFA ワールドカップは総 得点 169,セットプレーからの得点が 57 点(34 %),PA 内からのシュート 6.7 本に 1 点,PA 外 からのシュート 28.5 本に 1 点が入っていた.こ れに対して,2014FIFA ワールドカップは総得点 171,セットプレーからの得点が 42 点(25%), PA 内からのシュート 6.1 本に 1 点,PA 外からの シュート 41.5 本に 1 点が入っていた(Fédération Internationale de Football Association, online).これ らのことから 2018FIFA ワールドカップはセット プレーからの得点,PA 外からのシュートによる 得点に特徴がある大会であり,2014FIFA ワール ドカップは PA 内からのシュートによる得点に特 徴がある大会であったと考えられる.そのため, PA 内への侵入方法や,侵入後のプレーについて 検討するには 2014FIFA ワールドカップが標本と して適当であると考えられる. 以上のことから本研究の目的は,PA 内へ侵入 した攻撃のオープンプレーについて,2014FIFA ワールドカップでグループステージを突破したチ ームとグループステージで敗退したチームとを比 較し,その特徴や差異を明らかにすることとした. Ⅱ 方 法 1. 標本 標本は,2014FIFA ワールドカップのグループ ステージ全 48 試合とした(表 1).試合映像で確 認することができた,PA 内へ侵入した攻撃のオ ープンプレー,計 913 回を分析対象とした.ただ

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263 サッカーにおけるペナルティエリア侵入に関する分析 表 1 対象試合 2014 FIFA ワールドカップ 試合結果 攻撃回数 得点数 シュート数 PA 内侵入回数 ブラジル vs クロアチア 3-1 192 4 24 19 メキシコ vs カメルーン 1-0 216 1 19 21 スペイン vs オランダ 1-5 189 6 22 19 チリ vs オーストラリア 3-1 224 4 24 31 ギリシャ vs コロンビア 0-3 161 3 24 26 日本 vs コートジボワール 2-1 204 3 27 25 コスタリカ vs ウルグアイ 3-1 189 4 21 10 イタリア vs イングランド 2-1 175 3 30 19 エクアドル vs スイス 1-2 223 3 28 14 ホンジャラス vs フランス 0-3 188 3 24 24 アルゼンチン vs ボスニアヘルツェゴビナ 2-1 212 3 27 20 イラン vs ナイジェリア 0-0 229 0 17 11 ドイツ vs ポルトガル 4-0 188 4 27 21 アメリカ vs ガーナ 2-1 221 3 29 20 ベルギー vs アルジェリア 2-1 196 3 19 10 韓国 vs ロシア 1-1 165 2 26 15 ブラジル vs メキシコ 0-0 183 0 27 15 カメルーン vs クロアチア 0-4 170 4 39 28 スペイン vs チリ 0-2 228 2 22 17 オーストラリア vs オランダ 2-3 214 5 25 22 コロンビア vs コートジボワール 2-1 192 3 26 17 日本 vs ギリシャ 0-0 178 0 25 15 ウルグアイ vs イングランド 2-1 205 3 23 18 コスタリカ vs イタリア 1-0 200 1 20 12 スイス vs フランス 2-5 169 7 39 21 エクアドル vs ホンジャラス 2-1 212 3 24 8 イラン vs アルゼンチン 0-1 212 1 27 17 ナイジェリア vs ボスニアヘルツェゴビナ 1-0 194 1 38 23 ドイツ vs ガーナ 2-2 200 4 31 29 アメリカ vs ポルトガル 2-2 192 4 35 20 ロシア vs ベルギー 0-1 201 1 24 24 アルジェリア vs 韓国 4-2 188 6 24 19 ブラジル vs カメルーン 4-1 206 5 31 22 クロアチア vs メキシコ 1-3 203 4 22 18 オーストラリア vs スペイン 0-3 210 3 15 25 オランダ vs チリ 2-0 205 2 20 13 日本 vs コロンビア 1-4 183 5 36 26 ギリシャ vs コートジボワール 2-1 186 3 26 10 イタリア vs ウルグアイ 0-1 210 1 23 10 イングランド vs コスタリカ 0-0 248 0 12 10 スイス vs ホンジャラス 3-0 205 3 29 19 エクアドル vs フランス 0-0 207 0 31 23 アルゼンチン vs ナイジェリア 3-2 165 5 30 24 イラン vs ボスニアヘルツェゴビナ 1-3 205 4 20 18 アメリカ vs ドイツ 0-1 172 1 17 22 ポルトガル vs ガーナ 2-1 256 3 37 30 韓国 vs ベルギー 0-1 213 1 34 20 アルジェリア vs ロシア 1-1 246 2 18 13

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264 鈴木ほか し,セットプレーは「試合の中のもう一つの試合. そこではゲームのルールも,選手のポジションや 役割も,そしてシステムや配置もまったく別のも のに変わる.」(ビオ・片野,2017)といった側面 があることから,別途検証が必要であると考え, 本研究ではセットプレーで直接 PA 内へ侵入した 攻撃は除いた.グループステージにおいて 1 位と 2 位のチームを上位チーム(以下「上位」と略す), 3 位と 4 位のチームを下位チーム(以下「下位」 と略す)とした. 2. 測定方法 テレビ放送された試合を録画し,その映像を対 象とする攻撃ごとに再生プレーヤーの機能を用い て再生,一時停止させることで各項目を測定した. 鈴木・西嶋(2002)を参考に,映像からのゲーム パフォーマンス測定の誤差を最小限にするために, 広くゲーム分析に利用されてきた手法である記述 分析(Hughes, 2003)で使用されている競技場縮図 を適用し,その競技場縮図に必要な情報を布置し 位置情報を得ることで距離を算出した.エリアの 区分け,測定項目については以下説明する. 2.1 エリアの区分け 本 研 究 で は サ ッ カ ー の コ ー ト を,Mahony et al.(2012),Nakayama et al.(2015),鈴木ほか(2018) を参考に実際のピッチ上に描かれているラインを 基準に 5 エリアに区分けした(図 1).サッカーの ピッチサイズは国際基準として 68m × 105m と規 定されており,本研究が対象とした試合はこの基 準に従ったピッチサイズで行われた.従って,各 試合でのエリアの区分にサイズの違いはなく,試 合会場の違いによる測定の誤差が出ない区分であ ると考えられる. 3. 測定項目 測定項目の設定にはまず,先行研究(平嶋ほか, 2014;Nakayama et al., 2015;鈴木ほか,2018)を 参考に,攻撃パフォーマンスに関わる要因を抽出 した.次に,現場でのサッカー指導経験を有し, 研究活動に従事している 3 名の専門家によって測 定項目の追加と詳細検討を行った.さらに,別の 2 名の専門家による最終的な確認を行い,測定項 目の妥当性を高め設定した.測定項目は,攻撃の 概略に加えて,PA 内への侵入方法,PA 内侵入時 の状況,PA 内侵入後のプレーの 3 点に関する検 討を目的として決定した.また,現場に対して有 効な知見を得るために,サッカーのパフォーマン スにおいて重要とされている「いつ」,「どこで」, 「どのように」(高井,2018)プレーが行われたか を明らかにできることを基準とした.以下に各測 定項目について解説する. 3.1 攻撃の概略 攻撃の概略を測るために,全ての攻撃を対象と して,攻撃回数・得点・PA 内侵入率・シュート率・ シュート成功率・攻撃成功率を測定した. 1)攻撃回数:攻撃開始から攻撃終了までのボ ール保持を攻撃とし,その回数を測定した.鈴木 ほか(2018)に倣い,攻撃開始はセットプレーに よってアウトオブプレーがインプレーになった瞬 間及び,インプレー中にボール保持側が切り替わ った際 1 人目の選手がボールに 2 タッチ以上した 瞬間もしくは 1 人目の選手と 2 人目の選手の総タ ッチ数が 2 タッチ以上となった瞬間とし,攻撃終 了はインプレーがアウトオブプレー(得点を含む) になった瞬間及び,守備側の 1 人目の選手の総タ 図1 エリアの区分け A1 A2 A3 A4 A4 PA 攻 撃 方 向 図 1 エリアの区分け

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265 サッカーにおけるペナルティエリア侵入に関する分析 ッチ数もしくは 1 人目の選手と 2 人目の選手の総 タッチ数が 2 タッチ以上となった瞬間とした. 2)PA 内侵入率:攻撃側の選手が PA 内でボー ルに触れた攻撃数を攻撃回数で除して 100 を掛け たもの. 3)シュート率:シュート数を攻撃回数で除し て 100 を掛けたもの. 4)シュート成功率:得点数をシュート数で除 して 100 を掛けたもの. 5)攻撃成功率:得点数を攻撃回数で除して 100 を掛けたもの. 3.2 PA 内侵入に関する項目 1)侵入方法:どのような方法で PA 内への侵 入を果たしたのか,その方法を 3 種類に分類し た.(1)「パス」:味方選手からのパスを PA 内で 受けた場合,(2)「ドリブル」:PA の外でボール を受け,パスプレーを用いずに PA 内に侵入した 場合,(3)「その他」:(1),(2)以外の方法(シ ュートのこぼれ球を PA 内で拾う,PA 内の相手 選手からボールを奪う等)で PA 内に侵入した場 合. 2)PA 内侵入に要した時間:攻撃開始から PA 内に侵入までの時間を測定した.攻撃開始は上述 の定義に則り,PA 内侵入は PA 内侵入選手が PA 内でボールに触れた瞬間とした. 3)攻撃種類:PA 内侵入時間を基準として, PA 内侵入時の攻撃種類を 2 種類に分類した.田 村ほか(2015)を参考に,コートを横に 3 等分(自 陣ゴール側からディフェンディングサード,ミド ルサード,アタッキングサード)し(図 2),攻 撃開始位置がディフェンディングサードかつ攻撃 開始から 13.9 秒以下の秒数で PA 内に侵入した攻 撃,攻撃開始位置がミドルサードかつ攻撃開始か ら 8.9 秒以下の秒数で PA 内に侵入した攻撃およ び,攻撃開始位置がアタッキングサードかつ 3.9 秒以下の秒数で PA 内に侵入した攻撃を(1)「速 攻」,それ以外の攻撃を(2)「ポゼッション攻撃」 とした. 4)PA 内侵入時のシュートの有無:PA 内に侵 入してシュートを打った場合を(1)「有」, それ 以外を(2)「無」とした. 5)PA 内侵入時シュート率:PA 内侵入時のシ ュート数を PA 内侵入回数で除して 100 を掛けた もの. 6)PA 内侵入時の得点の有無:PA 内に侵入し て得点をあげた場合を(1)「有」,得点が無かっ た場合を(2)「無」とした. 7)PA 内侵入時得点率:PA 内侵入時の得点数 を PA 内侵入時のシュート数で除して 100 を掛け たもの. 8)パス種類:パス侵入の場合,パスの種類を 3 種類に分類した.(1)「スルーパス」:ボールを, GK を除く相手守備者 2 人の間を通して背後のス ペースを狙うパス(2)「クロス」:A4 からのパス を,ボールに近いゴールエリアの縦のラインを PA のラインと接するまで延長したラインおよび ゴールラインにより形成された,パスの出し手側 ではない長方形の中でボールを触った場合(図 3) (3)「その他のパス」:(1),(2)に該当しないパ ス(GK を除く相手守備者 2 人の間を通さないパ スや,A4 以外からのエリアから PA 内の味方に 渡ったパス等). 9)パス出し手エリア:PA 内侵入方法が「パス」 であった時,PA 内侵入選手に対してパスを出した 選手をパスの出し手として,その選手が区分した エリアのどこからパスを出していたかを記録した. 10)PA 内侵入選手のパスを受ける動きの種類: 鈴木・西嶋(2002)は攻撃技能の因果構造を検証 するための測定項目において,前方への移動を評 価する尺度を「5 m 未満から 20 m 以上までの 5 m 単位の間隔尺度により構成」しており,5 m を基 準として選手の移動の評価を行っている.そこで 本研究においても 5m を基準として PA 内へ侵入 した選手のパスを受ける動きを 2 種類に分類し た.(1)「足元」:パスの出し手がパスを出した瞬 間に PA 内侵入選手がいた位置からボールを受け た位置までの直線距離が 5 m 未満の場合.(2)「ス ペース」:パスの出し手がパスを出した瞬間に PA 内侵入選手がいた位置からボールを受けた位置ま での直線距離が 5 m 以上の場合. 11)PA 内侵入選手がパスを受ける前の位置:

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PA 内侵入方法が「パス」であった時,パスの出 し手がパスを出す瞬間の PA 内侵入選手の位置を 2 種類に分類した.(1)「PA 外」:PA の外にいた 場合,(2)「PA 内」:PA の中にいた場合. 12)PA 内侵入辺:PA 内に侵入した際にボール が通過した辺を PA 内侵入辺とし,攻撃チームか ら見て左側を「左辺」,中央を「中央辺」,右側を「右 辺」,PA 内で相手チームからボールを奪った場合 は「PA 内」とした. 13)PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守 備選手の人数差:PA 内侵入方法が「パス」であ った時,パスの出し手がパスを出した瞬間に PA 内にいる攻撃選手と守備選手の人数を測定した. その際,攻撃選手の人数から守備選手の人数を引 いた数が正の数である場合を「攻撃多数」,零で ある場合を「同数」,負の数である場合を「守備 多数」とした. 14)PA 内侵入時の PA 内にいる攻撃選手と守 備選手の人数差:PA 内侵入方法が「パス」であ った時,PA 内侵入選手が PA 内でボールを最初 に触れた瞬間に PA 内にいる攻撃選手と守備選手 の人数を測定した.分類は 13)と同様に行った. 15)PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守 備選手の人数差別における PA 内侵入選手がパス を受ける前の位置:PA 内侵入前に PA 内にいる 攻撃選手と守備選手の人数差別(「攻撃多数」・「同 数」・「守備多数」)で PA 内侵入選手がパスを受 ける前の位置(「PA 内」・「PA 外」)の測定を行っ た.分類は 11),13)と同様に行った. 16)PA 内侵入前の PA 内にいる守備選手の人数: 鈴木ほか(2018)は,「現代サッカーのフォーメ ーションにおいて DF を 3 人以上配置するチーム が殆どである」ことから「最後方の守備者からゴ ールラインと平行に線を引き,そこから 6 m 以内 に最後方の守備者を含めて 3 人以上選手がいる」 状況を「守備組織が形成されている」としている (図 4).このことから,守備組織を形成するため に必要な最低限の人数は 3 人であると考えられ る.そこで本研究では守備選手の人数の多寡の基 準を 3 人とし,PA 内侵入方法が「パス」であっ た時,パスの出し手がパスを出した瞬間に PA 内 図3 図3 パス種類:「クロス」 攻 撃 方 向 図 3 パス種類:「クロス」 図2 攻撃種類分類におけるエリアの区分け ディフェンディングサード ミドルサード アタッキングサード 攻 撃 方 向 図 2 攻撃種類分類におけるエリアの区分け にいる守備選手の人数を「2 人以下」と「3 人以上」 に分類した. 17)前方 DF:「5 m から 10 m 離れた位置で選 手にプレッシャーをかけることは不可能である.」 (ヒューズ,1996)を参考に,本研究では,PA 内 侵入選手がパスを受けた時に 5 m 以内にいる守備 選手の人数を測定した(図 5).ボールから両ゴ ールポストを結んだ線分で形成される三角形の 範囲内,かつ PA 内侵入選手から半径 5 m 以内に いる守備者の人数を「0 人」,「1 人」,「2 人以上」 と区分し記録した.

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4. 統計解析方法 4.1 客観性

平嶋ほか(2014),Landis and Koch(1977), 鈴木・ 西嶋(2002)を参考に,測定項目の客観性の検討 を行うため,2 人の分析者間での分析記録の一致 度を検討した.サッカーのプレー歴および指導経 験があり,サッカーの科学研究に従事しているも のと著者が 3 試合について同じ分析を行い,これ ら 2 人の分析結果を基に,各分析項目においてカ テゴリ変数は κ 係数,連続変数は級内相関係数を 求めた. 4.2 各測定項目の比較 グループステージを突破したチーム(上位)と 敗退したチーム(下位)との比較のため,攻撃回 数・得点・シュート数・シュート率・シュート成 功率・攻撃成功率・PA 内侵入回数・PA 内侵入率・ PA 内侵入に要した時間の 1 試合の平均値におい ては対応の無い t 検定によって有意差の検定を行 った.その他の項目においては χ² 検定によって 有意差の検定を行った.有意差が認められた場合 は下位検定として残差分析を行った.統計的有意 水準はいずれも 5%未満とした. Ⅲ 結 果 1. 分析記録の一致度 分析記録の κ 係数および級内相関係数は,表 2 に示すように全ての項目において 0.90―1.00 であ 図4 左:守備組織が形成されている場合 右:守備組織が形成されていない場合(鈴木ほか,2018,p.789より転載)

図4

図 4 左:守備組織が形成されている場合,右:守備組織が形成されていない場合 (鈴木ほか,2018,p.789 より転載) 22 図4 左:守備組織が形成されている場合 右:守備組織が形成されていない場合(鈴木ほか,2018,p.789 より転載) 前方 DF DF-MF 間侵入選手 5m 図5 前方 DF 図 5 前方 DF 表 2 一致率 測定項目 κ係数 PA 内侵入方法 1.00 パス種類 0.98 パス出し手エリア 0.90 PA 内侵入選手がパスを受ける前の状況 0.96 PA 内侵入辺 0.93 PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備選手の人数差 0.95 PA 内侵入時の PA 内にいる攻撃選手と守備選手の人数差 0.90 PA 内侵入前における守備組織 0.94 前方 DF 0.90 測定項目 級内相関係数 PA 内侵入に要した時間 0.95

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表 3 攻撃の概略

上位 (n=48) 下位 (n=48)

M SD MIN MAX MED M SD MIN MAX MED 有意差

攻撃回数 100.1 8.6 87 125 98 103.0 11.2 84 131 102 得点数 1.9 1.4 0 5 2 1.0 0.9 0 4 1 * シュート数 12.8 4.3 3 22 13 13.0 4.7 4 23 13 シュート率 (%) 12.9 4.6 3.1 23.2 13.3 12.9 5.3 3.9 27.1 12 シュート成功率 (%) 14.7 10.3 0 38.5 15.2 7.7 8.1 0 28.6 6.3 * 攻撃成功率 (%) 1.9 1.4 0 5.3 2 1.0 1.0 0 4.7 1 * PA 内侵入回数 9.7 5.1 2 23 9 9.3 4.4 1 27 9 PA 内侵入率 (%) 9.8 5.2 2.1 24.5 9.1 9.2 4.6 1.1 20.6 8.9 PA 内侵入に要した時間(秒) 17.6 14.4 0 91 12.7 16.7 11.8 0 71.2 13.2 *p<.05 図 6 PA 内侵入に関する項目① り,十分な一致率が得られた. 2. 攻撃の概略 攻撃回数・得点数・シュート数・シュート率・ シュート成功率・攻撃成功率・PA 侵入回数・PA 内侵入率・PA 内侵入に要した時間の 1 試合あた りの平均値を求め,上位と下位の比較をするため 対応の無い t 検定を行った(表 3).得点数・シ ュート成功率・攻撃成功率において上位が下位よ りも有意に高いことが認められた(p<.05).攻撃 回数・シュート数・シュート率・PA 内侵入回数・ PA 内侵入率・PA 内侵入に要した時間においては 有意な差は認められなかった(t=-1.406,df= 94,p =.163;t =-.314,df =94,p =.754;t = -.001,df=94,p=.999;t=.451,df=94,p= .653;t =.659,df =94,p =.511;t =1.104,df =910,p=.270). 3. PA 内侵入に関する項目 PA 内侵入に関する項目の生起率を比較するた めに χ² 検定を行った(図 6・7).パスの種類は,「ク ロス」において下位が上位よりも有意に高いこと が認められた(χ2=9.397,df=2,p<.05).PA 内 侵入時の得点の有無は,「有」において上位が下 位よりも有意に高く,「無」において下位が上位 よりも有意に高いことが認められた(χ2=5.321, df=1,p<.05).PA 内侵入選手がパスを受ける前 の位置は,「PA 外」において上位が下位よりも 有意に高く,「PA 内」において下位が上位よりも 有意に高いことが認められた(χ2=10.670,df= 1,p<.05).PA 内侵入選手がパスを受ける際の動 きは,「足元」において下位が上位よりも有意に 高く,「スペース」において上位が下位よりも有 意に高いことが認められた(χ2=8.392,df=1, p<.05).PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守

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269 サッカーにおけるペナルティエリア侵入に関する分析 備選手の人数差は,「同数」において上位が下位 よりも有意に高く,「守備多数」において下位が 上位よりも高いことが認められた(χ2=11.177, df=2,p<.05).前方 DF は,「0 人」において上 位は下位よりも有意に高く,「1 人」において下 位は上位よりも有意に高いことが認められた(χ2 =8.163,df=2,p<.05).PA 内侵入方法・攻撃 種類・PA 内侵入時のシュートの有無・PA 内侵入 辺・パス出し手エリア・PA 内侵入時の PA 内に いる攻撃選手と守備選手の人数差において,有 意な差は認められなかった(χ2=.361,df=2,p =.835;χ2=.329,df =1,p =.584;χ2=.123, df=1,p =.726;χ2=4.334,df =3,p =.228; χ2=7.211,df=4,p =.125;χ2=1.544,df=2,p =.462) 4. PA 内侵入前の PA 内にいる守備選手の人数 について PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備選 手の人数差が「同数」および「守備多数」におい て有意な差が認められたため,PA 内侵入前の PA 内にいる守備選手の人数について,「同数」時と「守 備多数」時の上位・下位間での比較,および上位・ 下位内での比較を χ² 検定によって行った(図 8). 上位・下位間においては有意な差は認められな かった(χ2=.003,df=1,p =.958;χ2=.660, df=1,p =.417).上位・下位内では,「2 人以下」 の生起率が上位(同数)は上位(守備多数)より も,下位(同数)は下位(守備多数)よりも有意 に高く,「3 人以上」の生起率は,上位(守備多数) は上位(同数)よりも,下位(守備多数)は下位 (同数)よりも有意に高かった(χ2=134.3,df=1, p<.05;χ2=105.125,df=1,p<.05). 5. PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備 選手の人数差別における PA 内侵入選手がパ スを受ける前の位置について PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備選 手の人数差別における PA 内侵入選手がパスを受 ける前の位置の比較を上位と下位とで行った.そ の結果、PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と 守備選手の人数差「同数」において,上位が下 位よりも PA 内侵入選手がパスを受ける前の位置 「PA 外」が有意に高いことが認められた(χ2 7.227,df=1,p<.05)(図 9・10). 6. PA 内侵入時のシュート率・得点率について 6.1 PA 内侵入時シュート率 PA 内侵入方法・パス種類別における PA 内侵 入時シュート率は,有意な差は認められなかった 図7 図7 PA内侵入に関する項目② * * * * * * *p<.05 (%) 0 20 40 60 80 100 速 攻 ポ ゼ ッ シ ョ ン P A 外 P A 内 左 辺 中 央 辺 右 辺 P A 内 攻 撃 多 数 同 数 守 備 多 数 攻 撃 多 数 同 数 守 備 多 数 0 人 1 人 2 人 以 上

攻撃種類 PA内侵入前状況 PA内侵入辺 PA内侵入前人数差 PA内侵入時人数差 前方DF

上位 下位

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270 鈴木ほか 図8 PA内侵入前のPA内にいる攻撃選手と守備選手の人数差別における守備選手の人数の比較 0 20 40 60 80 100 3人以上 2人以下 PA内の守備選手の人数 上位(同数) 上位(守備多数) 下位(同数) 下位(守備多数) * * * * (%) *p<.05 図 8 PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備選手の人数差別 における守備選手の人数の比較 図9 PA内侵入前の攻撃選手と守備選手の人数差別におけるPA内侵入選手がパスを受ける前の位置の比較(PA内) 0 20 40 60 80 100 守備多数 同数 攻撃多数 PA内侵入前人数差 上位 下位 (%) 図9 図 9 PA 内侵入前の攻撃選手と守備選手の人数差別における PA 内侵入選手がパスを受ける前の位置の比較(PA 内) 図10 PA内侵入前の攻撃選手と守備選手の人数差別におけるPA内侵入選手がパスを受ける前の位置の比較(PA外) 0 20 40 60 80 100 守備多数 同数 攻撃多数 PA内侵入前人数差 上位 下位 * *p<.05 (%) 図10 図 10 PA 内侵入前の攻撃選手と守備選手の人数差別における PA 内侵入選手がパスを受ける前の位置の比較(PA 外)

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271 サッカーにおけるペナルティエリア侵入に関する分析 (図 11). 6.2 PA 内侵入時得点率 PA 内侵入方法別における PA 内侵入時の得点率 は,「ドリブル」・「その他」において上位が下位 よりも有意に高いことが認められた(χ2=4.418, df=1,p<.05;χ2=4.952,df=1,p<.05). パ ス 種類別における PA 内侵入時得点率は,有意な差 は認められなかった(図 12). Ⅳ 考 察 1. 攻撃の概略について 攻撃回数は上位と下位とで有意な差は認めら れなかった(表 3).先行研究において,サッカ ーでは 1 試合当たりの攻撃回数の平均値を異な るリーグで比較しても有意な差が認められない ことが報告されている(Anderson and Sally, 2013; Nakayama et al., 2015;鈴木ほか,2018).本研究 においても攻撃回数で上位と下位とで有意な差が 認められなかったことから,サッカーでは攻撃回 数に大きな差異を見出すことが難しいと考えられ る.得点,シュート成功率,攻撃成功率において は上位が下位よりも有意に高いことが認められた (表 3).しかし,シュート数・シュート率・PA 侵入回数・PA 内侵入率には上位と下位とで有意 な差が見られなかった(表 3).これらのことから, 上位と下位とで得点機会の回数や生起率に違いは みられなかったが,上位は下位よりもシュートを 得点に繋げることが出来ていたと考えられる.こ の要因として,上位は下位と比べて得点をあげた 選手(フィニッシャー)のシュートを決める能力 が高かった可能性と,難易度の低いシュートによ って得点をあげられる状況を作ることができてい た可能性が推察される.つまり,本研究で対象と した大会では,シュート局面において,個人の能 力もしくはより得点をあげやすい状況を作る力, あるいはその両方で上位が下位よりも優れていた ことが示唆された. 2. PA 内への侵入について PA 内侵入方法においては,上位と下位とで有 意な差は認められなかったが,PA 内侵入のパス 種類は「クロス」の生起率において下位が上位よ りも有意に高いことが認められた(図 6).クロ スはサイドのスペースを利用した攻撃の形の 1 つ であるが,下位は上位と比較してサイドからのク ロスの割合が高かったと考えられる.このことか ら,サイド攻撃の際,下位は上位よりもクロスを 用いて侵入していたと考えられる. 図11 図11 PA内侵入時における侵入方法およびパス種類別のシュート率の比較 0 20 40 60 80 100 パ ス ド リ ブ ル そ の 他 ス ル ー パ ス ク ロ ス そ の 他 の パ ス 侵入方法 パス種類 シュート率 上位 下位 (%) 図 11 PA 内侵入時における侵入方法およびパス種類別 のシュート率の比較 図12 図12 PA内侵入時における侵入方法およびパス種類別の得点率の比較 0 20 40 60 80 100 パ ス ド リ ブ ル そ の 他 ス ル ー パ ス ク ロ ス そ の 他 の パ ス 侵入方法 パス種類 得点率 上位 下位 *p<.05 * * (%) 図 12 PA 内侵入時における侵入方法およびパス種類別 の得点率の比較

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PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備選 手の人数差は,「同数」の生起率において上位が 下位よりも有意に高く,「守備多数」の生起率に おいて下位が上位よりも高いことが認められた (図 7).このことから,上位は PA 内に侵入する 前に相手守備選手と同数の人数を PA 内に配置す る割合が下位と比べて高いと考えられる.また, PA 内侵入前の PA 内にいる守備選手の人数は, 上位においても下位においても「同数」時は「守 備多数」時と比較して PA 内にいる相手守備選手「2 人以下」の生起率が高かった.一方で,「守備多 数」時は「同数」時よりも「3 人以上」の生起率 が高かった.上位・下位間の比較でこれらに有意 な差が認められなかったことから,相手が守備組 織を形成するのに必要な人数を PA 内に配置でき ていない状況では「同数」が作りやすく,守備組 織を形成するのに十分な人数が PA 内にいる状況 では「守備多数」になりやすいことが推察された. この要因の 1 つとして,PA 内に守備選手が多い 場合は「同数」の状況を作るために多くの攻撃選 手を PA 内に配置する必要があり,ボールを奪わ れた際のリスクを考慮すると「同数」の状況を作 ることが難しいことが考えられる.サッカーにお ける攻撃は,相手守備組織が形成されている状況 に対してボール保持を優先して行うポゼッション 攻撃と,相手守備組織が形成されていない状況に 対して素早く攻撃を行う速攻に大別される(Tenga et al., 2010).鈴木ほか(2018)は,「最後方の守 備者からゴールラインと平行に線を引き,そこか ら 6 m 以内」にいる守備選手の人数を守備組織形 成の有無の基準としている(図 4).本研究では PA 内にいる守備選手の人数のみの測定であった ため,守備組織の形成についての考察は今後の検 討課題となる.しかし,特定のエリアにおいて守 備選手と攻撃選手の人数を測定し分析する手法も 存在する(Sarmento et al., 2014)ため,PA 内にお ける守備選手の人数は,考察の基準の 1 つとなる と考えられる.本研究の結果からは PA 内侵入時 間に有意な差は認められず,攻撃時間から攻撃の 特徴を明らかにすることはできなかったが,上位 は「同数」の生起率が高かったため PA 内に守備 選手がいない,もしくは少ない状況を逃さず PA 内に侵入していたことが特徴であったと推察され る.一方で下位は上位よりも「守備多数」の生起 率が高かったことから,PA 内にいる守備選手が 多い状況に対する攻撃が特徴であったと考えられ る. さらに,「守備多数」の生起率において下位が 上位よりも高かった要因の 1 つには「クロス」の 生起率の高さが考えられる.クロスは,パスを繋 いで得点機会をうかがうよりも不確実なプレーで ある(Liu et al., 2015)ため,クロスを用いて PA 内への侵入を狙う際は相手守備選手によってボー ルが跳ね返される場合を考慮して PA 外に選手を 配置する必要があり,多くの選手を PA 内に配置 することはリスクが高いと考えられる.これらの ことから,下位はクロスを用いる際にリスクを軽 減するため PA 内に多くの選手を配置しておらず, このことが「守備多数」の生起率を高めたと推察 される. PA 内侵入選手がパスを受ける前の位置は,「PA 外」の生起率において上位が下位よりも有意に 高く,「PA 内」の生起率において下位が上位より も有意に高いことが認められた(図 7).つまり, 上位の選手はパスを受ける前には PA 外におり, ボールの移動中に自身も PA 内に移動してボール を受けており,下位はパスを受ける前から PA 内 にいる割合が上位より高いと考えられる.また, PA 内侵入選手がパスを受ける際の動きは,「足元」 の生起率において下位が上位よりも有意に高く, 「スペース」の生起率において上位が下位よりも 有意に高いことが認められた(図 6).これらの ことから上位の方が下位よりも移動を伴って PA 内でボールを受けていると考えられる.上述し たように,上位は PA 内の相手守備選手が少ない 状況に対する攻撃が特徴的であったと推察され, PA 内侵入選手が移動を伴ってパスを受けていた ことも PA 内の相手守備選手が少ない内に攻撃を 行ったことを示唆する結果の 1 つであると考えら れる.さらに,上位は下位よりも PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備選手の人数差「同数」 時に,PA 内侵入選手がパスを受ける前の位置「PA

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273 サッカーにおけるペナルティエリア侵入に関する分析 外」の生起率が高いことが認められた(図 10). このことから,上位は下位と比較して PA 内が数 的同数の状況に対して, PA 外から PA 内へ移動す ることによって PA 内へ侵入していたと推察され る.一方で,下位の PA 内侵入選手のパスを受け る動きは,上位と比較すると移動を伴わず PA 内 で待ち受けることが多かった.上述のように,下 位は PA 内の相手守備選手が多い状況に対する攻 撃とクロスの生起率の高さが特徴であると考えら れる.これらのことから,下位は上位と比べて PA 内の相手守備選手が多い状況に対してクロス を用いる攻撃が多く行われ,このことが要因とな って PA 内侵入選手はクロスボールを PA 内で待 ち受ける割合が高くなったと推察される. PA 内侵入時のシュートの有無では有意な差は 認められなかったが,PA 内侵入時の得点の有無 では「有」において上位が下位よりも有意に高い ことが認められた(図 6).つまり,PA 内に侵入 した際のシュートの生起率は上位と下位とで違い は見られないが,得点において上位が下位よりも 高い生起率を示したと考えられる.また,PA 内 侵入時の前方 DF は,「0 人」において上位は下位 よりも有意に高く,「1 人」において下位は上位 よりも有意に高いことが認められた(図 7).こ のことは,PA 内でパスを受けた際に上位は下位 よりも攻撃方向に相手守備選手がいない状態でボ ールを受ける割合が高く,下位は攻撃方向に相手 守備選手がいる状態でボールを受ける割合が高い ことを示していると考えられる.平嶋ほか(2014) は,シュート者の前方に相手守備選手がいなかっ た場合は,いた場合に比べてゴールキーパーのシ ュートストップ失敗確率が高くなるとしている. つまり,前方 DF が「0 人」の場合シュート者は 得点を決めやすいことから,上位は下位よりも得 点をあげやすい状況をつくりだし,得点率を高め ていた可能性が推察される.これは,数的同数時 に PA 内でパスを受ける選手が移動を伴って PA 内に侵入することによって,相手守備選手が攻撃 方向から守備をすることができないようにボール を受けていることが要因の 1 つであると考えられ る. PA 内 侵 入 方 法 別 に よ る 得 点 率 は「 ド リ ブ ル」・「その他」において上位が下位よりも有意 に高いことが認められた(図 12).Nakayama et al.(2016)は,競技力の高いチームは低いチーム と比較して,ドリブル技能が高く,ボールを守備 選手に奪われないボール保持能力や守備選手をか わす突破力があると述べている.本研究において も,ドリブルによって PA 内に侵入した際の得点 率が,下位と比べて上位が高かったことから,上 位はドリブル技能の高い選手がチームに存在し, 得点をあげていた可能性が考えられる.「その他」 においては,PA 内でボールを奪った際,上位の ほうが得点に繋げることが出来ていたと考えられ る.「その他」は,味方選手のシュートのこぼれ 球を PA 内で拾うことや,PA 内で相手選手から ボールを奪う等の侵入方法が考えられ,これらの 場合において上位のほうが得点に繋げることが出 来ていたと推察される.これは,上位が下位と比 べて PA 内侵入前の PA 内にいる攻撃選手と守備 選手の人数差「同数」の状況を多く作ることによ って,シュートのこぼれ球を拾う可能性を高めた り,PA 内でボールを奪われた場合であっても PA 内で奪い返しやすい状況を作ることができていた ことが要因の 1 つであると考えられる. Ⅴ 結 論 本研究は,2014FIFA ワールドカップを対象に, グループステージを突破した上位グループと敗退 した下位グループを PA 内へ侵入した攻撃のオー プンプレーについて比較し,その差異を明らかに することを目的として行われた.その結果,以下 の結論が得られた. 1. 攻撃回数・シュート数・PA 内侵入回数等の 得点機会の数において上位と下位で有意な差 は見られなかったが,得点数・シュート成功 率・攻撃成功率において上位が下位よりも有 意に多いことから,上位には優秀なフィニッ シャーの存在,もしくは容易に得点をあげら れる状況を作る力,あるいはその両方が備わ っていたことが推察された.

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2. PA 内に侵入したパスの種類において,下位 は上位と比べて「クロス」の生起率が高く, サイド攻撃の際に上位よりもクロスを用いて PA 内に侵入していた. 3. PA 内侵入に要した時間に有意な差は認めら れなかった.しかし,上位は下位よりも PA 内に侵入する前の攻撃選手と守備選手の人数 差「同数」の生起率が高く,下位は上位より も「守備多数」の生起率が高かったことから, 上位は PA 内の相手守備選手が少ない状況に 対する攻撃,下位は PA 内の相手守備選手が 多い状況に対する攻撃が特徴であったと推察 された. 4. 下位は上位と比較して PA 内侵入前に PA 内 にいる相手選手の方が多い「守備多数」の生 起率が高く,この要因としてクロスを用いる 際にリスクを軽減するため PA 内に多くの選 手を配置しなかった可能性が推察された. 5. PA 内侵入選手のパスを受ける動きにおいて, 上位は下位と比べて「PA 外から PA 内」,お よび「スペース」でパスを受けるプレーの生 起率が高かった.下位は上位と比べて「PA 内」,および「足元」でパスを受けるプレー の生起率が高かった.このことから,上位は 移動を伴ってパスを受け,下位は PA 内で留 まってパスを受けていたことが考えられた. また,上位は PA 内の守備選手がいない,も しくは少ない状況に対して,PA 外から PA 内への移動することによって PA 内へ侵入し ていたことが推察された. 6. PA 内侵入時のシュート率において上位と下 位で有意な差は見られなかったが,得点率は 上位が下位よりも有意に高く,上位はシュー トを得点に繋げることができていた.これは, 上位は下位と比較して,PA 内において攻撃 方向に相手 DF がいない状態でパスを受ける ことができていたことが 1 つの要因であると 考えられた. 7. PA 内侵入時の得点率は,「ドリブル」におい て上位が下位よりも高かったことから,上位 は下位よりもドリブル技能の高い選手が存在 し得点していたことが示唆された. 以上のように,PA 内侵入における上位と下位 との差異やそれぞれの特徴が明らかとなった. しかし,本研究では 1 大会しか対象としていな いため,2014FIFA ワールドカップにおける特徴 であった可能性も考えられる.そのため,今後 は 2018FIFA ワールドカップや UEFA 欧州選手権, チャンピオンズリーグなどの大会を対象とした分 析による継続的なデータの蓄積が必要となる. 文献

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2020 年 5 月 19 日受付 2021 年 2 月 25 日受理 Advance Publication by J-STAGE

Published online 2021/3/4

表 3 攻撃の概略

表 3

攻撃の概略 p.8
図 7  PA 内侵入に関する項目②

図 7

PA 内侵入に関する項目② p.9

参照

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